転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある   作:1番道路

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第十一話 地区交流大会、広がる才能の噂

 市内大会で優勝してから、約一か月。

 

 俺たち桜台フェニックスは、新たな大会に出場することになった。

 

 地区少年野球交流大会。

 

 市内だけでなく、周辺の市町村からもチームが参加する大会だ。

 

 参加チームは全部で十六。

 

 つまり、優勝するには四試合を勝ち抜く必要がある。

 

 もっとも、俺としては試合数が多い方がありがたい。

 

 何しろ、試合に出れば経験点が手に入るのだから。

 

 それも強豪との試合なら、獲得できる経験点が増える。

 

 前回の市内大会では、優勝報酬や大会MVPの報酬も合わせて、相当な経験点を獲得できた。

 

 おかげで現在の所持経験点は八千ポイント近くある。

 

 もっとも、その大部分は温存したままだ。

 

 理由は簡単。

 

 身体の成長制限である。

 

 現在、俺は小学一年生。

 

 六歳だ。

 

 いくら経験点を大量に持っていても、身体が成長しなければ能力を大幅に強化できない。

 

 特に球速とパワー。

 

 この二つは年齢による制限が厳しい。

 

 現時点での最高球速は七十四キロ。

 

 強化上限は七十五キロ。

 

 パワーもG20で、まだまだ成長途中だ。

 

 もちろん、六歳としては十分すぎる数値なのだが。

 

 それでも、俺が目指しているのは史上最強の二刀流選手だ。

 

 こんなところで満足するわけにはいかない。

 

 いずれは百七十キロを超えるストレートを投げ、年間六十本以上のホームランを放つ。

 

 打率四割だって達成してみせる。

 

 そのためには、まだまだ成長が必要だった。

 

 そして現在。

 

 俺は地区交流大会の会場へ向かう車の中にいた。

 

「悠真、緊張してないか?」

 

 運転席から父さんが尋ねてきた。

 

「大丈夫!」

 

「そうか。今日は初めて対戦するチームばかりだからな」

 

「楽しみ!」

 

「ははは! 頼もしいな!」

 

 父さんが笑う。

 

 助手席の母さんも微笑んでいた。

 

「でも、無理はしちゃ駄目よ?」

 

「分かってる!」

 

「特にピッチャーをやるときは、監督の言うことをちゃんと聞くのよ」

 

「うん!」

 

 心配してくれるのはありがたい。

 

 俺自身、身体の管理にはかなり気を遣っている。

 

 何しろ、転生特典としてパワプロ育成システムを貰ったとはいえ、身体そのものは生身の人間だ。

 

 無茶な投げ込みをすれば肩や肘を痛める可能性がある。

 

 それでは元も子もない。

 

 俺が目指しているのは、小学生の大会で無双して終わることではない。

 

 高校野球。

 

 日本プロ野球。

 

 そしてメジャーリーグ。

 

 何十年という野球人生を見据えているのだから。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 大会会場に到着した。

 

 市内大会で使っていた球場よりも、少し大きなグラウンドだった。

 

 すでに複数のチームが集まっており、あちこちでキャッチボールや打撃練習が行われている。

 

「うわー! すげえ!」

 

 大地が興奮した声を上げた。

 

「チームがいっぱいだ!」

 

「そうだね」

 

「悠真、あっち見ろよ!」

 

「ん?」

 

 大地が指差した方向を見る。

 

 そこには、青いユニフォームを着たチームがいた。

 

 背中には『SEIRYO』の文字。

 

 その選手たちは、非常に統率の取れた動きでウォーミングアップをしていた。

 

 整列。

 

 準備運動。

 

 ランニング。

 

 そしてキャッチボール。

 

 どの動きにも無駄が少ない。

 

(……へえ)

 

 なかなか面白いチームだ。

 

 市内大会で対戦した南城タイガースや東山レッドソックスも強かったが、あのチームはまた違う雰囲気を持っている。

 

 選手一人一人の技術だけでなく、チーム全体の完成度が高そうだった。

 

「悠真、あれが今日の相手らしいぞ!」

 

「そうなの?」

 

「うん! 青陵ブルーウイングスっていうんだって!」

 

 青陵ブルーウイングス。

 

