TS転生した俺、サキュバスらしい   作:ほんきょー

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7.もっと一緒に

昼休み。

 

 給食を食べ終えた俺は、クラスの子たちと話をしていた。

 

「なあ、次なにして遊ぶ?」

 

「外行こうぜ。まだ時間あるし」

 

 そんな話をしていたときだった。

 

「……あれ? その子だれ?」

 

 友達が俺の後ろを指さした。

 

 その指の先を確かめるように、俺も後ろを振り返る。

 

 すると、澪が何か言いたげな様子で立っていた。

 

「うわぁ! 澪、どうした!?」

 

 思わず声を上げると、澪は少し驚いたように肩を揺らした。それから、どこか焦った様子で口を開く。

 

「べ、別に……何をしているのかと思って」

 

 澪はそう言いながら、俺のそばまで歩いてきた。

 

 珍しいな。普段はわざわざ俺の教室まで来たりしないのに。

 

「どうしたんだよ。何か用?」

 

「用がないと来ちゃいけないの?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど……」

 

 澪は俺の顔を見て、それから隣にいる子へと視線を移した。

 

「……私も、一緒にいていい?」

 

 その言葉に、俺は少し驚いた。

 

 けれど、断る理由なんてない。

 

「もちろん。いいか?」

 

 友達にも声をかけると、その子は気にした様子もなく頷いた。

 

「いいよ。その子、紬の友達? 澪ちゃんっていうの?」

 

「幼馴染だよ。ずっと一緒なんだ」

 

 俺がそう答えると、澪は小さく頷いた。

 

「……そうよ」

 

「よし! 澪ちゃんも一緒にやろう」

 

「うん。よろしくね」

 

 澪は少しだけ表情を和らげた。

 

 それを見て、俺もなんとなく嬉しくなった。

 

 少し前から、澪はクラスの子たちとうまくいっていないようだった。

 

 前はもっと普通にみんなと話していたと思うのだけど、いつからか、休み時間も一人で過ごすことが増えていた。

 

 今も、前と同じようにみんなと話せるようになったのかは分からない。

 

 それでも、こうして自分から俺のところに来て、一緒に遊ぼうとしてくれたのはよかったと思う。

 

 これをきっかけに、少しずつでもみんなと過ごせるようになればいい。

 

 そんなことを考えながら、俺たちは次に何をして遊ぶか話していた。

 

「じゃあ、鬼ごっこにしようぜ」

 

「えー、昨日もやったじゃん」

 

「いいだろ、別に」

 

 そんなやり取りを聞きながら、澪は俺たちの話に耳を傾けていた。

 

「……鬼ごっこ、いいわね」

 

「うん。澪も一緒にやろうぜ」

 

 俺がそう言うと、澪は小さく頷いた。

 

「……ええ」

 

「よし、じゃあ外行こうぜ!」

 

 友達の一人がそう言って、俺たちは教室を出た。

 

 校庭に出ると、さっそく誰が鬼になるか決めることになった。

 

「じゃんけんで決めようぜ!」

 

「最初はグー、じゃんけんぽん!」

 

「よっしゃ、セーフ!」

 

「えー、俺が鬼かよ!」

 

 友達の一人だけが負けたらしい。その子は不満そうに声を上げた。

 

 そんな様子を見て、みんなが笑った。

 

 澪もその輪の中にいた。

 

 最初は少し遠慮しているように見えたけれど、鬼ごっこが始まると、澪もちゃんと走っていた。

 

「待てー!」

 

「捕まるかよ!」

 

 俺は校庭を駆け回りながら、何度か澪の姿を目で追った。

 

 澪は走るのが特別速いわけではない。それでも、捕まりそうになると方向を変えたり、ほかの子の後ろに回り込んだりして、うまく逃げていた。

 

「紬、そっち!」

 

「おう!」

 

 澪に声をかけられて、俺は反射的に走る方向を変えた。

 

 そのまま鬼を振り切る。

 

「危なかったな!」

 

「ええ。ぎりぎりだったわね」

 

