転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある 作:1番道路
球速。
それは投手の能力を表す、最も分かりやすい数字の一つだ。
百四十キロ。
百五十キロ。
百六十キロ。
数字が大きくなるほど、一般的には打者が対応するのも難しくなる。
もちろん、球速だけで投手の実力が決まるわけではない。
コントロールや変化球、投球フォーム、配球など、重要な要素はいくらでもある。
それでも、速い球というのは魅力的だ。
何しろ、速いというだけで打者にとって大きな脅威になるのだから。
そして俺が目指しているのは、百七十キロを超えるストレートを投げる投手である。
前世では夢物語だった数字。
しかし、今世の俺にはパワプロ育成システムがある。
努力を重ね、身体を成長させ、経験点を使って能力を高めていけば、いずれ到達できるはずだ。
もっとも、現在の最高球速は七十四キロ。
目標までは、まだ百キロ近い差がある。
何しろ俺は小学一年生。
六歳なのだから。
そんな俺は現在、桜台小学校のグラウンドに来ていた。
「悠真! 今日は球速測定だぞ!」
「知ってるよ!」
大地が興奮した様子で駆け寄ってくる。
「俺、絶対七十キロ出すからな!」
「頑張って!」
「悠真は何キロ目指すんだ?」
「自己ベストかな」
「なんだよ、それ!」
大地が笑った。
「もっと大きい目標にしろよ!」
「じゃあ、七十五キロ!」
「おお! いいじゃん!」
大地は満足そうに頷いた。
……実際、今の俺にとって七十五キロはかなり重要な数字だ。
育成システムが表示する、現在の球速上限。
フォームを改善したことで、そこに到達できる可能性は十分にある。
だが、無理に力を入れるつもりはない。
肩や肘を痛めてまで、たった一キロ記録を伸ばす必要などないのだから。
◇ ◇ ◇
「よーし、集合!」
田島監督の声が響いた。
グラウンドにいた子供たちが一斉に集まる。
「今日は予定どおり球速測定を行う!」
「おおー!」
「やった!」
「俺、百キロ出す!」
「無理だろ!」
あちこちから声が上がった。
監督は苦笑しながら手を叩く。
「落ち着け。今日は球速を競う大会じゃないぞ」
その言葉に、子供たちが静かになった。
「自分が今どれくらいの球を投げられるか、確認するための測定だ。無理に速く投げようとしてフォームを崩す必要はない」
「はい!」
「それから、投げる球数は学年や身体の状態に合わせて制限する。痛みがある選手は測定しない。いいな?」
「はい!」
うん。
相変わらず、いい監督だ。
こういう指導者の下で野球ができるのはありがたい。
「今日は知り合いの方からスピードガンを借りている。せっかくだから、希望する選手は測定してみよう」
山本コーチが黒い測定器を取り出した。
いかにもスピードガンといった形状だ。
俺は思わず目を輝かせた。
(おお、本物だ)
前世では何度か使ったことがある。
高校時代、初めて百二十キロを記録したときは随分と嬉しかったものだ。
結局、俺の前世での最高球速は百三十キロ台前半。
高校球児としては、決して速い方ではなかった。
それでも、当時は必死に練習した。
百四十キロを投げられるようになりたかった。
だが、その夢は叶わなかった。
今世では違う。
百四十キロどころか、百七十キロを目指している。
そう考えると、何とも不思議な気分だった。
「まずは四年生から測定するぞ!」
監督の声で、測定会が始まった。
◇ ◇ ◇
最初に投げたのは、四年生の藤原先輩だった。
桜台フェニックスのエースである。
身長は小学四年生としては平均的だが、投球フォームは安定している。
市内大会でも先発投手として何度も登板していた。
「藤原、準備できたか?」
「はい!」
「じゃあ、いつもどおり投げてみろ」
藤原先輩が頷いた。
捕手の中村先輩がミットを構える。
藤原先輩は振りかぶった。
左足を上げる。
体重移動。
そして、腕を振り抜く。
シュッ!
ぱしんっ!
