TS転生した俺、サキュバスらしい   作:ほんきょー

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6.私だけの特別

 紬に言われてから、私は人と話すとき、少しだけ気をつけるようになった。

 

 相手が何を話したいのか、すぐに答えを出そうとせず、最後まで聞いてみる。気づいたことがあっても、すぐに口にするのではなく、一度考えてみる。

 

 そうすれば、前よりもうまく話せるかもしれない。

 

 実際、うまくいくこともあった。

 

 休み時間に隣の席の子が昨日見たテレビの話をしていたとき、私は途中で口を挟まずに聞いた。話が終わってから感想を伝えると、その子は嬉しそうに笑ってくれた。

 

 別の日には、何人かで遊ぶ約束をしている子たちに声をかけてみた。少し迷ったような顔をされたけれど、一緒に遊ぶことはできた。

 

 前よりも、話しやすくなった気がした。

 

 だから、もう少し頑張ってみようと思った。

 

 ただ、いつもそうなるわけではなかった。

 

 クラスには、いつも友達に囲まれている子がいた。千夏という名前で、明るくはっきりとものを言う。困っている子がいればすぐに手を貸すし、遊びを決めるときも、千夏が声をかければ自然とみんなが集まっていた。

 

 私も、千夏たちと仲良くなれれば、みんなとも話しやすくなるかもしれない。

 

 そんな期待も、少しはあった。

 

 ある日の休み時間、千夏たちと鬼ごっこをしようとしていた。

 

「鬼ごっこにしようよ。鬼はタッチしたら交代ね!」

 

「待って。タッチしたのと、タッチしようとして触れなかったのは違うわよね?」

 

 私が尋ねると、千夏は少し眉を寄せた。

 

「そりゃそうでしょ?」

 

「じゃあ、服に触れた場合は? 髪や持ち物に触れた場合もタッチしたことになるの?」

 

「えー、もう! 普通にタッチしたらでいいじゃん!」

 

 千夏は少し困ったように笑った。

 

 周りの子たちも、早く遊びたいという様子で私たちを見ていた。

 

「……分かったわ」

 

 私はそれ以上、尋ねるのをやめた。

 

 遊び始めると、みんなは楽しそうに走り回っていた。私も一緒に遊んだけれど、さっきのやり取りが頭に残っていた。

 

 私が聞いたことは、そんなに困ることだったのだろうか。

 

 髪や持ち物に触れた場合もタッチになるのか。それを決めておけば、あとで揉めずに済むと思っただけなのに。

 

 それでも、みんなが早く遊びたがっていたことには、あとから気づいた。

 

 私がもう少し周りに合わせればよかったのだろうか。

 

 考えても、正解は分からなかった。

 

 それからも、私はなるべく相手の話を最後まで聞くようにした。何か気づいても、すぐに指摘するのはやめた。

 

 けれど、うまくいかないことは少しずつ増えていった。

 

 前は休み時間になると声をかけてくれた子が、別の子と遊ぶようになった。

 

 話しかければ返事はしてくれる。嫌なことを言われるわけでもない。けれど、以前より会話が短くなった気がした。

 

 私が話している途中で、別の話題に移ってしまうこともあった。

 

 最初は、たまたまだと思った。

 

 みんなにも、その日の気分がある。私と遊びたくない日だってあるのだろう。

 

 そう考えれば、気にすることではないはずだった。

 

 それでも、何度か同じことが続くと、気になってしまった。

 

 私の話し方がよくないのだろうか。

 

 それとも、話を聞くときの態度が悪かったのだろうか。

 

 紬に言われたことを思い出して、自分の言葉や行動を振り返った。

 

 相手の話を最後まで聞いた。気づいたことをすぐに指摘するのも我慢した。遊びに誘うときも、みんなが何をしたいのかを先に聞くようにした。

 

 それでも、前のようにはいかなかった。

 

 私が何かを間違えたのなら、直したいと思った。

 

 でも、何がいけなかったのか分からない。何を直せばいいのか分からないまま、次に誰かへ声をかけることが怖くなっていった。

 

 今、話しかけてもいいのだろうか。

 

