【艦これ】 赫海戦記 -異聞深海大戦-   作:A-Forge

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艦これ熱の再燃によって衝動的に書き始めた弊艦これ二次創作設定に基づくオムニバス形式の戦記シリーズ第2話。
艦娘の運用方法が模索されていた2014年、まき網漁船を改装した急造艦娘母艦から発進した水雷戦隊が、深海棲艦の夜間呪物輸送部隊と交戦するお話です。



【艦これ】 赫海戦記 第弐話「雷跡は月下に奔る」

 「深海棲艦」と呼ばれる海の怪異が人々の前に顕れるようになってから数年。人類は幾度となく異形の敵を撃退してきたが、その数は年を追うごとに増大していた。

 

 海上交通路の寸断、商船の喪失、港湾への襲撃、沿岸からの浸透工作はもはや珍しいものではなく、戦火は外洋から人々の暮らす領域へと迫りつつあった。

 

 深海棲艦とは、魚類に似たものからヒト型をなすものまで、姿形の定まらぬ敵であった。既存の砲弾や誘導弾をもって撃破し得たとしても、それらの異形を何処からともなく生み出す、海そのものに生じた異変——〈赫い海〉を浄化することは、既存の技術では不可能であった。

 

 〈赫い海〉へと歪められた海域は、既知の物理法則を欺くこの世ならざる理が支配し、触手を伸ばすかのように溢れ出る呪詛は艦載計器や光学観測機器のみならず、そこで活動する人間の精神さえ狂わせた。

 

 その海に抗うため、人類は新たな戦力を手にした。かつて軍艦として海を往き、その名と魂を受け継いだ少女たち。艤装を身に纏い、軍艦の砲火と雷撃を人の姿で再現する存在——「艦娘」である。

 

 2013年4月23日、日本は世界で初めて艦娘を実戦に投入した。異形の敵を打ち破るその力は、新たな海戦の可能性を示した。だが、艦娘の絶対数は少なく、艤装の整備、補給、部隊の編制、指揮統制に至るまで、運用体制はいまだ確立の途上にあった。

 

 人類が、艦娘を兵器として運用する方法を模索していた時代のことである。

 

* * *

 

 2014年11月3日、2035時。

 鹿島灘北部、大洗沖。

 特殊海上顕現員運用支援船、第十七晴洋丸。

 灰色に塗装された約四十メートルの船体は、もとはまき網漁船だった。すでに沖合を航行しており、船尾の小型艇用スリップウェイは艦娘を直接発進させるために改修されている。船自体は非武装である。

 

 作戦室には鹿島灘の海図が掲げられていた。

 作戦室の席に着くのは軽巡洋艦の長良と、駆逐艦の藤波、早波、涼波。

 今回の戦術呼出名称は「カガリ」。長良から順にカガリ1から4を使用する。母船の呼出名称「ミサゴ」とは別だ。

 

 こうした夜間の水雷戦には、本来なら経験豊かな艦娘を充てたいところだった。しかし神通や川内など、当時すでに練度の高かった艦娘たちは南西諸島方面の作戦に従事しており、手一杯だった。

 

 そこで、たまたま出撃可能だった長良が臨時旗艦に選ばれた。藤波、早波、涼波の三隻は、〈船霊降ろし〉――軍艦の魂を人の姿に宿して艦娘を生み出す儀式――によって、ほぼ同時期に建造されたばかりの夕雲型である。艤装の扱いは訓練してきたが、実戦経験も、長良を交えた連携経験もまだ少ない。今回の水雷戦隊は、限られた戦力を集めた臨時編成だった。

 

 作戦連絡官の佐伯二等海尉が説明を始めた。

 

「任務は危険貨物の陸揚げ阻止、ならびに輸送戦闘群の撃滅。現場の戦術指揮は長良に委任する」

 

 佐伯は沿岸の集落を示した。

 

「十月以降、幻聴や方向感覚の異常、夜間徘徊が発生している。特異災害庁は、港で回収した祭具との関連を調査中だ」

 

 卓上の写真には、濡れた黒い紙垂を重ねたような幣束が写っていた。

 

「暫定呼称は『逆塞』。祭具の隔離後、報告数は減った。ただし仕組みも既設数も不明。追加搬入で被害が広がる恐れがある」

 

 次の資料は敵の推定編成だった。

 

「重巡級個体を旗艦とし、軽巡級と駆逐級が輸送を担当するとみられる。隻数は不明。砲撃と雷撃、双方を警戒するように」

 

 円筒形の容器を描いた図が配られた。

 

「貨物は艤装搭載型密閉輸送容器、通称『深海ドラム缶』に収容されていると推定する。内容は未確認。敵が投棄した場合は位置と時刻を記録し、回収班へ引き継ぐ。分離した容器への不必要な射撃は禁止する」

 

 佐伯は海図の青い線をなぞった。

 

「発進は2140時。母船は予定海域まで航行を続け、全艦離脱後に支援海域へ退避。カガリ隊は大洗沖の指定海域で迎撃する。敵は南東沖から進入する見込みだ」

「初撃は敵右舷船首側からの雷撃を基準とする。単縦陣で接近し、左回頭で右舷発射管の射界を取る。続いて敵右舷側を抜けながら砲撃。修正は長良の判断に任せる」

 

 藤波は電探による接触保持、涼波は遮蔽と機動支援を受け持つ。早波は両艦の動きに合わせて砲雷撃を行う。通信員が各回線の割当表を渡した。

 

「帰投時は母船が合流位置を指定する。収容は一隻ずつ。損傷時は事前に報告せよ」

 

 佐伯は資料を閉じた。

 

「質問は」

 

 四隻から質問は出なかった。

 

「長良、了解したか」

「了解! 予定どおり出撃します!」

 

 2050時、晴洋丸は予定発進海域へ向けて針路を修正した。甲板の下では主機が低く唸り、船体は夜の鹿島灘を進んでいた。

 

* * *

 

 2014年11月3日、2130時。

 鹿島灘北部、晴洋丸船内。

 船尾側の作業区画には、四隻分の艤装が架台に固定されていた。整備員は装着部の番号を点検票と照合し、支持具から順に留め具を外す。砲身と発射管には移動中の衝突を防ぐ固定具が掛けられていた。

 

 長良は腰部艤装を取り付けた。左右に14cm単装砲が左右二基、計四基装着され、61cm二連装酸素魚雷発射管は左右一基ずつ接続されている。発射管は砲より低い位置に収まり、二本の魚雷をそれぞれ側方へ撃ち出す構造だった。

 

 固定具を締め、砲身と発射管の可動範囲を確認した。

 

 右手には小銃型の14cm単装砲艤装を保持した。砲身を前に向け、握りと腕部の保持具を合わせる。左腕には探照灯を装着した。

 

「魚雷、右二、左二。装填良好」

 

 長良は整備員へ頷いた。発射安全は維持したままだ。

 

 藤波たち夕雲型三隻の装備は共通していた。右手と左手に12.7cm連装砲D型を各一基。片手で一基の連装砲を保持するため、計四門が両腕に分かれる。両腿の外側には、61cm四連装酸素魚雷発射管が一基ずつ装着された。

 

