鴻上博士「ワイ貴様実験から降りろ」   作:panmqn

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やっとデュエルに入りました。
お待たせしてしまい申し訳ございません。最後まで読んで戴けると幸いです。


3話

「「デュエル!!」」

互いの宣言が響き渡り、仮想空間に火花が散った。

「先攻は俺からだ!」

先に動いたのは、ハノイの騎士だった。

「俺は手札から魔法カード、《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札からモンスターカードを1枚墓地へ送り、デッキからレベル1のモンスター、《ハック・ワーム》を特殊召喚する!」

カードの効果に従い、黒い装甲をまとった機械仕掛けの虫がフィールドへと現れる。

続けて、ハノイの騎士は手札から1枚のカードを取り出した。

「さらに、《ジャック・ワイバーン》を召喚!」

機械仕掛けの竜がフィールドに降り立ち、2体のモンスターが並び立つ。

――やはり、そう来たか。

僕は相手の展開を見つめながら、内心で呟いた。

先ほど遊作君とデュエルしていたハノイの騎士。そのデッキ構築と展開は、目の前の相手と酷似している。

偶然の一致とは思えなかった。

そして、この流れならば、次に来るカードも分かっている。

「俺は《ジャック・ワイバーン》の効果を発動! このカードと《ハック・ワーム》を除外することで、闇属性モンスター1体を特殊召喚する!」

来た。

2体のモンスターが黒い光に包まれ、フィールドから姿を消していく。

そして、その直後――。

「出てこい! 《クラッキング・ドラゴン》!!」

轟音とともに、巨大な黒い竜がフィールドへと姿を現した。

重厚な装甲に覆われた巨体。鋭い眼光がこちらを睨みつけ、その威圧感を周囲へと振りまいている。

その姿を目の当たりにしても、僕は動じなかった。

驚きはない。少なくとも、今のところは。

この展開を、僕は知っている。

だからこそ、ここから先が重要だった。

相手が何を狙っているのか。こちらがどう動くべきなのか。頭の中でいくつもの可能性を整理しながら、僕は静かに相手の次の行動を待った。

「俺はカードを1枚伏せる。これでターンエンドだ!」

ハノイの騎士が宣言し、フィールドに沈黙が訪れる。

巨大な《クラッキング・ドラゴン》が、僕の行く手を阻むようにそびえ立っていた。

対する僕のフィールドには、まだ何もない。

だが、必要以上に恐れることはなかった。

さあ、ここからだ。

僕は手札へと視線を落とした。

十年間、この瞬間から目を背けてきた。

けれど、もう逃げるつもりはない。

このデュエルに勝つ。そして、遊作君をこれ以上傷つけさせない。

そのために、僕はここにいるのだから。

「僕のターン、ドロー!」

引いたカードを確認し、僕は手札から2枚のカードを取り出した。

「手札から《粋カエル》を捨てて、《鬼ガエル》を特殊召喚!」

水飛沫とともに、巨大なカエルの姿をしたモンスターがフィールドへと現れる。

「さらに、《鬼ガエル》の効果を発動! 召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからガエルモンスター1体を墓地へ送る!」

だが、その効果が処理されるよりも早く、相手のフィールドにいる黒い竜が反応した。

「ここで《クラッキング・ドラゴン》の効果発動! 相手がモンスターを1体のみ召喚・特殊召喚した時、そのモンスターのレベル×200ポイントだけ攻撃力を下げ、さらにその数値分のダメージを与える!」

