遂に、W∀-iのターンが終わりを告げた。
そして――GO鬼塚のターンが始まろうとしていた。
「俺の……ターンッ!!」
鬼塚は力強くカードを引くと、すぐさま行動に移った。
「スタンバイフェイズに、魔法カード《手札断殺》を発動する! 互いに手札を二枚墓地へ送り、その後、二枚ドローする!」
「それじゃ、僕も二枚捨てて二枚ドロー」
W∀-iは淡々と応じ、手札から《ゴーティスの紅玉 ゼップ》と《メルフィーとにらめっこ》を墓地へ送った。
そして、新たに二枚のカードを引く。
その瞬間だった。
W∀-iの口元に、不敵な笑みが浮かんだ。
どうやら、今回の手札交換は彼にとって望ましい結果をもたらしたらしい。
「来た!」
鬼塚もまた、引いたカードを確認して声を上げる。
「メインフェイズ! 手札から《剛鬼 スープレックス》を通常召喚!」
フィールドに、人型のプロレスラーを思わせる屈強なモンスターが姿を現した。
「そして、《スープレックス》の効果発動! 召喚に成功した時、手札から《剛鬼》モンスター一体を特殊召喚できる!」
鬼塚が次の展開へと移ろうとした、その時だった。
「そこにチェーンして、《メルフィー・ワラビィ》の効果!」
W∀-iの宣言が割り込む。
「相手のモンスターが召喚・特殊召喚された場合、この子を手札に戻して、デッキから《メルフィー》モンスター二体を特殊召喚する!」
ワラビィが小さな体を弾ませながらフィールドから姿を消す。
代わって、二体の愛らしいモンスターが現れた。
「出てきて! 《パピィ》と《キャシィ》!」
一体のモンスターを召喚したばかりだというのに、相手のフィールドには瞬く間に二体ものモンスターが並んだ。
鬼塚の表情に、わずかな焦りが浮かぶ。
しかし、それも一瞬だった。
彼はすぐさま気持ちを切り替え、声を張り上げる。
「モンスターが二体も出てきたから何だ!? 《スープレックス》の効果により、手札から現れよ! 《剛鬼 ベアハッグ》!」
筋骨隆々とした剛鬼がフィールドに降り立つ。
「《ベアハッグ》の召喚時効果発動! 相手フィールドのモンスター一体を対象に取り、その攻撃力を元々の半分にする!」
鬼塚は相手のフィールドを見渡し、対象を選ぼうとした。
だが、W∀-iがすかさず指摘する。
「《エルフ》のリンクマーカーの先にいるモンスターは、効果の対象にする事はできないよ。」
「クソッ!? 仕方ない……《エルフ》を対象にする!」
対象に選ばれた《スプライト・エルフ》の攻撃力が半減する。
しかし、W∀-iは特に気にした様子もない。
むしろ、鬼塚がその効果を使ってくれたこと自体、想定の範囲内であるかのようだった。
「何もないなら、続けるぞ! 魔法カード《ダウン・ビート》を発動!」
鬼塚はフィールドの《剛鬼 ベアハッグ》をリリースする。
「フィールドのモンスター一体をリリースし、デッキからレベルが一つ低い、同じ属性・種族のモンスターを特殊召喚する! 現れろ、《剛鬼 ライジングスコーピオン》!」
鋭い眼光を放つ剛鬼が、新たにフィールドへと降り立った。
「さらに、リリースされた《ベアハッグ》の効果! デッキから《剛鬼》カード一枚を手札に加える!」
鬼塚が次のカードを手札に加えようとした、その瞬間。
「《ライジングスコーピオン》が特殊召喚されたことで、《キャシィ》と《パピィ》の効果を順番に発動!」
「何っ!? まだ俺のターン中だというのに、また動くのか!?」
鬼塚が驚愕する。
だが、W∀-iは意に介さない。
「まずは《パピィ》を手札に戻して、デッキから《森の聖獣 カラントーサ》を特殊召喚! 続いて、《キャシィ》も効果で手札に戻し、デッキから《メルフィー・ラッシィ》を手札に加える!」
またしても、鬼塚の展開に割り込むようにして盤面が変化した。
「くっ……またか……!」
鬼塚は歯を食いしばる。
それでも、先ほど発動した効果による処理は残っている。
「だが、《ベアハッグ》の効果で《剛鬼再戦》を手札に加える!」
ようやく手札に加わった、反撃のための一枚。
