転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある   作:1番道路

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第八話 準決勝、天才同士の対決

 野球において、投手の存在は非常に大きい。

 

 どれほど打撃力のあるチームでも、相手投手を打ち崩せなければ得点できない。

 

 反対に、優秀な投手が一人いれば、多少打撃力に劣るチームでも勝ち進めることがある。

 

 特に少年野球では、その傾向が強い。

 

 球速、コントロール、身体能力。

 

 成長段階に大きな差がある小学生では、優秀な投手の存在が試合結果を左右することも珍しくない。

 

 そして現在。

 

 俺たち桜台フェニックスは、市内低学年大会の準決勝を控えていた。

 

「みんな、集合!」

 

 田島監督の声がグラウンドに響く。

 

 俺たちは練習を中断し、監督の前に集まった。

 

「次の相手が決まったぞ」

 

 監督がそう言うと、チームメイトたちが顔を見合わせた。

 

「南城タイガースだ」

 

 その名前を聞いた瞬間、四年生の先輩たちの表情が変わった。

 

「南城か……」

 

「今年も強いんだよな」

 

「エースが凄いって聞いたぞ」

 

 どうやら、かなり有名なチームらしい。

 

 俺は隣にいた大地に尋ねた。

 

「大地、南城って強いの?」

 

「めちゃくちゃ強いぞ! 去年も大会で優勝してるんだ!」

 

「へえ」

 

「しかも、凄いピッチャーがいるんだって!」

 

 なるほど。

 

 優勝候補というわけか。

 

 俺は少し興味を惹かれた。

 

 ここまで対戦した北央ジュニアスターズも、西ヶ丘イーグルスも、なかなかの強豪だった。

 

 特に北央のエース、黒田先輩は小学四年生として十分な実力を持っていたと思う。

 

 しかし、今回の相手はさらに上らしい。

 

「南城には、佐伯蓮という四年生の投手がいる」

 

 田島監督が説明を始めた。

 

「右投げで、球速は九十キロ台半ば。コントロールもいい。市内ではトップクラスの投手だ」

 

「九十五キロ!?」

 

 大地が驚いた声を上げた。

 

 周囲の子供たちもざわつく。

 

 確かに、小学四年生で九十五キロというのは速い。

 

 しかも、コントロールもいいとなれば、簡単には打てないだろう。

 

 もっとも。

 

(……面白そうだな)

 

 俺は自然と笑みを浮かべていた。

 

 速い投手との対戦は大歓迎だ。

 

 前世では高校野球まで経験しているので、九十五キロという球速そのものに驚きはない。

 

 だが、今の俺は六歳。

 

 身体能力は前世とは比較にならない。

 

 バットの重さも、スイングスピードも、反応できる範囲も違う。

 

 前世で打てた球だからといって、今世でも簡単に打てるとは限らない。

 

 だからこそ、試してみたい。

 

 育成システムによって身につけた技術が、どこまで通用するのか。

 

 その絶好の機会だった。

 

「朝倉」

 

「はい!」

 

 田島監督が俺を見た。

 

「お前には今回も三番を任せる」

 

「はい!」

 

「相手はかなり速い球を投げる。無理に大きな当たりを狙わなくていい。自分のできる打撃をしてくれ」

 

「分かりました!」

 

 俺は元気よく返事をした。

 

 もちろん、そのつもりだ。

 

 現在の俺はミートF35、パワーG20。

 

 打球を正確に捉える能力は高いが、長打力はまだまだ不足している。

 

 だからこそ、今は確実にヒットを打つことが重要だ。

 

 ホームランを量産するのは、もう少し身体が成長してからでいい。

 

 そう考えていると、突然、聞き慣れた電子音が響いた。

 

『ピロン♪』

 

(ん?)

 

 視界の隅に通知が表示される。

 

――――――――――――――――――

 

【育成イベント発生】

 

『強敵との対決』

 

 対戦予定選手:

 

 佐伯蓮

 

 小学四年生

 

 右投右打

 

 ポジション:投手

 

【イベント目標】

 

・佐伯蓮から安打を記録する

 

・佐伯蓮との対戦で優秀な打撃評価を獲得する

 

【達成報酬】

 

 技術ポイント+150

 

 精神ポイント+100

 

【特別報酬】

 

 特殊能力『対エース○』取得のコツ

 

――――――――――――――――――

 

(おおっ!)

 

 ついに特殊能力のコツが登場した。

 

 対エース○。

 

 パワプロでは、エース級の投手との対戦時に打撃能力が上昇する特殊能力だ。

 

 これを取得できれば、将来的にも大きな武器になる。

 

 しかも、今回はコツの取得だけでなく、経験点まで貰えるらしい。

 

(これは絶対に達成したいな)

 

 俺は内心で気合いを入れた。

 

 準決勝。

 

 相手は強豪。

 

 そして、評判の天才投手。

 

 これほど楽しみな試合も、なかなかないだろう。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 試合当日。

 

 市内の少年野球場には、朝から多くの選手や保護者が集まっていた。

 

 準決勝ともなれば、さすがに観客も増えるらしい。

 

 グラウンドの外では、保護者たちが簡易椅子を並べ、試合開始を待っている。

 

 俺の父さんと母さんも応援に来ていた。

 

「悠真ー!」

 

