ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第15話 ニビシティをあとに!相棒たちと進む新しい道

頬へ、柔らかな羽が触れた。

 

 マサシは顔を背け、布団を引き上げた。

 

 今度は、その布団が引かれた。

 

「……起きるって」

 

 目を開けると、ポッポが枕の横に立っていた。

 

 ベッドの下ではヒトカゲが布団を掴んでいる。少し離れたところにキャタピーとビードルもいて、揃ってこちらを見ていた。

 

 昨夜、起こしてくれと頼んだのは自分だった。

 

 マサシは言い訳を諦め、体を起こした。

 

「おはよう。全員、張り切りすぎだろ」

 

 ヒトカゲが嬉しそうに鳴く。

 

 窓の外は晴れていた。

 

 遠くの山へ、朝日が差している。

 

 マサシは背伸びをし、もう一度だけベッドへ目を落とした。

 

「……またな」

 

 ポッポが首を傾げた。

 

     ◇

 

 朝食を済ませ、ジョーイに仲間たちの様子を見てもらった。

 

 ヒトカゲの肩も、ポッポの翼も順調に回復している。

 

 キャタピーとビードルも問題なく、四体とも出発してよいと言われた。

 

 マサシは礼を言い、受付から離れた。

 

 入口では、サトシたちが待っていた。

 

「遅いぞ、マサシ!」

 

「まだ約束の時間前だろ」

 

 壁の時計を指す。

 

 サトシも見上げ、少しだけ口を閉じた。

 

 カスミが横で笑った。

 

「サトシが早すぎるのよ。朝からずっと、出発しようって言ってるんだから」

 

「だって、もう準備できてるし!」

 

 肩のピカチュウも、元気よく鳴いた。

 

 タケシは全員の荷物を見回していた。

 

「水は入れたか?」

 

「入れた」

 

 マサシが答える。

 

 リュックの肩ひもを引き、重さを確かめた。

 

 昨日までと同じ四体。

 

 けれど、内側には初めてのバッジが入っている。

 

「じゃあ、行こう」

 

 自動扉が開く。

 

 朝の空気の中へ、ヒトカゲが先に踏み出した。

 

     ◇

 

 ニビシティを出ると、道の両側へ草地が広がった。

 

 森の中と違い、遠くまで見渡せる。

 

 ポッポが頭上を一周し、低い枝へ止まった。

 

 キャタピーとビードルはリュックの上にいる。

 

 マサシが二体の位置を確かめていると、サトシが横から覗き込んだ。

 

「今日は、どこまで行くんだ?」

 

「山の手前まで。途中で休めそうなところあったら、少し練習する」

 

「じゃあ、俺とバトルしようぜ!」

 

 ヒトカゲの顔が上がった。

 

 ピカチュウも声を上げる。

 

 マサシは二体を見て、口元を緩めた。

 

「いいけど、一回だけな。昨日休んだばっかりだし」

 

「決まり!」

 

 サトシが先へ駆け出す。

 

 カスミがすぐに声を飛ばした。

 

「だから、場所を見てから!」

 

 マサシは笑い、道の先を見た。

 

 少し離れた場所に、短い草の生えた平地がある。

 

 周囲に人はなく、道からも十分に離れていた。

 

「あそこなら、どう?」

 

 タケシが足元を確かめ、頷いた。

 

「大丈夫だな。俺が見よう」

 

     ◇

 

 荷物を下ろすと、キャタピーとビードルが草へ下りた。

 

 ポッポは近くの岩へ止まる。

 

 マサシがヒトカゲへ顔を向ける前に、袖が軽く引かれた。

 

 キャタピーだった。

 

 サトシのピカチュウを見ている。

 

「……お前がやる?」

 

 頭が、はっきり上がった。

 

 マサシはしゃがんだ。

 

 足の動きはしっかりしている。

 

 朝食もよく食べた。

 

 森でカイロスと戦ったあとは、十分に休ませていた。

 

「分かった。練習したこと、試してみよう」

 

 キャタピーが前へ進む。

 

 ヒトカゲは少し驚いたように見ていたが、すぐに短く鳴いた。

 

 キャタピーが振り返る。

 

 二体の声が交わされてから、ヒトカゲはマサシの横へ座った。

 

「俺はピカチュウだ!」

 

 サトシが腕を上げる。

 

 黄色い体が、草地へ下りた。

 

 マサシはピカチュウの足元を見た。

 

 速い相手だ。

 

 キャタピーが正面から追いかけても、簡単には届かない。

 

 それでも、試したいことはあった。

 

「一体ずつの勝負だ。無理だと思ったら、すぐに止めるからな」

 

 タケシが二人へ言った。

 

 サトシとマサシが頷く。

 

「じゃあ、始め!」

 

     ◇

 

「ピカチュウ、でんきショック!」

 

 電撃が走った。

 

「横へかわせ!」

 

 キャタピーが身をよじる。

 

 光が草をかすめた。

 

 完全に離れきったわけではない。小さな体がびくりと震える。

 

