転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある 作:1番道路
野球には、才能というものが存在する。
どれほど練習しても、百五十キロのストレートを投げられない人間はいる。
どれほど努力しても、プロ野球選手になれない人間はいる。
というか、ほとんどの人間はそうだ。
俺だって前世では、プロを夢見ながら地方大会の三回戦で敗退した、ごく普通の高校球児だった。
だからこそ、才能の重要性は理解している。
そして今世。
俺には、その才能の壁を越えられる能力がある。
パワプロ育成システム。
練習や試合で経験点を獲得し、それを消費することで自分自身を成長させられるという、反則じみた転生特典だ。
もっとも、現時点では身体の成長による制限が大きい。
何しろ俺は小学一年生。
六歳なのだから。
だが、それでも十分な恩恵を受けていた。
先日の公式戦では、強豪として知られる北央ジュニアスターズを相手に三打数三安打。
投手としても一回と三分の二を投げて無失点、三奪三振。
しかも、試合で獲得した経験点は九百八十ポイントに達した。
これまでの練習では考えられなかった数字である。
そんな俺は現在、育成システムの画面を眺めていた。
「……何だこれ?」
思わず呟く。
目の前には、見覚えのない項目が表示されていた。
――――――――――――――――――
【育成システム】
新規機能が解放可能になりました。
【練習効率補正】
解放条件:
公式戦で総合評価Sを獲得する。
条件達成済み。
機能を解放しますか?
はい/いいえ
――――――――――――――――――
練習効率補正。
名前からして、非常に魅力的な機能だった。
当然、答えは決まっている。
(はい!)
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【新機能解放!】
『練習効率補正』
練習内容と身体の習熟度に応じて、経験点獲得量に補正が発生します。
【基本効果】
・適切な練習による経験点獲得量が増加
・練習内容の改善点を表示
・身体への負担を評価
・練習の重複による効率低下を軽減
【現在の補正倍率】
1.10倍
【成長条件】
継続的な練習と実戦経験により、補正倍率が上昇します。
――――――――――――――――――
(……おお!)
これは凄い。
経験点の獲得量が一割増える。
たった一割と思うかもしれないが、長い目で見れば相当な差になる。
例えば、一年間で一万ポイント獲得できるとしよう。
一割増加すれば、千ポイントの差だ。
それが十年続けば、一万ポイント。
しかも、補正倍率は今後さらに上昇する可能性がある。
つまり、この機能を早い段階で解放できたこと自体が、非常に大きな利点なのだ。
だが、俺が本当に注目したのは別の部分だった。
『身体への負担を評価』
これである。
俺は将来的に、投手と野手の両方で世界最高を目指している。
当然、練習量は多くなるだろう。
しかし、投手にとって肩や肘の故障は致命的だ。
どれほど能力が高くても、身体を壊してしまっては意味がない。
その点、この機能があれば、練習による負担を数値として確認できるらしい。
(これはありがたいな)
早速、現在の身体状態を確認してみた。
――――――――――――――――――
【コンディション】
総合状態:良好
疲労度:8%
肩への負担:低
肘への負担:低
下半身の疲労:低
筋肉の回復状況:良好
【推奨練習】
・軽いキャッチボール
・基本的な捕球練習
・短時間の打撃練習
・走塁練習
【非推奨】
・全力投球の反復
・過度な筋力トレーニング
・長時間の連続練習
――――――――――――――――――
(なるほど)
現在の状態がかなり詳しく表示されている。
しかも、推奨練習まで教えてくれるとは。
もはや専属トレーナーが一人ついているようなものだ。
いや、専属トレーナーでも身体の内部状態をここまで正確に把握するのは難しいだろう。
実に便利な能力である。
(これなら、無理なく効率的に成長できそうだな)
俺は満足して画面を閉じた。
今日は大会の翌日。
身体を休めながら、軽い練習だけにしておこう。
◇ ◇ ◇
「悠真!」
「ん?」
翌週の土曜日。
