転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある 作:1番道路
野球において、投手というポジションは特別だ。
試合の中心に立ち、打者と一対一で勝負する。
投手が投げなければ試合は始まらないし、投手が崩れれば大量失点にも繋がる。
それだけに、求められる能力も多い。
球速。
コントロール。
スタミナ。
変化球。
そして、投球技術。
俺が目指しているのは、その全てを極限まで高めた投手だ。
もちろん、打者としても世界最高を目指している。
いわゆる二刀流である。
普通なら、どちらか一方を極めるだけでも難しい。
だが、俺にはパワプロ育成システムがある。
練習や試合で経験点を獲得し、それを使って自分自身の能力を強化できる。
しかも、最近は特殊能力まで取得できるようになった。
現在の俺が持っている特殊能力は、アベレージヒッター。
打撃に関する能力だ。
しかし、いずれは投手用の特殊能力も取得するつもりである。
怪童。
ドクターK。
強心臓。
変幻自在。
名前を挙げればきりがない。
そのためにも、まずは基礎を固めなければならない。
そして今日。
俺は桜台フェニックスのグラウンドで、田島監督と向き合っていた。
「朝倉、今日から投手の基礎練習を始めるぞ」
「はい!」
待ちに待った日だった。
◇ ◇ ◇
「まず最初に、一つだけ約束してもらう」
田島監督は真剣な表情で俺を見た。
「何ですか?」
「肩や肘が痛くなったら、すぐに言うこと。絶対に我慢しない。それから、家で勝手に何十球も投げ込むのも禁止だ」
「はい!」
「本当に分かってるか?」
「分かってます!」
俺が大きく頷くと、監督はようやく笑った。
「よし。それなら始めよう」
実にまともな指導方針だった。
少年野球では、投げすぎによる故障が問題になることもある。
特に成長期の子供は、肩や肘への負担に注意が必要だ。
俺の場合、将来的には百七十キロを超える速球を投げる予定である。
だからこそ、今の段階で身体を壊すわけにはいかない。
「今日はボールをたくさん投げる練習じゃない。正しい身体の使い方を覚える練習だ」
「はい!」
「まず、いつもどおり投げる真似をしてみろ」
シャドーピッチングか。
俺はボールを持たずに構えた。
右投げ。
足の幅を確認する。
左足を上げる。
重心を移動させる。
そして、身体を回転させる。
腕を振り抜く。
シュッ。
小さな風切り音が響いた。
「……ほう」
田島監督が感心したような声を出した。
「もう一回」
「はい!」
俺は再び投球動作を行った。
今度は少しゆっくり。
一つ一つの動きを意識しながら身体を動かす。
左足の着地。
腰の回転。
肩の動き。
腕の振り。
そして、最後の体重移動。
全てを確認した。
「……山本」
「はい?」
近くにいた山本コーチが振り返る。
「ちょっと朝倉のフォームを見てくれ」
「分かりました」
山本コーチが俺の正面に立った。
「朝倉君、もう一回やってみようか」
「はい!」
俺は三度目の投球動作を行った。
すると、山本コーチが小さく唸った。
「……監督」
「どうだ?」
「やっぱり、この子は変ですね」
「だろ?」
……おい。
本人の前で変とか言うな。
まあ、言いたいことは分かる。
普通の小学一年生が、ここまで安定した投球フォームを身につけていることは珍しいのだろう。
しかし、俺としては当然だった。
何しろ、前世では高校野球まで経験している。
投球フォームの基本くらい、頭では理解しているのだ。
問題は、その知識を六歳の身体で再現することだった。
だが、今世ではすでに何年も練習してきた。
しかも、育成システムによって身体の動きを補正できる。
その結果、同年代の子供とは比較にならないフォームになっていた。
「朝倉、今の投げ方は誰に教わった?」
田島監督が尋ねてきた。
「お父さんです!」
「そうか。お父さん、野球経験者だったな」
「はい!」
「なるほどなあ……」
監督は少し考え込んだ。
そして、俺の横に立った。
「いいフォームだ。ただ、少しだけ直してみよう」
「はい!」
「左足を上げたとき、身体が後ろへ傾きすぎないように。今は小さいから、無理に大きく足を上げなくていい」
俺は頷いた。
確かに、以前から少し気になっていた部分だった。
前世の投球フォームを再現しようとして、今の身体には大きすぎる動作になっていたのかもしれない。
「それから、腕を無理に速く振ろうとしなくていい。まずは自然に投げられる形を覚えよう」
「分かりました!」
俺は監督の指示に従い、フォームを修正した。
左足を少し低く上げる。
重心を安定させる。
身体の回転を意識する。
そして、腕を自然に振る。
シュッ。
「おっ、いいな!」
山本コーチが声を上げた。
「さっきより動きが滑らかになったぞ」
「本当ですか?」
「ああ」
なるほど。
確かに、さっきより投げやすい。
余計な力が抜けている。
これはいい変化だ。
そのとき。
『ピロン♪』
聞き慣れた電子音が頭の中に響いた。
――――――――――――――――――
【投球動作解析】
フォームを分析しています。
【現在の評価】
下半身の安定性:B
体重移動:B
身体の回転:A
腕の振り:B
リリースの再現性:B
総合評価:B
【改善点】
・軸足の安定性
・踏み出し位置の再現性
・投球動作の無駄を軽減
【推奨】
低負荷のシャドーピッチング
バランストレーニング
――――――――――――――――――
(……おお!)
