転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある 作:1番道路
二回戦の相手は、昨年の地区大会でベスト四に進出した強豪・白峰シャークス。
抜群の制球力を誇る四年生エースを相手に、七歳の朝倉悠真が挑む。
新たに解放された二刀流育成補助機能を活用しながら、悠真は投打両面での活躍を目指す。
野球において、速い球を投げる投手は強い。
しかし、速い球を投げるだけの投手と、速い球を狙った場所へ投げられる投手とでは、その実力に大きな差がある。
百キロのストレートを真ん中へ投げる投手。
九十五キロのストレートを外角低めへ正確に投げ分ける投手。
どちらが打ちにくいかと聞かれれば、俺は後者を選ぶこともあるだろう。
もちろん、球速が速いに越したことはない。
だが、打者にとって厄介なのは、球速そのものよりも、打ちたい球を打たせてもらえないことなのだ。
そして今回。
俺たち桜台フェニックスが対戦する相手には、そんな厄介な投手がいるらしい。
「悠真! 今日も勝とうぜ!」
「もちろん!」
春季少年野球大会。
四年生以下の部、二回戦。
俺たちは試合会場へ到着していた。
初戦では北町ライオンズに三対一で勝利。
俺自身も先発投手として一回無失点、打者として二打数二安打二打点を記録した。
おかげで、育成システムの新機能まで解放された。
二刀流育成補助機能。
投手と野手の両方を効率よく育成するための、俺にとって非常にありがたい機能だ。
その使い道についても、この一週間である程度理解できてきた。
何より便利なのは、練習負荷の管理だった。
投手の練習をした日は、肩を使う野手練習を控えめにする。
打撃練習を増やした日は、下半身の疲労を考慮して走塁練習を減らす。
そういった調整をシステムが提案してくれるのだ。
しかも、適切に練習を組み合わせれば、経験点の獲得効率まで上がる。
これは実に素晴らしい。
ただし、システムの提案はあくまで補助だ。
実際の練習内容は監督やコーチの指示が優先されるし、身体に違和感があれば休む。
そこは徹底している。
七歳で故障なんて、絶対に御免だからな。
◇ ◇ ◇
「集合!」
田島監督の声が響いた。
俺たちはベンチ前へ集まった。
「今日の相手は、白峰シャークスだ」
監督が対戦相手の名前を告げる。
「去年の地区大会でベスト四まで進んだ強豪だ。特にエースの投球には注意してほしい」
白峰シャークス。
名前は聞いたことがあった。
少年野球の強豪として、近隣の地域ではそれなりに有名らしい。
「白峰のエースは四年生の久保田直樹。右投げで、速球と制球力が武器だ」
田島監督が続けた。
「球速は九十キロ台前半。ただし、ほとんど四球を出さないそうだ」
なるほど。
球速だけなら、昨年対戦した佐伯蓮先輩の方が上かもしれない。
しかし、制球力が優秀となると話は別だ。
何しろ、小学生の試合では四球が得点に直結することが多い。
その四球をほとんど出さない投手というのは、非常に厄介だろう。
「それから、白峰は守備も堅い。特に内野陣の動きがいい」
監督は俺たちを見渡した。
「だから今日は、打ち上げるより低い打球を意識してほしい。無理に長打を狙わなくていい」
「はい!」
「それじゃあ、スタメンを発表するぞ」
今回の先発投手は藤原先輩。
俺は三番ショートだった。
前回は公式戦初先発を経験したが、今回は野手としての出場が中心になるらしい。
投手としての出番があるかは、試合展開次第だ。
「朝倉」
「はい!」
「お前には打線の中心として期待してるぞ」
「分かりました!」
俺は元気よく答えた。
今日の相手は制球力の高い好投手。
これは打者として腕が鳴る。
◇ ◇ ◇
試合開始まで、まだ少し時間があった。
俺は相手チームの練習を眺めていた。
白峰シャークス。
白と紺色のユニフォームを着た選手たちが、整然とウォーミングアップを行っている。
その中心に、背番号一の少年がいた。
久保田直樹。
小学四年生。
身体はそれほど大きくない。
だが、投球フォームは非常に安定していた。
左足を上げる。
重心を移動させる。
踏み込む。
そして、腕を振り抜く。
シュッ!
ぱしんっ!