いつものように桜台小学校のグラウンドへ向かうと、大地が駆け寄ってきた。
「お前、凄いことになってるぞ!」
「何が?」
「この前の試合!」
「北央との試合?」
「そう!」
大地は興奮した様子で頷いた。
「他のチームの人たちも、お前のこと話してたんだって!」
「へえ」
……なるほど。
どうやら先日の試合で、少し噂になったらしい。
まあ、仕方ないだろう。
小学一年生が四年生中心の大会で三番を打ち、しかも三安打。
さらに投手としても強豪チームの主軸から三振を奪っている。
客観的に見れば、かなり異常な成績だ。
「何か、一年生の凄い奴がいるって!」
「そうなんだ」
「お前、嬉しくないの?」
「嬉しいよ」
「全然そう見えないぞ!」
「そんなことないって」
俺は笑った。
実際、悪い気はしない。
だが、まだ市内の大会で一試合活躍しただけだ。
これから先、もっと強い選手はいくらでも出てくるだろう。
それに、俺が目指しているのは世界最高。
今の段階で満足するわけにはいかない。
「よーし、集合!」
田島監督の声が響いた。
子供たちが集まる。
「今日は次の試合に向けた練習をするぞ!」
「はい!」
「次の相手は西ヶ丘イーグルスだ。北央ほど有名なチームではないが、守備の堅い相手だから油断するなよ!」
西ヶ丘イーグルス。
次の対戦相手らしい。
田島監督は続けた。
「特に、無理な走塁や守備でのミスには気をつけろ。取れるアウトを確実に取る。それが大事だ」
「はい!」
なるほど。
堅実な守備をする相手なら、こちらもミスを減らす必要がある。
初戦の北央戦は二対一という接戦だった。
あの試合では俺が活躍できたものの、チーム全体としてはまだまだ課題が多い。
特に打撃。
俺以外の選手が相手エースに苦戦していた。
このままでは、今後も得点力不足に悩まされる可能性がある。
(……何かできないかな)
俺は少し考えた。
もちろん、システムを使って他人の能力を上げることはできない。
経験点を分け与える機能も存在しなかった。
だが、前世の野球経験を活かしてアドバイスすることくらいはできる。
もっとも、俺は小学一年生。
上級生に偉そうに指導するのは、さすがに不自然だ。
だから、まずは身近な相手から始めることにした。
「大地」
「ん?」
「今日、バッティング一緒にやらない?」
「いいぞ!」
「ちょっと試したいことがあるんだ」
「何だ?」
「ボールを最後まで見る練習」
大地は首を傾げた。
「いつも見てるぞ?」
「うん。でも、打つときに顔が動いてることがあるから」
「えっ、そうなの?」
「うん」
前回の紅白戦でも気づいていたことだ。
大地はボールが来る前に身体が開いてしまう癖がある。
そのせいで、外角の球を上手く捉えられない。
だが、これは練習で改善できる問題だ。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「まずはゆっくり振ってみようよ」
「分かった!」
大地は素直に頷いた。
よし。
それなら話は早い。
◇ ◇ ◇
「……あれ?」
練習開始から二十分ほど経過した頃。
大地が不思議そうな声を上げた。
「何か、さっきより打てるようになった!」
「よかったね」
「悠真、お前すげえな!」
「そんなことないよ」
俺は笑って答えた。
実際、やったことは単純だ。
大地の打撃フォームを見て、身体が開くタイミングを少し修正しただけ。
あとは、ボールを最後まで見ることを意識させた。
それだけでも、打球の質は明らかに変わった。
もちろん、まだ完璧ではない。
だが、今の段階では十分だろう。
「もう一回やろうぜ!」
「いいよ!」
大地は楽しそうにバットを構えた。
俺もボールを持ち、軽くトスを上げる。
カンッ!
今度は綺麗な打球が飛んだ。
「おおっ!」
大地が歓声を上げる。
「今の見た!?」
「うん! いい当たりだったね!」
「よっしゃ!」
嬉しそうに飛び跳ねる大地を見て、俺も自然と笑顔になった。
……いいな。
こういうのも。
自分が上手くなるのも楽しいが、仲間が成長するのを見るのも悪くない。
前世では、自分のことで精一杯だった。
だが今世では、少し余裕を持って野球を楽しめそうだ。
そのとき。
『ピロン♪』
聞き慣れた電子音が響いた。
(ん?)
