転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある   作:1番道路

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第四話 少年野球チームと小さな怪物

六歳になった。

 ついに小学校入学である。

 長かった。

 いや、本当に長かった。

 前世の記憶を持ったまま赤ん坊から人生をやり直すというのは、想像以上に大変だった。

 特に幼稚園生活。

 周囲は当然ながら普通の子供ばかりである。

 精神年齢三十歳を超える俺にとって、なかなか刺激的な毎日だった。

 もっとも、友達と遊ぶのは普通に楽しかったし、身体を動かせば経験点も手に入る。

 悪いことばかりではなかった。

 そして、何より。

 ようやく本格的に野球を始められる。

「悠真、準備できたかー?」

「できた!」

 玄関から父さんの声が聞こえた。

 今日は日曜日。

 待ちに待った少年野球チームの体験練習の日である。

 俺が参加するのは、地元の軟式少年野球チーム『桜台フェニックス』。

 小学生を対象とした、ごく普通の地域チームだ。

 父さんが調べてくれたところによると、特別な強豪というわけではないらしい。

 だが、俺としてはそれで十分だった。

 今はとにかく試合経験が欲しい。

 それに、小学生のうちから強豪チームで勝利至上主義の野球をする必要もないだろう。

 まずは野球を楽しむ。

 そのうえで、できる限り成長する。

 それが俺の方針だった。

「じゃあ、行ってくる!」

「いってらっしゃい。怪我しないようにね」

「はーい!」

 母さんに見送られ、俺は父さんと家を出た。

     ◇ ◇ ◇

 桜台小学校のグラウンド。

 そこには、すでに二十人ほどの子供たちが集まっていた。

 白いユニフォームに紺色の帽子。

 背中には『SAKURADAI』の文字。

 いかにも少年野球チームといった雰囲気だ。

「おお、やってるなあ」

 父さんが懐かしそうに呟いた。

「お父さんも少年野球やってたの?」

「ああ。小学校から高校までな。大した選手じゃなかったけど」

「ポジションは?」

「ピッチャーとショート。中学からはショート専門だったな」

 なるほど。

 父さんも野球経験者だったのか。

 だから俺に投げ方やバットの握り方を教えるのが上手かったわけだ。

「お、見学の方ですか?」

 そんなことを考えていると、一人の男性が近づいてきた。

 四十代くらいだろうか。

 日焼けした顔に、がっしりとした体格。

 胸元には『FENIX』ではなく『PHOENIX』と刺繍されたチームのシャツを着ている。

「はい。先日連絡した朝倉です」

「ああ! 朝倉さんですね。お待ちしてました!」

 男性は笑顔で頭を下げた。

「監督の田島です。よろしくお願いします」

「朝倉健一です。こちらが息子の悠真です」

「朝倉悠真です! よろしくお願いします!」

「おお、元気がいいね!」

 田島監督は満足そうに頷いた。

「悠真君、野球は好きかい?」

「大好きです!」

「そうかそうか。今日は楽しくやろうな」

「はい!」

 よし。

 まずは好印象だろう。

 もっとも、ここからが本番である。

 俺はグラウンドを見渡した。

 高学年の子供たちはキャッチボールをしている。

 低学年の子供たちは別の場所でゴロ捕球の練習をしていた。

 当然ながら、身体の大きさには相当な差がある。

 六年生ともなれば、俺より頭一つ以上大きい子も珍しくない。

 いくら育成システムを持っているとはいえ、現在の俺は小学一年生。

 身体能力で高学年に勝つのは、まだ難しいだろう。

 しかし、技術なら話は別だ。

「じゃあ悠真君、まずは低学年の子たちと一緒にやってみようか」

「はい!」

 俺は元気よく返事をした。

 その瞬間。

『ピロン♪』

 聞き慣れた電子音が頭の中に響いた。

――――――――――――――――――

【育成イベント発生】

『少年野球チーム体験入団』

 初めての本格的な野球練習に参加しました。

【イベント目標】

・キャッチボールを成功させる

・ゴロ捕球を成功させる

・打撃練習に参加する

・指導者から評価を受ける

【達成報酬】

 各種経験点

 育成機能の追加解放

――――――――――――――――――

(おお……!)

