転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある   作:1番道路

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第十二話 敗北からの成長、二刀流の進化

 負けた。

 

 地区交流大会の初戦。

 

 俺たち桜台フェニックスは、青陵ブルーウイングスに一対二で敗北した。

 

 市内大会では四戦全勝。

 

 しかも、俺自身は十二打数十二安打という、我ながら異常な成績を残していた。

 

 だから、正直なところ少し油断していたのかもしれない。

 

 もちろん、相手を侮っていたつもりはない。

 

 それでも、どこかで勝てると思っていた。

 

 しかし、結果は敗北。

 

 青陵の堅い守備と巧みな走塁を前に、俺たちは思うような野球ができなかった。

 

 そして何より、俺自身も二打数一安打。

 

 初めて公式戦でアウトになった。

 

 別に打率十割を維持できると思っていたわけではない。

 

 野球という競技において、全打席でヒットを打つなど現実的ではないからだ。

 

 だが、育成システムを持っている俺なら、いつかはそんな非常識なことすら実現できるかもしれない。

 

 そう考えていたのも事実だった。

 

「……まだまだだな」

 

 俺は自室のベッドに寝転がりながら呟いた。

 

 目の前には半透明の画面。

 

 パワプロ育成システムだ。

 

――――――――――――――――――

 

【朝倉悠真】

 

 年齢:6歳

 

 投打:右投右打

 

 ポジション:投手・遊撃手・外野手

 

【野手能力】

 

 弾道:1

 

 ミート:F35

 

 パワー:G20

 

 走力:F31

 

 肩力:G27

 

 守備力:F35

 

 捕球:G34

 

【投手能力】

 

 球速:74km/h

 

 コントロール:F40

 

 スタミナ:G18

 

 変化球:なし

 

【特殊能力】

 

 アベレージヒッター

 

――――――――――――――――――

 

 ……うん。

 

 改めて見ると、まだまだ弱い。

 

 いや、六歳児としては十分すぎる能力だ。

 

 何しろ、このステータスは成人選手を基準にしたものだからな。

 

 小学一年生でミートF35、コントロールF40。

 

 普通なら考えられない。

 

 だが、俺の目標は世界最高の二刀流選手だ。

 

 こんなところで満足するわけにはいかない。

 

(問題は身体の成長制限なんだよな……)

 

 俺は能力アップ画面を開いた。

 

 現在、経験点はかなり貯まっている。

 

 市内大会優勝や大会MVPで大量に獲得したからだ。

 

 しかし、能力によっては年齢による上限が存在していた。

 

 球速は七十五キロ。

 

 パワーはG25。

 

 いくら経験点を使っても、今の身体ではそれ以上に強化できない。

 

 当然だろう。

 

 六歳の身体で百五十キロの速球を投げられるようになったら、もはや人間ではない。

 

 ……いや、将来的には百七十キロを超える予定なのだが。

 

 ともかく。

 

 今は身体能力を無理に引き上げるより、技術面を優先した方がよさそうだ。

 

 そう考えていたときだった。

 

『ピロン♪』

 

 突然、システムから通知が届いた。

 

――――――――――――――――――

 

【育成イベント発生】

 

『敗北から学ぶ』

 

 強豪チームとの対戦に敗北しました。

 

 試合内容を分析し、改善点を確認できます。

 

【イベント目標】

 

・敗因を分析する

 

・改善すべき能力を選択する

 

・練習計画を作成する

 

【達成報酬】

 

 技術ポイント+100

 

 精神ポイント+100

 

【特別報酬】

 

『弱点分析機能』解放

 

――――――――――――――――――

 

(……おお?)

 

 負けたことでもイベントが発生するのか。

 

 これは予想外だった。

 

 しかも、報酬は弱点分析機能。

 

 名前からして便利そうである。

 

 さっそくイベントを進めてみよう。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 まずは敗因の分析だ。

 

 画面を操作すると、先日の試合内容が表示された。

 

――――――――――――――――――

 

【試合分析】

 

 桜台フェニックス 1

 

 青陵ブルーウイングス 2

 

【敗因分析】

 

 打撃面

 

・安打数不足

 

・得点圏での打撃機会不足

 

・相手の守備位置への対応不足

 

 守備面

 

・大きな失策なし

 