 母さんが手を振る。

 

 俺も手を振り返した。

 

「頑張ってね!」

 

「うん!」

 

 父さんはというと、なぜか俺より緊張しているようだった。

 

「大丈夫かな……相手、かなり強いらしいけど」

 

「あなたが緊張してどうするのよ」

 

「いや、だって準決勝だぞ?」

 

「悠真は楽しそうにしてるじゃない」

 

「……確かに」

 

 そんな両親の会話が聞こえてくる。

 

 俺は思わず苦笑した。

 

 まあ、心配してくれるのはありがたい。

 

 ただ、俺自身は緊張よりも期待の方が大きかった。

 

「悠真!」

 

 背後から大地が声をかけてきた。

 

「相手のピッチャー、もう投げてるぞ!」

 

「本当?」

 

「ああ! すっげえ速い!」

 

 俺は相手チームの練習場所へ視線を向けた。

 

 そこには、一人の少年がいた。

 

 背番号一。

 

 南城タイガースのエース、佐伯蓮。

 

 身長は俺より頭二つほど高い。

 

 小学四年生としては、やや大柄な部類だろう。

 

 佐伯先輩は捕手に向かって投球練習をしていた。

 

 振りかぶる。

 

 左足を上げる。

 

 体重移動。

 

 そして、右腕を振り抜いた。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

(……おお)

 

 確かに速い。

 

 しかも、フォームが綺麗だ。

 

 下半身をしっかり使えている。

 

 腕の振りも自然で、無駄な力みが少ない。

 

 なるほど。

 

 これはいい投手だ。

 

 前世の経験から見ても、小学四年生としてはかなり完成度が高い。

 

「な? 速いだろ?」

 

 大地が得意げに言った。

 

 いや、お前が投げているわけじゃないだろう。

 

 そう思ったが、口には出さなかった。

 

「うん。いいピッチャーだね」

 

「悠真、打てそうか?」

 

「打ってみないと分からないけど……」

 

 俺は佐伯先輩のフォームを見つめた。

 

 球の出どころ。

 

 腕の振り。

 

 リリースポイント。

 

 全てを観察する。

 

「打ちたいな」

 

 そう答えると、大地は呆れたように笑った。

 

「お前、やっぱりすげえよ」

 

     ◇ ◇ ◇

 

「それでは、両チーム整列!」

 

 審判の声が響いた。

 

 俺たちはグラウンド中央に並ぶ。

 

「よろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

 挨拶を終え、ベンチへ戻る。

 

 先攻は桜台フェニックス。

 

 そして、俺は今回も三番ショートだった。

 

「プレイ!」

 

 審判が試合開始を宣言する。

 

 南城のマウンドには、もちろん佐伯蓮。

 

 彼は落ち着いた様子でボールを受け取り、投球動作に入った。

 

 先頭打者は高橋先輩。

 

 初球。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

「ストライク!」

 

(……速いな)

 

 ベンチから見ても、なかなかの球威だ。

 

 高橋先輩は少し驚いた様子だった。

 

 二球目。

 

 今度は外角低め。

 

「ストライクツー!」

 

 三球目。

 

 高めのストレート。

 

 ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 三球三振。

 

 見事な立ち上がりだった。

 

「ナイスボール!」

 

「いいぞ蓮!」

 

 南城のベンチが盛り上がる。

 

 続く二番打者も、四球目を打ち上げてセカンドフライ。

 

 二死走者なし。

 

 そして、俺の打席が回ってきた。

 

「三番、ショート、朝倉君」

 

「はい!」

 

 俺はバットを持って打席へ向かった。

 

 すると、相手ベンチから小さな声が聞こえた。

 

「あいつが例の一年生か?」

 

「北央から三安打打ったらしいぞ」

 

「一年生で三番って、本当なんだな」

 

 ……またか。

 

 どうやら、俺の噂はかなり広まっているらしい。

 

 まあ、別に構わない。

 

 俺はバッターボックスに入った。

 

 そして、マウンド上の佐伯先輩を見つめる。

 

 佐伯先輩も俺を見た。

 

 一瞬、目が合う。

 

 向こうは特に驚いた様子もなかった。

 

 ただ、少しだけ口元を緩めた。

 

「一年生なんだって?」

 

「はい!」

 

「へえ。凄いな」

 

「ありがとうございます!」

 

「でも、手加減はしないぞ」

 

「お願いします!」

 

 俺がそう答えると、佐伯先輩は笑った。

 

「いいね」

 

 どうやら、気持ちのいい選手らしい。

 

 俺も自然と笑顔になった。

 

 さて。

 

 ここからが勝負だ。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 初球。

 

 佐伯先輩が振りかぶった。

 

 左足を上げ、身体を回転させる。

 

 そして、腕を振り抜く。

 

 シュッ!

 

(……速い!)

 

 ボールが外角低めへ飛んできた。

 

 俺は見送る。

 

 ぱしんっ!

 

「ストライク!」

 

 なるほど。

 

 想像以上にいい球だ。

 

 球速そのものは九十キロ台半ば。

 

 しかし、腕の振りがいいので、実際の数字以上に速く感じる。

 

 しかも、低めに制球されている。

 

(これは簡単じゃないな)

 

 俺はバットを構え直した。

 

 二球目。

 

 佐伯先輩が投げる。

 

 今度は内角高め。

 

 シュッ!

