転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある 作:1番道路
市内低学年野球大会、決勝戦。
俺たち桜台フェニックスは、ついにここまで勝ち上がってきた。
一回戦では北央ジュニアスターズ。
二回戦では西ヶ丘イーグルス。
準決勝では南城タイガース。
どのチームも決して弱くはなかった。
特に準決勝で対戦した南城のエース、佐伯蓮先輩は凄かった。
小学四年生ながら九十五キロ前後のストレートを投げ、コントロールも優秀。
打者としても四番を任されるほどの実力者だった。
あの人との対戦は、俺にとってもいい経験になったと思う。
そして今日。
俺たちは大会優勝を懸けて、最後の試合に挑もうとしていた。
「悠真! 早く行こうぜ!」
「分かってるって!」
大地に急かされながら、俺はグローブを手に取った。
決勝戦の相手は、東山レッドソックス。
この大会で最も得点力が高いチームだ。
ここまでの三試合で、合計三十点以上を記録しているらしい。
つまり、一試合平均十点以上。
低学年の大会とはいえ、なかなか凄まじい数字である。
「今日の相手、めちゃくちゃ打つらしいぞ!」
「そうみたいだね」
「悠真、今日も投げるのか?」
「どうだろう。監督次第かな」
「投げてくれよ! お前が投げると安心するんだよ!」
大地はそう言って笑った。
……ありがたい話だ。
まだ小学一年生の俺を、そこまで信頼してくれているらしい。
もっとも、俺としては打撃でも貢献したい。
何しろ、目指しているのは史上最強の二刀流選手なのだから。
◇ ◇ ◇
「全員集合!」
田島監督の声が響いた。
俺たちはグラウンド脇に集まる。
「いよいよ決勝戦だ。ここまでよく頑張ったな」
監督は全員の顔を見渡した。
「相手は東山レッドソックス。打撃の強いチームだ。特に上位打線は注意しろ」
「はい!」
「ただし、向こうだって同じ小学生だ。必要以上に怖がることはない。いつもどおりの野球をすればいい」
監督の言葉に、先輩たちが頷く。
「それから、今日は勝っても負けても最後まで全力でやろう。せっかくの決勝戦だ。悔いのない試合にするぞ!」
「はい!」
全員の声が揃った。
いい雰囲気だ。
ここまで勝ち進んできたことで、チーム全体に自信がついているようだった。
「それじゃあ、スタメンを発表する」
監督が手元の用紙を見る。
「一番、センター、高橋!」
「はい!」
「二番、セカンド、佐々木!」
「はい!」
「三番、ショート、朝倉!」
「はい!」
今回も三番ショート。
すっかり定位置になってしまった。
「四番、ファースト、松本!」
「はい!」
「五番、サード、村田!」
その後も順番に名前が呼ばれていく。
先発投手は、これまでと同じく四年生の藤原先輩だった。
俺は基本的にショートとして出場し、必要に応じて登板することになるらしい。
正直、最初から投げたい気持ちもある。
だが、監督の判断は理解できた。
六歳の俺に長いイニングを投げさせるのは、身体への負担が大きい。
今は短い登板を積み重ねる方がいいだろう。
それに、ショートなら守備機会も多い。
経験点を稼ぐという意味でも悪くなかった。
そんなことを考えていると、突然電子音が響いた。
『ピロン♪』
いつものシステム通知だ。
――――――――――――――――――
【育成イベント発生】
『初めての決勝戦』
大会:市内低学年野球大会
対戦相手:東山レッドソックス
対戦相手評価:A
【特別目標】
・決勝戦に出場する
・打撃で勝利に貢献する
・投球または守備で勝利に貢献する
・大会優勝
【特別報酬】
大量の経験点
特殊能力取得補助機能
大会MVP評価
――――――――――――――――――
(……相手評価Aか)
これまでで最も高い評価だった。
南城タイガースですらB評価だったことを考えると、かなりの強豪なのだろう。
しかし、相手が強ければ強いほど経験点も多くなる。
これは楽しみだ。
(よし。絶対に勝つぞ)
俺はグローブを握り直した。
◇ ◇ ◇
「両チーム、整列!」
審判の声が響いた。
グラウンド中央に両チームが並ぶ。
向かい側には赤いユニフォームを着た東山レッドソックスの選手たち。
さすがに決勝まで勝ち上がってきただけあって、体格のいい選手が多かった。
特に目を引いたのは、背番号十の少年だ。
四年生の主将らしく、他の選手より一回り大きい。
おそらく、チームの中心選手なのだろう。
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
挨拶を終え、俺たちはベンチへ戻った。
先攻は東山レッドソックス。
つまり、俺たちは後攻だ。
「プレイ!」
審判の声とともに、決勝戦が始まった。
初回。
東山の先頭打者が打席に入る。
藤原先輩が投げた。
初球はストライク。
二球目はボール。
そして三球目。
カキィンッ!
