転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある   作:1番道路

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第五話 初めての紅白戦

 桜台フェニックスに入団してから二週間が経過した。

 俺は現在、小学一年生。

 前世の記憶を持つ転生者であり、神様から授かったパワプロ育成システムを使って、史上最強の二刀流選手を目指している。

 そんな俺の最近の悩みは、野球が楽しすぎることだった。

「悠真! 早く来いよ!」

「今行く!」

 グラウンドから大地の声が聞こえる。

 佐藤大地。

 小学二年生で、俺が最初に仲良くなったチームメイトだ。

 ポジションは主にセカンド。

 まだ技術的には未熟だが、元気がよく、練習にも真面目に取り組んでいる。

 入団してからというもの、俺は大地と一緒に練習することが多かった。

「今日、紅白戦やるらしいぞ!」

「知ってる!」

「俺、絶対ヒット打つからな!」

「じゃあ俺も打つ!」

「負けねえぞ!」

 大地はそう言って笑った。

 俺も笑い返す。

 いいな、こういうの。

 前世では高校まで野球を続けていたが、最後の方は結果ばかり気にしていた。

 レギュラー争い。

 打率。

 防御率。

 チーム内での評価。

 もちろん、それらも野球の一部だ。

 だが、今は純粋に試合が楽しみだった。

 それに、今日の紅白戦にはもう一つ重要な意味がある。

 育成システムの試合評価機能。

 入団時に解放されたこの機能を、ようやく試せるのだ。

 紅白戦が練習試合として認識されるのかは分からない。

 しかし、実戦形式のプレーで経験点が入るなら、今後の育成効率は大きく変わってくるだろう。

(さて、どれくらい貰えるかな)

 俺は期待を胸にグローブを握り直した。

     ◇ ◇ ◇

「よーし、集合!」

 田島監督の声がグラウンドに響いた。

 子供たちが一斉に集まる。

「今日は紅白戦をやるぞ!」

「おおー!」

「やった!」

「俺、ピッチャーやりたい!」

 あちこちから歓声が上がった。

 監督は笑いながら手を叩く。

「落ち着け落ち着け。今日は三年生以下を中心にした試合だ。四年生にも何人か入ってもらうからな」

 なるほど。

 低学年向けの紅白戦らしい。

 少年野球チームでは、全員が同じレベルで試合をするわけではない。

 高学年には高学年の試合があり、低学年には低学年の試合がある。

 俺のような一年生が、いきなり六年生と本格的に対戦することは普通ない。

 身体の大きさも、技術も違いすぎるからだ。

「今日は全員に打席を回す。守備も交代しながらやるぞ。勝ち負けより、練習したことを試してみろ!」

「はい!」

 全員が元気よく返事をした。

 そして、チーム分けが発表された。

 俺は紅組。

 大地は白組だった。

「うわー、悠真と敵かよ!」

「よろしく、大地!」

「絶対アウトにしてやるからな!」

「俺も打つから!」

「おう!」

 大地は楽しそうに笑っていた。

 こういうやり取りも、少年野球らしくていい。

 しばらくして、俺の守備位置が発表された。

「朝倉はショートに入ってくれ」

「はい!」

 ショート。

 遊撃手か。

 悪くない。

 前世では投手兼外野手だったが、今世では全ての守備位置を経験してみたいと思っている。

 何しろ、目標はオールSだ。

 守備力を最高まで育てるなら、いろいろなポジションを経験して損はない。

 それに、ショートは守備機会が多い。

 ゴロ捕球や送球の経験点を稼ぐには、なかなか良さそうだった。

 俺はグラウンドへ向かった。

     ◇ ◇ ◇

 一回表。

 白組の攻撃から試合が始まった。

 紅組の先発投手は三年生の村上健太。

 チーム内では比較的球が速いらしい。

 もっとも、まだ小学三年生。

 球速はおそらく七十キロ前後だろう。

 俺はショートの守備位置についた。

 そして、試合開始の瞬間。

『ピロン♪』

 聞き慣れた電子音が頭の中に響いた。

――――――――――――――――――

【試合イベント発生】

『初めての紅白戦』

 桜台フェニックス紅組

     対

 桜台フェニックス白組

【試合形式】

 低学年向け紅白戦

 五イニング制

【特別目標】

・初安打を記録する

・守備機会を成功させる

・チームの勝利に貢献する

【報酬】

 試合内容に応じた経験点

 初記録ボーナス

――――――――――――――――――

(よし!)

