転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある 作:1番道路
百キロ。
野球経験者なら、この数字が持つ意味を理解できるだろう。
高校野球やプロ野球では、決して速い球速ではない。
しかし、小学生となれば話は別だ。
特に五年生以下の大会では、百キロを超えるストレートを投げられる選手は、間違いなく優秀な投手と言える。
そして今日。
俺たち桜台フェニックスが対戦する緑川ホークスには、そんな投手がいるらしい。
「悠真、あれ見ろよ!」
隣にいた大地が、グラウンドの向こうを指差した。
「すっげえ速いぞ!」
「うん」
俺は相手チームの投球練習を眺めていた。
マウンドに立っているのは、背番号一の少年。
小学五年生。
緑川ホークスのエース、橘颯太。
身長は同年代の中でも高い方だろう。
手足が長く、投球フォームもなかなか綺麗だ。
特に目を引くのは、下半身の使い方だった。
軸足でしっかり体重を支え、前方へ力を伝えている。
腕の振りも速い。
シュッ!
ぱしんっ!
捕手のミットから、乾いた音が響いた。
(……なるほど)
確かにいい投手だ。
前世の経験から考えても、小学五年生としては相当に優秀だろう。
しかも、ただ速いだけではない。
捕手が構えた場所へ、ある程度投げ分けられている。
球速とコントロールを両立した投手。
これは簡単には打てないかもしれない。
「百キロ超えてるんだって!」
大地が興奮した様子で言った。
「百三キロ出したことあるらしいぞ!」
「へえ」
「へえ、じゃないだろ!」
大地が呆れたような顔をした。
「お前、怖くないのか?」
「別に」
「マジかよ……」
俺は小さく笑った。
もちろん、何も考えていないわけではない。
俺の現在の球速は七十八キロ。
橘先輩とは二十五キロ近い差がある。
身体の大きさも、筋力も、当然ながら向こうが上だ。
そして、打撃でも同じことが言える。
俺のミート能力はF40。
アベレージヒッターも持っている。
しかし、パワーはG20。
七歳の身体では、百キロを超える速球を強く打ち返すのは簡単ではない。
だが。
(……だからこそ面白い)
強い投手と対戦できる。
それだけで十分に価値がある。
俺は自然と笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
「集合!」
田島監督の声が響いた。
俺たちはベンチ前に集まる。
「今日の相手は緑川ホークス。かなり強いチームだ」
監督は全員を見渡した。
「特にエースの橘には注意しろ。速い球を投げるから、無理に大きな当たりを狙わなくていい」
「はい!」
「守備も悪くない。まずは確実に走者を出して、次の塁へ進めることを考えよう」
監督は続けた。
「それから、今日は五年生以下の大会だ。いつもより大きな選手が多いが、必要以上に怖がるな」
「はい!」
そして、スタメンが発表された。
一番、センター、高橋先輩。
二番、セカンド、佐々木先輩。
三番、ショート、吉田先輩。
四番、ファースト、松本先輩。
五番、サード、村田先輩。
先発投手は、五年生の吉岡先輩。
そして俺は、予定どおりベンチスタートだった。
少し残念ではあるが、仕方がない。
何しろ、今回は五年生以下の大会。
上級生中心の編成になるのは当然だ。
しかも、俺は七歳。
身体能力では、まだ五年生に及ばない部分が多い。
とはいえ、出場機会がないわけではない。
「朝倉」
「はい!」
田島監督が俺を見た。
「今日は代打で使うつもりだ。いつでも打てるように準備しておけ」
「分かりました!」
「相手が橘でも、いつもどおりの打撃をしてくれ」
「はい!」
俺は元気よく返事をした。
……よし。
出番はありそうだ。
ならば、しっかり準備しておこう。
◇ ◇ ◇
「プレイ!」
審判の声が響いた。
春季少年野球大会、五年生以下の部。
一回戦。
桜台フェニックス対緑川ホークス。
試合開始だ。
先攻は桜台。
つまり、俺たちが先に攻撃する。
マウンドには緑川のエース、橘颯太先輩。
彼は落ち着いた様子でボールを受け取り、投球動作に入った。
先頭打者は高橋先輩。
初球。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
(……速いな)
ベンチから見ても、相当な球威だった。
高橋先輩も少し驚いた様子だ。
二球目。
外角低め。
「ストライクツー!」
三球目。
内角高め。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
三球三振。
見事な立ち上がりだった。
「ナイスボール!」
「いいぞ橘!」
緑川のベンチが盛り上がる。
続く二番打者。
初球はボール。
二球目はストライク。
三球目。
カンッ!