鋭い打球がセンター方向へ飛んだ。
「センター!」
高橋先輩が追いかける。
しかし、打球はその前に落ちた。
センター前ヒット。
(……いきなりか)
続く二番打者。
初球から積極的に振ってきた。
カンッ!
打球は三遊間。
俺は素早く反応した。
左へ移動し、グローブを伸ばす。
ぱしっ!
捕球成功。
そのまま二塁へ送球する。
「アウト!」
大地が二塁ベースを踏んだ。
しかし、一塁への転送は間に合わない。
一死一塁。
(……惜しいな)
併殺にはできなかったが、先頭走者をアウトにできた。
悪くない守備だ。
だが、続く三番打者が厄介だった。
初球。
カキィンッ!
打球はライト線へ。
右翼手が追いかけるが、間に合わない。
長打コース。
一塁走者が三塁を回る。
そして、そのままホームイン。
東山が先制した。
桜台〇対一東山。
「ナイスバッティング!」
相手ベンチが盛り上がる。
さらに、四番打者。
先ほど目を引いた背番号十の少年だ。
名前は神谷翔太。
四年生で、東山の主将兼四番打者。
大会屈指の強打者らしい。
神谷先輩はバットを肩に担ぎ、打席に入った。
藤原先輩の初球。
外角低め。
「ボール!」
二球目。
内角ストレート。
カキィンッ!!
(……っ!)
凄い打球音だった。
打球は左中間へ飛んだ。
高橋先輩とレフトが追いかける。
だが、届かない。
ボールは外野の間を抜け、奥まで転がっていった。
三塁走者がホームイン。
神谷先輩は二塁を蹴り、三塁へ向かう。
「サード!」
中継から送球される。
しかし、間に合わなかった。
「セーフ!」
一死三塁。
スコアは〇対二。
(……なるほど)
これは確かに強い。
神谷先輩の打球は、これまで対戦した四年生の中でも特に強烈だった。
身体の使い方が上手い。
力任せに振っているようで、しっかり下半身を使えている。
あれは簡単には抑えられないだろう。
その後、五番打者の犠牲フライでさらに一点を失った。
初回から三失点。
東山レッドソックスの打撃力は、予想以上だった。
◇ ◇ ◇
「切り替えていこう!」
ベンチに戻ると、田島監督が声をかけた。
「まだ初回だ! 三点くらい取り返せるぞ!」
「はい!」
先輩たちが返事をする。
俺もバットを握った。
初回から三点差。
確かに厳しい展開だ。
だが、まだ十分に逆転できる。
それに、俺たちの打線だって悪くない。
特に最近は、大地や他の選手たちの打撃も少しずつ良くなっている。
ここから反撃すればいいだけだ。
「一番、センター、高橋君」
高橋先輩が打席に入る。
相手の先発投手は右腕の四年生。
名前は石川。
佐伯先輩ほどの球速はなさそうだが、コントロールが安定している。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
カンッ!
打球はセカンド方向。
二塁手が捕球し、一塁へ送球した。
「アウト!」
一死。
続く二番打者もショートゴロ。
二死走者なし。
そして、俺の出番だ。
「三番、ショート、朝倉君」
俺はバットを持って打席へ向かった。
すると、相手ベンチから声が聞こえた。
「あいつが朝倉か」
「例の一年生?」
「気をつけろよ!」
……どうやら、完全に警戒されているらしい。
まあ、ここまで三試合連続で三安打を記録しているのだから当然か。
俺はバッターボックスに入った。
石川先輩がこちらを見る。
そして、捕手のサインに頷いた。
初球。
外角低め。
(……ボール)
俺は見送った。
「ボール!」
二球目。
今度は内角高め。
ストライクゾーンぎりぎり。
俺はバットを出した。
カンッ!
ファウル。
ワンボール、ワンストライク。
三球目。
外角へのストレート。
少し高い。
(……打てる!)
俺は踏み込んだ。
腰を回す。
そして、バットを振り抜いた。
カキィンッ!
打球はセンター方向へ飛んだ。
しかし、相手の中堅手が素早く前進してくる。
(……捕られるか?)
打球が落ちる。
中堅手がグローブを伸ばした。
だが、わずかに届かない。
センター前ヒット!