 主砲の脱落防止にはスリングを使う。右手の砲のスリングを左肩へ、左手の砲のものを右肩へ通し、胸と背中で交差させた。両肩にたすき掛けにしたスリングが砲の荷重を受ける。

 

 藤波は左右の装填表示を整備員と照合した。

 

「右四、左四。固定も問題ないよ」

 

 背部艤装のマストには22号対水上電探が接続されていた。藤波は給電と受信部の状態を点検すると、最後にゴーグルを下ろし、視界に遮るものがないか左右を見た。

 

 早波と涼波も両腿の四連装発射管を固定し、左右四本ずつの装填を確認してからゴーグルを装着した。

 

「お姉ちゃん、こっちのスリング、平気?」

 

「もち、ちゃんと通ってるよ。肩、きつくない?」

 

「こっちも準備完了! いつでも行けるぜ!」

 

 四隻の最終点検が終わると、長良は三隻を見た。

 

「行こう!」

 

 船尾甲板へ出ると、晴洋丸は発進のため減速していた。船長の許可を受け、甲板員がスリップウェイの可動フラップを下ろす。

 

「発進、一名ずつ」

 

 2140時。長良が先頭で斜路を下り、海面へ滑り出した。藤波、早波、涼波が間隔を置いて続く。最後の涼波が離脱すると、甲板員は斜路を閉鎖した。

 

「ミサゴ、こちらカガリ1。四隻、発進完了。送れ」

『カガリ1、こちらミサゴ。了解。母船は支援海域へ離脱する。送れ』

「了解。終わり」

 

 晴洋丸が離れていく。長良を先頭に、四隻は月夜の海を南東へ進んだ。

 

* * *

 

 2014年11月3日、2213時。

 鹿島灘北部、指定迎撃海域。

 藤波の22号対水上電探に、五つの応答があった。小さな反応は時折重なったが、群れ全体は西北西へ移動している。

 

『カガリ1、こちらカガリ2。水上目標五。距離四千二百。針路、西北西。接触保持』

「了解。単縦陣!」

 

 長良を先頭に、藤波、早波、涼波が並ぶ。長良は母船へ接触を報告し、戦術回線に戻った。

 

 敵はまだ遠い。だが、進路は読めた。こちらはその右舷船首側。迎え撃つには十分な位置だった。

 

 長良が腰を落とし、海面を見据える。

 

「——走るよ!」

 

 長良が海面を蹴った。航走艤装の低い唸りが、四隻ぶん重なって鋭い駆動音へ跳ね上がる。瞬く間に風圧が増し、頬を打つ飛沫が後方へ吹き飛んだ。藤波、早波、涼波が長良の描いた航跡へ次々に入る。波頭を蹴散らしながら加速する四隻の後ろに、白い航跡が長く曳かれた。

 

 四隻が滑走するたび、黒い水面に月光が砕けた。波頭は見えても、その先は暗い。

 

 長良が先頭で針路を絞った。後続三隻が相次いで旋回し、一本の長い航跡が月光の下に弧を引く。敵の右舷船首へ、単縦陣が鋭く斬り込んだ。

 

 藤波の電探上で、五つの反応が近づく。早波と涼波は左右の砲を保持したまま隊間隔を広げ、雷撃後の射線を空けた。

 

 2217時。

 

 黒い海面から五つの輪郭が浮いた。月光だけでは細部が沈み、航跡と艤装の形が辛うじて分かる。前衛にハ級二隻、中央にヘ級、後方にハ級一隻。その奥を滑る大型の人型は、リ級速射砲搭載型だった。

 

 リ級は赫黒い燐光を纏っていた。赤黒い靄が肩から腕へ脈打ち、海面に火の粉のような光を落とす。右腕には太い三連装砲、左腕にはそれより細い速射砲の輪郭。砲身の細部は闇に沈んでいる。ほかの四隻と違い、後部に円筒形の貨物は吊っていなかった。

 

『カガリ3、あれはリ級……!』

「いるね! あいつの砲口に注意。止まらず行くよ!」

『カガリ2。距離九百。敵針路、変化なし』

「右舷雷撃準備。左舷は温存!」

 

 長良の腰部二連装発射管と、三隻の右腿にある四連装発射管が発射態勢に入る。

 

 敵影が急速に膨らむ。前方の黒い輪郭に、赤い砲口光がちらついた。長良は一度だけ右舷発射管の角度を確かめ、旋回点を見据えた。

 

「私が左へ切ったら、続いて!」

『了解!』

 

 2218時。

 

『カガリ2、距離640!』

 

「左回頭——雷撃、始め!」

 

 長良が左へ切り込んだ。航走艤装が海面を掴み、足元から扇状の飛沫が噴き上がる。遠心力に身体を預け、速度を殺さず大きな弧を刻んだ。藤波、早波、涼波がほぼ一拍ずつ遅れて旋回へ飛び込む。四条の白線が夜の海に重なり、右舷発射管の射界へ敵の未来位置が滑り込んだ。

 

 発射角が揃う。

 長良の二連装から二本。続いて藤波、早波、涼波の四連装から各四本。発射管の水密蓋が相次いで開き、計十四本の酸素魚雷が白い飛沫を残して海中へ放たれた。四隻は回頭を解かない。魚雷を置き去りにして突き抜ける艦娘たちの足元で、海水が轟々と逆巻いた。

 

 狙うのは敵の現在位置ではない。四隻の魚雷が、輸送群の進路前方へ幅を持って散る。

 

 魚雷を放った四隻は敵の右舷を突破した。藤波、早波、涼波はなお高速で離脱しながら上体を敵へ正対させ、両腕の連装砲を真っすぐ突き出す。

 

「主砲、一斉射!」

 

 長良の14cm砲五門が火を噴いた。駆逐艦三隻の12.7cm砲十二門が続き、ひとつの砲声を次の轟音が呑み込む。砲口炎が三隻の顔を瞬間的に照らし、月夜に砲煙が流れた。右先頭のハ級を挟んで、白い水柱が相次いで奔騰する。水飛沫の奥で敵影が揺れた。

 

 ハ級の後部で固定具が外れた。

 円筒形の容器が海へ落ちた。右先頭のハ級から二つ。残るハ級二隻も後部の容器を切り離し、ヘ級も一つ落とした。

 

 貨物は海へ沈んだ。敵は減速さえしない。

 

『カガリ2、敵がドラム缶を投棄!』

「地点を記録。敵を追う!」

 

 長良は沈下位置を一瞥した。追跡は後続の回収班に任せる。

 

 魚雷航跡に気づいたハ級が隊列を飛び出した。

 右先頭のハ級は猛烈に左へ舵を切った。黒い身体が傾き、白い航跡が大きく折れる。だが、そこへ別の酸素魚雷が斜めに突進していた。避けようとしてさらに傾いた瞬間、白熱した閃光が艤装の側面を突き破る。炸裂した水が敵を包み、衝撃の輪が海面を押し広げた。

 

 轟音は、そのあとから来た。

 ハ級の外殻が折れ、黒い破片が跳ね上がった。身体は横転し、波を引きずって沈んだ。

 

『右先頭ハ級、撃沈!』

「残り四。油断しないで!」

 

 後衛のリ級が猛然と針路を翻した。

 リ級は右腕の8inch砲を長良へ据えた。砲口の赤が濃くなる。左腕の速射砲は、藤波たちを牽制していた。

 