 

 俺は身体を少し引いた。

 

「ボール!」

 

 ワンボール、ワンストライク。

 

 三球目。

 

 外角へのストレート。

 

 今度はストライクゾーンに入っている。

 

(……振る!)

 

 俺はバットを出した。

 

 カンッ!

 

 打球は一塁側へ飛ぶ。

 

「ファウル!」

 

 タイミングが少し遅れた。

 

 やはり、今の身体では九十五キロ前後のストレートに対応するのは簡単ではない。

 

 前世なら余裕を持って打てた球速だ。

 

 しかし、六歳の身体では話が違う。

 

 スイングスピードが足りない。

 

 だからこそ、早めに始動する必要がある。

 

(……なるほどな)

 

 俺は少し考えた。

 

 今の俺にはミートF35という能力がある。

 

 六歳としては相当に高い数値だ。

 

 だが、それでも万能ではない。

 

 速い球に対しては、身体能力の限界が存在する。

 

 ならば、技術で補うしかない。

 

 四球目。

 

 佐伯先輩が投げる。

 

 今度は外角低め。

 

 しかし、少し外れている。

 

 俺は見送った。

 

「ボールツー!」

 

 ツーボール、ツーストライク。

 

 追い込まれている。

 

 だが、焦る必要はない。

 

 相手の球筋は少しずつ見えてきた。

 

 問題は、タイミングだけだ。

 

(……次は合わせる)

 

 俺はバットを少し短く持った。

 

 無理に強く振る必要はない。

 

 今の俺が狙うべきなのは、確実なミート。

 

 そして、五球目。

 

 佐伯先輩が投げた。

 

 真ん中やや外寄り。

 

(来た!)

 

 俺はいつもより早く始動した。

 

 左足を踏み込む。

 

 腰を回す。

 

 そして、バットを振り抜く。

 

 カキィンッ!

 

 乾いた音が響いた。

 

 打球は鋭くセンター方向へ飛んだ。

 

「センター!」

 

 相手の中堅手が前進する。

 

 だが、打球はその手前に落ちた。

 

 センター前ヒット!

 

「よし!」

 

 俺は一塁へ走った。

 

 送球が戻ってきたときには、すでに一塁ベースを踏んでいた。

 

 公式戦三試合連続安打。

 

 しかも、相手は評判の天才投手。

 

(……やったな!)

 

 俺は小さく拳を握った。

 

 その瞬間。

 

『ピロン♪』

 

――――――――――――――――――

 

【育成イベント達成!】

 

『強敵との対決』

 

 佐伯蓮から安打を記録しました。

 

【報酬】

 

 技術ポイント+150

 

 精神ポイント+100

 

【特別報酬】

 

 特殊能力『対エース○』のコツを獲得しました。

 

【コツレベル】

 

 Lv.1

 

――――――――――――――――――

 

(よっしゃあ!)

 

 ついに特殊能力のコツを手に入れた。

 

 しかも、経験点まで大量に獲得している。

 

 やはり、強敵との対戦は美味しい。

 

 ……いや、今は試合中だった。

 

 俺は気持ちを切り替えた。

 

 続く四番打者、松本先輩が打席に入る。

 

 しかし、佐伯先輩は落ち着いていた。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

「ストライクツー!」

 

 三球目。

 

 外角への速球。

 

 ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 三球三振。

 

 チェンジ。

 

 一回表は無得点に終わった。

 

(……やっぱり凄いな)

 

 俺はベンチへ戻りながら、佐伯先輩を見つめた。

 

 自分がヒットを打ったからといって、簡単に攻略できる相手ではない。

 

 むしろ、あの投手から安定して得点するのはかなり難しいだろう。

 

 俺一人がヒットを打っても、後続が続かなければ点は入らない。

 

 野球というのは、そういうスポーツだ。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 一回裏。

 

 南城タイガースの攻撃。

 

 俺はショートの守備位置についた。

 

 桜台の先発投手は、今回も藤原先輩。

 

 四年生の右腕だ。

 

 しかし、相手の打線はこれまでのチームより一段上だった。

 

 先頭打者がセンター前ヒット。

 

 二番打者が送りバント。

 

 一死二塁。

 

 そして三番打者。

 

 初球を叩いた打球が、三遊間へ飛んできた。

 

(来た!)

 

 俺は素早く反応した。

 

 左方向へ移動する。

 

 グローブを地面に近づける。

 

 ぱしっ!

 

 捕球成功。

 

 だが、二塁走者は三塁へ進んでいた。

 

 俺は無理に三塁へ投げず、一塁へ送球する。

 

「アウト!」

 

 二死三塁。

 

 そして、四番打者。

 

 打席に入ったのは、先ほど俺がヒットを打った佐伯先輩だった。

 

(……投手で四番か)

 

 なるほど。

 

 向こうも二刀流というわけだ。

 

 もちろん、少年野球では投手が主軸打者を兼ねることは珍しくない。

 

 しかし、佐伯先輩の場合は本当に打撃も良さそうだった。

 

 初球。

 

 藤原先輩のストレート。

 

 カキィンッ!

 

 鋭い打球が飛んだ。

 

 俺の右側。

 

(……速い!)