 なるほど。

 

 名前は覚えておこう。

 

 そのとき。

 

『ピロン♪』

 

 聞き慣れた電子音が頭の中に響いた。

 

――――――――――――――――――

 

【公式戦イベント発生】

 

『地区交流大会・初戦』

 

 対戦相手:

 

 青陵ブルーウイングス

 

 対戦相手評価:A

 

【チーム特性】

 

 守備力:高

 

 走塁力:高

 

 連携:非常に高

 

 打撃力:中

 

 投手力:高

 

【特別目標】

 

・初戦突破

 

・打撃で勝利に貢献する

 

・守備または投球で勝利に貢献する

 

【追加報酬】

 

 強豪チーム補正

 

――――――――――――――――――

 

(……おお)

 

 相手評価A。

 

 いきなり強豪らしい。

 

 しかも、チーム特性まで表示されている。

 

 これまでの対戦相手とは違うタイプだ。

 

 東山レッドソックスは打撃力が突出していた。

 

 南城タイガースはエースの能力が高かった。

 

 しかし、青陵ブルーウイングスはチーム全体の完成度が高いらしい。

 

(これは面白そうだな)

 

 俺は自然と笑みを浮かべた。

 

 個人能力が高い相手も強敵だが、組織的な野球をする相手も厄介だ。

 

 特に少年野球では、走塁や守備の連携が勝敗を分けることも多い。

 

 さて、どんな試合になることやら。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 一方、その頃。

 

 青陵ブルーウイングスのベンチでは、監督とコーチが対戦相手の情報を確認していた。

 

「桜台フェニックスですか」

 

「ああ。市内大会で優勝したチームだ」

 

「今年は随分強いらしいですね」

 

「そうだな。ただ、気になる選手がいる」

 

 監督は手元の資料を見た。

 

「朝倉悠真。小学一年生」

 

「一年生?」

 

 コーチが眉をひそめた。

 

「四年生以下の大会ですよね?」

 

「ああ」

 

「一年生がベンチ入りしているんですか?」

 

「それだけじゃない。三番打者らしい」

 

「……は?」

 

 コーチは思わず聞き返した。

 

 小学一年生。

 

 六歳。

 

 その年齢で四年生中心の大会に出場すること自体、決して一般的ではない。

 

 ましてや三番打者。

 

 普通なら考えられないことだった。

 

「しかも、市内大会では全試合で三安打を記録したらしい」

 

「全試合?」

 

「ああ。四試合で十二打数十二安打だそうだ」

 

「……本当ですか?」

 

「記録上はな」

 

 監督は苦笑した。

 

「さらに投手としても登板している」

 

「二刀流ですか」

 

「そういうことになるな」

 

 コーチは腕を組んだ。

 

「でも、一年生ですよね?」

 

「だからこそ気になるんだよ」

 

 監督は資料を閉じた。

 

「とにかく、油断するなと選手たちには伝えておこう」

 

「分かりました」

 

 もちろん、二人とも半信半疑だった。

 

 小学一年生が四年生を相手に十二打数十二安打。

 

 それだけでも信じ難い。

 

 さらに投手としても活躍しているというのだから。

 

 だが、実際に試合を見れば、その疑問は解消されることになる。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「集合!」

 

 田島監督の声が響いた。

 

 俺たちはベンチ前に集まる。

 

「今日の相手は青陵ブルーウイングスだ。かなり守備のいいチームだから、簡単には点が取れないと思う」

 

 監督は全員の顔を見渡した。

 

「それから、走塁が上手い。特に一塁に走者を出したときは注意しろ」

 

「はい!」

 

「今日は守備のミスを減らすことが大切だ。いつもどおり、確実にアウトを取っていこう」

 

「はい!」

 

 そして、スタメンが発表された。

 

 俺は今回も三番ショート。

 

 すっかり定位置である。

 

 先発投手は藤原先輩。

 

 打順も市内大会とほとんど変わらなかった。

 

 ただし、今回は大地がスタメンに入っていた。

 

 八番セカンド。

 

 二年生ながら、最近の練習で評価を上げたらしい。

 

「やったぜ!」

 

 大地が小さく拳を握った。

 

「おめでとう!」

 

「おう! 今日は絶対ヒット打つからな!」

 

