転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある   作:1番道路

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春季少年野球大会、四年生以下の部。

強豪・白峰シャークスとの接戦を制した桜台フェニックスは、準々決勝へと駒を進めた。

次なる相手は、昨年の地区交流大会で敗れた青陵ブルーウイングス。

堅い守備と巧みな走塁を武器とする因縁の相手に、七歳の朝倉悠真が再び挑む。

一年間の成長を証明する、雪辱の一戦が始まる。



第二十話 雪辱の一戦、青陵ブルーウイングス

 野球において、一度負けた相手と再び戦える機会というのは、意外と少ない。

 

 特にトーナメント形式の大会では、一度負ければそこで終わりだ。

 

 同じ相手と再戦するには、次の大会まで待たなければならない。

 

 そして、その機会が必ず訪れるとも限らない。

 

 だからこそ。

 

(……今度こそ勝つ)

 

 俺はグローブを握りながら、静かに気合いを入れていた。

 

 春季少年野球大会。

 

 四年生以下の部、準々決勝。

 

 対戦相手は青陵ブルーウイングス。

 

 去年の地区交流大会で、俺たち桜台フェニックスを一対二で破ったチームである。

 

 あの試合は、今でもよく覚えている。

 

 決して大きな実力差があったわけではない。

 

 打撃では俺たちにもチャンスがあった。

 

 守備でも大きなミスは少なかった。

 

 それでも負けた。

 

 相手の巧みな走塁。

 

 隙のない守備。

 

 そして、試合の流れを渡さない堅実な野球。

 

 俺たちは、チームとしての完成度で負けたのだ。

 

 もちろん、俺自身にも反省点はあった。

 

 あのときは二打数一安打。

 

 初めて公式戦でアウトになった試合でもある。

 

 もっとも、今の俺は七歳。

 

 小学二年生になった。

 

 育成システムによって能力も向上し、新しい特殊能力も取得している。

 

 アベレージヒッター。

 

 そして、先日の白峰シャークス戦後に取得した対エース○。

 

 まだ取得していないが、粘り打ちのコツも手に入れた。

 

 打者としての完成度は、去年とは比較にならない。

 

 さらに、投手としても成長している。

 

 最高球速は七十八キロ。

 

 コントロールはF55。

 

 数字だけならまだまだだが、七歳という年齢を考えれば十分すぎる。

 

 しかし。

 

(……俺一人が成長しても勝てないんだよな)

 

 去年の敗戦から学んだこと。

 

 それは、野球が九人で行う競技だという、ごく当たり前の事実だった。

 

 どれだけ優秀な選手が一人いても、チーム全体の連携が悪ければ負けることがある。

 

 だからこそ、この一年間。

 

 俺たちは守備と走塁を中心に練習を重ねてきた。

 

 その成果を試す相手として、青陵ほどふさわしいチームもいないだろう。

 

「悠真!」

 

「ん?」

 

 隣から声をかけてきたのは大地だった。

 

 佐藤大地。

 

 小学三年生になった、俺の一番親しいチームメイトである。

 

 主な守備位置はセカンド。

 

 去年から一緒に練習してきたこともあって、俺との二遊間の連携はかなり良くなっている。

 

「今日の相手、去年負けたところだよな?」

 

「そうだよ」

 

「絶対勝とうぜ!」

 

「もちろん!」

 

 俺が笑って答えると、大地も嬉しそうに笑った。

 

「去年は悔しかったからなー!」

 

「うん。今度は勝ちたいね」

 

「おう!」

 

 大地は力強く頷いた。

 

 ……いいな。

 

 こういう仲間がいるのは。

 

 前世でも野球は好きだったが、今世ではそれ以上に楽しめている気がする。

 

 育成システムがあるから、というだけではない。

 

 一緒に勝利を目指せる仲間がいる。

 

 それだけで、十分に幸せなことだった。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「全員集合!」

 

 田島監督の声がグラウンドに響いた。

 

 俺たちは練習を中断し、ベンチ前へ集まった。

 

「今日の相手は青陵ブルーウイングスだ」

 

 監督が話し始める。

 

「去年、地区交流大会で対戦したことを覚えている選手も多いだろう」

 

「はい!」

 

 四年生の先輩たちが力強く返事をした。

 

「去年は一対二で負けた。だが、あれからうちも随分と成長した」

 

 監督は選手たちを見渡した。

 

「特に守備と走塁だ。去年の青陵戦で課題になった部分を、この一年間しっかり練習してきた」

 

 俺も頷いた。

 

