ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第19話 ピッピたちの祈り!月の石と新しい殻

ピッピたちの声が、洞窟の天井へ重なっていく。

 

 マサシは壁際の岩に座り、その様子を眺めていた。

 

 空洞の中央には、大きな石。

 

 ロケット団から取り戻した石も、その周りへ並べられている。

 

 一体のピッピが両手を上げると、ほかのピッピたちも同じように手を上げた。

 

 ゆっくりと輪が動き始める。

 

「……踊ってる?」

 

 マサシが声を落とすと、隣のリカオが頷いた。

 

「そうみたいだね」

 

「何のために?」

 

「それは、僕にもまだわからない」

 

 リカオはノートを開きかけ、少し考えて閉じた。

 

「今は、見せてもらおう」

 

 マサシも頷いた。

 

 ヒトカゲは足元に座り、揺れるピッピたちを目で追っている。

 

 ほかの仲間たちにも見せたくなり、マサシは先導してくれたピッピへボールを示した。

 

「みんなも出していいか?」

 

 ピッピはボールとマサシを交互に見てから、明るく鳴いた。

 

 マサシは笑って、仲間たちを呼んだ。

 

 ポッポは低い岩へ止まる。

 

 トランセルはマサシの隣へ。

 

 ビードルはその前で体を起こし、ニドランたちは耳を立てた。

 

「静かにな」

 

 マサシが言うと、ニドラン♂がさっそく一歩前へ出た。

 

 近くのピッピが跳ねたのを見て、つられたらしい。

 

 ニドラン♀が、その脇腹を鼻で押す。

 

「お前、見張りやめたら結構落ち着きないな」

 

 マサシが小さく笑った。

 

*

 

 天井の隙間から差し込んでいた光が、少しずつ細くなっていった。

 

 空洞の中が暗さを増すにつれ、中央の石が、ほのかに光を返し始める。

 

 ピッピたちは輪を狭めた。

 

 両手を上げ、空を見上げる。

 

 マサシもつられて天井へ顔を向けた。

 

 岩の隙間のずっと向こうに、小さな空がある。

 

 そこで起きた光の変化に合わせるように、ピッピたちの声が高くなった。

 

「ピッピ、ピッピ!」

 

 跳ねる。

 

 着地する。

 

 また跳ねる。

 

 ヒトカゲの尻尾の炎まで、声に合わせて揺れているようだった。

 

 マサシはその横顔を見た。

 

「楽しいか?」

 

「カゲ」

 

 ヒトカゲが頷く。

 

 そのそばで、ビードルも頭を揺らしていた。

 

 けれど次の瞬間、ビードルの動きが止まった。

 

 細い足が、岩の上へかかる。

 

「……どうした?」

 

 ビードルは輪の向こうを見ていた。

 

 マサシも視線を追った。

 

 壁際の斜面に、小さな石が積まれている。

 

 ロケット団が石を運び出すときに崩したのか、足元の土がえぐれていた。

 

 その一番上で、平たい石が傾く。

 

 下には、踊りの輪へ入ろうとしているピッピがいた。

 

「危ない!」

 

 マサシが立ち上がった。

 

 その前に、白い糸が飛んだ。

 

 ビードルの糸が、転がり始めた石へ巻きつく。

 

 だが、石は止まらない。

 

 ビードルの体が前へ引かれた。

 

「ヒトカゲ、支えろ!」

 

 ヒトカゲがビードルの後ろへ回った。

 

 両腕で体を支え、足を踏ん張る。

 

「ポッポ、ピッピの前へ!」

 

 ポッポが舞い下り、鋭く鳴いた。

 

 気づいたピッピが顔を上げる。

 

 石が糸を引き、斜面を滑った。

 

 マサシはピッピの脇へ駆け込み、両腕で抱える。

 

「離せ、ビードル!」

 

 糸が緩む。

 

 石は誰もいない地面へ落ち、鈍い音を立てて止まった。

 

 マサシはピッピを抱いたまま、ひとつ息を吐いた。

 

「……大丈夫か?」

 

「ピッ……」

 

 腕の中のピッピが、目を丸くしている。

 

 その向こうでは、ヒトカゲが座り込み、ビードルを支えていた。

 

「そっちも平気?」

 

「カゲ!」

 

 ビードルも、顔を上げた。

 

 マサシはようやく笑った。

 

「よく気づいたな、お前」

 

*

 

 リカオが斜面を確かめている間に、ピッピたちは落ちた石の周りへ集まった。

 

 先導してくれたピッピが、ビードルの前へ来る。

 

「ピッピ」

 

 小さな両手が、そっと差し出された。

 

 ビードルが鼻先を近づける。

 

 そのやり取りを見ながら、マサシはビードルの体についた土を払った。

 

「一体で止めようとしたの、びっくりしたぞ」

 

 ビードルがこちらを見る。

 

「でも、助かった。俺、気づくの遅れたからな」

 

 その頭を指で撫でると、ビードルは目を細めた。

 

 リカオが戻ってくる。

 

「崩れそうな石は、ほかにはなさそうだ。運び出すときに動かしたんだろうね」

 

「そっか」

 

「君たちがいてくれてよかった」

 