 

 グローブを伸ばす。

 

 だが、届かない。

 

 打球はセンター前へ抜けていった。

 

「セーフ!」

 

 三塁走者がホームイン。

 

 南城が先制した。

 

 桜台〇対一南城。

 

(……やるな)

 

 俺は佐伯先輩を見つめた。

 

 投手としてだけでなく、打者としても優秀らしい。

 

 これは面白い。

 

 同じ二刀流を目指す俺にとって、いい刺激になる相手だった。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 三回表。

 

 試合は一対〇のまま進んでいた。

 

 佐伯先輩は相変わらず好投を続けている。

 

 ここまで桜台の安打は、俺の一本だけ。

 

 他の打者は完全に抑え込まれていた。

 

「……強いな」

 

 ベンチで松本先輩が呟いた。

 

 主将で四番打者の松本先輩ですら、佐伯先輩の速球に苦戦している。

 

 それほど完成度の高い投手なのだ。

 

 しかし、三回表。

 

 ようやくチャンスが訪れた。

 

 先頭の九番打者が四球で出塁。

 

 続く一番、高橋先輩が送りバントを成功させる。

 

 一死二塁。

 

 二番打者は三振。

 

 二死二塁。

 

 そして、俺の第二打席が回ってきた。

 

「三番、ショート、朝倉君」

 

 俺はバットを持って打席へ向かった。

 

 マウンド上の佐伯先輩が、少し笑った。

 

「またお前か」

 

「よろしくお願いします!」

 

「ああ。今度は打たせないぞ」

 

「頑張ります!」

 

 俺も笑って答えた。

 

 さて。

 

 ここが勝負どころだ。

 

 二死二塁。

 

 一点ビハインド。

 

 ヒット一本で同点に追いつける可能性がある。

 

 しかも、相手は大会屈指の好投手。

 

 経験点の面でも、試合の流れという意味でも、絶好の場面だった。

 

 俺はバットを構えた。

 

 佐伯先輩が投げる。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 見逃し。

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

 シュッ!

 

 俺はバットを出した。

 

 カンッ!

 

 ファウル。

 

 ツーストライク。

 

(……やっぱり速いな)

 

 佐伯先輩の球は、初回よりさらに速く感じられた。

 

 おそらく、少し力を込めて投げているのだろう。

 

 しかし、そのぶん制球が甘くなる可能性もある。

 

 俺は相手のフォームを観察した。

 

 三球目。

 

 外角低め。

 

 ボール。

 

 四球目。

 

 内角。

 

 ファウル。

 

 五球目。

 

 外角高め。

 

 ボール。

 

 ツーボール、ツーストライク。

 

 粘る。

 

 とにかく粘る。

 

 今の俺には、九十キロ台半ばの速球を簡単に長打にする力はない。

 

 ならば、狙い球を絞るしかない。

 

 そして、六球目。

 

 佐伯先輩が投げた。

 

 真ん中やや低め。

 

(……甘い!)

 

 俺は迷わず踏み込んだ。

 

 腰を回す。

 

 腕を振る。

 

 バットがボールを捉えた。

 

 カキィンッ!

 

 打球は鋭く一、二塁間へ飛んだ。

 

「ライト!」

 

 相手の二塁手が横っ飛びする。

 

 だが、届かない。

 

 打球はライト前へ抜けていった。

 

「回れ!」

 

 三塁コーチが腕を回す。

 

 二塁走者が三塁を蹴った。

 

 ライトがボールを拾い、ホームへ送球。

 

 しかし、間に合わない。

 

「セーフ!」

 

 同点!

 

 桜台一対一南城。

 

「よっしゃあああ!」

 

 ベンチから大歓声が上がった。

 

 俺は一塁ベース上で小さく拳を握った。

 

(よし!)

 

 同点タイムリー。

 

 しかも、佐伯先輩から二打席連続安打。

 

 これ以上ない結果だった。

 

『ピロン♪』

 

――――――――――――――――――

 

【強敵対戦評価】

 

 佐伯蓮から二打席連続安打を記録しました。

 

【報酬】

 

 技術ポイント+40

 

 精神ポイント+30

 

【特殊能力コツ】

 

『対エース○』

 

 Lv.1 → Lv.2

 

――――――――――――――――――

 

(おおっ!)

 

 コツレベルが上がった。

 

 なるほど。

 

 同じ強敵から何度も結果を残せば、コツが成長する場合もあるらしい。

 

 これはかなり重要な発見だ。

 

 今後は強い相手との対戦を積極的に増やした方がよさそうだな。

 

 もっとも、今は試合中。

 

 まずは勝利を目指そう。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 四回裏。

 

 試合は一対一。

 

 まさに互角の展開だった。

 

 だが、ここで南城タイガースが動いた。

 

 先頭打者がヒットで出塁。

 

 続く打者が四球。

 

 無死一、二塁。

 

 さらに送りバントで一死二、三塁。

 

 大ピンチだった。

 

「タイム!」

 

 田島監督がマウンドへ向かった。

 

 俺もショートから集まる。

 

「藤原、ここまでよく投げた」

 

「……はい」

 

 藤原先輩は少し悔しそうだった。

 

 だが、球数も増えている。

 

 ここで交代するのは妥当な判断だろう。

 

 監督は俺を見た。

 