巨大な竜の口が開き、黒い衝撃波が《鬼ガエル》へと襲いかかる。

「《クラッキング・フォール》!!」

「くっ……!」

衝撃とともに、僕のライフが削られた。

W∀-i:4000 → 3600

「まずは一撃、もらったぞ!」

ハノイの騎士が勝ち誇る。

だが、僕は顔色一つ変えなかった。

「《鬼ガエル》の効果は処理するよ。デッキからガエルモンスターを墓地へ送る」

墓地へ送ったのは、《鬼ガエル》自身。

そして、すぐさま次の手を打つ。

「続いて墓地の《粋カエル》の効果! 墓地の《鬼ガエル》を除外することで、特殊召喚する!」

「何っ!?」

再びフィールドに現れる《粋カエル》。

当然、これもモンスター1体の特殊召喚だ。

「ここで《クラッキング・ドラゴン》の効果が――」

「そうだね。もう一度、効果が発動する」

僕は相手の言葉を遮るように、淡々と告げた。

「なっ……!」

「何も言わなくていいよ。効果も、しばらくは受けてあげる」

黒い竜の攻撃が再び襲いかかる。

W∀-i:3600 → 3200

「ぐっ……!」

ダメージを受けながらも、僕は次のカードを掲げた。

「2体のモンスターを素材に、リンク召喚!」

フィールドに残っていた《鬼ガエル》と《粋カエル》が光へと変わり、一本の稲妻のような軌跡を描いて収束していく。

「召喚条件は、レベル2・ランク2・リンク2のいずれかを含むモンスター2体!」

「何だと……?」

ハノイの騎士が眉をひそめる。

僕は構わず、召喚の宣言を続けた。

「現れろ! 《スプライト・エルフ》!!」

電気そのものが生命を得たかのような、赤く、そして白い光をまとったモンスターがフィールドへと降り立った。

「リンクモンスターだと!?」

ハノイの騎士が驚愕の声を上げる。

無理もない。

この世界でリンク召喚がどこまで一般化しているのか、僕にはまだ分からない。だが、少なくとも目の前の相手は、僕が繰り出したモンスターに明らかな動揺を見せていた。

「驚くのはまだ早いよ」

僕は続けて効果を発動する。

「《スプライト・エルフ》の効果! 墓地のレベル2モンスターを1体、特殊召喚する!」

「出てきて、《鬼ガエル》!」

墓地から再び姿を現す《鬼ガエル》。

「またか……!」

ハノイの騎士が歯噛みする。

「《鬼ガエル》の特殊召喚時、デッキから《鬼ガエル》を墓地へ送る。そして、墓地の《粋カエル》の効果! 墓地の《鬼ガエル》を除外して、もう一度特殊召喚!」

再びフィールドに並ぶ2体のモンスター。

ここまでの流れを見て、ハノイの騎士もようやく僕の狙いに気づき始めたらしい。

だが、もう遅い。

「フィールドの《スプライト・エルフ》と《鬼ガエル》を素材に――エクシーズ召喚!」

2体のモンスターが光の渦に包まれ、フィールドの上空へと浮かび上がる。

「ランク2! 《ギガンティック・スプライト》!!」

新たなモンスターが姿を現した瞬間、ハノイの騎士は声を荒らげた。

「馬鹿め!! エクシーズ召喚するならリンクモンスターは使えない! しくじったな!!」

その言葉を聞き、僕は思わずため息をついた。

「ああ……そういう認識なんだ」

この世界では、リンクモンスターの扱いについて、まだ知られていないことがあるのかもしれない。

あるいは、目の前の相手が知らないだけなのか。

どちらにしても、今さら説明に時間をかけるつもりはなかった。

「いいや、しくじってないさ。このモンスターは、リンク2のモンスターをレベル2のモンスターとして扱い、エクシーズ召喚することができる!」

「なっ……!?」

「これが、僕の切り札の一つだよ」

僕は《ギガンティック・スプライト》を見上げた。

「《ギガンティック》の効果発動! エクシーズ素材を1つ取り除き、デッキからレベル2モンスターを特殊召喚する!」