 久しぶりのイベントだ。

 しかも、内容は簡単そうである。

 もちろん、今の俺にとっては、だが。

(よし、全部達成してやるか)

 俺はグローブを握り直した。

     ◇ ◇ ◇

「じゃあ、二人一組になってキャッチボール!」

 コーチの声が響いた。

 低学年の練習には、一年生から三年生までの子供たちが参加していた。

 俺の相手になったのは、二年生の男の子だった。

「俺、佐藤大地! よろしくな!」

「朝倉悠真です! よろしく!」

「悠真って一年生?」

「うん」

「じゃあ俺の方が先輩だな!」

 大地は得意そうに胸を張った。

 なんとも微笑ましい。

 前世の俺なら、こんな子供を見ているだけで和んだだろう。

 ……いや、今の俺も子供なのだが。

「じゃあ投げるぞ!」

「うん!」

 大地がボールを投げた。

 距離は五メートルほど。

 山なりのボールがこちらへ飛んでくる。

 俺はグローブを構えた。

 ぱしっ。

 問題なく捕球。

「おっ、捕れた!」

 大地が嬉しそうに言った。

 ……いや、そこまで驚くことではないと思うが。

「じゃあ、投げるね」

「おう!」

 俺は右手にボールを握った。

 足を軽く開く。

 左足を踏み出し、身体を回転させる。

 そして、腕を振った。

 ぱしんっ!

 ボールは綺麗な軌道を描き、大地の胸元に収まった。

「おおっ!?」

 大地が驚いた。

「すげえ! 真っすぐ来た!」

「ありがとう!」

「もう一回!」

「いいよ!」

 再びキャッチボールを始める。

 今度は少し距離を伸ばした。

 七メートル。

 十メートル。

 大地の送球は時々逸れる。

 しかし、俺の送球はほとんど同じ場所に飛んでいった。

 理由は簡単だ。

 コントロールの能力値を上げているからである。

 昨晩確認した俺の能力は、こうなっていた。

――――――――――――――――――

【朝倉悠真 6歳】

【投手能力】

 球速:72km/h

 コントロール:G 28

 スタミナ:G 12

 変化球:なし

【野手能力】

 弾道:1

 ミート:G 23

 パワー:G 12

 走力:G 25

 肩力:G 20

 守備力:G 22

 捕球:G 24

――――――――――――――――――

 六歳になってから、ようやく球速が測定可能になった。

 最初に表示された数値は六十八キロ。

 それから少しずつ成長し、現在は七十二キロになっている。

 当然、全力投球時の最高球速だ。

 今のキャッチボールでそんな球を投げる必要はない。

 そもそも、相手は小学二年生。

 下手に速いボールを投げれば怪我をさせてしまう。

 だから、力を抑えて投げていた。

 それでも、ボールの軌道は安定している。

「悠真、お前すごいな!」

「そう?」

「うん! 全然暴投しないじゃん!」

「大地君も上手だよ」

「へへっ、そうか?」

 大地は嬉しそうに笑った。

 どうやら仲良くなれそうだ。

 そのとき。

「……ん?」

 少し離れたところで、田島監督がこちらを見ていた。

「おい、山本」

「はい?」

 隣にいたコーチが振り返る。

「あの一年生、朝倉君だったか?」

「ええ。今日体験に来た子ですね」

「ちょっと投げ方を見てみろ」

「投げ方?」

 二人の視線が俺に向けられた。

 俺は気づかないふりをしてキャッチボールを続ける。

 左足を踏み出す。

 体重を移動させる。

 肩を回し、肘を自然に使う。

 最後に指先からボールを離す。

 ぱしんっ!

「……おいおい」

 山本コーチが小さく呟いた。

「なんですか、あのフォーム」

「だろ?」

「一年生ですよね?」

「ああ」

「誰かに教わってたんでしょうか」

「父親が野球経験者らしいが……」

 二人はしばらく黙っていた。

 ……うん。

 どうやら少し目立ってしまったらしい。

 まあ、仕方がない。

 俺は別に実力を隠すつもりはないのだから。

     ◇ ◇ ◇

 次はゴロ捕球だった。

 コーチが転がすボールを捕り、一塁方向へ投げる。

 低学年では基本中の基本となる練習だ。

「よーし、次!」

 俺の番が回ってきた。

 コーチがボールを転がす。

 俺は腰を落とし、グローブを地面に近づけた。

 ボールを正面で捕球。

 右手に持ち替え、送球する。

 ぱしっ!