「朝倉」

 

「はい!」

 

「いけるか?」

 

 来た。

 

 やはり、ここで俺の出番らしい。

 

「はい!」

 

「相手は南城だ。これまでより打撃がいい。無理に三振を狙わなくていいぞ」

 

「分かりました!」

 

「球数は二十球程度を目安にする。長引くようなら交代だ」

 

「はい!」

 

 俺は頷いた。

 

 そして、マウンドへ向かった。

 

 今の状況は一死二、三塁。

 

 同点。

 

 次の打者は南城の三番。

 

 そして、その次には四番の佐伯先輩が控えている。

 

(……面白いじゃないか)

 

 ここを抑えれば、試合の流れを引き寄せられる。

 

 俺はボールを受け取った。

 

 そして、捕手の中村先輩を見つめた。

 

「朝倉、落ち着いていこう!」

 

「はい!」

 

 初球。

 

 外角低め。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

「ストライク!」

 

 よし。

 

 まずはストライク。

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

 打者が振る。

 

 カンッ!

 

 ファウル。

 

 追い込んだ。

 

 三球目。

 

 外角低め。

 

 シュッ!

 

 打者がバットを出す。

 

 カキンッ!

 

 打球はセカンド方向へ。

 

(……まずい!)

 

 大地が捕球した。

 

 だが、三塁走者がスタートを切る。

 

 大地はすぐにホームへ送球しようとしたが、俺は叫んだ。

 

「一塁!」

 

 間に合わないと判断したからだ。

 

 大地は一塁へ送球した。

 

「アウト!」

 

 二死三塁。

 

 しかし、その間に三塁走者がホームイン。

 

 南城が勝ち越した。

 

 桜台一対二南城。

 

(……仕方ないな)

 

 打たせて取る投球には、こういうこともある。

 

 今の状況では、三振を取れなかった時点で失点の可能性が高かった。

 

 だが、まだ一点差。

 

 十分に逆転できる。

 

 そして、次の打者。

 

 四番、佐伯蓮。

 

 俺と同じく、投手と主軸打者を兼ねる少年だった。

 

「……今度はピッチャーか」

 

 佐伯先輩が笑った。

 

「はい!」

 

「面白いな、お前」

 

「ありがとうございます!」

 

「でも、打たせてもらうぞ」

 

「抑えます!」

 

 俺も笑って答えた。

 

 正直、楽しくて仕方がなかった。

 

 投手としても打者としても、同じ相手と勝負できる。

 

 これこそ、二刀流の醍醐味だろう。

 

 俺はセットポジションに入った。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 佐伯先輩は見送った。

 

 二球目。

 

 内角。

 

 カンッ!

 

 ファウル。

 

 ツーストライク。

 

 追い込んだ。

 

 だが、ここからが難しい。

 

 佐伯先輩は優秀な打者だ。

 

 単純なストレートだけでは、簡単に空振りしてくれないだろう。

 

(……どうする?)

 

 俺は少し考えた。

 

 変化球はまだ覚えていない。

 

 球速も七十四キロ。

 

 相手の九十五キロには遠く及ばない。

 

 ならば、コントロールで勝負するしかない。

 

 三球目。

 

 外角高め。

 

 シュッ!

 

 佐伯先輩がバットを振る。

 

 カキンッ!

 

 ファウル。

 

 四球目。

 

 内角低め。

 

 今度は見送られた。

 

「ボール!」

 

 ワンボール、ツーストライク。

 

 そして五球目。

 

 俺は外角低めを狙った。

 

 腕を振る。

 

 シュッ!

 

 佐伯先輩が踏み込む。

 

 バットが出る。

 

 カキィンッ!

 

(……しまった!)

 

 いい当たりだった。

 

 打球は一、二塁間へ飛んだ。

 

 二塁手の大地が横っ飛びする。

 

 しかし、届かない。

 

 ライト前ヒット。

 

「ナイスバッティング!」

 

 南城のベンチが盛り上がる。

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

(……やられたな)

 

 外角低めを狙った球だったが、少し甘く入った。

 

 それを見逃さずに打たれた。

 

 さすがだ。

 

 小学四年生とは思えない打撃だった。

 

 もっとも、ランナーは一、三塁。

 

 まだ二死。

 

 ここを抑えれば、追加点は防げる。

 

 俺は気持ちを切り替えた。

 

 続く五番打者。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角。

 

 ファウル。

 

 三球目。

 

 外角高め。

 

 ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 三振!

 

 スリーアウト!

 

 チェンジ!

 

(……よし)

 

 何とか切り抜けた。

 

 ただし、一点を失った。

 

 しかも、佐伯先輩にはヒットを打たれている。

 

 完全に抑えたとは言い難い。

 

 だが、悪い経験ではなかった。

 

 むしろ、非常に勉強になった。

 

(……やっぱり強い選手との対戦は面白いな)

 

 俺はマウンドを降りながら、自然と笑みを浮かべていた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 五回表。

 

 桜台フェニックスの最後の攻撃。

 

 スコアは一対二。

 

 一点ビハインド。

 

 しかも、相手投手は佐伯先輩。

 

 簡単な状況ではなかった。

 

 だが、諦めるつもりはない。

 

「みんな、最後まで集中していこう!」

 

 田島監督が声をかけた。

 

「はい!」

 

 先頭打者は八番。

 

 初球を打ち上げ、セカンドフライ。

 

 一死。

 

 続く九番打者。

 

 粘った末に四球を選んだ。

 

 一死一塁。

 

 そして一番、高橋先輩。

 

 初球はボール。

 

 二球目。

 

 カキンッ!