 澪はそう言って、少しだけ笑った。

 

 俺も笑い返した。

 

 こうして一緒に遊ぶのは、別に珍しいことじゃない。

 

 昔から、俺たちはよく一緒に遊んでいた。

 

 ただ、最近は澪と二人でいることが多かったから、こうしてほかの友達も交えて遊ぶのは、少し久しぶりな気がした。

 

 昼休みが終わるまで、俺たちは何度も鬼ごっこを繰り返した。

 

 教室に戻る頃には、みんな息を切らしていた。

 

「疲れたー!」

 

「次は別の遊びにしようぜ」

 

「いいな、それ!」

 

 友達がそんな話をしている横で、澪は俺の隣を歩いていた。

 

「楽しかった?」

 

 俺が聞くと、澪は少し考えてから頷いた。

 

「……ええ。楽しかったわ」

 

「そっか。また一緒に遊ぼうな」

 

「……うん」

 

 澪は小さく答えた。

 

 その声が、いつもより少しだけ弾んで聞こえた気がした。

 

 それから、澪は昼休みになると、俺たちのところへ来るようになった。

 

 毎日というわけではなかったけれど、以前よりも昼休みに一緒に過ごす時間は増えた。

 

 俺が友達と話していると、澪もその会話に加わる。

 

 みんなで遊ぶときには、自然と俺の近くにいることが多かった。

 

 たまに、俺が別の友達と話し込んでいると、澪がこちらを見ていることもあった。

 

「澪、どうした?」

 

「……何でもないわ」

 

 そう言って、澪は視線を戻す。

 

 何か話したいことでもあるのだろうか。

 

 そう思うことはあったけれど、澪が何も言わないなら、無理に聞くことでもないだろう。

 

 それに、澪がみんなと過ごすことに慣れてきたのなら、俺としても嬉しい。

 

 以前のように、もっと気軽に友達と話せるようになってくれればいい。

 

 俺は、そんなふうに考えていた。

 

 

 

 放課後。

 

 帰り支度を終えた俺は、いつものように澪と一緒に校門を出た。

 

 並んで歩いていると、澪がぽつりと言った。

 

「……最近、千夏と話すことが増えたの」

 

「千夏?」

 

「同じクラスの水野千夏。前に、絵を見せてもらったって話したでしょう?」

 

「ああ、あのときの子か」

 

「ええ。最近は、向こうから話しかけてくれることもあるの」

 

「へえ。よかったじゃん」

 

「……そうね」

 

 澪は前を向いたまま、小さく頷いた。

 

 千夏とのことは、まだ完全に解決したわけではないのだろう。

 

 それでも、以前より話せるようになったのなら、一歩前進だ。

 

「澪が頑張ったからだな」

 

「私が?」

 

「うん。前より、相手の話を聞こうとしてるだろ。そういうのって、ちゃんと伝わるんじゃないかな」

 

 俺がそう言うと、澪は少しだけ黙った。

 

「……千夏も、前より私の話を聞いてくれるようになったもの」

 

「じゃあ、お互い様だな」

 

「……そうかもしれないわね」

 

 澪の声は、少しだけ柔らかくなっていた。

 

 そのまましばらく歩いていると、澪が再び口を開いた。

 

「……この前のことなんだけど」

 

「この前?」

 

 澪は少しだけ歩く速度を落とした。

 

「……私がみんなとうまくいっていなかったとき、千夏たちに私のことを話してくれたでしょう」

 

 ああ、あのときか。

 

 澪がクラスの子たちと距離を置かれているようで、どうにかしないとと考え、俺は澪のいないところで、あの子たちに澪のことを……?どうして知ってる?