素材が1つ取り除かれ、効果が発動する。

「来てくれ、《スプライト・ブルー》!」

青い稲妻をまとったモンスターがフィールドへと現れた。

「そして、この効果が適用されている間、お互いにレベル2・ランク2・リンク2のモンスターしか特殊召喚できない!」

「……は?」

ハノイの騎士の顔から、勝ち誇った表情が消えた。

「今……何と言った?」

「お互いに、だよ」

「お互いに……!?」

彼は自分のフィールドを見つめ、次いで僕のフィールドを見た。

《クラッキング・ドラゴン》はレベル8。

今の制約下では、新たなモンスターとして特殊召喚することができない。

もちろん、すでにフィールドにいるモンスターが即座に消えるわけではない。だが、この制約が続く限り、彼が想定していた展開は大きく制限される。

「何だ、それは……。そんな効果が……」

ハノイの騎士は困惑していた。

自身のカードによって相手の行動が制限されることも、特殊召喚の制約によって戦術が封じられることも、彼は知っているはずだ。

しかし、相手が発動した効果によって、自分まで特殊召喚の制約を受ける。

その事実が、彼には受け入れがたいらしかった。

「……何もないなら、続けるよ」

僕は淡々と告げた。

「《スプライト・ブルー》の効果発動! 特殊召喚に成功した時、デッキから《スプライト・ブルー》以外のスプライトモンスター1体を手札に加える!」

手札に加えたのは、《スプライト・ジェット》。

「そして、《スプライト・ジェット》を特殊召喚!」

続けて、ジェットの効果が発動する。

「デッキから《スプライト・スターター》を手札に加えて、そのまま発動!」

一瞬の間も置かず、僕はカードを操作していく。

「デッキから《スプライト・レッド》を特殊召喚!」

次々とモンスターがフィールドに並び、ハノイの騎士の表情が険しくなっていく。

その一方で、僕のライフは着実に減っていた。

W∀-i:3200 → 2800 → 2400 → 1800 → 1400 → 400

《クラッキング・ドラゴン》の効果によるダメージが積み重なり、残るライフはわずか400。

あと一度、効果を通されれば敗北する。

普通なら、ここで焦るところだろう。

けれど、僕は落ち着いていた。

必要なカードは揃っている。

この局面まで持ち込めば、あとは詰めるだけだ。

「はははははっ!!」

突然、ハノイの騎士が笑い声を上げた。

「最後の最後で自滅したな!! ライフはたったの400! このまま《クラッキング・ドラゴン》の効果で死ねぇ!!」

彼は勝利を確信していた。

《クラッキング・ドラゴン》の効果が通れば、僕のライフは尽きる。

そう考えれば、当然の反応だったのかもしれない。

――ただし、彼は一つだけ見落としていた。

僕のフィールドには、まだ《スプライト・レッド》がいる。

「……それじゃあ、そろそろ終わりにしようか」

僕の言葉を聞き、ハノイの騎士が怪訝な顔をする。

その瞬間、《スプライト・レッド》が動いた。

「何っ!?」

効果が発動し、相手のモンスターへと干渉する。

《クラッキング・ドラゴン》の効果が無効化され、さらに《ギガンティック・スプライト》をリリースすることで、破壊効果も適用される。

黒い竜の巨体が揺らいだ。

そして、次の瞬間。

その姿は、フィールドから消え去っていた。

「…………は?」

ハノイの騎士は、呆然と立ち尽くしていた。

「何故だ……?」

彼の声が震える。

「何故、貴様は敗北していない!? 何故、《クラッキング・ドラゴン》が消えているんだ!?」

僕は静かに答えた。

「このタイミングで《スプライト・レッド》の効果を使わせてもらったんだ。《クラッキング・ドラゴン》の効果を無効にして、さらに《ギガンティック・スプライト》をリリースしたことで破壊効果も適用した。それだけだよ」