・走者への警戒不足

 

・守備連携の改善余地あり

 

 投手面

 

・先頭打者の出塁を許す場面が多い

 

・走者を背負った場面での対応に課題

 

【総合評価】

 

 個人能力だけでなく、チーム全体の連携強化が必要です。

 

――――――――――――――――――

 

(……なるほど)

 

 なかなか的確な分析だ。

 

 特に走者への警戒不足。

 

 これは俺も感じていた。

 

 青陵は走塁が上手かった。

 

 単純に足が速いだけではない。

 

 投手の癖を読む。

 

 野手の送球動作を観察する。

 

 わずかな隙を見つけて次の塁を狙う。

 

 そうした技術が、チーム全体に浸透していた。

 

 俺たち桜台フェニックスには、まだそこまでの完成度はない。

 

 ならば、やるべきことは明確だ。

 

(守備と走塁の連携強化だな)

 

 俺は改善項目を選択した。

 

 続いて、練習計画の作成。

 

 これについては少し考える必要があった。

 

 何しろ、俺は小学一年生。

 

 いくら前世の経験があるとはいえ、監督やコーチを差し置いて練習メニューを決めるわけにはいかない。

 

 それに、チーム全体の練習を変えるなら、指導者の協力が必要になる。

 

(……まずは監督に相談してみるか)

 

 そう考えたところで、イベント画面が更新された。

 

――――――――――――――――――

 

【イベント進行状況】

 

 敗因分析:達成

 

 改善項目選択:達成

 

 練習計画作成:未達成

 

――――――――――――――――――

 

 どうやら、具体的な練習計画を立てなければ達成扱いにならないらしい。

 

 ならば、明日の練習で相談してみよう。

 

 俺は画面を閉じた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 翌日の土曜日。

 

 桜台フェニックスのグラウンドには、いつもどおり子供たちが集まっていた。

 

 ただし、雰囲気は少し違っていた。

 

 地区交流大会で敗北したことが、やはり悔しかったのだろう。

 

 特に四年生の先輩たちは、以前より真剣な表情で練習に取り組んでいた。

 

「悠真!」

 

「おはよう、大地!」

 

「おう!」

 

 大地が元気よく駆け寄ってくる。

 

「今日もバッティングやろうぜ!」

 

「いいよ。でも、その前にちょっと相談があるんだ」

 

「相談?」

 

「うん。守備の練習なんだけど……」

 

 俺は昨日考えたことを説明した。

 

 走者を置いた状態での守備。

 

 盗塁への対応。

 

 バント処理。

 

 そして、二遊間の連携。

 

 そういった練習を増やしたらどうかという話だ。

 

 大地は少し考えてから頷いた。

 

「確かに、青陵って走塁上手かったもんな」

 

「うん」

 

「俺たちもああいう野球ができたら、もっと強くなれるかも!」

 

「そう思うんだ」

 

「じゃあ監督に言ってみようぜ!」

 

 ……行動が早いな。

 

 まあ、悪いことではない。

 

 俺たちは田島監督のところへ向かった。

 

「監督!」

 

「ん? どうした?」

 

「ちょっとお願いがあるんです!」

 

 大地が勢いよく言った。

 

 監督は少し驚いた様子だったが、すぐに笑った。

 

「何だ?」

 

「この前の青陵みたいな走塁とか守備の練習、やりたいです!」

 

「ほう?」

 

 田島監督の表情が変わった。

 

「どうしてそう思った?」

 

「だって、あいつら凄かったんですよ!」

 

 大地は興奮した様子で続ける。

 

「バントも上手いし、盗塁も上手いし、守備も全然ミスしないし!」

 

「なるほどな」

 

「だから俺たちも練習したいです!」

 

 監督は頷いた。

 

 そして、俺の方を見る。

 

「朝倉も同じ考えか?」

 

「はい!」

 

「どんな練習がしたい?」

 

「ランナーがいるときの守備とか、盗塁されたときのベースカバーとかです!」

 

「ふむ」

 

「それから、打った後に次の塁まで行けるか判断する練習もしたいです!」

 

 監督は少し驚いた顔をした。

 

「……朝倉、お前本当に一年生か?」

 

「一年生です!」

 

「ははは! そうだったな!」

 

 監督は笑った。

 

 そして、少し真剣な表情になった。

 