打球はショート方向へ転がった。
相手の遊撃手が軽快に処理する。
一塁へ送球。
「アウト!」
二死走者なし。
そして三番、吉田先輩。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
ファウル。
三球目。
高めのストレート。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
チェンジ。
三者凡退。
(……やっぱり凄いな)
俺はマウンド上の橘先輩を見つめた。
ここまで九球ほど。
ほとんど無駄な球がない。
しかも、速球の威力が高い。
これは本当にいい投手だ。
前世で対戦した高校生の投手の中にも、ここまで完成度の高いフォームを持つ選手はそう多くなかったかもしれない。
もちろん、球速は比較にならない。
だが、小学五年生として考えれば、かなりの逸材だろう。
◇ ◇ ◇
一回裏。
緑川ホークスの攻撃。
桜台の先発は吉岡先輩。
五年生の右腕で、球速は九十キロ台後半。
俺たちのチームでは最も速い球を投げる投手だった。
しかし、緑川の打線もなかなか強力だった。
先頭打者がセンター前ヒット。
続く二番打者が送りバント。
一死二塁。
そして三番打者。
初球を叩いた打球が、左中間へ飛んだ。
「センター!」
高橋先輩が追いかける。
しかし、打球はその前に落ちた。
センター前ヒット。
二塁走者が三塁を回る。
外野からホームへ返球されるが、間に合わない。
「セーフ!」
緑川が先制した。
桜台〇対一緑川。
(……うん)
やはり強い。
投手だけでなく、打線も優秀だ。
しかも、走塁が上手い。
青陵ブルーウイングスほど組織的ではないが、個々の能力が高い印象だった。
さらに四番打者。
初球。
カキィンッ!
強烈な打球が三遊間へ飛んだ。
吉田先輩が飛びつく。
しかし、届かない。
レフト前ヒット。
一死一、二塁。
さらに五番打者が四球を選び、一死満塁。
大ピンチだった。
ここで吉岡先輩が踏ん張る。
六番打者を三振。
七番打者をセカンドゴロ。
何とか追加点を防いだ。
だが、初回から一点を失った。
◇ ◇ ◇
二回表。
桜台の攻撃。
先頭打者は四番、松本先輩。
初球。
橘先輩のストレート。
カキンッ!