「期待してるよ!」

 

「任せとけ!」

 

 大地は嬉しそうに笑った。

 

 俺も嬉しかった。

 

 以前から一緒に練習してきた仲間がスタメンを勝ち取ったのだ。

 

 これほど喜ばしいことはない。

 

 しかも、二遊間を組むことになる。

 

 俺がショート。

 

 大地がセカンド。

 

 守備でも連携する機会が多いだろう。

 

(……楽しみだな)

 

 俺はグローブを握り直した。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「プレイ!」

 

 地区交流大会、初戦。

 

 青陵ブルーウイングス対桜台フェニックス。

 

 試合が始まった。

 

 先攻は青陵。

 

 つまり、俺たちは後攻である。

 

 一回表。

 

 青陵の一番打者が打席に入る。

 

 小柄な左打者だった。

 

 構えを見る限り、長打を狙うタイプではなさそうだ。

 

 おそらく、出塁と走塁を重視した選手だろう。

 

 藤原先輩の初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角。

 

 カンッ!

 

 打球は三塁方向へ転がった。

 

(……セーフティバント!?)

 

 いや、正確にはプッシュ気味のバントだ。

 

 打者はすでに一塁へ走り出している。

 

 三塁手の村田先輩が前進する。

 

 ボールを拾い、一塁へ送球。

 

 だが――。

 

「セーフ!」

 

 間に合わなかった。

 

(……速いな)

 

 俺は思わず感心した。

 

 打者の足が速い。

 

 しかも、バントの位置も上手かった。

 

 単純な走力だけでなく、技術がある。

 

 なるほど。

 

 これが青陵の野球か。

 

 続く二番打者。

 

 初球からバントの構えを見せる。

 

 だが、藤原先輩が投げた瞬間、バットを引いた。

 

 同時に一塁走者がスタート。

 

「走った!」

 

 捕手が二塁へ送球する。

 

 俺はベースカバーに入った。

 

 送球を捕る。

 

 しかし、走者はすでに滑り込んでいた。

 

「セーフ!」

 

 盗塁成功。

 

(……なるほどね)

 

 完全にタイミングを盗まれた。

 

 今の走者は、投手の動きをよく見ている。

 

 それに、スタートも上手い。

 

 さすが走塁力の高いチームだ。

 

 その後、二番打者は送りバントを成功させた。

 

 一死三塁。

 

 そして三番打者。

 

 初球。

 

 カキンッ!

 

 打球はライト方向へ飛んだ。

 

 右翼手が落下点に入る。

 

 捕球。

 

「アウト!」

 

 だが、三塁走者がタッチアップ。

 

 ホームへ向かう。

 

 右翼手が送球するが、間に合わない。

 

「セーフ!」

 

 青陵が先制した。

 

 桜台〇対一青陵。

 

(……見事だな)

 

 俺は素直に感心した。

 

 先頭打者がバントヒット。

 

 盗塁。

 

 送りバント。

 

 犠牲フライ。

 

 ヒット一本で一点。

 

 実に効率的な攻撃だった。

 

 しかも、全員が自分の役割を理解している。

 

 これは厄介だ。

 

 続く四番打者はショートゴロ。

 

 俺が捕球して一塁へ送球した。

 

「アウト!」

 

 スリーアウト。

 

 初回は一点で抑えた。

 

 だが、青陵ブルーウイングスの強さは十分に伝わってきた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 一回裏。

 

 桜台フェニックスの攻撃。

 

 相手の先発投手は、四年生の右腕だった。

 

 名前は水野航。

 

 背番号一。

 

 球速は九十キロ前後らしい。

 

 南城の佐伯先輩ほど速くはない。

 

 しかし、投球練習を見た限り、コントロールはかなり良さそうだった。

 

 しかも、フォームに無駄がない。

 

(……いい投手だな)

 

 俺はベンチからじっと観察していた。

 

 先頭の高橋先輩が打席に入る。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角。

 

「ボール!」

 

 三球目。

 

 外角低め。

 

 カンッ!