「実はな、監督も同じことを考えていたんだ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。青陵との試合では、うちの弱点がよく分かったからな」

 

 田島監督はグラウンドを見渡した。

 

「守備の基本はできている。でも、走者がいるときの判断はまだまだだ」

 

 俺は頷いた。

 

 その通りだと思う。

 

「よし。今日は走塁と連携守備を中心に練習するか!」

 

「やった!」

 

 大地が嬉しそうに叫んだ。

 

 俺も笑顔になる。

 

 そして、その瞬間。

 

『ピロン♪』

 

――――――――――――――――――

 

【育成イベント達成!】

 

『敗北から学ぶ』

 

 敗因分析を完了しました。

 

 改善すべき能力を選択しました。

 

 練習計画が承認されました。

 

【達成報酬】

 

 技術ポイント+100

 

 精神ポイント+100

 

【特別報酬】

 

『弱点分析機能』

 

 解放!

 

――――――――――――――――――

 

(よし!)

 

 無事にイベント達成だ。

 

 しかも、弱点分析機能まで手に入った。

 

 これは後で詳しく確認してみよう。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「よーし! まずは走塁練習からだ!」

 

 田島監督の声が響いた。

 

 グラウンドには、一塁から三塁までベースが設置されている。

 

 最初の練習は、一塁走者として投球動作を見ながらスタートを切るというものだった。

 

 もちろん、投手役はコーチ。

 

 小学生に無理な投球をさせるわけではない。

 

「佐藤、まずはお前からだ!」

 

「はい!」

 

 大地が一塁ベースに立つ。

 

 コーチがセットポジションに入った。

 

 そして、投球動作。

 

 大地がスタートする。

 

 しかし――。

 

「遅い!」

 

 監督の声が響いた。

 

「投手が投げてから走っても間に合わないぞ!」

 

「はい!」

 

「投球動作をよく見ろ。どのタイミングでスタートすればいいか考えるんだ」

 

 大地は頷いた。

 

 二回目。

 

 今度は少し早くスタートした。

 

 だが、コーチは牽制動作を見せた。

 

「アウト!」

 

「あー!」

 

 大地が悔しそうに叫ぶ。

 

 監督は笑った。

 

「今度は早すぎたな!」

 

 周囲の子供たちも笑う。

 

 だが、こうした失敗も大切だ。

 

 実戦で覚えるより、安全な練習で経験しておいた方がいい。

 

 そして、俺の順番が回ってきた。

 

「朝倉、いくぞ!」

 

「はい!」

 

 俺は一塁ベースに立った。

 

 コーチがセットポジションに入る。

 

 俺はその動きを観察した。

 

 足。

 

 肩。

 

 腰。

 

 視線。

 

 どこに癖があるか。

 

 前世で何度も経験してきた走塁の感覚を思い出す。

 

 そして。

 

(……今だ!)

 

 コーチの動作に合わせてスタートした。

 

 全力で二塁へ向かう。

 

「セーフ!」

 

 監督の声が響いた。

 

「おおー!」

 

 大地が歓声を上げる。

 

「やっぱ悠真はすげえな!」

 

「ありがとう!」

 

 俺は笑って答えた。

 

 ただし、今の成功は前世の経験が大きい。

 

 身体能力だけなら、俺はまだ六歳児だ。

 

 大地より足が速いわけでもない。

 

 しかし、スタートのタイミングが違えば、その差を埋められる。

 

 これこそ、走塁技術の面白いところだ。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 続いて守備練習。

 

 今度は走者一塁の場面を想定した内野ゴロ処理だ。

 

 俺はショート。

 

 大地はセカンド。

 

 いつもの二遊間コンビである。

 

「よし、いくぞ!」

 

 山本コーチがノックを始めた。

 

 最初はセカンドゴロ。

 

 大地が捕球。

 

 俺は二塁ベースへ入る。

 

「悠真!」

 

「おう!」

 

 大地から送球。

 

 俺は二塁ベースを踏み、すぐに一塁へ送球した。

 

「アウト!」

 

 ダブルプレー。

 

「いいぞ!」

 

 監督が声を上げた。

 

 次はショートゴロ。

 

 俺が捕球し、大地へ送球。

 

 大地が二塁ベースを踏み、一塁へ転送する。

 