「散開!」

 

 8inch砲が咆哮した。血色の弾道が長良の前を横切り、海面に暗紅色の爆光を咲かせる。間髪入れず次弾が来た。狙いは今いる場所ではなく、その先だ。

 

 長良は進路を右へ叩きつけるように切り替えた。惰性で広がる航跡を斜めに断ち、加速して弾着予測点を外す。砲弾が旧針路を粉砕した。長良は逃走方向へ走り抜けながら、右手の14cm砲だけをリ級へ振り返らせた。

 

 藤波は沖側へ躍り出て、早波は逆方向へ一気に離脱した。編隊が瞬く間に解け、敵の照準を引き裂く。早波は半身のまま右腕の連装砲を伸ばし、ヘ級へ一射を返した。

 

 ヘ級は右腕の6inch連装速射砲を早波へ振り、赤い連射を浴びせた。そのまま艤装を傾け、側面に増設されていた魚雷発射管を開く。ハ級二隻も船首を合わせて口内の5inch連装砲を構え、側面から雷撃を放った。暗い海に幾筋もの白い航跡が現れる。

 

「魚雷、左前! 各艦、回避!」

 

 早波は二本の魚雷航跡が交わる前に、舵を切るように右へ急転進した。白い雷跡が旧進路を横切る。彼女はその外側へ加速して抜けた。涼波も進路を斜めに切り上げ、半身のままハ級の前方へ右腕砲を撃ち込んだ。

 

『カガリ4、ハ級二、健在!』

「了解! 藤波、中央を見て!」

『カガリ2、ヘ級を追ってる!』

 

 藤波は砲撃の合間に電探の接触を保った。リ級、ヘ級、ハ級二隻。水柱に紛れて見えなくなる影を電探で追う。

 

 リ級の左腕が閃き、藤波の進路へ赤い速射弾が降り注いだ。藤波は鋭く反転し、水柱の列を外側から回避する。その一瞬にリ級の右腕が持ち上がった。8inch砲は長良の次の針路を先読みしている。

 

 長良は即座に進路を左へ切り返した。初弾が直前の海面を抉る。だがリ級は、その回避方向に次弾を置いていた。躱しきれない。赤い爆光が左腰の艤装を直撃した。

 

 爆圧に弾き飛ばされ、長良の航跡が大きく乱れた。

 

「っ!」

 

 左腰の14cm砲が根元からひしゃげ、砲身が海面へ落ちた。

 

 長良は斜めへ流れる身体を立て直し、再び推力を掛けた。まだ走れる。右手の砲、腰部の残り三基、魚雷発射管も生きていた。

 

『カガリ1、被害は?』

「腰の砲、一基やられた! まだ走れるよ!」

 

 長良は残る推力を振り絞り、砲火の軸線から急速に離脱した。背後では赤い弾着が白い航跡を追い越していく。

 

 リ級は追撃しない。護衛の位置へ戻り、ヘ級とハ級二隻を背後から援護した。

 

 貨物を切り捨てた輸送群は、もはや撤退する気配を見せなかった。

 

「カガリ隊、再集合はしない。各艦、射線を分けて攻撃継続!」

 

 長良は沖側へ抜けながらリ級を牽制した。東へ流れる白い航跡と、敵を追う右手砲の向きが交差する。

 

 藤波と早波が反対側からヘ級を挟む。ヘ級は右腕砲で二隻の間を薙ぎ払い、赤い弾着で進路を分断した。藤波は外へ膨らみ、早波は内側へ切れ込む。二隻の航跡の間を、赤い砲火が貫いた。

 

 涼波だけが速力を落とさなかった。

 左前のハ級が早波を追った。口内砲は前方しか撃てない。獲物を照準線に入れようと、頭から胴体ごと早波へ振り向く。

 

『カガリ4、左のハ級を引き受ける!』

「お願い、涼波!」

 

 涼波が早波の左側から急加速し、ハ級の針路へ斬り込んだ。

 涼波は敵を横目に捉え、半身で伸ばした右腕砲を連射した。ハ級が慌てて船首を振る。その照準が追いつく前に涼波は横へ大きく切り返し、両腕の連装砲を正面へ揃えた。四門の砲火が水飛沫を突き破る。

 

 ハ級が大きく回頭し、ようやく涼波を正面に捉えた。裂けた口腔で二つの砲口が血色に燃える。赤い連装弾が、彼女の進路へ一斉に放たれた。

 

 涼波は発射の瞬間を待たず、ハ級の砲口が揃うや否や右へ鋭く急変針した。航走艤装が海面に白い扇を刻む。赤い二条は一瞬前までの航跡を撃ち抜き、水柱だけを残した。涼波はその外側から一気に再加速する。

 

 ハ級は追撃に移った。だが口内砲を撃つには、船首ごと涼波の走る先へ向けなければならない。涼波が左右へ鋭く進路を振るたび、ハ級の砲口の動きは後手に回った。

 

 涼波の後ろから煙幕が吹き上がった。

 北北西の風が煙幕を南東へ引き伸ばす。涼波は煙の壁に飛び込み、ハ級の正面から姿を消した。

 

 ハ級が煙幕へ向けて口内砲を撃ち込む。暗赤色の爆光が白煙を内側から染め、水柱が煙の壁を突き破った。その裏側では、涼波が大きな旋回を終えつつあった。砲火の届かない縁を疾駆し、敵が煙を撃ち続けるあいだに、その右側面へ躍り出る。

 

 ハ級がようやく胴体を振った。しかし口内砲の射界へ涼波を捉え直すより、彼女の右腕砲が早かった。

 

 涼波の右腕砲が先に火を噴いた。

 砲弾がハ級の航走部を直撃した。黒い破片が飛び散り、真っすぐだった航跡が蛇行する。

 

 涼波は間髪入れず左腕の砲も重ねた。

 ハ級は壊れた航走部を強引に振り、海面を大きく横へ流れた。旋回が遅れながらも、裂けた口腔が涼波の後方をかすめて向く。

 

 咽喉の奥で赤が弾けた。

 赤い連装弾が涼波の背後で炸裂する。水柱から飛び散った破片が後部の煙幕発生装置を引き裂き、背筋に鋭い衝撃が走った。白煙が途切れる。

 

「いたっ……!」

 

 涼波の進路が爆圧で外へ弾かれた。彼女は推力を掛け直し、膨らんだ旋回を鋭く立て直す。煙幕系統には故障表示。だが、両手の主砲も航走艤装も健在だった。

 

『カガリ4、後部損傷! まだ行ける!』

 

 ハ級が再び口を開く。だが、涼波の加速がそれを上回った。

 

 涼波はハ級の正面から一気に抜け、右側面へ食い込んだ。砲撃を追う敵の口が開き切るより早く、滑走する身体を敵へ正対させる。左右の連装砲を持つ両腕が真っすぐ同時に伸び、四門がほぼ一斉に咆哮した。

 

 砲弾がハ級の外殻を穿ち、傷ついた航走部を引き裂いた。海面へ傾いた敵が立て直すより早く、涼波は砲口を僅かに振って追撃する。次の斉射が黒い胴体に命中し、裂け目から白い爆光が噴き出した。

 