鬼塚はそのカードを握りしめた。
しかし――。
「《カラントーサ》の効果発動!」
W∀-iの声が響く。
「このカードが獣族モンスターの効果によって特殊召喚された場合、フィールドのカード一枚を対象に取り、破壊する! 対象は《ライジングスコーピオン》!」
「何だと!?」
次の瞬間、《ライジングスコーピオン》が破壊され、フィールドから消え去った。
これで鬼塚のフィールドに残されたモンスターは、《剛鬼 スープレックス》ただ一体。
しかし、鬼塚はまだ諦めていなかった。
「問題ない! 手札から《剛鬼再戦》を発動! 墓地のレベルが異なる《剛鬼》モンスター二体を特殊召喚する!」
墓地から剛鬼たちを呼び戻し、再び盤面を立て直す。
鬼塚にとって、ここからが反撃の始まりだった。
――はずだった。
「それは通せないね」
W∀-iの声は、どこまでも冷静だった。
「フィールドの《スプライト・キャロット》の効果発動! フィールドの《森のメルフィーズ》をリリースして、《剛鬼再戦》の発動を無効にし、破壊する!」
「なっ……!」
鬼塚の表情が凍りついた。
頼みの綱だった《剛鬼再戦》までもが、無情にも打ち消されてしまったのだ。
これで、鬼塚の展開は完全に止まった。
どれほど手を尽くしても、W∀-iの盤面を崩すどころか、まともに攻め込むことさえできない。
だが、それでも。
鬼塚はデュエルを投げ出さなかった。
「俺は……バトルフェイズに――」
「その前に、手札の《メルフィー・ラッシィ》の効果を発動させてもらうよ」
またしても、W∀-iが動いた。
鬼塚のターンは、まだ終わっていない。
にもかかわらず、W∀-iは自分のターンであるかのように、さらなる展開を続けていく。
「このカードは、《メルフィー》モンスターが手札に戻ったターンなら、手札から特殊召喚できる。そして、手札の《メルフィー》と一緒にシンクロ素材にできるんだ」
「……シンクロ召喚、だと?」
鬼塚は思わず呟いた。
エクシーズ召喚にリンク召喚。
それだけでも十分に複雑な展開を見せつけられていたというのに、ここにきてシンクロ召喚まで持ち出してくるというのか。
鬼塚は、W∀-iが何をしようとしているのか、すぐには理解できなかった。
いや――理解することを、心のどこかで拒んでいたのかもしれない。
ここまで来たのなら、もう最後まで見届けるしかない。
鬼塚はそう自分に言い聞かせ、相手の行動を受け入れた。
「フィールドのレベル二、《ラッシィ》と、手札の《パピィ》、そして《ワラビィ》でシンクロ召喚!」
W∀-iが三体のモンスターを掲げる。
「現れろ! 《砂漠の飛蝗賊》――デザート・ローカスト!!」
小さな動物たちの姿が光に包まれた。
次の瞬間、巨大なバッタにまたがった盗賊が、フィールドに颯爽と姿を現す。
それまで静観していた観客たちが、一斉にざわめき始めた。
可愛らしい《メルフィー》たちから、まさかこのようなモンスターが現れるとは、誰も予想していなかったのだ。
だが、W∀-iの展開はまだ終わらない。
「《デザート・ローカスト》の効果発動! ターンプレイヤーは手札を一枚墓地へ送る!」
鬼塚に選択を迫る声が響く。
しかし、それだけではなかった。
「さらに、《デザート・ローカスト》の効果で、このカードと自分フィールドのモンスターを使ってシンクロ召喚を行う!」
W∀-iはフィールドのモンスターへと視線を向けた。
「レベル六の《デザート・ローカスト》と、《森の聖獣 カラントーサ》でシンクロ召喚!!」
再び、フィールドが光に包まれる。
「現れろ! レベル八! 《アダマシア・ライズ-ドラガイト》!!」
巨大な水晶のドラゴンが、轟音とともに姿を現した。
先ほどまでバッタに乗った盗賊が、多肉植物のような花を咲かせたウサギを連れ去っていたかと思えば、今度は巨大な水晶のドラゴンである。
あまりにも予想外の連続に、観客たちは先ほどとはまた違った驚きの声を上げた。
W∀-iは、そんな周囲の反応を気にすることなく説明を続ける。