捕手のミットへ、ボールが吸い込まれるように収まった。
(……おお)
綺麗なフォームだ。
しかも、毎回ほとんど同じ場所へ投げている。
外角低め。
内角低め。
外角高め。
投げるコースを変えても、腕の振りがほとんど変わらない。
(……これは打ちにくそうだな)
俺は思わず笑みを浮かべた。
「悠真?」
隣にいた大地が不思議そうに尋ねてきた。
「何笑ってんだ?」
「いや、いいピッチャーだなって」
「相手が強いと嬉しいのかよ!」
「うん」
「やっぱ変なやつだな、お前!」
大地は呆れたように笑った。
だが、俺にとっては当然だった。
強い相手と戦えば、それだけ自分の実力を試せる。
そして、足りない部分が分かれば、今後の育成に役立てられる。
何より、単純に野球が楽しい。
そのときだった。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【強豪対戦イベント発生】
『精密機械への挑戦』
【対象選手】
久保田直樹
小学4年生
右投右打
ポジション:投手
【選手評価】
球速:優秀
制球力:非常に優秀
投球フォーム:安定
【イベント目標】
・久保田直樹から安打を記録する
・追い込まれた状態で優秀な打撃結果を残す
【達成報酬】
技術ポイント+200
精神ポイント+150
【特別報酬】
特殊能力『粘り打ち』のコツ
――――――――――――――――――
(……粘り打ちか)
これはいい。
粘り打ち。
追い込まれてからの打撃で役立つ特殊能力だ。
俺は将来的に、高打率と高出塁率を両立する打者になりたい。
そのためには、追い込まれてからも簡単にアウトにならない技術が重要になる。
特にプロ野球では、優秀な投手ほど簡単には甘い球を投げてくれない。
粘って球数を投げさせ、失投を待つ。
それができる打者は強い。
(……ぜひ欲しいな)
俺は内心で気合いを入れた。
◇ ◇ ◇
「プレイ!」
審判の声が響いた。
桜台フェニックス対白峰シャークス。
春季少年野球大会、二回戦。
試合が始まった。
先攻は桜台。
つまり、俺たちが先に攻撃する。
マウンドには白峰のエース、久保田直樹。
彼は落ち着いた様子でボールを受け取った。
先頭打者は高橋先輩。
初球。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
(……いい球だ)
ベンチから見ても、外角低めいっぱいの見事なストレートだった。
二球目。
内角低め。
「ストライクツー!」
三球目。
今度は外角高め。
高橋先輩がバットを振った。
カンッ!
打球はショート方向へ。
遊撃手が捕球し、一塁へ送球する。
「アウト!」
一死。
続く二番打者。
初球はボール。
二球目はストライク。
三球目。
カキンッ!
打球はライト方向へ飛んだ。
しかし、右翼手が落下点に入る。
捕球。
「アウト!」
二死走者なし。
そして、俺の打席が回ってきた。
「三番、ショート、朝倉君」
俺はバットを持って打席へ向かった。
久保田先輩がこちらを見る。
少しだけ驚いたような表情をした。
まあ、七歳の小学二年生が三番打者なのだから、当然だろう。
だが、久保田先輩はすぐに真剣な表情へ戻った。
いいね。
手加減するつもりはないらしい。
俺も本気で打たせてもらおう。
◇ ◇ ◇
初球。
久保田先輩が振りかぶった。
左足を上げる。
身体を回転させる。
そして、腕を振る。
シュッ!
(……外角低め)
俺は見送った。
ぱしんっ!
「ストライク!」
見事なコースだった。
打てない球ではない。
しかし、初球から無理に手を出す必要もないだろう。
二球目。
今度は内角低め。
これもストライクゾーンいっぱい。
(……なるほど)
俺はバットを出した。
カンッ!
ファウル。
ツーストライク。
追い込まれた。
しかし、俺は焦っていなかった。
むしろ、ここからが勝負だ。
何しろ、今回のイベント目標は追い込まれてから優秀な打撃結果を残すこと。
つまり、この状況こそ絶好の機会なのだから。
三球目。
外角低め。
わずかに外れる。
「ボール!」
ワンボール、ツーストライク。
四球目。
内角高め。
俺はバットを出した。
カンッ!
ファウル。
五球目。
外角へのストレート。
これも少し外れている。
「ボール!」
ツーボール、ツーストライク。
六球目。
内角低め。
カンッ!
