転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある 作:1番道路
小学二年生になって、一か月が経過した。
最近の俺は、なかなか忙しい。
学校。
宿題。
友達との遊び。
そして、野球。
前世では会社と自宅を往復するだけの毎日だったことを考えると、随分と充実した生活である。
もっとも、精神年齢だけなら三十代半ばの俺にとって、小学二年生の授業は少々退屈だった。
だからといって、授業中に寝るわけにもいかない。
母さんには勉強も頑張ると約束しているし、学校生活を疎かにするつもりもないからだ。
そんなわけで、平日は真面目な小学生。
週末は野球少年。
という二重生活を送っていた。
……いや、別に二重生活というほど大げさなものでもないか。
「悠真!」
「ん?」
放課後。
校門を出たところで、背後から声をかけられた。
振り返ると、ランドセルを背負った大地が走ってくる。
「今日、キャッチボールできるか?」
「宿題が終わったらね」
「よっしゃ!」
大地は嬉しそうに笑った。
ちなみに、大地は三年生になっている。
身長も少し伸び、以前より身体つきがしっかりしてきた。
最近は守備だけでなく、打撃もかなり上達している。
俺が最初に出会った頃とは、見違えるほどだ。
「そういえばさ」
「なに?」
「今度、また大会あるらしいぞ」
「大会?」
「うん! 監督が言ってた!」
……ほう。
新年度最初の公式大会か。
これは楽しみだ。
去年は市内低学年大会で優勝したものの、その後の地区交流大会では初戦敗退。
チームとしての実力不足を痛感する結果となった。
だが、それから随分と練習してきた。
特に守備と走塁。
以前よりも連携が良くなっているはずだ。
今年はどこまで勝ち進めるのか。
今から楽しみだった。
◇ ◇ ◇
翌日の土曜日。
桜台フェニックスのグラウンドには、いつもより多くの子供たちが集まっていた。
理由は新入団員である。
今年は一年生が三人、二年生が二人入団したらしい。
その中には、野球経験がほとんどない子もいる。
俺が入団した頃を思い出すな。
……もっとも、俺の場合は前世の記憶があったので、全くの初心者ではなかったが。
「おはようございます!」
俺が挨拶すると、田島監督が笑顔で迎えてくれた。
「おう、朝倉! おはよう!」
「おはようございます!」
「今日は新しい子たちもいるから、最初は基本練習から始めるぞ」
「はい!」
「お前も先輩なんだから、いろいろ教えてやってくれ」
「分かりました!」
なるほど。
ついに俺も教える側か。
前世では高校野球まで経験しているのだから、基本的なことなら教えられる。
もっとも、小学二年生があまり偉そうにするのもどうかと思うが。
「朝倉君!」
「ん?」
声をかけてきたのは、小柄な一年生だった。
少し緊張した様子で、グローブを握っている。
「ぼく、田中翔っていいます!」
「朝倉悠真だよ。よろしく!」
「よろしくお願いします!」
翔はぺこりと頭を下げた。
なかなか礼儀正しい子だ。
「野球、初めて?」
「はい!」
「そっか。じゃあ、まずキャッチボールからやってみようか」
「はい!」
俺は少し離れた場所に立った。
翔がボールを投げる。
しかし、ボールは大きく右へ逸れた。
「あっ!」
翔が慌てた声を上げる。
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫だよ!」
俺はボールを拾いに行った。
そして、笑って返す。
「最初はみんなそんな感じだから」
「そうなんですか?」
「うん。少しずつ練習すれば上手くなるよ」
もちろん、俺自身は最初からある程度投げられた。
だが、それは特殊な事情があるからだ。
普通の一年生なら、これくらいが当たり前だろう。
「じゃあ、まずは近いところから投げようか」
「はい!」
距離を短くして、ゆっくりキャッチボールを続ける。
すると、十分ほどで翔の送球が少しずつ安定してきた。
「おっ、今のよかったよ!」
「本当ですか!?」
「うん!」
翔は嬉しそうに笑った。
……いいな。
こういうのも楽しい。
自分が上手くなるだけでなく、他人が成長するのを見るのも悪くない。
そのとき。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【チーム貢献評価】
『後輩への指導』
新入団員の基礎技術向上に貢献しました。
【報酬】
技術ポイント+10
精神ポイント+15
――――――――――――――――――
(……おお)
やっぱり経験点が入るのか。
以前、大地に打撃のアドバイスをしたときも報酬が貰えた。
どうやら、他の選手の成長を手助けすることも、システム上では評価対象らしい。
これはありがたい。
もちろん、経験点目的だけで教えるつもりはない。
チームメイトが上手くなれば、それだけチームも強くなる。
俺にとっても十分に意味があることだった。
◇ ◇ ◇
「よーし、全員集合!」
田島監督の声が響いた。
選手たちが集まる。
「今日は大会について話がある」
おっ。
どうやら大地の言っていた話らしい。
「来月から、市内の春季少年野球大会が始まる」
「おおー!」
子供たちから歓声が上がった。
「ただし、今回は去年とは少し違う」
監督が続ける。
「去年の低学年大会は四年生以下だったが、今回は五年生以下の部にも参加することになった」
……五年生以下?