 紅白戦でもシステムが反応した。

 これで試合経験点を獲得できることが確認できた。

 ただし、特別目標に投球関係の項目はない。

 今日はショートとしての出場だからだろう。

 まあ、焦る必要はない。

 まずは野手として結果を残そう。

「プレイ!」

 球審役のコーチが声を上げた。

 先頭打者がバッターボックスに入る。

 村上先輩が投げた。

 ストライク。

 続いて二球目。

 カキンッ!

 打球は三遊間へ転がってきた。

(来た!)

 俺は素早く反応した。

 打球の方向を予測し、左足を踏み出す。

 身体を低くして、グローブを地面に近づける。

 ボールがグローブに収まった。

 そのまま右手に持ち替え、一塁へ送球。

 ぱしんっ!

「アウト!」

 コーチの声が響いた。

「ナイスショート!」

「悠真、上手いぞ!」

 ベンチから声が飛んでくる。

 俺は軽く手を上げた。

 よし。

 まずは一つアウトを取れた。

『ピロン♪』

『守備成功』

『技術ポイント+3』

『敏捷ポイント+2』

(おっ!)

 ちゃんと経験点が入った。

 ただし、通常の練習と比べて飛び抜けて多いわけではない。

 おそらく試合終了後に、成績に応じた追加報酬があるのだろう。

 続く二番打者は三振。

 三番打者は四球で出塁したが、四番打者がセカンドゴロに倒れた。

 一回表は無失点。

 なかなかいい立ち上がりだった。

     ◇ ◇ ◇

 一回裏。

 紅組の攻撃。

 俺は二番ショートで出場していた。

 先頭打者の四年生が四球を選び、無死一塁。

 さっそく打席が回ってきた。

「二番、ショート、朝倉!」

「はい!」

 俺はバットを持って打席へ向かった。

 相手投手は三年生。

 名前は小林。

 右投げの投手で、低学年の中ではコントロールがいいらしい。

 マウンドに立つ小林先輩が、こちらを見て少し笑った。

「一年生か。打てるかな?」

 挑発というより、冗談のつもりなのだろう。

 俺も笑って答える。

「頑張ります!」

「おう、いいね!」

 小林先輩がセットポジションに入った。

 ランナーを確認する。

 そして、一球目。

 ストレート。

 外角高め。

(ボールだな)

 俺は見送った。

「ボール!」

 予想通り。

 二球目。

 今度は内角。

 少し高い。

 これも見送る。

「ボールツー!」

 カウントはツーボール。

 小林先輩が少し困った顔をした。

 どうやら、俺が振ってこないことを意外に思っているらしい。

 だが、俺には前世の経験がある。

 打てない球を無理に振る必要はない。

 ストライクゾーンに来た球を打てばいいのだ。

 三球目。

 今度は真ん中付近。

(……来た!)

 俺は左足を踏み出した。

 体重を移動させる。

 腰を回す。

 バットを振り抜く。

 カキィンッ!

 乾いた音がグラウンドに響いた。

 打球は一、二塁間を抜けていく。

「ライト!」

 白組の選手が叫んだ。

 俺は一塁へ走る。

 打球はライト前に転がり、外野手が拾った。

「悠真、回れ!」

 一塁コーチ役の大人が声を上げた。

 先頭走者は三塁へ。

 俺は一塁ベースを駆け抜けかけたが、ライトから返球が来たのを見て止まった。

 無死一、三塁。

 見事なライト前ヒットだった。

「ナイスバッティング!」

「一年生なのにすげえ!」

 ベンチから歓声が上がる。

 俺は一塁上で小さく拳を握った。

(よし! 初ヒット!)

 その瞬間。

『ピロン♪』

――――――――――――――――――

【初記録達成!】

『初安打』

 初めての実戦形式の試合で安打を記録しました。

【報酬】

 技術ポイント+30

 精神ポイント+10

【追加評価】

 状況判断:良好

 打撃内容:良好

――――――――――――――――――

(おお!)