山本コーチがスピードガンを確認する。
「八十三キロ!」
「おおー!」
子供たちから歓声が上がった。
「いいぞ藤原!」
「もう一球!」
二球目。
八十五キロ。
三球目。
八十四キロ。
最高球速は八十五キロだった。
「よし、いいぞ!」
監督が頷いた。
「前より少し速くなったな」
「ありがとうございます!」
藤原先輩は嬉しそうに笑った。
続いて、四年生の山岸先輩。
こちらはコントロール重視の投手だ。
最高球速は七十九キロ。
本人は少し悔しそうだったが、監督は笑って言った。
「山岸はコントロールが武器だからな。球速だけで判断する必要はないぞ」
「はい!」
その通りだ。
球速は投手能力の一つにすぎない。
速い球を投げることだけが、いい投手の条件ではないのだから。
その後も次々と選手たちが測定を行った。
四年生の主力は、おおむね七十キロ台後半から八十キロ台。
三年生は六十キロ台から七十キロ台。
もちろん個人差はあるが、現在のチームの実力を知るには十分な結果だった。
そして、二年生の番になった。
「次、佐藤!」
「はい!」
大地が元気よく返事をした。
「悠真! 見てろよ!」
「頑張れ!」
俺は笑って答えた。
大地はマウンドへ向かい、少し緊張した様子でボールを握った。
捕手がミットを構える。
大地が振りかぶる。
そして、腕を振った。
シュッ!
ぱしんっ!
「六十四キロ!」
「おお!」
大地が嬉しそうに笑った。
二球目。
六十六キロ。
三球目。
六十五キロ。
結果は最高六十六キロだった。
「くっそー! 七十キロ届かなかった!」
大地が悔しそうに言った。
俺は近づいて声をかける。
「でも、いい球だったよ!」
「そうか?」
「うん。前より速くなってると思う」
「へへっ、そうかな!」
大地はすぐに笑顔になった。
こいつは本当に分かりやすい。
まあ、そこがいいところなのだが。
「次、朝倉!」
田島監督の声が響いた。
……来た。
ついに俺の番だ。
◇ ◇ ◇
「悠真、頑張れよ!」
「うん!」
大地に見送られ、俺はマウンドへ向かった。
もちろん、今の俺にとっては少々大きく感じるマウンドだ。
身体の大きな四年生と比べれば、俺は明らかに小さい。
しかし、投球フォームには自信がある。
この数週間、田島監督と山本コーチの指導を受けながら、何度もフォームを確認してきた。
しかも、育成システムの投球動作解析機能まで活用している。
現在のフォーム評価はA-。
六歳としては、かなり完成度が高いはずだ。
「朝倉、無理するなよ」
田島監督が声をかけた。
「はい!」
「今日は三球だけだ。いつもどおり投げればいい」
「分かりました!」
俺は頷いた。
そして、ボールを握る。
目の前には中村先輩。
いつもの捕手だ。
「朝倉、真ん中でいいぞ!」
「はい!」
俺は軽く深呼吸した。
そして、構える。
(……さて)
現在の最高球速は七十四キロ。
ただし、これはシステムが表示する能力値だ。
実際の測定で同じ数字が出るとは限らない。
投げる環境や測定条件によっても差があるだろう。
だが、今のフォームなら十分に出せるはずだ。
俺は左足を上げた。
重心を安定させる。
身体を回転させる。
そして、腕を振る。
シュッ!
ぱしんっ!
中村先輩のミットにボールが収まった。
「ナイスボール!」
捕手から声が飛ぶ。
山本コーチがスピードガンを確認した。
「……ん?」
少し首を傾げる。
そして、もう一度画面を見る。
「七十二キロ」
「おおー!」
周囲の子供たちから歓声が上がった。
「一年生で七十二!?」
「すげえ!」
「大地より速いじゃん!」
「うるせえ!」
大地が反論している。
俺は思わず笑いそうになった。
だが、まだ一球目だ。
ここから少しずつ調整していこう。
「朝倉、もう一球いけるか?」
「はい!」
俺は頷いた。
そして、二球目。
今度は踏み出す足の位置を意識する。
重心を安定させる。
腕を自然に振る。
シュッ!
ぱしんっ!
「七十四キロ!」
山本コーチが声を上げた。
「おおっ!」
「速え!」
「一年生なのに!」
周囲がざわついた。
田島監督も驚いた様子だった。
「……七十四か」
監督は腕を組んだ。
「フォームを直してから、ずいぶん良くなったな」
山本コーチが頷く。
「ええ。無理に力を入れてないのがいいですね」
その通りだ。
今の俺は、力任せに速球を投げているわけではない。
正しいフォームで、効率よく身体を使っている。
その結果として、七十四キロの球が投げられているのだ。
そして、最後の一球。
(……よし)
俺はボールを握り直した。
システムの表示では、現在の球速上限は七十五キロ。
そこに到達できれば、今の段階では十分だ。
だが、無理に力を入れるつもりはない。
いつもどおり。
自然なフォームで投げる。
それだけだ。
俺は左足を上げた。
重心を移動させる。
身体を回転させる。
そして、腕を振り抜いた。
シュッ!
ぱしんっ!