ファウル。
七球目。
外角高め。
またファウル。
(……いいね)
少しずつタイミングが合ってきた。
久保田先輩の球速は九十キロ台前半。
前回対戦した橘颯太先輩よりは遅い。
しかし、制球力はこちらの方が上かもしれない。
何しろ、ほとんど甘い球が来ない。
それでも、粘っていればチャンスはある。
八球目。
外角低め。
今度はボール。
「ボールスリー!」
フルカウント。
球場の空気が少し変わった。
久保田先輩は、ここまでほとんど球数を使わずに二人を抑えていた。
しかし、俺との対戦ではすでに八球も投げている。
しかも、まだ決着がついていない。
久保田先輩がボールを受け取った。
そして、こちらを見つめる。
俺もバットを構え直した。
(……さて)
九球目。
久保田先輩が振りかぶる。
左足を上げる。
身体を回転させる。
腕を振り抜いた。
シュッ!
ボールが飛んでくる。
コースは外角低め。
しかし、わずかに高い。
(……来た!)
俺は踏み込んだ。
腰を回す。
そして、バットを振り抜いた。
カキィンッ!
鋭い打球がセンター方向へ飛んだ。
「センター!」
相手の中堅手が前進する。
しかし、打球はその手前に落ちた。
センター前ヒット!
「よし!」
俺は一塁へ走った。
そして、ベースを踏んで小さく拳を握る。
(……やったな)
九球粘ってのセンター前ヒット。
しかも、相手は制球力の高い強豪投手。
これはかなり価値のある一本だ。
そして、その瞬間。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【育成イベント達成!】
『精密機械への挑戦』
【達成条件】
久保田直樹から安打:達成
追い込まれた状態で優秀な打撃結果:達成
【達成報酬】
技術ポイント+200
精神ポイント+150
【特別報酬】
『粘り打ち』
コツLv.1獲得
【追加評価】
選球眼:優秀
ファウル技術:優秀
――――――――――――――――――
(……よっしゃあ!)
また新しい特殊能力のコツを獲得した。
しかも、技術と精神の経験点まで大量に貰えた。
これは嬉しい。
だが、まだ試合中だ。
続く四番、松本先輩が打席に入る。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
カンッ!
打球は三塁方向へ転がった。
三塁手が捕球し、一塁へ送球する。
「アウト!」
チェンジ。
一回表は無得点に終わった。
(……やっぱり強いな)
俺はベンチへ戻りながら、久保田先輩を見つめた。
俺はヒットを打てた。
しかし、チームとしては得点できなかった。
あの投手を攻略するには、もう少し工夫が必要になりそうだ。
◇ ◇ ◇
一回裏。
白峰シャークスの攻撃。
桜台の先発投手は藤原先輩。
四年生の右腕で、去年から主力投手として活躍している。
しかし、白峰の打線も決して弱くなかった。
先頭打者がセンター前ヒット。
二番打者が送りバント。
一死二塁。
そして三番打者。
初球。
カキンッ!
打球は三遊間へ飛んだ。
(……来た!)
俺は素早く反応した。
左へ移動する。
グローブを伸ばす。
ぱしっ!
捕球成功。
そして、一塁へ送球。
「アウト!」
二死三塁。
走者は進塁したが、確実にアウトを取れた。
続く四番打者。
身体の大きな四年生だった。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角高め。
カキィンッ!
強烈な打球がセンター方向へ飛んだ。
高橋先輩が追いかける。
しかし、打球はその前に落ちた。
センター前ヒット。
三塁走者がホームイン。
白峰が先制した。
桜台〇対一白峰。
(……やるな)
俺は小さく息を吐いた。
さすが強豪。
打撃力も十分にあるらしい。
その後、五番打者を藤原先輩が三振に仕留めた。
スリーアウト。
初回は一点で抑えたが、先制を許してしまった。
◇ ◇ ◇
二回表。
桜台の攻撃。
先頭打者は五番、村田先輩。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
カンッ!