 閃光がハ級の艤装を包み、海面に倒れ込む。数メートルの航跡を残して停止し、そのまま沈んでいった。

 

『カガリ4、ハ級一、撃沈!』

「よし! 残り三!」

 

 長良は西へ疾駆し、リ級の8inch砲が狙いを先回りさせるたび、不規則に航路を振った。巨弾の爆光が前後左右で炸裂する。逃げ道を塞ぐリ級の予測射撃に、長良は速度と進入角を変え続けて対抗した。

 

 ヘ級が沖へ針路を取った。右腕の砲は藤波を向き、リ級は長良と涼波の間を速射砲で牽制している。

 

『カガリ2、敵三。ヘ級、沖側へ変針』

「全艦、いったん距離を取って! 次の雷撃を準備!」

 

 藤波は右腿の空になった発射管を見た。再装填には、砲撃から一度手を離さなければならない。

 

 藤波はヘ級へ右腕砲を向けたまま、沖側へ急変針して間合いを開いた。次の雷撃まで、数十秒を稼がねばならない。

 

 2221時。

 

 藤波が沖へ走ると、ヘ級の右腕が追ってきた。6inch連装速射砲の砲口が赤く脈打つ。

 

 初弾は遠い。次弾は進行方向を塞いだ。

 

 藤波は右へ針路を振り、着弾の列を斜めに断って抜ける。背後で海水が奔騰した。

 

『カガリ2、右舷発射管を再装填する』

「了解。こっちで敵を引きつける!」

 

 長良がリ級の正面へ飛び込んだ。損傷した左腰の砲は動かない。それでも右手の14cm砲を連射し、リ級の8inch砲を自分へ引きつける。

 

 リ級は追撃の角度を変えた。左腕の速射砲が海面に赤い弾着を刻み、長良を外側へ押しやる。長良はその列を見切って一段深く切り込み、敵の射線を後ろへ置き去りにした。

 

 藤波は右腿の四連装発射管艤装を前方へ向け、後端の装填口が開く。射撃姿勢ではない。次発装填の姿勢だ。

 

 右手の連装砲から指を離す。主砲は左肩から渡したスリングに吊られ、身体の脇へ収まった。左手の砲は保持したまま、右手を腰のポーチへ伸ばす。

 

 抜き取ったのは、魚雷の次発顕現術式を封じた呪符――「次発顕装符」。札の墨書きに、青白い燐光が走った。

 

 符文が光の糸となって札からほどけ、発射管の後方に四条の輪郭を描き始める。海霧めいた光の粒子がその内側へ集まり、魚雷の弾頭、胴、尾翼を順に編み上げていった。

 

 透き通っていた輪郭に鋼の色と重みが宿る。61cm酸素魚雷が四本、装填口の真後ろに浮かんだ。術式を使い切った札は、最後の燐光とともに消えた。

 

 艦娘は、人の姿に軍艦の魂――船霊を宿した存在だ。船霊には、その軍艦がかつて備えていた兵器や設備の機械的な仕組みも記憶されている。艦娘はそうした仕組みを、身につけた艤装を介することで、船霊の権能を用いて再現することができた。

 

 「艦娘」が「艦」であった頃、藤波たち夕雲型駆逐艦には、予備の魚雷をまとめて装填する「次発装填装置」が搭載されていた。艦娘としての姿にも、その機能が受け継がれている。呪符が四本の魚雷の顕現を補助し、船霊としての権能がそれらを一度に発射管へ装填する。

 

 これに対し、初春型より前の吹雪型など、かつて次発装填装置を持たなかった艦の艦娘は、呪符を使っても魚雷を一本ずつ顕現させ、ヒト部分の手で発射管へ装填しなければならない。砲撃や回避を続けながら何度も装填するのは難しく、戦闘中にはほとんど行えなかった。

 

 藤波は空いた右手を魚雷へ向け、掌を前へ押し出した。

 四本が一斉に走った。金属の胴が装填口へ吸い込まれ、ガシャン、と硬質な音が四重に響く。固定爪が噛み合い、魚雷は発射管の中に収まった。

 

 藤波は発射管を側方の射撃位置へ戻し、右手の連装砲を握り直した。左腿の四本は温存したままだ。

 

「カガリ2、右舷再装填完了!」

 

 海面を赤い連射が掃いた。

 藤波は急加速でその先を抜けた。ヘ級はなお沖へ逃れようとしているが、電探の反応は離れない。

 

 早波と涼波も敵の射線を外して間合いを取ると、それぞれ主砲をスリングに預け、ポーチから次発顕装符を引き抜く。青白い術式が四本ずつの魚雷を編み上げ、掌の一押しで発射管へ送り込んだ。

 

『カガリ3、右舷、装填完了!』

『カガリ4、右舷四本、装填完了!』

「ヘ級を先に沈めるよ。藤波、雷撃できる?」

『撃てる。照明が欲しい!』

 

 2222時。

 

 早波はヘ級を追いながら、左手の連装砲を肩のスリングへ預けた。空いた左手を、右手で持つ連装砲の後部へ伸ばす。

 

 連装砲の後部には、二つの砲身に対応するスロットがあった。普段そこに収まる「五号 通常弾用顕装符」は、発射する際に通常の砲弾を顕現させるための呪符が収められた、板のようなカートリッジ状の「弾薬」だ。早波は片方の押さえ金を開き、通常弾用顕装符を引き抜いて腰のポーチへしまった。

 

 ヘ級の砲火が近づく。早波はいったん手を止め、沖側へ大きく針路を振った。赤い6inch弾が直前の航跡を切り裂く。

 

 着弾を抜けると、早波は腰のポーチから別のカートリッジを取り出した。「照明弾顕装符」――照明弾を発射時に顕現させる術式を記した呪符だ。先ほど空けたスロットへ差し込み、押さえ金を閉じる。

 

 これで片方の砲身だけが照明弾用に切り替わった。もう片方は通常弾のままだ。

 

「カガリ3、照明射準備よし!」

 

 藤波は22号電探でヘ級を追っていた。反応は右へ流れ、次の走査で進路を戻す。単なる逃走ではない。こちらの雷撃を警戒し、細かく針路を変えていた。

 

「カガリ3、ヘ級の進路前方へ照明射!」

『はい、撃ちます!』

 

 早波は右腕の連装砲を上空へ向けた。左腕の砲はスリングに預けたまま、走りながら照準を取る。照明弾用に切り替えた一門が、術式で顕現した砲弾を夜空へ撃ち出した。

 

 短い砲声のあと、夜空の一点が弾けた。

 照明弾が開傘した。白い光が夜空から降り、月光だけでは墨色に沈んでいた海域が突如として浮かび上がる。ヘ級の右腕砲、濡れた艤装の角、旋回で剥がれる飛沫までが、白い光の下でくっきりと輪郭を得た。海面を横切るその影は長い。暗がりに隠れていた敵の運動が、今や藤波の電探上の反応と重なっていた。

 

 同時に、発光点は早波の射撃位置も敵へ知らせた。

 ヘ級の右腕が彼女を指した。血色の砲火が連続する。

 

「早波、離れて!」

『はいっ!』

 

 早波は照明の下を横切るように急転進した。砲弾がその後ろで炸裂し、白い水柱を内側から赤く染めた。

 