さっそく投球動作解析が反応した。
しかも、評価はB。
悪くない。
いや、六歳としてはかなり高い評価なのではないだろうか。
ただし、まだ改善点は多い。
特に軸足の安定性。
これは身体の成長にも関係しているだろう。
今の俺は筋力が不足している。
そのため、投球動作の途中で身体が少しぶれてしまうらしい。
(……なるほどな)
俺は内心で頷いた。
システムの分析と監督の指導。
この二つを組み合わせれば、相当効率よくフォームを改善できそうだ。
◇ ◇ ◇
それから三十分ほど。
俺は田島監督と山本コーチの指導を受けながら、投球フォームの確認を続けた。
もちろん、実際にボールを投げたわけではない。
ほとんどがシャドーピッチングや、身体のバランスを確認する練習だった。
「よし、今日はここまでにしよう」
田島監督が言った。
「えっ、もうですか?」
「もう、じゃない。十分やったぞ」
監督は笑った。
「大事なのは時間じゃなくて内容だ。今の年齢なら、短い時間で集中して練習する方がいい」
「はい!」
俺は素直に頷いた。
確かに、その通りだ。
しかも、システムのコンディション画面を見る限り、疲労はほとんど蓄積していない。
非常に効率のいい練習だったと言える。
「じゃあ、最後に軽くキャッチボールをして終わりにするか」
「はい!」
俺はグローブとボールを持った。
相手は山本コーチ。
距離は短めだ。
「いいか、さっきのフォームを意識して投げてみろ」
「はい!」
俺はボールを握った。
そして、先ほど教わったフォームを思い出す。
左足を軽く上げる。
重心を安定させる。
踏み込む。
身体を回転させる。
腕を振る。
シュッ!
ぱしんっ!
ボールは山本コーチの胸元へ飛んでいった。
「おおっ!」
山本コーチが驚いた声を上げる。
「いいぞ! 今のは凄くいい球だった!」
「ありがとうございます!」
俺は笑顔で答えた。
だが、自分でも驚いていた。
さっきまでと投げる感覚が違う。
余計な力を入れていないのに、ボールが綺麗に飛んでいく。
しかも、狙った場所へ投げやすい。
(……なるほど)
フォームの改善というのは、こういうことか。
単純に球速を上げるだけが投手の成長ではない。
少ない力で効率よく投げる。
それも非常に重要なのだ。
俺は再びボールを握った。
そして、同じフォームで投げる。
ぱしんっ!
またしても胸元。
三球目。
ぱしんっ!
四球目。
ぱしんっ!