「ナイス!」

 コーチが声をかけてくれた。

 次のボール。

 今度は少し右側に転がされた。

 俺は素早く移動する。

 身体の正面にボールを入れ、捕球。

 そのまま送球。

「おお、上手いな!」

 さらに次。

 今度は左側。

 俺は一歩踏み出して捕球した。

 問題ない。

 正直、前世で高校野球まで経験している俺からすれば、難しい練習ではなかった。

 ただし、頭で理解していても身体が動かなければ意味はない。

 その点、今世の俺には育成システムがある。

 守備力と捕球を少しずつ強化してきた成果が出ているのだろう。

「朝倉君、ちょっといいか?」

「はい!」

 山本コーチに呼ばれた。

「野球はどれくらいやってるの?」

「お父さんと、三歳くらいからやってます!」

「三歳から?」

「はい!」

「なるほどなあ……」

 コーチは感心したように頷いた。

「それにしても、随分上手いね。ゴロを捕るときの姿勢もいいし、投げるまでの動きも速い」

「ありがとうございます!」

「将来が楽しみだな」

 そう言って頭を撫でられた。

 ……少々複雑な気分だ。

 前世では俺が子供の頭を撫でる側だったのだが。

 まあ、今は素直に喜んでおこう。

『ピロン♪』

『ゴロ捕球練習を達成しました』

『技術ポイント+20』

『敏捷ポイント+15』

(よし!)

 イベント目標も順調に達成している。

 残るは打撃練習だ。

     ◇ ◇ ◇

「よーし、次はバッティングだ!」

 コーチの声に、子供たちが歓声を上げた。

 やはり野球少年にとって、打撃練習は楽しいものらしい。

 俺も同感である。

 投げるのも好きだが、打つのも大好きだ。

 何しろ、今世では二刀流を目指しているのだから。

「一年生はまずティーからな!」

 コーチが説明する。

 低学年の子供たちは、順番にバットを持ってボールを打っていった。

 俺も列に並ぶ。

 そして、ついに順番が回ってきた。

「朝倉君、打てるかな?」

「はい!」

「よし。じゃあ、思い切り振ってみよう!」

 俺はバットを握った。

 もちろん、子供用の軽いバットである。

 まずは構える。

 足の幅。

 重心の位置。

 グリップの高さ。

 全てを確認する。

 そして、目の前のボールを見つめた。

(……よし)

 左足を軽く上げる。

 体重を後ろ足に乗せる。

 そこから踏み込み、腰を回転させる。

 腕は最後についてくる。

 バットがボールを捉えた。

 カンッ!

 乾いた音が響いた。

 打球は勢いよく前方へ飛んでいく。

「おおっ!?」

 コーチが驚いた。

 ボールは十数メートル先で弾み、そのまま転がっていった。

 もちろん、高学年の子供たちと比べれば大した飛距離ではない。

 だが、小学一年生としては十分すぎる打球だった。

「……朝倉君」

「はい?」

「もう一球、打ってみようか」

「はい!」

 コーチがボールを置く。

 俺は再び構えた。

 そして、スイング。

 カンッ!

 今度も綺麗に芯で捉えた。

 打球は先ほどより少し遠くまで飛んだ。

「……へえ」

 コーチが小さく笑う。

「いいスイングだねえ」

「ありがとうございます!」

「次はちょっと違うところに置くよ」

「はい!」

 今度は少し外側。

 俺は無理に引っ張らず、バットを合わせる。

 打球は右方向へ飛んだ。

「おっ!」

 コーチの表情が変わった。

「今の、狙って打った?」

「はい!」

「……そうか」

 少し間が空いた。

 それからコーチは、近くにいた田島監督を呼んだ。

「監督、ちょっと見てもらえます?」

「どうした?」

「朝倉君なんですけど……」

 何やら話し始めた。

 俺はバットを持ったまま待つ。

 しばらくして、田島監督が俺の前にやってきた。

「悠真君、もう少し打ってもらっていいかな?」

「はい!」

「じゃあ、今度は父さんに見てもらおうか」

 俺は再び構えた。

 監督が少し離れたところに立つ。

 コーチがボールを置いた。

「いいよ!」

 俺はスイングした。

 カンッ!