――――――――――――――――――
【育成イベント発生】
『チームメイトの成長を補助』
他選手の技術向上に貢献しました。
【報酬】
技術ポイント+15
精神ポイント+20
【新規実績】
『初めてのアドバイス』
――――――――――――――――――
(……おお)
なるほど。
こういうことでも経験点が入るのか。
これは予想外だった。
システムは自分自身の練習だけでなく、チームへの貢献も評価するらしい。
となれば、今後は仲間の成長を手助けするのも有効な育成方法になる。
もちろん、経験点目的だけで教えるつもりはない。
仲間が強くなれば、チームも強くなる。
そして、チームが強くなれば大会で勝ち進める。
結果として、俺自身もより多くの試合を経験できる。
実に理想的な関係ではないか。
(よし。これからはチーム全体の成長も意識していこう)
俺は新しい育成方針を決めた。
◇ ◇ ◇
翌日。
俺たちは大会二回戦の会場に来ていた。
相手は西ヶ丘イーグルス。
紺色を基調としたユニフォームのチームだ。
試合前の練習を見る限り、確かに守備は堅そうだった。
特に内野手の動きがいい。
ゴロ捕球から送球までの動きが安定している。
田島監督の言っていた通り、簡単には点を取れない相手かもしれない。
「朝倉」
「はい!」
監督に呼ばれた。
「今日も三番ショートで頼むぞ」
「はい!」
「投手としては、必要になったら登板してもらう。ただし、前回と同じように短いイニングだけだ」
「分かりました!」
よし。
今日もスタメンだ。
しかも三番ショート。
どうやら、完全に主力として扱われ始めているらしい。
小学一年生としては、なかなか珍しい立場だろう。
だが、悪くない。
むしろ、どんどん試合に出たい。
それだけ経験点も稼げるのだから。
「それでは、両チーム整列!」
審判の声が響いた。
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
両チームが頭を下げる。
そして、試合が始まった。
◇ ◇ ◇
一回表。
先攻は桜台フェニックス。
先頭打者の高橋先輩が打席に入る。
相手投手は四年生の右腕。
球速は北央の黒田先輩ほどではないが、コントロールが良さそうだった。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
「ボール!」
三球目。
カンッ!
打球はショートへ。
しかし、相手の遊撃手が軽快に捕球し、一塁へ送球した。
「アウト!」
(……上手いな)
確かに守備がいい。
送球も安定している。
続く二番打者はセカンドゴロ。
二死走者なし。
そして、俺の打席だ。
「三番、ショート、朝倉君」
俺はバットを持って打席へ向かった。
すると、相手ベンチから声が聞こえた。
「あいつだろ?」
「ああ、北央から三安打打った一年生」
「ピッチャーもやったらしいぞ」
「マジで?」
……なるほど。
噂というのは、思っていた以上に広まるものらしい。
まあ、別に構わない。
むしろ、相手が警戒してくれるなら、それを利用することもできる。
俺はバッターボックスに入った。
投手が構える。
初球。
外角へのストレート。
「ボール!」
少し外れた。
二球目。
今度は内角低め。
(……ストライクだな)
俺は見送った。
「ストライク!」
ワンボール、ワンストライク。
三球目。
外角。
しかし、少し高い。
(来た!)
俺は踏み込んだ。
腰を回し、バットを振る。
カキィンッ!
打球は鋭くセンター方向へ飛んだ。
「センター!」
相手の中堅手が前進する。
だが、打球はその手前に落ちた。
センター前ヒット。
「よし!」
俺は一塁ベースを踏んだ。
今日も初打席でヒット。
上々の滑り出しだ。
『ピロン♪』
『公式戦安打を記録』
『技術ポイント+12』
『精神ポイント+5』
(……なるほど)
今回は初記録ボーナスがないので、獲得経験点は少なめだった。
それでも、通常の練習より効率はいい。
しかも、まだ試合は始まったばかりだ。
ここからさらに活躍すれば、十分な経験点を獲得できるだろう。
続く四番、松本先輩。
初球は見送り。
二球目。
カキンッ!
打球はライト前へ。
「回れ!」
俺は二塁へ進んだ。
右方向へのヒット。
これで二死一、二塁。
チャンスが広がった。
続く五番打者は村田先輩。
相手投手が投球する。
初球。
外角低め。
見送り。
二球目。
内角ストレート。
カンッ!
