TS転生した俺、サキュバスらしい 作:ほんきょー
授業が終わると、私は鞄を持って教室を出た。
今日は、帰りに予定がある。
昇降口で靴を履き替え、校門を出る。
駅へ向かう途中、いつもの場所へ続く道が見えてきた。
けれど、今日はそちらへ曲がらない。
最近、あの辺りでは妙に視線を感じることが増えていた。特に何かあったわけではないけれど、同じ場所を使い続けるのは避けたかった。
今日は別の場所にしよう。
そう決めて、駅へ向かう。
駅に着くと、改札を通る前にトイレへ入った。
いつものように、鞄から着替えを取り出して制服を脱ぎ、私服に着替える。制服は丁寧に畳んで鞄にしまった。
それから改札を通り、電車に乗る。
目的の駅に着くと、改札を出て周囲を見回した。
今日は、ここで探せばいい。
いつもと違う場所に来たからといって、やることが変わるわけではない。
相手を見つけて、近づいて、力を使う。そして、精を得る。
それだけだ。
……いつまで、こんなことを続けるんだろう。
ふと、そんな考えが浮かぶ。
飢えを満たすために、男性を探して、同じことを繰り返す。
相手は毎回違う。人数も多く、顔をはっきりと思い出せる人はほとんどいない。
名前を聞くことはないし、連絡先を交換するわけでもない。
終われば、それきりだ。
そうやって、誰とも関わらないようにしてきた。
いっそのこと、誰かと付き合って処女なんて捨ててしまえば楽になるのだろうか。
そんな考えが頭をよぎる。
今の自分なら、もう何をしたって変わらないのかもしれない。
嫌だと思う気持ちも、恥ずかしいと思う気持ちも、全部なくしてしまえばいい。
そうすれば、少しは楽になれるのだろうか。
「……何考えてるんだろ」
小さく呟き、首を振る。
そんなことをしたところで、飢えがなくなるわけではない。
そもそも、本当にそんなことをしたいわけでもなかった。
ただ、この繰り返しに疲れているだけだ。
私は再び歩き出した。
しばらくして、相手を見つける。
周囲を確認する。
人通りはそれほど多くない。
男がこちらを見た。
私はその目を見返す。
これから何をするのかは分かっている。
何度も繰り返してきたことだ。
それなのに、ほんの一瞬だけ足が止まった。
……早く終わらせよう。
私はゆっくりと近づいていく。
近くまで来ると、相手がこちらに気づいた。
視線が合う。
その瞬間、いつものように能力を使った。
相手の動きが止まる。
こちらを見ていた目が、次第に焦点を失っていく。表情からも警戒の色が薄れ、私の働きかけを受け入れる状態へと変わっていった。
何度見ても、不思議な光景だった。
人間の意思というものが、こんなにも簡単に変わってしまう。
相手の様子を確かめ、人目につかない場所へ誘導する。
近くまで来ると、脱ぐように指示を出した。
私は一度だけ目を伏せる。
嫌だ。
そう思う気持ちは、まだ残っている。
けれど、身体の奥にある飢えは、それとは関係なく私を急かしていた。
いずれまた限界が来る。
あの夜のようになるくらいなら、自分で決めて行動する。
それが、今の私にできることだった。
どれくらい時間が経ったのかは、よく分からなかった。
ただ、終わる頃には、身体の奥に張り付いていた飢えが明らかに弱まっていた。
さっきまで意識を占めていた感覚が、少しずつ遠ざかっていった。
息を整える。
身体に残っていた緊張が抜けていくのが分かった。
飢えが今はもうほとんど気にならない。
「……これでいい」
小さく呟く。
満たされた。
それは間違いない。
けれど、満たされたからといって、嬉しいわけではなかった。
達成感もない。
満足感というより、単純に苦痛がなくなっただけだ。
身なりを整える。
手についた汚れをティッシュで拭き取り、服に乱れがないか確かめた。
それから、相手の方を一度だけ見る。
特に何かを言うことはない。
名前も知らない。
今日ここで会ったことも、いずれ忘れてしまうのだろう。
私はその場を離れた。
駅へ向かう途中、トイレに立ち寄る。
持ってきた制服に着替え、私服を鞄にしまった。
帰りの電車を待つ間、スマートフォンで時間を確認する。
思っていたより遅くなっていた。
施設に帰ったら、夕食を食べて、宿題をしないといけない。
明日の授業の準備もある。
電車がホームに入ってきた。
乗り込んで、空いている席に座る。
窓の外を眺めながら、さっきのことを考えないようにした。
飢えは満たされた。
それで十分だった。
施設に戻り、いつもどおり夕食を済ませる。
職員に遅くなった理由を聞かれたけれど、少し寄り道をしていたと答えれば、それ以上何かを聞かれることもなかった。
部屋に戻って宿題に取りかかる。
明日の授業で使うものを鞄に入れる。
いつもと同じだ。
今日も、何事もなく一日が終わろうとしている。
飢えが満たされている間は、こうして普通に過ごせる。
学校へ行って、勉強をして、施設に帰る。
誰かと話して、食事をして、眠る。
嫌なことはある。
けれど、それ以外は何も問題ない。
そうやって毎日を過ごしていた。
それからも、同じような日々が続いた。
学校へ行き、授業を受ける。帰りには、必要なことを済ませてから施設へ戻る。
何かが変わることはなかった。
そうしているうちに、季節が巡った。
学校では変わらず過ごし、周りの人たちとも表面上はうまくやっていた。
卒業が近づくにつれて、進路の話をする機会も増えた。
私は特に迷うことなく、進学先を決めた。
施設の職員にも相談し、必要な手続きを済ませた。
中学校を卒業する頃には、周りの人たちもそれぞれ別の進路へ進むことになっていた。
連絡先を交換している人もいたけれど、それだけだ。
向こうから連絡が来れば返事くらいはする。
これ以上仲良くなっても、どうせ幸せな結果にならないから。
新しい学校でも、きっと同じように過ごせる。
誰かと深く関わらず、余計なことを話さず、今までどおりに生活する。
それだけでいい。
私はそう思っていた。