爆睡し1週間分の睡眠負債を吹き飛ばすと、出かけるのにちょうどいい時間になっていた。
「よし……! それじゃあ早速持っていくか」
僕は力強く立ち上がり、意気揚々と部屋のドアを開けた。
……が。
「……あ」
ドアを開けた先には、なんか不審者がいた。
壁掛けの鏡に映されていたのは、よれよれに伸び切った首元のTシャツ、そして膝が出かかったグレーのダサいスウェットを穿いたむさ苦しい人物。
つまり僕だった。
「いやいや、待て待て。いくら神だの天才クリエイターと持て囃されている僕でも、この格好で大手事務所の重役とかと面会するのは……」
というか、下手したら警察に通報されかねない。
通帳には今や家が買えるレベルの印税が眠っているというのに、身なりがこれではあまりにもアンバランスだ。
自宅で出迎える分には普段着でよかったけど、流石に訪問するのにこの格好は舐めてるとしか言いようがない。
社会不適合者でも、それくらいは分かるよ。
「……よし。まずは先に服を買おう」
僕は固い決意を固めた。
形から入るのもまた、一流のアーティストに必要な要素といえよう。
僕は財布とスマホ、そして魂のUSBをポケットに突っ込むと、実に久しぶりにまともな外出を試みるのだった。
「どこで買おうかな」
ファッションのことは、あまり良く分からない。
ごめん。全然わからない。
いつもならGUかユニクロあたりで済ませるんだけど、一応、億を稼ぎ出すプロの作曲家になったわけだし、ちょっと高そうな店にチャレンジしてみるのも悪くはないかな?
駅前のファッションビルの前で足を止める。
こんなところ、いつもは絶対余裕でスルーする店だよ。
1階に入っている、なんだかカタカナ表記の横文字ブランドの店内を外から覗き込む。
店内には、シュッとした細身のイケメン店員が立っていた。
こういうところの奴って、絶対に入店した瞬間、「何かお探しですかー?」と爽やかな笑顔で圧をかけてくるんだよな。
僕は絶対、お前らが話しかけてこない店を探しているよ、と思ってしまう。
まぁ統計的に話しかけた方が売り上げ上がるらしいから、仕方ないけどね。
僕みたいな人種は統計の犠牲者。
やっぱユニクロでいいや。
そんな時、
「……秋彦くん? 何をしているの?」
背後から氷のように透き通った、聞き覚えのありすぎる声が降ってきた。
「へっ!?」
情けない声をあげて振り返ると、そこに立っていたのは――凛だった。
綺麗めなハイネックのニットに落ち感のあるロングスカートを合わせたおしゃれな出で立ちで、僕を見つめている。
いつもよりだいぶカジュアルな感じだね。
「り、凛……っ! な、なんでここに!?」
「今日は休日だから、この近くのカフェで本でも読もうと思って出てきたの。
……それより、あなたこそ何をしているの? ガラス越しにのぞき込んでたみたいだけど」
「いやー、まぁ。ちょっと服でも買おうと思ってね……」
凛は僕の全身を上から下へとゆっくりスキャンするように見つめた。
その瞳に、じわじわと「信じられないものを見る目」が満ちていく。
凜よ、なんて視線を向けるのだ。
それが人を見る目か……?
「……確かに全身変えた方がよさそう」
「んなこと分かってるから、買いに来てるんだよ」
「服を買う意欲があること自体は褒めてあげるけれど……その格好でこのビルに入ろうとしていたの? 正気かしら」
確かに気後れしていた理由はそれもあるかな。
いわゆる、服を買いに行くための服がない、という奴。
凛はハァ、と小さく溜息をつくと、組んだ腕を胸の下に添えた。
ぐいっと押し上げられる、豊満な果実。
「……ダメね。放置しておくと、あなたがまた変なプリントTシャツや、無駄に鎖がいっぱい付いた服を買って帰る未来が見えるわ」
「流石にそんな服はもう買わない。男は黙って全身黒固め」
「……はぁ、仕方ないわね」
凛は手首の華奢な腕時計を確認すると、冷淡な表情のまま言った。
「今日は特に急ぎの予定もないから、付き合ってあげる。……ついてきて」
「え? いや別に、結構なんだけど」
僕の意見は無視して、凛はヒールをカツカツと鳴らし、迷いのない足取りで店の中へと歩き出した。
凜は昔っからこういうとこあるんだよなぁ。
僕は逆らう気力もなく、後ろをトボトボとついていくのだった。
「いらっしゃいませー」
先ほど僕が警戒していた、イケメン店員が爽やかな笑みを浮かべて近づいてくる。
ただ今の僕に先ほどの恐れはない!