打球はショート方向。
遊撃手が軽快に捕球し、一塁へ送球した。
「アウト!」
一死。
続く六番打者は三振。
二死。
七番打者はセカンドゴロ。
チェンジ。
三者凡退。
白峰のエース、久保田先輩は相変わらず好投していた。
しかも、球数が少ない。
俺との対戦では九球を要したが、それ以外の打者はほとんど三球から四球で打ち取っている。
(……これは厄介だな)
俺はベンチで考えた。
久保田先輩は、打者が早いカウントから打ってくることを上手く利用している。
初球からストライクを取り、早めに追い込む。
そして、打者に無理なスイングをさせる。
結果として、球数を少なく抑えているのだ。
ならば、どうすればいいか。
答えは単純だ。
粘る。
甘い球が来るまで待つ。
そして、確実に打つ。
もちろん、ただ見送ればいいわけではない。
ストライクはしっかり打たなければならない。
だが、簡単にアウトになるよりは、粘って球数を投げさせた方がいい。
(……よし)
俺は監督に相談することにした。
「監督!」
「ん?」
「久保田先輩、コントロールがいいので、もう少し球を見た方がいいと思います!」
「ほう?」
田島監督が俺を見る。
「どうしてそう思う?」
「早いカウントで打つと、相手の狙いどおりになっちゃう気がするんです」
監督は少し考えた。
そして、頷いた。
「なるほどな」
「だから、甘い球が来るまで粘ってみたらどうでしょうか!」
田島監督は笑った。
「お前、本当に二年生か?」
「二年生です!」
「ははは! そうだったな!」
監督は少し考え込んだ。
「確かに、今のままでは相手のペースだ。次の攻撃からは、狙い球を絞っていこう」
「はい!」
俺は元気よく返事をした。
これで少しは流れが変わるかもしれない。
◇ ◇ ◇
三回表。
スコアは〇対一。
桜台フェニックスが一点を追いかけていた。
先頭打者は八番、大地。
大地が打席へ入る。
俺はベンチから声をかけた。
「大地! 落ち着いて!」
「おう!」
久保田先輩が投げる。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
「ボール!」
三球目。
外角へのストレート。
大地はバットを出した。
カンッ!
ファウル。
ワンボール、ツーストライク。
追い込まれた。
だが、大地は諦めなかった。
四球目。
外角低め。
ファウル。
五球目。
内角高め。
ボール。
六球目。
外角。
ファウル。
(……いいぞ)
俺は思わず笑った。
大地も粘っている。
以前なら、もっと早い段階で空振りしていたかもしれない。
だが、今は違う。
しっかり球を見ている。
そして七球目。
久保田先輩が投げた。
少し高め。
大地がバットを振る。
カキンッ!
打球はライト方向へ。
右翼手が前進する。
しかし、打球はその手前に落ちた。
ライト前ヒット!
「よっしゃあ!」
大地が一塁上で拳を握った。
俺もベンチから拍手した。
(ナイス大地!)
七球粘ってのヒット。
これは大きい。
続く九番打者。
送りバントを成功させ、一死二塁。
一番、高橋先輩。
初球はストライク。
二球目はボール。
三球目。
カキンッ!
打球はセカンド方向。
相手の二塁手が捕球し、一塁へ送球する。
「アウト!」
二死三塁。
そして二番打者。
ここで久保田先輩が少し制球を乱した。
初球はボール。
二球目もボール。
三球目はストライク。
四球目。
外角低め。
「ボール!」
スリーボール、ワンストライク。
そして五球目。
内角。
「ボールフォア!」
四球。
二死一、三塁。
チャンスが広がった。
そして。
「三番、ショート、朝倉君」
俺の第二打席が回ってきた。
(……最高の場面だな)
二死一、三塁。
一点ビハインド。
相手は制球力の高い好投手。
しかも、少しずつ球数が増えてきている。
俺はバットを握り直した。
さあ、勝負だ。
◇ ◇ ◇
久保田先輩は、マウンド上で小さく息を吐いた。
ここまでの投球数は、すでに三十球を超えている。
序盤は非常に少ない球数で打ち取っていた。
しかし、三回に入ってから桜台の打者たちが粘り始めたのだ。
その結果、球数が増えている。
そして、次の打者。
朝倉悠真。
小学二年生。
七歳。
先ほど九球粘った末にセンター前ヒットを放った打者だった。
(……またこいつか)
久保田は少し警戒を強めた。
普通の二年生なら、九十キロを超えるストレートにまともに対応できない。
しかし、朝倉は違った。
初球からしっかり球を見ていた。
追い込まれてからも粘り続けた。
そして、最後は綺麗なセンター返し。
あれは偶然ではない。
(……今度は抑える)
久保田は捕手のサインに頷いた。
そして、投球動作に入った。
◇ ◇ ◇
初球。
外角低め。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
俺は見送った。
いい球だ。
だが、狙い球ではない。
二球目。
内角高め。
今度はボール。
「ボール!」
三球目。
外角へのストレート。
俺はバットを出した。
カンッ!