「よし!」
俺は一塁を駆け抜けた。
決勝戦でも初打席から安打。
順調な滑り出しだ。
しかし、ここで終わるつもりはない。
続く四番、松本先輩。
俺は一塁から少しずつリードを取る。
相手投手がセットポジションに入った。
(……牽制は上手そうだな)
俺は石川先輩の動きを観察した。
視線。
足の動き。
投球までの間。
何球か見るうちに、あることに気づいた。
投球するとき、左肩がわずかに早く動く。
逆に牽制するときは、肩より先に足が動いている。
(……分かりやすいな)
これならスタートを切れそうだ。
俺はタイミングを見計らった。
そして、三球目。
石川先輩の左肩が動いた。
(今だ!)
俺は一気にスタートした。
「走った!」
捕手が立ち上がる。
投球を捕り、二塁へ送球。
しかし、俺はすでにベースへ滑り込んでいた。
「セーフ!」
盗塁成功!
「ナイスラン!」
ベンチから声が上がった。
俺は小さく拳を握る。
ちなみに、これが公式戦初盗塁だった。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【初記録達成】
『公式戦初盗塁』
【報酬】
敏捷ポイント+50
技術ポイント+20
精神ポイント+10
【特殊能力コツ】
『盗塁』Lv.1獲得
――――――――――――――――――
(よし!)
また新しいコツを手に入れた。
やはり、初記録ボーナスは美味しい。
だが、それ以上に大切なのは得点することだ。
俺は二塁から松本先輩を見つめた。
そして、次の投球。
カキンッ!
打球はレフト前へ。
「回れ!」
三塁コーチが腕を回す。
俺は三塁を蹴った。
レフトからホームへ送球。
しかし、間に合わない。
「セーフ!」
桜台、一点を返す!
スコアは一対三。
(……よし!)
まだ二点差。
十分に追いつける。
◇ ◇ ◇
二回表。
東山の攻撃は下位打線からだった。
しかし、打撃力の高いチームという評判は伊達ではなかった。
先頭の六番打者が四球で出塁。
続く七番打者がセンター前ヒット。
無死一、二塁。
さらに八番打者が送りバントを成功させる。
一死二、三塁。
藤原先輩は苦しそうだった。
初回から打ち込まれ、精神的にも余裕がなくなっているのだろう。
「タイム!」
田島監督がマウンドへ向かった。
俺もショートから駆け寄る。
「藤原、どうだ?」
「……まだ投げられます」
藤原先輩は答えた。
だが、監督は首を横に振った。
「無理するな。今日はここまでにしよう」
「……はい」
悔しそうな表情だった。
俺も気持ちは分かる。
決勝戦で先発を任されながら、二回途中で降板する。
投手としては悔しいに決まっている。
しかし、無理をして身体を壊しては意味がない。
監督はベンチを振り返った。
「山本、交代の準備を頼む」
「分かりました」
そして、俺の方を見た。
「朝倉」
「はい!」
「今日はまだ登板させない。お前はショートを頼む」
……あれ?
てっきり俺が呼ばれると思ったのだが。
「分かりました!」
俺は素直に頷いた。
監督にも考えがあるのだろう。
実際、ここまでの大会で俺は毎試合登板している。
いくら球数を制限しているとはいえ、疲労の蓄積は無視できない。
そして、新たにマウンドへ上がったのは四年生の山岸先輩だった。
右投げの投手で、藤原先輩ほど球速はないが、コントロールを重視した投球をするタイプらしい。
山岸先輩は最初の打者をショートゴロに打ち取った。
俺は捕球し、一塁へ送球する。
「アウト!」
その間に三塁走者が生還。
スコアは一対四。
続く打者はセカンドフライ。
何とか二回表を終えた。
だが、三点差に戻されてしまった。
(……厳しいな)
俺はベンチに戻りながら考えた。
相手の打撃力は予想以上だ。
これまで対戦したチームとは明らかに違う。
しかし、まだ二回。
焦る必要はない。
まずは一点ずつ返していこう。
◇ ◇ ◇
三回裏。
スコアは一対四。
俺たちは三点を追いかけていた。
先頭の九番打者が四球で出塁。
続く高橋先輩がセンター前ヒット。
無死一、二塁。
二番打者が送りバントを成功させ、一死二、三塁。
そして、俺の第二打席が回ってきた。
「三番、ショート、朝倉君」
絶好のチャンスだ。
俺はバットを握り直した。
相手投手の石川先輩は、初回より少し疲れているようだった。
球速が落ちているわけではない。
だが、制球が少し甘くなっている。
(……狙えるな)
俺はバッターボックスに入った。
初球。
外角低め。
「ボール!」
二球目。
内角高め。
ストライクゾーンぎりぎり。
俺は見送った。
「ストライク!」
三球目。
真ん中やや外寄り。
(……来た!)
