ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第18話 月明かりのない洞窟!ピッピが守るもの

岩陰から、丸い耳が覗いていた。

 

 マサシが足を止めると、桃色のポケモンも動きを止めた。

 

「……ピッピ?」

 

「そう。この山に暮らしているんだ」

 

 リカオが懐中電灯を少し下げる。

 

 光を直接向けないようにすると、ピッピはゆっくり顔を出した。

 

「ピッピ」

 

 隣のヒトカゲが、小さく手を上げる。

 

「カゲ」

 

 ピッピの耳が動いた。

 

 マサシとヒトカゲを交互に見てから、今度はリカオへ近づいていく。

 

「知り合いなの?」

 

「何度か会ってるよ。もっとも、いつも会えるわけじゃないけどね」

 

 リカオがしゃがむ。

 

 ピッピは何かを伝えようとするように、短く鳴いた。

 

 奥へ数歩進み、振り返る。

 

 リカオの表情が変わった。

 

「……様子が変だな」

 

 ピッピはもう一度鳴いた。

 

 今度は、急かすような声だった。

 

*

 

 通路が広くなるにつれ、足元に細かな石が増えてきた。

 

 マサシはヒトカゲの炎で地面を確かめながら進んだ。

 

 前を行くピッピが、曲がり角で止まる。

 

 その向こうから、金属が岩を叩く音が聞こえた。

 

「もう少し丁寧に扱いなさいよ! 割れちゃったらどうするの!」

 

「だったら、お前も運ぶのを手伝えよ!」

 

「口ばっかり動かしてないで、さっさと積むニャ!」

 

 マサシが眉を上げた。

 

「……聞き覚えあるな」

 

 曲がり角から覗く。

 

 広い空洞の中央に、手押しの運搬台が置かれていた。

 

 荷台には、いくつもの石。

 

 その周りで動いているのは、白い制服の二人組と、二本脚で立つニャースだった。

 

「やっぱり」

 

 マサシが姿を見せると、ムサシが顔を上げた。

 

「あら? あんた、どこかで……」

 

「トキワのポケモンセンターにいたガキじゃないか!」

 

 コジロウが指をさす。

 

 ニャースもこちらを見た。

 

「あのヒトカゲまでいるニャ!」

 

 ヒトカゲが一歩前へ出た。

 

 マサシは運搬台へ目を向ける。

 

「今度は何を持ってく気?」

 

「聞かれたからには答えてあげるわ!」

 

 ムサシが胸を張った。

 

「この山に眠る、お宝の石よ!」

 

「強いポケモンをたくさん進化させれば、俺たちの戦力は一気に上がる!」

 

「余った石を売れば、お金も入って一石二鳥ニャ!」

 

「……その石が全部、進化に関係するとは限らないよ」

 

 リカオが静かに言った。

 

 ムサシが振り向く。

 

「何よ、あんた」

 

「ここで調査をしているリカオだ。その石はどこから運んだんだい?」

 

「そこらへんよ、そこらへん!」

 

 ムサシが手を振る。

 

 その背後で、ピッピが強く鳴いた。

 

「ピッピッ!」

 

 荷台へ駆け寄ろうとする。

 

 ニャースが前を塞いだ。

 

「駄目ニャ。もうニャーたちのものニャ!」

 

 ピッピが足を止める。

 

 マサシは一歩進んだ。

 

「返してやれよ」

 

 ムサシの口元から笑みが消えた。

 

「邪魔するなら、容赦しないわよ。アーボ!」

 

「出てこい、ドガース!」

 

 二つのボールが開いた。

 

 紫色の体が岩の上を滑り、丸いポケモンが宙へ浮く。

 

 ヒトカゲが身構えた。

 

 マサシは、天井と足元へ素早く目を向ける。

 

 空洞は広い。

 

 けれど奥にはピッピたちがいるかもしれない。

 

「リカオさん。ピッピと下がって」

 

 そう言いながら、腰のボールを取った。

 

「ポッポ、頼む!」

 

 現れたポッポが、ヒトカゲの斜め上へ舞い上がった。

 

*

 

「アーボ、まきつく!」

 

