ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第12話 空から探す突破口!ポッポ対イワーク

ポッポが翼を傾けた。

 

 イワークの正面を外れ、長い胴体の横へ回る。

 

 大きな頭が、その動きを追った。

 

 首が曲がる。

 

 少し遅れて、床へ広がっていた岩の体が動いた。

 

 マサシは、その遅れを見ていた。

 

「ポッポ、もう一回り!」

 

 ポッポが羽ばたく。

 

 イワークの尾に近いところまで飛び、外側から弧を描いた。

 

 タケシが腕を振る。

 

「イワーク、たいあたり!」

 

 大きな頭が前へ出た。

 

 ポッポとの距離が、一気に縮まる。

 

「かわせ!」

 

 ポッポが身をひねった。

 

 岩の顔がすぐ脇を通り、羽が風に煽られる。

 

 それでも飛ぶ高さは崩れなかった。

 

「そのまま抜けろ!」

 

 ポッポが首の横を通り過ぎた。

 

 マサシは、頭が戻るまでの動きを追う。

 

 首だけで振り向こうとしたイワークが、途中から胴体を引き寄せた。

 

 長い体が、フィールドの岩を擦った。

 

「……そこからは、体ごとなんだな」

 

 マサシの口元が上がった。

 

 タケシは、その顔を見逃さなかった。

 

     ◇

 

「回っているだけでは、勝てないぞ」

 

「分かってる」

 

 マサシはポッポへ手を向けた。

 

「低く回れ! かぜおこし!」

 

 ポッポが高度を落とした。

 

 翼が大きく動く。

 

 床の砂が舞い上がり、イワークの顔へ吹きつけた。

 

 大きな目が細くなる。

 

 岩の体を押し返すことはできなくても、顔へ砂を運ぶことはできた。

 

「逆からだ!」

 

 ポッポが向きを変える。

 

 イワークの頭も、そちらへ動いた。

 

「追いすぎるな、イワーク! 体を寄せろ!」

 

 タケシの声に、長い胴体が滑った。

 

 ポッポの進む先へ、岩の壁がせり出す。

 

 上へ逃がせば、今度は頭で追い上げられる。

 

 天井までは、それほど余裕がない。

 

 マサシは迷わず指示を変えた。

 

「内側へ飛び込め!」

 

 ポッポが低く滑る。

 

 イワークの胴体に囲まれた空間へ入った。

 

「そのまま閉じろ!」

 

 岩の輪が狭くなる。

 

 ポッポの羽音が速まった。

 

 マサシは、イワークの顔を見ていた。

 

 獲物を確かめるために、首が持ち上がる。

 

 その下へ、隙間が開いた。

 

「頭の下を抜けろ!」

 

 ポッポが翼を狭めた。

 

 岩の影を潜り、外へ飛び出す。

 

 背後で、胴体の擦れ合う音が響いた。

 

 ポッポは大きく旋回し、マサシの側へ戻ってくる。

 

「よし!」

 

 短い声に、力強い鳴き声が返った。

 

     ◇

 

 タケシは、イワークの首元へ目を向けた。

 

 砂を顔へ当てた。

 

 反対側へ回った。

 

 体で囲まれると、頭の下を抜けた。

 

 追いかける側だったはずのイワークが、少しずつ構えを変えさせられている。

 

「イワーク、頭を下げろ。隙間を作るな!」

 

 大きな顔が低くなった。

 

 さっきポッポが通った場所が塞がる。

 

 マサシは頷いた。

 

「じゃあ、顔が近いな」

 

 タケシの目が動く。

 

「ポッポ、正面へ!」

 

 ポッポが飛んだ。

 

 低く構えたイワークへ向かう。

 

「迎えろ!」

 

 大きな頭が前へ出た。

 

「かぜおこし!」

 

 ポッポが、地面近くで翼を打つ。

 

 砂がまとまって跳ね上がった。

 

 イワークが顔を背ける。

 

 頭を低くしたぶん、風に乗った砂が届きやすくなっていた。

 

「今だ、回り込め!」

 

 ポッポが横へ抜ける。

 

 イワークは首を戻そうとした。

 

 マサシはその後ろを見た。

 

 胴体が動く。

 

 尾が、わずかに浮いた。

 

「引け、ポッポ!」

 

 小さな体が急に向きを変える。

 

 そのすぐ前を、岩の尾が横切った。

 

 床の砂が、強く払われた。

 

 ポッポの姿勢が風に揺れる。

 

 マサシは間を置かずに声を出した。

 

「立て直せ!」

 

 ポッポが二度羽ばたき、体を起こした。

 

 タケシの眉が上がった。

 

「尾も見ていたか」

 

「頭だけ追ったら、危なそうだったから」

 

 マサシは答えた。

 

 言いながらも、目は相手の体から離れない。

 

 頭を上げれば、下に隙間ができる。

 

 低くすれば、顔へ砂が届く。

 

