転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある 作:1番道路
桜台フェニックスに入団してから、一か月が経過した。
最近の俺は、毎週末が楽しみで仕方がない。
理由はもちろん、野球だ。
平日は小学校で授業を受け、放課後は宿題を済ませてから軽く自主練習。
土日は少年野球チームで本格的な練習。
そんな生活を送っている。
もっとも、本格的といっても小学一年生の練習だ。
キャッチボール、ゴロ捕球、ティーバッティング。
時々、トスバッティングや実戦形式の守備練習も行う。
前世で高校野球まで経験した俺にとって、練習内容そのものは難しくない。
だが、それでも楽しかった。
何しろ、練習するたびに経験点が入るのだ。
努力の成果が目に見えるというのは、想像以上にモチベーションが上がる。
そして、何より。
俺には明確な目標があった。
史上最強の二刀流選手。
投手としても、打者としても、世界最高の選手になる。
そのためなら、地道な練習だって苦にはならない。
「悠真!」
「ん?」
グラウンドでキャッチボールをしていると、大地が駆け寄ってきた。
「聞いたか!?」
「何を?」
「来週、試合があるんだって!」
「試合?」
「そう! 公式戦!」
……ほう。
ついに来たか。
◇ ◇ ◇
「集合!」
田島監督の声が響いた。
練習していた子供たちが集まる。
「来週の日曜日、低学年チームの大会がある。桜台フェニックスも参加するぞ!」
「おおー!」
「やった!」
「絶対勝つぞ!」
子供たちから歓声が上がる。
俺も自然と笑顔になった。
ついに公式戦だ。
前回の紅白戦でも試合経験点は獲得できた。
しかし、公式戦ならさらに多くの報酬が期待できる。
それに、他のチームと対戦できるというのも大きい。
これまで戦った相手は、同じチームの仲間だけだったからな。
「今回の大会は四年生以下の大会だ。相手には四年生もいるから、一年生には少し厳しいかもしれない」
監督はそう前置きした。
「ただし、全員に出場の機会を与えたいと思っている。練習で頑張っている選手には、学年に関係なくチャンスがあるぞ」
そう言って、メンバーの発表が始まった。
四年生を中心に、三年生、二年生と名前が呼ばれる。
そして。
「朝倉悠真」
「はい!」
「お前もメンバーに入ってもらう」
「ありがとうございます!」
よし!
予想はしていたが、やはり嬉しいものだ。
ちなみに、俺だけでなく一年生の選手がもう一人選ばれていた。
ただし、実際に試合へ出られるかどうかは別である。
この大会では四年生が中心となるため、一年生は基本的に控えになるらしい。
もっとも、俺は少し事情が違った。
「朝倉は打撃がいいからな。代打として使うことも考えている」
「はい!」
「守備も悪くない。状況によってはスタメンもあるぞ」
監督の言葉に、周囲の子供たちがざわついた。
「えっ、悠真が?」
「一年生なのに?」
「でも、あいつ上手いもんな」
何人かが俺の方を見る。
まあ、そういう反応になるよな。
普通なら小学一年生が四年生以下の大会に出るだけでも珍しい。
ましてやスタメン候補となれば、なおさらだ。
だが、俺は別に驚かなかった。
むしろ、当然の結果だと思っていた。
前世の経験があり、育成システムまで持っている。
それで同年代の子供と同じ実力では、少々情けない。
ただし。
(四年生相手なら、そこまで楽ではないかもな)
三歳差。
大人になれば大した差ではない。
しかし、小学生にとっては非常に大きい。
体格も、筋力も、運動能力も違う。
いくら技術が高くても、今の俺には身体的な限界がある。
だからこそ、面白い。
育成システムを使って、その差をどこまで埋められるのか。
絶好の機会だった。
◇ ◇ ◇
試合前日の夜。
俺は自室で育成システムを開いていた。
明日の試合に向けて、能力を確認するためだ。
――――――――――――――――――
【選手能力】
名前:朝倉悠真
年齢:6歳
投打:右投右打
ポジション:投手・遊撃手・外野手
【野手能力】
弾道:1
ミート:F 35
パワー:G 18
走力:F 30
肩力:G 26
守備力:F 35
捕球:G 33
【投手能力】
球速:74km/h
コントロール:F 40
スタミナ:G 17
変化球:なし
【特殊能力】
なし
――――――――――――――――――
(うーん……)
改めて見ると、まだまだ弱い。
当然ながら、成人選手を基準とした能力値だからだ。
しかし、六歳児として考えれば、かなり高い水準にある。
特にミートとコントロール。
この二つは、経験点を使って重点的に強化してきた。
その結果、打撃では安定してボールを捉えられるようになり、投球でも狙った場所に投げられる確率が大幅に上がった。
ただし、パワーはまだGランク。
いくら芯で捉えても、遠くまで飛ばすには限界がある。
今回の相手は四年生中心。
守備位置も深くなるだろうし、外野を越えるような打球を打つのは難しいかもしれない。
(……少しパワーを上げるか?)