 アーボが地面を蹴るように飛び出した。

 

「かわせ!」

 

 ヒトカゲが横へ跳ぶ。

 

 その着地点へ、ドガースが近づいていた。

 

「たいあたり!」

 

 コジロウの声が響く。

 

「ポッポ、横から押せ!」

 

 ポッポが翼を打った。

 

 風を受けたドガースの軌道がずれる。

 

 ヒトカゲの脇を通り過ぎ、岩壁の手前で慌てて止まった。

 

「ひのこ!」

 

 ヒトカゲの口から火の粒が飛ぶ。

 

 だが、アーボが体を引いた。

 

 炎はその背をかすめ、岩の上で消える。

 

「ふふん、そう簡単にはいかないわよ!」

 

 ムサシが腕を振った。

 

「アーボ、にらみつける!」

 

 アーボが首を持ち上げる。

 

 鋭い目に捉えられ、ヒトカゲの動きが一瞬止まった。

 

「ドガース、もう一発!」

 

 背後から迫る丸い影。

 

「上へ!」

 

 ヒトカゲが跳ぶ。

 

 足をかすめられ、着地が乱れた。

 

 そこへアーボの尾が伸びる。

 

「カゲッ!」

 

 腕で受けたものの、体が押される。

 

 マサシは口を引き結んだ。

 

 二体を別々に見ていたら、間に合わない。

 

 アーボが前を塞ぎ、ドガースが横や後ろから狙う。

 

 それなら——。

 

「ヒトカゲ、こっちへ下がれ!」

 

 ヒトカゲがマサシ側へ戻った。

 

 アーボが追う。

 

 ドガースも、その頭上から近づいてくる。

 

「逃がさないわよ!」

 

「挟み撃ちだ!」

 

 マサシは、二体の位置が重なる瞬間を見た。

 

「ポッポ、かぜおこし!」

 

 風が、正面から吹きつけた。

 

 地を這うアーボは低く構えて耐える。

 

 だが、浮いているドガースは押し戻された。

 

「ドガッ!?」

 

 背後のアーボへぶつかる。

 

 二体の動きが止まった。

 

「ひのこ!」

 

 火の粒が、まとまって飛んだ。

 

 逃げ場を失ったアーボとドガースに当たり、二体が左右へよろめく。

 

「ちょっと! 何ぶつかってるのよ!」

 

「風で押されたんだから仕方ないだろ!」

 

 言い争う二人の前で、マサシはすぐに続けた。

 

「ヒトカゲ、回り込め! ポッポは上!」

 

 ヒトカゲが走る。

 

 アーボが向きを変え、追おうとした。

 

 その頭上へ、ポッポの影が差す。

 

 アーボが反射的に顔を上げた。

 

「今だ、ひのこ!」

 

 横から放たれた炎が、アーボを捉えた。

 

 岩の上へ倒れた体は、すぐには起き上がらない。

 

「アーボ!」

 

「だったらこっちだ! ドガース、たいあたり!」

 

 ドガースが、今度はポッポへ向かった。

 

 マサシはその動きを追う。

 

「引きつけろ!」

 

 ポッポは高く逃げず、その場で翼を動かした。

 

 ドガースが迫る。

 

 ぶつかる寸前だった。

 

「かわせ!」

 

 ポッポが翼を傾ける。

 

 ドガースの体が空を切った。

 

「後ろから、かぜおこし!」

 

 振り返ったポッポが、強く羽ばたく。

 

 勢いをつけられたドガースが、そのままムサシたちのほうへ流れていく。

 

「ニャ、こっち来るニャ!」

 

「止まれ、止まれって!」

 

 ドガースはコジロウへぶつかった。

 

 隣のムサシとニャースも巻き込み、三人が重なるように倒れる。

 

 マサシは、息を整えるヒトカゲの隣へ立った。

 

「まだやる?」

 

 ポッポが、その肩の上を旋回する。

 

 ムサシは倒れたアーボをボールへ戻し、悔しそうに歯を食いしばった。

 

「……覚えてなさいよ!」

 

「今日は引き上げるぞ!」

 

「早いとこ逃げるニャ!」

 

