転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある 作:1番道路
東山レッドソックスを相手に、桜台フェニックスは二対一と勝ち越した。
七歳の二刀流・朝倉悠真は、二年連続優勝を懸けた最後の戦いに挑む。
三回裏。
桜台フェニックスの攻撃。
俺のタイムリーヒットによって、スコアは二対一となった。
まだ一死一塁。
追加点のチャンスは残っている。
しかし、東山レッドソックスのエース、速水拓海先輩も簡単には崩れなかった。
続く四番の松本先輩をセンターフライ。
五番の村田先輩をショートゴロに打ち取り、追加点を許さなかった。
結局、三回裏は一点止まり。
俺たちは一点リードで四回表を迎えることになった。
(……さて)
俺はベンチでグローブを握り直した。
次の回も登板する予定だったが、田島監督は俺の状態を確認してから判断すると言っていた。
何しろ、俺は七歳。
小学二年生だ。
この年齢で無理に投げ続ける必要はない。
将来的には百七十キロを超える速球を投げるつもりなのだから、今のうちから肩や肘を大切にしておく必要がある。
「朝倉」
「はい!」
田島監督が声をかけてきた。
「肩や肘はどうだ?」
「大丈夫です!」
「疲れは?」
「まだ平気です!」
監督は俺の様子を確認した。
そして、山本コーチと少し相談する。
「よし。四回も頼む。ただし、球数が増えたら交代するぞ」
「はい!」
俺は大きく頷いた。
……よし。
まだ投げられる。
◇ ◇ ◇
四回表。
東山レッドソックスの攻撃。
先頭打者は五番。
俺はマウンド上でボールを握った。
中村先輩がサインを出す。
初球。
外角低め。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
(……よし)
狙いどおり。
二球目。
内角高め。
打者が振る。
カンッ!
ファウル。
追い込んだ。
三球目。
少し外へ外す。
「ボール!」
打者は手を出さなかった。
そして四球目。
外角低め。
今度はストライクゾーンの端を狙う。
シュッ!
打者がバットを振った。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
三振!
(……よし!)
俺は小さく拳を握った。
まずは一つ。
続く六番打者。
こちらは初球から打ってきた。
カキンッ!
打球はセカンド方向へ。
「大地!」
「任せろ!」
大地が捕球し、一塁へ送球。
「アウト!」
ツーアウト。
……いいぞ。
あと一人で四回表が終わる。
しかし、七番打者には粘られた。
初球はストライク。
二球目はファウル。
三球目はボール。
四球目もファウル。
五球目。
外角へ投げたストレートを、上手く合わせられた。
カキンッ!
打球はライト前へ。
ヒット。
二死一塁。
(……うーん)
悪い球ではなかった。
だが、打者の方が上手かった。
こういう場面もある。
続く八番打者。
中村先輩がサインを出す。
俺は頷いた。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
打者が振った。
カンッ!
打球はショート方向へ転がった。
藤原先輩が前進する。
ぱしっ!
捕球成功。
そのまま一塁へ送球。
「アウト!」
スリーアウト!
チェンジ!
四回表も無失点。
桜台フェニックスの一点リードは変わらなかった。
◇ ◇ ◇
四回裏。
俺たちの攻撃。
先頭打者が四球で出塁した。
続く打者は送りバントを成功させ、一死二塁。
そして、大地に打席が回ってきた。
「八番、佐藤!」
「はい!」
大地が元気よく返事をする。
俺はベンチから声をかけた。
「大地、頑張れ!」
「おう!」
大地が笑った。
……頼むぞ。
ここで一本出れば、追加点のチャンスだ。
速水先輩が投げる。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
大地が振った。
カンッ!
「ファウル!」
追い込まれた。
だが、大地は落ち着いていた。
三球目。
外角へ外れた球を見送る。
「ボール!」
四球目。
内角低め。
大地が踏み込んだ。
そして。
カキンッ!
(……おお!)
打球はライト方向へ飛んだ。
相手の二塁手が追いかける。
だが、ボールはその横を抜けた。
「抜けた!」
ライト前ヒット!