ほとんど同じ場所へ飛んでいった。
「……おいおい」
山本コーチが苦笑した。
「朝倉君、本当に一年生か?」
「一年生です!」
「そうだよなあ……」
田島監督も笑っていた。
「これは将来が楽しみだな」
……まあ、そうでしょうね。
何しろ、将来は世界最高の投手になる予定なのだから。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は自室で育成システムを開いていた。
もちろん、今日の投球フォーム解析を確認するためだ。
――――――――――――――――――
【投球動作解析】
練習前:総合評価B
練習後:総合評価B+
【改善された項目】
体重移動:B → A
リリースの再現性:B → A
【現在の課題】
下半身の安定性
投球動作の持続性
身体の成長による筋力不足
【追加評価】
投球効率:向上
――――――――――――――――――
(……いいね)
一日でBからB+。
しかも、二つの項目がA評価になっている。
これはかなり順調だ。
だが、俺はここで一つ気づいた。
フォームの改善だけなら、必ずしも経験点を使う必要はないのではないだろうか。
もちろん、システムによる能力強化は便利だ。
しかし、実際の練習でも技術は向上する。
つまり、普通の練習で改善できる部分は練習で伸ばし、経験点は別の能力に使う。
そうすれば、育成効率をさらに高められるのではないか。
(……これは重要だな)
俺は少し考えた。
パワプロ育成システムは、経験点を使って能力を強化できる。
だが、だからといって全てを経験点に頼る必要はない。
実際の練習でも成長できるのだから。
ならば、経験点はできるだけ効率よく使うべきだ。
例えば、コントロール。
現在F45。
普通の練習でも少しずつ向上している。
ならば、いきなりF50まで上げるより、まずは練習で成長させてから不足分を補う方がいい。
経験点を節約できる。
しかも、実際の練習で身体の使い方も覚えられる。
一石二鳥だ。
(よし。今後はこの方針でいこう)
俺は新しい育成計画を立てた。
練習で伸ばせる部分は練習で。
経験点は、効率の悪い部分や重要な能力の強化に使う。
そして、特殊能力はコツを集めてから取得する。
これなら、かなり効率よく成長できるはずだ。
◇ ◇ ◇
それから二週間。
俺は週末の練習で、投球フォームの改善に取り組み続けた。
もちろん、毎回長時間練習するわけではない。
短時間のシャドーピッチング。
バランストレーニング。
軽いキャッチボール。
そして、フォームの確認。
それを繰り返した。
最初の頃は、投球動作の途中で身体が少しぶれていた。
しかし、最近はかなり安定してきた。
特に左足を踏み出す位置。
これが毎回ほとんど同じになってきた。
投球フォームの再現性が上がったということだ。
そして、ある日の練習。
「朝倉、今日は少しだけストライクを投げる練習をしてみようか」
田島監督が言った。
「はい!」
「十球だけな。無理に速く投げなくていいぞ」
「分かりました!」
俺はマウンドに立った。
相手は中村先輩。
いつも試合で捕手を務めてくれている三年生だ。
「朝倉、真ん中でいいからな!」
「はい!」
俺は頷いた。
そして、ボールを握る。
狙うのは真ん中。
難しいことは考えない。
まずは、正しいフォームで投げること。
それだけを意識する。
初球。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
二球目。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
三球目。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
四球目。
少し外れた。
「ボール!」
五球目。
ストライク。
六球目。
ストライク。
七球目。
ストライク。
八球目。
ストライク。
九球目。
ストライク。
そして十球目。
俺は少しだけ深呼吸した。
フォームを確認する。
左足を上げる。
重心を移動させる。
そして、腕を振る。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
十球中九球がストライク。
しかも、ほとんどが捕手の構えた位置付近だった。
「……おいおい」
中村先輩が驚いた顔をしている。
「朝倉、何だよそのコントロール」
「えへへ」
「いや、笑ってる場合じゃないって!」
中村先輩は笑いながら返球してきた。
「俺でもそんなに狙ったところへ投げられないぞ!」
……いや、先輩は捕手でしょうが。
そう思ったが、口には出さなかった。
田島監督も驚いた様子だった。
「山本」
「はい」
「今の見たか?」
「ええ」
「九球ストライクだぞ」
「しかも、結構いいところに集まってましたね」
監督は腕を組んだ。
「……これは本当に凄いな」
俺は少し照れたように笑った。
まあ、実際にはシステムのおかげなのだが。
それでも、練習の成果が出るのは嬉しかった。
そのとき。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【投球練習評価】
制球練習を完了しました。
【結果】
投球数:10
ストライク:9
ボール:1
【評価】
コントロール:優秀
フォーム再現性:優秀
【報酬】
技術ポイント+40
精神ポイント+25
【自然成長】
コントロールF45 → F47
――――――――――――――――――
(……おお!)
自然成長で二ポイント上がった。
これは嬉しい。
やはり、実際の練習でも能力値は上がるらしい。
しかも、今回は経験点まで獲得している。
まさに理想的な成長だ。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は育成システムを開いた。
現在のコントロールはF47。
育成目標の達成条件はF50以上。
あと三ポイントだ。
しかも、フォームの総合評価もかなり上がっている。
現在はA-。
あと少しでA評価に到達しそうだった。
(……そろそろだな)
俺は能力アップ画面を開いた。
――――――――――――――――――
【能力アップ】
コントロール
F47 → F50
【必要経験点】
技術:70
精神:40
【実行確認】
はい/いいえ
――――――――――――――――――
必要経験点は少ない。
現在の俺なら、十分に支払える。
(……よし)
俺は「はい」を選択した。
『ピロン♪』
身体に、いつもの感覚が走った。
ボールを握る指先。
リリースのタイミング。
身体の向き。
そういった感覚が、さらに鮮明になる。
――――――――――――――――――
【能力アップ完了】
コントロール
F47 → F50
――――――――――――――――――
(よし!)