能力アップ画面を開く。
現在の所持経験点は、合計三千ポイント以上。
これまでかなり温存してきたので、余裕はあった。
しかし、問題は成長制限だ。
今の年齢では、筋力に関係する能力は大幅に上げられない。
パワーの現在の上限はG 25。
球速は75km/h。
つまり、経験点がいくらあっても、それ以上は身体が成長するまで待つ必要がある。
(まあ、仕方ないな)
無理に限界まで上げる必要もない。
今は身体の成長を優先すべきだろう。
俺はパワーをG 20まで上げ、残りの経験点は温存することにした。
『パワーがG 18からG 20になりました』
いつものように身体に不思議な感覚が走る。
腕や腰の動きが、ほんの少しだけ力強くなった気がした。
(よし)
準備完了。
あとは明日の試合を楽しむだけだ。
◇ ◇ ◇
翌日。
俺たちは市内の少年野球場に来ていた。
グラウンドには複数のチームが集まっている。
どのチームもユニフォーム姿で、試合前の練習に励んでいた。
「うわー、結構いるな!」
大地が周囲を見渡す。
「そうだね」
「俺、ちょっと緊張してきた……」
「大丈夫だよ」
「悠真は緊張しないのか?」
「楽しみの方が大きいかな」
「すげえな、お前」
大地が感心したように言った。
まあ、前世では高校野球の公式戦も経験しているからな。
小学一年生としては異常な落ち着きかもしれない。
もっとも、久しぶりの公式戦には俺も多少の緊張を感じていた。
嫌な緊張ではない。
試合前特有の、胸が高鳴る感覚だ。
「桜台フェニックスの皆さん、こちらへお願いします!」
大会スタッフの声が聞こえた。
俺たちは監督について移動する。
すると、向こうから別のチームが歩いてきた。
青いユニフォーム。
胸には『KITAOH』の文字。
相手チーム、北央ジュニアスターズだった。
「……あれが北央か」
田島監督が呟く。
隣の山本コーチが頷いた。
「今年も強そうですね」
「そうだな」
どうやら、かなりの強豪らしい。
後で聞いた話によると、北央ジュニアスターズは市内でも有名なチームで、低学年大会でも何度も優勝しているという。
特に今年の四年生には、評判のいい選手が揃っているらしい。
なるほど。
初戦から強敵というわけか。
……いいじゃないか。
むしろ、望むところだ。
そのとき。
『ピロン♪』
聞き慣れた電子音が響いた。
――――――――――――――――――
【公式戦イベント発生】
『初めての公式戦』
大会:市内低学年野球大会
対戦相手:北央ジュニアスターズ
対戦相手評価:B
【特別目標】
・公式戦初出場
・公式戦初安打
・公式戦初打点
・チームの勝利に貢献する
【追加報酬】
対戦相手の実力に応じて経験点補正が発生します。
――――――――――――――――――
(おお……!)
相手評価B。
どうやら強豪チームという判定らしい。
しかも、経験点補正まで発生する。
これは嬉しい。
強い相手ほど経験点を稼ぎやすいのなら、今後も積極的に強豪と対戦したいところだ。
もちろん、勝てるかどうかは別問題だが。
「集合!」
田島監督の声が響く。
いよいよスターティングメンバーの発表だ。
「今日のスタメンを発表するぞ」
全員が静かになった。
監督が順番に名前を呼んでいく。
「一番、センター、高橋」
「はい!」
「二番、セカンド、佐々木」
「はい!」
「三番、ショート、朝倉」
「はい!」
……ん?
三番?
しかもショート?