 やはり初記録ボーナスは大きい。

 単なるヒットでも、初めてならまとまった経験点が貰えるらしい。

 これは今後の育成が楽しみだ。

「朝倉ー!」

 ベンチから田島監督の声が聞こえた。

「ナイスバッティング! 次は走塁だぞ!」

「はい!」

 俺は元気よく返事をした。

 そして、一塁ベース上で次の打者を見つめる。

 ここからは走塁だ。

 幸い、俺は前世から走塁が得意だった。

 ただ足が速いだけではない。

 投手の癖を読む。

 野手の位置を確認する。

 次の塁を狙えるか判断する。

 そういった技術も重要になる。

 もっとも、今は小学一年生。

 無茶な走塁でアウトになるつもりはなかった。

 三番打者が打席に入る。

 小林先輩が投球。

 初球はストライク。

 二球目。

 カンッ!

 打球はショートへのゴロ。

(これは二塁封殺を狙ってくるな)

 俺はスタートを切った。

 ショートが捕球する。

 二塁へ送球。

 だが、俺の方がわずかに早かった。

「セーフ!」

 続いて二塁手が一塁へ投げようとしたが、送球が逸れた。

 三塁走者がホームイン。

 さらに打者走者も一塁に残った。

 一対〇。

 紅組が先制した。

「よっしゃー!」

 ベンチから歓声が上がる。

 俺は二塁上で小さく笑った。

 打球判断が上手くいった。

 これも野球の楽しさの一つだ。

     ◇ ◇ ◇

 三回表。

 試合は紅組が三対一でリードしていた。

 俺はここまで、二打数二安打。

 守備でも二度のゴロを処理している。

 個人的には上々の内容だった。

 だが、ここで少し面白い展開になった。

「朝倉ー!」

 田島監督に呼ばれた。

「はい!」

「ちょっとこっち来てくれ」

 俺はベンチへ戻った。

 監督の隣には山本コーチが立っている。

「悠真、ピッチャーやってみたいか?」

 ……来た。

 ついに来た。

 待ちに待った質問だった。

「やりたいです!」

 俺は即答した。

 監督が笑う。

「そうか。じゃあ、次の回に一イニングだけ投げてみようか」

「はい!」

「ただし、無理に速い球を投げなくていい。ストライクを入れることを考えてな」

「分かりました!」

 当然だ。

 俺だって全力投球するつもりはない。

 初登板なのだから、まずはコントロールを重視したい。

 それに、六歳の身体で無茶をするのは危険だ。

「山本、球数は二十球を目安にしよう。長引くようなら途中で交代だ」

「分かりました」

 監督はそう言って、俺の肩を軽く叩いた。

「楽しんでこい!」

「はい!」

 俺は元気よく返事をした。

 そして、心の中で密かにガッツポーズを決める。

(よっしゃあ! 初登板だ!)

 ようやく投手として試合に出られる。

 今世で目指しているのは二刀流。

 打撃だけでなく、投球でも結果を残さなければならない。

 その第一歩が、今始まろうとしていた。

     ◇ ◇ ◇

 四回表。

 俺はマウンドに立っていた。

 目の前にはバッターボックス。

 その向こうに捕手が構えている。

 ……懐かしい。

 前世で何度も見た光景だ。

 マウンドの土。

 グローブの感触。

 ボールを握る指先。

 そして、打者との距離。

 全てが懐かしかった。

 もっとも、今は小学生用の距離である。

 高校時代とは比べものにならないほど近い。

 それでも、マウンドに立った瞬間、胸が高鳴った。

「悠真ー! 頑張れー!」

 ベンチから大きな声が聞こえる。

 俺は軽く手を上げた。

 そして、キャッチャーの構えるミットを見つめる。

 捕手は三年生の中村先輩。

 初登板の一年生を気遣ってか、優しく声をかけてくれた。

「朝倉、気楽に投げろよ!」

「はい!」

「真ん中でいいからな!」

「分かりました!」

 俺は頷いた。

 そして、セットポジションに入る。

 右手でボールを握る。

 人差し指と中指を縫い目にかける。

 いわゆるフォーシームだ。

(……よし)

 左足を上げる。

 重心を移動する。

 身体を回転させる。

 そして、腕を振った。

 シュッ!

 ボールはほぼ真っすぐに飛んでいき、捕手のミットに収まった。

 ぱしんっ!

「ストライク!」

 球審役のコーチが声を上げた。

 その瞬間。

『ピロン♪』

――――――――――――――――――

【初記録達成!】

『初登板』

 初めて投手として試合に登板しました。

【報酬】

 技術ポイント+20

 精神ポイント+20

【追加目標】

 初奪三振

 初無失点登板

――――――――――――――――――

(よし!)

