TS転生した俺、サキュバスらしい   作:ほんきょー

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4.紬も一緒なら

 紬と一緒に遊ぶようになってから、私はいつの間にか紬のことを気にするようになっていた。

 

 ある日のこと。

 

 おもちゃの車で遊んでいた男の子たちが、何やら言い合いをしていた。

 

「それ、ぼくが使ってたのに!」

 

「でも、もう使ってなかったじゃん!」

 

 二人とも車を手に持ったまま、譲ろうとしない。

 

 先生が来る前に、紬が二人の間に入った。

 

「じゃあ、こっち使えばいいんじゃない? 同じの、まだあるよ」

 

 紬は近くにあった車を一つ拾って、片方の子に渡した。

 

「こっちは?」

 

「……いいよ」

 

 少しすると、二人は何事もなかったように遊び始めた。

 

 紬も、それを見届けると自分の遊びに戻っていった。

 

 紬は、こういうことがよくある。

 

 また別の日には、作っていた積み木のお城が崩れてしまい、泣きそうになっている子がいた。

 

 紬はその子の隣に座ると、散らばった積み木を拾い始めた。

 

「もう一回作ろうぜ。今度はここを大きくしたら、倒れないんじゃないか?」

 

「……うん」

 

 二人は並んで積み木を積み直していた。

 

 紬は、先生みたいだ。

 

 そう思った。

 

 先生は、困っている子がいたら声をかけてくれる。紬も、そういうことをする。

 

 でも、どうして紬は、何をすればいいのかすぐに分かるのだろう。

 

 私は少し考えたけれど、よく分からなかった。

 

 そんな紬には、ほかの子と少し違うところもあった。

 

 着替えの時間になると、みんなは遊びをやめて着替え始める。

 

 紬も遊んでいたおもちゃを片づけると、すぐに着替えようとした。

 

「紬ちゃん、そっちじゃないよ!」

 

 女の子の一人が声をかける。

 

「え? ああ、そうか」

 

 紬は一度手を止めて、女の子たちの方へ移動した。

 

 私はその様子を見て、少し不思議に思った。

 

 紬は、こういうことをあまり気にしていないみたいだった。

 

 別の日、女の子たちが服の話をしていた。

 

「新しい服を買ってもらったんだ!」

 

「いいなあ。どんな服?」

 

「お花がついてるの!」

 

 楽しそうに話す声が聞こえてくる。

 

「紬ちゃんも、こういうかわいい服が似合いそうだよね」

 

 突然名前を出された紬は、少し困ったような顔をした。

 

「そうかな。動きやすい服の方がいいけど」

 

「えー、絶対かわいいよ!」

 

 紬は笑ってごまかしていた。

 

 私は、紬がかわいい服を着ているところを想像した。

 

 ……似合うと思う。

 

 そう考えてから、私は何を想像しているのだろうと思った。

 

 別に、紬がどんな服を着ていても、紬は紬なのに。

 

 私は考えるのをやめて、本を開いた。

 

 ある日、同じクラスの子が迷路の本を持ってきた。

 

「これ、家にあったんだ!」

 

 その本を見て、紬が顔を上げた。

 

「あ、それ俺も持ってる!」

 

「ほんと? ここ、難しいんだよ」

 

「俺、ここまでやってるから、ここからやろう」

 

 二人は本を広げて、迷路を始めた。

 

 私は少し離れたところで、いつもの本を読んでいた。

 

 あの迷路の本は、私も紬と一緒に遊んだことがある。

 

 どちらの道を通れば早く進めるのか。途中で行き止まりになったら、どこで間違えたのか。二人で考えるのは楽しかった。

 

 でも、今日は紬が別の子と遊んでいる。

 

 私は手元の本に目を落とした。

 

 さっき読んでいたところを、もう一度読む。

 

 でも、向こうから声が聞こえると、つい顔を上げてしまう。

 