 

 打球はショート方向へ。

 

 相手の遊撃手が捕球し、二塁へ送球。

 

「アウト!」

 

 さらに一塁へ転送しようとするが、間に合わない。

 

 二死一塁。

 

 そして二番打者。

 

 俺はネクストバッターズサークルでバットを握っていた。

 

(……頼むぞ)

 

 二番打者が打席に入る。

 

 佐伯先輩が投げる。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

「ボール!」

 

 三球目。

 

 真ん中付近。

 

 カキンッ!

 

 打球はライト前へ飛んだ。

 

「抜けた!」

 

 ライト前ヒット!

 

 二死一、二塁。

 

 そして。

 

「三番、ショート、朝倉君」

 

 俺の第三打席が回ってきた。

 

 ベンチから大きな声が飛ぶ。

 

「悠真ー!」

 

「頼むぞ!」

 

「もう一本!」

 

 俺はバットを持って打席に入った。

 

 マウンド上の佐伯先輩が、少し笑った。

 

「またお前か」

 

「また僕です!」

 

「二本も打たれてるからな。今度こそ抑えるぞ」

 

「僕も打ちます!」

 

 佐伯先輩は楽しそうに笑った。

 

「いいね。勝負だ」

 

 俺も笑った。

 

 これ以上ない場面だった。

 

 二死一、二塁。

 

 一点ビハインド。

 

 しかも、五回表の最終回。

 

 一本出れば同点。

 

 長打なら逆転もある。

 

 そして、相手は大会屈指の天才投手。

 

(……最高じゃないか)

 

 俺はバットを構えた。

 

 初球。

 

 佐伯先輩が投げる。

 

 外角低め。

 

 シュッ!

 

(……ストライク!)

 

 俺は踏み込んだ。

 

 だが、少しタイミングが遅れた。

 

 カンッ!

 

 ファウル。

 

 ワンストライク。

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

 今度は見送る。

 

「ボール!」

 

 ワンボール、ワンストライク。

 

 三球目。

 

 外角へのストレート。

 

 俺はバットを出した。

 

 カキンッ!

 

 またファウル。

 

 ワンボール、ツーストライク。

 

 追い込まれた。

 

 だが、焦る必要はない。

 

 ここまで佐伯先輩の球は何度も見ている。

 

 球筋も、フォームも、ある程度理解できていた。

 

 問題は、甘い球が来るかどうかだ。

 

 四球目。

 

 外角低め。

 

 ボール。

 

 五球目。

 

 内角高め。

 

 ファウル。

 

 六球目。

 

 外角。

 

 ボール。

 

 フルカウント。

 

 球場の空気が張り詰めた。

 

 ベンチからの声も、少し遠く感じる。

 

 佐伯先輩がボールを受け取った。

 

 そして、こちらを見つめる。

 

 俺もバットを構え直した。

 

(……来い)

 

 七球目。

 

 佐伯先輩が振りかぶる。

 

 左足を上げる。

 

 体重を移動させる。

 

 腕を振り抜いた。

 

 シュッ!

 

 ボールが飛んでくる。

 

 コースは真ん中やや内寄り。

 

 高さは膝より少し上。

 

(……甘い!)

 

 俺は左足を踏み込んだ。

 

 腰を回す。

 

 そして、全身の力を使ってバットを振り抜いた。

 

 カキィィンッ!!

 

 これまでとは違う、鋭い打球音が響いた。

 

 打球は左中間へ飛んだ。

 

「レフト! センター!」

 

 外野手が追いかける。

 

 しかし、届かない。

 

 打球は二人の間を抜けていった。

 

「走れえええ!」

 

 ベンチから大歓声が上がる。

 

 俺は一塁を蹴った。

 

 二塁へ向かう。

 

 二塁走者が三塁を回る。

 

 レフトがボールを拾い、中継へ返球する。

 

 しかし、送球は少し乱れた。

 

「ホーム!」

 

 三塁コーチが腕を回す。

 

 二塁走者がホームイン。

 

 同点!

 

 さらに一塁走者も三塁を回った。

 

 中継プレー。

 

 ホームへ送球。

 

 捕手がボールを受け取る。

 

 走者が滑り込んだ。

 

「セーフ!」

 

 逆転!!

 

 桜台三対二南城!

 

「うおおおおお!」

 

 ベンチが大騒ぎになった。

 

 俺は二塁ベース上で拳を突き上げた。

 

(よっしゃあああ!)

 

 逆転の二点タイムリーツーベース。

 

 しかも、佐伯先輩から三安打目。

 

 最高の結果だった。

 

『ピロン♪』

 

――――――――――――――――――

 

【育成イベント達成!】

 

『強敵との対決・完全達成』

 

 佐伯蓮から三安打を記録しました。

 

 決勝打を記録しました。

 

【報酬】

 

 筋力ポイント+50

 

 技術ポイント+100

 

 精神ポイント+100

 

【特殊能力コツ】

 

『対エース○』

 

 Lv.2 → Lv.3

 

【追加評価】

 

『勝負強い打撃』

 

 特殊能力『チャンス』のコツを獲得しました。

 

 コツLv.1

 

――――――――――――――――――

 

(……うおおっ!?)