 藤波はヘ級へ距離を詰めていた。照明弾で見える姿と電探上の運動が一致する。

 

 ヘ級が右へ変針した。

 藤波は追いかけない。むしろ前方を横切り、左へ旋回して右腿の発射管を敵の進路上へ向けた。

 

 撃つべき場所は、そこだ。

 

『カガリ2、雷撃!』

 

 右腿の四連装発射管が開いた。顕現し直した四本の酸素魚雷が続けざまに海中へ沈み、薄い航跡を曳いて走り出す。藤波は射出と同時に変針し、ヘ級の射線から離脱した。四条の雷跡は照明下で読んだ進路の先へ、逃げ道を塞ぐように広がっていった。

 

 ヘ級が魚雷を認め、急激に針路を変えた。最初の一本が艤装の前を抜ける。敵はもう一段深く旋回して二本目をかわそうとしたが、身体を傾けたぶん航走部が外側へ流れた。そこに三本目の白い航跡が交差する。ヘ級の右腕砲が藤波を追いかけたまま、射撃する間もなく魚雷が横腹へ食い込んだ。

 

 閃光。

 

 ヘ級の後部が跳ね上がり、艤装の腹で爆発が連鎖した。右腕の速射砲が空を向き、赤い発砲光が一度だけ虚空を裂く。

 

 次の瞬間、ヘ級は水柱に呑まれた。

 

 2223時。

 

『カガリ2、ヘ級撃沈。電探反応消失』

「ヘ級撃沈、確認! 残りはハ級とリ級!」

 

 照明弾の光が弱まり、海は再び月夜の暗さへ戻っていく。

 沖側にハ級一隻。後方では、赫黒い燐光を纏ったリ級がなお健在だった。

 

 藤波は再び進路を変え、早波の位置を確かめた。

 

『カガリ3、異常ありません! 次も行けます!』

「早波、リ級の砲口にも気をつけて!」

 

 リ級の右腕が、ゆっくりと早波へ向いた。

 

 2224時。

 

 照明弾は消えかけていた。海面が再び暗さを取り戻す中、早波へ向けられたリ級の砲口だけが赤く灯っている。

 

 早波は右手の連装砲を引き寄せ、左手で照明弾用の顕装符を抜いた。ポーチへしまっていた通常弾用顕装符を元の札差しへ戻し、固定する。左手の砲も握り直すと、沖側へ針路を振り、半身でリ級へ右腕砲を向けて牽制した。

 

 しかし、リ級は撃たない。

 

『カガリ3、後方のハ級が接近!』

 

 藤波の警告と同時に、残るハ級が早波の前方へ斬り込んできた。口腔の奥には赤い砲口光。早波を正面射界に収めようと、艤装ごと大きく回頭する。

 

 早波は左へ急転進した。右腿の四連装発射管が側方へ開く。

 

「カガリ3、ハ級へ雷撃!」

 

 二本の酸素魚雷が射出された。敵を沈めるためではない。進路の前方を塞ぎ、突進を断ち切るための雷撃だった。

 

 ハ級は即座に外側へ針路を振った。白い雷跡がその前を走り抜け、早波との距離が開く。

 

 その一瞬を、リ級は待っていた。

 左腕の速射砲が吠えた。赤い弾着が早波の前方に並び、逃げ道を細く絞る。

 

 早波は外へ抜けようとした。だが、先ほどの左回頭で残った横方向の速度が、彼女をリ級側へ押し戻す。

 

 右腕の8inch三連装砲が閃いた。

 

『早波、左!』

 

 藤波の声が届いたときには、早波も砲口を見ていた。咄嗟に進路を切り返す。初弾の赤い軌跡が前を抜けた。

 

 次弾は、その切り返し先に置かれていた。

 爆光が左側で炸裂する。

 

「きゃっ……!」

 

 左手の12.7cm連装砲が砲架ごと砕け、左腿の四連装発射管が破片を撒き散らして吹き飛んだ。燃える艤装片が次々と水面へ落ち、残った左側の装備から青白い火花が散った。

 

 早波は大きく弾かれた。航走艤装が水面を掴み損ね、航跡が不規則に蛇行する。

 

 左側の姿勢制御が応答しない。右手の砲は生きている。右腿の発射管も残った。だが、加速しても以前ほど速度が上がらない。

 

『カガリ3、中破! 左砲、左雷装喪失……航走は可能です!』

『早波!』

「お姉ちゃん、まだ走れます!」

 

 早波は右腕の砲を構え直した。しかしその直後、海面にハ級の白い航跡が迫った。

 

 雷撃を避けていたハ級が反転してきたのだ。

 口を大きく開き、5inch連装砲を正面へ向ける。速度を失った早波なら、もう大きく回頭しなくても狙える。

 

 赤い砲火が走った。

 早波は右へ避けたが、弾着が進路を塞ぐ。再加速を試みても、損傷した航走部が追いつかない。

 

 ハ級はさらに間合いを詰める。

 

「早波、後退!」

 

 長良がリ級の火線を振り切って割り込んだ。損傷した腰部艤装をかばう余裕もなく、早波とハ級の間へ斜めに突入する。航走艤装が海を深く切り、吹き上げた飛沫が一瞬、二隻の視界を遮った。水煙を突き破って現れた長良は、もう右手の14cm砲を敵へ据えていた。

 

 右手の14cm砲が咆哮する。

 ハ級が口内砲を長良へ向け直す。だが前方へしか撃てない砲では、高速で側面を駆け抜ける長良を追い切れない。

 

 長良はハ級の右舷側へ回り込み、残存する腰部14cm砲を次々に発射した。砲弾が側面の魚雷発射管を捉え、黒い破片と火花を撒き散らす。さらに航走部へ一発。硬い衝撃が艤装の下を突き抜け、敵が刻んでいた白い航跡は不格好にねじれた。

 

 ハ級の進路が大きく崩れた。白い航跡が乱れ、身体が外側へ流れる。

 

 なおもハ級は長良へ頭を向けようとする。

 その背後へ、長良は鋭く切り返した。

 

「早波の方には行かせない!」

 

 右腕の14cm砲を真っすぐ据える。損傷した腰部艤装が揺れるのも構わず、急加速のまま距離を詰めた。

 

 発砲。

 砲弾がハ級の胸部を貫き、内部で爆ぜた。敵の口から赤い火が漏れる。もう一射。航走部が砕け、ハ級は勢いを失って横倒しになった。

 

 長良は爆発を背に滑走を続けた。

 

『カガリ1、ハ級撃沈!』

 

 2225時。

 

 残る敵はリ級一隻。

 長良は早波の位置を確認した。藤波がそばへ寄り、涼波はリ級との間に入っている。

 

「早波、後ろに下がって! 右の砲だけでいい!」

『右の砲で援護します!』

 

 早波は速力を落とし、右手の連装砲を持ち上げた。左側の艤装からは、黒い煙が上がっている。

 

 その前方で、リ級がゆっくりと針路を変えた。

 赫黒い燐光は衰えない。右腕の砲も、左腕の速射砲も健在だった。

 

 長良は左腕の探照灯を確かめた。

 消灯したまま、次の機会を待つ。

 

 2226時。

 

 リ級の左腕が閃いた。6inch速射弾が海面に赤い弾着を連ね、接近する長良と涼波を引き離す。

 