打球は三遊間へ。
ショートが横っ飛びする。
だが、届かない。
「抜けた!」
俺は二塁から一気にスタートした。
三塁を回る。
三塁コーチの腕が回っている。
(行ける!)
俺は迷わずホームへ突っ込んだ。
レフトから返球。
中継プレー。
捕手がホームベース付近で構える。
だが、送球は少し逸れた。
俺はその隙にホームベースを踏んだ。
「セーフ!」
先制!
桜台一対〇西ヶ丘。
「よっしゃあ!」
ベンチから歓声が上がった。
俺も笑顔で戻る。
やはり、先制点というのは嬉しいものだ。
特に相手が守備の堅いチームなら、なおさらである。
◇ ◇ ◇
試合は三回まで進んだ。
スコアは二対一。
桜台フェニックスが一点リードしている。
俺はここまで二打数二安打。
打撃は順調だった。
しかし、今日の試合は前回とは少し違っていた。
相手の攻撃が非常に粘り強いのだ。
簡単には三振しない。
追い込まれてもファウルで粘る。
そして、甘い球を確実に打ってくる。
まさに堅実な野球だった。
「タイム!」
三回裏。
二死一、二塁。
田島監督がマウンドへ向かった。
俺もショートから集まる。
「藤原、どうだ?」
「大丈夫です!」
先発投手の藤原先輩が答える。
しかし、少し息が上がっていた。
今日の相手は粘り強い。
そのせいで、球数がかなり増えている。
監督は少し考えた。
そして、俺の方を見た。
「朝倉」
「はい!」
「次の打者まで藤原に任せる。その後、状況次第で交代するぞ」
「分かりました!」
なるほど。
どうやら、今日も登板機会がありそうだ。
ただし、今の俺はショート。
まずは守備をしっかりこなす必要がある。
試合再開。
相手の四番打者が打席に入る。
藤原先輩の初球。
外角低め。
「ボール!」
二球目。
内角ストレート。
カキンッ!
打球は三遊間へ。
(来た!)
俺は素早く反応した。
横へ踏み出す。
グローブを伸ばす。
ぱしっ!
捕った!
しかし、捕球した位置が悪い。
身体が三塁側へ流れている。
普通なら、ここから一塁への送球は難しい。
だが。
(間に合う!)
俺は素早く体勢を立て直した。
右足を踏み込み、身体を回転させる。
そして、一塁へ送球。
シュッ!
ぱしんっ!
「アウト!」
スリーアウト!
チェンジ!
「おおおっ!」
ベンチから大歓声が上がった。
「ナイスショート!」
「悠真、すげえ!」
俺は軽く拳を握った。
(よし!)
今のはなかなかいいプレーだった。
身体能力はまだ小学一年生相応だが、打球判断と送球技術で補うことができた。
もちろん、前世の経験も大きい。
しかし、それ以上にシステムによる守備力の向上が効いている。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【好守備評価】
難度の高いゴロを処理しました。
【報酬】
敏捷ポイント+20
技術ポイント+25
精神ポイント+10
【追加評価】
守備判断:優秀
――――――――――――――――――
(おお!)
通常の守備よりも多く経験点が入った。
どうやら、プレーの難易度によっても報酬が変化するらしい。
これはありがたい。
守備機会の多いショートは、経験点稼ぎにも向いているようだ。
◇ ◇ ◇
四回裏。
俺は再びマウンドに立っていた。
先発の藤原先輩は三回まで投げ、一失点。
十分な働きだった。
ただし、球数が多くなったため、監督の判断で交代したのである。
現在のスコアは三対一。
桜台が二点リード。
俺に与えられた役割は、残り二回をできる限り抑えることだった。
もちろん、球数には制限がある。
監督からは、無理に三振を狙わず、打たせて取るように指示されていた。
実に妥当な判断だ。
今の俺は小学一年生。
肩や肘への負担は極力減らすべきである。
それに、三振を取らなくてもアウトはアウトだ。
効率よく抑えるなら、打たせて取る投球も重要になる。
(さて、いくか)
俺はボールを握った。
打席には相手の六番打者。
右打者だ。
初球。
外角低め。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
二球目。
内角低め。
カンッ!