二塁走者が三塁を回る。
ライトから返球。
ホームへ。
だが、間に合わない!
「セーフ!」
追加点!
桜台フェニックス、三対一!
「やったあああ!」
大地が一塁ベース上で飛び跳ねた。
俺も思わず立ち上がった。
「ナイス、大地!」
「へへっ!」
大地が満面の笑みでこちらを見た。
……本当に凄いな。
去年はまだ二年生だった大地。
守備も打撃も、決して完成された選手ではなかった。
だが、この一年間で随分と成長した。
今では俺と一緒に二遊間を守り、決勝戦でタイムリーヒットまで打っている。
嬉しい限りだ。
その後、追加点は奪えなかった。
しかし、二点リード。
これは大きい。
◇ ◇ ◇
五回表。
東山レッドソックスの最後の攻撃。
スコアは三対一。
俺たちが二点リードしていた。
だが、油断はできない。
何しろ、東山は強打のチームだ。
二点差など、あっという間に追いつかれる可能性がある。
そして。
この回からマウンドには山岸先輩が上がった。
小学四年生。
制球力を武器にする投手だ。
俺はショートへ戻る。
田島監督の判断だった。
ここまでの投球数と身体への負担を考え、俺は四回で降板することになったのだ。
もちろん、少し残念ではある。
だが、不満はない。
俺はまだ七歳。
今後の野球人生を考えれば、無理をする必要などない。
それに。
(……山岸先輩なら大丈夫だろ)
俺はそう思っていた。
◇ ◇ ◇
先頭の九番打者。
山岸先輩が投げる。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
打者が振った。
カキンッ!
打球はショート方向へ。
(……来た!)
俺は前進する。
ぱしっ!
捕球成功。
そのまま一塁へ送球。
「アウト!」
ワンアウト!
「ナイスショート!」
山岸先輩が声をかけてくれる。
「ありがとうございます!」
俺は笑って返した。
よし。
あと二つ。
続く一番打者。
こちらは足の速い選手だ。
初球はボール。
二球目はストライク。
三球目。
カキンッ!
打球は三遊間へ。
俺は横っ飛びに飛び込んだ。
しかし。
(……届かない!)
打球はグローブの先を抜けた。
レフト前ヒット。
一死一塁。
……なるほど。
東山も最後まで諦めていない。
当然だ。
決勝戦なのだから。
続く二番打者。
初球はストライク。
二球目。
カキィンッ!
打球はセンター方向へ飛んだ。
外野手が追いかける。
しかし、ボールはその前に落ちた。
センター前ヒット。
一死一、二塁。
(……まずいな)
俺は小さく息を吐いた。
ここで長打を打たれれば、同点になる可能性もある。
そして。
三番打者が打席に入った。
東山の主力選手だ。
◇ ◇ ◇
山岸先輩が投げる。
初球。
外角低め。
「ボール!」
二球目。
内角。
「ストライク!」
三球目。
外角高め。
打者が振った。
カキィンッ!
打球はライト方向へ飛んだ。
(……まずい!)
右翼手が追いかける。
しかし、打球はその前に落ちた。
ライト前ヒット。
二塁走者が三塁を回る。
ホームへ。
返球は間に合わない。
「セーフ!」
一点差!
桜台フェニックス、三対二!
さらに一死一、三塁。
……危険な状況だ。
しかも、次は四番打者。
ここで長打を打たれれば、一気に逆転される可能性もある。
田島監督がタイムを要求した。
そして、マウンドへ向かう。
山岸先輩と中村先輩が話している。
俺もショートの位置から様子を見ていた。
……どうする?
投手交代か?
だが、監督は山岸先輩を続投させるらしい。
しばらくして、守備が再開された。
◇ ◇ ◇
四番打者。
一死一、三塁。
スコアは三対二。
緊迫した場面だ。
山岸先輩が投げる。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
「ボール!」
三球目。
外角。
打者が振った。
カキンッ!
(……来た!)