 実際、チームの守備力はかなり向上している。

 

 去年は二塁への送球が逸れることも多かった。

 

 中継プレーもぎこちなかった。

 

 だが、今では違う。

 

 大地を中心とした内野陣の連携も改善されているし、外野からの返球も安定してきた。

 

「青陵は今年も守備が堅い。走塁も上手い。だから、今日は一つ一つのプレーを大切にしよう」

 

「はい!」

 

「それから、相手の走者には十分注意すること。少しでも隙を見せれば次の塁を狙ってくるぞ」

 

「はい!」

 

 監督は満足そうに頷いた。

 

「よし。それじゃあスタメンを発表する」

 

 今回の先発投手は藤原先輩。

 

 小学四年生の右腕で、去年から桜台フェニックスの主力投手として活躍している。

 

 俺は三番ショート。

 

 大地は八番セカンド。

 

 捕手は中村先輩だった。

 

 基本的には前の試合と同じ布陣である。

 

「朝倉」

 

「はい!」

 

 監督が俺を見た。

 

「今日も三番を任せる。相手は守備がいいからな。無理に大きな打球を狙わず、確実に出塁してくれ」

 

「分かりました!」

 

「それから、投手としても準備しておいてくれ」

 

「はい!」

 

 よし。

 

 今回も登板機会がありそうだ。

 

 もっとも、無理に投げるつもりはない。

 

 何しろ俺は七歳。

 

 肩や肘への負担は、常に考える必要がある。

 

 だが、短いイニングなら十分に戦える自信があった。

 

 監督が話を終え、選手たちがそれぞれ準備を始める。

 

 そのときだった。

 

『ピロン♪』

 

(……来たか)

 

 聞き慣れた電子音。

 

 視界の隅に、半透明の画面が表示された。

 

――――――――――――――――――

 

【特別イベント発生】

 

『雪辱の一戦』

 

【対象試合】

 

 春季少年野球大会

 

 四年生以下の部・準々決勝

 

 桜台フェニックス

    対

 青陵ブルーウイングス

 

【過去の対戦結果】

 

 桜台フェニックス 1

 

 青陵ブルーウイングス 2

 

 敗北

 

【イベント目標】

 

・青陵ブルーウイングスに勝利する

 

・打撃で勝利に貢献する

 

・守備または投球で勝利に貢献する

 

・前回対戦時を上回る個人評価を獲得する

 

【達成報酬】

 

 各種経験点

 

 強豪対戦ボーナス

 

【特別報酬】

 

『リベンジ○』取得のコツ

 

【追加評価】

 

 チーム連携による勝利貢献を評価します。

 

――――――――――――――――――

 

(……おお!)

 

 特殊能力のコツが報酬になっている。

 

 リベンジ○。

 

 パワプロでは、以前対戦した相手への対応力が高まる特殊能力だ。

 

 将来、何度も対戦する優秀な打者を相手にすることを考えれば、非常に魅力的である。

 

 もっとも、特殊能力が目的で試合をするわけではない。

 

 俺が一番欲しいのは、勝利だ。

 

(……全部達成してやるか)

 

 俺は画面を閉じた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 試合開始前。

 

 俺は相手チームの練習を眺めていた。

 

 青陵ブルーウイングス。

 

 青いユニフォームに身を包んだ選手たちが、整然とキャッチボールをしている。

 

 去年と変わらない光景だった。

 

 いや。

 

(……前より上手くなってるな)

 

 特に目立つのは、送球の正確さだった。

 

 捕球から送球への移行が速い。

 

 しかも、ボールの受け渡しが滑らかだ。

 

 無駄な動きがほとんどない。

 

 去年からさらに練習を重ねてきたのだろう。

 

 俺は感心しながら、その様子を見ていた。

 

「朝倉君?」

 

「ん?」

 

 不意に声をかけられた。

 

 振り返ると、青陵のユニフォームを着た少年が立っていた。

 

 俺より身体が大きい。

 

 おそらく四年生だろう。

 

「やっぱり朝倉君だ」

 

「えっと……」

 

「去年、試合しただろ?」

 

「あっ!」

 

 思い出した。

 

 去年の地区交流大会で対戦した青陵の選手だ。

 

 確か、内野を守っていたはず。

 

「覚えてる?」

 

「はい! 去年はありがとうございました!」

 

「こちらこそ」

 

 少年は笑った。

 

「去年、一年生なのに凄く打つ子がいるって驚いたんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。監督も警戒してた」

 

 ……なるほど。

 

 やはり、去年からある程度注目されていたらしい。

 

