・前編
・中編① ←イマココ
・中編②
・後編
・完結編
Q:計画性ってもんがねぇのか…?
A:無いのかもしれない。
鬱や曇らせの味ではないです。
まぁでも湿度っていうか、粘度は高いかも。
◆◆ 野望はないけど希望もなかった藍染 ◆◆
大抵のことはやればできてしまった。
言葉を覚えたのも、立って歩ける様になったのも、誰より早くて、その頃から『このままではいけない』という感覚があった。だから難しい話は分からないふりをしたし、霊圧も目立たない様に抑えた。
その目論見通り、大人は私の『不出来』を可愛がった。
しかし、それを喜べていたのは始めだけで、父母が我が子の『できないふり』を見抜けない大人なのだと思うと、敬愛はそこで途端に枯れた。血が繋がっていようが、親は子の全てを理解している訳ではないし、子が親を好いていることにも理由などなく、動物的な本能に過ぎない。
誰がどの様に己を愛していようとも、それが己にとって喜ばしいものであるかは別の話だ。
霊術院に入ってからも世界は変わりはしなかった。
死神の基本となる斬拳走鬼も、座学も、やっている風で過ごしているだけで優秀だと称賛された。
死神になり、律儀にこなし過ぎれば却って仕事が増える為、大人なりの『不出来』を適度に演出することも慣れた。
世界とはこれ程にも温く、粗雑にできている。
人は、死神は、霊王すらも違いはない。
その意思なき君臨の献身を誰が望んだというのだ。結局は彼の自己心酔に過ぎない。
世界の構造を理解する程、そこに支えてやる程の価値などありはしないと澱が積もる。
鏡花水月。
人を欺くだけの刀。
私によく似合う。
卍解を明かす素振りは全く伺えなかった。
私と良く似ている。
私が本気で志せば山本総隊長を打倒することも可能だという自負はあっても、しかし、なんの気概も持てない。それが何だと言うのか。あの人も私が怠けているなどと疑いもしない。
自分から嘘を重ねておいて、悉く騙される者達に嫌悪が募る。
死神としては順調に出世を重ねたが、私には手入れのされない刀が錆びていく様な居心地の悪さがあった。
それでも、潮風が身に毒だと知っていても、刀は一人で己を磨くことなどできない。
……謀反。
尤もらしい動機は後から考えるものとして、護廷と相反する対立組織の構想を打ち立てようとしていた。
五番隊の副隊長に任命されたのはその時だった。
人から聞く平子真子という死神は、性格が悪くて捻くれていて嘘臭いが、それでも面倒見が良く人望のある善人だとされている。
これは決して間違っているとは言えないが正しいとも言えない評価だ。
実際に副官となって間近で見た彼は、気安いのに、最後の一歩は詰めさせない距離があった。親身なのに、人ではなく猫でも可愛がる様な好意に見えた。
どこか、私に似ている。
「組織の行事っちゅうんはなんでこう、忙しゅうて病気が流行る時期なんかなァ~。春とか秋にやらええと思わん?」
「縁起を担いでのことでは」
「もうええやん、イマドキ具体的に誰が大真面目に縁起に命かけてんねや。ハッキリ聞いてみたらどうせ誰も名乗り出んやろ……」
「四十六室は良く思われないかと」
「いや〜、御仁達かてそう真面目に考えとるかァ? 仕事上の建前ちゃうん?」
敬意がある様でない軽口。
そこに私を見定めようとする疑念と警戒心が滲んでいて、しかし訝しんでいるにしては随分と雰囲気は明るい。今一つ考えていることが掴めなくて、それはお互い様だっただろう。
私に何を思っているのか反応を見たくて、一度、目の前で少し大げさに失敗をしてみた。
それは嘘だろうと。
彼だけが目でそう語っていた。
気づいている。具体的に何にとは言わずとも、私の『できないふり』を殆ど確信している。
その上で、私に悪感情はない様で、確実に距離を詰めてくる。
そう望むのならば、敢えて捕まってみても良いと思った。
「もしできそうやったらでええんやけど、ちぉ〜〜っと惣右介に教えて欲しい事があんねん」