なるほど。
つまり、これまでより一学年上の選手たちと対戦する機会があるわけだ。
俺は少し興味を惹かれた。
五年生ともなれば、身体能力はさらに高くなる。
球速百キロを超える投手も出てくるだろう。
打撃力も、四年生とは比較にならない選手がいるかもしれない。
今の俺は七歳。
小学二年生だ。
五年生とは三学年差。
さすがに簡単な相手ではないだろう。
「もちろん、四年生以下の大会にも参加する。ただし、五年生以下の大会では上級生中心の編成になるからな」
監督は全員を見渡した。
「出場機会は練習で判断する。学年だけで決めるつもりはない」
「はい!」
俺は元気よく返事をした。
これは大きなチャンスだ。
四年生以下の大会だけでなく、五年生以下の大会にも出られれば、経験できる試合数が増える。
しかも、相手が強いほどシステムの報酬も増える。
願ってもない話だった。
「朝倉」
「はい!」
「お前には四年生以下の大会で主力として出てもらう。それから、五年生以下の大会でもベンチ入りを考えている」
「ありがとうございます!」
「ただし、五年生以下では野手中心だ。投手としては無理をさせない」
「はい!」
当然だ。
今の俺はまだ七歳。
五年生の強打者相手に投げるには、球速もスタミナも不足している。
もちろん、コントロールには自信がある。
だが、球速七十八キロでは、さすがに厳しい場面もあるだろう。
それに、投手としての登板数が増えすぎるのも良くない。
監督の判断は妥当だった。
◇ ◇ ◇
その日の練習では、久しぶりに実戦形式の打撃練習が行われた。
俺は五年生の投手を相手に打席へ入ることになった。
相手は、今年から上級生チームの主力になった吉岡先輩。
右投げの投手で、球速は九十キロ台後半らしい。
なかなか速い。
しかも、五年生だけあって身体も大きい。
「朝倉、いくぞ!」
「はい!」
吉岡先輩が声をかけてきた。
俺はバットを構える。
初球。
シュッ!
(……速い!)
ボールは外角低めへ。
ぱしんっ!
「ストライク!」
俺は見送った。
なるほど。
佐伯先輩と同じくらいの球速か。
いや、少し速いかもしれない。
ただし、フォームはそこまで完成されていない。
力強いが、少し無駄がある。
球速そのものは高いものの、球の出どころは比較的見やすかった。
(……これなら打てるな)
俺はバットを構え直した。
二球目。
内角高め。
「ボール!」
三球目。
外角ストレート。
少し甘い。
(……来た!)
俺は踏み込んだ。
腰を回す。
バットを振り抜く。
カキィンッ!
打球は鋭くライト方向へ飛んだ。
右翼手が前進する。
しかし、打球はその手前に落ちた。
「ナイスバッティング!」
山本コーチが声を上げた。
俺は一塁まで走り、軽く拳を握った。
(……よし)
五年生の投手からヒット。
しかも、なかなかいい当たりだった。
やはり、アベレージヒッターの効果は大きい。
さらに、ミートF40まで強化したことも効いているのだろう。
もちろん、打撃能力そのものはまだ発展途上だ。
だが、技術面では上級生相手にも十分通用する。
これは自信になる。
◇ ◇ ◇
続いて、守備練習。
俺はショートに入っていた。
ただし、今回は五年生も混ざっている。
つまり、打球の強さがこれまでとは違う。
「朝倉、いくぞ!」
「はい!」
山本コーチがノックを打つ。
カキンッ!
強いゴロが三遊間へ飛んだ。
(……速いな)
俺は素早く反応した。
横へ移動する。
グローブを地面に近づける。
ぱしっ!
捕球成功。
しかし、ここから一塁への送球が難しい。
身体が三塁側へ流れている。
俺は一度体勢を立て直した。
そして、送球。
シュッ!
ぱしんっ!