僕は堂々と凛の背中に隠れた。
僕は後衛。あとは任せた。
「お客様、何かお探しでしょうか?」
「連れの服を選びたくて。……全体的に清潔感があって、主張が強すぎないシンプルなものを何着か見せていただけるかしら」
凛は一切の物怖じをせず、堂々とした態度で店員に向き合う。
コンサルタントの匂い漂う、仕事できるオーラが全開だ。
「かしこまりました!
こちらのジャケットや、トレンドのオーバーサイズシャツなどいかがでしょう?」
男性店員の案内で、紹介された品々を見分し始める凜。
僕は後ろから黙って見守る。
女友達と一緒だと、こういう店でも気後れしなくていい。
何か許されてる気がするこの感覚。分かってくれるかな?
選んでいる最中の凜を眺めていると、暇を持て余しているように見えたのか、店員がフレンドリーに僕にも絡んできた。来なくていいのに。
「よろしければお手に取ってご覧ください。
そちらのシリーズ、特に男性のお客様にすごく人気なんですよ」
「あ、はい……ありがとうございます。僕はちょっと見ているだけなので」
「お二人、すごくお似合いですね! もしかして彼女さんですか?」
お、分かってるやん。そうです。
理解ある僕の彼女ちゃんです!
「ええ、そんなところです」
いくつか商品を手にした凜が、なんでもないことのようにあっさりとそう答えた。。
……凜、お前、僕の理解ある彼女ちゃんだったのか??(驚愕)
「よさそうなのが見つかったので、ここら辺を試してみます。ありがとう」
店員へ丁寧に告げると、凜は当然のように僕の手を引き、そのまま試着室へと歩き出す。
微妙な表情を浮かべる僕に向かって、ほんのり頬を朱に染めた凜が、小さく息を吐きながら訂正する。
「ああ言っておいた方が、余計な詮索されないの」
ああ、そうだよね。
モッピー知ってた!
「じゃあ。秋彦くん、ちょっと着てみて」
凛が選らんで持ってきたのは、落ち着いたネイビーの綺麗なテーラードジャケットと、白のバンドカラーシャツだった。
「ふーん。あいよ」
服の良しあしは分からないから、とりあえず試すしかない。
僕は渡された服を抱えて試着室へ。
鏡の前で、よれよれTシャツを脱ぎ捨て、パリッとした白シャツを着る。
そしてジャケットを羽織ってみると――
「おおっ。なんかいい感じかも」
不思議なもので、服装一つでシュッとしたクリエイター感が出てきた。
合コンで「こいつ作曲やっててさ」って友達に紹介されたとき、「あ、へー。ぽいぽい」って言われそうなくらいには、雰囲気が出ていた。
服装までコンサルタントできるとは。流石である。
「秋彦くん、着終わった? 見せてみて」
カーテンの外から凛の声が聞こえる。
「あー、こんな感じだけど、どうだろう?」
カーテンを開けてお披露目。
外で待っていた凛は、僕の姿を一目見て――
「…………」
無言になった。
「…………」
なんか言ってよ。
無言だと不安になるじゃん。
ただちょっとだけ、凜の瞳がわずかに丸くなる。
ほんの一瞬、本当に0.5秒ほどだが、彼女の頬がピクリと動いたのを僕は見逃さなかった。
「……ふん」
凛はすぐにいつもの無表情に戻ると、冷ややかに言った。
「……まあ、いいんじゃないかしら。ちょっとはマシになったかも」
そりゃさっきの服装に比べればね。
それでも凜から見て合格点をもらえる着こなしだったようだ。
「じゃあ、これにしとくかな」
「でも、髪がそれじゃ台無しよ。あとで美容院に行った方がいいわ……それと」
凛はカツカツと歩み寄ると、僕の至近距離で足を止めた。
ふわりと漂う、上質なシャンプーの甘い香り。
そして、目の前に迫る圧巻の胸元。
だから近いって!
「……?」
凛は無言のまま手を伸ばすと、僕のジャケットの襟元を、キュッと整えてくれた。
指先が僕の胸元に微かに触れる。
「……よし。これでいいわ」
「あー、ありがとう」
これは間違いなく彼女ちゃん検定合格です!