 まずは初登板ボーナス。

 しかも、追加目標まで出現した。

 初奪三振。

 初無失点。

 どちらも達成したいところだ。

 ただし、相手は同じチームの仲間。

 怪我をさせないように気をつけなければならない。

 俺は捕手から返球を受け取った。

 二球目。

 今度は少し外角を狙う。

 シュッ!

 ぱしんっ!

「ストライクツー!」

 二球で追い込んだ。

 打者の四年生が少し驚いた顔をしている。

 どうやら、俺のコントロールが予想以上だったらしい。

 さて、三球目。

 どうするか。

 変化球はまだ覚えていない。

 ならば、ストレートで勝負するしかない。

 ただし、同じコースでは面白くない。

(少し高めに投げてみるか)

 俺はミットの位置を確認した。

 そして、三球目。

 先ほどより少しだけ力を込める。

 シュッ!

 ボールは高めのストライクゾーンへ。

 打者がバットを振った。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 空振り三振。

 初めての奪三振だった。

「おおー!」

 ベンチから歓声が上がる。

 捕手の中村先輩も驚いた顔をしていた。

「ナイスボール!」

「ありがとうございます!」

 俺は笑顔で返事をした。

 その直後。

『ピロン♪』

――――――――――――――――――

【初記録達成!】

『初奪三振』

【報酬】

 技術ポイント+30

 精神ポイント+20

――――――――――――――――――

(よし!)

 順調だ。

 しかも、初奪三振だけで五十ポイント。

 やはり試合での活躍は経験点効率がいい。

 もっとも、初記録ボーナスは一度きりだろう。

 今のうちにできるだけ多くの記録を達成しておきたい。

 続く二番打者。

 初球はファウル。

 二球目はボール。

 三球目。

 内角のストレート。

 カンッ!

 打球はセカンド正面。

 二塁手が捕球し、一塁へ送球した。

「アウト!」

 二死。

 あと一人だ。

 俺はボールを受け取った。

(……いい感じだな)

 球数はまだ少ない。

 身体にも余裕がある。

 何より、久しぶりの投手という役割が楽しかった。

 そして三番打者。

 相手は三年生。

 白組では比較的打撃がいい選手らしい。

 初球。

 外角低め。

「ストライク!」

 二球目。

 内角。

「ボール!」

 三球目。

 真ん中付近。

 カキンッ!

 鋭い打球が飛んだ。

(おっ!)

 打球は俺の右側。

 反射的にグローブを伸ばす。

 だが、届かない。

 そのままセンター前へ抜けていった。

「ナイスバッティング!」

 白組のベンチから声が上がる。

 俺は軽く息を吐いた。

(なるほど。さすがに全部は抑えられないか)

 まあ、当然だ。

 今の俺はまだ小学一年生。

 球速も七十キロ台。

 いくらコントロールが良くても、打たれることはある。

 それに、ストレートしかないのだから、狙い球も絞りやすい。

 ただし、別に焦る必要はない。

 ランナー一塁。

 二死。

 次の打者を抑えればいいだけだ。

 俺はマウンド上で深呼吸した。

 そして、捕手のミットを見つめる。

 四番打者。

 相手は四年生の大きな選手だった。

 他の低学年選手と比べても、明らかに体格がいい。

 打席に入った彼は、バットを何度か振ってから構えた。

「よーし、来い!」

 元気な声。

 いいね。

 そういう相手は嫌いじゃない。

(さて、どう攻めるかな)

 俺は打者の構えを観察した。

 ややオープンスタンス。

 バットを高く構えている。

 いかにも強く振りたいタイプだ。

 ならば、まずは外角低め。

 俺はセットポジションから投げた。

 シュッ!

 ぱしんっ!

「ストライク!」

 見逃し。

 二球目。

 今度は内角高め。

 ボール気味のコースを狙う。

 シュッ!

 打者が振った。

 ブンッ!

「ストライクツー!」

 空振り。

 追い込んだ。

 さあ、三球目。

 ここで決めたい。

 俺は少し考えた。

 今の打者は高めの球に反応していた。

 ならば、次は低め。

 それも、外角ぎりぎりを狙う。

 捕手がミットを構える。

 俺は頷いた。

 そして、腕を振った。

 シュッ!

 ボールは外角低めへ。

 打者がバットを出す。

 だが、タイミングが合わない。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 三振。

 三アウト。

 チェンジ。

 俺は右手で小さく拳を握った。

(よし!)