打球はセカンドゴロ。
大地が素早く捕球し、一塁へ送球した。
「アウト!」
よし。
一球で打たせて取れた。
……いや、二球目だから二球か。
まあ、細かいことはいい。
「ナイス大地!」
「おう!」
大地が嬉しそうに返事をした。
続く七番打者。
初球はボール。
二球目はストライク。
三球目。
カキンッ!
今度はショートゴロ。
遊撃手に入った三年生が捕球し、一塁へ送球する。
「アウト!」
二死。
順調だ。
そして八番打者。
初球。
外角ストレート。
「ストライク!」
二球目。
内角。
「ボール!」
三球目。
低めのストレート。
カンッ!
打球はピッチャー返し。
(おっ)
俺は素早くグローブを出した。
ぱしっ!
正面で捕球。
そのまま一塁へ送球。
「アウト!」
三者凡退。
しかも、全員内野ゴロ。
球数はわずか八球。
(……理想的だな)
無理に三振を狙わなくても、これだけ効率よくアウトを取れる。
今の俺にとっては、むしろこちらの方がいいかもしれない。
もちろん、将来的には三振も大量に奪うつもりだ。
しかし、身体が完成するまでは、無理のない投球を心がけたい。
何しろ、俺の野球人生はまだ始まったばかりなのだから。
◇ ◇ ◇
五回表。
俺に三度目の打席が回ってきた。
スコアは三対一。
一死二塁。
追加点のチャンスだった。
相手投手はここまで粘り強く投げていたが、少し疲れが見えている。
球威も初回より落ちているようだった。
(……狙い目だな)
俺はバットを構えた。
初球。
外角ストレート。
少し甘い。
(来た!)
俺は迷わず振り抜いた。
カキィンッ!
打球は鋭く左中間へ飛んだ。
「レフト! センター!」
外野手が追いかける。
しかし、打球は二人の間を抜けていった。
「走れ!」
ベンチから声が飛ぶ。
俺は一塁を蹴った。
二塁へ向かう。
先頭走者は三塁を回る。
外野から返球が来るが、間に合わない。
「セーフ!」
追加点!
桜台四対一西ヶ丘。
俺は二塁ベース上で拳を握った。
(よっしゃ!)
今日三本目のヒット。
しかも、タイムリーツーベース。
上出来だ。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【打撃評価】
適時二塁打を記録しました。
【報酬】
筋力ポイント+15
技術ポイント+25
精神ポイント+15
【追加評価】
得点圏打撃:優秀
――――――――――――――――――
(いいねえ)
やはり、打撃で結果を残せるのは嬉しい。
しかも、経験点も順調に増えている。
この調子なら、今日もかなり稼げそうだ。
続く四番打者、松本先輩もヒットを放ち、俺は三塁へ進塁。
そして五番打者の犠牲フライで生還した。
五対一。
これで四点差。
かなり有利になった。
◇ ◇ ◇
五回裏。
俺は再びマウンドに立った。
四点リード。
あと三つアウトを取れば勝利だ。
相手は九番打者から。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
カンッ!
打球はファーストゴロ。
一塁手が自分でベースを踏んだ。
「アウト!」
一死。
続く一番打者。
ここは少し慎重に攻める。
相手は足が速い。
内野安打でも出塁される可能性がある。
初球。
内角高め。
「ボール!」
二球目。
外角低め。
「ストライク!」
三球目。
真ん中やや低め。
カキンッ!
打球はセンターへ飛んだ。
(……少し甘かったか)
しかし、センターの高橋先輩が落下点に入る。
ぱしっ!
「アウト!」
二死。
あと一人。
俺はボールを受け取った。
そして、最後の打者と向き合う。
相手の二番打者は左打者。
バットを短く持っている。
どうやら、確実に当てて出塁しようという考えらしい。
(……なら、こちらも丁寧にいこう)
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
「ボール!」
三球目。
外角高め。
ファウル。
ワンボール、ツーストライク。
追い込んだ。
そして四球目。
俺は捕手のミットを見つめた。
狙うのは外角低め。
最後まで丁寧に投げる。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク! バッターアウト!」
三振!