「アウト!」

 

 これも成功。

 

 さらに、少し難しい打球。

 

 三遊間への強いゴロ。

 

 俺は横へ動きながら捕球した。

 

 そして、二塁へ送球。

 

 大地が受け取り、一塁へ転送。

 

 しかし、送球が少し逸れた。

 

「セーフ!」

 

 監督の声が響いた。

 

「惜しい! 今のは二塁まででよかったぞ!」

 

 なるほど。

 

 無理に二つのアウトを狙う必要はないということだ。

 

 野球では、確実に取れるアウトを取ることが重要になる。

 

 特に少年野球では、無理な送球が失点に繋がることも多い。

 

 俺は大地と顔を見合わせた。

 

「次は確実にいこう」

 

「おう!」

 

 それからも練習を続けた。

 

 走者一塁。

 

 走者二塁。

 

 一死一、三塁。

 

 無死満塁。

 

 様々な状況を想定し、どこへ送球すべきか判断する。

 

 前世の経験がある俺にとって、状況判断そのものは難しくない。

 

 しかし、それを今の身体で実行するには練習が必要だった。

 

 特に送球。

 

 前世では簡単に届いた距離でも、今の俺には難しいことがある。

 

 だからこそ、無理な送球を避ける判断も大切になる。

 

(……いい練習だな)

 

 俺は自然と笑みを浮かべた。

 

 今までの練習も悪くなかったが、こうした実戦的な練習は経験点の効率も良さそうだ。

 

 実際、システムからは何度も通知が届いていた。

 

『連携守備成功』

 

『技術ポイント+5』

 

『守備判断良好』

 

『精神ポイント+3』

 

『走塁判断成功』

 

『敏捷ポイント+4』

 

 細かい経験点が積み重なっていく。

 

 しかも、練習効率補正のおかげで以前より獲得量が増えていた。

 

 これはなかなか美味しい。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 練習終了後。

 

 俺は自宅で新しく解放された弱点分析機能を確認していた。

 

――――――――――――――――――

 

【弱点分析機能】

 

 現在の能力、試合成績、練習内容から改善すべき項目を分析します。

 

【朝倉悠真】

 

 総合評価:成長段階

 

【野手としての課題】

 

・長打力不足

 

・絶対的な走力不足

 

・強い打球への対応力

 

・体格差のある相手との対戦経験

 

【投手としての課題】

 

・球速不足

 

・変化球未習得

 

・スタミナ不足

 

・球種の少なさによる配球制限

 

【改善可能項目】

 

・ミート技術

 

・送球精度

 

・守備判断

 

・走塁技術

 

・投球フォームの安定性

 

――――――――――――――――――

 

(……なるほど)

 

 予想通りの内容だった。

 

 長打力不足。

 

 球速不足。

 

 スタミナ不足。

 

 どれも身体の成長が必要になる項目だ。

 

 今すぐ大幅に改善するのは難しい。

 

 しかし、ミート技術や守備判断なら話は別だ。

 

 経験点を使えば、さらに能力を伸ばせる。

 

 しかも、最近は特殊能力の取得条件も少しずつ達成している。

 

(……そろそろ本格的に使ってみるか)

 

 俺は所持経験点を確認した。

 

――――――――――――――――――

 

【所持経験点】

 

 筋力:1870

 

 敏捷:1735

 

 技術:2245

 

 変化球:100

 

 精神:2290

 

 合計:8240

 

――――――――――――――――――

 

 八千ポイント以上。

 

 かなりの貯蓄だ。

 

 もちろん、将来のために全て使うつもりはない。

 

 だが、今の段階で使える能力には、少しずつ振り分けてもいいだろう。

 

 俺は能力アップ画面を開いた。

 

 まずはミート。

 

 現在F35。

 

 現時点での上限はF40。

 

 ならば、上限まで上げてしまおう。

 

――――――――――――――――――

 

【能力アップ】

 

 ミート

 

 F35 → F40

 

 必要経験点

 

 技術:100

 

 精神:40

 

 実行しますか?

 

 はい/いいえ

 

――――――――――――――――――

 

(はい!)