「他に詳しいヤツおるやろってんはまァ、ごもっともな話や、ほんでも、これは惣右介にしか頼めんから」
私にしか。
軽い気持ちで飲んだそれは、劇薬だった。
◆◆ それはそれとして休日が恋しい気持ちはある ◆◆
しかし現実はそう甘くはなく、強烈な薬には強烈な副作用が付き物だ。
「……そもそもがそも、触れただけで斬魄刀消失って何?」
「貴方が言い出した事でしょう……」
ただカフェインが欲しくて胃にコーヒーを流し入れる。
要が淹れてくれた最後の一杯。
休日出勤。残業、五時間目。
余りに作業時間が不足している為、特定領域内の時間を加速させる装置を作成。
時間操作関連の禁術の装置化が実現してしまった訳だが、全てが今更で、そんな倫理は疾うに踏み倒されている。運用開始から順調に稼働を続けており、しかし依然として労働環境は改善しない。
何故なら平子隊長の要求が理不尽だからである。
「そもそも論を持ち出して良いなら、そもそもこれ、必要ですか?」
「必要に決まっとるやろ! コイツいないと今後の展開に支障しかきたさんもん!!」
【メタスタシア】
・日に一度、接触した相手の斬魄刀を消失させる
・霊体融合能力で死神、虚に寄生する
・破壊された場合はすべての情報を保ったまま虚圏で再構成される
・死者を出してはならないので挙動はコントロール可能な前提
「都合よく狙って造るには中々難しい代物かと思いますが」
「悩ましいことは分かってんねん」
「究極を言えば些細なイベントは全て無視して、ただ僕が離反を演じて周囲を煽って適当に焚き付ければ済むのでは?」
「いや、そら通る気せェへん。情緒コントロールミスったら世界が滅ぶみたいな爆弾がおるし、そのくらいのバケモン達を仕上げて連れてかなアカンねや」
「……、……融合、寄生を優先して、斬魄刀消失は諦めませんか」
「ここでケチんの危ないってェ〜! コイツ使って破面作るんやから、印象的な能力見せつけて後々『伏線回収! 海燕殿の仇!』にできなきゃ殺る気スイッチ入らなくて詰むし!!」
「それでも『斬魄刀を消す』は捨てませんか? 限定的な能力の封印くらいで十分でしょう」
「いっそ物理的な吸収でもええけど、獲物自体が奪われる方が絶望感ない?」
「まァ……」
「これで『一理ある』って顔になってくれるのが流石、分かっとるな……」
この人は常に、隠しもせずに結末ありきで未来を語る。
隊長の斬魄刀、『逆撫』。
始解の能力は、相手の感覚に作用し、上下左右、前後を入れ替えるもの。
つまり、逆撫の卍解は、この人は、過去と未来、現在を入れ替えて来たのではないか。
しかしそれについて、本人に確かめたことはない。
少なからず、今すぐにでも時間遡行が可能ならば、隊長は既に必要な研究結果を手にしているか、過去へと研究成果を運んでいる筈で、そうはなっていないのが現実だ。
出来もしない事を無理に問い出す理由もない。
「問題は、どう実現するかですが」
「メタスタシアは本来、死神と虚の境界を取り壊すための研究の副産物である筈でェ……、とはいえ現状コッチは誰もそれを望んでないから、副産物が弱いとかいう……」
「進めてはいても熱量もありませんしね。物理的に斬魄刀が消える演出は本当に、諦めて頂いて……」
「わァったわァった!! じゃ~~刀身破壊と吸収で行こか!!」
隊長は私と二人きりの時、特に疲労困憊の状態では、取って付けた様ないつもの訛りが薄くなる。
それも、私は指摘しない。
『平子真子』は嘘でできている。
しかし私の前ではその限りではない、それだけのことだ。
「やりたくない圧が尋常じゃないわマジで」
「僕が申し上げているのは現実的でない、というお話ですが?」
『僕』が。
機を逸したというより、この気安さを失い難く感じてここまで来てしまった。
どの道お互い様なのだから、これからもそうさせて貰おう。
◆◆ 本当に目が悪い藍染惣右介の問題 ◆◆