綺麗な捕球音が響いた。
山本コーチがスピードガンを確認する。
そして。
「……七十五キロ!」
一瞬、周囲が静かになった。
次の瞬間。
「うおおおっ!」
「すげええ!」
「一年生で七十五!?」
グラウンドが歓声に包まれた。
大地が真っ先に駆け寄ってくる。
「悠真! 七十五だぞ!」
「うん!」
「俺より九キロも速いじゃん!」
「大地も頑張れば伸びるよ!」
「絶対追いついてやる!」
大地は悔しそうにしながらも笑っていた。
俺も笑い返す。
そして、その瞬間。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【育成イベント達成!】
『初めての球速測定会』
【測定結果】
一球目:72km/h
二球目:74km/h
三球目:75km/h
【最高球速】
75km/h
【自己最高記録更新】
74km/h → 75km/h
【達成報酬】
筋力ポイント+100
技術ポイント+100
精神ポイント+50
――――――――――――――――――
(……よっしゃ!)
目標達成。
しかも、経験点まで獲得できた。
ただし、これだけではなかった。
『ピロン♪』
新しい通知が表示される。
――――――――――――――――――
【特別評価】
『高い投球再現性』
限られた投球数で安定した投球動作を維持しました。
【獲得コツ】
『球持ち○』
コツLv.1
【追加評価】
フォーム再現性:A
――――――――――――――――――
(……おおっ!)
投手特殊能力のコツだ。
しかも、球持ち○。
これは嬉しい。
球持ち○は、打者から球の出どころを見えにくくする特殊能力だ。
球速そのものが上がるわけではないが、体感速度に影響する。
今の俺のように、球速がまだ十分でない投手にとっては非常に有用だろう。
しかも、将来的にも役立つ。
百七十キロを超える速球に球持ち○が加わったら、打者にとっては相当厄介なはずだ。
(……これはぜひ取得したいな)
俺は自然と笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
「……七十五キロか」
田島監督は、測定結果を見ながら呟いた。
隣には山本コーチが立っている。
「凄いですね」
「ああ」
「一年生であの球速は、なかなか見ませんよ」
「そうだな」
監督は頷いた。
しかし、その表情は単純な驚きだけではなかった。
「ただ、球速以上に気になることがある」
「何ですか?」
「フォームだよ」
田島監督はマウンドを見つめた。
「朝倉は、投げるたびにフォームがほとんど変わらない」
「確かにそうですね」
「しかも、無理に力を入れていない」
山本コーチも頷く。
「普通、一年生が速い球を投げようとすると、どうしても力んでしまいますからね」
「ああ。でも朝倉は違う」
田島監督は腕を組んだ。
「自然なフォームで、安定して投げている」
それこそが、最も驚くべき点だった。
七十五キロという数字も十分に優秀だ。
しかし、それ以上に投球フォームの完成度が異常だった。
小学一年生とは思えない重心移動。
滑らかな身体の回転。
安定したリリースポイント。
そして、無駄の少ない腕の振り。
「……将来、相当な投手になるかもしれんな」
田島監督が呟く。
山本コーチも頷いた。
「ええ。しかも、打撃もあれだけ上手いですからね」
「そうなんだよなあ……」
監督は苦笑した。
「普通なら、どちらかに専念させたくなるところだが」
「本人は両方やりたいそうですしね」
「ああ」
田島監督は少し考えた。
そして、笑った。
「まあ、いいじゃないか。まだ一年生だ」
「そうですね」
「今から可能性を狭める必要はない」
そう言って、監督はマウンドの方を見た。
そこでは、悠真が大地と楽しそうに話している。
まだ六歳。
将来どうなるかなど、誰にも分からない。
だが、あの少年が特別な才能を持っていることだけは、間違いなさそうだった。
◇ ◇ ◇
測定会が終わった後。
俺はいつもの守備練習に参加していた。
今日は球速測定を行ったので、それ以上の投球練習はしない。
身体への負担を考えれば、当然の判断だ。
俺自身も異論はなかった。
それに、守備練習だって十分に楽しい。
「朝倉、いくぞ!」
「はい!」
山本コーチがノックを打つ。
ショートゴロ。
俺は素早く移動し、捕球。
一塁へ送球する。
「アウト!」
続いて三遊間へのゴロ。
今度は少し難しい。
俺は横へ移動し、グローブを伸ばした。
ぱしっ!
捕球成功。
しかし、身体が流れている。
ここから無理に一塁へ投げれば、送球が逸れる可能性がある。
(……なら)
俺は一度体勢を立て直した。
そして、一塁へ送球。
ぱしんっ!