 この話題で大丈夫だろうか。

 

 変なことを言ってしまわないだろうか。

 

 そんなことを考えているうちに、みんなが別の場所へ行ってしまうこともあった。

 

 前は、こんなことを考えなくても話しかけられたのに。

 

 それが少しずつ、難しくなっていった。

 

 それでも私は、みんなと遊ぶことを諦めたくなかった。

 

 誰かに誘ってもらえたら嬉しかったし、みんなが楽しそうに話しているのを見ると、私もそこに加わりたいと思った。

 

 だから、千夏たちの輪に入れそうなときは、なるべく声をかけるようにした。

 

 けれど、千夏と話していても、うまくいかないことがあった。

 

 私が何かを尋ねると、千夏は面倒そうな顔をすることがあった。気づいたことを口にしても、困ったように笑って話を終わらせてしまう。

 

 怒鳴られるわけでも、はっきりと拒絶されるわけでもない。

 

 だからこそ、どうすればいいのか分からなかった。

 

 もっと周りに合わせるべきなのか。気づいたことを黙っていたほうがいいのか。

 

 何が正しいのか、私には分からなかった。

 

 放課後、校門で待っていた紬と一緒に帰るとき、私は学校であったことを話すことが少なくなった。

 

「今日はどうだった?」

 

「普通よ」

 

「そっか。何か面白いことあった?」

 

「特にないわ」

 

 授業で気になったことはあったし、休み時間にもいろいろなことがあった。けれど、それを話すには、どこから説明すればいいのか分からなかった。

 

 言われたことを話しても、私自身、どうしてそうなったのか分かっていない。

 

 紬に話したところで、困らせてしまうかもしれない。

 

 そう思うと、話さないほうがいい気がした。

 

「澪、最近あんまり学校の話しないな」

 

「そうかしら?」

 

「うん。前はもっと話してくれた気がする」

 

「……そうだった?」

 

「そうだったと思うけど」

 

 紬はそう言って、私の顔を覗き込んだ。

 

 私は少しだけ目をそらした。

 

「別に、何もないのよ」

 

「そっか……うん、わかった」

 

 紬はそれ以上、聞いてこなかった。

 

 そのことに、ほっとした。

 

 でも、少しだけ寂しいとも思った。

 

 自分でも、どうしてほしいのか分からなかった。

 

 何も聞かれなければ安心する。けれど、何も聞かれなければ、それはそれで寂しい。

 

 そんな自分が、面倒で嫌になった。

 

 それからも、紬と一緒に帰る時間は変わらなかった。

 けれど、私が学校のことを話す機会は、少しずつ減っていった。

 

 ある日、私は千夏たちが遊んでいるところへ声をかけた。

 

「私も一緒に遊んでいい?」

 

「ごめん、今、人数足りてるんだよね」

 

 千夏がそう答えた。

 

 周りの子たちは、こちらを見たり、互いに顔を見合わせたりしていた。

 

「そっか。分かったわ」

 

 私はそれだけ言って、その場を離れた。

 

 別に、遊べなかったこと自体は珍しくない。人数が足りているのなら、仕方がないのだろう。

 

 そう思って教室に戻ろうとしたとき、後ろから笑い声が聞こえた。

 

 振り返っても、誰が笑ったのかは分からなかった。

 

 私のことを笑ったのかもしれない。そうではないのかもしれない。

 

 確かめることはできなかった。

 

 その日、家に帰るまで、私は何度もそのことを思い出した。

 

 私が気にしすぎているだけなのだろうか。

 

 みんなは、私と話すのが嫌になったのだろうか。

 

 考えれば考えるほど、分からなくなった。

 

 次の日も、その次の日も、私はなるべくいつも通りに過ごそうとした。

 

 けれど、誰かが楽しそうに話していると、そこに入っていいのか迷ってしまう。話しかけても返事が短いと、それ以上何を言えばいいのか分からなかった。

 

 そうしているうちに、私は自分から話しかける回数を減らしていた。

 

 それでも、誰かが話しかけてくれれば、できるだけ普通に答えた。

 