「そして、《デザート・ローカスト》の効果で、一枚手札を捨ててもらうよ」
鬼塚は短く息を吐いた。
「……俺は《増援》を墓地へ送る」
これで、鬼塚の手札から一枚カードが墓地へ送られた。
一方、W∀-iのフィールドには、さらなる妨害能力を持つモンスターが加わっている。
「《ドラガイト》は、フィールドに表側表示で存在する限り、一ターンに一度、魔法・罠カードの発動を無効にして破壊できる」
W∀-iは鬼塚を見据えた。
「ここまでしたけど、何かある? ……今さら聞くのも変だけどね」
その言葉に、観客席が再びざわつく。
今さらも何もない。
ここまで幾度となく展開を妨害され、最後の切り札さえ封じられた鬼塚に、いったい何ができるというのか。
一部の観客からは、さすがにやりすぎではないか、という声まで漏れ始めていた。
それほどまでに、W∀-iの盤面は強固だった。
だが――。
「バトルフェイズ!」
鬼塚は、力強く宣言した。
「《スープレックス》で、《スプライト・エルフ》に攻撃!!」
その言葉に、誰もが鬼塚へと視線を向けた。
これだけの妨害を受け、絶望的な状況に追い込まれながらも、彼はまだ攻撃を諦めていない。
W∀-iは一瞬だけ鬼塚を見つめた後、淡々と答えた。
「何もないよ」
《剛鬼 スープレックス》が駆け出し、《スプライト・エルフ》へと突撃する。
攻撃が通り、W∀-iのライフポイントが減少した。
W∀-i:3000 → 2300
その光景を見つめながら、観客たちは息を呑んだ。
ここまで徹底的に妨害されてもなお、鬼塚には戦う意思が残っていたのだ。
その姿は、勝敗を超えて人々の胸を打った。
「俺はこのまま、ターンエンドだ!」
鬼塚は最後まで堂々と宣言した。
そして――。
遂に、W∀-iの最後のターンが訪れる。
「僕のターン! ドロー!」
カードを引いたW∀-iは、迷いなくメインフェイズへと移行した。
「メインフェイズ! フィールドの《スプリンド》と《キャロット》でエクシーズ召喚!」
二体のモンスターが光に包まれ、再びその姿を一つに重ねていく。
「もう一度現れて! 《ギガンティック・スプライト》!!」
轟音とともに、巨大なエースモンスターがフィールドへと降臨した。
それは、このデュエルの序盤にも姿を見せたモンスター。
そして今、勝負を終わらせるために、再びその姿を現したのだった。
「《ギガンティック・スプライト》の効果発動! エクシーズ素材を取り除き、デッキから《スプライト・ブルー》を特殊召喚!」
呼び出された《ブルー》が、その効果によってデッキから《スプライト・レッド》を手札に加える。
「レベル二のモンスターがいるから、《レッド》を特殊召喚!」
これで、W∀-iのフィールドには《ギガンティック・スプライト》に加え、新たなモンスターが並んだ。
展開を終えたW∀-iは、鬼塚へと視線を向ける。
「バトルフェイズ。何かあるかな?」
鬼塚は、静かに口を開いた。
「俺とデュエルをしてくれて、ありがとう!!」
その言葉に、W∀-iはほんのわずかに目を細めた。
そして、短く頷く。
「こちらこそ。《ドラガイト》で、《スープレックス》に攻撃!」
巨大な水晶のドラゴンが、その力を解き放つ。
鬼塚のモンスターは攻撃を受け、フィールドから消え去った。
GO鬼塚:4000 → 2800
それでも、鬼塚は倒れなかった。
最後までW∀-iを見据え、その場に立ち続ける。
しかし、勝負はまだ終わっていなかった。
「続けて、《ギガンティック・スプライト》でダイレクトアタック!!」
巨大なエースモンスターが、鬼塚へと襲いかかる。
「ウッ……ウォォォオオオオオ!!」
鬼塚の雄叫びが、フィールド全体に響き渡った。
だが、その叫びも、迫り来る攻撃を止めることはできない。
最後の一撃が直撃し、鬼塚のライフポイントはゼロを下回った。
GO鬼塚:2800 → -400
――決着。
W∀-iの圧倒的な展開力の前に、GO鬼塚は敗北した。
それでも、最後まで戦うことを諦めなかった彼の姿は、観客たちの目に焼きついていた。