小学校に入学して、最初に発表されたのはクラス分けだった。
掲示された名簿を見ていくと、澪とは別のクラスになっていた。
「……紬と違うクラスかあ」
澪がぽつりとつぶやいた。普段の澪は落ち着いていて、年齢のわりに大人びて見えることが多い。
そんな澪が、今はあからさまに残念そうな顔をしている。
「休み時間なら会えるだろ?」
「……うん、そうね。お昼休みもあるものね」
そう言って頷く澪を見て、俺は思わず笑みをこぼした。普段は落ち着いている澪が、こんなにも分かりやすく残念がっている。その姿が、年相応で可愛らしい。
幼稚園に入ったばかりの頃は、別々に遊ぶこともあった。それがいつの間にか、一緒に遊んだり、帰り道に話したりすることが増えていた。気づけば、澪と過ごす時間は俺にとって当たり前のものになっていたらしい。
別のクラスになったからといって、会えなくなるわけじゃない。それでも、これまでより一緒にいられる時間が減ると思うと、やっぱり寂しかった。
とはいえ、学校が始まれば新しい友達もできる。授業を受けたり、休み時間に遊んだり、やることは幼稚園の頃とそう変わらない。
こうして教室で授業を受けるのは、ずいぶん久しぶりだった。前世の学校生活を思い出しながら、先生の話を聞いた。
クラスには初めて話す子も多かったけれど、休み時間に一緒に遊ぶうちに、少しずつ打ち解けていった。澪も向こうのクラスで友達と過ごしているようだった。
それでも、放課後には校門で待ち合わせて、一緒に帰るようになった。
幼稚園の頃は、ほとんどの時間を一緒に過ごしていたから、わざわざその日にあったことを話す必要もなかった。
でも、今は違う教室で過ごしている。澪がどんなふうに過ごしていたのか、俺が知らない時間もある。
帰り道、互いに今日あったことを話すようになったのは、少し不思議な感じがした。
ただ、話を聞いていると、少し気になることもあった。
「今日ね、クラスの子に絵を見せてもらったの」
「へえ、どんな絵?」
「女の子が泣いている絵だったのだけれど、口元は笑っているように見えたの。そう言ったら、嫌な顔をされたわ」
「……そっか」
俺は少し考えた。
「その子、絵を見てほしかったんじゃないかな」
「見たわよ?」
「いや、そうじゃなくて……。その子は、絵を見せて感想を聞いてほしかったのかもしれないだろ?」
澪は不思議そうに首を傾げた。
「でも、気づいたことを言っただけよ?」
「うん。澪は、気づいたことをすぐ言うだろ?」
「ええ。それがどうかしたの?」
「いや、相手が何を話したいのか、先に聞いたり考えたりするといいんじゃないかな」
「……そうね。少し考えてみるわ」
澪は納得したのか、そう答えた。
「今日も、クラスの子と話したの」
「うん」
「クラスの子が昨日あったことを話していたから、最後まで聞いてみたわ」
俺は少し意外に思った。前に話したことを、ちゃんと覚えていたらしい。
「そしたら、前に言っていたことと違うところがあったの。だから、そこを指摘したら、怒ってしまったみたい」
「そっか……」
「私、最後まで話を聞いたのよ?」
澪は困ったように眉を寄せていた。
「うん。ちゃんと聞いたんだな」
「ええ。でも、どうして怒ったのか分からないわ」
俺は返事に迷った。
話の内容が本当に食い違っていたのなら、澪の指摘自体は間違っていなかったのだろう。澪は相手の話を遮らず、前に話したことまで覚えていた。それでも、うまくいかなかった。
俺が同じ状況になったら、どうするだろう。
自分が言われたら嫌な気分になるかもしれない。でも、澪と同じ状況なら、俺だって指摘してしまう気がする。
だからといって、澪が悪くないと簡単に言い切るのも違う気がした。
「……難しいな」
「何が?」
「いや、なんでもない」
澪は納得していない様子だったけれど、それ以上は聞いてこなかった。
帰り道、澪はいつも通り隣を歩いていた。学校であったことを話すときも、特別に落ち込んでいるようには見えない。ただ、どうして相手が怒ったのか分からない。それが不思議で仕方ないらしかった。
それからも、放課後に一緒に帰るときには、学校であったことを澪から聞くようになった。
友達と遊んだ話もあれば、授業で気になったことや、誰かとのやり取りについて話す日もあった。
澪は前に言われたことを覚えていて、どうすればいいのか自分なりに考えているようだった。
それでも、話を聞くたびに、少しずつ気になることが増えていった。