 嫌われたくなかった。

 

 みんなと、前のように遊びたかった。

 

 ただ、それだけだった。

 

 ある日の放課後、いつものように紬と帰ろうとしたときだった。

 

「ごめん、今日は話したい人がいるんだ。先に帰っててくれる?」

 

 紬にそう言われて、私は少しだけ驚いた。

 

 小学校に入ってからは、放課後になるといつも紬と一緒に帰っていた。だから、紬から先に帰っていてほしいと言われるのは、少し珍しかった。

 

「そうなの? 分かったわ」

 

「うん。また明日な」

 

「ええ。また明日」

 

 紬はそう言って、校舎のほうへ戻っていった。

 

 私は一人で帰り始めた。

 

 校門を出て、しばらく歩いたところで、ふと気づいた。

 

 教室に、忘れ物をしていた。

 

 明日でもいいかもしれない。けれど、なくなったら困るものだったので、私は学校へ引き返すことにした。

 

 校舎に戻ると、廊下は静かだった。

 

 教室へ向かって歩いていると、話し声が聞こえた。

 

 私のクラスの教室からだった。

 

「でもさ、澪って、いちいち細かいこと言うよね」

 

 千夏の声だった。

 

 私は足を止めた。

 

「分かる。悪い子じゃないんだろうけど、ちょっと話しにくいよね」

 

「そうそう。何か言うと、すぐに理由とか聞いてくるし」

 

「こっちは普通に遊びたいだけなのにね」

 

 何人かの声が重なった。

 

 私は、その場から動けなかった。

 

 自分のことを話しているのだと、すぐに分かった。

 

 聞きたくなかった。

 

 でも、足が動かなかった。

 

「別に、間違ったこと言ってるわけじゃないんだろうけどさ」

 

 千夏が続けた。

 

「何でもかんでも、そんなにきっちりしなくてもいいじゃんって思うんだよね」

 

「うん。何か言われると、こっちが悪いみたいになるし」

 

 胸のあたりが、ぎゅっと縮んだ気がした。

 

 私は、そんなつもりじゃなかった。

 

 みんなを困らせたかったわけでも、間違いを見つけて責めたかったわけでもない。

 

 ただ、分からないことを聞いただけだった。

 

 でも、みんなには、そう見えていたのだろうか。

 

 私は俯いた。

 

 今すぐ帰ってしまいたかった。

 

 忘れ物なんて、どうでもよくなっていた。

 

 そのとき、廊下の向こうから足音が聞こえた。

 

「……ちょっと、いい?」

 

 紬の声だった。

 

 私は顔を上げた。

 

 どうして、紬がここにいるのだろう。

 

 千夏たちも、突然のことに驚いたようだった。

 

「え? どうしたの?」

 

「澪のことなんだけどさ」

 

 紬は少し言いよどんだ。

 

 私は教室の入り口から少し離れたところで、息を潜めた。

 

「澪って、ちゃんと考えてるんだよ。どうしたらみんなとうまく話せるか、自分なりに考えてるし……俺が話したことも、ちゃんと覚えてて、実践しようと頑張ってるんだ」

 

 紬はいつもより少し早口で、苦しそうな表情を浮かべていた。

 

「それに、澪って、いろんなことによく気づくんだよ。俺が気づかなかったことを教えてくれることもあるし、分からないことがあったら、自分で調べたり、考えたりしてる」

 

 私は目を見開いた。

 

 紬は、そんなことまで覚えていたのだろうか。

 

「もちろん、言い方がきついときもあると思う。俺だって、全部が正しいとは言えないけど……」

 

 そこで、紬は言葉を切った。

 

 少しの沈黙があった。

 

「でも、澪が何か言うのって、みんなを困らせたいからじゃないと思うんだ」

 

 紬の声が、少し小さくなった。

 

「澪だって、みんなと仲良くしたいんだよ。だから、どうしたらいいか考えてるんだ」

 

 私は、ぎゅっと手を握った。

 

 紬は、私がみんなと仲良くしたいと思っていることを知っていた。

 

 私がうまく話せなくて、何度も考えていたことも。

 