ファウル。
ワンボール、ツーストライク。
追い込まれた。
だが、焦る必要はない。
久保田先輩の球筋は、すでにある程度理解している。
問題は、甘い球が来るかどうかだ。
四球目。
外角低め。
わずかに外れる。
「ボールツー!」
五球目。
内角。
ファウル。
六球目。
外角高め。
ボール。
フルカウント。
二死一、三塁。
ここで四球なら満塁。
ヒットなら同点、あるいは逆転。
久保田先輩も、慎重にならざるを得ない場面だった。
(……さて)
俺はバットを構え直した。
狙うのは真ん中寄りのストレート。
低めいっぱいの球に無理に手を出す必要はない。
甘い球が来たら、確実に捉える。
それだけだ。
そして七球目。
久保田先輩が投げた。
シュッ!
ボールが飛んでくる。
コースは真ん中やや内寄り。
高さは腰付近。
(……来た!)
俺は迷わず踏み込んだ。
腰を回す。
バットを振り抜く。
カキィィンッ!!
鋭い打球音が響いた。
打球は左中間へ飛んだ。
「レフト! センター!」
外野手が追いかける。
しかし、打球は二人の間を抜けていった。
「走れ!」
ベンチから大歓声が上がる。
三塁走者がホームイン。
同点!
一塁走者も三塁を回る。
外野から中継へ返球。
しかし、送球が少し逸れた。
「回れ!」
三塁コーチが腕を回す。
走者がホームへ向かう。
捕手が送球を受け取る。
しかし、間に合わない。
「セーフ!」
逆転!!
桜台二対一白峰!
俺は二塁ベースへ滑り込んだ。
「セーフ!」
二点タイムリーツーベース!
「よっしゃあああ!」
桜台のベンチが大騒ぎになった。
俺は二塁ベース上で拳を握った。
(……やった!)
強豪投手から二打席連続安打。
しかも、逆転の二点タイムリーツーベース。
最高の結果だった。
その瞬間。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【強豪対戦評価】
久保田直樹から2安打を記録しました。
追い込まれてからの適時二塁打を記録しました。
【報酬】
筋力ポイント+50
技術ポイント+100
精神ポイント+100
【特殊能力コツ】
『粘り打ち』
Lv.1 → Lv.2
【追加評価】
勝負強さ:優秀
――――――――――――――――――
(……いいね!)
またコツレベルが上がった。
しかも、経験点も追加で獲得できた。
やはり、強豪との対戦は美味しい。
だが、まだ試合は終わっていない。
逆転したとはいえ、一点差。
ここから守り切らなければならないのだ。
◇ ◇ ◇
四回表。
桜台フェニックスの攻撃。
スコアは二対一。
俺たちが一点リードしていた。
しかし、白峰シャークスは簡単には崩れなかった。
久保田先輩は、逆転を許した後も落ち着いていた。
四番、松本先輩をショートゴロ。
五番、村田先輩を三振。
六番打者をセンターフライ。
三者凡退。
(……やっぱり凄いな)
俺はベンチから久保田先輩を見つめた。
逆転された直後に、これだけ落ち着いて投げられる。
それだけでも優秀な投手だと分かる。
しかも、球数が増えているにもかかわらず、制球が大きく乱れない。
これは見習いたい。
俺自身、将来的にはコントロールS100を目指している。
そのためにも、こういう投手の長所を学んでおくべきだろう。
そして、四回裏。
白峰の攻撃。
ここで試合が大きく動いた。
先頭打者が四球で出塁。
続く打者が送りバント。
一死二塁。
さらに七番打者がライト前ヒット。
一死一、三塁。
大ピンチだった。
「タイム!」
田島監督がマウンドへ向かった。
俺もショートから集まる。
「藤原、ここまでよく投げた」
「……はい」
藤原先輩は少し悔しそうだった。
だが、球数も増えている。
ここで交代するのは妥当な判断だろう。
監督は俺を見た。
「朝倉」
「はい!」
「肩の状態はどうだ?」
「大丈夫です!」
「痛みは?」
「ありません!」
監督は頷いた。
「よし。じゃあ、ここから一イニングだけ頼む」
……来た。
ついに投手としての出番だ。
「はい!」
「ただし、球数は二十球程度を目安にする。無理に三振を狙わなくていいぞ」
「分かりました!」
俺は力強く頷いた。
現在の状況は一死一、三塁。
一点リード。
ここで失点すれば同点。
さらに長打を打たれれば逆転される可能性もある。
だが、俺は不思議と落ち着いていた。
(……さて)
俺はボールを受け取った。
七歳。
小学二年生。
最高球速七十八キロ。
コントロールF55。
変化球なし。
今の俺が持っている武器は、決して多くない。
だが、それでも勝負はできる。
特に、制球力。
これが今の俺にとって最大の武器だ。
俺はマウンドに立った。
そして、捕手の中村先輩を見つめる。
「朝倉、落ち着いていこう!」
「はい!」
俺は頷いた。
◇ ◇ ◇
最初の打者は八番。
右打者だった。
初球。
外角低め。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
よし。
二球目。
内角高め。
打者がバットを出す。
カンッ!