まるで、明日の天気でも説明するかのような口調だった。

けれど、相手にとっては違ったらしい。

ハノイの騎士の顔から血の気が引いていく。

「何だよ……。何なんだよ、お前……」

先ほどまでの威勢は、もうどこにもなかった。

「何で、まだ生きているんだよ……。このまま死んでくれよぉ……」

彼はその場にへたり込み、動けなくなった。

僕はその姿を一瞥し、フィールドへと視線を戻す。

まだデュエルは終わっていない。

「じゃあ、バトルだね」

僕は攻撃宣言のため、カードを構えた。

「《スプライト・ブルー》でダイレクトアタック!」

そして、攻撃宣言に合わせて手札からカードを発動する。

「手札から《スプライト・ガンマバースト》を発動! フィールドのレベル2・ランク2・リンク2モンスターは、ターン終了時まで攻撃力が1400アップする!」

三体のモンスターが一斉に光をまとった。

《スプライト・ブルー》の攻撃力は700から2100へ。

《スプライト・ジェット》は900から2300へ。

《スプライト・レッド》も800から2200へと上昇する。

「このままいくよ」

僕は静かに告げた。

「《スプライト・ブルー》、ダイレクトアタック!」

青い雷光がハノイの騎士を襲う。

「嫌だっ!! ヤダッ!! やめてよぉぉぉっ!!」

彼は必死に叫んだが、攻撃が止まることはなかった。

ハノイの騎士:4000 → 1900

「続けて、《スプライト・ジェット》でダイレクトアタック!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

ジェットの攻撃が直撃する。

ハノイの騎士:1900 → -400

ライフがゼロを下回り、デュエルの決着を告げる表示が仮想空間に浮かび上がった。

WINNER:W∀-i

――終わった。

数字だけを見れば、ライフ400という瀬戸際からの逆転勝利に見えるだろう。

だが、実際のところは違う。

最初から最後まで、僕は相手の展開を読み、その上で自分の戦術を組み立てていた。

ライフが減っていくことも、相手が勝利を確信することも、すべて想定の範囲内だった。

もちろん、何もかもが思いどおりに進んだわけではない。けれど、少なくとも、このデュエルで本当に追い詰められていたのは僕ではなかった。

「……それにしても」

僕は自分のフィールドを見渡し、ふと考え込んだ。

リンク召喚に、エクシーズ召喚。

そして、《ギガンティック・スプライト》の効果による特殊召喚の制約。

この世界では、僕の知っているルールが、思っていた以上に通用するらしい。

いや、正確には――都合よく、マスタールール5に準じた環境になっているのだろうか。

リンクモンスターを含めた展開が問題なく成立したことを考えれば、その可能性は高い。

「……まあ、今はいいか」

疑問は残るものの、今ここで考え込んでも仕方がない。

僕はデュエルディスクを操作し、戦いを終えるための手続きを進めた。

そして、ふと思い出したように背後を振り返る。

遊作君は――。

「……あれ?」

そこに、彼の姿はなかった。

周囲を見渡しても、見つからない。

どうやら、僕がデュエルをしている間にログアウトしたらしい。

「……よかった」

胸の奥に詰まっていたものが、ようやくほどけていく。

正直に言えば、デュエルをしている間も、勝敗以上に気になっていたことがあった。

遊作君が、この光景を見ていないか。

僕が戦う姿を、彼に見られていないか。

もし見られていたら、きっと余計な心配をかけてしまう。何より、今の僕のデュエルを、あの子に見せたくはなかった。

「よかった……。遊作君は、もうログアウトしていたんだね」

僕は小さく息を吐いた。

「僕のデュエルなんか、あの子に見せるわけにはいかないから……本当に、よかった」

そう呟きながら、僕はLINK VRAINSからログアウトした。

仮想空間から意識が切り離され、視界が現実のものへと戻っていく。

これで、ひとまずは終わりだ。

遊作君は無事だった。

僕も、彼に余計なものを見せずに済んだ。

そう思っていた。

――けれど。

遊作君が見ていなかったからといって、誰も見ていなかったとは限らない。

僕がハノイの騎士を圧倒した、あの一部始終を。

どこかで、誰かが見ていた可能性は、十分にあったのだ。

 

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