お待たせしてしまい申し訳ございません。最後まで読んで戴けると幸いです。
「「デュエル!!」」
互いの宣言が響き渡り、仮想空間に火花が散った。
「先攻は俺からだ!」
先に動いたのは、ハノイの騎士だった。
「俺は手札から魔法カード、《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札からモンスターカードを1枚墓地へ送り、デッキからレベル1のモンスター、《ハック・ワーム》を特殊召喚する!」
カードの効果に従い、黒い装甲をまとった機械仕掛けの虫がフィールドへと現れる。
続けて、ハノイの騎士は手札から1枚のカードを取り出した。
「さらに、《ジャック・ワイバーン》を召喚!」
機械仕掛けの竜がフィールドに降り立ち、2体のモンスターが並び立つ。
――やはり、そう来たか。
僕は相手の展開を見つめながら、内心で呟いた。
先ほど遊作君とデュエルしていたハノイの騎士。そのデッキ構築と展開は、目の前の相手と酷似している。
偶然の一致とは思えなかった。
そして、この流れならば、次に来るカードも分かっている。
「俺は《ジャック・ワイバーン》の効果を発動! このカードと《ハック・ワーム》を除外することで、闇属性モンスター1体を特殊召喚する!」
来た。
2体のモンスターが黒い光に包まれ、フィールドから姿を消していく。
そして、その直後――。
「出てこい! 《クラッキング・ドラゴン》!!」
轟音とともに、巨大な黒い竜がフィールドへと姿を現した。
重厚な装甲に覆われた巨体。鋭い眼光がこちらを睨みつけ、その威圧感を周囲へと振りまいている。
その姿を目の当たりにしても、僕は動じなかった。
驚きはない。少なくとも、今のところは。
この展開を、僕は知っている。
だからこそ、ここから先が重要だった。
相手が何を狙っているのか。こちらがどう動くべきなのか。頭の中でいくつもの可能性を整理しながら、僕は静かに相手の次の行動を待った。
「俺はカードを1枚伏せる。これでターンエンドだ!」
ハノイの騎士が宣言し、フィールドに沈黙が訪れる。
巨大な《クラッキング・ドラゴン》が、僕の行く手を阻むようにそびえ立っていた。
対する僕のフィールドには、まだ何もない。
だが、必要以上に恐れることはなかった。
さあ、ここからだ。
僕は手札へと視線を落とした。
十年間、この瞬間から目を背けてきた。
けれど、もう逃げるつもりはない。
このデュエルに勝つ。そして、遊作君をこれ以上傷つけさせない。
そのために、僕はここにいるのだから。
「僕のターン、ドロー!」
引いたカードを確認し、僕は手札から2枚のカードを取り出した。
「手札から《粋カエル》を捨てて、《鬼ガエル》を特殊召喚!」
水飛沫とともに、巨大なカエルの姿をしたモンスターがフィールドへと現れる。
「さらに、《鬼ガエル》の効果を発動! 召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからガエルモンスター1体を墓地へ送る!」
だが、その効果が処理されるよりも早く、相手のフィールドにいる黒い竜が反応した。
「ここで《クラッキング・ドラゴン》の効果発動! 相手がモンスターを1体のみ召喚・特殊召喚した時、そのモンスターのレベル×200ポイントだけ攻撃力を下げ、さらにその数値分のダメージを与える!」
巨大な竜の口が開き、黒い衝撃波が《鬼ガエル》へと襲いかかる。
「《クラッキング・フォール》!!」
「くっ……!」
衝撃とともに、僕のライフが削られた。
W∀-i:4000 → 3600
「まずは一撃、もらったぞ!」
ハノイの騎士が勝ち誇る。
だが、僕は顔色一つ変えなかった。
「《鬼ガエル》の効果は処理するよ。デッキからガエルモンスターを墓地へ送る」