スリーアウト!
ゲームセット!
「やったあああ!」
「勝ったぞー!」
ベンチから歓声が上がった。
俺も思わず笑顔になる。
桜台フェニックス、二回戦突破。
しかも、俺自身は三打数三安打。
投手としても二回無失点。
最高の結果だった。
◇ ◇ ◇
試合終了後。
田島監督は、全員を集めて話を始めた。
「よし! 今日はいい試合だった!」
「はい!」
「特に守備が良かったな。無駄な失点を防げたのが大きい」
監督は満足そうに頷いた。
「それから、打撃も前回より良くなっていた。練習の成果が出てるぞ!」
子供たちが嬉しそうに笑う。
その中には、大地の姿もあった。
「悠真!」
「ん?」
「俺、今日ヒット打てたぞ!」
「見てたよ!」
「この前教えてもらったこと、意識したんだ!」
「よかったね!」
「ありがとな!」
大地は嬉しそうに笑った。
俺も笑い返す。
こういう瞬間は、何度経験しても嬉しいものだ。
自分が活躍するのも楽しい。
だが、仲間が活躍するのも同じくらい楽しい。
そして、みんなで勝つ。
それが野球というスポーツの魅力だろう。
「朝倉」
「はい!」
監督に呼ばれた。
「今日もよくやったな」
「ありがとうございます!」
「打撃も守備も投球も、安定していた。特に最後の二イニングは見事だったぞ」
「はい!」
「ただし、これからもっと強い相手が出てくる。今のうちから油断しないようにな」
「分かりました!」
俺は力強く頷いた。
当然だ。
今の段階で満足するつもりなど、毛頭ない。
むしろ、もっと強い相手と戦いたい。
自分の実力がどこまで通用するのか、試してみたいのだ。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は自室で育成システムを開いていた。
――――――――――――――――――
【公式戦結果】
桜台フェニックス 5
西ヶ丘イーグルス 1
勝利!
【朝倉悠真】
〈打撃成績〉
3打数3安打
二塁打:1
打点:1
得点:2
〈投手成績〉
投球回:2回
被安打:0
奪三振:1
与四球:0
失点:0
〈守備成績〉
守備機会:4
失策:0
【総合評価】
S
【獲得経験点】
筋力:65
敏捷:80
技術:140
精神:100
合計:385
【練習効率補正】
1.10倍
――――――――――――――――――
(……ふむ)
初戦ほどではないが、それでも十分に多い。
一試合で三百八十五ポイント。
悪くない数字だ。
しかも、今後は練習効率補正によって、日々の練習でも経験点を稼ぎやすくなる。
これなら、想像以上の速度で成長できるかもしれない。
俺は能力アップ画面を開いた。
現在の能力値を確認する。
――――――――――――――――――
【朝倉悠真】
年齢:6歳
投打:右投右打
【野手能力】
弾道:1
ミート:F 35
パワー:G 20
走力:F 31
肩力:G 27
守備力:F 35
捕球:G 34
【投手能力】
球速:74km/h
コントロール:F 40
スタミナ:G 18
変化球:なし
【特殊能力】
なし
――――――――――――――――――
(……まだまだだな)
数値だけ見れば、非常に低い。
しかし、これでも小学一年生としては相当な能力だ。
特にミートとコントロール。
この二つは、同年代の選手と比較すれば圧倒的と言っていいだろう。
だが、俺が目指しているのは、ここではない。
高校生になったときには、すでにプロ並みの能力を身につけていたい。
そして、プロ入りする頃には、投打ともに日本最高峰。
メジャーリーグへ渡る頃には、世界最高。
最終的にはオールS。
金特殊能力も大量に取得する。
誰もが認める、史上最強の二刀流選手になるのだ。
俺は少し考えてから、能力アップ画面を閉じた。
今は経験点を温存しておこう。
身体の成長制限がある以上、無理に使う必要はない。
それよりも、今後解放される特殊能力や新機能に備えた方がいいだろう。
そして、そのとき。
『ピロン♪』
新しい通知が表示された。
――――――――――――――――――
【育成目標更新】
『市内低学年大会優勝』
現在の進行状況:
二回戦突破
次戦:準決勝
【達成報酬】
筋力ポイント+300
敏捷ポイント+300
技術ポイント+300
精神ポイント+300
【特別報酬】
特殊能力取得補助機能
【追加目標】
『大会MVP』
大会を通じて特に優秀な成績を残す。
【追加報酬】
特殊能力コツ獲得
――――――――――――――――――
(……大会MVP?)