「今年も三番なんだって?」

 

「はい!」

 

「そっか。じゃあ、今日も簡単には打たせないからな」

 

「僕も頑張ります!」

 

 俺が答えると、少年は楽しそうに笑った。

 

「よろしく!」

 

「よろしくお願いします!」

 

 そう言って、少年は自分のチームへ戻っていった。

 

 ……うん。

 

 こういうのもいいな。

 

 敵同士ではあるが、別に仲が悪いわけではない。

 

 むしろ、互いに全力を尽くせる相手がいるのはありがたいことだ。

 

 さて。

 

(……そろそろ始まるか)

 

 俺はグローブを持ち直した。

 

     ◇ ◇ ◇

 

「両チーム、整列!」

 

 審判の声が響いた。

 

 俺たちはグラウンド中央に並んだ。

 

 向かい側には青陵ブルーウイングスの選手たち。

 

 去年と同じ青いユニフォーム。

 

 だが、選手たちの顔つきは一段と引き締まっている。

 

「よろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

 互いに頭を下げる。

 

 そして、それぞれのベンチへ戻った。

 

 先攻は青陵。

 

 つまり、俺たちは守備からの開始だ。

 

 俺はショートの守備位置へ向かった。

 

「悠真!」

 

 隣から大地の声が飛んできた。

 

「今日も頼むぞ!」

 

「大地もね!」

 

「おう!」

 

 俺たちは軽くグローブを掲げた。

 

 さあ。

 

 始めよう。

 

「プレイ!」

 

 審判の声が響いた。

 

 準々決勝。

 

 桜台フェニックス対青陵ブルーウイングス。

 

 雪辱の一戦が始まった。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 一回表。

 

 青陵の先頭打者が打席に入った。

 

 藤原先輩がマウンドに立つ。

 

 中村先輩がミットを構えた。

 

 初球。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

「ストライク!」

 

 外角低め。

 

 いいコースだった。

 

 二球目。

 

 今度は内角。

 

 カンッ!

 

 打球は三遊間へ転がった。

 

(来た!)

 

 俺は素早く反応した。

 

 左方向へ数歩移動。

 

 腰を落としてグローブを伸ばす。

 

 ぱしっ!

 

 捕球成功。

 

 そのまま一塁へ送球する。

 

 ぱしんっ!

 

「アウト!」

 

 よし!

 

 先頭打者を打ち取った。

 

「ナイスショート!」

 

「悠真、いいぞ!」

 

 ベンチから声が飛んでくる。

 

 俺は軽く手を上げた。

 

 まずは一つ。

 

 しかし、青陵はここからが厄介だった。

 

 二番打者。

 

 初球はボール。

 

 二球目はファウル。

 

 そして三球目。

 

 カンッ!

 

 打球はセカンド方向へ転がった。

 

「大地!」

 

「任せろ!」

 

 大地が前進する。

 

 しかし、打球は思ったよりも弱かった。

 

 大地は素早くボールを拾い、一塁へ送球。

 

 ぱしんっ!

 

「セーフ!」

 

 ……内野安打か。

 

 悪い守備ではなかった。

 

 むしろ、よく追いついたと思う。

 

 ただ、相手打者の足が速かった。

 

(……さて)

 

 一死一塁。

 

 青陵が得意とする状況だ。

 

 俺は一塁走者へ視線を向けた。

 

 案の定、リードが大きい。

 

 藤原先輩がセットポジションに入る。

 

 その瞬間。

 

 走者が動いた。

 

「走った!」

 

 中村先輩が声を上げる。

 

 藤原先輩が投球。

 

 打者は見送った。

 

 ぱしんっ!

 

 中村先輩が素早く立ち上がる。

 

 二塁へ送球!

 

 シュッ!

 

(……いい球!)

 

 大地がベースへ入る。

 

 送球はほぼ完璧だった。

 

 ぱしっ!

 

 大地が捕球し、走者にタッチ。

 

「アウト!」

 

「よっしゃあ!」

 

 大地が叫んだ。

 

 俺も思わず拳を握る。

 

(……去年とは違うぞ!)