墓地へ送ったのは、《鬼ガエル》自身。
そして、すぐさま次の手を打つ。
「続いて墓地の《粋カエル》の効果! 墓地の《鬼ガエル》を除外することで、特殊召喚する!」
「何っ!?」
再びフィールドに現れる《粋カエル》。
当然、これもモンスター1体の特殊召喚だ。
「ここで《クラッキング・ドラゴン》の効果が――」
「そうだね。もう一度、効果が発動する」
僕は相手の言葉を遮るように、淡々と告げた。
「なっ……!」
「何も言わなくていいよ。効果も、しばらくは受けてあげる」
黒い竜の攻撃が再び襲いかかる。
W∀-i:3600 → 3200
「ぐっ……!」
ダメージを受けながらも、僕は次のカードを掲げた。
「2体のモンスターを素材に、リンク召喚!」
フィールドに残っていた《鬼ガエル》と《粋カエル》が光へと変わり、一本の稲妻のような軌跡を描いて収束していく。
「召喚条件は、レベル2・ランク2・リンク2のいずれかを含むモンスター2体!」
「何だと……?」
ハノイの騎士が眉をひそめる。
僕は構わず、召喚の宣言を続けた。
「現れろ! 《スプライト・エルフ》!!」
電気そのものが生命を得たかのような、赤く、そして白い光をまとったモンスターがフィールドへと降り立った。
「リンクモンスターだと!?」
ハノイの騎士が驚愕の声を上げる。
無理もない。
この世界でリンク召喚がどこまで一般化しているのか、僕にはまだ分からない。だが、少なくとも目の前の相手は、僕が繰り出したモンスターに明らかな動揺を見せていた。
「驚くのはまだ早いよ」
僕は続けて効果を発動する。
「《スプライト・エルフ》の効果! 墓地のレベル2モンスターを1体、特殊召喚する!」
「出てきて、《鬼ガエル》!」
墓地から再び姿を現す《鬼ガエル》。
「またか……!」
ハノイの騎士が歯噛みする。
「《鬼ガエル》の特殊召喚時、デッキから《鬼ガエル》を墓地へ送る。そして、墓地の《粋カエル》の効果! 墓地の《鬼ガエル》を除外して、もう一度特殊召喚!」
再びフィールドに並ぶ2体のモンスター。
ここまでの流れを見て、ハノイの騎士もようやく僕の狙いに気づき始めたらしい。
だが、もう遅い。
「フィールドの《スプライト・エルフ》と《鬼ガエル》を素材に――エクシーズ召喚!」
2体のモンスターが光の渦に包まれ、フィールドの上空へと浮かび上がる。
「ランク2! 《ギガンティック・スプライト》!!」
新たなモンスターが姿を現した瞬間、ハノイの騎士は声を荒らげた。
「馬鹿め!! エクシーズ召喚するならリンクモンスターは使えない! しくじったな!!」
その言葉を聞き、僕は思わずため息をついた。
「ああ……そういう認識なんだ」
この世界では、リンクモンスターの扱いについて、まだ知られていないことがあるのかもしれない。
あるいは、目の前の相手が知らないだけなのか。
どちらにしても、今さら説明に時間をかけるつもりはなかった。
「いいや、しくじってないさ。このモンスターは、リンク2のモンスターをレベル2のモンスターとして扱い、エクシーズ召喚することができる!」
「なっ……!?」
「これが、僕の切り札の一つだよ」
僕は《ギガンティック・スプライト》を見上げた。
「《ギガンティック》の効果発動! エクシーズ素材を1つ取り除き、デッキからレベル2モンスターを特殊召喚する!」
素材が1つ取り除かれ、効果が発動する。
「来てくれ、《スプライト・ブルー》!」
青い稲妻をまとったモンスターがフィールドへと現れた。
「そして、この効果が適用されている間、お互いにレベル2・ランク2・リンク2のモンスターしか特殊召喚できない!」
「……は?」
ハノイの騎士の顔から、勝ち誇った表情が消えた。
「今……何と言った?」
「お互いに、だよ」
「お互いに……!?」