これで、育成目標の一つを達成した。
そして、画面を閉じようとした瞬間。
『ピロン♪』
新しい通知が表示された。
――――――――――――――――――
【育成目標達成!】
『投手としての基礎完成』
【達成条件】
投球フォームの安定性向上:達成
コントロールF50以上:達成
投球動作解析評価:達成
【達成報酬】
技術ポイント+200
精神ポイント+150
【特別報酬】
『投手育成メニュー拡張』
解放!
――――――――――――――――――
(……よっしゃあ!)
ついに達成した。
投手としての基礎完成。
もちろん、実際にはまだまだ改善すべき部分は多い。
だが、システムの評価では一つの区切りに到達したらしい。
しかも、新しい育成メニューまで解放された。
俺は早速確認する。
――――――――――――――――――
【投手育成メニュー】
新規メニュー解放
・投球フォーム最適化
・コントロール特化練習
・球種別投球解析
・投球効率改善
・試合配球分析
【現在利用可能】
投球フォーム最適化
コントロール特化練習
投球効率改善
試合配球分析
【年齢制限により利用不可】
球種別投球解析
【備考】
身体の成長に伴い、利用可能なメニューが増加します。
――――――――――――――――――
(……なるほど)
球種別投球解析は、まだ使えないらしい。
まあ、当然だ。
今の俺は六歳。
変化球の習得には、まだ身体が成長していない。
無理に覚えようとする必要はないだろう。
それよりも、投球フォーム最適化。
これが気になる。
俺は早速選択した。
――――――――――――――――――
【投球フォーム最適化】
現在の身体能力と投球動作を分析し、最適なフォームを提案します。
【現在の推奨フォーム】
右投げ・オーバースロー
特徴:
・安定した重心移動
・無理のない腕の振り
・高い再現性
・制球力重視
【将来の成長予測】
身体の成長に伴い、球速上昇の余地あり。
推奨フォームは成長段階に応じて調整されます。
――――――――――――――――――
(……ほう)
現在の推奨はオーバースローか。
悪くない。
俺自身、前世でもオーバースローだった。
ただし、今世では身体の成長に合わせてフォームを調整していく必要があるらしい。
それも当然だろう。
六歳の身体と、十八歳の身体では、筋力も骨格も全く違う。
今のフォームが将来も最適とは限らない。
だからこそ、定期的に解析する必要がある。
(……便利だな、本当に)
俺は思わず笑った。
まるで専属の投手コーチが、二十四時間ついているようなものだ。
しかも、身体の状態まで把握してくれる。
これなら、かなり効率よく投手として成長できるだろう。
◇ ◇ ◇
それから数日後。
俺は父さんと一緒に、自宅近くの公園へ来ていた。
今日は軽いキャッチボールだけ。
投球フォームの確認を兼ねた練習だ。
「悠真、最近また投げ方が良くなったな」
「本当?」
「ああ。前より身体の動きが滑らかになってる」
父さんは嬉しそうに笑った。
「監督さんに教わってるんだろ?」
「うん!」
「いい監督さんだな」
「うん!」
俺も頷いた。
実際、田島監督はいい指導者だと思う。
無理に投げ込ませない。
身体の成長を考慮してくれる。
そして、子供たちが野球を楽しむことを大切にしている。
こういう環境で野球を始められたのは、幸運だった。
「じゃあ、いくぞ!」
「うん!」
父さんがボールを投げる。
俺はグローブで捕球した。
ぱしっ!
そして、投げ返す。
シュッ!
ぱしんっ!
「おおっ!」
父さんが驚いた顔をした。
「今の、凄くいい球だったぞ!」
「えへへ」
「ちょっと待ってろ」
父さんはポケットからスマートフォンを取り出した。
「今のフォーム、動画で撮ってみようか」
「動画?」
「ああ。自分の投げ方を見てみると勉強になるぞ」
……なるほど。
いい考えだ。
システムの解析だけでなく、実際の映像でもフォームを確認できる。
これはぜひ試してみたい。
「うん!」
俺は頷いた。
父さんがスマートフォンを構える。
「じゃあ、いつもどおり投げてみろ」
「分かった!」
俺はボールを握った。
左足を上げる。
重心移動。
身体の回転。
そして、腕を振る。
シュッ!
ぱしんっ!