「アウト!」
「ナイスショート!」
コーチの声が響いた。
俺は軽く手を上げた。
投手としての練習を始めたからといって、野手としての育成を疎かにするつもりはない。
むしろ、守備力もさらに高めたい。
目標はオールS。
全ての能力を最高水準まで育てることだ。
もちろん、今すぐは無理だ。
だが、少しずつ成長していけばいい。
何しろ、まだ六歳なのだから。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は自室で育成システムを開いていた。
まずは、今日の測定結果を確認する。
――――――――――――――――――
【朝倉悠真】
年齢:6歳
投打:右投右打
【投手能力】
球速:75km/h
コントロール:F50
スタミナ:G19
変化球:なし
【投球フォーム】
右投げ・オーバースロー
フォーム評価:A
【特殊能力】
アベレージヒッター
【特殊能力コツ】
球持ち○:Lv.1
対エース○:Lv.3
チャンス:Lv.3
盗塁:Lv.1
対ピンチ:Lv.1
――――――――――――――――――
(……順調だな)
球速が七十五キロに到達した。
しかも、フォーム評価もAになった。
投手としては、かなり大きな成長だろう。
ただし、ここから先は身体の成長を待つ必要がある。
現在の球速上限は七十五キロ。
これ以上は、今の身体では強化できない。
無理に球速を上げようとしても、システムが警告を表示する。
実際、能力アップ画面を開くと、球速の項目には制限がかかっていた。
――――――――――――――――――
【球速能力】
現在:75km/h
成長段階上限:75km/h
【次段階解放条件】
身体の成長
筋力・骨格の発達
投球フォームの安定性維持
【注意】
現段階での無理な球速向上は推奨されません。
――――――――――――――――――
(……まあ、そうだよな)
俺は納得して画面を閉じた。
焦る必要はない。
今は技術を磨きながら、身体が成長するのを待てばいい。
それに、他にもできることはある。
特に特殊能力。
今回、新しく球持ち○のコツを獲得した。
これを取得すれば、球速がそれほど速くなくても打者を抑えやすくなるかもしれない。
ただし、コツレベルはまだ一。
必要経験点の割引率は小さい。
もう少しコツを集めてから取得した方が効率的だろう。
(……今は温存かな)
俺はそう判断した。
何しろ、これから先の野球人生は長い。
経験点を無駄遣いする必要はない。
それよりも、今のうちに基礎能力を少しずつ高めておこう。
そう考えて能力画面を見ていると、突然、新しい通知が表示された。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【育成目標更新】
『次の成長段階へ』
現在の成長段階:
幼少期・基礎形成段階
【次段階】
少年期・初期成長段階
【解放条件】
・年齢7歳以上
・基礎運動能力の発達
・投球フォーム評価B以上
・打撃技術評価B以上
【次段階解放時】
身体能力の成長上限緩和
新規練習メニュー解放
投手・野手能力の強化範囲拡大
――――――――――――――――――
(……おお!)
ついに来た。
次の成長段階。
七歳になれば、身体能力の上限が緩和されるらしい。
しかも、新しい練習メニューまで解放される。
これは非常に大きい。
現在の俺は、まだ六歳。
次の誕生日までは少し時間がある。
だが、それまでに条件を満たしておけば、七歳になった瞬間に次の段階へ進める可能性がある。
(……よし)
俺は小さく拳を握った。
やるべきことは明確だ。
今は身体の成長を待ちながら、投球フォームと打撃技術をさらに磨く。
そして、七歳になったら能力上限を引き上げる。
その後も少しずつ成長を続ける。
目標は、史上最強の二刀流選手。
投手としては百七十キロを超える速球と、多彩な変化球。
打者としては打率四割、年間六十本以上のホームラン。
そして、全能力Sランク。
金特殊能力も大量に取得する。
そんな選手になるための道筋が、少しずつ見えてきた。
俺は満足して画面を閉じた。
そして、布団に潜り込む。
明日は学校だ。
しっかり眠って、身体を成長させなければならない。
何しろ、今の俺にとって最も重要なのは、健康に成長することなのだから。
それに、七歳になれば新しい段階が始まる。
また一つ、世界最高の野球選手に近づける。
そう考えると、楽しみで仕方がなかった。
「……早く大きくなりたいな」
俺は小さく呟いた。
そして、目を閉じた。
翌日もきっと、楽しい一日になるだろう。
野球ができる。
それだけで、十分に幸せなのだから。
次回予告(本文外)
第十五話「七歳の誕生日、新たな成長段階」
七歳の誕生日を迎えた悠真は、育成システムの新たな成長段階を解放する。
これまで制限されていた球速やパワーの上限が緩和され、投打両方の育成がさらに加速。
そして、これまで温存していた大量の経験点を活用し、悠真は小学二年生にして常識外れの能力へと近づいていく。