 続いて二球目。

 カンッ!

 三球目。

 カンッ!

 どれも芯に近いところで捉えることができた。

 田島監督は腕を組んだまま、じっと俺を見ている。

「……山本」

「はい」

「あの子、本当に一年生か?」

「そうらしいです」

「フォームができすぎてるぞ」

「ええ。しかも、ただ形が綺麗なだけじゃありません」

 山本コーチが頷いた。

「ちゃんとボールに合わせて振ってます」

「だよなあ……」

 監督は頭を掻いた。

「参ったな。随分と面白い子が来たもんだ」

 ……褒められているらしい。

 悪い気はしない。

 しかし、これで終わりではなかった。

「朝倉君」

「はい!」

「今度は軽く投げたボールを打ってみようか」

(おっ)

 トスバッティングか。

 それなら何度も経験している。

「できます!」

「よし。じゃあ、いくぞ」

 コーチが柔らかいボールを軽く投げた。

 山なりの軌道。

 俺はタイミングを合わせてバットを振る。

 カンッ!

 打球は綺麗に前方へ飛んだ。

「おお!」

 周囲の子供たちから声が上がる。

 二球目。

 少し内側。

 俺は身体を回転させ、引っ張った。

 カンッ!

 三球目。

 外側。

 無理に引っ張らず、逆方向へ運ぶ。

 カンッ!

 四球目。

 少し高い。

 これも捉えた。

 五球目。

 低め。

 バットの角度を調整して打ち返す。

 カンッ!