ファウル。
ツーストライク。
追い込んだ。
だが、ここで無理に三振を狙う必要はない。
一死一、三塁。
内野ゴロなら併殺の可能性もある。
ただし、三塁走者がいるので、打球方向には注意しなければならない。
俺は中村先輩のサインを確認した。
外角低め。
なるほど。
ここは低いゴロを打たせたい。
俺は頷いた。
三球目。
左足を上げる。
重心を移動させる。
腕を振る。
シュッ!
打者がバットを振った。
カンッ!
打球はセカンド方向へ。
「大地!」
俺は思わず叫んだ。
大地が捕球する。
二塁へ送球。
「アウト!」
俺の代わりにショートへ入った吉田先輩が二塁ベースを踏む。
そして、一塁へ転送。
ぱしんっ!
「アウト!」
ダブルプレー!!
「よっしゃあああ!」
桜台のベンチから大歓声が上がった。
俺はマウンド上で拳を握った。
(……やった!)
見事な四―六―三の併殺。
しかも、わずか三球でピンチを切り抜けた。
これは大きい。
何より、大地の守備が良かった。
あの打球を落ち着いて処理し、正確に二塁へ送球できたからこその併殺だ。
「ナイス大地!」
俺が声をかけると、大地は笑って手を上げた。
「おう!」
……本当に上手くなったな。
俺は少し感慨深くなった。
◇ ◇ ◇
五回表。
最終回。
スコアは二対一。
桜台フェニックスが一点リードしていた。
そして、俺の第三打席が回ってきた。
二死走者なし。
相手投手は、まだ久保田先輩だった。
ただし、ここまで相当な球数を投げている。
疲労は見えていた。
それでも、最後まで投げ切ろうとしているらしい。
(……いい投手だな)
俺は素直にそう思った。
もちろん、だからといって手加減するつもりはない。
俺も本気で打たせてもらう。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角高め。
ボール。
三球目。
外角。
ファウル。
ワンボール、ツーストライク。
また追い込まれた。
だが、焦る必要はない。
ここまで何度も見てきた投手だ。
球筋も、フォームも、ある程度理解している。
四球目。
外角低め。
ボール。
五球目。
内角。
ファウル。
六球目。
外角高め。
ボール。
フルカウント。
そして七球目。
久保田先輩が投げた。
真ん中やや外寄り。
(……来た!)
俺は踏み込んだ。
腰を回す。
そして、バットを振り抜いた。
カキィンッ!
打球はライト方向へ飛んだ。
右翼手が前進する。
しかし、打球はその手前に落ちた。
ライト前ヒット!
「よし!」
俺は一塁へ走った。
三打席連続安打。
しかも、全て久保田先輩から打ったヒットだった。
これには、さすがに相手ベンチも驚いた様子だった。
だが、俺自身も少し驚いていた。
(……ここまで打てるとはな)
アベレージヒッター。
ミートF40。
そして、前世の経験。
それらが組み合わさることで、かなり高い打撃能力を発揮できている。
もちろん、まだ身体能力は低い。
だが、技術面では四年生相手にも十分通用しているようだ。
その瞬間。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【強豪対戦評価】
久保田直樹から3安打を記録しました。
【追加報酬】
技術ポイント+100
精神ポイント+50
【特殊能力コツ】
『粘り打ち』
Lv.2 → Lv.3
【特別評価】
打撃技術:非常に優秀
――――――――――――――――――
(……よっしゃあ!)
粘り打ちのコツがレベル三まで上がった。
これは大きい。
今後、特殊能力を取得するときに役立つだろう。
だが、試合はまだ終わっていない。
続く四番、松本先輩。
初球。
カキンッ!
打球はセンター方向へ。
しかし、中堅手が捕球した。
「アウト!」
チェンジ。
五回表は無得点に終わった。
そして、最後の守備が始まる。
◇ ◇ ◇
五回裏。
スコアは二対一。
一点リード。
俺はマウンドに立っていた。
前の回はわずか三球で併殺を取っている。
そのため、球数にはまだ余裕があった。
もちろん、監督からは無理をしないように言われている。
それでも、最後まで投げたい気持ちはあった。
(……あと三人)
俺はボールを握った。
先頭打者は九番。
左打者だった。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
カンッ!