 誰にも話していなかったのに。

 

「だから……澪のこと、そういうところだけで決めつけないでほしいんだ。澪のいいところも、知ってほしいんだよ」

 

 紬は少しだけ俯いた。

 

「……こんなこと、俺が勝手に言うのもおかしいのかもしれないけどさ」

 

 それでも、紬は顔を上げた。

 

「……少しずつでもいいから、澪と話してみてほしいんだ」

 

 最後の言葉は、少しだけ頼りなかった。

 

 それでも、紬は最後まで言い切った。

 

 教室の中は静かだった。

 

 千夏たちは、すぐには返事をしなかった。

 

「でも、話しにくいのは本当だし……」

 

 やがて、千夏がそう言った。

 

 紬は、少し困ったような顔をした。

 

「……うん。そういうところがあるのは、分かるよ」

 

 それでも、紬は続けた。

 

「でも、澪のこともっと知ってから決めてほしいんだ」

 

 私は、もう顔を上げられなかった。

 

 目の奥が熱くなっていた。

 

 悲しかったのか、嬉しかったのか、自分でもよく分からなかった。

 

 ただ、紬が私のいないところで、私のことを話してくれていた。

 

 私がうまくできないことも、きっと分かっていたはずなのに。

 

 それでも、私のいいところを知ってほしいと言ってくれた。

 

 そのことが、どうしようもなく嬉しかった。

 

 私は音を立てないように、そっとその場を離れた。

 

 忘れ物のことは、もう頭になかった。

 

 帰り道を歩きながら、何度も紬の言葉を思い返した。

 

 澪だって、みんなと仲良くしたいんだよ。

 

 私が、みんなと仲良くしたいと思っていること。

 うまくできなくても、諦めずに頑張っていること。

 

 紬は、ちゃんと分かってくれていた。

 

 それだけじゃない。

 

 紬は、私のいないところで、私のために動いてくれた。

 

 私が頼んだわけでもないのに。

 私が知らないところで。

 

 どうして、そこまでしてくれるのだろう。

 

 紬にとって、私はそれほど大切な存在なのだろうか。

 

 そう考えると、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 

 同時に、ふと、幼稚園の頃のことを思い出した。

 

 紬がほかの子と迷路で遊んでいたとき。

 私は、少しだけ嫌な気持ちになった。

 

 あのときは、どうしてそんな気持ちになったのか分からなかった。

 

 でも、今なら分かる気がした。

 

 私は、紬と一緒にいたかったのだ。

 紬には、私と遊んでいてほしかった。

 

 私にとって紬は大切で、特別で、ほかの誰にも代えることのできない存在なのだから。

 

 一緒にいると楽しい。

 私の話を聞いてくれる。

 困ったときには助けてくれる。

 

 そんな紬を私は特別に思っている。

 

 ……けれど、それだけじゃない。

 

 もし、紬が私以外の誰かを同じように大切にしていたら。

 

 もし、紬が私の知らないところで、別の誰かのために同じことをしていたら。

 

 嫌だ。

 

 私は、紬にとって特別な存在でありたかった。

 

 ほかの誰かと同じでは嫌だった。

 誰よりも近くにいたかった。

 

 紬が誰を大切にしようと、私が口を出すことではない。そんなことは分かっている。

 

 それでも、紬には私を一番に思っていてほしかった。

 

 ……いつから、こんなふうに思っていたのだろう。

 

 答えは出なかった。

 

 ただ、紬の一番近くにいたい。

 

 その願いだけは、はっきりとしていた。

 

 

 次の日、紬はいつも通り校門で待っていた。

 

「お待たせ」

 

「ううん。今来たところ」

 

 紬は、いつもと変わらない顔で笑った。

 

 私は、その顔を見て、少しだけ安心した。

 

「澪、今日なんか静かだな」

 

 紬が私の顔を覗き込んだ。

 

「いつもと変わらないわよ」

 

「そうかな。なんか、考えごとしてるみたいだったから」

 

「……気のせいよ」

 

 私は少しだけ目をそらした。

 

 昨日のことを聞きたかった。

 