 五球連続でしっかりと打ち返した。

 もちろん、相手は子供向けの緩いトスだ。

 前世で高校野球まで経験した人間なら、打てて当然ともいえる。

 だが、周囲から見れば小学一年生である。

「……嘘だろ」

 山本コーチが呟いた。

 田島監督も驚いた様子だった。

「タイミングの取り方が上手すぎる」

「ですよね」

「しかも、コースに合わせて打ち分けてるぞ」

「……これ、教えられてできることですかね?」

「少なくとも、普通の一年生には無理だな」

 二人の会話が聞こえてくる。

 ……ちょっと目立ちすぎただろうか。

 まあ、いいか。

 いずれは世界最高の野球選手になる予定なのだ。

 この程度で驚かれていては困る。

     ◇ ◇ ◇

 体験練習が終わった。

 俺は父さんと一緒に、田島監督のところへ向かった。

「本日はありがとうございました」

 父さんが頭を下げる。

「いえいえ、こちらこそ。悠真君、どうだった?」

「すごく楽しかったです!」

「そうか! それはよかった!」

 田島監督は嬉しそうに笑った。

「それで朝倉さん、もし本人がよければ、ぜひ入団していただきたいんですが」

「もちろんです。本人もずっと楽しみにしていたので」

「そうですか!」

 監督は頷いた。

 そして、少しだけ声を落とした。

「ところで……悠真君は、どこかで本格的な指導を受けたことがあるんですか?」

「いえ。私が遊びながら教えていたくらいですが……」

「そうですか」

 監督は考え込んだ。

「いや、驚きました。あの年齢で、あれだけ身体の使い方が分かっている子はなかなかいません」

「そんなにですか?」

「ええ。特に打撃ですね。バットの軌道が安定していますし、ボールを見る余裕もある」

 父さんが驚いた顔をした。

「確かに、家でも上手いとは思ってましたけど……」

「少なくとも、うちの一年生の中では飛び抜けていますよ」

 監督は笑った。

「まあ、まだ六歳ですから。これからどう成長するかが大切ですけどね」

「そうですね」

「無理はさせません。まずは野球を好きになってもらうことが一番です」

 その言葉を聞いて、俺は少し安心した。

 どうやら良い監督らしい。

 勝利を目指すことは大切だが、小学生のうちから無茶な練習をさせる指導者は困る。

 特に俺は投手と野手の二刀流を目指している。

 肩や肘の故障だけは絶対に避けたい。

「悠真君」

「はい!」

「これからよろしくな!」

「よろしくお願いします!」

 俺は元気よく頭を下げた。

 こうして、俺の桜台フェニックスへの入団が決まった。

 その瞬間。

『ピロン♪』

 待ちに待った電子音が響いた。

――――――――――――――――――

【育成目標達成!】

『初めての野球チームに所属する』

 達成条件を満たしました。

【達成報酬】

 筋力ポイント+100

 敏捷ポイント+100

 技術ポイント+100

 精神ポイント+100

【特別報酬】

 試合経験点システム解放!

 試合評価システム解放!

 ポジション適性評価解放!

――――――――――――――――――

(よっしゃあ!)

 俺は心の中でガッツポーズを決めた。

 ついに試合関連の機能が解放された。

 これで、実戦でも経験点を獲得できるようになる。

 しかも、試合評価システムまである。

 おそらく、試合での活躍に応じて経験点が増えるのだろう。

 ホームラン。

 三振。

 盗塁。

 好守備。

 完封。

 そういったプレーでボーナスが入る可能性もある。

(これは楽しみだな……!)

 早く試合に出たい。

 そして、どれだけ経験点が貰えるのか確かめたい。

 俺は期待に胸を膨らませながら、父さんと帰路についた。

     ◇ ◇ ◇

 その日の夜。

 俺は自室で育成システムを開いた。

 まずは今日獲得した経験点を確認する。

――――――――――――――――――

【本日の育成結果】

 キャッチボール

 筋力+8

 技術+15

 精神+5

 ゴロ捕球

 敏捷+15

 技術+20

 打撃練習

 筋力+18

 技術+35

 精神+10

 体験入団イベント

 筋力+100

 敏捷+100

 技術+100

 精神+100

【本日獲得経験点】

 筋力:126

 敏捷:115

 技術:170

 精神:115

 合計:526

――――――――――――――――――

(うおっ!?)

 五百ポイント以上。

 一日でこれほど獲得したのは初めてだった。

 やはりイベント報酬は大きい。

 しかも、これからは本格的な練習に参加できる。

 練習の種類が増えれば、経験点の獲得効率も上がるだろう。

 そして、試合に出ればさらに稼げる。

 俺は思わず笑みを浮かべた。

(ようやく本格的な育成が始まるな)

 これまでは準備期間だった。

 赤ん坊から六歳まで、少しずつ身体を成長させ、経験点を貯めてきた。

 だが、ここからは違う。

 実際に野球をプレーし、試合で結果を残す。

 その経験を使って、さらに能力を伸ばす。

 まさにパワプロの育成システムを最大限に活用できる環境だ。

 次に、新しく解放された試合評価システムを確認した。

――――――――――――――――――

【試合評価システム】

 公式戦および練習試合での活躍に応じて、経験点を獲得できます。

【主な評価項目】

 打撃成績

 投球成績

 走塁成績

 守備成績

 チームへの貢献

 対戦相手の実力

 試合の重要度

【特別評価】

 初安打

 初本塁打

 初勝利

 初完封

 初ノーヒットノーラン

 その他、特別な記録達成時にボーナスが発生します。

――――――――――――――――――

(なるほど……)

 予想通りだ。

 しかも、対戦相手の実力や試合の重要度まで評価されるらしい。

 つまり、弱い相手から大量にホームランを打つだけでは、効率よく経験点を稼げないということだ。

 強い相手と戦い、大きな大会で活躍するほど報酬が増える。

 実に分かりやすい。

(これは全国大会を目指すしかないな)