俺は踏み込んだ。
腰を回す。
バットを振り抜く。
カキィンッ!!
鋭い打球が右中間へ飛んだ。
「ライト! センター!」
外野手が追いかける。
しかし、打球は二人の間を抜けた。
「走れ!」
俺は一塁を蹴った。
二塁へ向かう。
三塁走者がホームイン。
二塁走者も三塁を回った。
外野から中継へ返球。
しかし、間に合わない。
「セーフ!」
二者生還!
スコアは三対四。
一点差!
「よっしゃああ!」
ベンチから大歓声が上がった。
俺は二塁ベース上で拳を握った。
(よし!)
二点タイムリーツーベース。
これで一気に一点差だ。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【決勝戦特別評価】
得点圏で適時二塁打を記録
【報酬】
筋力ポイント+30
技術ポイント+60
精神ポイント+50
【特殊能力コツ】
『チャンス』Lv.1 → Lv.2
――――――――――――――――――
(おお!)
またコツレベルが上がった。
どうやら決勝戦での活躍は、通常の試合より評価が高いらしい。
これは嬉しい。
だが、まだ一点差。
ここで追いつきたい。
続く四番、松本先輩。
初球。
カキンッ!
打球はライト前へ。
「回れ!」
三塁コーチが腕を回す。
俺は三塁を蹴った。
ライトからホームへ返球。
しかし、わずかに逸れた。
「セーフ!」
同点!
桜台四対四東山。
「やったあああ!」
ベンチが大騒ぎになった。
俺も思わず笑顔になる。
ようやく追いついた。
ここからが本当の勝負だ。
◇ ◇ ◇
四回表。
同点に追いついた直後だったが、東山の打線は相変わらず強力だった。
先頭の二番打者がヒット。
三番打者が送りバント。
一死二塁。
そして、四番の神谷先輩。
初回に強烈な三塁打を放った選手だ。
山岸先輩が初球を投げた。
外角低め。
「ボール!」
二球目。
内角。
カキィンッ!!
またしても鋭い打球が飛んだ。
今度はレフト方向。
外野手が追いかける。
しかし、打球は頭上を越えていった。
二塁走者がホームイン。
神谷先輩は二塁へ。
スコアは四対五。
(……強いな)
率直な感想だった。
神谷先輩は本当にいい打者だ。
スイングが速く、打球も強い。
しかも、甘い球をほとんど見逃さない。
前世の経験を持つ俺から見ても、小学四年生としては相当に優秀だった。
その後、五番打者にもヒットを許し、一死一、三塁。
ここで田島監督が動いた。
「タイム!」
マウンドに集まる。
俺もショートから駆け寄った。
「山岸、ここまでありがとう。あとは任せろ」
「……はい」
山岸先輩が頷いた。
そして、監督が俺を見た。
「朝倉」
「はい!」
「肩の状態はどうだ?」
「大丈夫です!」
「痛みは?」
「ありません!」
監督は山本コーチと視線を交わした。
「よし。じゃあ、一イニングだけ頼めるか?」
「はい!」
……来た。
ついに決勝戦のマウンドに立つことになった。
ただし、状況は決して良くない。
一死一、三塁。
一点ビハインド。
しかも相手は大会屈指の強打線。
だが、俺は不思議と落ち着いていた。
むしろ、胸が高鳴っている。
(……面白いじゃないか)
強い相手。
重要な場面。
そして、優勝の懸かった決勝戦。
これ以上ない舞台だ。
◇ ◇ ◇
マウンドに立つ。
捕手の中村先輩が声をかけてくれた。
「朝倉、頼むぞ!」
「はい!」
「いつもどおりでいいからな!」
「分かりました!」
俺は頷いた。
そして、ボールを握る。
ここで大切なのは、冷静さだ。
今の俺の最高球速は七十四キロ。
四年生の強打者を相手にするには、決して速い球ではない。
変化球もない。
しかし、コントロールには自信がある。
それに、前世で培った配球の知識もある。
力で抑えられないなら、技術で抑えればいい。
まずは六番打者。
右打ちの少年だ。
初球。
外角低め。
シュッ!
ぱしんっ!
「ストライク!」
よし。
二球目。
内角高め。
少し外れる。
「ボール!」
三球目。
外角へのストレート。
打者が振った。
カンッ!
ファウル。
ワンボール、ツーストライク。
追い込んだ。
だが、ここからが重要だ。
相手は打撃の強いチーム。
追い込まれても簡単には空振りしない。
ならば、無理に三振を狙う必要はない。
四球目。
外角低め。
打者がバットを出す。
カンッ!