 

「……あのとき、私のことを話してくれたでしょう」

 

「……えっ?」

 

 思わず、澪の顔を見た。

 

「なんで、それを知ってるんだ?」

 

 あのときの話を、澪が知っているとは思っていなかった。

 

 俺が驚いているのを見て、澪は少しだけ視線を落とした。

 

「あのとき、忘れ物に気づいて教室に行ったの」

 

「……ああ」

 

 そういうことか。

 

 どうやらあのとき、見られていたらしい。

 

「……どうして?」

 

「どうしてって……」

 

 俺は返事に困った。

 

 どうして、と聞かれても。

 

「澪のことを知ってほしかったから、かな」

 

「……私のことを?」

 

「うん。澪はちゃんと考えてるし、みんなと仲良くしたいと思ってるだろ。澪には良いところがたくさんあるんだって、知ってほしくて」

 

 自分で言っていて、少し恥ずかしくなった。

 

 別に、大したことをしたつもりはない。

 

 ただ、澪のことを誤解されたままなのが嫌だった。それだけだ。

 

 澪はしばらく黙っていた。

 

 何か言いたそうにしているのに、言葉が出てこない。そんなふうに見えた。

 

「……ありがとう」

 

 やがて、澪は小さな声で言った。

 

「え?」

 

「……あのとき、私のことを話してくれて、ありがとう」

 

 改めて言われると、どうにも落ち着かない。

 

「いや、別に……。俺が勝手にやったことだし」

 

「それでもよ」

 

 澪は顔を上げた。

 

「……嬉しかったわ」

 

 その言葉に、俺は少しだけ照れくさくなった。

 

「そっか。なら、よかった」

 

 俺はそう答えて、前を向いた。

 

 澪もそれ以上は何も言わず、俺の隣を歩いていた。

 

 しばらくして、澪がぽつりと呟いた。

 

「……でも、あまりほかの子にああいうことはやらないでほしいな」

 

「え?」

 

 思わず聞き返すと、澪は少しだけこちらを見た。

 

「……何でもないわ」

 

「いや、今、何か言っただろ」

 

「気のせいよ」

 

 澪はそう言って、前を向いてしまった。

 

 何だったんだろう。

 

 よく分からなかったけれど、澪がいつもの調子に戻ったので、俺もそれ以上は追及しなかった。

 

 夕方の道を、二人で並んで歩く。

 

 昔から何度も繰り返してきた帰り道だ。

 

 これからも、こうして一緒に帰るのだろう。

 

 俺は、特に疑問を抱くこともなく、いつものように澪と話をしながら家へ向かった。

 

 家の近くまで来たところで、俺は澪に声をかけた。

 

「そういえば、澪。このあと暇?」

 

「え? 特に予定はないけれど……」

 

「じゃあ、うち寄ってく? 久しぶりに家でも遊ぼうぜ」

 

 学校が終わったあと、そのままどちらかの家に遊びに行くことも珍しくなかった。

 

 最近は澪の元気がなくて二人で帰ることが多くても、家に寄って遊ぶことは少なくなっていた気がする。

 

「……いいの?」

 

「もちろん。ふたりとも澪が来たら喜ぶと思うよ」

 

 澪は少し考えてから、こくりと頷いた。

 

「……じゃあ、お邪魔しようかしら」

 

「よし、決まり!」

 

 俺たちはそのまま、俺の家へと向かった。

 

 

 

 家に帰ると、母さんが台所に立っていた。

 

「あら、おかえり、紬。……澪ちゃんも一緒なのね」

 

「ただいま」

 

「お邪魔します」

 

 澪はいつもどおり、きちんと挨拶をした。

 

「今日は遊びに来てくれたの?」

 

「うん。このあと暇だっていうから、俺が誘ったんだ」

 

「そうなの。ゆっくりしていってね」

 

「ありがとうございます」

 

 母さんはにこにこと笑いながら、俺たちを迎えてくれた。

 

「二人とも、手を洗っておいで。おやつも出すから」

 

「やった!」

 

「紬は、まず手を洗う!」

 

「分かってるって!」

 

 母さんに注意され、俺は慌てて洗面所へ向かった。

 

 その後、俺たちはおやつを食べながら、学校であったことや、最近遊んだゲームの話をした。

 

 澪はいつもより少しリラックスしているようだった。

 