 

 あのときは、青陵の走塁に何度も苦しめられた。

 

 しかし、今回は違う。

 

 中村先輩の素早い送球。

 

 大地の正確なベースカバー。

 

 そして、走者の動きを警戒していた内野陣。

 

 練習の成果が、しっかり出ていた。

 

「ナイスプレー!」

 

 藤原先輩が声をかける。

 

 大地は嬉しそうに笑った。

 

「へへっ!」

 

 これで二死走者なし。

 

 続く三番打者はセンターフライ。

 

 三者凡退で一回表を終えた。

 

 ……いい立ち上がりだ。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 一回裏。

 

 桜台フェニックスの攻撃。

 

 青陵のマウンドには、四年生の右腕が立っていた。

 

 去年の投手とは違う。

 

 しかし、投球フォームはなかなか安定していた。

 

 球速は八十キロ台後半といったところだろうか。

 

 少なくとも、簡単に打てる投手ではなさそうだ。

 

 先頭打者はショートゴロ。

 

 一死。

 

 二番打者は粘った末に四球を選んだ。

 

 一死一塁。

 

 そして。

 

「三番、ショート、朝倉君!」

 

「はい!」

 

 俺の打席が回ってきた。

 

 バットを持ち、ゆっくり打席へ向かう。

 

 相手捕手がこちらを見た。

 

「去年も三番だったよな?」

 

「はい!」

 

「今年も打つつもり?」

 

「もちろんです!」

 

「そっか」

 

 捕手は笑った。

 

「じゃあ、こっちも本気でいくよ」

 

「お願いします!」

 

 ……いいね。

 

 こういう勝負は大好きだ。

 

 俺は右打席に入った。

 

 バットを構える。

 

 相手投手がセットポジションに入る。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

「ストライク!」

 

(……なるほど)

 

 なかなかいい球だ。

 

 球速だけでなく、コースもいい。

 

 二球目。

 

 今度は内角高め。

 

 俺は見送った。

 

「ボール!」

 

 一対一。

 

 三球目。

 

 再び外角。

 

 今度は少し高い。

 

(……これだ!)

 

 俺は左足を軽く踏み出した。

 

 腰を回す。

 

 バットを振り抜く。

 

 カキィンッ!

 

 乾いた打球音が響いた。

 

 打球は二遊間へ。

 

「セカンド!」

 

 相手の二塁手が横っ飛びする。

 

 しかし。

 

 ぱしっ!

 

 グローブの先をかすめ、打球はセンター前へ抜けた。

 

「よし!」

 

 センター前ヒット!

 

 俺は一塁へ駆け抜けた。

 

 一塁走者は二塁で止まる。

 

 一死一、二塁。

 

「ナイスバッティング!」

 

 ベンチから歓声が上がる。

 

 俺は一塁上で小さく拳を握った。

 

 これで先制のチャンスだ。

 

『ピロン♪』

 

――――――――――――――――――

 

【打撃評価】

 

 対戦相手:青陵ブルーウイングス

 

 結果:中前安打

 

 打球評価:A

 

 ミート評価:A

 

 状況判断:良好

 

【獲得経験点】

 

 技術ポイント+25

 

 精神ポイント+10

 

【特別イベント進行】

 

 打撃による貢献:達成

 

――――――――――――――――――

 

(……よし!)

 

 順調だ。

 

 だが、まだ点は入っていない。

 

 次の四番打者が重要になる。

 

「四番、ファースト、松本君!」

 

 松本先輩が打席に入った。

 

 小学四年生。

 

 チームの主砲である。

 

 相手投手が初球を投げる。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角。

 

 松本先輩がバットを振った。

 

 カキンッ!

 

 打球はライト方向へ飛んだ。

 

(……抜けるか!?)

 

 しかし、青陵の右翼手が素早く反応する。

 

 前進。

 

 そして。

 

 ぱしっ!

 

「アウト!」

 

 ライトフライ。

 

 二死一、二塁。

 

 ……惜しい。

 

 打球そのものは悪くなかった。

 

 しかし、相手の守備位置が良かった。

 

(……さすが青陵)

 

 簡単には点を取らせてくれない。

 

 続く五番打者。

 

 初球はストライク。

 

 二球目はボール。

 

 三球目。

 

 カンッ!

 

 打球はサード方向。

 

 相手三塁手が捕球。

 

 一塁へ送球。

 

「アウト!」

 

 チェンジ。

 

 一回裏も無得点。

 

 スコアは〇対〇。

 

 だが、俺たちは確実にチャンスを作れていた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 二回表。

 

 青陵の攻撃。

 

 先頭は四番打者だった。

 

 四年生の大柄な少年。

 

 去年も主軸を務めていた選手らしい。

 

 藤原先輩が投げる。

 

 初球。

 

 内角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 外角。

 

 カキィンッ!