打球はセカンド方向。
大地が捕球した。
「二塁!」
俺は叫んだ。
大地が二塁へ送球する。
「アウト!」
さらに一塁へ転送。
しかし、打者走者の方が早かった。
二死一、三塁。
三塁走者は動かなかった。
(……よし)
まずは一つ。
失点を防ぎながらアウトを増やせた。
続く七番打者。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
カンッ!
打球はショート方向へ。
俺の代わりにショートへ入った先輩が捕球する。
一塁へ送球。
「アウト!」
スリーアウト!
チェンジ!
「よっしゃあ!」
桜台のベンチから歓声が上がった。
俺は小さく拳を握った。
(……何とか抑えたな)
もちろん、前の投手が残した走者を生還させなかったというだけだ。
まだ一点負けている。
だが、これ以上の失点を防げたのは大きい。
あとは打線が逆転してくれればいい。
◇ ◇ ◇
四回裏。
桜台フェニックスの攻撃。
スコアは四対五。
一点ビハインド。
先頭打者は六番。
相手の石川先輩は、ここまでかなりの球数を投げていた。
さすがに疲労が見えている。
その影響か、先頭打者に四球を与えた。
無死一塁。
続く七番打者が送りバントを成功させる。
一死二塁。
八番打者はセカンドゴロ。
二死三塁。
そして九番打者。
初球はストライク。
二球目はボール。
三球目。
カンッ!
打球は一、二塁間へ。
「抜けた!」
ライト前ヒット!
三塁走者がホームイン。
同点!
桜台五対五東山。
「やったあああ!」
ベンチが歓声に包まれた。
俺も思わず立ち上がる。
よし。
これで再び振り出しに戻った。
さらに一番、高橋先輩がヒットを放ち、二死一、二塁。
続く二番打者は四球を選んだ。
二死満塁。
そして。
「三番、ピッチャー、朝倉君」
俺の第三打席が回ってきた。
(……最高の場面だな)
二死満塁。
同点。
決勝戦。
しかも、ここまで俺は二打数二安打。
打撃の調子は悪くない。
ここで一本打てば、勝ち越しだ。
俺はバットを持って打席に入った。
マウンド上の石川先輩が、少し疲れた表情でこちらを見た。
しかし、その目にはまだ闘志が残っている。
いいね。
そうでなくては面白くない。
初球。
外角低め。
「ボール!」
二球目。
内角高め。
「ストライク!」
三球目。
外角へのストレート。
俺はバットを出した。
カンッ!
ファウル。
ワンボール、ツーストライク。
(……追い込まれたな)
だが、焦る必要はない。
ここまで何度も見てきた投手だ。
球筋も、フォームも、ある程度理解している。
それに、今の俺には前世の経験がある。
満塁だからといって、無理に大きな当たりを狙う必要はない。
ヒット一本で十分だ。
四球目。
外角低め。
ボール。
五球目。
内角高め。
ファウル。
六球目。
外角。
ボール。
フルカウント。
二死満塁。
球場の空気が張り詰めた。
石川先輩がボールを受け取る。
そして、こちらを見つめた。
俺もバットを構え直した。
(……来い)
七球目。
石川先輩が振りかぶる。
左足を上げる。
体重移動。
そして、腕を振り抜いた。
シュッ!
ボールが飛んでくる。
コースは真ん中やや低め。
(……甘い!)
俺は左足を踏み込んだ。
腰を回す。
腕を振る。
そして、バットを振り抜いた。
カキィィンッ!!
これまでとは違う、鋭い打球音が響いた。
打球は右中間へ飛んだ。
「ライト! センター!」
外野手が追いかける。
しかし、届かない。
打球は二人の間を抜け、外野の奥へ転がっていった。
「走れえええ!」
ベンチから大歓声が上がる。
三塁走者がホームイン。
勝ち越し!
二塁走者も三塁を回る。
外野から中継へ返球。
しかし、間に合わない。
二人目もホームイン!
さらに一塁走者が三塁を回った。
(……行ける!)
俺は二塁ベースを踏み、打球の行方を確認した。
中継プレーが乱れている。
三塁走者がホームへ滑り込む。
「セーフ!」
三人目も生還!
走者一掃の三点タイムリーツーベース!
桜台八対五東山!
「うおおおおお!」
ベンチが大騒ぎになった。
俺は二塁ベース上で拳を突き上げた。
(よっしゃあああ!)