「それでね、今日の昼休みはみんなで鬼ごっこをしたんだ」

 

「へえ、澪ちゃんも一緒に?」

 

「うん。澪もちゃんと走ってたよ」

 

「紬のほうが、途中で転びそうになっていたじゃない」

 

「なっ……! あれは地面が悪かったんだよ!」

 

「ふふ、そうなの?」

 

 母さんが笑う。

 

「紬は昔から、遊びに夢中になると周りが見えなくなるものね」

 

「母さんまで……」

 

「ふふ、ごめんなさい。でも、澪ちゃんもそう思うでしょう?」

 

「ええ。紬は夢中になると、周りが見えなくなることがあるわね」

 

「澪まで!」

 

 二人は顔を見合わせて笑った。

 

 ……なんだよ。二人して。

 

 俺は少しむっとした顔をしてみせたけれど、二人が楽しそうにしているのを見ると、それ以上は何も言えなかった。

 

 しばらくして、玄関のほうから物音がした。

 

「ただいま」

 

 父さんが帰ってきたらしい。

 

 居間に顔を出した父さんは、俺の隣にいる澪に気づくと、少しだけ表情を和らげた。

 

「澪ちゃんも来ていたのか」

 

「こんばんは、おじさん」

 

「うん。いらっしゃい」

 

 父さんはそれだけ言うと、持っていた荷物を置きに行った。

 

 少しして戻ってくると、俺たちの様子を見て口を開いた。

 

「何してたんだ?」

 

「学校の話をしてたの」

 

「そうか。楽しかったか?」

 

「うん」

 

 俺が答えると、父さんは小さく頷いた。

 

「なら、よかった」

 

 それから父さんは母さんの手伝いを始めた。母さんが何か頼むと、父さんは短く返事をして、黙って手を動かす。

 

 いつもどおりの光景だった。

 

 夕食の時間になると、父さんも交えて、みんなで食卓を囲んだ。

 

 学校であったことや、テレビの話。

 

 母さんが料理を並べ、父さんがそれを受け取って食卓に置く。澪は母さんに料理のお礼を言い、俺は今日の学校であったことを話した。

 

「今日、昼休みにみんなで鬼ごっこしたんだ」

 

「そうか」

 

「澪も一緒に遊んだんだよ」

 

 父さんは澪のほうを見た。

 

「そうなのか。楽しかった?」

 

「はい。久しぶりに、みんなと遊べました」

 

「……そうか」

 

 父さんは小さく頷いた。

 

「よかったな」

 

「……はい」

 

 澪は少しだけ笑った。

 

 そのあとも、食事をしながら、ときどき話をした。

 

 父さんは自分からたくさん話すほうではないけれど、俺たちの話を聞いて、短く返事をしたり、母さんの言葉に頷いたりしていた。

 

 特別なことは何もない。

 

 いつもと変わらない、穏やかな時間だった。

 

 食事を終えたあと、澪は帰る支度をした。

 

「じゃあ、私、そろそろ帰るわ」

 

「もう帰るの?」

 

「ええ。遅くなると、お母さんが心配するもの」

 

「そっか。また明日な」

 

「……うん。また明日」

 

 玄関まで見送ると、澪は靴を履いてから振り返った。

 

「紬」

 

「ん?」

 

「……今日は、楽しかったわ」

 

 昼休みのことだろうか。それとも、家で過ごした時間も含めてだろうか。

 

 俺は笑って頷いた。

 

「俺も。明日も一緒に遊ぼうな」

 

「……ええ」

 

 澪は小さく笑って、帰っていった。

 

 扉を閉めてから、俺は少しだけ考えた。

 

 澪がみんなとどこまでうまくやれているのか、俺には分からない。

 

 けれど、今日みたいに自分から来てくれたり、千夏と話すことが増えたと教えてくれたりした。

 

 少なくとも、何も変わっていないわけではないのだろう。

 

 いつか、澪がもっと気軽にみんなと話せるようになればいい。

 

 そんなことを思いながら、俺は自分の部屋へ戻った。

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