 

 大量の経験点。

 

 しかも、特殊能力のコツが二種類。

 

 最高じゃないか。

 

 だが、まだ試合は終わっていない。

 

 ここから守り切らなければならないのだ。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 五回裏。

 

 俺は再びマウンドに立った。

 

 スコアは三対二。

 

 一点リード。

 

 あと三つアウトを取れば、決勝進出だ。

 

 田島監督からは、球数制限を守ることを条件に続投を許可された。

 

 もっとも、ここまでの投球数はまだ多くない。

 

 身体にも余裕があった。

 

 俺はボールを握った。

 

(……さて、締めるか)

 

 先頭打者は六番。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角。

 

 カンッ!

 

 打球はショートゴロ。

 

 遊撃手が捕球し、一塁へ送球した。

 

「アウト!」

 

 一死。

 

 続く七番打者。

 

 初球はボール。

 

 二球目はストライク。

 

 三球目。

 

 カキンッ!

 

 打球はライト方向へ。

 

 しかし、右翼手が前進して捕球した。

 

「アウト!」

 

 二死。

 

 あと一人。

 

 俺はマウンド上で小さく息を吐いた。

 

 そして、最後の打者と向き合う。

 

 八番打者。

 

 右打ち。

 

 初球。

 

 外角低め。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 

 内角高め。

 

「ボール!」

 

 三球目。

 

 外角。

 

 ファウル。

 

 ワンボール、ツーストライク。

 

 追い込んだ。

 

 そして四球目。

 

 俺は捕手のミットを見つめた。

 

 狙うのは外角低め。

 

 ここまで何度も投げてきたコースだ。

 

 だが、最後まで丁寧に。

 

 俺は腕を振った。

 

 シュッ!

 

 ぱしんっ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 三振!

 

 スリーアウト!

 

 ゲームセット!

 

「やったああああ!」

 

「決勝だあああ!」

 

 桜台フェニックスのベンチが歓声に包まれた。

 

 俺もマウンド上で拳を握った。

 

(……勝った!)

 

 強豪・南城タイガースを撃破。

 

 しかも、逆転勝利。

 

 これで決勝進出だ。

 

 俺は捕手の中村先輩とハイタッチした。

 

「ナイスピッチング!」

 

「ありがとうございます!」

 

「いやー、最後は緊張したぞ!」

 

「僕もです!」

 

 ……まあ、実際にはそこまで緊張していなかったのだが。

 

 それでも、嬉しいことに変わりはない。

 

 そして、整列を終えた後。

 

「朝倉」

 

 佐伯先輩が俺に声をかけてきた。

 

「はい?」

 

「お前、凄いな」

 

「ありがとうございます!」

 

「まさか一年生に三本も打たれるとは思わなかった」

 

 佐伯先輩は苦笑した。

 

 だが、その表情はどこか楽しそうだった。

 

「次は絶対に抑えるからな」

 

「僕もまた打ちます!」

 

「ははっ! 言うじゃん!」

 

 佐伯先輩は笑った。

 

「また試合しようぜ」

 

「はい!」

 

 俺たちは握手を交わした。

 

 いい選手だった。

 

 投手としても、打者としても。

 

 そして何より、野球を楽しんでいる。

 

 こういう相手とは、何度でも戦いたいものだ。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 その日の夜。

 

 俺は育成システムを開いた。

 

――――――――――――――――――

 

【公式戦結果】

 

 桜台フェニックス 3

 

 南城タイガース 2

 

 勝利!

 

【朝倉悠真】

 

〈打撃成績〉

 

 3打数3安打

 

 二塁打:1

 

 打点:3

 

 得点:0

 

〈投手成績〉

 

 投球回:1回2/3

 

 被安打:1

 

 奪三振:2

 

 与四球:0

 

 失点:0

 

 自責点:0

 

 継承走者の生還:1

 

〈守備成績〉

 

 守備機会:2

 

 失策:0

 

【総合評価】

 

 S

 

【獲得経験点】

 

 筋力:120

 

 敏捷:75

 

 技術:230

 

 精神:210

 

【イベント・特別報酬】

 

 筋力:50

 

 技術:290

 

 精神:230

 

【合計獲得経験点】

 

 1205ポイント

 

――――――――――――――――――

 

(……千二百!?)

