TS転生した俺、サキュバスらしい   作:ほんきょー

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3.気づけばいつも隣に

 次の日、俺たちは園庭で虫を探していた。

 

「こっちにはいないわね」

「まだ探してないところもあるだろ」

「でも、さっき見た場所にはいなかったもの」

「じゃあ、別のところを探せばいいじゃん」

 

 澪は少し考えてから、植え込みの向こうをのぞき込んだ。俺も隣からのぞいてみる。

 

「あ、いた!」

 

 葉っぱの裏に、小さな虫がとまっていた。

 

「昨日のとは違うわね」

「そうなのか?」

「ええ。こっちは背中に模様があるもの」

 

 澪はしゃがみ込んで、虫をじっと観察していた。俺も隣にしゃがんで、逃げないようにそっと葉っぱを押さえる。

 

「捕まえる?」

「待って。もう少し見ていたいわ」

 

 結局、しばらく二人でその虫を眺めてから、別の場所へ移動した。

 

 園庭をひと回りしたころには、二人とも靴に土がついていた。

 

「今日はこれくらいにしておくか」

「そうね。また明日も探しましょう」

「明日は別のところから探そうぜ」

 

 澪はうなずいた。

 

 家に帰ると、俺は母さんに今日のことを話した。

 

「それでね、葉っぱの裏に虫がいてさ」

「まあ、見つけたのね。何の虫だったの?」

「澪が知ってるかもしれないから、明日また図鑑で調べるんだって」

 

 話しているうちに、母さんが夕飯の支度を始めた。俺はそのそばで今日あったことを話し続けた。

 

「ふふ、紬はお友達と遊ぶのが好きね」

「うん。楽しかった」

 

 夕飯を食べて、風呂に入って、寝る支度をする。

 

 布団に入ってから、明日は何をして遊ぼうかと考えた。虫探しの続きをするのもいいし、別の遊びをしてもいい。

 

 そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠っていた。

 

 それからも、澪とはよく一緒に遊んだ。

 

 砂場で山を作ったり、教室でお絵描きをしたり。園庭で鬼ごっこをするときには、ほかの友達も一緒になった。

 

「紬ちゃん、次はこっちのチームね!」

「分かった。じゃあ、そっちは頼んだぞ」

 

 そんなふうに声をかけられることも珍しくなかった。

 

 みんなで砂場に山を作っていたとき、澪がふと思いついたように言った。

 

「ここにトンネルを作ったら面白そうね」

「いいな。やってみようぜ」

 

 みんなで掘り始めたものの、途中で砂山が崩れてしまった。

 

「あーあ、壊れちゃった」

「もう一回作ろうよ」

「今度はこっちを残した方がいいと思うわ」

 

 澪が指さした場所を見て、俺はなるほどと思った。

 

「じゃあ、そこは残しておこうぜ」

 

 今度は別の場所から掘り始める。結局、思っていたようなトンネルはできなかったけれど、みんなで騒ぎながら遊んでいるうちに、いつの間にか別の遊びが始まっていた。

 

 別の日には、教室で一緒にお絵描きをした。

 

「それ、何を描いてるんだ?」

「公園よ。ここに大きな木があって、こっちにベンチがあるの」

「へえ。じゃあ、遊具も描こうぜ」

「遊具?」

「滑り台とか、ブランコとか」

「いいわね。じゃあ、私は滑り台を描くから、紬はブランコを描いて」

「分かった!」

 

 澪はそう言って、紙の空いているところに滑り台を描き始めた。

 

 俺が思いつきで何かを付け足せば、澪もそれに乗ってくる。反対に、澪が何かを言い出して、俺が別の案を出すこともあった。

 

 前世の記憶がある俺でも、子供らしく夢中になって遊ぶことはある。澪と一緒だと、互いの思いつきに乗ったり、自分の考えを話したりしているうちに、自然と遊びが続いていった。

 

 ある日の夕方。

 

 帰り支度を終えて園庭に出ると、澪がまだ友達と話していた。

 

「じゃあ、また明日ね」

「うん、またね」

 

 澪がこちらに気づいて、俺のところへやってきた。

 

「紬、帰るの?」

「うん。母さんが待ってるから」

「そう。じゃあ、また明日ね」

 

 俺たちはそれぞれの母親のところへ向かった。

 

 母さんは、澪と一緒に帰ろうとしていた女性に気づくと、俺の方を見た。

 

「紬、その子がいつも一緒に遊んでいる澪ちゃん?」

「うん、そうだよ」

「そうなのね。こんにちは。うちの紬がいつもお世話になっています」

 

 母さんが挨拶すると、澪のお母さんも笑顔で会釈した。

 

「こんにちは。こちらこそ、澪から紬ちゃんのお話をよく聞いています」

「そうなんですか?」

「ええ。園で何をしたとか、どんな話をしたとか。家に帰ってから、いろいろ話してくれるんですよ」

 

 澪は隣で、少しだけ居心地が悪そうにしていた。

 

「お母さん、そんなに話していないわ」

「そう? 私はけっこう聞いている気がするけど」

 

 澪のお母さんがそう返すと、母さんが楽しそうに笑った。

 

「紬も、家でよく澪ちゃんの話をするんですよ。せっかくですし、今度一緒にお出かけしませんか? 週末なら、近くの自然公園でお昼でも食べられそうですし」

「いいですね。澪も喜ぶと思います」

 