 

 鋭い打球がセンター方向へ飛んだ。

 

 センター前ヒット。

 

 無死一塁。

 

(……やっぱり打つな)

 

 続く五番打者。

 

 相手ベンチから声が飛ぶ。

 

「しっかり送れ!」

 

 送りバントか。

 

 藤原先輩がセットポジションに入る。

 

 初球。

 

 打者がバントの構えを見せた。

 

 コツンッ!

 

 ボールが一塁方向へ転がる。

 

 ファーストが前進。

 

 捕球して一塁へ送球。

 

「アウト!」

 

 一死二塁。

 

 ここまでは、相手の狙いどおりだろう。

 

 そして六番打者。

 

 初球はボール。

 

 二球目はストライク。

 

 三球目。

 

 カンッ!

 

 打球はショート方向。

 

(……来た!)

 

 俺は素早く前進した。

 

 打球はやや高く弾んでいる。

 

 正面で待てば捕れる。

 

 しかし。

 

(……待ってたら間に合わない!)

 

 二塁走者がスタートを切っていた。

 

 打球が転がる方向と、走者の動き。

 

 俺は一瞬で判断した。

 

 前へ出る。

 

 グローブを低く構える。

 

 ぱしっ!

 

 捕球成功。

 

 そして、そのまま三塁へ視線を向けた。

 

 二塁走者は三塁へ向かっている。

 

 だが、すでにかなり進んでいた。

 

(……無理だな)

 

 俺は迷わず一塁へ送球した。

 

 ぱしんっ!

 

「アウト!」

 

 二死三塁。

 

 走者は進めてしまったが、確実にアウトを一つ取れた。

 

 変に三塁へ投げていたら、両方セーフになっていたかもしれない。

 

 これで二死三塁。

 

 次を抑えれば無失点だ。

 

 ところが。

 

 七番打者への二球目。

 

 カンッ!

 

 打球は一、二塁間へ。

 

 大地が横っ飛びする。

 

「くっ!」

 

 あと少し。

 

 しかし、打球はグローブの先を抜けた。

 

 ライト前ヒット。

 

 三塁走者がホームイン。

 

 青陵が先制した。

 

 桜台〇対一青陵。

 

「くそっ!」

 

 大地が悔しそうに地面を叩いた。

 

 俺はすぐに声をかける。

 

「大地! 今のは仕方ないよ!」

 

「でも、あとちょっとだった!」

 

「次は捕ろう!」

 

「……おう!」

 

 大地が立ち上がる。

 

 そう。

 

 まだ一点差だ。

 

 焦る必要はない。

 

 藤原先輩は続く八番打者をセカンドゴロに打ち取り、追加点を許さなかった。

 

 二回表終了。

 

 桜台〇対一青陵。

 

 ……去年と同じ展開になってきたな。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 二回裏。

 

 俺たちの攻撃。

 

 だが、青陵の守備は相変わらず堅かった。

 

 先頭打者がショートゴロ。

 

 続く打者はセンターフライ。

 

 そして八番の大地。

 

「よっしゃ! 打つぞ!」

 

 元気よく打席へ向かう。

 

 相手投手の初球。

 

 ストライク。

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

 大地がバットを振った。

 

 カンッ!

 

(……おっ!)

 

 打球は三遊間へ転がる。

 

 相手ショートが飛びついた。

 

 しかし、わずかに届かない。

 

 レフト前ヒット!

 

「よっしゃあ!」

 

 大地が一塁上で拳を握った。

 

 俺もベンチから声を上げる。

 

「ナイス大地!」

 

「おう!」

 

 続く九番打者。

 

 初球。

 

 コツンッ!

 

 送りバント。

 

 打球は投手の前へ転がった。

 

 相手投手が素早く処理する。

 

 一塁へ送球。

 

「アウト!」

 

 二死二塁。

 

 打順は一番に戻る。

 

 しかし、ここで青陵の投手が踏ん張った。

 

 外角低めへのストレート。

 

 続いて内角への速球。

 

 最後は高めの球を振らせた。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 チェンジ。

 

 またしても無得点。

 

 ……うーん。

 

(……やっぱり簡単には点を取れないな)

 

 青陵は強い。

 

 個々の能力も高いが、それ以上にチーム全体の動きがいい。

 

 こちらが走者を出しても、慌てない。

 

 確実にアウトを重ねてくる。

 

 去年、俺たちが苦戦した理由を改めて理解した。

 

 だが。

 

(……だからこそ、倒しがいがある)

 

 俺は自然と笑みを浮かべていた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 三回表。

 

 青陵の攻撃。

 

 藤原先輩は先頭打者をファーストゴロに打ち取った。

 

 一死。

 

 続く二番打者。

 

 カンッ!