 一イニング無失点。

 しかも、二奪三振。

 初登板としては上出来だろう。

「ナイスピッチング!」

 捕手の中村先輩が駆け寄ってきた。

「朝倉、すげえな!」

「ありがとうございます!」

「一年生なのに、全然ストライク外さないじゃん!」

「たまたまです!」

「いや、絶対たまたまじゃないだろ!」

 中村先輩は笑っていた。

 俺も笑い返す。

 そのとき。

『ピロン♪』

――――――――――――――――――

【初記録達成!】

『初無失点登板』

【報酬】

 技術ポイント+30

 精神ポイント+30

【投球評価】

 登板:1回

 被安打:1

 奪三振:2

 与四球:0

 失点:0

 自責点:0

 評価:A

――――――――――――――――――

(評価Aか)

 悪くない。

 ただ、最高評価ではないらしい。

 まあ、一安打を許しているし、当然だろう。

 それにしても、初登板でこれだけ経験点を稼げるとは思わなかった。

 今後は投手としての出場機会も増やしていきたいところだ。

     ◇ ◇ ◇

 試合は五回裏まで行われ、最終的に紅組が六対三で勝利した。

 俺の最終成績は――。

 三打数三安打。

 二塁打一本。

 二打点。

 一盗塁。

 守備機会三回、失策ゼロ。

 投手としては一回無失点、二奪三振。

 なかなかの結果だった。

「集合!」

 田島監督の声で全員が集まる。

「今日はみんなよく頑張ったな! 特に、いつも練習していることが試合でできていた選手が多かった!」

 監督は一人一人に声をかけていった。

 そして、俺の前で足を止めた。

「朝倉」

「はい!」

「初めての試合、どうだった?」

「すごく楽しかったです!」

「そうか!」

 監督は嬉しそうに笑った。

「お前、投げるのも打つのも好きなんだな」

「はい! 両方好きです!」

「そうかそうか」

 監督は少し考えてから言った。

「じゃあ、しばらくは両方やってみようか」

「本当ですか!?」

「ああ。まだ一年生だしな。今から一つに決める必要はない」

 よっしゃあ!

 これで二刀流への道が開けた。

 もちろん、少年野球では投手と野手を兼任する選手など珍しくない。

 だが、俺にとっては重要な第一歩だ。

「ありがとうございます!」

「ただし、投げすぎには注意するぞ。肩や肘を壊したら元も子もないからな」

「はい!」

 そこは全面的に同意する。

 俺は将来、何十年も野球を続けるつもりなのだ。

 小学生のうちから故障するようなことは絶対に避けたい。

「よし! じゃあ今日はこれで終わり!」

「ありがとうございました!」

 全員で挨拶をして、練習が終了した。

     ◇ ◇ ◇

 その日の夜。

 俺は自室で育成システムを開いていた。

 今日の紅白戦でどれだけ経験点を獲得できたのか。

 それを確認するためだ。

――――――――――――――――――

【試合結果】

 桜台フェニックス紅組 6

 桜台フェニックス白組 3

 勝利!

【朝倉悠真 試合成績】

〈打撃〉

 3打数3安打

 2打点

 1盗塁

〈投球〉

 1回

 被安打1

 奪三振2

 与四球0

 失点0

〈守備〉

 守備機会3

 失策0

【総合評価】

 S

【試合経験点】

 筋力+45

 敏捷+60

 技術+85

 精神+70

【初記録ボーナス】

 技術+80

 精神+50

【特別報酬】

『初勝利試合』

 全経験点+30

――――――――――――――――――

(……おお)

 思わず声が出そうになった。

 かなり多い。

 初記録ボーナス込みとはいえ、一試合で大量の経験点を獲得できた。

 今までの練習とは効率が違う。

 もちろん、毎回これほど貰えるわけではないだろう。

 初記録ボーナスは一度きりだし、相手が強くなれば簡単に活躍できなくなる。

 しかし、試合に出ることの重要性は十分に理解できた。

(これは早く公式戦に出たいな)

 俺は自然と笑みを浮かべた。

 そして、新たに解放されたポジション適性評価を確認する。

――――――――――――――――――

【ポジション適性】

 投手:A

 捕手:C

 一塁手:B

 二塁手:B

 三塁手:B

 遊撃手:A

 外野手:A

【総合適性】

 投打二刀流:S

――――――――――――――――――

(……ん?)