 近くへ寄せれば、尾が動く。

 

 ようやく、相手の攻め方がつながってきた。

 

     ◇

 

 ポッポが高く鳴いた。

 

 マサシへ顔を向け、すぐにイワークを見た。

 

 次の指示を待っている。

 

 マサシは、翼の動きを確かめた。

 

 まだ左右は揃っている。

 

 ただ、旋回するたび羽ばたく回数が増えていた。

 

 大きな相手を避け続けるのは、見た目以上に力を使う。

 

 そう長くは続けられない。

 

「一度、岩へ降りろ!」

 

 ポッポが低い岩へ向かった。

 

 タケシがすぐに声を出す。

 

「休ませるな! たいあたり!」

 

 イワークの頭が迫る。

 

 ポッポは着地しかけた足で岩を蹴った。

 

「かわせ!」

 

 小さな体が飛び上がる。

 

 その直後、イワークの顔が岩の脇を通り抜けた。

 

 ポッポは無事だった。

 

 けれど、止まって休むことはできなかった。

 

 マサシはタケシを見た。

 

 タケシも、こちらを見ている。

 

 飛び続けさせれば、ポッポが先に疲れる。

 

 相手はそこまで分かっていた。

 

「……ちゃんと嫌なことしてくるな」

 

 マサシが呟く。

 

 それでも、笑みは消えなかった。

 

 地面で待てるなら、待てない形へ変える。

 

「ポッポ、奥へ回れ!」

 

     ◇

 

 ポッポが、イワークの頭から離れた。

 

 長い胴体の外側を飛び、尾へ近づく。

 

 タケシはすぐに指示した。

 

「尾で追い払え!」

 

 太い尾が動いた。

 

 ポッポへ向かって回る。

 

「岩へ寄せろ!」

 

 マサシが指したのは、フィールドの端にある張り出した岩だった。

 

 ポッポがその近くを通る。

 

 尾が追う。

 

 だが、大きく振り抜くには岩が邪魔だった。

 

 イワークが尾を持ち上げる。

 

 マサシの声が飛んだ。

 

「くぐれ!」

 

 ポッポが低く抜けた。

 

 尾の内側へ入り、そのまま胴体に沿って飛ぶ。

 

 イワークの顔が後ろを向こうとする。

 

 首だけでは届かない。

 

 長い体が、大きく動いた。

 

 それまで床に置かれていた岩の連なりが、次々に向きを変える。

 

「今だ、かぜおこし!」

 

 ポッポがイワークの横顔へ向かって翼を打った。

 

 砂が舞う。

 

 イワークが目を閉じ、頭を引く。

 

 すぐ後ろには、低い岩があった。

 

 岩と岩がぶつかる、重い音がした。

 

 イワークの頭が揺れた。

 

 ポッポが声を上げる。

 

 マサシも拳を握った。

 

「届いた!」

 

 風だけで倒すのではない。

 

 動かして、足場と距離を使う。

 

 ポッポの速さで、岩の巨体にも一撃を与えられた。

 

     ◇

 

 イワークが、ゆっくり顔を起こした。

 

 動きが止まったのは、短い間だった。

 

 長い体が引き寄せられ、今度はフィールドの中央へまとまる。

 

 タケシの表情から、笑みが消えていた。

 

「イワーク、端へ寄るな。中央を使え!」

 

 マサシは、相手の位置を見た。

 

 周囲の岩から離れている。

 

 さっきの手は、もう同じようには使えない。

 

 ポッポがマサシの前を横切った。

 

 翼の動きが、重くなっていた。

 

 マサシはボールへ手を伸ばす。

 

 ここで戻す。

 

 そう考えたとき、ポッポがこちらへ顔を向けた。

 

 ボールを見て、鋭く鳴く。

 

 そのままイワークへ向き直った。

 

 まだ戦うつもりだった。

 

「ポッポ」

 

 マサシが呼ぶ。

 

 空中で、顔だけが振り向く。

 

 その目を見て、マサシは手を止めた。

 

 次のヒトカゲへ情報を渡すためだけに、飛んでいるわけではない。

 

 ポッポ自身も、勝ちたかった。

 

 岩へ頭を寄せさせた手応えが、まだ残っているのだろう。

 

 マサシは翼と呼吸を見た。

 

 飛べている。

 

 声にも反応する。

 

「……分かった。もう一度、仕掛けよう」

 

 ボールから手を離した。

 

「無理なら止める。それまでは、俺を聞け!」

 

 ポッポが強く鳴いた。

 

     ◇

 

 中央へ陣取ったイワークは、頭を低くして待っていた。

 

 ポッポは大きく回る。

 

 外へ誘おうとしても、相手は追ってこない。

 

 タケシは、マサシが次に何を狙うか見ていた。

 

 マサシも相手を見る。

 

 岩から離れた。

 

 頭を下げた。

 

 その体勢では、上から来る相手を追うために、一度は首を上げなければならない。

 