一瞬だけ驚いた。
まさか初めての公式戦で、いきなり三番打者を任されるとは。
周囲の子供たちも驚いた様子だった。
「えっ、悠真が三番?」
「一年生なのに?」
「監督、本気だ……」
大地が小声で話しかけてきた。
「悠真、すげえじゃん!」
「ちょっとびっくりした」
「頑張れよ!」
「うん!」
俺は笑って頷いた。
どうやら監督は、俺の打撃をかなり高く評価してくれているらしい。
ならば、その期待に応えなければならない。
四番には四年生の主将、松本先輩。
五番には同じく四年生の村田先輩。
投手は四年生のエース、藤原先輩だった。
俺は三番ショート。
どうやら、守備と打撃の両方を期待されているようだ。
(……よし)
初めての公式戦。
しかも相手は強豪。
これ以上ない舞台じゃないか。
◇ ◇ ◇
「それでは、両チーム整列!」
審判の声が響いた。
俺たちはホームベースを挟んで整列する。
向かい側には北央ジュニアスターズの選手たち。
やはり、四年生が中心なのだろう。
俺より明らかに大きい選手が多い。
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
両チームが頭を下げた。
そして、いよいよ試合開始。
先攻は桜台フェニックス。
北央ジュニアスターズの先発投手がマウンドに上がる。
背番号一。
四年生のエースらしい。
名前は黒田拓海。
なかなか体格のいい少年だった。
投球練習が始まる。
振りかぶって、投げる。
シュッ!
ぱしんっ!
(……おっ)
なかなか速い。
球速はおそらく八十キロ台後半。
小学四年生としては十分速い部類だろう。
しかも、フォームが安定している。
ただ力任せに投げているわけではない。
これは面白そうだ。
「プレイ!」
審判の声が響いた。
一番打者、高橋先輩が打席に入る。
初球。
ストレート。
「ストライク!」
二球目。
外角低め。
「ストライクツー!」
三球目。
高めの速球。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
三球三振。
見事な立ち上がりだった。
「ナイスボール!」
「いいぞ黒田!」
北央のベンチが盛り上がる。
続く二番打者も、ショートゴロに倒れた。
二死走者なし。
そして、俺の打席が回ってきた。
「三番、ショート、朝倉君」
「はい!」
俺はバットを持って打席へ向かった。
その途中、北央のベンチから声が聞こえた。
「おい、あいつ小さくないか?」
「一年生らしいぞ」
「マジかよ?」
「なんで三番なんだ?」
まあ、そうなるよな。
俺はまだ六歳。
他の選手と比べれば、明らかに身体が小さい。
それなのに三番打者。
不思議に思われても仕方がない。
だが、気にする必要はない。
実力はプレーで示せばいい。
俺はバッターボックスに入った。
バットを構える。
マウンド上の黒田先輩と目が合った。
相手は少し驚いたような顔をしていたが、すぐに真剣な表情に戻った。
(……いい投手だな)
相手が一年生だからといって、手加減するつもりはないらしい。
それでいい。
俺も真剣勝負を望んでいるのだから。
黒田先輩が振りかぶる。
一球目。
シュッ!
外角低め。
(……ボール)
俺は見送った。
「ボール!」
予想通り。
二球目。
今度は内角高め。
速い。
だが、ストライクゾーンを外れている。
これも見送る。
「ボールツー!」
黒田先輩が少し眉をひそめた。
どうやら、俺が振ってこないことを意外に思っているらしい。
しかし、俺としては当然だった。
打てない球を無理に振る必要はない。
それに、初対戦の投手だ。
球筋を見ておくことには意味がある。
三球目。
今度は真ん中やや外寄り。
(……来た!)
俺は踏み込んだ。
タイミングを合わせる。
腰を回す。
バットを振る。
カキィンッ!
乾いた音が響いた。
打球は鋭く一、二塁間へ飛んだ。
「セカンド!」
二塁手が横っ飛びする。
だが、届かない。
打球はそのままライト前へ抜けていった。
「よし!」
俺は一塁へ走る。
ライトがボールを拾い、一塁へ返球した。
しかし、余裕でセーフ。
公式戦初打席。
ライト前ヒット。
俺は一塁ベース上で小さく拳を握った。
(よっしゃ!)
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【初記録達成!】
『公式戦初安打』
公式戦で初めて安打を記録しました。
【報酬】
技術ポイント+50
精神ポイント+20
【対戦相手補正】
強豪チームとの対戦により、追加経験点を獲得しました。
技術ポイント+10
――――――――――――――――――
(おお!)