 

 打球はセンター前。

 

 一死一塁。

 

 そして三番打者。

 

 初球はボール。

 

 二球目はファウル。

 

 三球目。

 

 打者がバントの構えを見せた。

 

(……またか!)

 

 俺は素早く前進の準備をする。

 

 しかし、打者はバットを引いた。

 

「ボール!」

 

 二対一。

 

 なるほど。

 

 バントの構えで守備を動かし、揺さぶってくるつもりか。

 

 次の球。

 

 今度は本当にバントしてきた。

 

 コツンッ!

 

 ボールは三塁方向へ。

 

 藤原先輩がマウンドから駆け下りる。

 

 捕球。

 

 一塁へ送球。

 

「アウト!」

 

 二死二塁。

 

 そして四番打者。

 

 ここが勝負どころだ。

 

 藤原先輩が一度深呼吸した。

 

 中村先輩がサインを出す。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

「ボール!」

 

 三球目。

 

 カキンッ!

 

 打球はショート方向へ飛んだ。

 

(……来た!)

 

 俺は素早く反応する。

 

 打球はやや強いゴロ。

 

 しかも、三遊間寄り。

 

 普通に追いかければ届かないかもしれない。

 

 だが。

 

(……捕れる!)

 

 俺は左足を大きく踏み出した。

 

 身体を低くする。

 

 グローブを伸ばす。

 

 ぱしっ!

 

 捕った!

 

 しかし、身体は三塁方向へ流れている。

 

 このままでは一塁へ投げられない。

 

 俺は右足を踏み替えた。

 

 身体の向きを変える。

 

 そして、右腕を振った。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

「アウト!」

 

「おおおおっ!」

 

 ベンチから歓声が上がった。

 

「ナイスショート!」

 

「朝倉、よく捕った!」

 

 藤原先輩が笑顔で声をかけてくる。

 

「ありがとうございます!」

 

 俺も笑って答えた。

 

 ……よし。

 

 これで追加点は許さなかった。

 

 スコアは〇対一のまま。

 

 まだ十分に逆転できる。

 

 そのとき。

 

『ピロン♪』

 

――――――――――――――――――

 

【守備評価】

 

 守備位置:遊撃手

 

 結果:好守備成功

 

 打球難易度:A

 

 捕球評価:A

 

 送球評価:A

 

【獲得経験点】

 

 技術ポイント+30

 

 敏捷ポイント+25

 

【特別イベント進行】

 

 守備による貢献:達成

 

――――――――――――――――――

 

(……おお!)

 

 いい報酬だ。

 

 やはり難しい守備を成功させると、獲得経験点も増えるらしい。

 

 だが、今はそれより試合だ。

 

 何しろ、一点負けている。

 

 守備だけで満足するわけにはいかない。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 三回裏。

 

 桜台フェニックスの攻撃。

 

 先頭は二番打者。

 

 相手投手の初球。

 

 ストライク。

 

 二球目。

 

 カンッ!

 

 打球はセンター方向へ飛んだ。

 

 しかし、相手センターが前進して捕球。

 

 一死。

 

 そして。

 

「三番、ショート、朝倉君!」

 

「はい!」

 

 俺の二打席目が回ってきた。

 

 現在のスコアは〇対一。

 

 まだ中盤だが、そろそろ追いつきたいところだ。

 

 俺はバットを握り直した。

 

 相手投手がこちらを見る。

 

 前の打席ではセンター前ヒットを打っている。

 

 当然、警戒しているだろう。

 

 初球。

 

 内角低め。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

「ストライク!」

 

(……いい球だ)

 

 前の打席とは配球を変えてきた。

 

 二球目。

 

 外角高め。

 

 俺は見送った。

 

「ボール!」

 

 三球目。

 

 再び内角。

 

 今度は少し甘い。

 

(……ここ!)

 

 俺はバットを振った。

 

 カキィンッ!

 

 打球はレフト方向へ飛んだ。

 

 相手左翼手が走る。

 

 だが。

 

 ぽとっ!

 

 その前に落ちた。

 

「よし!」

 

 レフト前ヒット!

