ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第20話 洞窟の出口へ!ニドラン♂、初めての一戦

目を覚ますと、ヒトカゲが顔を覗き込んでいた。

 

「……わかった。起きる」

 

 マサシは寝袋から腕を出し、ゆっくり体を起こした。

 

 岩棚の上には、仲間たちが集まっている。

 

 ポッポは羽を整え、ニドランたちは並んで水を飲んでいた。

 

 トランセルの隣には、昨夜進化したコクーンがいる。

 

 マサシはその前へしゃがんだ。

 

「おはよう、コクーン」

 

 黄色い殻が、わずかに揺れた。

 

 昨日までのビードルとは違う姿。

 

 それでも、呼びかけるとすぐにこちらを見るところは同じだった。

 

「今日は外に出るぞ。そしたら、日なたで休もうな」

 

 コクーンの隣で、トランセルも体を動かした。

 

*

 

 朝食と片づけを済ませ、マサシたちは通路へ戻った。

 

 トランセルとコクーン、ポッポはボールの中。

 

 ヒトカゲが少し前を照らし、ニドランたちがマサシのそばを歩いている。

 

 ニドラン♂は、岩の隙間があるたびに鼻先を向けた。

 

「そっちは道じゃないぞ」

 

 声をかけると戻ってくる。

 

 けれど、次の隙間でもまた立ち止まる。

 

「……気になるもの、多いな」

 

 マサシが笑ったとき、前を歩くヒトカゲが足を止めた。

 

 通路が二つに分かれている。

 

 壁際には、木の板が倒れていた。

 

 拾い上げると、矢印と『出口』の文字が見える。

 

「これか、リカオさんが言ってた案内板」

 

 マサシは分かれ道を見比べた。

 

 板を支えていた杭は折れている。どちらを向いていたのか、すぐにはわからなかった。

 

「……倒れるなら、わかるように倒れてくれよ」

 

 ヒトカゲが振り返る。

 

「お前に言ってないって」

 

 マサシはリカオに教わった道順を思い返した。

 

 大きな分岐までは一本道。

 

 その先は——。

 

 足元で、ニドラン♂の耳が動いた。

 

 右の通路へ顔を向ける。

 

「どうした?」

 

 ニドラン♂は、その場でじっとしていた。

 

 マサシも耳を澄ませる。

 

 しばらくして、かすかな音が聞こえた。

 

 靴が小石を踏む音。

 

 やがて右の通路から、帽子をかぶった男性が現れた。

 

「おや、こんなところでどうした?」

 

「出口を探してるんです。案内板が倒れてて」

 

「ああ、それでか。出口なら、こっちだよ」

 

 男性が歩いてきた通路を指さす。

 

 マサシは息を吐いた。

 

「助かった……。ありがとうございます」

 

「この先は大きな分かれ道もない。もう少しだから、気をつけてな」

 

 男性を見送り、マサシはニドラン♂の前へしゃがんだ。

 

「足音、聞こえたんだな」

 

 大きな耳が、こちらへ向く。

 

「ありがと。迷わずに済んだ」

 

 ニドラン♂は少し胸を張った。

 

 その隣で、ニドラン♀が耳を揺らした。

 

*

 

 通路の先が白く見えたとき、マサシの歩幅が大きくなった。

 

 光が近づく。

 

 出口をくぐると、風が前髪を揺らした。

 

「……出た!」

 

 青い空。

 

 草の匂い。

 

 振り返れば、大きな山肌に洞窟の入り口が開いている。

 

 ヒトカゲが両腕を上げた。

 

 ニドラン♂は近くの草へ駆け寄り、ニドラン♀もそのあとを追う。

 

 マサシは日当たりのいい平らな場所を見つけ、残りの三体をボールから出した。

 

 ポッポが勢いよく飛び立つ。

 

 トランセルとコクーンには、敷物を広げた。

 

「ほら、外だぞ」

 

 二体の目が、空へ向いた。

 

 マサシもその隣へ座る。

 

「洞窟も面白かったけど、やっぱ明るいほうが歩きやすいな」

 

 頭上をポッポの影が横切った。

 

 少し休んでから、地図を広げる。

 

 次の目的地は、ハナダシティ。

 

 山を下る道は、その街へ続いていた。

 

*

 

 昼過ぎ、道沿いの草原でマサシは声をかけられた。

 

「君もトレーナー?」

 

 振り向くと、同じくらいの年頃の少年が立っていた。

 

 足元にはコラッタがいる。

 

「そうだけど」

 

「よかったら、一勝負しない?」

 

 マサシが返事をする前に、ニドラン♂が前へ出た。

 

 額の角を少し上げ、コラッタを見つめる。

 

「……お前、やる気か?」

 

「ニドッ!」

 

 はっきりした返事だった。

 

 マサシはニドラン♂の前へしゃがんだ。

 

「俺とバトルするの、初めてだぞ。声、ちゃんと聞けよ」

 

 ニドラン♂は耳をこちらへ向けた。

 

 マサシは笑い、少年へ頷いた。

 

「一対一で頼む」

 

「わかった。僕はシンジ!」

 

「マサシ」

 

 二人は道から離れ、草の短い場所へ移った。

 

 ニドラン♀はヒトカゲの隣へ座る。

 

 ニドラン♂が一度だけ振り返った。

 