 その間を、右腕の砲が貫いた。

 長良は射線の外へ大きく転じた。砲弾が前方で炸裂し、押し寄せた水の壁が航跡を呑み込む。反対側へ回った涼波にも速射弾が迫った。

 

「あいつ、二隻を別々に狙ってる!」

『カガリ2、電探で追ってる。針路、北東へ変化!』

 

 藤波はリ級の外側を走りながら、電探の反応を離さなかった。海面には月の反射が散り、赤黒い燐光をまとった敵の輪郭さえ水柱の陰では途切れる。

 

 早波は後方へ退き、右手の連装砲を構えていた。左側の損傷が速度を奪っている。だが、砲口を向けることはできる。

 

『カガリ3、援護します!』

 

 早波の右手の連装砲が火を噴いた。砲弾はリ級の前方へ落ち、進路をわずかに変えさせる。

 

 その隙に長良が内側へ切り込んだ。

 

「涼波、リ級の足を狙って!」

『右から回り込む!』

 

 涼波は右へ広がり、リ級の側面を取った。半身から右腕砲を撃つ。弾は肩の装甲を叩いたが、赫黒い光の奥で弾け、致命傷には至らない。

 

 リ級が左腕を涼波へ振った。

 長良はその瞬間、左腕を伸ばした。

 探照灯のシャッターが開く。

 

 白い光柱が夜の海を真正面から斬り裂いた。月明かりの下では曖昧だったリ級の姿が、一瞬で黒と白の鮮烈な輪郭を得る。赫黒い燐光が照射光に滲み、右腕の三連装砲と左腕の連装速射砲の砲身が鈍く反射した。濡れた艤装の継ぎ目、波を噛んで推力を生む航走部――そこまでが、暗闇から暴き出される。

 

 長良には見えた。リ級の片側の航走部が、回頭のたびに一瞬だけ外へ露出する。

 

「涼波、右下!」

『見えた!』

 

 探照灯はすぐ消えた。

 だが光は長良の位置も教えていた。リ級の右腕砲が反転する。三つの砲口に赤い火が宿った。

 

 長良は照射地点から一気に離脱した。リ級の右腕が彼女を追って旋回し、三連装砲が赤い火を噴く。かつて長良のいた海面が立て続けに爆砕され、水柱が追撃するように並んだ。長良はその外縁を斜めに駆け抜け、敵が再び照準を取り直す前に、涼波のための射線を開いた。

 

 涼波はその爆煙の外側を疾駆した。リ級へ正対し、左右の連装砲を揃える。

 

 四門の斉射。

 砲弾が露出した航走部の近くで炸裂した。金属片が舞い、リ級の進路に一瞬の乱れが生じる。

 

 しかし敵は速い。推力を掛け直すと、直ちに向きを変えた。右腕の8inch砲が涼波へ、左腕の速射砲が藤波へ向く。

 

 赤い弾幕が二手に裂けた。

 藤波は外側へ急転進した。8inch砲の爆風が涼波を押し流し、速射砲の弾着が藤波の前を塞ぐ。

 

 藤波は速度を落とさず切り返した。至近弾の破片がゴーグルを叩く。

 

「っ!」

 

 片側のレンズに亀裂が走り、艤装の外板が削れた。それでも電探の反応は途切れない。

 

『カガリ2、電探生きてる!』

「よし、追い込むよ!」

 

 長良はリ級の左側へ進出した。右手の砲で牽制しながら、残る腰部砲を敵の進路前方へ撃ち込む。

 

 リ級は砲弾の間を縫い、長良の外側へ抜けた。重砲が振り返り、赤い三連射が後を追う。

 

 長良が大きく旋回して離れる。

 その先に、涼波がいた。

 

 2227時。

 

 涼波は長良の砲火を追うリ級を見据えていた。敵が大きく針路を振るたび、航走部の損傷しかけた片側が波面から顔を出す。まだ決定打には遠い。だからこそ、涼波は敵が長良へ向き直る、その短い隙だけを待った。

 

 涼波は速度を上げ、リ級の横腹へ斬り込んだ。

 

「今だ!」

 

 涼波は全身をリ級へ正対させ、両腕の連装砲を真っすぐ突き出し、四つの砲口が一点へ収束する。四門の砲口炎が同時に咲き、砲声がひとつの重い轟音となって夜気を打った。

 

 斉射弾が航走部へ集中した。第一弾が外板を跳ね飛ばし、続く着弾がその内側を抉る。黒い艤装の下で爆発が連鎖し、推進機構の一部が鈍い金属音とともに千切れ飛んだ。リ級の体が横へ流れ、海面に引いていた航跡が乱暴に折れ曲がる。

 

 敵はなお走る。だが、急変針するたび外側へ大きく膨らみ、以前のように速度を戻せない。

 

 それでも8inch砲は健在だった。赤い砲口が涼波を追う。

 

 涼波は追撃を欲張らず、外へ離れた。直後、砲弾がその航跡を撃ち砕いた。

 

『カガリ4、航走部に命中! 速力が落ちた!』

 

 藤波は電探上の反応を見た。旋回半径が広がっている。今なら、進路を限定できる。

 

「カガリ2、左舷四連装、使う!」

「私が反対から行く!」

 

 長良が応えた。

 およそ十秒後。

 藤波はリ級の右前方へ回り込み、敵を自分の左側へ捉えるように大きく針路を振った。初撃から温存していた左腿の四連装発射管を開く。傷ついたリ級が向かう先を読み、左舷側の射界にその未来位置を収めた。

 

 リ級は藤波へ左腕砲を振る。

 藤波は発砲を待たずに弾着予測線から外れた。敵を左舷側へ置いたまま弧を描き、発射管の角度が揃う瞬間を捉える。

 

『カガリ2、雷撃!』

 

 左腿の四連装発射管から、四本の酸素魚雷が相次いで海中へ躍り込んだ。夜の海を走る薄い雷跡が扇状に開き、リ級の進路前方へ迫る。藤波は射出直後に大きく外へ離脱し、電探で敵の回避方向を追った。雷撃の狙いは命中だけではない。その進路を、長良の方へ押し出すことだった。

 

 リ級は航跡を認めると、傷ついた航走部を強引に回した。最初の魚雷は外れる。二本目も、艤装の前を抜けた。

 

 だがその回避で、リ級は長良へ側面をさらした。

 長良はリ級の後方を大きく回り込んでいた。斜めに進路を開いて敵を自分の左舷側へ置く。未使用の左腰二連装発射管が、ようやく射界へ入った。

 

 右手の砲で一射。リ級が向き直ろうとしたところへ、長良はさらに外側へ進路を開いた。

 

 敵の左腕速射砲が赤い火を吐く。弾着は長良の内側を走った。長良は止まらず、航跡を大きく広げて砲火を振り切る。

 

「雷撃、始め!」

 

 長良の左腰で二連装発射管が作動した。初撃から温存していた二本が、左舷正横を横切るように海へ躍り出る。長良が速度を保って敵の側面を抜ける間、二条の雷跡が損傷したリ級の進路へ伸びた。もはや敵の速度を上回る必要はない。鈍った回頭の先を塞げばよかった。

 

 リ級は避けようとした。重砲を長良へ向けたまま、損傷した航走部へ無理に推力を掛ける。

 