 

 二打数二安打。

 

 俺は一塁へ駆け抜けた。

 

 ベンチから歓声が上がる。

 

「ナイスバッティング!」

 

「いいぞ朝倉!」

 

 俺は軽く手を上げた。

 

 しかし、まだ仕事は終わっていない。

 

 むしろ、ここからだ。

 

(……走塁で揺さぶってやるか)

 

 俺は一塁ベースから少し離れた。

 

 相手投手がこちらを見る。

 

 牽制球を警戒しながら、リードを取る。

 

 もちろん、無理な盗塁をするつもりはない。

 

 今の俺の走力は、まだそこまで高くない。

 

 だが、走者としてプレッシャーをかけることはできる。

 

 相手投手がセットポジションに入る。

 

 俺は軽く身体を動かした。

 

 投手の視線がこちらへ向く。

 

 ……よし。

 

 少し意識させられたな。

 

 そして四番、松本先輩。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ボール!」

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

「ストライク!」

 

 三球目。

 

 相手投手が一塁へ牽制!

 

(……来ると思った!)

 

 俺は素早く帰塁した。

 

 セーフ。

 

 再びリードを取る。

 

 相手投手がセットポジションに入る。

 

 そして次の球。

 

 シュッ!

 

 カキィンッ!

 

(……おおっ!)

 

 松本先輩の打球が、鋭く右中間へ飛んだ。

 

 相手右翼手と中堅手が追いかける。

 

 だが、打球はその間へ落ちた。

 

「回れ回れ!」

 

 ベンチから声が飛ぶ。

 

 俺は一塁を蹴った。

 

 二塁を回る。

 

 三塁コーチを見る。

 

 腕を回している。

 

(……行ける!)

 

 俺は一気に三塁へ向かった。

 

 外野からの返球。

 

 中継に入った内野手がボールを受け取る。

 

 しかし。

 

 俺はすでに三塁へ到達していた。

 

「セーフ!」

 

 無死ではなく、一死二、三塁。

 

 松本先輩のツーベースヒットだ。

 

「ナイスバッティング!」

 

 俺が声を上げると、松本先輩は二塁上で笑った。

 

「絶対返すぞ!」

 

「お願いします!」

 

 ……よし。

 

 一死二、三塁。

 

 絶好のチャンスだ。

 

 そして五番打者。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角。

 

 カンッ!

 

 打球はセカンド方向へ転がった。

 

(……まずい!)

 

 正面のゴロ。

 

 相手二塁手が捕球した。

 

 しかし。

 

「ホーム!」

 

 俺は三塁からスタートを切っていた。

 

 打球の勢い。

 

 守備位置。

 

 相手野手の動き。

 

 それらを見た瞬間、判断したのだ。

 

 二塁手は一度本塁へ視線を向けた。

 

 だが、送球は間に合わないと判断したらしい。

 

 一塁へ投げた。

 

「アウト!」

 

 その間に。

 

 俺はホームベースを踏んだ。

 

「セーフ!」

 

 同点!

 

 桜台一対一青陵!

 

「よっしゃあ!」

 

 ベンチから歓声が上がる。

 

 俺も思わず拳を握った。

 

 打点は五番打者についたが、俺自身も走塁で貢献できた。

 

 しかも、二死三塁。

 

 まだ勝ち越しのチャンスが残っている。

 

 続く六番打者。

 

 初球はボール。

 

 二球目はストライク。

 

 三球目。

 

 カンッ!

 

 打球はセンター方向。

 

(……抜けろ!)

 

 しかし、相手センターが素早く前進する。

 

 ぱしっ!

 

 センターフライ。

 

 チェンジ。

 

 追加点はならなかった。

 

 だが。

 

 ついに追いついた。

 

 スコアは一対一。

 

 試合は振り出しに戻った。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 四回表を迎える前。

 

 田島監督が藤原先輩を呼んだ。

 

「藤原、ここまでよく投げた」

 

「ありがとうございます!」

 

「次の回からは継投する。肩の状態はどうだ?」

 

「大丈夫です!」

 

「そうか。よく頑張ったな」

 

 藤原先輩は少し悔しそうだったが、素直に頷いた。

 

 そして。

 

「朝倉」

 

「はい!」

 

 監督が俺を見た。

 

「次の回、お前に任せる」

 

 ……来た!