「よし、撮れた!」
父さんが画面を見せてくれた。
そこには、ボールを投げる俺の姿が映っていた。
(……おお)
想像以上に綺麗なフォームだった。
もちろん、まだ身体は小さい。
球速も七十キロ台。
だが、投球動作そのものはかなり安定している。
前世の高校時代より、フォームだけなら完成度が高いかもしれない。
そう思えるほどだった。
「悠真、これ見てどう思う?」
父さんが尋ねてきた。
「……もうちょっと足を真っすぐ出した方がいいかな?」
俺は素直に答えた。
すると、父さんが目を丸くした。
「……お前、そんなことまで分かるのか?」
「うん!」
「……すげえなあ」
父さんは苦笑した。
「父さんが一年生の頃なんて、そんなこと考えてなかったぞ」
まあ、俺の精神年齢はすでに三十歳を超えているので。
とは言えない。
俺は笑って誤魔化した。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は自室で育成システムを開いた。
そして、現在の能力を確認する。
――――――――――――――――――
【朝倉悠真】
年齢:6歳
投打:右投右打
ポジション:投手・遊撃手・外野手
【野手能力】
弾道:1
ミート:F40
パワー:G20
走力:F32
肩力:G28
守備力:F40
捕球:F40
【投手能力】
球速:74km/h
コントロール:F50
スタミナ:G19
変化球:なし
【特殊能力】
アベレージヒッター
【投球フォーム評価】
A-
――――――――――――――――――
(……順調だな)
着実に成長している。
特にコントロール。
ついにF50まで到達した。
成人選手を基準にすれば、まだ平均以下の数値だ。
しかし、小学一年生としては十分すぎる。
しかも、投球フォームの完成度も上がっている。
これなら、今後はさらに安定した投球ができるだろう。
ただし、球速は相変わらず七十四キロ。
現時点では、これ以上大きく伸ばすことはできない。
まあ、焦る必要はない。
身体の成長を待ちながら、技術を磨けばいい。
そして、もう少し成長したら変化球を覚える。
さらに中学生になれば、本格的な筋力トレーニングも始められるだろう。
高校生になる頃には、百五十キロを超えるストレートを投げられるようになっていたい。
そして、プロ入りする頃には百六十キロ。
最終的には百七十キロ以上。
そんな投手になるつもりだ。
もちろん、打者としても同じくらい成長する。
ミート。
パワー。
走力。
肩力。
守備力。
捕球。
全てSランクを目指す。
さらに、金特殊能力も大量に取得する。
投げても、打っても、走っても、守っても。
全てにおいて最高の選手になる。
それが俺の目標だ。
そして、そのための準備は着実に進んでいる。
俺は満足して画面を閉じた。
その瞬間。
『ピロン♪』
新しい通知が表示された。
――――――――――――――――――
【育成イベント予告】
『初めての球速測定会』
桜台フェニックスで球速測定会が開催される予定です。
【イベント目標】
・球速測定に参加する
・自己最高記録を更新する
【特別報酬】
筋力ポイント
技術ポイント
投手特殊能力のコツ獲得チャンス
――――――――――――――――――
(……球速測定会?)
俺は思わず目を見開いた。
なるほど。
次は球速測定か。
現在の最高球速は七十四キロ。
強化上限は七十五キロ。
つまり、今の段階では大幅な記録更新は難しい。
しかし、フォームの改善によって、実際の球速が少し上がっている可能性はある。
しかも、イベント報酬には投手特殊能力のコツまで含まれている。
(……これは楽しみだな)
俺は自然と笑みを浮かべた。
投手としての成長を確認する絶好の機会だ。
しかも、他のチームメイトたちの球速も分かる。
特に四年生の先輩たちが、どれくらいの球速を投げるのか気になるところだ。
そして、俺自身の現在地も確認できる。
小学一年生。
六歳。
最高球速七十四キロ。
この数字が、どれほどのものなのか。
次の測定会で、改めて確かめてみよう。
俺は小さく拳を握った。
「……よし」
投手としても。
打者としても。
まだまだ強くなれる。
そして、いつか必ず世界最高の二刀流選手になる。
そんな未来を思い描きながら、俺は布団に潜り込んだ。
翌日も学校だ。
しっかり眠って、身体を成長させなければならない。
史上最強の二刀流選手への道は、まだ始まったばかりなのだから。
次回予告(本文外)
第十四話「球速測定会、六歳の怪物」
桜台フェニックスで球速測定会が開催される。
四年生の主力投手たちが次々と記録を出す中、小学一年生の悠真も測定に参加。
フォーム改善の成果を発揮した悠真の投球は、監督やコーチだけでなく、チームメイトや保護者たちを驚かせることになる。
さらに、システムには投手としての新たな特殊能力取得条件が表示されるのだった。