 ドガースもボールへ戻される。

 

 ロケット団は互いを押しのけるように、通路の奥へ走っていった。

 

 足音が遠ざかってから、マサシは肩を落とした。

 

「……忙しい連中だな」

 

 ヒトカゲが、同意するように鳴いた。

 

*

 

「二体の位置を重ねたんだね」

 

 リカオが近づいてきた。

 

 マサシはヒトカゲの腕を確かめながら頷く。

 

「別々に来られると、片方を避けてももう片方が来るから。だったら、まとめて止めようと思って」

 

「相手も二体で戦うつもりが、動きを邪魔し合っていたね」

 

「こっちも気をつけないとな」

 

 マサシがポッポを見上げる。

 

「風、助かったぞ」

 

「ポッ!」

 

 ポッポが胸を張った。

 

 ヒトカゲも隣から手を上げる。

 

 その二体の前へ、ピッピが歩いてきた。

 

「ピッピ」

 

 小さく頭を下げる。

 

 それからマサシの手に触れ、運搬台のほうへ向かった。

 

 荷台には、淡く光を返す石が混じっていた。

 

 リカオが一つ持ち上げ、表面を確かめる。

 

「……やはり、奥のほうから運んできたんだ」

 

「大事な石なの?」

 

「ピッピたちが、特別に扱っている石があるんだよ。僕も、全部を知っているわけじゃないけどね」

 

 ピッピが、その石へ両手を伸ばした。

 

 リカオはすぐに返す。

 

 石を抱えたピッピは、通路の向こうへ歩き始めた。

 

 

「待って。残りも戻すのか?」

 

 マサシが声をかけると、ピッピは振り返って頷いた。

 

「じゃあ、これで運ぼう」

 

 運搬台の取っ手を握る。

 

 少し重い。

 

 マサシはヒトカゲへ顔を向けた。

 

「後ろ、押せる?」

 

「カゲ!」

 

 リカオも横へつき、崩れそうな石を押さえた。

 

 ポッポが前を飛び、ピッピのあとを追う。

 

 車輪の音が、洞窟に響き始めた。

 

*

 

 ピッピが案内したのは、岩の間に隠れるように開いた細い道だった。

 

 運搬台をいったん止め、石を何度かに分けて奥へ運ぶ。

 

 最後の一つを抱えたマサシが通り抜けると、急に視界が広がった。

 

「……こんな場所が」

 

 大きな空洞だった。

 

 高い天井の隙間から、細い光が差し込んでいる。

 

 その下に、何体ものピッピがいた。

 

 マサシたちを見ると、一斉に動きを止める。

 

 先導していたピッピが駆け寄り、抱えていた石を見せながら鳴いた。

 

「ピッピ、ピッピ!」

 

 ほかのピッピたちの表情が変わる。

 

 マサシが石を下ろすと、小さな手がいくつも伸びてきた。

 

 ヒトカゲも、持っていた石を渡す。

 

 受け取ったピッピが、嬉しそうに跳ねた。

 

 マサシは空洞の中央へ目を向けた。

 

 そこには、ひときわ大きな石があった。

 

 周囲のピッピたちは、戻ってきた石をそのそばへ並べている。

 

 リカオが静かに帽子を取った。

 

「ここへ入れてもらったのは、僕も初めてだ」

 

「……大事な場所なんだな」

 

 マサシは声を落とした。

 

 先ほどのピッピが戻ってきて、マサシの袖を引く。

 

 まだ帰らないで、と言うように。

 

 マサシはしゃがんだ。

 

「ここにいていいのか?」

 

「ピッピ!」

 

 弾んだ返事。

 

 隣のヒトカゲも、興味深そうに中央の石を見つめていた。

 

 マサシはリカオと顔を見合わせる。

 

 それから運搬で少し痛くなった腕を回し、岩のそばへ腰を下ろした。

 

「じゃあ、少しだけお邪魔するよ」

 

 ピッピたちが、中央へ集まっていく。

 

 洞窟の奥に、柔らかな鳴き声が重なり始めた。

 

第18話終了

 

次回・第19話「ピッピたちの祈り!月の石と新しい殻」

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