やはり公式戦の報酬は大きい。
しかも、相手が強豪ということで追加経験点まで貰えた。
これはかなり美味しい。
ただし、今は試合中だ。
余計なことを考えている場合ではない。
続く四番打者、松本先輩が打席に入る。
黒田先輩が投球。
初球はストライク。
二球目。
カキンッ!
打球はセンター方向へ。
だが、センターが正面で捕球した。
「アウト! チェンジ!」
一回表終了。
得点は入らなかった。
しかし、俺個人としては悪くない滑り出しだった。
◇ ◇ ◇
一回裏。
北央ジュニアスターズの攻撃。
俺はショートの守備位置についた。
すると、相手の先頭打者がいきなりセンター前ヒットを放った。
続く二番打者は送りバント。
一死二塁。
そして三番打者。
初球を叩いた打球が、俺の方へ飛んできた。
(ショートゴロ!)
俺は素早く反応した。
打球の勢いはそこそこ強い。
しかし、難しい打球ではない。
正面に入り、腰を落とす。
グローブを地面に近づけて捕球。
そして、素早く一塁へ送球した。
ぱしんっ!
「アウト!」
よし。
これで二死三塁。
と思ったのだが。
「……あれ?」
相手のベンチがざわついていた。
「今の一年生だよな?」
「守備上手くね?」
「送球も速かったぞ」
どうやら、俺の守備が少し目立ったらしい。
まあ、仕方ない。
今の守備力はF 35。
成人選手基準では低い数値だが、六歳としてはかなり高い。
それに、前世の経験による打球判断もある。
身体能力だけでなく、技術と判断力で十分に勝負できるのだ。
しかし、続く四番打者にタイムリーヒットを打たれ、北央が先制。
さらに五番打者にもヒットを許したが、後続を抑えて一失点で切り抜けた。
一回終了。
桜台〇対一北央。
(……やっぱり強いな)
相手は市内でも有名な強豪チーム。
簡単には勝たせてくれないらしい。
だが、まだ試合は始まったばかりだ。
◇ ◇ ◇
三回表。
試合は一対〇のまま進んでいた。
北央のエース、黒田先輩は好投を続けている。
球速だけでなく、コントロールも悪くない。
しかも、打者ごとに投げるコースを変えている。
小学四年生としては、なかなか完成度の高い投手だった。
だが、俺にとっては十分に打てる相手である。
問題は、俺以外の打者が苦戦していることだ。
ここまでチームのヒットは、俺の一本だけ。
さすがに、これでは得点が難しい。
「朝倉!」
ベンチに戻ると、田島監督に呼ばれた。
「はい!」
「次の打席、どう思う?」
「どう、ですか?」
「あのピッチャー、打てそうか?」
俺は少し考えた。
「打てます」
はっきりと答える。
監督が笑った。
「頼もしいな」
「ただ、真ん中付近のストレートは結構速いです」
「うん」
「でも、外角への球は少し甘くなることが多いと思います」
監督の表情が変わった。
「……よく見てるな」
「はい!」
「なるほど。確かにそうかもしれん」
監督は腕を組んだ。
「じゃあ、次はそこを狙ってみるか?」
「はい!」
俺は頷いた。
実際、黒田先輩の外角への投球は少し甘かった。
おそらく、外角低めを狙った球が高く浮いているのだろう。
そこを狙えば、十分にヒットを打てる。
そして、三回表。
二死一塁。
俺の第二打席が回ってきた。
「三番、ショート、朝倉君」
俺はバットを持って打席に入った。
相手の黒田先輩は、今度こそ抑えてやるという表情をしていた。
初球。
内角ストレート。
「ストライク!」
見送った。
二球目。
外角低め。
しかし、少し高い。
(……来た!)
俺は迷わずバットを振った。
カキィンッ!
打球は右中間へ飛んだ。
「ライト! センター!」
外野手が追いかける。
しかし、打球は二人の間に落ちた。
「走れ!」
ベンチから声が飛ぶ。
俺は一塁を蹴った。
そのまま二塁へ向かう。
先頭走者は三塁を回った。
中継プレー。
外野から内野へボールが返る。
「ホーム!」
北央の選手が叫んだ。
だが、送球は間に合わなかった。
「セーフ!」
同点!
俺は二塁ベース上で拳を握った。
(よっしゃあ!)