 

 打球はショート方向。

 

 遊撃手が軽快に捕球し、一塁へ送球した。

 

「アウト!」

 

 見事な守備だった。

 

 続く二番打者もセカンドゴロ。

 

 二死走者なし。

 

 そして、俺の打席が回ってきた。

 

「三番、ショート、朝倉君」

 

 俺はバットを持って打席へ向かった。

 

 すると、相手ベンチから声が聞こえた。

 

「あれが朝倉か」

 

「本当に小さいな」

 

「一年生らしいぞ」

 

 ……またか。

 

 すっかり慣れてしまった。

 

 まあ、六歳なのだから仕方がない。

 

 俺はバッターボックスに入った。

 

 そして、水野先輩と向き合う。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

 シュッ!

 

(……ストライク)

 

 俺は見送った。

 

「ストライク!」

 

 なるほど。

 

 いいコースだ。

 

 しかも、球の出どころが見えにくい。

 

 球速以上に打ちにくいタイプかもしれない。

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

 俺はバットを出した。

 

 カンッ!

 

 ファウル。

 

 ツーストライク。

 

(……なるほどな)

 

 今の球も悪くない。

 

 内角への制球が非常に上手い。

 

 しかも、外角から内角への配球に迷いがない。

 

 これは捕手との連携も良さそうだ。

 

 三球目。

 

 外角低め。

 

 わずかに外れる。

 

「ボール!」

 

 ワンボール、ツーストライク。

 

 四球目。

 

 今度は真ん中やや外寄り。

 

(……来た!)

 

 俺は踏み込んだ。

 

 腰を回す。

 

 バットを振る。

 

 カキンッ!

 

 打球は一、二塁間へ飛んだ。

 

 しかし――。

 

(……っ!)

 

 相手の二塁手が素早く反応した。

 

 横っ飛び。

 

 グローブを伸ばす。

 

 ぱしっ!

 

 捕球された。

 

 そのまま立ち上がり、一塁へ送球。

 

「アウト!」

 

 ……マジか。

 

 俺は思わず二塁手を見た。

 

 小学四年生にしては、かなり上手い守備だった。

 

 打球への反応。

 

 捕球姿勢。

 

 送球までの動き。

 

 どれも非常に完成度が高い。

 

(……これは驚いたな)

 

 今世で初めて、しっかり捉えた打球を守備でアウトにされた。

 

 もちろん、これまでも打球が正面に飛べばアウトになる可能性はあった。

 

 だが、今回の打球は普通ならヒットになっていたはずだ。

 

 それを、相手の二塁手が好守備で防いだ。

 

 なるほど。

 

 これが青陵ブルーウイングスか。

 

 俺はベンチへ戻りながら、自然と笑みを浮かべていた。

 

(……面白いじゃないか)

 

 強い相手と戦うのは、やはり楽しい。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 二回表。

 

 青陵の攻撃。

 

 先頭打者は五番。

 

 初球を打ち、センター前ヒット。

 

 続く六番打者は送りバント。

 

 一死二塁。

 

 さらに七番打者がライト前ヒット。

 

 一死一、三塁。

 

 またしてもピンチを迎えた。

 

(……やっぱり上手いな)

 

 青陵の選手たちは、状況に応じた打撃ができている。

 

 走者がいれば進塁打を打つ。

 

 必要ならバントをする。

 

 無理に長打を狙わない。

 

 そして、走塁では常に次の塁を狙っている。

 

 まさに組織的な野球だった。

 

 しかし、ここで少し流れが変わった。

 

 八番打者。

 

 初球。

 

 カンッ!

 

 打球はセカンド正面。

 

 大地が捕球した。

 

「悠真!」

 

「おう!」

 

 大地が二塁へ送球する。

 

 俺はベースを踏んで捕球。

 

「アウト!」

 

 そして、すぐに一塁へ送球した。

 

 ぱしんっ!

 

「アウト!」

 

 ダブルプレー!

 

「よっしゃああ!」

 

 桜台のベンチから歓声が上がった。

 

 俺は大地に向かって拳を突き出した。

 

「ナイス大地!」

 

「おう!」

 

 大地も嬉しそうに笑った。

 

 見事な四―六―三の併殺だった。

 

 もちろん、二塁走者と三塁走者の状況を考えれば、相手も簡単には走れなかったのだろう。

 

 それでも、しっかり二つのアウトを取れたのは大きい。

 

『ピロン♪』

 

――――――――――――――――――

 

【守備評価】

 

『併殺完成』

 

 チームメイトとの連携により併殺を記録しました。

 

【報酬】

 

 敏捷ポイント+20

 

 技術ポイント+30

 

 精神ポイント+15

 

【追加評価】

 

 連携守備:優秀

 

――――――――――――――――――

 

(よし!)