打球はショート方向へ飛んだ。
低いライナー。
俺は素早く反応した。
グローブを伸ばす。
ぱしっ!
捕った!
「アウト!」
ショートライナー!
その瞬間。
(……走者が飛び出してる!)
一塁走者が大きくリードを取ったまま、戻ろうとしていた。
俺は迷わず一塁へ送球した。
「ファースト!」
ぱしんっ!
一塁手が捕球する。
走者はまだベースに戻っていない。
「アウト!」
ダブルプレー!
試合終了!
「ゲームセット!」
その瞬間。
「よっしゃあああああ!」
桜台フェニックスのベンチが爆発した。
勝った。
勝ったのだ。
桜台フェニックス、三対二。
東山レッドソックスに勝利!
二年連続優勝!
◇ ◇ ◇
「悠真あああ!」
大地が走ってきた。
「勝ったぞ!」
「うん!」
「優勝だあああ!」
「やったね!」
俺たちは笑い合った。
藤原先輩も駆け寄ってくる。
「朝倉、最後の守備、凄かったぞ!」
「ありがとうございます!」
「まさかあそこでダブルプレーになるとはな!」
中村先輩も笑っていた。
山岸先輩はというと、ほっとした表情をしていた。
「助かったよ、朝倉」
「ナイスピッチングでした!」
「最後は本当に危なかったけどな」
山岸先輩が苦笑する。
俺も笑った。
……確かに。
最後は本当に危なかった。
だが、勝った。
全員で勝利を掴んだ。
それが何より嬉しい。
◇ ◇ ◇
表彰式。
俺たち桜台フェニックスは、優勝旗と賞状を受け取った。
選手たちは満面の笑みだった。
大地なんて、何度も優勝旗を見上げている。
「すげえなあ……」
「うん」
「去年も優勝したけど、やっぱ嬉しいよな!」
「そうだね!」
俺も笑った。
何度優勝しても、嬉しいものは嬉しい。
そして。
「続いて、大会最優秀選手を発表します」
会場のアナウンスが響いた。
……おっ。
大会MVPか。
去年は俺が受賞した。
だが、今年はどうだろう。
打撃ではかなり活躍できたと思う。
投手としても、短いイニングながら無失点の登板を重ねた。
守備でも貢献できたはずだ。
それでも、他の選手たちも素晴らしい活躍をしていた。
誰が選ばれてもおかしくない。
そんなことを考えていると。
「大会最優秀選手、桜台フェニックス、朝倉悠真選手!」
……おお!
「悠真!」
大地が俺の肩を叩いた。
「またお前だぞ!」
「うん!」
「すげえ!」
俺は思わず笑った。
二年連続、大会MVP。
これはなかなか凄い記録ではないだろうか。
もっとも、俺が目指しているのは世界最高の二刀流選手だ。
小学生の大会で満足するつもりはない。
だが。
(……嬉しいな)
やっぱり、こういう賞を貰うのは嬉しいものだった。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は自室で育成システムを開いていた。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【大会終了】
春季少年野球大会
四年生以下の部
【最終結果】
優勝:桜台フェニックス
【個人表彰】
大会最優秀選手
朝倉悠真
【特別イベント達成!】
『二年連続優勝への挑戦』
【達成報酬】
筋力ポイント+300
敏捷ポイント+400
技術ポイント+600
精神ポイント+500
【追加報酬】
大会MVPボーナス
【新規解放】
特殊能力取得補助機能・拡張
――――――――――――――――――
(……おお!)
大量の経験点。
しかも、新しい機能まで解放された。
俺は思わず笑みを浮かべた。
特殊能力取得補助機能の拡張。
これはなかなか楽しみだ。
さっそく確認してみる。
――――――――――――――――――
【特殊能力取得補助機能】
拡張完了!