公式戦初打点。
しかも、強豪相手の同点タイムリーツーベースだ。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【初記録達成!】
『公式戦初打点』
【報酬】
筋力ポイント+20
技術ポイント+40
精神ポイント+30
【追加評価】
得点圏での打撃成功
技術ポイント+10
精神ポイント+10
――――――――――――――――――
(いいねえ!)
大量の経験点が入った。
やはり公式戦は素晴らしい。
しかし、俺はまだ満足していなかった。
今のは同点打。
勝ち越しではない。
ここから逆転したいところだ。
続く四番打者、松本先輩が打席に入る。
初球。
ストレート。
カキンッ!
打球はレフト前へ。
「回れ! 朝倉!」
三塁コーチ役の山本コーチが腕を回す。
俺は三塁を蹴った。
レフトがボールを拾う。
ホームへ送球。
だが、間に合わない。
「セーフ!」
逆転!
桜台二対一北央。
ベンチから大歓声が上がった。
「よっしゃー!」
「逆転だ!」
「ナイス松本!」
俺はホームベースを踏み、ベンチへ戻った。
チームメイトたちが次々に手を差し出してくる。
俺は全員とハイタッチした。
……うん。
やっぱり野球は楽しい。
◇ ◇ ◇
しかし、強豪は簡単には引き下がらなかった。
四回裏。
北央ジュニアスターズの反撃が始まった。
先頭打者が四球で出塁。
続く打者がヒット。
無死一、二塁。
さらに送りバントで一死二、三塁。
絶体絶命のピンチだった。
「タイム!」
田島監督がベンチから出てきた。
マウンドに内野手が集まる。
俺もショートから駆け寄った。
「藤原、大丈夫か?」
「はい……」
先発投手の藤原先輩は、少し疲れた表情をしていた。
ここまで四回途中で球数も増えている。
どうやら制球が乱れ始めていた。
「無理するなよ。今日はここまでにしよう」
「……はい」
藤原先輩が頷いた。
監督はベンチを振り返る。
そして。
「朝倉」
「はい!」
「投げられるか?」
……来た。
まさか公式戦初登板が、こんな場面になるとは。
一死二、三塁。
一点リード。
打者は北央の三番。
普通なら小学一年生に任せる場面ではない。
だが、俺は迷わなかった。
「投げられます!」
即答する。
監督が真剣な表情で俺を見つめた。
「相手は強いぞ」
「分かってます!」
「無理して速い球を投げる必要はない。ストライクを入れることを考えろ」
「はい!」
監督は頷いた。
「よし。じゃあ頼むぞ」
こうして、俺は公式戦で初めてマウンドに立つことになった。
◇ ◇ ◇
マウンドに上がる。
相手の三番打者は四年生。
俺より随分と身体が大きい。
そして、三塁には同点の走者。
二塁には逆転の走者。
一死二、三塁。
普通なら緊張する場面だろう。
だが、俺は不思議と落ち着いていた。
前世でもピンチの場面で登板したことはある。
もちろん、高校時代の話だ。
それに比べれば、今は小学一年生の野球。
そこまで気負う必要はない。
(……さて、どう抑えるか)
俺は捕手の中村先輩を見た。
中村先輩は、いつものように真ん中にミットを構えている。
どうやら、まずはストライクを取るつもりらしい。
俺は頷いた。
初球。
ストレート。
外角低め。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
よし。
まずは一球。
相手の打者が少し驚いた表情をした。
まあ、小学一年生があれだけ綺麗にストライクを投げれば、多少は驚くだろう。
二球目。
今度は内角。
やや高めを狙う。
シュッ!
打者が振った。
カンッ!
ファウル。
追い込んだ。
(……ここからだな)
現在の俺には変化球がない。
球速も七十キロ台。
四年生の強打者を相手にするには、決して十分な球威ではない。
だが、コントロールなら勝負できる。
それに、相手の打撃フォームを観察することもできる。
今の打者は、少し早めにバットを振り始める傾向があった。
ならば。
(外角低めだ)
俺は捕手のミットを確認した。
そして、三球目。
腕を振る。
シュッ!
ボールは外角低めへ。
打者がバットを出す。
だが、タイミングが合わない。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
三振!