 

 経験点も入った。

 

 やはり、難しい守備ほど評価が高い。

 

 それにしても、大地も随分と上手くなったものだ。

 

 最初に出会った頃は、キャッチボールでも時々暴投していたのに。

 

 今では試合で併殺を完成させられるようになっている。

 

 成長というのは素晴らしい。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 三回裏。

 

 スコアは〇対一。

 

 青陵が一点リードしていた。

 

 相手の水野先輩は、ここまで非常に安定した投球を続けている。

 

 桜台の打線は完全に抑え込まれていた。

 

 しかも、相手の守備が堅い。

 

 多少いい当たりを打っても、簡単にはヒットにならない。

 

 これまでの相手とは明らかに違う。

 

「……強いな」

 

 ベンチで松本先輩が呟いた。

 

 俺も頷いた。

 

「守備が凄いですね」

 

「ああ。特に二遊間だな」

 

「はい」

 

 実際、あの二塁手と遊撃手はかなり上手い。

 

 打球判断が早く、守備範囲も広い。

 

 しかも、送球が正確だ。

 

 これは簡単には突破できないだろう。

 

 しかし。

 

(……なら、もっと強い打球を打てばいい)

 

 俺はバットを握り直した。

 

 守備が上手いなら、守備範囲外へ打てばいい。

 

 あるいは、捕球できないほど鋭い打球を放つ。

 

 もっとも、現在の俺はパワーG20。

 

 強烈な打球を量産するには、まだ身体能力が足りない。

 

 だが、別の方法もある。

 

 打球方向を狙う。

 

 守備位置を確認する。

 

 相手の動きを予測する。

 

 そういった技術なら、俺にも十分に使える。

 

 そして三回裏。

 

 二死一塁。

 

 俺の第二打席が回ってきた。

 

「三番、ショート、朝倉君」

 

 俺はバッターボックスへ向かった。

 

 相手の二塁手が、少し一塁寄りに守っている。

 

 どうやら、俺が右方向へ打つことを警戒しているらしい。

 

(……なるほど)

 

 ならば、今回は別の方向を狙おう。

 

 俺はバットを構えた。

 

 水野先輩の初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

 ボール。

 

 三球目。

 

 真ん中やや内寄り。

 

(……来た!)

 

 俺は踏み込んだ。

 

 腰を回す。

 

 そして、バットを振り抜いた。

 

 カキィンッ!

 

 打球は三遊間へ飛んだ。

 

「ショート!」

 

 相手の遊撃手が横へ動く。

 

 しかし、今回は打球が速かった。

 

 グローブを伸ばす。

 

 だが、届かない。

 

 打球は左翼前へ抜けていった。

 

「よし!」

 

 俺は一塁へ走った。

 

 一塁走者は三塁へ。

 

 二死一、三塁。

 

 チャンスが広がった。

 

『ピロン♪』

 

――――――――――――――――――

 

【打撃評価】

 

 守備位置を考慮した安打を記録しました。

 

【報酬】

 

 技術ポイント+25

 

 精神ポイント+10

 

【追加評価】

 

 打球方向判断:優秀

 

――――――――――――――――――

 

(いいね)

 

 やはり、技術で勝負できるのは大きい。

 

 相手の守備が堅くても、打球方向を工夫すればヒットは打てる。

 

 もちろん、毎回成功するわけではない。

 

 だが、こうした駆け引きこそ野球の醍醐味だ。

 

 続く四番、松本先輩。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角。

 

 カキンッ!

 

 打球はセンター方向へ飛んだ。

 

 相手の中堅手が前進する。

 

 しかし、打球はその前に落ちた。

 

「抜けた!」

 

 三塁走者がホームイン。

 

 同点!

 

 桜台一対一青陵。

 

「よっしゃあ!」

 

 ベンチから歓声が上がった。

 

 俺も一塁から二塁へ進み、拳を握った。

 

(よし!)