ってか、距離感バグってないか? え、世間じゃこれが普通だって?
あ、そう……
若干の戸惑いを隠せない僕に、満足そうに小さく頷く凜であった。
会計を済ませて店を出ようとしたとき、店内のオシャレなBGMが変わって、聞き覚えがありすぎる軽快で澄み切ったバンドサウンドが流れ始めた。
――シャリーン……♪
まーた『青』かよ。ホントどこにでも流れてんなこの曲は。
そんな僕の機微を察したのか、凜が問いかけてくる。
「しかめ面してどうしたの? ……ああ、この曲ね。
相変わらずロックが嫌いなのね」
「あんなのは音楽じゃない」
「この曲、ちょっとだけ聞いたことあるわ。会社の後輩たちも大騒ぎしてたっけ。神曲だって。
私はもっと落ち着いた曲の方が好きだけど……ポップスとか」
うんうん。
相変わらず、昔から曲の趣味だけは合うんだよなぁ。
生き様や考え方はかなり違うんだが。
「そうなんだよ。やっぱ音楽はメロディ線を大事にしないと。あんな騒音混じりの曲とは違ってね」
「そうね。私は静かで、どこか少し切ないメロディが好き。……例えば、そうね」
「例えば?」
「あっくんの初めて作ったポップスとか、今でもたまに聞いてるわ」
ひぇっ。
めちゃくちゃ怖いこと言ってる。
物書きで例えるなら、お前の書いた中学時代の創作ノート、今でも持ってるわ。たまに開いて爆笑してるって言われたようなものだ。
これは魂の殺人では??
「やめろ。捨てろ」
「冗談よ。あなたの曲なんて、もうとっくに忘れちゃったし」
そう言って凜は、少し寂しそうに笑った。
「いいかげんあなたも、音楽を忘れて働けばいいのに」
と思いきや、働けと突然説教モードに突入だ。
こいつは僕の魂と肉体を両方破壊するつもりなのか?
「おっとそろそろ納品の時間だ。
シェイキング・プロの事務所によらないといけなくてね、じゃっ!」
これ以上の追撃を食らう前に逃げ出そうと、僕はあからさまにさよならの手を挙げた。
「全く、そんな噓ばっか言って……」
呆れたように溜息をつく凜に、僕は背中を向けながらそっと言葉を付け足す。
「うん、ありがとう凛。それはともかく、今日は助かったよ」
「……徹夜もほどほどにしなさいね。じゃあ」
凛はそう言い残すと、颯爽とヒールを響かせて歩き去っていった。
少しだけ見送り、僕も反対方向へと歩き出す。
目的地へ向かう道すがら、反射したショーウィンドウで、早速着替えた白シャツ、新品のジャケットを着た自分を確認した。
うん、格好は文句なしのクリエイター。
そして納品は嘘ではない。
「さて……服も整った。準備は万全だ」
僕は胸ポケットに収められた、魂のUSBメモリをそっと撫でた。
新品の服に身を包んだ僕は、シェイキング・プロへと足を踏み出すのだった。
★
なんだかんだ言って、困窮時代、僕に仕事を回してくれたのは坂本――坂本さんだ。
義理と人情の男として、この歴史に残る絶対的最高傑作……『神のポップス』は、優先して坂本さんに持ち込んであげることにした。
「アキヒコ先生! 待ってましたよ!」
事務所に行くと、坂本さんは顔面から光がほとばしるような笑顔でウキウキと応対してくれた。
机の上にはとうとう、高級な寿司の出前まで用意されている。
「で、例のやつですね!? 『あああああああ』と『青』を超える、第三の刺客ですね!?」
「ええ。ですが坂本さん、今回はロックではありません。
僕が1週間、不眠不休で魂を削って作り上げた『神のポップス』です」
僕が胸を張って高らかに宣言すると、坂本さんの笑顔が「ピキッ」と固まった。
あ、明らかに困惑しているね。
引きつった顔で「あ、あ~……ポップスね……」と呟き、視線を泳がせた。
「坂本さん、安心してください。これは今までのポップスとは次元が違います。
僕自身、聴いて号泣したんです。
僕にはわかる。あの時確かに神が降臨していた。
この曲には神が宿っているんです。絶対に世界が泣きます!」
キャッチコピーはそう――全世界が泣いた。この夏、神が降臨する――
「お、おう……」
僕の並々ならぬ自信と気迫に押されたのか、坂本さんは「……わかりました。そこまで言うなら」と、しぶしぶといった様子で音源をパソコンに入れた。
再生ボタンをクリック。
僕は固唾をのんで坂本さんの表情を見つめた。
前回はサビ前で止められた。だが今回は違う。
1分……2分……3分……
坂本さんは目を閉じたまま耳を澄まし、微動だにしなかった。
曲は止まらない。
イントロからAメロ、Bメロ、そして僕が涙した至高のサビへ。
副交感神経を揺さぶるオーケストレーションが完璧に響き渡った。
ついに、最後の余韻が消え、曲が最後まで走りきった。
(勝った……! 最後まで聴かせきった……!!)