打球はショート方向へ。
吉田先輩が捕球し、一塁へ送球。
「アウト!」
一死。
続く一番打者。
初球はボール。
二球目はストライク。
三球目。
カンッ!
打球はセカンド方向へ。
大地が捕球する。
一塁へ送球。
「アウト!」
二死。
あと一人。
しかし、ここで二番打者が粘った。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角高め。
ボール。
三球目。
外角。
ファウル。
ワンボール、ツーストライク。
追い込んだ。
だが、四球目。
外角低め。
ボール。
五球目。
内角。
ファウル。
六球目。
外角高め。
ボール。
フルカウント。
(……粘るな)
俺は少し感心した。
さすが強豪。
最後まで簡単には諦めない。
だが、俺も負けるつもりはない。
七球目。
俺は捕手の中村先輩を見た。
ミットは外角低め。
俺は頷いた。
ここは、いつもどおり丁寧に投げる。
左足を上げる。
重心を安定させる。
そして、腕を振る。
シュッ!
ボールは外角低めへ。
打者がバットを振った。
カンッ!
打球はピッチャー方向へ転がった。
(……来た!)
俺は素早く反応した。
グローブを地面に近づける。
ぱしっ!
捕球成功。
そして、一塁へ送球。
シュッ!
ぱしんっ!
「アウト!」
スリーアウト!
「ゲームセット!」
桜台フェニックス、二対一で勝利!
「やったあああ!」
ベンチが歓声に包まれた。
俺はマウンド上で拳を握った。
(……勝った!)
強豪・白峰シャークスを撃破。
しかも、逆転勝利。
これで準々決勝進出だ。
そして、俺自身も三打数三安打二打点。
投手としても無失点。
まさに二刀流としての活躍だった。
◇ ◇ ◇
試合終了後。
俺たちはベンチ前に集まった。
「みんな、よくやった!」
田島監督が笑顔で言った。
「いい試合だったぞ!」
「ありがとうございます!」
「特に今日は、粘り強い打撃が良かったな」
監督は俺たちを見渡した。
「相手の投手は本当にいい投手だった。でも、みんなが簡単に諦めずに粘ったから、チャンスを作れた」
「はい!」
「それから、守備も良かった。あの併殺は大きかったぞ」
大地が嬉しそうに笑った。
俺も頷く。
本当にいいプレーだった。
「朝倉」
「はい!」
「今日もナイスバッティング、ナイスピッチングだった」
「ありがとうございます!」
「ただし、まだまだ上手くなれるぞ」
「はい!」
俺は力強く返事をした。
もちろん、そのつもりだ。
今日の試合でも、課題は見つかった。
特に打撃。
久保田先輩から三安打を記録できたが、決して簡単な勝負ではなかった。
制球力の高い投手は、本当に打ちにくい。
そして投球。
今日は無失点だったが、相手の打撃がもう少し強ければ、甘い球を捉えられていた可能性もある。
まだまだ改善すべき部分は多い。
だが、それでいい。
成長する余地があるということなのだから。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は自室で育成システムを開いていた。
まずは試合結果を確認する。
――――――――――――――――――
【公式戦結果】
春季少年野球大会
四年生以下の部・二回戦
桜台フェニックス 2
白峰シャークス 1
勝利!