 

 ようやく追いついた。

 

 だが、ここからが勝負だ。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 四回表。

 

 同点に追いついた直後。

 

 青陵ブルーウイングスが再び動いた。

 

 先頭の九番打者が四球で出塁。

 

 続く一番打者が送りバント。

 

 一死二塁。

 

 そして二番打者。

 

 初球を打った打球が、セカンド方向へ転がった。

 

 大地が捕球する。

 

 一塁へ送球。

 

「アウト!」

 

 二死三塁。

 

 さらに三番打者。

 

 藤原先輩の初球。

 

 外角低め。

 

「ボール!」

 

 二球目。

 

 内角。

 

 カキンッ!

 

 打球はライト前へ飛んだ。

 

 三塁走者がホームイン。

 

 桜台一対二青陵。

 

(……またか)

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

 青陵は本当に得点の取り方が上手い。

 

 走者を出し、進め、確実に還す。

 

 派手な長打は少ないが、非常に効率的だ。

 

 しかも、守備が堅いので一点の価値が高い。

 

 これは厄介だった。

 

「タイム!」

 

 田島監督がマウンドへ向かった。

 

 俺もショートから集まる。

 

「藤原、ここまでよく投げた」

 

「……はい」

 

 藤原先輩は少し悔しそうだった。

 

 だが、球数も増えている。

 

 ここで交代するのは妥当な判断だろう。

 

 監督は俺を見た。

 

「朝倉」

 

「はい!」

 

「肩の状態はどうだ?」

 

「大丈夫です!」

 

「痛みは?」

 

「ありません!」

 

 監督は頷いた。

 

「よし。じゃあ、ここから頼むぞ。ただし、球数は制限するからな」

 

「はい!」

 

 俺は元気よく返事をした。

 

 そして、マウンドへ向かった。

 

 現在の状況は二死一塁。

 

 一点ビハインド。

 

 相手は四番打者。

 

 決して楽な場面ではない。

 

 だが、俺は不思議と落ち着いていた。

 

(……さて、どうするかな)

 

 ここまで相手の攻撃を見てきた。

 

 青陵は、単純な打撃力よりも走塁と連携で得点するチームだ。

 

 ならば、走者を増やさないことが重要になる。

 

 四球を出さず、確実にストライクを取る。

 

 そして、打たせて取る。

 

 今の俺にできる最善の投球だろう。

 

 俺はボールを握った。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 打席には四番の木村先輩。

 

 小学四年生。

 

 右打者。

 

 長打力よりもミート能力が高いタイプらしい。

 

 つまり、簡単には三振しない打者だ。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

「ストライク!」

 

 よし。

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

 少し外れる。

 

「ボール!」

 

 ワンボール、ワンストライク。

 

 三球目。

 

 外角へのストレート。

 

 打者が振った。

 

 カンッ!

 

 ファウル。

 

 追い込んだ。

 

 だが、ここからが難しい。

 

 青陵の打者は、追い込まれてからが粘り強い。

 

 簡単には空振りしてくれない。

 

 ならば、無理に三振を狙う必要はない。

 

 四球目。

 

 外角低め。

 

 俺は丁寧に腕を振った。

 

 シュッ!

 

 打者が踏み込む。

 

 カキンッ!

 

 打球は三遊間へ飛んだ。

 

(……来た!)

 

 俺はマウンドから一歩動きかけたが、すぐに止まった。

 

 ショートに入った先輩が、すでに打球へ向かっていたからだ。

 

 ぱしっ!

 

 捕球成功。

 

 一塁へ送球。

 

「アウト!」

 

 スリーアウト!

 

 チェンジ!

 

「ナイスピッチング!」

 

 ベンチから声が飛ぶ。

 

 俺は軽く手を上げた。

 

(……よし)

 

 まずは無失点で切り抜けた。

 

 これで、あとは打線が追いついてくれればいい。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 五回裏。

 

 最終回。

 

 スコアは一対二。

 

 桜台フェニックスが一点を追いかけていた。

 

 俺は四回裏の攻撃で打席が回らなかったため、次の打順は少し遠い。

 

 だが、まだチャンスはある。

 

 先頭打者は七番。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角。

 

 カンッ!