 もっとも、桜台フェニックスがどれほど強いのかは、まだ分からない。

 今日見た限りでは、ごく普通の地域チームだった。

 だが、それで構わない。

 俺がチームを強くすればいいのだから。

 もちろん、野球は一人で勝てるスポーツではない。

 どれほど凄い投手でも、味方が一点も取れなければ勝てない。

 どれほど凄い打者でも、一人で全てのアウトを取ることはできない。

 だからこそ、仲間が必要なのだ。

 俺は今日知り合った大地の顔を思い浮かべた。

 あいつとは、きっと仲良くなれるだろう。

 そして、他のチームメイトとも。

 全員で強くなって、全国大会を目指す。

 それも悪くない。

「……よし」

 俺は小さく呟いた。

 目標は決まった。

 まずは少年野球で全国制覇。

 そして、中学、高校、プロ野球。

 最後はメジャーリーグ。

 全ての舞台で頂点に立つ。

 そのために、今はひたすら成長するだけだ。

 俺は能力アップ画面を開いた。

 経験点は十分に貯まっている。

 そろそろ、本格的に能力を強化してもいい頃だろう。

 もちろん、まだ六歳なので成長制限は存在する。

 しかし、少しずつ上限も緩和されている。

 まずはミート。

 続いてコントロール。

 さらに守備力と捕球。

 投打両方を育てるなら、基礎能力の底上げが重要になる。

 俺は必要な経験点を確認し、慎重に振り分けていった。

『ミートがG 23からG 30になりました』

『コントロールがG 28からF 35になりました』

『守備力がG 22からG 28になりました』

『捕球がG 24からG 30になりました』

 身体に、いつもの不思議な感覚が広がる。

 バットを振る感覚。

 ボールを投げる感覚。

 グローブで捕球する感覚。

 それらが、少しずつ鮮明になっていく。

 俺は手を開いたり閉じたりしてみた。

(……よし)

 悪くない。

 むしろ、想像以上だ。

 これなら次の練習では、今日よりも上手くプレーできるだろう。

 それにしても。

 六歳でこの能力なら、十歳になったときはどうなっているのだろうか。

 中学生になったら?

 高校生になったら?

 そして、プロ入りする頃には?

 考えるだけで楽しくなってくる。

 前世の俺は、才能の限界に苦しんだ。

 いくら練習しても、プロには届かなかった。

 だが、今は違う。

 努力すればするほど、確実に強くなれる。

 しかも、その成長には明確な数値がある。

 今度こそ、誰にも負けない選手になってやる。

 投手としても。

 打者としても。

 世界最高の野球選手に。

 俺はそんな未来を想像しながら、静かに目を閉じた。

     ◇ ◇ ◇

 一方、その頃。

 桜台フェニックスの監督、田島修一は、自宅で一枚の入団申込書を眺めていた。

『朝倉悠真』

『小学一年生』

 今日、体験練習に参加した少年である。

「……面白い子だったな」

 田島は小さく呟いた。

 長年少年野球の指導をしてきたが、あれほど完成された動きをする一年生は珍しい。

 特に印象的だったのは打撃だ。

 ただバットに当てるだけではない。

 ボールの位置を見て、自然にスイングを調整していた。

 もちろん、相手は緩いトスだった。

 しかし、六歳であの対応力は普通ではない。

 さらに守備。

 捕球から送球までの動きに無駄が少ない。

 投球フォームも綺麗だった。

 まだ身体が小さいため球威はない。

 だが、あの動きなら将来的に相当な投手になる可能性がある。

「投手か、野手か……」

 田島は腕を組んだ。

 普通なら、どちらかを中心に育てることになるだろう。

 しかし、あの少年は両方とも捨てがたい。

「……まあ、まだ一年生だしな」

 今からポジションを決めつける必要はない。

 いろいろ経験させればいい。

 その中で本人の適性や希望を見極めていけばいいのだ。

 田島は申込書を机に置いた。

「将来が楽しみだ」

 それは指導者としての素直な感想だった。

 だが、彼はまだ知らない。

 今日入団した小さな少年が、いずれ日本どころか世界中の野球ファンを驚かせる存在になることを。

 投げては三振を奪い、打ってはホームランを量産する。

 誰もが不可能だと思っていた領域に到達する、史上最強の二刀流選手。

 その伝説が、この小さな少年野球チームから始まろうとしていた。

――――――――――

第四話 完

次回 第五話「初めての紅白戦」

 桜台フェニックスに正式入団した悠真は、初めてのチーム内紅白戦に参加する。

 上級生も交えた実戦形式の練習で、悠真は小学一年生とは思えない打撃と守備を披露する。

 そして、田島監督は悠真の投手としての才能を確かめるため、ある提案をするのだった。

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