 マサシは足元のビードルを見た。

 

「こいつのおかげ」

 

 ビードルが胸を張るように体を起こした。

 

 ピッピたちの輪へ、さっき助けた一体が戻っていく。

 

 しばらくすると、再び声が重なり始めた。

 

 マサシたちも元の場所へ座った。

 

 今度はビードルが、マサシのすぐ隣にいる。

 

 中央の石を囲むピッピたちの姿が、淡い光の中で揺れていた。

 

*

 

 帰り道を教えてもらおうと立ち上がったとき、ピッピが一つの石を運んできた。

 

 両手に収まるほどの、小さな石だった。

 

 マサシの前へ来て、差し出す。

 

「……俺に?」

 

「ピッピ!」

 

 受け取っていいのか迷い、リカオを見る。

 

 リカオは石を覗き込み、目を細めた。

 

「つきのいしだね」

 

 マサシは手の中へ視線を落とした。

 

 でこぼこした表面に、細かな光が見える。

 

「これ、進化に関係する石?」

 

「そう。適したポケモンに使うと、進化を促すことがある」

 

 足元で、ニドラン♂が耳を動かした。

 

 マサシはその顔を見てから、石をくれたピッピへ向き直る。

 

「大事なものなんだろ。いいのか?」

 

 ピッピは、石を持つマサシの手を軽く押した。

 

 その後ろで、助けたピッピも頷いている。

 

 マサシは少し照れくさくなった。

 

「……ありがとな。大事にする」

 

 リュックから柔らかな布を出し、石を包む。

 

 ニドラン♂はその手元を見ていたが、やがて隣のニドラン♀へ鼻を寄せた。

 

 マサシは二体を見下ろし、笑った。

 

「まずは、もっとお互いのこと知ってからだな」

 

 包んだ石を、リュックの奥へしまった。

 

*

 

 ピッピに見送られ、元の通路へ戻ったころには、洞窟の中はすっかり暗くなっていた。

 

 リカオが地図を広げる。

 

「ここから少し進んだところに、休める場所がある。今日はそこで夜を明かしたほうがいい」

 

「出口は遠い?」

 

「急げば行けるかもしれない。でも、暗い中で道を探すより安全だよ」

 

 マサシは仲間たちを見た。

 

 ヒトカゲもポッポも、バトルと石運びを頑張ってくれた。

 

 ビードルも、今日はよく動いている。

 

「じゃあ、そうする」

 

「僕は手前の分かれ道から調査小屋へ戻る。ロケット団のことも知らせておかないとね」

 

 リカオは地図の一か所を指した。

 

「明日は、この道を進んで。大きな分岐には案内板があるはずだ」

 

「わかった。いろいろありがとう」

 

「こちらこそ。助かったよ」

 

 別れ際、リカオが手を差し出した。

 

 マサシも握り返す。

 

「またピッピに会ったら、よろしく言っといて」

 

「ああ。きっと覚えていると思うよ」

 

 懐中電灯の光が、別の通路へ遠ざかっていった。

 

*

 

 教えてもらった場所は、通路より一段高くなった、乾いた岩棚だった。

 

 天井もしっかりしていて、冷たい風も直接吹き込まない。

 

 マサシは敷物を広げ、仲間たちに食事を配った。

 

「今日はここまで。もう走らないから、安心して食えよ」

 

 ニドラン♂が顔を上げる。

 

「お前に言ってんの」

 

 隣のニドラン♀が、小さく鳴いた。

 

 食事が終わると、ポッポは岩のくぼみへ落ち着き、ニドランたちも並んで丸くなった。

 

 マサシはトランセルを敷物の端へ寝かせ、隣を軽く叩いた。

 

「ビードルも、ここで——」

 

 呼びかけが止まった。

 

 ビードルの体が、白く光っていた。

 

 ヒトカゲが顔を上げる。

 

 光の中で、小さな体が伸びていく。

 

 丸みのあった輪郭が細長くなり、硬い殻に包まれた。

 

 光が消える。

 

 そこには、一体のコクーンがいた。

 

「……お前もか」

 

 マサシは目を丸くしたあと、ゆっくり笑った。

 

 コクーンが体を揺らす。

 

 その目は、真っすぐマサシを見ていた。

 

「進化、おめでとう」

 

 そっと手を添える。

 

 ついさっきまで撫でていた体とは、違う感触だった。

 

 ヒトカゲが近づき、声をかける。

 

 ポッポも目を覚まし、ニドランたちが敷物の上へ集まった。

 

 隣にいたトランセルが、わずかに体を動かす。

 

 マサシは二体を並べた。

 

「森で会ったときは、二体ともあんなに小さかったのにな」

 

 緑の殻と、黄色い殻。

 

 二体はしばらく、互いを見つめていた。

 

 マサシはその前へ横になり、片肘をつく。

 

「今度は、どっちが先に空を飛ぶんだろうな」

 

 答えを急ぐつもりはなかった。

 

 今日は、コクーンになった姿をゆっくり見ていられる。

 

 ヒトカゲの炎が、二体の殻を柔らかく照らしていた。

 

第19話終了

 

次回・第20話「洞窟の出口へ!ニドラン♂、初めての一戦」

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