決勝戦で勝ち越しの三点タイムリー。
これ以上ない結果だった。
その瞬間。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【決勝戦特別イベント達成】
『勝負を決める一打』
決勝戦で走者一掃の適時二塁打を記録しました。
【報酬】
筋力ポイント+100
技術ポイント+150
精神ポイント+150
【特殊能力コツ】
『チャンス』Lv.2 → Lv.3
【特別評価】
勝負強さ:極めて優秀
――――――――――――――――――
(……凄いな)
大量の経験点。
しかも、チャンスのコツがレベル三まで上がった。
やはり、決勝戦での活躍は報酬が大きい。
しかし。
まだ試合は終わっていない。
ここから守り切らなければ、優勝はできないのだ。
◇ ◇ ◇
五回表。
最終回。
スコアは八対五。
桜台フェニックスが三点リードしている。
俺はマウンドに立っていた。
田島監督からは、球数と身体の状態を確認したうえで続投を許可されている。
ただし、長引くようなら交代する予定だ。
俺自身も無理をするつもりはない。
何しろ、まだ六歳なのだから。
それでも。
(……ここは抑えたいな)
初めての大会優勝が懸かっている。
しかも、投手として最後のアウトを取れるかもしれない。
そんな機会を逃したくはなかった。
先頭打者は八番。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角。
カンッ!
打球はサードゴロ。
村田先輩が捕球し、一塁へ送球する。
「アウト!」
一死。
続く九番打者。
初球はボール。
二球目はストライク。
三球目。
カキンッ!
打球はセカンド方向へ。
大地が素早く捕球した。
一塁へ送球。
「アウト!」
二死。
あと一人。
俺はマウンド上で小さく息を吐いた。
そして、次の打者を見つめた。
一番打者。
ここまで二安打を記録している選手だ。
簡単にはアウトになってくれないだろう。
初球。
外角低め。
「ストライク!」
二球目。
内角高め。
ファウル。
ツーストライク。
追い込んだ。
だが、ここからが難しい。
相手は東山の一番打者。
バットコントロールが上手く、簡単には空振りしない。
三球目。
外角低め。
カンッ!
ファウル。
四球目。
内角。
ボール。
五球目。
外角高め。
ファウル。
(……粘るな)
なかなかしぶとい。
だが、俺も負けるつもりはない。
六球目。
少し外角に外した。
「ボール!」
ツーボール、ツーストライク。
そして七球目。
俺は捕手の中村先輩を見た。
ミットは外角低め。
俺は頷いた。
ここまで何度も投げてきたコースだ。
しかし、それだけに自信がある。
最後まで丁寧に投げる。
左足を上げる。
重心を移動する。
そして、右腕を振り抜いた。
シュッ!
ボールは外角低めへ。
打者がバットを振る。
カンッ!
打球はショート方向へ転がった。
(……よし!)
遊撃手が捕球した。
一塁へ送球する。
ぱしんっ!
「アウト!」
スリーアウト!
「ゲームセット!」
一瞬の静寂。
そして。
「やったあああああ!!」
桜台フェニックスのベンチから、凄まじい歓声が上がった。
「優勝だあああ!」
「勝ったぞー!」
「やったー!」
子供たちが次々とグラウンドへ飛び出してくる。
俺もマウンド上で拳を握り締めた。
(……勝った!)
決勝戦。
八対五。
桜台フェニックス、優勝!
俺にとって、転生後初めての大会優勝だった。
そして、前世を含めても初めての優勝経験である。
高校時代は地方大会三回戦止まり。
優勝というものには、縁がなかった。
だからこそ。
今、この瞬間がたまらなく嬉しかった。
「悠真ー!」
大地が駆け寄ってきた。
「やったな!」
「うん!」
「優勝だぞ! 優勝!」
「そうだね!」
俺たちは笑いながらハイタッチした。
続いて、松本先輩や他のチームメイトたちも集まってくる。
「朝倉! ナイスバッティング!」
「ありがとうございます!」
「お前のおかげで勝てたぞ!」
「みんなのおかげですよ!」
それは本心だった。
確かに、俺は決勝戦で活躍した。
だが、俺一人では勝てなかった。
藤原先輩も山岸先輩も、苦しい場面で懸命に投げてくれた。
守備では大地や先輩たちがアウトを取ってくれた。
打撃でも、俺の前に走者が出てくれたからこそ、打点を稼ぐことができた。
野球は一人ではできない。
それを改めて実感した試合だった。
◇ ◇ ◇
試合終了後。
表彰式が行われた。
俺たち桜台フェニックスは整列し、大会の優勝旗と賞状を受け取った。
代表して受け取ったのは、主将の松本先輩だ。
松本先輩は少し緊張した様子だったが、最後には嬉しそうに笑っていた。
そして、全員で記念撮影。
俺は大地の隣に並んだ。
「悠真、笑えよ!」
「笑ってるって!」
「もっと!」
「無茶言うな!」
そんなやり取りをしながら写真を撮る。
……うん。
いい思い出になりそうだ。
ちなみに、父さんと母さんも大喜びだった。
「悠真! 凄かったぞ!」
父さんが駆け寄ってくる。
「三点タイムリーなんて、父さん感動したよ!」
「ありがとう!」
「しかも最後はピッチャーまでやって……!」
父さんは随分と興奮していた。
母さんはそんな父さんを見て苦笑している。
「あなた、少し落ち着きなさいよ」
「いや、だって優勝だぞ!?」
「分かってるわよ。私だって嬉しいもの」
そう言って、母さんは俺の頭を撫でた。
「おめでとう、悠真」
「ありがとう、お母さん!」
「でも、今日はしっかり休むのよ?」
「うん!」
もちろん、そのつもりだ。
身体の疲労はきちんと回復させなければならない。
特に投手として長く活躍するためには、幼少期からの身体管理が重要なのだから。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
俺は自室で育成システムを開いた。
今日の試合結果を確認するためだ。
――――――――――――――――――
【公式戦結果】
市内低学年野球大会 決勝
桜台フェニックス 8
東山レッドソックス 5
勝利!
