ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第17話 並んだ足音!二体が選んだ旅の道

朝食を取りに行こうとしたところで、足元から声がした。

 

「ニド」

 

 マサシが見下ろす。

 

 ニドラン♂が、廊下の真ん中に立っていた。

 

「おはよう。お前、もう起きてたのか」

 

 しゃがむと、ニドラン♂は数歩先へ進み、振り返った。

 

「……来いって?」

 

 もう一度、短く鳴く。

 

 マサシはヒトカゲと顔を見合わせた。

 

「呼びに来てくれたらしいな」

 

 ついていくと、昨日の治療室の前にジョーイがいた。

 

「あら、ちゃんと呼んできてくれたのね」

 

「何かあったんですか?」

 

「ええ。嬉しい知らせよ」

 

 開かれた扉の向こうで、ニドラン♀が立っていた。

 

 マサシを見ると、耳を起こす。

 

 昨日かばっていた前脚にも、しっかり体重が乗っていた。

 

「歩けるようになったのか」

 

 マサシが近づくと、ニドラン♀は自分から数歩進んできた。

 

 足を引きずる様子はない。

 

 ジョーイが穏やかに頷いた。

 

「傷の治りもよく、今朝の検査では痛みもほとんど見られませんでした。食欲も戻っています。二体とも、もう外へ出ても大丈夫ですよ」

 

「よかった……」

 

 マサシが手を差し出す。

 

 ニドラン♀はその匂いを確かめてから、指先へ鼻を寄せた。

 

 少し冷たい感触に、マサシは笑った。

 

「昨日より、ずっといい顔してる」

 

 その横へ、ニドラン♂が並んだ。

 

 相方の肩に鼻を触れさせ、前脚を確かめるように顔を下げる。

 

 ニドラン♀は、その額を軽く押した。

 

「心配しすぎって言われてるぞ」

 

 ニドラン♂が顔を上げる。

 

 マサシの隣で、ヒトカゲが楽しそうに鳴いた。

 

*

 

 朝食のあと、マサシはセンターの裏庭へ出た。

 

 ニドランたちと出会った草原は、道を少し戻ったところにある。

 

 野生の二体なら、戻る場所もあるだろう。

 

「ここからなら、昨日の道も近いな」

 

 マサシはしゃがみ、二体を見た。

 

「もうオニスズメの餌場には近づくなよ。ほかにも木の実はあるだろうし」

 

 ニドラン♀が耳を傾けた。

 

 ニドラン♂は、マサシの背後を見ている。

 

 そこには、朝の日差しを浴びる仲間たちがいた。

 

 ヒトカゲは地面に座り、ビードルと向き合っている。

 

 ポッポは柵の上、トランセルはマサシのリュックのそばだ。

 

 ニドラン♂が、そちらへ歩き出した。

 

「ん?」

 

 トランセルの前で止まり、顔を近づける。

 

 トランセルが体を揺らした。

 

 ビードルも寄ってきたが、ニドラン♂の額の角を見て、少しだけ動きを止める。

 

「角同士、ぶつけんなよ」

 

 マサシが声をかけると、ニドラン♂はビードルの隣へ回った。

 

 ニドラン♀も、そのあとを追う。

 

 ヒトカゲが二体へ何かを話しかけた。

 

 ニドラン♀はすぐに鼻を寄せたが、ニドラン♂は少し離れて座る。

 

 それでも、草原へ帰ろうとはしなかった。

 

 マサシは立ち上がり、リュックを肩へかけた。

 

「俺たちは、おつきみやまへ行くんだ」

 

 二体の耳が、同時にこちらを向く。

 

「山を越えて、次の街のジムに挑戦する。昨日みたいに走り回る日もあるし、バトルもするぞ」

 

 ニドラン♂が立ち上がった。

 

 マサシの前まで来て、靴の横へ座る。

 

 ニドラン♀も並んだ。

 

「……一緒に来たいのか?」

 

 ニドラン♂が、はっきりと鳴いた。

 

 ニドラン♀も、続けて声を上げる。

 

 マサシは二体を見つめた。

 

 昨日は、手を伸ばすだけで警戒されていた。

 

 今は二体とも、自分の足で目の前まで来ている。

 

「そっか」

 

 リュックを下ろし、空のモンスターボールを二つ取り出した。

 

「だったら、よろしく」

 

 二体の前へ、それぞれ差し出す。

 

「無理に入らなくていいからな。嫌だったら——」

 

 言い終わる前に、ニドラン♂がボールのボタンを鼻で押した。

 

「あっ」

 

 赤い光が、その体を包む。

 

 隣ではニドラン♀も、そっともう一つのボールへ触れていた。

 

 二つのボールが、マサシの手の中で小さく揺れる。

 

 やがて、ほとんど同時に静かになった。

 

 マサシは少しの間、手のひらを見下ろしていた。

 

 それから笑って、二つを持ち上げる。

 

「……せっかちなとこは、似てるんだな」

 

 ヒトカゲが、早く出してあげろと言うように鳴いた。

 

「はいはい」

 

 ボールを開く。

 

 二体は現れるなり、互いの姿を確かめた。

 

 ニドラン♂が相方へ寄り、ニドラン♀が鼻先で押し返す。

 

「ちゃんと一緒だって」

 

 マサシが笑うと、ポッポが柵から舞い下りた。

 

 新しい仲間を囲むように、四体が集まる。

 

 これで、六体。

 