【朝倉悠真】
〈打撃成績〉
3打数3安打
二塁打:1
打点:2
得点:0
〈投手成績〉
投球回:1回2/3
被安打:0
奪三振:0
与四球:0
失点:0
自責点:0
〈守備成績〉
守備機会:2
失策:0
【総合評価】
S
【獲得経験点】
筋力:100
敏捷:80
技術:180
精神:160
【イベント・特別報酬】
筋力:50
技術:400
精神:300
――――――――――――――――――
(……いいね)
今回も大量の経験点を獲得できた。
特に技術と精神。
やはり、強豪投手との対戦は報酬が大きい。
しかも、粘り打ちのコツがレベル三まで上がった。
これは非常に嬉しい。
俺は特殊能力一覧を開いた。
――――――――――――――――――
【特殊能力取得候補】
『対エース○』
コツLv.4
取得可能
『チャンスC』
コツLv.3
取得可能
『粘り打ち』
コツLv.3
取得可能
『球持ち○』
コツLv.1
取得可能
『盗塁C』
コツLv.1
取得可能
『対ピンチC』
コツLv.1
取得可能
――――――――――――――――――
(……ふむ)
かなり増えてきたな。
現在、取得済みの特殊能力はアベレージヒッターのみ。
だが、取得可能な能力は六つもある。
しかも、コツレベルが高いものもある。
そろそろ、いくつか取得してもいいかもしれない。
特に対エース○。
コツレベル四。
かなり割引率が高くなっているはずだ。
強豪投手との対戦は今後も増える。
ならば、早めに取得しておく価値はあるだろう。
俺は少し考えた。
そして、対エース○の取得画面を開いた。
――――――――――――――――――
【特殊能力取得】
『対エース○』
コツLv.4
【必要経験点】
技術:160
精神:120
【取得可能】
はい/いいえ
――――――――――――――――――
(……よし)
俺は「はい」を選択した。
『ピロン♪』
身体に不思議な感覚が走った。
いや、今回は身体というより、頭の中だろうか。
これまで対戦してきた強豪投手たちの球筋。
佐伯先輩。
橘先輩。
久保田先輩。
彼らとの対戦経験が、急に鮮明になったような気がした。
速球への対応。
配球の読み。
甘い球の見極め。
そういった感覚が、自然と整理されていく。
――――――――――――――――――
【特殊能力取得完了!】
『対エース○』
エース級投手との対戦で打撃能力が向上します。
【取得済み特殊能力】
アベレージヒッター
対エース○
――――――――――――――――――
(……よっしゃ!)
二つ目の特殊能力を取得した。
これで、強豪投手との対戦がさらに楽しみになった。
もちろん、特殊能力を取得したからといって、必ずヒットを打てるわけではない。
だが、確実に有利にはなるはずだ。
そして、これからも経験点を貯めて能力を強化していく。
ミート。
パワー。
走力。
肩力。
守備力。
捕球。
さらに、投手能力。
球速。
コントロール。
スタミナ。
変化球。
全てを最高水準まで育てる。
そのためには、まだまだ時間が必要だ。
だが、俺には十分な時間がある。
何しろ、まだ七歳なのだから。
俺は満足して画面を閉じた。
その瞬間。
『ピロン♪』
新しい通知が表示された。
――――――――――――――――――
【大会進行状況】
春季少年野球大会
四年生以下の部
一回戦:勝利
二回戦:勝利
次戦:準々決勝
【次戦対戦相手】
青陵ブルーウイングス
【特別イベント】
『雪辱の一戦』
発生条件を満たしました。
――――――――――――――――――
(……えっ?)
俺は思わず目を見開いた。
青陵ブルーウイングス。
その名前には、覚えがあった。
いや、忘れるはずがない。
去年の地区交流大会。
俺たち桜台フェニックスを一対二で破ったチームだ。
堅い守備。
巧みな走塁。
そして、優秀な投手。
あの試合では、俺たちは完全に相手のペースへ引き込まれてしまった。
結果として、初戦敗退。
悔しい敗戦だった。
だが。
(……また戦えるのか)
俺は自然と笑みを浮かべた。
これは面白い。
あのときとは違う。
俺は七歳になり、能力も大きく向上している。
チーム全体も、守備と走塁を中心に成長してきた。
しかも、二刀流育成補助機能まで解放している。
今なら、あのチームと互角以上に戦えるかもしれない。
(……今度こそ勝つ)
俺は小さく拳を握った。
次の相手は青陵ブルーウイングス。
去年の敗戦を、今度こそ取り返す。
しかも、勝てば準決勝進出。
優勝まで、あと二勝になる。
これは絶対に負けられない。
俺は画面を閉じた。
そして、布団に潜り込んだ。
次の試合が楽しみで仕方がない。
七歳。
小学二年生。
まだまだ身体は小さい。
だが、野球の技術なら負けるつもりはない。
そして、投手としても打者としても、確実に成長している。
次こそ、あの強豪を倒す。
その決意を胸に、俺は静かに目を閉じた。
第十九話をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、抜群のコントロールを誇る白峰シャークスのエース・久保田直樹との対決を描きました。
悠真は粘り強い打撃で三安打を記録し、新たに「粘り打ち」のコツを獲得。さらに、温存していた経験点を使い、二つ目の特殊能力「対エース○」を取得しました。
一方、守備では大地との連携も勝利に繋がっています。
次回は、昨年の地区交流大会で敗れた青陵ブルーウイングスとの再戦。
成長した桜台フェニックスは、雪辱を果たせるのでしょうか。
次回、第二十話「雪辱の一戦、青陵ブルーウイングス」。