 思わず画面を見直した。

 投打二刀流、S。

 どうやら、システムは俺の適性を高く評価しているらしい。

 もっとも、これは現在の能力値そのものではない。

 あくまで適性評価だ。

 つまり、俺には投手と野手の両方を極める素質があるということだろう。

(まあ、そりゃそうか)

 神様から直接パワプロ育成システムを貰ったのだ。

 才能の限界を突破できる俺が、二刀流に向いていないはずがない。

 それに、適性がSだからといって自動的に強くなるわけではない。

 あくまで経験点を稼ぎ、能力を伸ばす必要がある。

 俺は能力アップ画面を開いた。

 まずは球速。

 現在の最高球速は七十二キロ。

 六歳としては十分速いが、将来を考えればまだまだだ。

 しかし、今は成長制限がある。

 球速の上限を確認すると、現時点では七十五キロまでしか強化できないらしい。

 しかも、それ以上は身体の発育が必要と表示されていた。

(まあ、無理に上げる必要はないか)

 今はコントロールを伸ばした方がよさそうだ。

 続いてミート。

 こちらもまだまだ伸ばせる。

 俺は経験点を慎重に振り分けていった。

『コントロールがF 35からF 40になりました』

『ミートがF 30からF 35になりました』

『守備力がG 28からF 35になりました』

 身体に不思議な感覚が走る。

 いつもの能力アップだ。

 これで次の試合では、さらに安定したプレーができるだろう。

 俺は画面を閉じた。

 そして、今日の試合を思い返す。

 三打数三安打。

 一回無失点。

 二奪三振。

 初めての紅白戦としては上出来だった。

 だが、当然ながら満足しているわけではない。

 今日の相手は、同じチームの小学生。

 しかも、低学年中心の試合だ。

 俺が目指しているのは、こんなところではない。

 甲子園。

 日本プロ野球。

 メジャーリーグ。

 世界最高峰の舞台で、投げても打っても誰にも負けない選手になる。

 そのためには、まだまだ強くならなければならない。

(……次は公式戦だな)

 俺は小さく呟いた。

 そして、明日からの練習を思い浮かべながら眠りについた。

     ◇ ◇ ◇

 一方、その頃。

 田島監督と山本コーチは、グラウンドの片付けを終えたところだった。

「監督」

「ん?」

「朝倉君、どう思います?」

 山本コーチの問いかけに、田島は苦笑した。

「……正直、驚いたよ」

「ですよね」

「あの年齢で、あれだけ落ち着いてプレーできる子は珍しい」

 田島は今日の試合を思い返す。

 三打数三安打。

 しかも、ただ打っただけではない。

 カウントを考え、ボールを見極め、コースに応じて打ち分けていた。

 守備でも、無駄な動きが少なかった。

 そして何より――。

「投球だな」

「ええ」

「あの子、ストライクを取ることを怖がってない」

 少年野球では、ストライクを投げられない投手も珍しくない。

 特に低学年では、打者に向かって投げるだけでも緊張するものだ。

 しかし、悠真は違った。

 初登板にもかかわらず、ほとんど緊張した様子がない。

 捕手のミットを見つめ、淡々とストライクを投げ込んでいた。

「しかも、ただ真ん中に投げているわけじゃない」

 田島は続けた。

「外角、内角、高め、低め。全部狙って投げてた」

「……やっぱりそう見えました?」

「ああ。もちろん、まだ精度は低いがな」

 田島は腕を組んだ。

「一年生であそこまで考えて投げられるのは、正直初めて見たよ」

「将来、凄い選手になるかもしれませんね」

「かもしれんな」

 田島は頷いた。

 しかし、すぐに表情を引き締める。

「だからこそ、大事に育てないとな」

「そうですね」

「無理に投げさせる必要はない。まだ一年生だ。今は野球を楽しんでもらうのが一番だよ」

 山本コーチも頷いた。

 二人はまだ知らない。

 今日、初めて紅白戦のマウンドに立った小さな少年が、いずれ世界最高の舞台で数々の記録を塗り替えることを。

 投手として三振を奪い。

 打者としてホームランを放ち。

 野球という競技の歴史そのものを変える存在になることを。

 その伝説は、まだ始まったばかりだった。

――――――――――

第五話 完

次回 第六話「初めての公式戦」

 紅白戦で投打ともに活躍した悠真は、低学年チームの公式戦メンバーに選ばれる。

 相手は地域でも有名な強豪チーム。

 初めて対戦する他チームの選手たちを前に、悠真の育成システムが新たな反応を示すのだった。

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