「裏切り前後でのイメージチェンジは演出として否定しませんが、普段から度の入った眼鏡をかけているのに、それをこれ見よがしにバキバキに握り潰すなんて意味不明でしょう」
「その為に今日わざわざコンタクトつけて来たのかな、なんて思われそうですし、ダサいですよ」
「はァ……? そんな伊達前提のおしゃれフレームでは実用に耐えませんから」
「ご存知ないんですか? 眼鏡ってフレーム分の視界しか確保できないんですよ。確かに手元すら見えない程ではありませんが、眼鏡のオンオフによってピントが変わるので、レンズの外側や隙間の部分は、戦場においては『見えない』も同然です。当日にそんなことをする理由がありません」
「……隊長、聞いてますか?」
マジで終わりや……。
わたてんの当日どないしよ……。
◆◆ 雛森から見た藍染 ◆◆
「藍染たいち……ょ……、書類、確認させて頂きますね〜……。……はい、じゃ、提出して来ま〜す……」
全然寝てる。
真面目で、物腰柔らかで、仕事ができて、そう見えて意外と仕事中に平然と寝てる人。
実際、必要な仕事はできてるし、人当たりも良くて実力もあるけど、でも人目のないところだと床に落ちてる。
初めは凄くびっくりしたけどすっかり慣れてしまった。
必要な仕事をこなして、それなりに成果も出してて。なら、まぁ、ちょっとくらい……。
あんまり良くないとは思いつつ、隊長がそれで何とかなってるのを見てると、最近は私まで染まって来た気がする。
◆◆ 原作台本確認という名の崩玉押し付け合戦 ◆◆
「待って下さい! 崩玉と融合って、僕がですか!?? ゆ……融合!?」
「あ? 今更何言うてんねや、最初から伝えとったやろ」
「こんあと融合するから、としか聞いてませんよ!! 流石に隊長が体張るんだと思うじゃないですか!!」
「ここまで来て実は俺が惣右介の上司です♡ は無理やろ。それに体ならもう張ったやん、立派な仮面も付いて」
「最後まで何も知らないふりで通すつもりだったんですか!? 散々検証してのアレとぶっつけ本番で劇薬を取り込むのは話が違うでしょう!!」
「……俺ん中には惣右介が崩玉と融合するイメージはある。ほんで崩玉は周囲の意思を読み取って願いを叶える性質がある。つまりや、設計図のある惣右介が適任てことに」
「なりません、僕にも平子隊長が崩玉を取り込んで一段階上の存在になるイメージがありますから」
「……」
「……」
「ジャンケンとくじ引き、好きな方選び」
「こ、この土壇場で、こんなことで命運を……!!」
「しゃあないやろ時間ないねん!! 今ここで決めて何がなんでもワンダーワイス仕上げな流刃若火で消し炭やど!! 巻きで行くで巻きで!!」
「ワンダーワイスは……九割仕上がっている、筈、では……?」
「ちぉ~~~っと謎のバグが解消せぇへんくて時間ない」
「もう隊長が虚圏に来れるタイミング全然ありませんが間に合いますか!?」
「だいじょぶや!! あのアレ使お! みたいな目途は付いとるから行ける!!」
◆◆ 藍染離反後も全然普通に元気な雛森桃 ◆◆
「命の恩人だし、とっても憧れてたんだけど、近くで見ると意外とちょっとぼんやりしてるところがあるっていうか……。あれも全部、嘘だったの……? そ、そうかな……? こんなこと言ったら悪いかも知れないけど、離反なんてして、ちゃんとやれるか心配だな……」
どうしよう、説明できない。
なんでそう思うんだって言われても……、意外とサボり常習犯だし、なんて理由としては弱いし、証拠らしい証拠もないし……。
十二番隊で行動記録とかを念入りに調べられたりしたら、逆にあたしが偶にちょっといなくなってるのが……。
心酔? 藍染隊長に……?
ち、違うんです、そういうんじゃなくて……、あ~、や、やっぱりそういうことかも~……?
◆◆ ガワを修正すると挙動が狂うとかいうクソ仕様だったので仮面だけ後付けした ◆◆
ワンダーワイスについて。
──善良な俺にはそない非人道的なコトできん……!