「違うよ、そっち行き止まりだよ!」

 

「えー、こっちじゃないの?」

 

「こっちだって。ほら、ここにつながってるだろ」

 

 二人とも楽しそうだった。

 

 紬、あんなに笑ってる。

 

 私とやったときも、あんなふうに笑っていた。

 

 私は本に目を戻した。

 

 次のページを開いてみたけれど、なんだか読む気になれなかった。

 

 もう一度、二人の方を見る。

 

 紬が、こっちに気づいた。

 

「澪、これ見て! ここ、すごい難しいんだよ」

 

 紬が本を持ち上げて見せてくる。

 

「……そうね」

 

「澪なら分かるかな?」

 

「分かるわよ。見せて」

 

 私は立ち上がって、二人のそばに行った。

 

 迷路は確かに難しかった。道がいくつも分かれていて、途中で何度も行き止まりになっている。

 

 私は少し考えてから、指で道をたどった。

 

「ここから行けばいいんじゃないかしら」

 

「おお、ほんとだ!」

 

 紬が声を上げた。

 

 その隣で、もう一人の子も本をのぞき込んでいる。

 

 私は紬の指の先を見た。

 

 さっきまで、少しだけ嫌な気持ちだった。

 

 でも、紬がいつもみたいに話しかけてくれたので、もういいことにした。

 

 何が嫌だったのかは、よく分からなかった。

 

 家に帰ると、母が夕食の支度をしていた。

 

「今日は紬ちゃんと何をして遊んだの?」

 

「迷路をしたわ」

 

「そう。楽しかった?」

 

「……ええ」

 

 私は少し考えてから、そう答えた。

 

 迷路は楽しかった。紬と一緒に考えるのも、楽しかった。

 

 ただ、昼間のことを思い出すと、少しだけ変な感じがした。

 

「澪?」

 

「なに?」

 

「ううん。何でもないわ」

 

 母はそう言って、また料理に戻った。

 

 私もそれ以上は話さなかった。

 

 それからも、幼稚園ではいつも通りの日々が続いた。

 

 紬は私と遊ぶこともあれば、ほかの子と遊ぶこともあった。

 

 私も、紬がいないときには別の子と遊んだし、一人で本を読むこともあった。

 

 それでも、紬が近くにいると、つい何をしているのか見てしまう。

 

 紬はよく笑う。困っている子がいれば手伝うし、誰かが言い合いをしていたら間に入る。

 

 たまに、私にはよく分からないこともする。

 

 でも、一緒にいると楽しかった。

 

 だから、次の日も紬と遊んだ。

 

 それでよかった。

 

 やがて、幼稚園の卒園式の日が来た。

 

 先生の話を聞いて、みんなで歌を歌って、最後に一人ずつ名前を呼ばれた。

 

 私は返事をして、前に出た。

 

 卒園証書を受け取るとき、少しだけ緊張した。

 

 式が終わると、教室にはいつもよりたくさんの人がいた。お母さんたちが写真を撮ったり、先生にお礼を言ったりしている。

 

 私も母と一緒に、先生に挨拶をした。

 

 そのあと、紬を見つけた。

 

「澪!」

 

「紬」

 

「小学校も一緒だよな?」

 

「ええ。同じところよ」

 

「じゃあ、また遊べるな!」

 

「……そうね」

 

 紬は、いつも通り笑っていた。

 

 私は少しだけ、ほっとした。

 

 幼稚園が終わっても、紬と会えなくなるわけではない。

 

 それが分かって、よかった。

 

「また明日」と言いかけて、明日は幼稚園がないことを思い出した。

 

 私は口を閉じた。

 

 紬は気づかなかったようで、母親のところへ走っていった。

 

 私も母の手を取った。

 

 小学校に行ったら、どんな毎日になるのだろう。

 

 まだ、よく分からない。

 

 でも、紬も一緒なら、きっと大丈夫だと思った。

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