「アウト!」
「おおっ!」
周囲から声が上がった。
「朝倉、いい守備だ!」
山本コーチが褒めてくれた。
「ありがとうございます!」
俺は笑顔で返事をした。
だが、内心では少し考えていた。
(……やっぱり肩力が足りないな)
今回の送球は、何とか間に合った。
だが、実戦で足の速い五年生を相手にしたら、アウトにできなかった可能性もある。
今の肩力はF35。
七歳としては十分高いが、五年生と比べればまだ不足している。
それに、身体の大きさも違う。
守備範囲そのものは技術で補えても、送球距離には限界がある。
(……もう少し肩力を上げたいな)
俺はそう考えた。
幸い、現在の成長上限はF50。
まだ十五ポイントほど伸ばせる余地がある。
経験点も十分にある。
ならば、少し強化してみてもいいだろう。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は自室で育成システムを開いていた。
まずは現在の能力を確認する。
――――――――――――――――――
【朝倉悠真】
年齢:7歳
学年:小学2年生
投打:右投右打
【野手能力】
弾道:1
ミート:F40
パワー:G20
走力:F40
肩力:F35
守備力:F40
捕球:F40
【投手能力】
球速:78km/h
コントロール:F55
スタミナ:G19
変化球:なし
【特殊能力】
アベレージヒッター
――――――――――――――――――
(……ふむ)
改めて見ると、やはり肩力が少し低い。
もっとも、パワーやスタミナの方が低いのだが、こちらは身体の成長を待つ必要がある。
今すぐ改善するなら、肩力だろう。
俺は能力アップ画面を開いた。
――――――――――――――――――
【能力アップ】
肩力
F35 → F40
【必要経験点】
筋力:100
敏捷:40
技術:80
【身体負担評価】
許容範囲内
――――――――――――――――――
(……よし)
俺は「はい」を選択した。
『ピロン♪』
身体に不思議な感覚が走る。
肩の動き。
腕の振り。
体重移動。
それらが、以前より滑らかになったような気がした。
――――――――――――――――――
【能力アップ完了】
肩力:F35 → F40
――――――――――――――――――
(よし!)
これで、少しは送球が安定するだろう。
続いて、走力。
現在F40。
こちらは今のところ十分だが、五年生相手に走塁で勝負するなら、もう少し欲しい。
俺は少し考えた末、F45まで強化することにした。
『走力がF40からF45になりました』
よし。
これで、守備範囲と走塁能力がさらに向上した。
もちろん、身体そのものが急に大きくなるわけではない。
だが、動きの効率が上がることで、実際のプレーにも違いが出るはずだ。
俺は満足して画面を閉じた。
その瞬間。
『ピロン♪』
新しい通知が表示された。
――――――――――――――――――
【育成イベント発生】
『上級生への挑戦』
自分より三学年以上上の選手と対戦しました。
【イベント目標】
・上級生投手から安打を記録する
・上級生の打球を守備で処理する
・上級生中心の公式戦に出場する
【進行状況】
安打記録:達成
守備成功:達成
公式戦出場:未達成
【達成報酬】
筋力ポイント+200
敏捷ポイント+150
技術ポイント+200
精神ポイント+150
【特別報酬】
特殊能力コツ獲得
――――――――――――――――――
(……おお!)
新しいイベントだ。
しかも、すでに二つの条件を達成している。
残るは公式戦出場だけ。
つまり、五年生以下の大会に出場できれば達成できる可能性が高い。
これはぜひとも狙いたい。
何しろ、報酬が大きい。
経験点合計七百ポイント。
さらに特殊能力のコツまで獲得できる。
(……楽しみだな)
俺は自然と笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
それから二週間。
俺たち桜台フェニックスは、春季大会へ向けた練習を続けていた。
その間、俺は五年生の先輩たちと一緒に練習する機会が増えていた。
打撃。
守備。
走塁。
そして、時々投球フォームの確認。
どれも非常に充実した練習だった。
特に打撃。
五年生の投手を相手にすることで、速い球への対応力が少しずつ上がっている。
これまでは九十キロ台のストレートに対して、早めに始動しなければ対応できなかった。
しかし、最近は少し余裕を持ってボールを見られるようになってきた。
もちろん、まだ百キロを超える球に簡単に対応できるわけではない。
だが、少しずつ成長していることは確かだった。
そして、ある日の練習終了後。
「朝倉、ちょっと来てくれ」
田島監督に呼ばれた。
「はい!」
俺は駆け寄った。
監督の隣には山本コーチが立っている。
二人とも、少し真剣な表情だった。
「悠真、来週の春季大会についてなんだが」
「はい!」
「五年生以下の部でも、ベンチ入りしてもらうことにした」
……おお!
ついに来た。
「ありがとうございます!」
「ただし、最初からスタメンとは限らない。相手の投手や試合展開によって判断する」
「分かりました!」
「でも、代打としてはかなり期待してるぞ」
監督は笑った。
「お前の打撃は、五年生相手でも十分通用するからな」
「はい!」
俺は元気よく返事をした。
そして、心の中でガッツポーズを決める。
(……よっしゃ!)