 だが、身体は以前ほど速く回らない。

 

 一発目が艤装の下を抜けた。

 

 続く二発目が、遅れて傾いたリ級の側面へ突き刺さった。鈍い衝撃で敵の巨体が持ち上がり、黒い艤装の奥から白い閃光が噴き出す。海面に衝撃が走り、崩れた航跡が爆発の波に掻き消された。

 

 爆発が艤装の内側へ走り、黒い外殻を継ぎ目から引き裂いた。リ級はなお右腕の砲を長良へ向けていた。左腕の速射砲も健在だったが、もう射撃の姿勢を保てない。三つの砲口の奥で赤い光がひときわ強く脈打ち――次の瞬間、力尽きたように消えた。

 

 赫黒い燐光が裂け、火の粉のような光となって空中へ散った。月光に濡れた白い人型が一瞬だけ浮かび上がる。やがてその姿は砕けた艤装とともに水中へ沈み、赤黒い残光も波間へ消えていった。そこには、荒れた水面と途切れた航跡だけが残った。

 

 2229時。

 

『カガリ2、リ級反応消失』

 

 長良はなお減速しなかった。爆心を離れ、四隻の位置を一つずつ確かめる。

 

「全艦、警戒続行。敵影を確認して!」

 

 藤波の電探に新たな反応はない。早波も後方から右腕の砲を構え、涼波は砲口を海面へ向けたまま周囲を旋回していた。

 

 五隻目の敵影が消えたあとも、夜の海には四条の白い航跡が伸びていた。

 

 2230時。

 

 長良はようやく速度を落とした。四隻は散開したまま、最後の爆心を警戒しつつ間合いを取る。

 

「カガリ隊、状況報告!」

『カガリ2。電探正常、ゴーグル破損。艤装外装に軽損、航走できます!』

『カガリ4。煙幕装置をやられた。小破、砲と航走は無事!』

『カガリ3、中破。左砲と左舷雷装喪失、速度低下。自力で帰れます!』

 

 長良は三隻の位置を確かめた。最後尾の早波だけが、航跡を短く乱している。

 

「カガリ1、小破。腰部主砲一基使用不能。全艦、帰投可能!」

 

 藤波が早波のそばへ寄った。

 

「早波、無理して速度上げなくていいからね」

『はいっ。お姉ちゃんも、ゴーグル割れてますよ』

「こっちはレンズだけだよ。早波こそ、無理しないで」

 

 長良は通信機の送信スイッチを押した。

 

「ミサゴ、こちらカガリ1。敵五、全隻撃沈。味方四、生存。カガリ3中破、他は航走可能。送れ」

『カガリ1、こちらミサゴ。敵全滅、四隻生存、カガリ3中破、了解。収容準備に入る。送れ』

「もう一点。敵は交戦初期に容器七本を投棄。落下位置の概略と時刻を記録した。海中捜索班へ引き継ぎを要請する」

『了解。記録を受領後、作戦統制所へ中継する。危険貨物には接近しないこと。合流点は予定どおり。送れ』

「了解。カガリ隊、帰投します。終わり」

 

 藤波は電探による敵の最終位置と、投棄時に記録した方位・距離・時刻を照合した。四隻が確認した落下順を合わせ、推定落下海域と記録の一式をミサゴへ送信する。夜間の目測には誤差があるが、海底捜索の範囲は絞れる。

 

 七本はいまも、海の底にあるはずだった。

 長良は岸の方角を一度だけ見た。集落の灯りは水平線の向こうで、ここからは見えない。

 

「よし、帰ろう! 早波に合わせて、速力落とすよ!」

 

 四隻は隊列を組み直した。先ほどまで敵を追っていた海面を離れ、晴洋丸との合流点へ向かう。

 

* * *

 

 2014年11月3日、2312時。

 鹿島灘北部、第十七晴洋丸。

 月明かりの下、船尾に小さな作業灯が灯っていた。晴洋丸は収容のために速力を落とし、船長の指示で船尾斜路を海面へ下ろす。甲板員たちが手すり沿いに並び、整備員と衛生員が待機していた。

 

 長良が先に斜路へ進入した。波に揺れる船尾の動きを見計らい、航走艤装の推力を絞って登る。甲板に上がると、振り返って三隻へ手を振った。

 

 続いて涼波が収容された。

 

「ただいま! 後ろの煙幕装置、あとで見てくれない?」

 

 整備員が主砲の安全状態を確認し、艤装を固定する。

 次は早波だった。

 藤波は海上で早波の右側へ付き、船尾までの進入線を一緒に確かめた。早波の左側は推力が不安定で、船尾へ正対するまでに少し時間がかかった。

 

『早波、そのまままっすぐ。船尾が下がるまで待って!』

「はいっ!」

 

 藤波が斜路から距離を取る。

 船尾が波に合わせて持ち上がった。早波は無理に踏み込まず、いったん速度を緩めた。次に船尾が下がる瞬間、残った右側の航走艤装へ慎重に推力を掛ける。

 

 滑走面が斜路を捉えた。

 左へ傾きかけた身体を長良が甲板側から支え、整備員が艤装の支持具を確保する。早波は最後の一歩を踏み出し、甲板へ上がった。

 

「……着きました!」

「おつかれさま、早波!」

 

 長良の声に、早波は少し照れたように笑った。

 最後に藤波が斜路を登る。四隻の収容を確認すると、船長の指示でフラップが引き上げられた。

 

 作業区画には暖房が効いていた。濡れた艤装を整備員へ引き渡すと、衛生員が早波の左側を確かめ、簡易固定を施していく。

 

「いたた……今日は、ちょっと難しかったなあ」

「ちょっと、じゃないでしょ」

 

 藤波が割れたゴーグルを外した。

 

「でも、お姉ちゃんの雷撃、すごかったです」

「早波の照明があったからだよ。あれ、助かった!」

 

 早波は嬉しそうに頷いた。

 涼波が二隻を覗き込む。

 

「みんな戻れたしさ。……それにしても、あー、お腹すいた!」

 

 長良は四隻を見回した。損傷した艤装も、ここへ持ち帰れた。

 

「うん。みんな、おつかれさま!」

 

 作業区画の扉が開き、佐伯二等海尉が入ってきた。無線で受け取った戦闘経過と投棄位置の記録を持ち、整備員の作業が落ち着くのを待っていた。

 

「四名の収容を確認した。危険貨物の捜索は、こちらから回収担当へ引き継ぐ」

 

 長良が頷く。

 

「お願いします!」

 

 海の向こうではまだ、七本の容器が沈んでいる。

 けれど今夜、それを沿岸まで運ぶ敵はいなくなった。

 

* * *

 

【戦闘概説】

 

 2014年11月3日夜、鹿島灘北部で実施された輸送戦闘群迎撃により、深海棲艦五隻(駆逐ハ級三隻、軽巡ヘ級一隻、重巡リ級速射砲搭載型一隻)は全隻撃沈された。艦娘側は長良改、藤波、早波、涼波の四名全員が帰投。長良改と涼波は小破相当、早波は中破、藤波は艤装外装に軽損を生じた。

 