【朝倉悠真】
〈打撃成績〉
3打数3安打
二塁打:2
打点:5
得点:2
盗塁:1
〈投手成績〉
投球回:1回2/3
被安打:0
奪三振:0
与四球:0
失点:0
自責点:0
〈守備成績〉
守備機会:2
失策:0
【総合評価】
S
――――――――――――――――――
(……うん)
我ながら、かなりの成績だ。
三打数三安打。
五打点。
二塁打二本。
しかも投手としても無失点。
決勝戦でこれだけ活躍できたのなら、十分だろう。
だが、俺が本当に気になっているのは、ここからだった。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【育成目標達成!】
『市内低学年大会優勝』
達成条件を満たしました。
【優勝報酬】
筋力ポイント+300
敏捷ポイント+300
技術ポイント+300
精神ポイント+300
【特別報酬】
『特殊能力取得補助機能』
解放!
――――――――――――――――――
(よっしゃあ!)
ついに来た。
大会優勝報酬。
経験点千二百ポイント。
さらに、新機能の解放。
これは非常に大きい。
そして、通知はまだ続いた。
『ピロン♪』
――――――――――――――――――
【追加目標達成!】
『大会MVP』
大会を通じて極めて優秀な成績を記録しました。
【大会通算成績】
12打数12安打
打率:1.000
打点:10
二塁打:4
盗塁:1
投球回:7回
失点:0
自責点:0
【大会総合評価】
SS
【MVP報酬】
筋力ポイント+200
敏捷ポイント+200
技術ポイント+200
精神ポイント+200
【特殊能力コツ】
『アベレージヒッター』
コツLv.1獲得
『対ピンチ』
コツLv.1獲得
――――――――――――――――――
(……うおおおっ!?)
思わず声が出そうになった。
大会MVPまで達成していた。
しかも、経験点八百ポイント。
さらに特殊能力のコツが二種類。
アベレージヒッターと対ピンチ。
どちらも非常に有用な特殊能力だ。
特にアベレージヒッター。
将来的に打率四割を目指す俺にとって、ぜひとも取得したい能力である。
そして、対ピンチ。
投手として大事な場面で能力を発揮するためには、こちらも重要だ。
(……最高じゃないか)
俺は思わず笑った。
大会優勝。
大会MVP。
そして大量の経験点。
この数週間で、想像以上の成果を得ることができた。
だが、まだ終わりではない。
俺は新しく解放された特殊能力取得補助機能を確認した。
――――――――――――――――――
【特殊能力取得補助】
特殊能力の取得を支援する機能です。
【主な機能】
・特殊能力の取得条件を表示
・必要経験点の確認
・コツレベルによる割引率の表示
・関連する練習内容の提案
・取得可能な特殊能力の通知
【追加機能】
『特殊能力成長』
特定の条件を満たすことで、既存の特殊能力が上位能力へ成長する場合があります。
――――――――――――――――――
(……なるほど)
これは便利だ。
今までは特殊能力の一覧を見ることしかできなかった。
しかし、これからは取得条件や必要経験点を詳しく確認できる。
しかも、上位能力への成長条件まで分かるらしい。
俺は早速、アベレージヒッターを確認した。
――――――――――――――――――
【特殊能力】
『アベレージヒッター』
状態:取得条件達成済み
コツLv.1
【必要経験点】
筋力:50
技術:250
精神:100
【効果】
安打性の打球を打ちやすくなります。
【上位能力】
『安打製造機』
【上位能力取得条件】
???