打球はレフト方向へ飛んだ。
しかし、左翼手が前進して捕球する。
「アウト!」
続く五番打者は三振。
二死。
六番打者は四球を選んだ。
ようやく走者が出た。
しかし、七番打者はショートゴロ。
チェンジ。
無得点。
(……なかなか打てないな)
俺はベンチで考え込んだ。
橘先輩は、単純に球が速いだけではない。
投球フォームが安定している。
しかも、外角低めと内角高めを上手く使い分けている。
打者からすれば、かなり厄介な配球だ。
だが、弱点がないわけではない。
(……少しだけ、投げ急ぐことがあるな)
特に追い込んだ後。
早く三振を取りたいのか、投球動作が少し速くなることがある。
その結果、球が高めに浮く場面があった。
もちろん、百キロを超えるストレートが高めに来ても、簡単には打てない。
だが、そこを狙う価値はあるだろう。
俺は橘先輩のフォームを観察し続けた。
◇ ◇ ◇
三回裏。
スコアは〇対二。
緑川ホークスが二点リードしていた。
吉岡先輩は粘り強く投げているが、相手打線を完全には抑えられていない。
一方、橘先輩は相変わらず好投を続けていた。
ここまで桜台の安打は一本だけ。
しかも、得点圏に走者を進めることすら難しい。
「……強いな」
ベンチで松本先輩が呟いた。
俺も頷いた。
「いいピッチャーですね」
「ああ。速いだけじゃない」
「はい」
松本先輩は少し考えた。
「朝倉、お前なら打てそうか?」
「分かりませんけど……」
俺は橘先輩を見つめた。
「打ってみたいです」
そう答えると、松本先輩は笑った。
「お前らしいな」
そして四回表。
ついに、そのときが訪れた。
◇ ◇ ◇
「朝倉!」
田島監督に呼ばれた。
「はい!」
「準備しろ。次、代打でいくぞ」
……来た。
俺はバットを手に取った。
「分かりました!」
現在の状況は四回表。
二死二塁。
スコアは〇対二。
ここで一本出れば、得点できる可能性がある。
そして、相手投手は橘颯太。
小学五年生の本格派右腕。
球速は百キロを超える。
七歳の俺にとって、これまでで最も厳しい相手の一人だろう。
だが。
(……面白いじゃないか)
俺は自然と笑みを浮かべた。
その瞬間。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【育成イベント進行】
『上級生への挑戦』
上級生中心の公式戦に出場します。
【対戦投手】
橘颯太
小学5年生
右投右打
最高球速:103km/h
【特別目標】
・橘颯太から安打を記録する
・打席で優秀な評価を獲得する
【追加報酬】
技術ポイント+200
精神ポイント+150
【特殊能力コツ】
『対エース○』
獲得チャンス
――――――――――――――――――
(……おお!)
やはり、特別イベントが発生した。
しかも、対エース○のコツを獲得できる可能性がある。
現在のコツレベルは三。
これがさらに上がれば、取得に必要な経験点を大幅に節約できるかもしれない。
これは絶対に狙いたい。
俺はバットを握り直した。
そして、打席へ向かった。
◇ ◇ ◇
「代打、朝倉君」
審判の声が響いた。
俺がバッターボックスへ向かうと、相手ベンチがざわついた。
「……小さくない?」
「あれ、何年生?」
「二年生らしいぞ」
「二年生!?」
……またこの反応か。
まあ、仕方がない。
小学二年生が五年生以下の大会に出場しているのだから、驚くのも当然だろう。
しかも、俺はまだ七歳。
身体も小さい。
五年生と並べば、明らかに一回り以上違う。
だが、野球は身体の大きさだけで決まるスポーツではない。
俺はバッターボックスに入った。
そして、橘先輩と向き合う。
橘先輩は少し驚いたような顔をした。
しかし、すぐに真剣な表情へ戻った。
どうやら、手加減するつもりはないらしい。
ありがたい。
俺も本気で勝負したいのだから。
「プレイ!」
審判の声。
橘先輩が振りかぶる。
初球。
シュッ!
(……速い!)
ボールが外角低めへ飛んできた。
ぱしんっ!
「ストライク!」
俺は見送った。
なるほど。
確かに百キロを超えている。
しかも、球の伸びがいい。
前世なら余裕を持って対応できた球速だ。
しかし、今の俺は七歳。
身体能力が全く違う。
バットの重さ。
スイングスピード。
反応速度。
全てにおいて制限がある。
(……これは簡単じゃないな)
俺はバットを構え直した。
二球目。
内角高め。
シュッ!
俺は身体を少し引いた。
「ボール!」
ワンボール、ワンストライク。
三球目。
外角へのストレート。
今度はストライクゾーン。
(……振る!)
俺はバットを出した。
カンッ!