 

 打球はショート方向。

 

 相手の遊撃手が捕球し、一塁へ送球した。

 

「アウト!」

 

 一死。

 

 続く八番打者。

 

 大地だ。

 

「大地ー!」

 

 俺はベンチから声をかけた。

 

「頑張れー!」

 

 大地がこちらを振り返り、軽く手を上げる。

 

 そして、打席に入った。

 

 相手投手の水野先輩が投げる。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

「ボール!」

 

 三球目。

 

 真ん中付近。

 

 大地がバットを振った。

 

 カキンッ!

 

(……おっ!)

 

 いい当たりだ。

 

 打球は一、二塁間へ飛んだ。

 

 相手の二塁手が横っ飛びする。

 

 しかし、わずかに届かない。

 

 ライト前ヒット!

 

「よっしゃあ!」

 

 大地が一塁上で拳を握った。

 

 俺も思わず立ち上がった。

 

(ナイス大地!)

 

 以前は外角のボールを打つのが苦手だった。

 

 だが、今の打撃は見事だった。

 

 練習の成果が、しっかり試合で出ている。

 

 続く九番打者。

 

 初球から送りバントの構え。

 

 水野先輩が投げる。

 

 コツンッ。

 

 ボールは一塁方向へ転がった。

 

 投手が処理し、一塁へ送球。

 

「アウト!」

 

 二死二塁。

 

 そして一番、高橋先輩。

 

 初球はボール。

 

 二球目。

 

 カンッ!

 

 打球は三塁方向へ。

 

 相手の三塁手が捕球。

 

 一塁へ送球。

 

「アウト!」

 

 ……ゲームセット。

 

 桜台フェニックス、一対二で敗北。

 

 地区交流大会は初戦敗退となった。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「……負けた」

 

 大地が小さく呟いた。

 

 俺も黙ってグラウンドを見つめた。

 

 悔しい。

 

 当然だ。

 

 市内大会では優勝した。

 

 しかも、俺自身は毎試合活躍していた。

 

 だから、今回も勝てると思っていた。

 

 だが、現実は違った。

 

 青陵ブルーウイングスは強かった。

 

 投手も、守備も、走塁も。

 

 そして、チームとしての完成度も。

 

 俺たちより一段上だった。

 

「集合!」

 

 田島監督が声をかけた。

 

 俺たちはベンチ前に集まる。

 

「今日は残念だったな」

 

 監督は静かに言った。

 

「でも、いい試合だった。最後まで諦めずに戦えたのは立派だ」

 

 子供たちは黙って聞いている。

 

「ただし、今日の敗戦から学ばなきゃいけない。相手は俺たちより守備も走塁も上手かった。そこは認めよう」

 

 監督は続けた。

 

「でも、練習すれば追いつける。これからもっと上手くなればいいんだ」

 

「……はい!」

 

 全員が返事をした。

 

 俺も頷く。

 

 その通りだ。

 

 負けたからといって、終わりではない。

 

 むしろ、ここからが大切なのだ。

 

 自分たちに足りないものを理解し、改善する。

 

 それが成長に繋がる。

 

 俺には育成システムがある。

 

 普通の選手より遥かに効率よく成長できる。

 

 だが、野球は一人では勝てない。

 

 今日の敗戦は、そのことを改めて教えてくれた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 その日の夜。

 

 俺は自室で育成システムを開いていた。

 

――――――――――――――――――

 

【公式戦結果】

 

 桜台フェニックス 1

 

 青陵ブルーウイングス 2

 

 敗北

 

【朝倉悠真】

 

〈打撃成績〉

 

 2打数1安打

 

 打点:0

 

 得点:0

 

〈投手成績〉

 

 投球回:1/3回

 

 被安打:0

 

 奪三振:0

 

 与四球:0

 

 失点:0

 

〈守備成績〉

 

 守備機会:3

 

 失策:0

 

 併殺参加:1

 

【総合評価】

 

 A

 

【獲得経験点】

 

 筋力:25

 

 敏捷:45

 

 技術:80

 

 精神:60

 

 合計:210

 

――――――――――――――――――

 

(……なるほど)

 

 負けても経験点は貰えるらしい。

 