二死二、三塁。
「おおー!」
桜台のベンチから歓声が上がった。
俺は軽く拳を握った。
しかし、まだ終わりではない。
次は四番打者。
北央で最も打撃のいい選手だ。
打席に入った四年生は、俺をじっと見つめていた。
「……一年生なのに、結構やるな」
「ありがとうございます!」
「でも、次は打つぞ!」
「負けません!」
俺は笑って答えた。
いいね。
こういう勝負は大好きだ。
初球。
外角へのストレート。
「ボール!」
少し外れた。
二球目。
内角低め。
カンッ!
ファウル。
三球目。
外角高め。
「ストライク!」
カウントはワンボール、ツーストライク。
追い込んだ。
だが、四番打者は落ち着いていた。
バットを短く持ち直し、真剣な表情でこちらを見つめている。
(……いい打者だな)
俺はそう思った。
無理に大きな当たりを狙うのではなく、確実にボールを捉えようとしている。
さすが強豪チームの四番。
ならば、こちらも慎重に攻めなければならない。
四球目。
外角低め。
シュッ!
カキンッ!
打球は三塁方向へ。
ファウル。
五球目。
内角高め。
ブンッ!
空振り!
「ストライク! バッターアウト!」
三振!
スリーアウト!
チェンジ!
「よっしゃあああ!」
ベンチから大歓声が上がった。
俺はマウンド上で右手を握り締めた。
(よし!)
公式戦初登板。
一死二、三塁のピンチから、二者連続三振。
最高の結果だった。
そして。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【初記録達成!】
『公式戦初登板』
『公式戦初奪三振』
『得点圏の走者を背負った場面での無失点救援』
【報酬】
技術ポイント+80
精神ポイント+100
筋力ポイント+20
【特別評価】
強豪チームの主軸打者を連続三振
精神ポイント+30
――――――――――――――――――
(うおおっ!?)
凄い。
とんでもない経験点だ。
公式戦の報酬は、やはり紅白戦とは比較にならない。
しかも、相手が強豪チームという補正まで乗っている。
これは美味しすぎる。
……いや、今は喜んでいる場合じゃない。
まだ試合は終わっていないのだから。
◇ ◇ ◇
その後、俺は五回もマウンドに上がった。
もちろん、監督とコーチが球数や身体の状態を確認したうえでの続投である。
幸い、五回は先頭打者をショートゴロ、続く打者をセカンドゴロ、最後の打者を三振に仕留めた。
三者凡退。
そして、試合終了。
桜台フェニックス、二対一で勝利!
「やったあああ!」
「勝ったぞー!」
チームメイトたちが大喜びしている。
俺も思わず笑顔になった。
初めての公式戦。
初めての強豪との対戦。
そして、初勝利。
これ以上ない結果だった。
「朝倉!」
田島監督が俺を呼んだ。
「はい!」
「よくやったな!」
監督は満面の笑みで俺の頭を撫でた。
「まさか、あの場面で二者連続三振とはな!」
「ありがとうございます!」
「打撃も見事だった。今日はお前に助けられたよ」
その言葉は、素直に嬉しかった。
だが、俺は一つだけ気になっていたことがある。
「監督!」
「ん?」
「僕、これからもピッチャーと野手の両方をやりたいです!」
思い切って伝えた。
監督は一瞬驚いたような顔をした。
だが、すぐに笑った。
「もちろんだ!」
「本当ですか!?」
「ああ。お前は投げるのも打つのも上手いからな。今からどちらかに決める必要はない」
「ありがとうございます!」
「ただし、肩や肘の状態には気をつけるぞ。投げすぎは絶対に駄目だからな」
「はい!」
俺は力強く頷いた。
こうして、俺の二刀流としての野球人生が、本格的に始まった。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は自室で育成システムを開いていた。
今日の試合結果を確認するためだ。
――――――――――――――――――
【公式戦結果】
桜台フェニックス 2
北央ジュニアスターズ 1
勝利!
【朝倉悠真】
打撃成績
3打数3安打
二塁打:1
打点:1
得点:1
打率:1.000
投手成績
投球回:1回2/3
被安打:0
奪三振:3
与四球:0
失点:0
自責点:0
守備成績
守備機会:3
失策:0
【総合評価】
S
【試合経験点】
筋力+100
敏捷+80
技術+180
精神+150
【初記録・特別ボーナス】
筋力+50
敏捷+30
技術+180
精神+210
【合計獲得経験点】
980ポイント
――――――――――――――――――
(……九百八十!?)