 

『ピロン♪』

 

『ミートがF40になりました』

 

 身体に、いつもの感覚が走った。

 

 バットを振るときの動作。

 

 ボールを捉えるタイミング。

 

 そういった感覚が、さらに鮮明になる。

 

(……いいね)

 

 続いて、守備力。

 

 現在F35。

 

 こちらもF40まで強化可能だった。

 

――――――――――――――――――

 

【能力アップ】

 

 守備力

 

 F35 → F40

 

 必要経験点

 

 敏捷:80

 

 技術:60

 

 実行しますか?

 

 はい/いいえ

 

――――――――――――――――――

 

(はい!)

 

『守備力がF40になりました』

 

 今度は、身体の動かし方が少し変わった気がした。

 

 重心移動。

 

 足の運び。

 

 グローブを出すタイミング。

 

 その一つ一つが、以前より自然にできるようになった感覚だ。

 

 そして、捕球。

 

 現在G34。

 

 こちらも強化しておこう。

 

『捕球がG34からF40になりました』

 

 さらに、コントロール。

 

 現在F40。

 

 こちらはF45まで上げられるらしい。

 

(……よし)

 

 俺は必要経験点を確認し、強化を実行した。

 

『コントロールがF45になりました』

 

 これで、投打両方の技術がさらに向上した。

 

 もちろん、基礎能力はまだまだ低い。

 

 だが、今の年齢を考えれば十分すぎる強化だ。

 

 俺は満足して画面を閉じようとした。

 

 しかし、その瞬間。

 

『ピロン♪』

 

 新しい通知が表示された。

 

――――――――――――――――――

 

【育成ボーナス発生】

 

『基礎技術の成長』

 

 ミート、守備力、捕球、コントロールが一定水準に到達しました。

 

【特別報酬】

 

 技術ポイント+100

 

 精神ポイント+50

 

【追加効果】

 

 技術系練習の効率が上昇しました。

 

――――――――――――――――――

 

(……おおっ!?)

 

 なるほど。

 

 能力値を上げること自体にも、ボーナスが存在するらしい。

 

 これは面白い。

 

 単純に経験点を貯めるだけでなく、適切なタイミングで能力を強化することにも意味があるわけだ。

 

 つまり、育成効率を最大化するには、経験点の獲得と消費の両方を考える必要がある。

 

(……ますますゲームみたいになってきたな)

 

 俺は思わず笑った。

 

 いや、そもそもパワプロの育成システムなのだから、当然といえば当然か。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 それから一か月。

 

 俺たち桜台フェニックスは、守備と走塁を中心とした練習を続けていた。

 

 その成果は、少しずつ現れ始めていた。

 

「よし! 次!」

 

 山本コーチのノック。

 

 大地がゴロを捕球する。

 

 俺が二塁へ入る。

 

 送球。

 

 捕球。

 

 一塁へ転送。

 

「アウト!」

 

 見事な併殺。

 

「いいぞ! 今のは完璧だ!」

 

 田島監督が声を上げた。

 

 大地は嬉しそうに笑う。

 

「悠真! 今のよかったよな!」

 

「うん! 完璧だった!」

 

「へへっ!」

 

 以前なら送球が逸れていたような場面でも、最近は安定してアウトを取れるようになっていた。

 

 しかも、他の選手たちも上達している。

 

 特に走塁。

 

 投手の癖を見ること。

 

 打球判断。

 

 次の塁を狙う意識。

 

 そういった部分が、少しずつ改善されていた。

 

 もちろん、まだ青陵ブルーウイングスほどの完成度はない。

 

 だが、以前より確実に強くなっている。

 

(……いい感じだな)

 

 俺は自然と笑みを浮かべた。

 

 チーム全体が成長する。

 

 それは、自分自身が成長するのとはまた違った嬉しさがある。

 

 しかも、チームが強くなれば大会で勝ち進める可能性も上がる。

 

 結果として、俺自身も多くの試合を経験できる。

 

 まさに一石二鳥だ。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 そんなある日の練習終了後。

 

「朝倉、ちょっといいか?」

 

 田島監督に呼ばれた。

 

「はい!」

 

 俺は駆け寄った。

 

 監督の隣には山本コーチが立っている。

 

 二人とも、少し真剣な表情だった。

 

「悠真、お前は本当に野球が好きなんだな」

 

「はい!」

 

「投げるのも、打つのも?」

 

「両方大好きです!」

 

 監督は頷いた。

 