 輸送個体四隻は交戦初期、艤装搭載型密閉輸送容器計七本を海中へ投棄した。投棄時刻と推定落下海域は第十七晴洋丸を通じて作戦統制所へ報告され、海上自衛隊の掃海・水中処分部隊による海底捜索と、特異災害庁の専門職員による回収物の危険評価・封緘作業に引き継がれた。容器の正確な回収数と内容物の全容は、当時なお調査中であった。

 

 特異災害庁は、沿岸集落で発生していた幻聴、見当識の異常、夜間徘徊などと、既に隔離された祭具との関連を引き続き調査した。今回の追加搬入が実現した場合、人口約百人の疑い区域で認識災害が拡大する危険があったと評価されている。ただし、その発現条件と深海側の意図は解明されていない。

 

 本迎撃は敵輸送群の撃滅によって追加搬入を阻止し、残された危険貨物を専門部隊が処理するための端緒となった。

 

* * *

 

【設定解説】

 

《艦娘母艦》

 

 「艦娘母艦」とは、艦娘とその艤装を運び、戦闘海域へ送り出し、帰ってきた艦娘を収容・整備する船を指す。艦娘自身が戦場で戦えるとはいえ、作戦海域までの移動、装備の点検、通信、食事や休養、負傷時の救護まで、すべてを彼女たちだけで行うわけではない。輸送船と整備支援船を一隻にまとめたような存在である。

 

 本話に登場した「第十七晴洋丸」は、海上自衛隊が民間のまき網漁船を取得・改造した艦娘母艦。正式な区分は「特殊海上顕現員運用支援船(改装型)」、作戦での無線呼出名称は「ミサゴ」。船体は灰色に塗装されているが、漁船だった頃の形状が残っている。

 

 船体は40m台、199総トン級を想定した小型の鋼船で、ディーゼル機関によって航行する。計画値では、最高速力は約15ノット、経済速力は約10ノット、航続距離は約1,500海里で数日間の短期任務に向く規模。

 

 重要なのは船尾の設備である。元のまき網漁船には、網を扱う小型艇を船尾から出し入れするための斜路があった。晴洋丸ではこれを艦娘用に改修し、滑りにくい床面、海面まで下がる可動フラップ、接触防止の設備などを設けている。四隻はここを一隻ずつ下って海へ出撃し、帰投時には自分の足で斜路を上って収容される。

 

 船内には艤装の着脱・簡易整備区画、工具や補用品の保管場所、通信設備、居住・食事のための設備がある。航海、機関、甲板、通信、整備、衛生などを担当する人間の乗員・支援要員も必要だ。ただし、当然本格的な工廠や大きな鎮守府を丸ごと積んでいるわけではない。晴洋丸自体も非武装で、敵艦との直接交戦はできない。艦娘を発進させた後は安全海域へ離れ、連絡と収容の準備に徹する。

 

 こうした改装母艦が使われているのには、時代的な事情もある。本作の2014年は、日本が艦娘を初めて実戦投入した2013年4月からまだ日が浅い時期であり、専用母艦を十分に建造する余裕はなく、深海大戦によって沿岸警備や救難に使える船舶も不足している。既存の船を改装して運用を始めた過渡期ならではの装備である。

 

《呪詛攻撃》

 

 深海棲艦の脅威は、砲弾や魚雷だけではない。深海棲艦は、人間の身体や周囲の環境だけでなく、記憶、感覚、ものの見え方にも異常を起こす呪詛を用いる。これらは便宜上、超常的な汚染や認識災害として扱われる。

 

 たとえば、実際には誰もいないのに知人の声が聞こえる、よく知った道の向きが分からなくなる、家にいるはずなのに別の場所へ来たように感じる、眠っている間に同じ夢を見る、理由もなく夜の海へ歩いていこうとする、といった現象である。本人にとっては自然な記憶や感覚のように思えることもあり、単純に恐ろしい幻を見るだけの攻撃ではない。深海由来の汚染にはほかにも異常な雨や霧などの現象があるが、何がどの経路で作用するのかは一様ではない。

 

 今回、海上自衛隊が阻止しようとしたのは「逆塞」と呼ばれる呪術への追加の物資搬入だった。「逆塞」は、ひとつの爆弾や一個の呪物の名前ではない。複数の祭具を集落のいくつかの場所に置くことで、広い範囲に異常をもたらすと考えられている呪術全体の仮称。名前や意匠には、土地や集落の境界を守る日本の祭祀を逆転させたような性質がある。

 

 その構成物として、「黒幣」「逆形代」「逆鎮石」がある。黒幣は神社の幣束や紙垂に似た黒い祭具で、異常な作用をその土地に結び付ける。逆形代は人の形を模した祭具で、人の記憶や自己認識に関わる。逆鎮石は黒い石状の祭具で、異常が及ぶ区域の境界を固定する。

 

 作戦前に回収されていたのは、港の倉庫から発見された黒い幣束状の祭具一つだ。これを隔離した後、異常の報告が減ったため、特異災害庁は祭具と沿岸の症状の関連を疑った。しかし、逆塞を完成させるための祭具の必要個数、配置の法則、発動条件はまだ不明である。

 

《艦娘の艤装》

 

 艦娘は、人の姿に軍艦の魂である「船霊」を宿した存在。身につけている「艤装」は、単に昔の軍艦の大砲をただスケールダウンした機械ではない。船霊の力と、現代の機械技術・祭祀技術を組み合わせ、かつてその艦が持っていた兵器の働きを再現する装備である。

 

 その中心にある仕組みを「顕装」と呼ぶ。普通の砲なら、装填した砲弾の後ろで火薬を燃やし、その圧力で砲弾を撃ち出す。しかし艦娘の砲撃は、これを小型の機械の中でそのまま行っているわけではない。顕装符に込められた「弾薬」を触媒として、艤装と船霊を通じ、砲弾の出現、発射、飛翔、着弾といった「砲撃という現象」を現実に成立させる。魚雷の場合も同様に、魚雷の実体やその航走・命中を伴う「雷撃という現象」を顕装する。

 

 ここで触媒として用いられる「弾薬」とは、物理的な砲弾や火薬そのものではなく、顕装符に込められた霊力を指す。艦娘が砲撃や雷撃によって「弾薬を消費する」とは、顕装の成立に伴い、その霊力を消費することを意味する。実際に砲弾が飛び、反動が生じ、海面に水柱が立ち、魚雷が爆発する一方、それに必要な物質やエネルギーがどこからどのように供給されたかは、既知の熱力学や通常のエネルギー収支では説明できない。「科学で説明できる魔法」というより、観測できる結果を技術的に扱おうとしている段階に近い。

 

「顕装符」は、どの種類の砲弾や魚雷を、どのような手順で実体化させるかを指定する術式を記し、顕装の触媒となる霊力を込めた札。早波が使用した「通常弾用顕装符」は通常の砲弾用、「主砲用照明弾顕装符」は照明弾用である。主砲後部の札差しを交換することで、左右の砲身のうち一門だけを照明弾に切り替えられる。札は物理的な弾倉ではなく、中に照明弾が詰め込まれているわけではない。

 

 もちろん、「何も持たず、何の制約もなく無限に撃てる」という意味ではない。艦娘自身と船霊の状態、艤装の機構、顕装符に蓄えられた霊力の残量、戦闘中の負荷などが運用を制限する。

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