1999年 4月2日
ここは呆れ返るほど平和な世界の朝。
……というわけではないのだが、今日は金曜日。
曜日的にも多くの人がいつも通りに過ごすだろう日だ。
そして、この時期は学生にとって基本春休み。
そんな中の一人はとある場所に訪れ、看板を見上げていた。
”キュアット探偵事務所”
それが目の前にある看板に書かれている文字。
「キュアット探偵事務所……ついにこの日が来た……!」
彼女の名前は”小林みくる”。
みくる「絶対テストに受かる!」
彼女が言うテスト。
それは、学校で受けるようなただの学生の筆記試験ではない。
ちなみに、今の彼女の服装はピンクの探偵服だが、軽い気持ちでのコスプレではないみたいだ。
彼女なりの意思の表れなのだろうか。
そう、”探偵”になりたいみくるは、その探偵になりにここに来た。
「よしっ!」
扉へと手を伸ばした。
「すみま……」
その瞬間だった。
「うぃ?!」
突然の眩しい光により、世界が真っ白に染まったような錯覚。
みくるが思わず腕で目元を覆う。
そしてその光の中からは……
「うわあぁぁぁぁッ!!」
声がした。
しかも、上から。
「えぇ〜〜〜ッ!?」
一人の少女が、とんでもない高さからこちらへ向かって真っ逆さまに落下しているではありませんか。
どう見ても危険すぎる。
しかも、落ちてくる少女は何かを抱えていた。
ぬいぐるみのようだ。
更にその上からは銀髪の女の子。
叫ぶ様子がないのだが、まさか怖くないのだろうか。
空から人が落ちてくるという事態は、当然だがみくるが探偵テストのためにどれだけ勉強していても、対処法も過去の例も習うはずもないだろう。
逆にあったら教えてほしい。
このままではぶつかる。
「ポーチィィ!!」
ぬいぐるみが喋った。
次の瞬間、ぬいぐるみが一気に大きく膨らんだ。
ふわふわとしたその体は、まるで巨大なエアバッグ。
落下していた二人を受け止めるには、十分すぎる大きさ……
いや、元々のサイズを考えたらでかすぎる。
……うん、当然みくるは下敷きになった。
ーーー☆★☆
「なになに?何なの?これのせい?」
空から落ちてきた少女は首からかけているペンダントを気にしている。
「もう、どうなってるの~!?」
ぬいぐるみはあの大きさから元のサイズに戻っていた。
「ポチ~!」
一方、少し離れたところでは銀髪の少女が目を開けた。
「あ、大丈夫?あなた一緒に落ちてきたみたいだけど……」
あんながその少女へ駆け寄った。
……みくるがスルーされているのだが、気にしないでおこう。
青とライトブルーが混ざり合った瞳。
その瞳の中では、星のようなハイライトがきらきらと瞬いていた。
どうやらこちらも無事らしい。
ただし、自分がどうしてここにいるのか分かっているようには見えない。
「……ここ、どこ?」
「私が聞きたいよ!?」
即ツッコんだ。
ぬいぐるみを掴んでいた少女……
”明智あんな”も同じ状況なのだから。
「知らないとこだね」
「うん、そうだね!私も知らないよぉ!!」
「そっかぁ」
「納得しないでぇぇぇッ!!」
キュアット探偵事務所が目の前にも関わらず起きた、空から女の子たちが落ちてくる事件。
……もう事件というより事故な気もするが気にしないでおこう。
「……はっ!」
先ほど巨大になったぬいぐるみの下敷きになったみくるが、勢いよく顔を上げた。
そして、あんなに気づく。
改めてその近くにいるぬいぐるみを見て、目がキラキラと輝いた。
「妖精だ!!」
「……ん?」
あんなが振り返る。
みくるは何事もなかったかのように起き上がると、あんなへ詰め寄った。
「妖精と一緒という事は、キュアット探偵事務所の名探偵ですね!?」
「……え?」
そして、みくるの視線が横へ。
そこにはぽかんと二人を眺めている銀髪の女の子。
みくるはビシッとその子を指差す。
「その子も探偵の仲間ですよね!」
「えっ」
あんなは急にみくるが断言した言葉に何も言えなかった。
「多分!」
「多分!?」
「……きっと!!」
「なんかどんどん自信無くしてない!?」
「なかま?」
当の本人は自分が指差されていることに気づくと、キョトンとした顔のまま自分を指差す。
「そう!名探偵の仲間!!」
「なかま……?」
あんなはもう訂正する余裕もなかった。
自室にいたはずなのに突然知らない場所へ飛ばされ、
謎のぬいぐるみ……
ではなく、妖精ポチタンは喋り、
空から落ち、
見知らぬ少女から名探偵扱いされ、
さらに、いつの間にか知らない女の子まで自分の仲間だと言われている。
小さな女の子は自分が話の中心にいる気づくと、にこりと笑った。
「可愛い!」
みくるはもうメロメロな様子。
「そんなこと言ってる場合じゃ……いやわかるけど!!」
あんなは話を戻そうとしたが、まず状況がわからない。
「あっ……私、小林みくるです!」
初めて相手の名前を聞く。
あんなは自分も名乗ることにした。
「私、明智あんな」
そして自分が今とんでもない状況に置かれていると気づく。
「……って、そうじゃない!!妖精って何!?部屋にいたのにどうしてここに!?」
「それから、あなた誰!?なんで私と一緒に落ちてきたの!?」
「わかんな〜い」
「わかんないのぉ!?」
確かに女の子の首からはペンダントがかかっている。
しかし、それはあんなが持つものと同じペンダントではない。
彼女はどうしてここにいるのだろうか。
まずどこから来たのだろうか。
「な、名前は!?」
「リーノ!」
良かった。
名前は覚えているらしい。
「そっかぁ!」
名前だけでも知れた。
これで一件落着……
「……じゃないよ!!」
あんなはリーノの肩を掴んで揺さぶり始めた。
「さっきまでいなかったじゃ~ん!!どこから来たのぉぉぉぉッ!?」
「わかんな~い」
「私もだよぉぉぉッ!!」
警戒心、驚異の低さである。
大丈夫なのだろうか。
みくるはハッとした。
「……もしかして、探偵テストもう始まってる……!?」
空から突然現れた少女。
謎の妖精。
正体不明の小さな女の子。
そして、この出来事が起きたのはすべてキュアット探偵事務所の目の前。
これは偶然ではない。
きっと、推理力を試されているのだ!
……まあ非現実的な出来事が続けば普通はそう思ってもおかしくはだろう。
残念ながら現実である。