打球は一塁側へ飛ぶ。
「ファウル!」
タイミングが少し遅れた。
やはり、百キロを超える球は速い。
しかも、橘先輩のフォームは非常に良い。
球の出どころが見えにくいのだ。
(……なるほど)
俺は少し考えた。
今の俺が橘先輩の球を打つには、いつもより早く始動する必要がある。
だが、単純に早く振り始めるだけでは、緩い球に対応できなくなる。
だからこそ、相手のフォームをよく見ることが重要だ。
腕の振り。
リリースポイント。
そして、ボールの軌道。
それらを総合的に判断する。
四球目。
橘先輩が投げる。
外角低め。
俺は見送った。
「ボールツー!」
ツーボール、ツーストライク。
追い込まれている。
だが、焦る必要はない。
ここまで四球を見た。
少しずつタイミングは掴めてきた。
(……次だな)
俺はバットを少し短く持った。
無理に強い打球を狙う必要はない。
まずは確実にバットへ当てること。
それが最優先だ。
五球目。
橘先輩が振りかぶる。
左足を上げる。
身体を回転させる。
そして、腕を振り抜いた。
シュッ!
ボールが飛んでくる。
コースは真ん中やや外寄り。
高さは膝より少し上。
(……来た!)
俺は踏み込んだ。
腰を回す。
そして、バットを振り抜いた。
カキィンッ!!
鋭い打球音が響いた。
打球はセンター方向へ飛んだ。
「センター!」
相手の中堅手が前進する。
しかし、打球はその手前に落ちた。
センター前ヒット!
「よし!」
俺は一塁へ走った。
二塁走者が三塁を回る。
外野からホームへ送球される。
しかし、間に合わない。
「セーフ!」
桜台、一点を返す!
スコアは一対二。
「よっしゃああ!」
ベンチから歓声が上がった。
俺は一塁ベース上で拳を握った。
(……やった!)
小学五年生の本格派投手からヒット。
しかも、タイムリーヒット。
これは嬉しい。
前世の経験があっても、簡単な勝負ではなかった。
今の身体で百キロを超える球を打ち返せたことには、大きな意味がある。
そして。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【育成イベント達成!】
『上級生への挑戦』
【達成条件】
上級生投手から安打:達成
上級生の打球を守備で処理:達成
上級生中心の公式戦に出場:達成
【達成報酬】
筋力ポイント+200
敏捷ポイント+150
技術ポイント+200
精神ポイント+150
【特別報酬】
『対エース○』
コツLv.3 → Lv.4
――――――――――――――――――
(……よっしゃあ!)
大量の経験点。
しかも、対エース○のコツレベルが四になった。
これはかなり大きい。
もう少しで最大レベルになるかもしれない。
そうなれば、必要経験点を大幅に節約できる。
だが、今は試合中。
喜んでいる場合ではない。
まだ一点負けているのだから。
◇ ◇ ◇
四回裏。
俺はベンチへ戻っていた。
代打で出場したため、そのまま交代となったのだ。
残念ではあるが、仕方がない。
今日は五年生以下の大会。
まだ七歳の俺が、長い時間出場するのは簡単ではない。
それに、今回は代打として結果を残せた。
十分な成果だろう。
しかし、試合そのものは厳しい展開が続いた。
緑川ホークスは四回裏にも一点を追加。
スコアは一対三。
さらに五回表。
桜台の最後の攻撃。
先頭打者が四球で出塁。
続く打者がヒットを放ち、無死一、二塁。
チャンスを作った。
だが、橘先輩は崩れなかった。
次の打者を三振。
さらに内野ゴロで二死二、三塁。
そして最後の打者。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角高め。
「ストライクツー!」
三球目。
外角へのストレート。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
ゲームセット。
桜台フェニックス、一対三で敗北。
春季大会五年生以下の部は、初戦敗退となった。
◇ ◇ ◇
「……負けたか」
俺はベンチで小さく呟いた。
正直、悔しい。