 マサシはその顔を、一体ずつ見渡した。

 

「みんな、仲良くやろうな」

 

*

 

 旅立つ支度を終え、受付へ戻ると、見覚えのある声が聞こえた。

 

「マサシ!」

 

 サトシが手を上げて駆け寄ってくる。

 

 後ろにはカスミとタケシもいた。

 

「お前、ここにいたのか!」

 

「昨日、ちょっとあってな」

 

 マサシが足元へ目を向ける。

 

 ニドラン♂が、サトシを見上げた。

 

 ニドラン♀はその隣から、ピカチュウへ鼻先を伸ばす。

 

「ピカ?」

 

「ニド」

 

「新しい仲間か?」

 

「ああ。今朝から」

 

「二体とも!? いいなあ!」

 

 サトシがしゃがみ込むと、ニドラン♂が一歩前へ出た。

 

 相方の前を塞ぐ、その動きに、マサシが苦笑する。

 

「こいつ、ちょっと心配性でさ」

 

「そっか。よろしくな!」

 

 サトシは無理に触らず、笑って挨拶した。

 

 タケシが二体の様子を見て頷く。

 

「元気そうだな。よく懐いてるじゃないか」

 

「昨日は近づくだけで怒られたけどな」

 

「ちゃんと助けてくれたの、わかってるのね」

 

 カスミが言った。

 

 マサシは照れくさくなり、リュックを背負い直す。

 

「まあ、これからもっと知ってくつもり」

 

 そのとき、リュックのそばに置いていたトランセルへ、サトシが気づいた。

 

「あれっ、キャタピーも進化したのか!」

 

「昨日な」

 

「すげえ! おめでとう、トランセル!」

 

 トランセルが体を揺らす。

 

 ピカチュウも近寄り、目を合わせて鳴いた。

 

 つい昨日、一緒にバトルした相手だ。

 

 マサシは二体を見ながら、口元を緩めた。

 

「次にやるときは、もっと強くなってるぞ」

 

「こっちだって負けないからな!」

 

 サトシの返事は、すぐだった。

 

*

 

 センターを出ると、山肌に開いた洞窟の入り口が見えた。

 

 サトシたちは、先に山道の売店へ寄っていくという。

 

「じゃあ、またな!」

 

「ああ。山ん中で会うかもな」

 

 手を振り、マサシは先へ歩き出した。

 

 足元では、ニドランたちが並んでいる。

 

 ニドラン♂は少し前。

 

 ニドラン♀は、マサシのすぐ隣。

 

 まだ互いの歩幅が合わず、ときどきどちらかが立ち止まった。

 

 マサシも、そのたびに足を緩める。

 

「急がなくていいぞ」

 

 洞窟の前へ着くと、ひんやりした空気が頬に触れた。

 

 中は、外から見るより暗い。

 

 マサシはポッポたちをボールへ戻し、ニドランたちにも声をかけた。

 

「中の道がわかるまでは、ヒトカゲと行くよ。また出すからな」

 

 二体は洞窟の奥を見てから、マサシへ向き直った。

 

 それぞれをボールへ戻し、腰へ収める。

 

「頼むぞ、ヒトカゲ」

 

「カゲ!」

 

 尻尾の炎が、岩の壁を橙色に照らした。

 

 二人分の足音が、洞窟の奥へ響いていく。

 

 しばらく進んだところで、ヒトカゲが立ち止まった。

 

「どうした?」

 

 小さな羽音が聞こえる。

 

 岩の隙間で、何かがもがいていた。

 

 青い翼。

 

 ズバットだった。

 

 片方の翼が、壁に立てかけられた板と岩の間に挟まっている。

 

「……動くなよ。今どけるから」

 

 マサシは荷物を下ろした。

 

 板の端を持ち、ゆっくり浮かせる。

 

 ズバットが翼を引き抜いた。

 

 勢いよく飛び出しかけ、すぐ近くの岩へぶら下がる。

 

「大丈夫そうか?」

 

 ヒトカゲの明かりを少し離す。

 

 ズバットは一度翼を広げると、今度は滑らかに飛び上がった。

 

 そのまま暗がりへ消えていく。

 

「よし」

 

 マサシが板を安全な場所へ寝かせた、そのときだった。

 

「おや、そのズバットを助けてくれたのかい?」

 

 奥から、懐中電灯の光が揺れた。

 

 ヘルメットをかぶった青年が、岩陰から姿を現す。

 

「僕はリカオ。この山で、ポケモンと石の関係を調べているんだ」

 

「俺はマサシ。こっちはヒトカゲ」

 

 挨拶したヒトカゲへ、リカオも笑って手を上げた。

 

「山を越えるところ?」

 

「ああ。でも、入ったばっかりで道は全然」

 

「それなら途中まで一緒に行こう。道具を片づけるつもりだったんだけど、先に面白いものを見せてあげられるかもしれない」

 

「面白いもの?」

 

 リカオが懐中電灯を奥へ向けた。

 

 その先の岩陰で、小さな影が動く。

 

 丸い耳。

 

 淡い桃色の体。

 

 一瞬だけ顔を覗かせたポケモンが、すぐに隠れた。

 

 マサシが目を丸くする。

 

 リカオは唇の前へ指を立て、声を落とした。

 

「驚かせないようにね。この山の、大事な住人なんだ」

 

 ヒトカゲの炎が、静かに揺れた。

 

第17話終了

 

次回・第18話「月明かりのない洞窟!ピッピが守るもの」

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