「そうか」

 

 そして、少し考えてから言った。

 

「実はな、来月から新しい練習を始めようと思っている」

 

「新しい練習ですか?」

 

「ああ。投手としての基礎練習だ」

 

 ……ほう。

 

 俺は思わず目を輝かせた。

 

「ピッチャーの練習ですか!?」

 

「そうだ。ただし、無理な投げ込みはしない。フォームの確認や、身体の使い方が中心になる」

 

「はい!」

 

「お前はまだ一年生だからな。今から速い球を投げる必要はない」

 

 その通りだ。

 

 俺自身、今の段階で無理に球速を上げるつもりはない。

 

 むしろ、正しいフォームを身につける方が重要だと思っている。

 

「それから、投手としての練習を増やすぶん、他の練習量は調整するぞ」

 

「分かりました!」

 

 監督は満足そうに頷いた。

 

「よし。じゃあ、来月から少しずつ始めよう」

 

「ありがとうございます!」

 

 俺は元気よく頭を下げた。

 

 そして、心の中でガッツポーズを決める。

 

(……よっしゃあ!)

 

 ついに投手としての本格的な育成が始まる。

 

 これまでは、キャッチボールや短い登板が中心だった。

 

 しかし、今後はフォームや身体の使い方を、さらに細かく鍛えられる。

 

 しかも、システムには投球動作解析機能がある。

 

 これを活用すれば、普通の選手より遥かに効率よく成長できるはずだ。

 

 そして、将来的には変化球も習得する。

 

 ストレートだけでなく、スライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップ。

 

 様々な球種を身につけ、誰も打てない投手になる。

 

 もちろん、打撃も疎かにはしない。

 

 目指すのは、あくまで二刀流。

 

 投手としても、打者としても、世界最高の選手になることなのだから。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 その日の夜。

 

 俺は自室で育成システムを開いていた。

 

 すると、新しい通知が表示されていた。

 

――――――――――――――――――

 

【育成目標更新】

 

『投手としての基礎完成』

 

 達成条件:

 

・投球フォームの安定性向上

 

・コントロールF50以上

 

・投球動作解析で一定評価を獲得

 

【達成報酬】

 

 技術ポイント+200

 

 精神ポイント+150

 

【特別報酬】

 

『投手育成メニュー拡張』

 

――――――――――――――――――

 

(……なるほど)

 

 次の目標は投手育成か。

 

 しかも、コントロールF50以上。

 

 現在の俺はF45。

 

 あと五ポイントだ。

 

 経験点は十分にある。

 

 ただし、今すぐ能力を上げるだけでは達成できないらしい。

 

 投球フォームの安定性。

 

 投球動作解析の評価。

 

 この二つも必要になる。

 

 つまり、実際の練習が重要になるということだ。

 

(……いいじゃないか)

 

 俺は笑った。

 

 経験点を使えば能力を上げられる。

 

 しかし、それだけで全てが完成するわけではない。

 

 実際の練習を重ね、技術を磨く必要がある。

 

 それでこそ、野球は面白い。

 

 俺は画面を閉じた。

 

 そして、明日からの練習計画を考え始める。

 

 投球フォーム。

 

 コントロール。

 

 身体の使い方。

 

 そして、打撃。

 

 やるべきことは山ほどある。

 

 だが、不思議と面倒だとは思わなかった。

 

 むしろ、楽しみで仕方がない。

 

 前世では、どれほど努力しても届かなかった場所。

 

 その頂点へ、今度こそ辿り着いてみせる。

 

 まだ六歳。

 

 まだ小学一年生。

 

 それでも、俺は確実に成長している。

 

 そして、これから先も成長し続ける。

 

 目指すは、史上最強の二刀流選手。

 

 世界中の野球ファンが俺の名前を知る、その日まで。

 

 俺の二度目の野球人生は、まだまだ終わらない。

 




次回予告(本文

第十三話「投手育成開始、理想のフォーム」

本格的な投手育成を始めた悠真は、投球動作解析機能を活用して、自分の身体に最適なフォームを追求する。

一方、育成システムによるコントロール強化と技術練習の相乗効果により、その投球精度は小学一年生として常識外れの領域へ到達し始める。

そして田島監督は、悠真の投手としての才能を改めて思い知ることになる。
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