【追加機能】
・投手特殊能力の取得候補表示
・所持しているコツの一覧表示
・必要経験点の軽減率表示
・取得条件の詳細確認
【現在の取得候補】
対強打者○
粘り打ち
リベンジ○
【取得済み特殊能力】
アベレージヒッター
対エース○
――――――――――――――――――
(……なるほど)
これは便利だ。
特に投手特殊能力の取得候補が詳しく表示されるようになったのは大きい。
俺は将来的に、打者としてだけでなく投手としても世界最高を目指している。
だからこそ、投手用の特殊能力は非常に重要だ。
対強打者○。
これは、強い打者との対戦で役に立つだろう。
いずれは怪童やドクターKといった金特殊能力も取得したい。
もっとも、まだ七歳。
今の段階では取得条件を満たしていない能力も多い。
焦る必要はない。
(……まずは基礎能力だな)
俺は現在のステータスを確認した。
――――――――――――――――――
【朝倉悠真】
年齢:7歳
学年:小学2年生
投打:右投右打
【投手能力】
球速:78km/h
コントロール:F58
スタミナ:G
【野手能力】
弾道:1
ミート:F43
パワー:G20
【特殊能力】
アベレージヒッター
対エース○
――――――――――――――――――
(……うん)
まだまだだな。
もちろん、七歳児としては十分すぎる能力だ。
だが、俺が目指しているのは、こんなところではない。
百七十キロを超えるストレート。
年間六十本以上のホームラン。
打率四割。
そして、投打ともに世界最高。
今の能力では、まだまだ遠い夢だ。
だが。
(……絶対に達成してやる)
俺にはパワプロ育成システムがある。
練習すれば経験点が貯まる。
経験点を使えば能力を伸ばせる。
そして、特殊能力まで取得できる。
これほど恵まれた環境はない。
もちろん、努力も必要だ。
実戦経験も必要だ。
身体の成長だって待たなければならない。
それでも。
俺には、どこまでも成長できる可能性がある。
◇ ◇ ◇
翌朝。
「悠真ー!」
玄関から父さんの声が聞こえた。
「起きてるかー?」
「起きてる!」
「今日は練習休みだろ? キャッチボールでもするか?」
……おいおい。
昨日、大会で優勝したばかりなんだぞ。
普通は休ませるところだろう。
そう思っていると。
「あなた!」
母さんの声が響いた。
「昨日あれだけ試合したんだから、今日は休ませてあげて!」
「あ、そうだったな!」
父さんが慌てたように答える。
俺は思わず笑ってしまった。
……まったく。
うちの父さんは、相変わらず野球が好きらしい。
まあ、人のことは言えないが。
「悠真!」
「なに?」
「今日は一緒にプロ野球でも見るか?」
……なるほど。
それなら大歓迎だ。
「見る!」
「よし!」
父さんが嬉しそうに笑った。
母さんは少し呆れた様子だったが、何も言わなかった。
俺はリビングへ向かう。
今日は野球の練習は休み。
だが、野球を見ることまで休む必要はない。
それに、プロの試合から学べることも多いだろう。
俺はテレビの前に座った。
画面には、プロ野球選手たちが映っている。
大きな球場。
満員の観客。
そして、マウンドに立つ投手。
(……いつか、俺も)
俺は画面を見つめた。
いつか、あの舞台に立つ。
いや、それだけではない。
日本のプロ野球。
そして、メジャーリーグ。
世界最高の舞台で、投げて、打って、走って、守る。
史上最強の二刀流選手。
そんな存在になってみせる。
俺は静かに拳を握った。
七歳。
小学二年生。
まだまだ先は長い。
だが、だからこそ楽しみなのだ。
俺の二度目の野球人生は、まだ始まったばかりなのだから。
第三十話をお読みいただき、ありがとうございます。
桜台フェニックスは東山レッドソックスとの決勝戦に三対二で勝利し、春季少年野球大会・四年生以下の部で優勝を果たしました。
悠真は二年連続で大会MVPを受賞。さらに、特殊能力取得補助機能も拡張されました。
七歳の二刀流は、着実に成長を続けています。
次回、第三十一話「優勝の余韻、新たな育成計画」。
今後は大会後の日常やチームメイトとの交流、投手能力の強化を描きながら、さらなる成長へ繋げていきます。