 

 思わず目を見開いた。

 

 今回も凄まじい経験点だった。

 

 特に技術と精神が大きい。

 

 やはり、強敵相手に活躍すると報酬が増えるらしい。

 

 しかも、特殊能力のコツまで獲得している。

 

 俺は特殊能力画面を開いた。

 

――――――――――――――――――

 

【特殊能力取得】

 

『対エース○』

 

 コツLv.3

 

 取得経験点軽減:30%

 

 取得可能条件:達成済み

 

『チャンスD → チャンスC』

 

 コツLv.1

 

 取得経験点軽減:10%

 

 取得可能条件:達成済み

 

――――――――――――――――――

 

(……なるほど)

 

 対エース○は、すでに取得可能になっていた。

 

 しかも、コツレベル三のおかげで必要経験点が三割も軽減されている。

 

 これは大きい。

 

 俺は少し考えた。

 

 特殊能力を取得するには、経験点が必要だ。

 

 だが、今回のようにコツを獲得すれば、かなり節約できる。

 

 ならば、できるだけコツレベルを上げてから取得した方が効率的だろう。

 

 もっとも、目の前には決勝戦が控えている。

 

 ここで能力を強化しておくのも悪くない。

 

(……どうするかな)

 

 しばらく考えた末、俺は対エース○の取得を見送ることにした。

 

 今後も強豪投手との対戦は増えるはずだ。

 

 そのたびにコツレベルが上がる可能性がある。

 

 ならば、急ぐ必要はない。

 

 それに、現時点ではミート能力だけでも十分に通用している。

 

 俺は画面を閉じた。

 

 そして、新しく更新された育成目標を確認する。

 

――――――――――――――――――

 

【育成目標更新】

 

『市内低学年大会優勝』

 

 現在の進行状況:

 

 準決勝突破

 

 次戦:決勝

 

【達成報酬】

 

 筋力ポイント+300

 

 敏捷ポイント+300

 

 技術ポイント+300

 

 精神ポイント+300

 

【特別報酬】

 

 特殊能力取得補助機能

 

【追加目標】

 

『大会MVP』

 

 現在の評価:最有力候補

 

――――――――――――――――――

 

(……よし)

 

 決勝まで来た。

 

 あと一勝。

 

 それだけで、大会優勝だ。

 

 しかも、大会MVPも狙える位置にいるらしい。

 

 これは絶対に逃したくない。

 

 ただし、油断は禁物だ。

 

 ここまで勝ち上がってきた相手なら、当然ながら実力は高い。

 

 南城以上の強豪かもしれない。

 

 だが、それでいい。

 

 強い相手と戦うほど、俺は成長できる。

 

 何しろ、俺にはパワプロ育成システムがあるのだから。

 

(……決勝も勝つぞ)

 

 俺は小さく拳を握った。

 

 そして、明日からの練習計画を考えながら眠りについた。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 一方、その頃。

 

 南城タイガースの監督は、今日の試合を振り返っていた。

 

「……朝倉悠真、か」

 

 小学一年生。

 

 右投右打。

 

 桜台フェニックスの三番打者。

 

 今日の試合では三打数三安打。

 

 しかも、全て佐伯蓮から打ったヒットだった。

 

「信じられんな……」

 

 監督は小さく呟いた。

 

 佐伯蓮は、間違いなく市内でもトップクラスの投手だ。

 

 小学四年生で九十五キロ前後の速球を投げ、コントロールもいい。

 

 将来を期待される逸材である。

 

 その佐伯から、小学一年生が三安打。

 

 しかも、最後は逆転の二点タイムリー。

 

 普通なら考えられない。

 

 しかし、実際に起こったことだった。

 

「……あの子、本当に一年生なのか?」

 

 思わずそんなことを考えてしまう。

 

 だが、年齢を偽っているわけでもない。

 

 身体は明らかに六歳児だ。

 

 それなのに、野球の技術だけが異常なほど完成されている。

 

 打撃フォーム。

 

 選球眼。

 

 打球判断。

 

 守備の動き。

 

 そして、投球時の落ち着き。

 

 どれも小学一年生の水準を遥かに超えていた。

 

「……とんでもない子が出てきたな」

 

 監督は苦笑した。

 

 そして、今日の試合で交わした一つの言葉を思い出した。

 

 試合終了後。

 

 佐伯蓮は、悔しそうにしながらも笑っていた。

 

『監督、俺、もっと速い球を投げられるようになりたいです』

 

『どうした?』

 

『あいつに、また打たれたくないんで』

 

 その言葉を聞いたとき、監督は少し嬉しくなった。

 

 佐伯にとっても、今回の敗戦は大きな刺激になったのだろう。

 

 強い相手と戦うことは、選手を成長させる。

 

 勝った側も。

 

 負けた側も。

 

 そして、いつかまた二人が対戦する日が来るかもしれない。

 

 そのとき、どちらが勝つのか。

 

 監督は少し楽しみになっていた。

 

 もちろん、彼はまだ知らない。

 

 今日、自分のチームを破った小学一年生が、将来、世界の野球史を塗り替える存在になることを。

 

 その少年が投手として百七十キロを超える剛速球を投げ、打者として数々の大記録を打ち立てることを。

 

 そして、今日の敗戦を経験した佐伯蓮もまた、将来の野球界で重要な存在になっていくことを。

 

 彼らの野球人生は、まだ始まったばかりだった。

 

 そして、桜台フェニックスは決勝戦へ進む。

 

 朝倉悠真にとって、転生後初めての大会優勝が、目前に迫っていた。

 

――――――――――

 

第八話 完

 

次回 第九話「決勝戦、初めての栄冠」

 

 市内低学年大会の決勝戦。

 

 相手は圧倒的な打撃力で勝ち上がってきた大会屈指の強豪チーム。

 

 投手としても打者としても成長を続ける悠真は、ついに初めての優勝を懸けた大一番に挑む。

 

 そして大会終了後、育成システムに隠されていた新たな機能が解放されるのだった。

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