「ポッポ、上を取れ!」

 

 ポッポが羽ばたいた。

 

 高く上がる。

 

 天井へ近づく前に、マサシは腕を振った。

 

「急降下!」

 

 ポッポが翼を畳む。

 

 イワークの顔へ向かって、斜めに落ちた。

 

「迎え撃て!」

 

 大きな頭が持ち上がる。

 

 マサシは、その根元を見た。

 

 胴体が動くより早く、首だけが伸びる。

 

「かわせ! 横から風だ!」

 

 ポッポが翼を広げた。

 

 体をひねり、顔の横へ抜けようとする。

 

 だが、速度が落ちきらなかった。

 

 疲れた翼が、体を曲げる力に追いつかない。

 

「ポッポ!」

 

 イワークの頭が触れた。

 

 小さな体が弾かれる。

 

 ポッポは懸命に羽ばたき、空中で姿勢を戻しかけた。

 

 そこへ、タケシの声が響いた。

 

「そのまま押せ!」

 

 イワークが前へ出た。

 

 マサシは叫んだ。

 

「離れろ!」

 

 ポッポが翼を打つ。

 

 間に合わなかった。

 

 岩の顔が、小さな体を押し飛ばした。

 

 砂の上へ落ち、一度だけ羽が動く。

 

 マサシはすぐに手を上げた。

 

「そこまで!」

 

 タケシもイワークを止めた。

 

     ◇

 

 マサシはフィールドへ入り、ポッポのそばへ膝をついた。

 

 体を両手ですくう。

 

 胸が速く上下していた。

 

 薄く開いた目が、彼を見る。

 

「……頑張ったな」

 

 ポッポが小さく鳴く。

 

 立ち上がろうとしたのか、足が動いた。

 

 マサシは指を添えた。

 

「もういい。休もう」

 

 ポッポの顔が下がる。

 

 悔しそうだった。

 

 マサシは、その背をそっと撫でた。

 

「岩へぶつけたの、すごかった。あいつに、ちゃんと攻め方を変えさせたぞ」

 

 頭がわずかに上がった。

 

「でも、最後は俺が欲張った」

 

 急降下したあと、どれだけ鋭く曲がれるか。

 

 元気なときと、飛び続けたあとでは違う。

 

 頭の中で組み立てた動きに、ポッポの体が追いつかなかった。

 

 その差を、もっと早く見なければならなかった。

 

「次は、今できる動きで勝とう。お前の速さ、俺がちゃんと使えるようにする」

 

 ポッポの頬が、指へ触れた。

 

 マサシは受け止め、ボールを近づける。

 

「ありがとう。戻れ、ポッポ」

 

 赤い光が、その体を包んだ。

 

     ◇

 

 マサシが立ち上がると、タケシが静かに言った。

 

「よく戦ったな、ポッポも」

 

 マサシは頷いた。

 

「うん。すごかった」

 

 イワークを見る。

 

 頭の横には、岩へ触れた擦れ跡が残っていた。

 

 体はまだ動く。

 

 けれど、最初のように自由に首を伸ばしてこない。

 

 砂を警戒し、岩から離れ、頭を低くしている。

 

 ポッポが、そうさせた。

 

 マサシは腰のボールへ手を伸ばした。

 

「頼む、ヒトカゲ!」

 

 白い光が広がる。

 

 現れたヒトカゲは、すぐにフィールドを見た。

 

 イワーク。

 

 砂の跡。

 

 ポッポのいた場所。

 

 それから、マサシへ顔を向ける。

 

 彼はその前へしゃがんだ。

 

「ポッポが見つけてくれた。あいつ、顔を追わせると体の向きも変わる」

 

 ヒトカゲがイワークを見上げる。

 

「でも、お前は飛べない。同じ抜け方はしないぞ」

 

 小さな顔が戻ってきた。

 

「地面は、俺とお前で使おう」

 

 拳を出す。

 

 ヒトカゲの前足が、強く重なった。

 

     ◇

 

 マサシが挑戦者の位置へ戻る。

 

 ヒトカゲはフィールドの手前へ立った。

 

 イワークが頭を低くする。

 

 その後ろにある長い胴体を、マサシは見た。

 

 低く構えているなら、ひのこが顔へ届く。

 

 防ごうと頭を引けば、体の置き方も変わる。

 

 相手が何を選ぶか。

 

 その次に、自分たちはどこへ進むか。

 

 マサシは二つ先の場所へ目を走らせた。

 

「ヒトカゲ、ひのこ!」

 

 火の粉が飛ぶ。

 

 イワークが首を引いた。

 

 マサシはその動きを捉え、腕を振った。

 

「追うな! 横を取れ!」

 

 小さな足が、砂を蹴った。

 

 最後の一体同士の勝負が、始まった。

 

第12話終了

 

次回・第13話「動かすのは岩の巨体!ヒトカゲ、最後の一手」

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