 それでも足は止まらなかった。

 

「いとをはく!」

 

 白い糸が伸びる。

 

「避けろ、ピカチュウ!」

 

 ピカチュウが横へ跳んだ。

 

 糸は外れ、草の上へ落ちた。

 

 サトシがすぐに前を指す。

 

「そのまま、でんこうせっか!」

 

 黄色い体が低く走った。

 

 マサシはピカチュウを見た。

 

 踏み込む足。

 

 キャタピーとの間にある、小さな土の窪み。

 

「迎え撃て、糸だ!」

 

 キャタピーが正面へ糸を吐く。

 

 ピカチュウは速度を落とさず、外側へ抜けた。

 

 次の瞬間、体がぶつかる。

 

 キャタピーが草の上を転がった。

 

「キャタピー!」

 

 マサシが呼ぶ。

 

 小さな足が地面を掴んだ。

 

 体が起きる。

 

 目は、こちらを向いていた。

 

 マサシは息を吐いた。

 

「よし。まだ動けるな」

 

 サトシはピカチュウを見ていた。

 

 勢いよく走っても、ちゃんと指示へ応えてくれる。

 

 次もいける。

 

「もう一回だ、ピカチュウ!」

 

 マサシの目が、細くなった。

 

     ◇

 

 キャタピーは自分から前へ出なかった。

 

 マサシの声を待っている。

 

 その前に落ちた糸が、草へ絡んでいた。

 

 最初に外れた一本。

 

 さっき正面へ吐いた一本。

 

 どちらも、ピカチュウには届かなかった。

 

 マサシはその位置を見た。

 

「キャタピー、左へ寄れ!」

 

 キャタピーが動く。

 

 ピカチュウが追った。

 

「今だ、でんこうせっか!」

 

 サトシの声が飛ぶ。

 

 黄色い体が加速した。

 

 マサシは腕を振った。

 

「草へ糸を張れ!」

 

 キャタピーが顔を下げた。

 

 糸が低く伸び、近くの草束へ絡みつく。

 

 ピカチュウが跳ぼうとした。

 

 その踏み込みに、先ほど地面へ落ちた糸が触れた。

 

 ほんの少し、足が引かれる。

 

「今だ! たいあたり!」

 

 キャタピーが地面を蹴った。

 

 小さな体が、ピカチュウの脇へ当たる。

 

 黄色い体が横へ流れた。

 

「ピカチュウ!」

 

 サトシが声を上げる。

 

 ピカチュウはすぐに足を置き直した。

 

 その目が、地面へ向く。

 

 白い糸が、草の間をいくつも渡っていた。

 

 マサシはキャタピーへ声をかけた。

 

「いいぞ! そこで止まれ!」

 

 キャタピーが足を踏ん張った。

 

 森で練習した一歩。

 

 糸へ触れて相手が遅れた、その間に動く。

 

 今度は、実際の勝負でできた。

 

     ◇

 

「ピカチュウ、足元に気をつけろ!」

 

 サトシが言った。

 

 ピカチュウは低い糸を見つけ、今度は大きく横へ回った。

 

 マサシはすぐに指示を変えた。

 

「キャタピー、追うな! こっちへ引け!」

 

 キャタピーが少し下がる。

 

 ピカチュウは糸のある場所を避け、広い方へ出た。

 

 マサシはその道を見ていた。

 

「いとをはく!」

 

 白い糸が飛ぶ。

 

 ピカチュウがまた横へ逃げようとする。

 

「ジャンプだ、ピカチュウ!」

 

 サトシの声が変わった。

 

 ピカチュウが地面を蹴る。

 

 糸を越え、キャタピーの前へ降りた。

 

 マサシはすぐに叫んだ。

 

「下がれ!」

 

「でんきショック!」

 

 近い距離で、光が弾けた。

 

 キャタピーの体が震える。

 

 小さな足が緩み、草の上へ横たわった。

 

 マサシは即座に手を上げた。

 

「ここまで!」

 

 タケシが前へ出る。

 

 キャタピーを確かめ、頷いた。

 

「キャタピーは、ここまでだ。ピカチュウの勝ちだな」

 

 サトシはピカチュウへ駆け寄った。

 

 マサシもキャタピーのそばへ膝をつく。

 

     ◇

 

「よくやった」

 

 両手ですくうと、キャタピーが顔を上げた。

 

 悔しそうに、ピカチュウのいる方を見る。

 

「ちゃんと当てたぞ。糸で止めてから、動けた」

 

 マサシが言うと、小さな目がこちらへ向いた。

 

「最後は、跳ばれるところまで俺が考えなかった。次は上も見ような」

 

 声をかけながら、体についた草を取る。

 

 キャタピーは彼の指へ頭を寄せた。

 

 サトシが近づいてくる。

 

「糸、外れたと思ってた」

 

「最初のは外れたよ」

 

 マサシが答える。

 

「でも、草に残ってたから。そっちへ走ってもらえば使えるかなって」

 