 どうして、あんなことを言ってくれたのか。いつから、私が悩んでいたことに気づいていたのか。

 

 でも、いざ口にしようとすると、うまく言葉が出てこなかった。

 

「……何でもないわ」

 

「そっか……」

 

 紬はそう答えたけれど、少し気にしているようだった。

 

 私は、その横顔を見た。

 

 やっぱり、紬は優しい。

 

 ただ優しいだけではない。私が自分でもうまく説明できないことを、分かろうとしてくれる。

 

 それが、嬉しかった。

 

「紬」

 

「ん?」

 

「……今日も、明日も一緒に帰ってくれる?」

 

 紬は少し驚いたように目を瞬かせたあと、笑った。

 

「もちろん」

 

「そう」

 

 私は前を向いた。

 

 それ以上、何かを言う必要はなかった。

 

 その日から、すぐに何もかもが変わったわけではない。

 

 相変わらず、会話が続かないこともあったし、どう振る舞えばいいのか分からなくなることもあった。

 

 けれど、少しだけ変わったこともあった。

 

 ある日、休み時間に千夏が私のところへ来た。

 

「ねえ、澪。これ、どう思う?」

 

 差し出されたのは、千夏が描いた絵だった。

 

 私は絵を見た。

 

 以前なら、気づいたことをすぐに口にしていたと思う。

 

 けれど、今は少し考えてから答えた。

 

「……この色、きれいね」

 

「ほんと?」

 

「ええ。こっちの色と合っていると思うわ」

 

 千夏は、少し嬉しそうに笑った。

 

「でしょ? ここ、けっこう頑張ったんだ」

 

 千夏は絵の一部を指差して、描くときに工夫したことを話してくれた。

 

 私は、その話を最後まで聞いた。

 

 話が終わると、千夏は絵をしまいながら言った。

 

「また今度、見せてあげるね」

 

「ええ。楽しみにしているわ」

 

 それだけのことだった。

 

 でも、久しぶりに、誰かと自然に話せた気がした。

 

 その後も、千夏と少しずつ話すことが増えていった。

 

 すぐに仲良くなれたわけではない。ときには、また言葉がうまく伝わらないこともあった。

 

 それでも、千夏が私の話を聞いてくれることが増えたし、私も千夏が何を伝えたいのか、以前より考えるようになった。

 

 昼休み、千夏が私の机のそばにやってきた。

 

「ねえ、澪って、幼稚園から仲のいい子がいるんだよね?」

 

「ええ。紬っていうの」

 

「へえ。どんな子なの?」

 

 私は少し考えた。

 

 紬のことなら、いくらでも話せる気がした。

 

「紬はね、すごく優しいの。困っている子がいたら放っておけないし、誰かが失敗しても、すぐに責めたりしないのよ。それに、私がうまく話せないときも、ちゃんと聞いてくれるし……」

 

 話しているうちに、次々と言いたいことが浮かんできた。

 

「あと、紬は人のことをよく見ているの。私が何も言わなくても、気づいてくれることがあるし、前に話したことも覚えていてくれるのよ。この前だって――」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

 千夏が私の話を遮った。

 

「……澪って、そんなにしゃべるんだね」

 

「えっ?」

 

 私は思わず千夏を見た。

 

「いや、さっきからすごい勢いじゃん。そんなに仲いいんだ?」

 

「そ、そうかしら?」

 

 千夏は少し呆れたように笑っていた。

 

 私は急に恥ずかしくなった。

 

 紬のいいところを話していただけなのに、いつの間にか、こんなにたくさん話していたらしい。

 

「……でも、本当に優しいのよ」

 

「はいはい、分かったって」

 

 千夏は肩をすくめた。

 

 千夏は少し考えるように黙り込んだ。

 

 やがて、くすっと笑って口を開いた。

 

「……二人とも、似すぎでしょ」

 

「何が?」

 

「なんでもない」

 

 千夏は笑いをこらえるように顔をそらした。

 

 私には、何がおかしいのか分からなかった。

 

 でも、千夏が楽しそうに笑っているのを見て、私も少しだけ笑った。

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