代打でヒットを打ち、打点も記録した。
個人としては十分な結果だったかもしれない。
だが、チームは負けた。
しかも、相手投手の橘先輩は最後まで崩れなかった。
やはり、強い投手だ。
「朝倉」
田島監督が声をかけてきた。
「はい!」
「ナイスバッティングだったぞ」
「ありがとうございます」
「橘からあのヒットは立派だ」
監督は笑った。
「でも、悔しいだろ?」
「……はい」
俺は素直に頷いた。
「もっと打ちたかったです」
「そうか」
監督は満足そうに頷いた。
「その気持ちを忘れるなよ」
「はい!」
「ただし、野球は一人じゃ勝てない。今日の試合も、みんなで反省して次に繋げよう」
その通りだ。
俺は改めて頷いた。
そして、グラウンドを見つめる。
緑川ホークスの選手たちが、嬉しそうに笑っていた。
その中心には、橘颯太先輩。
彼は今日、五回を投げ切り、わずか一点に抑えた。
見事な投球だった。
(……次は負けないぞ)
俺は心の中で呟いた。
もちろん、今すぐ再戦できるわけではない。
だが、また対戦する機会はあるだろう。
そのときは、もっと成長した姿を見せたい。
投手としても。
打者としても。
そして、チームとしても。
◇ ◇ ◇
試合終了後。
緑川ホークスのベンチでは、橘颯太が監督と話していた。
「颯太、今日はよく投げたな」
「ありがとうございます!」
「最後まで集中できていた。いい投球だったぞ」
橘は嬉しそうに笑った。
しかし、少しだけ気になることがあった。
「監督」
「ん?」
「あの代打の子、何年生なんですか?」
「朝倉か?」
「はい」
「二年生らしいぞ」
「……二年生?」
橘は目を丸くした。
七歳。
小学二年生。
そんな選手に、自分のストレートをセンター前へ運ばれたのだ。
しかも、決して甘い球ではなかった。
外角寄りの低め。
コースとしては悪くない。
それを、綺麗なセンター返しで打たれた。
「……すごいですね」
橘は素直に言った。
監督も頷いた。
「ああ。いい打者だったな」
「次は抑えたいです」
「そうか」
監督は笑った。
「なら、もっと練習しないとな」
「はい!」
橘は力強く頷いた。
そして、桜台フェニックスのベンチを見つめた。
そこには、小柄な少年がいた。
朝倉悠真。
小学二年生。
自分より三学年も下の選手。
だが、決して侮れない相手だった。
「……次は絶対打たせない」
橘は小さく呟いた。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は自室で育成システムを開いた。
――――――――――――――――――
【公式戦結果】
桜台フェニックス 1
緑川ホークス 3
敗北
【朝倉悠真】
〈打撃成績〉
1打数1安打
打点:1
得点:0
〈投手成績〉
登板なし
【総合評価】
A
【獲得経験点】
筋力:30
敏捷:20
技術:100
精神:80
【イベント報酬】
筋力:200
敏捷:150
技術:200
精神:150
――――――――――――――――――
(……うん)
やはり、強豪相手に活躍すると経験点が多い。
しかも、今回は上級生への挑戦イベントを達成している。
そのおかげで、かなりの経験点を獲得できた。
しかし、試合には負けた。
これで、地区交流大会に続いて二大会連続で初戦敗退である。
個人としては活躍しているのに、チームが勝てない。
これは少し考える必要がありそうだ。
(……やっぱり、もっと強くならないとな)
俺は能力画面を開いた。
――――――――――――――――――
【朝倉悠真】
年齢:7歳
学年:小学2年生
【野手能力】
弾道:1
ミート:F40
パワー:G20
走力:F45
肩力:F40
守備力:F40
捕球:F40
【投手能力】
球速:78km/h
コントロール:F55
スタミナ:G19
変化球:なし
【特殊能力】
アベレージヒッター
――――――――――――――――――
……まだまだだな。
確かに、七歳としては十分すぎる能力だ。
だが、五年生の強豪相手に無双できるほどではない。
特にパワー。
G20という数値は、やはり低い。