僕は心の中でガッツポーズを作った。
完璧な完走だ。これはいけるっしょ!
坂本さんがゆっくりと目を見開いた。
その顔には――乾いた、あまりにも不吉な笑いが浮かんでいた。
「あー……うん。アキヒコ先生」
「どうですか!? 涙が出たでしょう!?」
「うん、すごくね、なんていうか……長い旅をした気分だよ」
坂本さんはハハッと乾いた笑い声を漏らし、静かに僕の肩に手を置いた。
「それでさ……ロックの方をいただきたいんだけど」
「…………は?」
「いやね! 技術はすごいよ! 1週間寝ずに作ったってのも音から伝わる!
でもね、うちが……いや、世界がアキヒコ先生に求めてるのはこれじゃないんだよ!
ね? だからさ、このポップスをベースにして、音を全部歪ませて、テンポを2倍にして、ドラムをドカドカ叩かせたロックバージョンを作ってくれないかな? かな!?」
時が止まった。
1週間。
不眠不休。
僕の涙。
魂のストリングス。
そのすべてを「で、ロックは?」の一言で踏みにじられたのだ。
あげくにテンポを2倍。ドラムドカドカって……
あばばばば
「……もういいです」
「え? アキヒコ先生?」
「もういいです! ハハッ! 坂本さんには本物を理解する耳がないみたいですね!
結構です、他の事務所に渡しますからっ!」
僕はUSBをパソコンから抜きたくると、プクーッと鼻の穴をこれでもかと膨らませて、怒り心頭でシェイキング・プロダクションを後にした。
「あ、ちょっと先生! 待って! お寿司食べていってよ!!」
背後からの呼びかけを無視して、僕は街へ飛び出した。
「ふん! なぁに、事務所なんて星の数ほどあるさ!」
けっ!
僕の元には大手レーベルや有名プロデューサーが、連日挨拶に来ていたのだ。
僕の曲を喉から手が出るほど欲しがっている人間なんて、山ほどいる。
坂本さん――坂本の野郎に見る目がなかっただけだ!
この神が宿るポップスを2倍再生してロックにしろだって?!
チャンスの神には前髪しかないんですよ。逃しましたね坂本はんっ!
そう思っていた。
――しかし
【1軒目:大手レコード会社A】
「いや~、アキヒコ先生! 丁寧ですねぇ! 凄くお行儀が良い曲です!
……で、あの『あああああああ』みたいなイかれたロックはいついただけますか?」
【2軒目:有名音楽プロデューサーB】
「うーん、メロディは綺麗なんだけど……なんか胃もたれするっていうか、重いんだよね。
もっとこう、『青』みたいな心を躍らせる軽快なロック頂戴よ!」
【3軒目:若手新鋭レーベルC】
「先生、冗談はやめてくださいよ~! こんな教本みたいなポップス聴かせに来たんですか?
僕たち、先生の狂気を買いに来たんですよ?」
全滅だった。
持ち込んだ全ての事務所で、僕が命を削って召喚した『神のポップス』は失笑とダメ出しを喰らった。
誰も僕の計算し尽くされた美学を見てくれない。
全員が僕の中にいる、存在しないロックの化け物しか見ていないのだ。
夕暮れの街。
何度も何度も頭を下げられ、持ち上げられ、そして肝心の僕の愛したポップスだけを否定され続けた僕は、トボトボと一人で歩いていた。
ポケットの中のUSBが、冷たく重く、僕の心を押し潰していた。
チャンスの神様には前髪しかない。
しかし僕の神様には、前髪すらなかったようだ。
ただのハゲ!!