 

「はい!」

 

「ただし、球数はしっかり管理する。無理はさせないぞ」

 

「分かりました!」

 

「中村と相談しながら、自分の投球をしてくれ」

 

「はい!」

 

 俺は力強く返事をした。

 

 ついに登板だ。

 

 スコアは一対一。

 

 緊迫した試合展開。

 

 しかも相手は、去年負けた青陵ブルーウイングス。

 

 これ以上ない舞台だった。

 

(……よし)

 

 俺はグローブを持ち直した。

 

 そして、マウンドへ向かう。

 

 七歳。

 

 小学二年生。

 

 まだ身体は小さい。

 

 だが、投手としての実力なら、四年生にも負けるつもりはない。

 

 そして何より。

 

 俺にはパワプロ育成システムがある。

 

 これまで積み重ねてきた練習。

 

 試合経験。

 

 取得した能力。

 

 それらを全て使って、この試合を勝ちに導く。

 

 マウンドに立つ。

 

 中村先輩がミットを構えた。

 

「朝倉!」

 

「はい!」

 

「いつもどおりでいいぞ!」

 

「分かりました!」

 

 俺は笑った。

 

 そう。

 

 特別なことをする必要はない。

 

 自分の投球をすればいい。

 

 左足を上げる。

 

 重心を移動させる。

 

 身体を回転させる。

 

 そして。

 

 右腕を振り抜いた。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

「ストライク!」

 

 七十八キロのストレート。

 

 コースは外角低め。

 

 完璧な一球だった。

 

(……いい感じだ)

 

 俺はボールを受け取った。

 

 その瞬間。

 

『ピロン♪』

 

――――――――――――――――――

 

【特別イベント更新】

 

『雪辱の一戦』

 

【現在の状況】

 

 桜台フェニックス 1

 

 青陵ブルーウイングス 1

 

 四回表

 

【個人評価】

 

 打撃:A

 

 守備:A

 

 走塁:A

 

 投球:評価中

 

【追加目標】

 

 勝ち越しを許さず、チームの勝利に貢献する。

 

【特別報酬】

 

『リベンジ○』取得のコツ

 

【イベント達成状況】

 

 未達成

 

――――――――――――――――――

 

(……なるほど)

 

 最後の条件は、勝利か。

 

 ならば、やることは一つ。

 

 俺は打者を見据えた。

 

 青陵の選手たちは、俺の小さな身体を見て少し驚いているようだった。

 

 まあ、無理もない。

 

 相手の主力は四年生。

 

 俺より二学年上だ。

 

 体格にも大きな差がある。

 

 しかし。

 

(……そんなの関係ない)

 

 俺は自然と笑みを浮かべた。

 

 投手として必要なのは、身体の大きさだけではない。

 

 球速。

 

 コントロール。

 

 配球。

 

 そして、打者との駆け引き。

 

 全てを使って勝負する。

 

 それが野球だ。

 

 中村先輩が次のサインを出した。

 

 俺は小さく頷いた。

 

 そして、第二球。

 

 内角低め。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

「ストライクツー!」

 

 追い込んだ。

 

 打者が少し驚いたような顔をする。

 

 ……どうやら、俺のコントロールを甘く見ていたらしい。

 

 だが、まだ終わりではない。

 

 俺は三球目のサインを確認した。

 

 外角低め。

 

 ストレート。

 

 ただし、少しだけ球威を抑える。

 

 全力で投げる必要はない。

 

 狙った場所へ、正確に投げ込む。

 

 それだけで十分だ。

 

 俺は腕を振った。

 

 シュッ!

 

 打者がバットを出す。

 

 しかし。

 

 ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 三球三振!

 

「ナイスボール!」

 

 中村先輩が声を上げた。

 

 俺は小さく拳を握った。

 

(……よし!)

 

 まずは一つ。

 

 あと二つ。

 

 青陵の打線を抑え、味方の反撃を待つ。

 

 それが今の俺の仕事だ。

 

 俺はマウンド上でボールを握り直した。

 

 去年は負けた。

 

 だが、今年は違う。

 

 俺も。

 

 大地も。

 

 藤原先輩も。

 

 中村先輩も。

 

 桜台フェニックスの全員が、あの敗戦から成長している。

 

 そして、その成長を証明する機会が、今ここにある。

 

(……絶対に勝つぞ)

 

 俺は次の打者を見据えた。

 

 雪辱の一戦。

 

 その勝敗は、まだ決まっていない。

 

 だが、俺には確信があった。

 

 今日の俺たちは、去年の俺たちとは違う。

 

 そして。

 

 俺たちの本当の勝負は、ここから始まるのだ。

 




第二十話をお読みいただき、ありがとうございます。

今回は、昨年の地区交流大会で敗れた青陵ブルーウイングスとの再戦を描きました。

桜台フェニックスは、練習を重ねてきた守備連携で青陵の盗塁を阻止。悠真も打撃と守備で活躍し、三回裏には同点のホームを踏みました。

そして四回表、ついに悠真がマウンドへ。

一対一の接戦を制し、昨年の雪辱を果たせるのか。

次回、第二十一話「七歳のエース、雪辱を果たすために」。
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