これで、新しいイベントの達成に近づいた。
しかも、五年生以下の公式戦に出られる。
俺にとっては、非常に大きな経験になるだろう。
何しろ、相手は自分より三学年上の選手たち。
身体能力の差は大きい。
だが、技術なら十分に勝負できる。
そして、システムによる強化もある。
どこまで通用するのか、今から楽しみだった。
◇ ◇ ◇
大会前日の夜。
俺は自室で育成システムを開いていた。
現在の能力を確認する。
――――――――――――――――――
【朝倉悠真】
年齢:7歳
学年:小学2年生
投打:右投右打
【野手能力】
弾道:1
ミート:F40
パワー:G20
走力:F45
肩力:F40
守備力:F40
捕球:F40
【投手能力】
球速:78km/h
コントロール:F55
スタミナ:G19
変化球:なし
【特殊能力】
アベレージヒッター
――――――――――――――――――
(……よし)
準備は万端だ。
もちろん、まだ身体能力は低い。
だが、技術面ではかなり自信がある。
特にミート。
アベレージヒッターを取得してから、打撃の安定感は大幅に向上している。
しかも、前世の経験もある。
五年生の投手相手でも、甘い球を見逃さなければ十分にヒットを打てるはずだ。
(……さて、明日はどうなるかな)
俺は少し笑った。
新年度最初の公式戦。
しかも、五年生以下の大会。
これまでとは違う相手と戦える。
実に楽しみだ。
そして、目標はもちろん勝利。
ただし、自分一人が活躍するだけでは駄目だ。
去年の地区交流大会で、それは痛いほど理解した。
だからこそ、今年はチーム全体で勝ちたい。
その中心に立てるような選手になりたい。
俺は画面を閉じた。
そして、布団に潜り込む。
明日は早い。
しっかり眠って、万全の状態で試合に臨まなければならない。
目指すは、史上最強の二刀流選手。
そのための新しい挑戦が、いよいよ始まろうとしていた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
俺たちは春季大会の会場に到着した。
グラウンドには、すでに多くのチームが集まっている。
五年生以下の大会ということもあり、これまでより身体の大きな選手が目立った。
「……でっけえな」
隣で大地が呟いた。
「そうだね」
「悠真、本当に打てるのか?」
「打ってみないと分からないけど……」
俺はグラウンドを見渡した。
そこには、五年生の主力選手たちがいた。
球速百キロを超えそうな投手。
身体の大きな強打者。
守備の上手そうな内野手。
どれも、これまで対戦した四年生とは一段違う雰囲気を持っている。
だが、俺は不思議と怖くなかった。
むしろ、胸が高鳴っていた。
「……楽しみだな」
そう呟くと、大地が呆れたように笑った。
「お前、やっぱり変わってるよ」
「そうかな?」
「普通、もっと緊張するだろ!」
「緊張してないわけじゃないよ」
俺は笑った。
「でも、強い相手と試合するのって楽しいじゃん」
大地は少し考えてから頷いた。
「……まあ、それはそうだな!」
そして、俺たちは一緒に笑った。
そのとき。
『ピロン♪』
聞き慣れた電子音が響いた。
――――――――――――――――――
【公式戦イベント発生】
『春季少年野球大会』
五年生以下の部
【初戦対戦相手】
緑川ホークス
【対戦相手評価】
A
【特別目標】
・公式戦出場
・上級生投手との対戦
・打撃で勝利に貢献する
【追加報酬】
上級生対戦補正
――――――――――――――――――
(……おお)
相手評価A。
いきなり強豪らしい。
しかも、上級生対戦補正まで発生する。
これは嬉しい。
強い相手ほど経験点を稼げる。
そして、経験点を稼げば能力をさらに強化できる。
まさに理想的な育成環境だ。
だが、それ以上に。
俺は純粋に試合が楽しみだった。
七歳。
小学二年生。
まだまだ身体は小さい。
だが、野球の技術なら負けるつもりはない。
そして、これからさらに強くなっていく。
投手としても。
打者としても。
世界最高の二刀流選手になるために。
俺はバットを握り直した。
新年度最初の公式戦。
その始まりを告げる審判の声が、グラウンドに響こうとしていた。
次回予告(本文外)
第十八話「四年生以下の大会、二刀流の本領」
五年生以下の春季大会で強豪投手から適時打を放った悠真。
続いて開幕する四年生以下の大会では、投手としての登板機会も与えられる。
新たに発生した「二刀流の進化」イベントを達成するため、悠真は投打両面での活躍を目指す。
そして、成長した七歳の二刀流選手が、再び公式戦の舞台に立つ。