嘘だと言ってよオー、マイゴッド。
★
自室のベッドに倒れ込んだまま、僕は天井の模様をただ見つめていた。
汚い天井。築60年。
完全なる虚脱状態だ。
口から出たエクトプラズムが、僕の体を見下ろしている。
不眠不休で命を削った完璧なポップスが「胃もたれする」「教本みたい」と蔑まれ、『あああああああ』や『青』みたいな出来損ないの雑音が神曲と讃えられる。
絶対におかしい。
勝つのは人か? マシーンか?
カスなのは僕か? 人類か?
世界の耳が、人類の脳みそがバグっているとしか思えない。
この歪みを正すことはできないのかな……
「……待てよ?」
気が付いてしまったかも!!
暗闇の中で、僕の脳裏に走るは電光石火の閃き。
「そうだ……
やはり間違っているのは世界っ!
奴らは僕のポップスの、真の美しさを理解できていないんだ。
ならば、徹底的な【心底くだらん底辺のロック】を聴かせてやればいいのだ。
比較対象として最低最悪のゴミを提示されれば、相対的にさっきの僕のポップスがいかに洗練され、いかに至高の芸術であるかに気づくはずだ!
彼らが神の頂きに気が付けないのは仕方ない。
だって自分たちが底辺にいるって知らないんだから!!
「フフッ……フハハッ! 見てろよプロデューサーども
やんよ……本当の『くだらんロック』ってやつを教えてやんよ!」
僕は飛び起きるやいなや、狂ったようにキーボードへ向かった。
ロックなんて本当にくだらない曲種だ。こんなの頭を空っぽにしたアホしか聴かない。
そう思いながら、キーボードに指ではなく拳を叩きつけるようにして、適当に音を打ち込んでいく。
「1曲目! 適当にテンポをクソ速くして、ギターの歪みを最大!
タイトル? 嫌々作った『嫌々』でいいや!」
ジャカジャカジャカジャカ!!!
「2曲目! サビでひたすら『ウホウホ』叫ぶだけの脳死トラック! はい完成!」
ドカドカドカドカパン!!!
「3曲目! コードを2つだけ交互に叩いて、ベースを不快な低音でブーブー鳴らす!
ええじゃないですか。不快でも! ハイいっちょ、出来上がり!」
ズバババババババ!!!
「4曲目! メロディラインを全音符放置! 途中でわざとキーボードの手を滑らせてノイズを入れる!」
ギャギャギャギャー!!!
「5曲目! 1分半で曲が終わるスカスカのパンク! これにて終了最後です!
んーっ! やっと終わりました♡」
ズビズバズビズバ!!!
……気づけば、あっという間に5曲も出来上がっていた。
時計を見ると、作業開始から1時間すら経っていない。
「ハハッ! ロックとかこんなん作るの、時間かける方がムズいだろ!!」
出来上がった5曲を改めてスピーカーで再生してみる。
――ジャカジャカ! ギャギャギャ! ズバババ!
「ぷッ……! クハハハハッ!!」
自分の部屋で、笑いがこみ上げてきた。
耐え切れず吹き出してしまうよ。
ひどい。ひどすぎる。
だって、ただジャカジャカ言ってるだけで、音楽の「お」の字もない完全なゴミくずなんだもん。
こんなものを聴かされたら、誰だって「頼むからさっきの美しいポップスを聴かせてくれ!」と泣きついてくるに決まっている。
僕はこみ上げる笑いを噛み殺しながら、曲名を適当に入力した。
『嫌々』
『ウホウホ』
『ええじゃないか』
『音符放置』
『ん♡』
「よし、これで完璧だ」
完璧にゴミです。
本当にありがとうございました。
全員に思い知らせてやる!
あの僕のポップスを苦笑いで却下した坂本をはじめ、家に押し掛けてきた各社のプロデューサーたちへ現実を教えてやるのだ。
『お望みのロックです。ロックを知らない皆さんに1曲づつプレゼント。どうぞお納めください』
本文を考えるのもめんどくさいから、同じ文面でそれぞれのメールに1曲ずつ添付して送ってやった。
送信ボタンをポチポチポチッと連打する。
「さあ……目を覚ますがいい! 僕のポップスの素晴らしさを、その身に刻むがいい!!」
ふははははははっ
高笑いをキメながら、僕は今度こそ満足感に包まれてベッドへと倒れ込み、深い眠りにつくのだった。