思わず目を見開いた。
とんでもない数字だった。
一試合で、これだけの経験点が手に入るとは。
もちろん、今回は初記録ボーナスが大量に発生している。
毎回同じだけ貰えるわけではないだろう。
だが、それでも十分すぎる。
(これなら、想像以上の速度で成長できるぞ……)
俺は思わず笑った。
そして、次の画面を開く。
【育成目標】
そこには、新しい目標が追加されていた。
――――――――――――――――――
【新規育成目標】
『少年野球大会優勝』
達成条件:
公式大会で優勝する。
【報酬】
筋力ポイント+300
敏捷ポイント+300
技術ポイント+300
精神ポイント+300
【特別報酬】
特殊能力取得補助機能の解放
――――――――――――――――――
(……ほう)
特殊能力取得補助機能。
これは気になる。
もしかすると、特殊能力の取得に必要な経験点を減らせるのだろうか。
あるいは、取得条件を緩和できるのかもしれない。
いずれにせよ、非常に魅力的な報酬だった。
しかも、大会優勝なら経験点が合計千二百ポイント。
これは絶対に達成したい。
(よし……優勝するぞ)
俺は小さく拳を握った。
もちろん、野球は一人では勝てない。
だからこそ、チームメイトと一緒に強くなる必要がある。
俺がいくら打っても、味方が守れなければ負ける。
俺がいくら抑えても、味方が点を取れなければ勝てない。
それが野球だ。
だが、それでいい。
俺は一人で野球をしたいわけではない。
仲間と一緒に勝ちたいのだ。
そして、その中心に立てるような選手になりたい。
そう思いながら、俺は画面を閉じた。
……それにしても。
小学一年生でこれだけ経験点を稼げるなら、高校生やプロになったときはどうなるのだろうか。
甲子園優勝。
日本シリーズ制覇。
ワールドシリーズ優勝。
それらの報酬は、きっと桁違いだろう。
そして、最終的にはオールS。
投手としては百七十キロを超える豪速球と、多彩な変化球。
打者としては打率四割、本塁打六十本以上。
金特殊能力も大量に取得する。
そんな化け物じみた選手になってやる。
俺は布団に潜り込んだ。
今日は随分と疲れた。
身体はまだ六歳なのだ。
明日に疲れを残さないためにも、しっかり眠らなければならない。
(……次も勝つぞ)
そう心の中で呟き、俺は目を閉じた。
◇ ◇ ◇
一方、その頃。
北央ジュニアスターズの監督は、今日の試合結果を眺めていた。
「……朝倉悠真、か」
桜台フェニックスの三番打者。
小学一年生。
右投右打。
三打数三安打。
さらに、投手として一回と三分の二を無失点。
三奪三振。
最初は、正直なところ侮っていた。
六歳の一年生が三番打者。
いくら人数が少ないチームでも、少々無理があるのではないかと思ったものだ。
だが、実際は違った。
あの少年は、明らかに他の一年生とは違う。
バットの出し方。
ボールの見極め。
守備の動き。
そして、マウンド上での落ち着き。
特に印象的だったのは、四回裏の投球だった。
一死二、三塁。
しかも、相手は北央の三番と四番。
普通なら、四年生の投手でも緊張する場面だ。
それを、一年生が二者連続三振で切り抜けた。
「……化け物だな」
監督は小さく呟いた。
もちろん、まだ六歳。
将来どうなるかは分からない。
成長が早いだけの子供かもしれない。
しかし、それでも。
あの少年には、何か特別なものを感じた。
「桜台に、とんでもない子が入ったもんだ」
監督は苦笑した。
そして、試合結果の記録を閉じた。
彼はまだ知らない。
今日、自分たちのチームを破った小さな少年が、将来、日本中どころか世界中の野球ファンを熱狂させる存在になることを。
投げては誰も打てない豪速球。
打っては誰も届かない特大ホームラン。
そして、数々の大記録。
史上最高の二刀流選手。
その伝説が、今まさに動き始めていた。
――――――――――
第六話 完
次回 第七話「天才一年生、全国への第一歩」
強豪・北央ジュニアスターズを破った桜台フェニックスは、大会の二回戦へ進出する。
初戦で投打ともに活躍した悠真の噂は、早くも他チームの指導者たちの間に広まり始めていた。
そんな中、悠真は育成システムに表示された新しい項目を発見する。
それは、これまで以上に成長速度を高める可能性を秘めた機能だった。