いくらミート能力が高くても、打球が弱ければ守備に処理される。
そして、球速。
七十八キロ。
小学二年生としては速いが、五年生相手では大きな武器にならない。
もっとも、身体の成長制限がある以上、今すぐ劇的に改善することはできない。
だが、少しずつなら強化できる。
(……そろそろパワーも上げてみるか)
俺は能力アップ画面を開いた。
現在のパワーはG20。
成長上限はG35。
ならば、まずはG25まで上げてみよう。
無理のない範囲で少しずつ強化する。
それが、今の俺にとって最善の方法だ。
――――――――――――――――――
【能力アップ】
パワー
G20 → G25
【必要経験点】
筋力:100
技術:30
【身体負担評価】
許容範囲内
――――――――――――――――――
(……よし)
俺は「はい」を選択した。
『ピロン♪』
身体に不思議な感覚が走る。
バットを振るときの力の伝え方。
下半身の使い方。
そして、スイングの安定性。
それらが少し改善されたような気がした。
――――――――――――――――――
【能力アップ完了】
パワー:G20 → G25
――――――――――――――――――
(……いいね)
これで、少しは打球が強くなるだろう。
もちろん、まだホームランを量産できるような能力ではない。
だが、焦る必要はない。
身体の成長に合わせて、少しずつパワーを上げていけばいい。
そして、いつかはS100。
さらに金特殊能力を取得する。
アーチスト。
広角砲。
パワーヒッター。
そういった能力を組み合わせれば、どれほどの打者になれるのだろうか。
考えるだけで楽しみになってくる。
そのとき。
『ピロン♪』
新しい通知が表示された。
――――――――――――――――――
【育成イベント発生】
『二刀流の進化』
投手・野手の両能力が一定水準に到達しました。
【達成条件】
・投手能力の強化
・野手能力の強化
・公式戦で打撃評価A以上
・公式戦で投球評価A以上
【進行状況】
投手能力強化:達成
野手能力強化:達成
打撃評価A以上:達成
投球評価A以上:未達成
【達成報酬】
大量の経験点
【特別報酬】
『二刀流育成補助機能』
解放!
――――――――――――――――――
(……おおっ!?)
二刀流育成補助機能。
ついに、そんなものまで登場した。
これは非常に気になる。
しかも、達成条件はあと一つ。
公式戦で投球評価A以上。
つまり、次に投手として活躍できれば達成できる可能性がある。
(……よし)
俺は小さく拳を握った。
次の大会では、投手としても結果を残したい。
そして、二刀流育成補助機能を解放する。
そうすれば、さらに効率よく投打両方の能力を伸ばせるかもしれない。
俺の最終目標は、史上最強の二刀流選手。
投手としても、打者としても、誰にも負けない存在になることだ。
そのためなら、どんな努力でも惜しまない。
もちろん、身体を壊すような無茶はしない。
だが、できることは全てやる。
それが、俺の決意だった。
俺は画面を閉じた。
そして、布団に潜り込む。
今日の試合は負けた。
だが、得られたものも多い。
百キロを超える速球。
五年生の強豪。
そして、新たな育成目標。
これから先、もっと強い相手と戦うことになるだろう。
そのときに勝てるよう、今から準備しておかなければならない。
「……次は勝つぞ」
俺は小さく呟いた。
そして、目を閉じた。
七歳。
小学二年生。
俺の野球人生は、まだまだ始まったばかりだ。
だが、着実に前へ進んでいる。
世界最高の二刀流選手という、遥か遠い目標に向かって。
俺はこれからも、成長を続けるのだった。
次回予告(本文外)
第十九話「二回戦、強豪のエースを攻略せよ」
春季大会の初戦を突破した桜台フェニックス。
二回戦の相手は、昨年の地区大会で上位に進出した強豪チームだった。
速球と抜群のコントロールを武器とする四年生エースを相手に、悠真は新たに解放された二刀流育成補助機能を活用しながら試合に挑む。
そして、これまで温存してきた特殊能力のコツが、再び成長する機会を迎える。