彼は自分のフィールドを見つめ、次いで僕のフィールドを見た。
《クラッキング・ドラゴン》はレベル8。
今の制約下では、新たなモンスターとして特殊召喚することができない。
もちろん、すでにフィールドにいるモンスターが即座に消えるわけではない。だが、この制約が続く限り、彼が想定していた展開は大きく制限される。
「何だ、それは……。そんな効果が……」
ハノイの騎士は困惑していた。
自身のカードによって相手の行動が制限されることも、特殊召喚の制約によって戦術が封じられることも、彼は知っているはずだ。
しかし、相手が発動した効果によって、自分まで特殊召喚の制約を受ける。
その事実が、彼には受け入れがたいらしかった。
「……何もないなら、続けるよ」
僕は淡々と告げた。
「《スプライト・ブルー》の効果発動! 特殊召喚に成功した時、デッキから《スプライト・ブルー》以外のスプライトモンスター1体を手札に加える!」
手札に加えたのは、《スプライト・ジェット》。
「そして、《スプライト・ジェット》を特殊召喚!」
続けて、ジェットの効果が発動する。
「デッキから《スプライト・スターター》を手札に加えて、そのまま発動!」
一瞬の間も置かず、僕はカードを操作していく。
「デッキから《スプライト・レッド》を特殊召喚!」
次々とモンスターがフィールドに並び、ハノイの騎士の表情が険しくなっていく。
その一方で、僕のライフは着実に減っていた。
W∀-i:3200 → 2800 → 2400 → 1800 → 1400 → 400
《クラッキング・ドラゴン》の効果によるダメージが積み重なり、残るライフはわずか400。
あと一度、効果を通されれば敗北する。
普通なら、ここで焦るところだろう。
けれど、僕は落ち着いていた。
必要なカードは揃っている。
この局面まで持ち込めば、あとは詰めるだけだ。
「はははははっ!!」
突然、ハノイの騎士が笑い声を上げた。
「最後の最後で自滅したな!! ライフはたったの400! このまま《クラッキング・ドラゴン》の効果で死ねぇ!!」
彼は勝利を確信していた。
《クラッキング・ドラゴン》の効果が通れば、僕のライフは尽きる。
そう考えれば、当然の反応だったのかもしれない。
――ただし、彼は一つだけ見落としていた。
僕のフィールドには、まだ《スプライト・レッド》がいる。
「……それじゃあ、そろそろ終わりにしようか」
僕の言葉を聞き、ハノイの騎士が怪訝な顔をする。
その瞬間、《スプライト・レッド》が動いた。
「何っ!?」
効果が発動し、相手のモンスターへと干渉する。
《クラッキング・ドラゴン》の効果が無効化され、さらに《ギガンティック・スプライト》をリリースすることで、破壊効果も適用される。
黒い竜の巨体が揺らいだ。
そして、次の瞬間。
その姿は、フィールドから消え去っていた。
「…………は?」
ハノイの騎士は、呆然と立ち尽くしていた。
「何故だ……?」
彼の声が震える。
「何故、貴様は敗北していない!? 何故、《クラッキング・ドラゴン》が消えているんだ!?」
僕は静かに答えた。
「このタイミングで《スプライト・レッド》の効果を使わせてもらったんだ。《クラッキング・ドラゴン》の効果を無効にして、さらに《ギガンティック・スプライト》をリリースしたことで破壊効果も適用した。それだけだよ」
まるで、明日の天気でも説明するかのような口調だった。
けれど、相手にとっては違ったらしい。
ハノイの騎士の顔から血の気が引いていく。
「何だよ……。何なんだよ、お前……」
先ほどまでの威勢は、もうどこにもなかった。
「何で、まだ生きているんだよ……。このまま死んでくれよぉ……」
彼はその場にへたり込み、動けなくなった。
僕はその姿を一瞥し、フィールドへと視線を戻す。
まだデュエルは終わっていない。