――――――――――――――――――
(……ふむ)
アベレージヒッターか。
非常に魅力的な能力だ。
しかし、必要経験点は決して少なくない。
コツレベルもまだ一。
今すぐ取得するより、もう少しコツを集めた方が効率的かもしれない。
それに、今後も試合は続く。
ここで焦って経験点を使い切る必要はないだろう。
俺は一度画面を閉じた。
そして、所持経験点を確認する。
――――――――――――――――――
【所持経験点】
筋力:1840
敏捷:1675
技術:2350
変化球:100
精神:2160
【合計】
8125ポイント
――――――――――――――――――
(……八千ポイント超えか)
凄い。
まだ小学一年生だというのに、ここまで経験点が貯まるとは思わなかった。
もちろん、全てを今すぐ使えるわけではない。
身体の成長制限があるからだ。
だが、将来的には、この経験点が大きな力になる。
何しろ、俺の最終目標はオールS。
それも野手能力だけではない。
球速、コントロール、スタミナ、変化球。
投手能力も全て最高水準まで育てるつもりだ。
さらに、金特殊能力も可能な限り取得する。
そのためには、膨大な経験点が必要になる。
だが、今のペースで稼ぎ続ければ――。
(……案外、早く達成できるかもしれないな)
俺は自然と笑みを浮かべた。
もっとも、身体の成長は一朝一夕には進まない。
能力値を上げられるようになるまで、まだまだ時間が必要だ。
焦る必要はない。
今は経験点を貯めながら、基礎技術を磨く。
それが最善だろう。
◇ ◇ ◇
翌日。
俺は父さんと一緒に、近所の公園へ来ていた。
昨日は試合だったので、今日は軽い運動だけにする予定だ。
父さんはグローブを持ちながら、嬉しそうに笑っていた。
「いやあ、昨日は本当に凄かったな!」
「ありがとう!」
「まさか一年生であんなに活躍するとは思わなかったよ」
「えへへ」
俺は少し照れたように笑った。
まあ、実際には前世の経験とシステムのおかげなのだが。
それでも、褒められるのは嬉しい。
「悠真」
「なに?」
「将来、プロ野球選手になりたいか?」
父さんが真剣な表情で尋ねてきた。
俺は迷わず頷いた。
「なりたい!」
「そうか」
「それでね、お父さん」
「ん?」
「ピッチャーも、バッターも、両方やりたい!」
父さんは一瞬驚いたような顔をした。
だが、すぐに笑った。
「そうか。二刀流か!」
「うん!」
「いいじゃないか!」
父さんは俺の頭を撫でた。
「悠真が本気で目指すなら、父さんも応援するよ」
「本当!?」
「ああ。ただし、無理はするなよ。野球は長く続けてこそ楽しいんだからな」
「うん!」
俺は力強く頷いた。
そして、心の中で改めて決意する。
目指すのは、史上最強の二刀流選手。
日本プロ野球。
メジャーリーグ。
世界最高峰の舞台で、投げても打っても誰にも負けない選手になる。
そのために、俺はこれからも努力を続ける。
もちろん、パワプロ育成システムという反則的な能力を最大限に活用しながら。
ただし。
俺は野球を楽しむことだけは、絶対に忘れないつもりだ。
前世では叶えられなかった夢。
その夢を追いかけられる二度目の人生。
こんなに幸せなことはない。
「よし、悠真! 軽くキャッチボールするか!」
「うん!」
父さんがボールを投げてくる。
俺はグローブを構えた。
ぱしっ!
心地よい捕球音が響く。
そして、俺もボールを投げ返す。
ぱしんっ!
「ナイスボール!」
父さんが笑う。
俺も笑った。
まだ小学一年生。
まだ六歳。
俺の野球人生は、ようやく最初の優勝を経験したばかりだ。
甲子園も、プロ野球も、メジャーリーグも。
全てはこれから。
だが、俺には確信があった。
いつか必ず、世界最高の野球選手になる。
投手としても。
打者としても。
そして、誰もが認める史上最強の二刀流選手に。
そんな未来を思い描きながら、俺はもう一度ボールを投げた。
青空の下。
小さな白球が、綺麗な放物線を描いて飛んでいった。
次回予告(本文外)
第十話「特訓開始、初めての特殊能力」
市内大会を制覇した悠真は、特殊能力取得補助機能を使った本格的な育成計画を立て始める。
一方、桜台フェニックスには市内大会優勝をきっかけに、新たな大会への出場機会が訪れる。
さらに、経験点を大量に蓄積していた悠真は、ついに最初の特殊能力を取得することを決意する。