 ただし、勝利したときより少ない。

 

 当然だろう。

 

 それに、今回は打撃でも一安打しか記録できなかった。

 

 しかも、初めて公式戦でアウトになった。

 

 これは大きな経験だったと思う。

 

(……やっぱり、もっと強くならないとな)

 

 俺は能力画面を開いた。

 

 現在の野手能力は、まだFやGが中心。

 

 特殊能力はアベレージヒッターのみ。

 

 投手能力も、まだまだ発展途上だ。

 

 これでは、強豪相手に安定して無双するのは難しい。

 

 もちろん、身体の成長制限があるので、今すぐ大幅に能力を上げることはできない。

 

 だが、できることはある。

 

 守備。

 

 走塁。

 

 状況判断。

 

 そして、チームメイトとの連携。

 

 こうした部分なら、今からでも十分に鍛えられる。

 

(……よし)

 

 俺は新しい育成方針を決めた。

 

 これからは、自分自身の能力だけでなく、チーム全体の成長も意識する。

 

 特に守備と走塁。

 

 今日の青陵のような野球ができれば、チームはもっと強くなるはずだ。

 

 そして、俺自身もさらに成長する。

 

 何しろ、世界最高の二刀流選手を目指しているのだから。

 

 この程度の敗戦で立ち止まってはいられない。

 

 俺は画面を閉じた。

 

 そして、布団に潜り込む。

 

 次の大会では、絶対に勝つ。

 

 いや。

 

 いつかは、どんな相手にも負けない選手になってみせる。

 

 そんな決意を胸に、俺は静かに目を閉じた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 一方、その頃。

 

 青陵ブルーウイングスの監督は、今日の試合を振り返っていた。

 

「……朝倉悠真、か」

 

 小学一年生。

 

 六歳。

 

 桜台フェニックスの三番打者。

 

 市内大会では十二打数十二安打という驚異的な成績を残していた。

 

 そして、今日。

 

 青陵の守備陣は、初めて彼をアウトにした。

 

 だが、それで簡単に抑えられる選手だと判断したわけではない。

 

 むしろ、逆だった。

 

「あの子、凄いですね」

 

 コーチが呟いた。

 

 監督も頷く。

 

「ああ。噂以上だった」

 

「一打席目のセカンドライナー、普通ならヒットでしたよね」

 

「そうだな。うちの二塁手がよく捕ったよ」

 

「しかも、二打席目には三遊間を抜かれました」

 

「……あれは狙って打ったように見えたな」

 

 監督は腕を組んだ。

 

 普通の小学一年生なら、まずバットに当てることが精一杯だ。

 

 だが、朝倉悠真は違った。

 

 相手の守備位置を見ていた。

 

 そして、状況に応じて打球方向を変えていた。

 

 さらに守備。

 

 ショートとしての動きも非常に優秀だった。

 

 特に二回の併殺。

 

 二年生の二塁手との連携も見事だった。

 

「……あれで一年生ですか」

 

 コーチが苦笑した。

 

「将来が恐ろしいですね」

 

「ああ」

 

 監督は頷いた。

 

 そして、少し笑った。

 

「ただ、今日は勝てた」

 

「そうですね」

 

「でも、次は分からんな」

 

 監督は静かに言った。

 

「一年生であの完成度だ。二年後、三年後には、どんな選手になっていることやら」

 

 その言葉に、コーチも頷いた。

 

 もちろん、二人はまだ知らない。

 

 今日、初めて公式戦で敗北した少年が、これから異常な速度で成長していくことを。

 

 そして、数年後には地区どころか全国の少年野球関係者を驚かせる存在になることを。

 

 朝倉悠真。

 

 まだ六歳。

 

 だが、その才能は確実に広まり始めていた。

 

 そして、彼の野球人生は、まだ始まったばかりだった。

 




次回予告(本文外)

第十二話「敗北からの成長、二刀流の進化」

地区交流大会で初めて敗北を経験した悠真。

自分一人が活躍するだけでは勝てないことを実感し、チーム全体の守備力と走塁力の底上げに取り組み始める。

一方、育成システムには敗北をきっかけとした新たな育成イベントが発生。

そして悠真は、これまで温存していた大量の経験点を使った能力強化を決意する。
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