「……当たらなくても、使えるんだな」

 

 サトシが足元を見る。

 

 ピカチュウも、前足へ少しだけついていた糸を見た。

 

「最後、跳んだのは上手かった」

 

 マサシが言った。

 

 サトシが笑う。

 

「下が駄目なら、上かなって!」

 

「うん。次はそっちも考える」

 

 タケシは二人の間で、静かに頷いていた。

 

 カスミが布と水を持ってくる。

 

「まずは手当てね。反省会は、そのあと」

 

「ありがと」

 

 マサシは布を受け取り、キャタピーを膝へ載せ直した。

 

     ◇

 

 しばらく休むと、キャタピーは落ち着いた。

 

 大きな傷はなく、マサシの呼びかけへもしっかり返事をした。

 

 サトシのピカチュウがそばへ来る。

 

 キャタピーへ短く鳴きかけた。

 

 小さな頭が上がる。

 

 返事があった。

 

 ピカチュウが前足を差し出すと、キャタピーが鼻先を寄せた。

 

 マサシはその姿を見て笑った。

 

「また、相手してもらおうな」

 

 キャタピーが頷くように体を動かした。

 

 そのあと、マサシの袖を登ろうとして途中で止まった。

 

 いつもなら肘まで来るのに、今日は手首へ体を落ち着かせた。

 

「疲れたよな。ボールで休む?」

 

 キャタピーは腕へ、少しだけ体を寄せた。

 

「……分かった。次の休憩までは抱いてく」

 

 マサシは支える手を添えた。

 

     ◇

 

 道へ戻る前に、張った糸を片づけた。

 

 サトシも地面へしゃがみ、草に残った部分を集める。

 

「これ、歩いてたら気づかないな」

 

「だから、残したくないんだよ」

 

 マサシは答えた。

 

 ビードルも手伝いたそうに近づいてきたが、針へ絡めないよう、まとめた糸は先に袋へ入れた。

 

 片づけを終え、荷物を背負う。

 

 しばらく進んだ先で、道の横に小さな池が見えた。

 

 カスミが顔を上げる。

 

「あそこ、ちょっと見ていかない?」

 

 サトシも水面へ目を向けた。

 

「ポケモンいるかな?」

 

「たぶんね」

 

 カスミが楽しそうに答える。

 

 マサシは腕のキャタピーを見た。

 

 目は開いているが、静かだった。

 

「俺は先へ行くよ。次の休憩場所で、こいつをちゃんと休ませたいし」

 

 タケシが地図を確かめる。

 

「この先に、屋根つきの休憩場所がある。そこなら落ち着けるぞ」

 

「うん。ありがと」

 

 サトシが手を上げた。

 

「山の手前で会おうぜ!」

 

「おう。魚に引っ張られるなよ」

 

「引っ張られないって!」

 

 カスミが笑った。

 

 その笑顔を見てから、マサシは道へ向き直る。

 

 ポッポが少し先の枝へ飛んだ。

 

 ヒトカゲが隣へ並ぶ。

 

 ビードルはリュックの上から、腕のキャタピーを見下ろしていた。

 

     ◇

 

 教わった休憩場所は、緩い坂を越えたところにあった。

 

 木の柱で支えられた屋根と、長いベンチ。

 

 脇には水場もある。

 

 マサシは荷物を下ろし、布を広げた。

 

「着いたぞ。少し寝よう」

 

 キャタピーをそっと下ろす。

 

 小さな足が布を掴んだ。

 

 けれど、すぐには体を伸ばさなかった。

 

 顔を上げ、ベンチの脚を見る。

 

 マサシはその視線を追った。

 

「どうした?」

 

 口元から、細い糸が伸びた。

 

 木の表面へつく。

 

 キャタピーが少しだけ体の向きを変え、もう一本。

 

 ビードルが近づきかけたが、マサシは静かに手を出した。

 

「ちょっと待って。今、何かしてる」

 

 

 キャタピーの動きはゆっくりだった。

 

 糸を張り、休み、また頭を動かす。

 

 マサシは膝をついた。

 

 怪我で動けない様子とは違う。

 

 朝、博士に言われた言葉を思い出す。

 

 食べる量や動き方が変わったら、気にかけてやるといい。

 

 マサシは図鑑を開いた。

 

 画面の説明を読み、目の前のキャタピーを見る。

 

「……そっか」

 

 声を落とした。

 

 キャタピーの目が、こちらへ向く。

 

 マサシは布の端を整え、荷物を少し遠ざけた。

 

「ここ、静かだぞ。俺たちもいる」

 

 ヒトカゲが隣へ座る。

 

 ポッポは屋根の梁へ止まり、ビードルも少し離れて落ち着いた。

 

 マサシは手を膝へ置いた。

 

「ゆっくりやろう」

 

 風が草地を渡った。

 

 屋根の下で、白い糸が細く光った。

 

第15話終了

 

次回・第16話「白い糸のゆりかご!キャタピー、初めての進化」

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