 澪は母親を見上げた。

 

「公園に行くの?」

「ええ。紬ちゃんたちも一緒よ」

「そう。行きたいわ」

 

 その返事を聞いて、母さんはさらに嬉しそうな顔をした。

 

 こうして、週末にみんなで公園へ行くことになった。

 

 週末。

 

 待ち合わせた自然公園には、広い芝生と木々があった。父さんは荷物を持ち、母さんは俺と並んで歩いていた。

 

「澪ちゃんたち、もう来てるかな?」

「向こうにいるんじゃないか?」

 

 父さんが指さした先に、澪と両親の姿が見えた。

 

「お待たせしました」

「いえ、うちも今来たところです」

 

 母さんたちが挨拶を交わしている間に、俺は澪のところへ駆け寄った。

 

「澪、何して遊ぶ?」

「まだ決めていないわ。あそこに広い場所があるから、走ることもできそうね」

「じゃあ、あとで鬼ごっこしようぜ」

「いいわよ」

 

 昼食を食べる場所を決めてから、俺たちは芝生の近くで遊んだ。

 

 少し走り回ったあと、持ってきた昼食を広げる。父さんが荷物を下ろして、弁当や水筒を取り出していると、母さんが言った。

 

「荷物を持ってくれてありがとう。助かったわ。私だけだったら、途中で何か落としていたかもしれないもの」

「……そうか」

「いつも頼りになるわね」

 

 父さんは箸を持ったまま、少しだけ目を逸らした。

 

「別に、荷物を持っただけだ」

「あら、それでも助かったのよ?」

 

 母さんは不思議そうに首を傾げた。

 

 父さんはそれ以上何も言わず、弁当に目を戻した。

 

 ……また始まった。

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

 母さんは本当に思ったことをそのまま口にする。父さんは褒められると、いつも少し困った顔をする。

 

 いつものことだ。

 

 それを見ていた澪が、俺に小声で尋ねた。

 

「紬のお父さんは、褒められるのが苦手なの?」

「たぶん。いつもあんな感じだよ」

「そうなのね」

 

 澪は納得したように頷き、それから父さんを見た。

 

「でも、荷物を持ってくれたのなら、頼りになるというのは本当でしょう?」

「まあ、そうだけど」

「だったら、恥ずかしがることなんてないと思うわ」

「本人に言ってやれば?」

「そうね」

 

 澪が真面目な顔で父さんのほうを向きかけたので、俺は慌てて止めた。

 

「いや、今はいいって」

「どうして?」

「……食べてるところだから」

「そう」

 

 澪は素直に弁当へ目を戻した。

 

 危なかった。

 

 父さんがどんな顔をするか、少し見てみたい気もしたけど。

 

 向かいでは、澪のお父さんが弁当を食べながら、澪と話していた。

 

「お父さん、木の下にいると影ができるでしょう?」

「そうだね」

「でも、さっきと比べると影の向きが変わっているわ。どうしてなの?」

 

 澪のお父さんは、少し考えてから空を見上げた。

 

「太陽の位置が変わってきたからだよ。太陽の光が当たる向きが変われば、影の向きも変わるんだ」

「じゃあ、もっと時間が経ったら、影はもっと長くなるの?」

「夕方になれば、長くなるはずだね」

 

 澪は芝生に伸びる影を見た。

 

「あとで確かめてみたいわ」

「いいね。帰る前に見てみようか」

 

 そのやり取りを聞いていた澪のお母さんが、弁当箱を指さした。

 

「その前に、二人ともちゃんと食べてね。話に夢中になっていると、お昼が終わらないわよ」

「そうだった」

「分かったわ」

 

 二人はそろって弁当に向き直った。

 

 母さんがそれを見て、楽しそうに笑った。

 

「澪ちゃんのおうちも、よくお話しするんですね」

「そうですね。気になることがあると、つい話が長くなってしまって」

 

 澪のお母さんは、そう言って夫の方を見た。

 

「お父さんの方が、特にね」

「えっ、僕だけかな?」

「この前も、買い物に行く前に話し込んでいたでしょう?」

「あれは、澪が聞いてきたから……」

「はいはい。分かってますよ」

 

 澪のお母さんは笑いながら、夫の弁当箱に残っていたおかずを勧めた。

 

 食事を終えると、俺たちは再び芝生の方へ向かった。

 

 鬼ごっこをしたり、木の根元をのぞき込んだり、見つけたどんぐりを集めたり。澪は途中で木の影を確かめに行き、少し前と向きが変わっていることに気づくと、父親に報告していた。

 

 帰るころには、俺のポケットはどんぐりでいっぱいになっていた。

 

「そんなに集めたの?」

「気づいたらいっぱいになってた」

「私ももっと探せばよかったわ」

 

 澪が俺のポケットをのぞき込む。いくつか手に取って眺めたあと、自分が拾ったどんぐりも並べ始めた。

 

「こっちは少し大きいわね」

「ほんとだ。こっちの方が丸いぞ」

 

 二人でどんぐりを見比べていると、母さんに声をかけられた。

 

「紬、そろそろ帰るわよ」

「はーい」

 

 澪も母親に呼ばれ、名残惜しそうにどんぐりから手を離した。

 

「また明日ね、紬」

「うん、また明日」

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