──ってなワケやから無から作るわ。
そう宣言され十数年が経過した。
善良の定義を辞書で引いて確かめて貰いたいものだが、あの人が極力被害のない道を選ぶのも事実で、その分こちらが割を食っているのも事実。否、やはり、本人が自らも使い潰す性質でさえなければ悪人と言い切っても良いだろう。
自身の為に、目的のために、意識的に、言い訳として、より善い道を選んでいる。そういう人だ。
平子隊長のワンダーワイスは義魂技術から派生したもので、前回の進捗報告までは、虚と呼ぶには歪な、頭部自体が存在しない造形をしていた。
しかし現在、それは大きく作り変わっている。
頭部を一周する様に耳下で切り揃えられた、癖のない淡い金の髪。
髪の隙間から伺える部分に目鼻口に当たる物は何もなく、大きな円形の孔があるばかりだ。
「……入れましたね」
「入れちったわ。ちょいなんか生えて来て匂わせ仕様になってもうたケド、まァ性能は足りとるで」
加えて、その孔の位置にも既視感がある。
「僕は逆撫の始解状態を知らない筈でしょう」
「キモくてええやん、見せびらかして来ィ」
「既知に合わせるなら逆撫に翻弄されるのは不自然で、知らない方に合わせるならこの造形に説明が付きません」
「惣右介が副隊長時代に魂魄盗っといたコトにしとけばええやろ」
「……どのくらい入れたんですか……」
「コンマ以下パーセントやから別に俺はどうっちゅうこたァないで」
「それでこれは影響力が強すぎますよ」
直す時間は惜しい。
しかしそのまま出せるかと言われると、危うい。
「最終局面であーだこーだ掘り下げられるモンちゃうやろ」
「ただでさえ綱渡りなのに要らないストレスを創らないでください」
◆◆ 崩玉融合! ここで漸く『私が天に立つ(大嘘)』実行!! ◆◆
人は皆、猿のまがいもの
神は皆、人のまがいもの
貴方が私に望むなら
私は神のまがいもの
──感情激重ポエム
「魂が組み換わる。漸く崩玉の意思が、私の心を理解し始めた様だ」
この後どう進むかは賭けになる。
決して今の振る舞いの全てが嘘ではないにしても、舞台裏の事情としては『ジャンケンに負けたから』崩玉を取り込む担当になっただけのことで、私の裡に高みを目指す志などありはしない。
今は周囲を欺く事が私の仕事で、私が崩玉に望むのは、最低限それを叶える為の『演出』をしてくれる事だ。
最悪現実には何も起こらずとも、この場を観測する全ての者が『絶望的な戦いをしている』と錯覚するだけでも足りる。
肌が所々色素を失い、やがて全身が白く塗り変わっていく。
しかし予め決めておいたもので、恐怖はない。
寧ろ崩玉が『明文化された指示』に沿うよう動いていることが見て取れ、一先ず難所は乗り越えられた様で何よりだ。
かつて隊長に提示された途中経過案については断固却下で通した。当然だ。
豆腐か半平の擬人化の様な姿。あれで良く設計図があるなどと口にできたものだ。これについては態々その轍をなぞる理由もない。
思わせぶりな髪を掻き上げる仕草で、髪があることを確かめる。
第一段階は宿主である私が再考した方の全身が白く塗り替わるだけのデザインが採用されたらしい。
あの人は未だに、私に『させたいこと』が先行し過ぎる節がある。
見たいから。ただそれだけの理由で、命懸けの舞台の最中にまで無意味な要望を挟もうとしてくる。好みの一幕の再演にしても、今回は特に理解できない箇所に執着を見せた。私がああなるのを見たい、とは、中々に悪趣味だ。
「……どうやら、蛹籃の時は終わったようだ」
黒崎一心の太刀で切れ目の入った額から、皮膚を破るようにして白い皮膜を脱ぎ捨て、レンズの割れた眼鏡を外す。
「少し視界が開けたな」
始めは自己演出の意味もあって選び、それから長らく使っていたものだったが、今や崩玉との同化によって用済みとなった。
そして、隊長のお望み通りに手で握り潰す。
「有り難い。尸魂界の終焉を、私自身の目で見ることができる」
平子隊長はこれを見て内心一人で歓喜することだろうが、山頂にはまだ遠い。
全て、私が叶えて見せる。
◆◆ 俺自身が月牙になった結果 ◆◆
「……なァ浦原さん、藍染は本当に崩玉に拒絶されたのかな」
「あいつの刀は……、あいつはあんなに声を張り上げてたクセに、言ってることと全然合ってねえっていうか、俺を倒そうとしてるハズなのに、俺と打ち合ってることが『嬉しい』みてえなのがあった」
「藍染はずっと、自分と同じ目線になってくれる誰かを探してたんじゃねえのかな」
……あっっっっっっぶね、惣右介がノリノリで助かったわ。
如何に演技が完璧でも、クソ上司に無理矢理働かされてるんです~! って精神状態だったらヤバかった。
破面編、完結ヨシ!
「この藍染、思ってたより原作の味がする……、え!? あの本心がある上で、このテンションでの会話を……!?」
となって貰えていたら幸いです。
藍染(この人は私に似ている)
なんて思ってちょっと心を許してみたのが運の尽きのようでいてそんなことしなくても社畜ルートは確定していたと後から痛感する。かなしいね。