「じゃあ、バトルだね」
僕は攻撃宣言のため、カードを構えた。
「《スプライト・ブルー》でダイレクトアタック!」
そして、攻撃宣言に合わせて手札からカードを発動する。
「手札から《スプライト・ガンマバースト》を発動! フィールドのレベル2・ランク2・リンク2モンスターは、ターン終了時まで攻撃力が1400アップする!」
三体のモンスターが一斉に光をまとった。
《スプライト・ブルー》の攻撃力は700から2100へ。
《スプライト・ジェット》は900から2300へ。
《スプライト・レッド》も800から2200へと上昇する。
「このままいくよ」
僕は静かに告げた。
「《スプライト・ブルー》、ダイレクトアタック!」
青い雷光がハノイの騎士を襲う。
「嫌だっ!! ヤダッ!! やめてよぉぉぉっ!!」
彼は必死に叫んだが、攻撃が止まることはなかった。
ハノイの騎士:4000 → 1900
「続けて、《スプライト・ジェット》でダイレクトアタック!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ジェットの攻撃が直撃する。
ハノイの騎士:1900 → -400
ライフがゼロを下回り、デュエルの決着を告げる表示が仮想空間に浮かび上がった。
WINNER:W∀-i
――終わった。
数字だけを見れば、ライフ400という瀬戸際からの逆転勝利に見えるだろう。
だが、実際のところは違う。
最初から最後まで、僕は相手の展開を読み、その上で自分の戦術を組み立てていた。
ライフが減っていくことも、相手が勝利を確信することも、すべて想定の範囲内だった。
もちろん、何もかもが思いどおりに進んだわけではない。けれど、少なくとも、このデュエルで本当に追い詰められていたのは僕ではなかった。
「……それにしても」
僕は自分のフィールドを見渡し、ふと考え込んだ。
リンク召喚に、エクシーズ召喚。
そして、《ギガンティック・スプライト》の効果による特殊召喚の制約。
この世界では、僕の知っているルールが、思っていた以上に通用するらしい。
いや、正確には――都合よく、マスタールール5に準じた環境になっているのだろうか。
リンクモンスターを含めた展開が問題なく成立したことを考えれば、その可能性は高い。
「……まあ、今はいいか」
疑問は残るものの、今ここで考え込んでも仕方がない。
僕はデュエルディスクを操作し、戦いを終えるための手続きを進めた。
そして、ふと思い出したように背後を振り返る。
遊作君は――。
「……あれ?」
そこに、彼の姿はなかった。
周囲を見渡しても、見つからない。
どうやら、僕がデュエルをしている間にログアウトしたらしい。
「……よかった」
胸の奥に詰まっていたものが、ようやくほどけていく。
正直に言えば、デュエルをしている間も、勝敗以上に気になっていたことがあった。
遊作君が、この光景を見ていないか。
僕が戦う姿を、彼に見られていないか。
もし見られていたら、きっと余計な心配をかけてしまう。何より、今の僕のデュエルを、あの子に見せたくはなかった。
「よかった……。遊作君は、もうログアウトしていたんだね」
僕は小さく息を吐いた。
「僕のデュエルなんか、あの子に見せるわけにはいかないから……本当に、よかった」
そう呟きながら、僕はLINK VRAINSからログアウトした。
仮想空間から意識が切り離され、視界が現実のものへと戻っていく。
これで、ひとまずは終わりだ。
遊作君は無事だった。
僕も、彼に余計なものを見せずに済んだ。
そう思っていた。
――けれど。
遊作君が見ていなかったからといって、誰も見ていなかったとは限らない。
僕がハノイの騎士を圧倒した、あの一部始終を。
どこかで、誰かが見ていた可能性は、十分にあったのだ。