俺は思わず画面を見直した。
大会優勝だけでなく、MVPまで目標になっている。
しかも、報酬は特殊能力のコツ。
パワプロでいうところの、特殊能力の取得経験点を軽減する要素だろう。
これはぜひとも手に入れたい。
ただし、少し気になることがあった。
大会MVPというのは、実際に大会で表彰されるものなのだろうか。
それとも、システムが独自に評価するものなのか。
説明欄を確認すると、後者らしい。
公式の表彰がなくても、システムが大会全体の成績を評価して判定するようだ。
(なるほどね)
それなら、なおさら狙いやすい。
実際の大会では、MVPという賞自体が存在しないこともあるからだ。
俺は画面を閉じた。
次は準決勝。
そして、決勝。
あと二勝すれば優勝だ。
(……絶対に勝つぞ)
俺は小さく拳を握った。
少年野球の全国大会に出場するには、まだまだ多くの試合を勝ち抜く必要がある。
今回の大会は、その第一歩にすぎない。
しかし、どんな大記録も、最初は小さな一歩から始まるものだ。
俺の野球人生も同じ。
一試合ずつ勝つ。
一つずつ能力を伸ばす。
そして、少しずつ頂点へ近づいていく。
焦る必要はない。
俺には時間がある。
そして、成長するための手段もあるのだから。
◇ ◇ ◇
一方、その頃。
市内の別の少年野球チームの監督たちの間で、ある話題が広まり始めていた。
「桜台に凄い一年生がいるらしいな」
「ああ、聞いたよ。北央から三安打打った子だろ?」
「それだけじゃない。投手としても相当らしいぞ」
「一年生が?」
「そうなんだよ」
最初は半信半疑だった。
小学一年生が四年生中心の大会で活躍する。
そんなことは滅多にない。
ましてや、投手と野手の両方で主力級の働きをするなど、普通なら考えられなかった。
だが、実際に試合を見た者たちは口を揃えて言った。
あの子は凄い。
身体は小さい。
球速も特別速いわけではない。
打球の飛距離も、四年生の強打者には及ばない。
しかし、野球が上手い。
それも、異常なほどに。
打席ではボールを見極め、狙った球を正確に捉える。
守備では打球を素早く判断し、無駄のない動きでアウトを取る。
投手としては、コースを丁寧に投げ分け、打者の反応を見ながら投球する。
小学一年生とは思えない完成度だった。
「……名前は?」
「朝倉悠真」
「朝倉、か」
その名前は、まだ市内の少年野球関係者の間でしか知られていない。
しかし、確実に広まり始めていた。
そして、その噂を聞いた一人の男が、次の準決勝を観戦することを決めた。
彼は市内の少年野球チームを長年見てきた指導者であり、数多くの有望選手を知っていた。
そんな彼ですら、朝倉悠真という少年の話には興味を惹かれていた。
「一年生の二刀流、ねえ……」
男は小さく笑った。
「どんな子か、見せてもらおうじゃないか」
まだ六歳。
野球人生は始まったばかり。
しかし、その小さな才能は、少しずつ周囲の注目を集め始めていた。
もちろん、本人はそんなことなど知らない。
ただひたすらに、野球を楽しみながら成長を続けているだけだった。
いずれ世界中の野球ファンを熱狂させることになる、史上最強の二刀流選手。
その伝説は、まだほんの序章にすぎなかった。
――――――――――
第七話 完
次回 第八話「準決勝、天才同士の対決」
市内低学年大会の準決勝。
桜台フェニックスの相手は、優勝候補の一角を占める強豪チーム。
そこには、四年生ながら全国レベルの実力を持つと評判の天才投手がいた。
初めて対戦する同世代の本格派投手を前に、悠真は自らの実力を試す絶好の機会だと胸を躍らせる。
そして、育成システムには新たな特殊能力取得の条件が表示されるのだった。