「こっちは大丈夫。前、見てろ」

 

 マサシに言われ、相手へ向き直る。

 

「いくよ! コラッタ、たいあたり!」

 

 コラッタが走った。

 

「ニドラン、かわせ!」

 

 ニドラン♂が横へ跳ぶ。

 

 コラッタの体が脇を抜けた。

 

 だが、避けた勢いのまま大きく離れすぎてしまう。

 

 振り返ったときには、コラッタが次の突進へ入っていた。

 

「つのでつく!」

 

 ニドラン♂が角を突き出して駆ける。

 

「横へ!」

 

 シンジの声で、コラッタが進路を変えた。

 

 角が空を切る。

 

 ニドラン♂はすぐに止まれず、数歩走り抜けた。

 

「コラッタ、後ろから!」

 

 背中へ体当たりが入る。

 

 ニドラン♂が草の上を転がった。

 

「ニドラン!」

 

 起き上がった体に、大きな怪我はない。

 

 けれど、口元に力が入りすぎていた。

 

 またすぐに駆け出そうとする。

 

「待て!」

 

 ニドラン♂の足が止まった。

 

 マサシはしゃがまず、その目を見た。

 

「今の、避けられてからも走ってたぞ」

 

 ニドラン♂の耳が動く。

 

「角を当てようとして、前しか見えてない」

 

 相手のコラッタが、再び低く構えた。

 

 マサシはその位置を確かめる。

 

「今度は、こっちから追いかけなくていい」

 

「コラッタ、たいあたり!」

 

 コラッタが迫る。

 

 ニドラン♂が身を固くした。

 

「小さくかわせ!」

 

 今度は、ほんの少しだけ横へずれた。

 

 肩が触れそうな距離を、コラッタが抜ける。

 

 ニドラン♂が踏ん張った。

 

 足が止まる。

 

「振り向け!」

 

 コラッタも向きを変えようとしていた。

 

 二体の目が合う。

 

「つのでつく!」

 

 短い距離を、ニドラン♂が踏み込んだ。

 

 角がコラッタの脇腹を捉える。

 

「コラッ!」

 

 押されたコラッタが、草の上へ跳ねた。

 

「よし!」

 

 マサシの声に、ニドラン♂が耳を立てる。

 

 すぐに追おうとする足を、自分で止めた。

 

 それを見て、マサシは口元を緩めた。

 

「そう。それでいい」

 

 シンジが声を張る。

 

「コラッタ、まだいける! でんこうせっか!」

 

 コラッタの速度が上がった。

 

 一直線に迫ってくる。

 

 さっきより速い。

 

 ニドラン♂の体が、反射的に前へ出かけた。

 

「待て!」

 

 耳が動く。

 

 マサシはぎりぎりまで相手を見た。

 

「今だ、かわせ!」

 

 ニドラン♂が横へ動く。

 

 コラッタの体がかすめた。

 

 少しよろめく。

 

 それでも、前脚を踏ん張った。

 

「切り返せ!」

 

 ニドラン♂が向き直る。

 

 コラッタは、まだ走り抜けた勢いを殺しているところだった。

 

「つのでつく!」

 

 ニドラン♂が地面を蹴った。

 

 今度は迷いなく、短く鋭く。

 

 角を受けたコラッタが倒れる。

 

 起き上がろうと前脚をついたが、そのまま伏せた。

 

 シンジが駆け寄った。

 

「……僕たちの負けだ」

 

 コラッタを抱き上げ、背中を撫でる。

 

「頑張ったね」

 

 マサシもニドラン♂へ近づいた。

 

「初勝利だな」

 

 ニドラン♂は少し息を切らしていた。

 

 それでも、顔は真っすぐ上がっている。

 

 マサシが差し出した手へ、鼻先を押しつけた。

 

「ちゃんと止まれたじゃん」

 

「ニドッ!」

 

 明るい声が返った。

 

*

 

 バトルのあと、二人は道端の木陰でポケモンたちを休ませた。

 

「最初は、突っ込んでくるだけかと思ったんだけどな」

 

 シンジが言う。

 

 マサシはニドラン♂についた草を払った。

 

「こいつとは、一緒に戦うの初めてだったから。どれくらい走って、どこで止まれるか、俺もわかってなかった」

 

「途中から、全然追いかけてこなくなったね」

 

「コラッタのほうが速かったし。追いかけるより、来たとこ狙うほうがよさそうだった」

 

 シンジが自分のコラッタを見下ろす。

 

「僕も、もっと違う攻め方を考えないと」

 

「また会ったらやろうぜ」

 

「うん!」

 

 差し出された手を、マサシは握った。

 

 その横で、ニドラン♀が相方へ近づく。

 

 ニドラン♂はすぐに顔を上げ、角を少し傾けた。

 

 何かを伝えるように鳴いてから、短く前へ踏み出す。

 

 ニドラン♀はその動きを見て、鼻先で頬をつついた。

 

 ヒトカゲが楽しそうに声を上げる。

 

「……さっそく自慢してるな」

 

 マサシは笑った。

 

*

 

 再び歩き始めると、道は緩やかな下り坂になった。

 

 ニドラン♂はマサシの少し前を進んでいる。

 

 ときどき振り返り、こちらを確かめる。

 

 マサシが足を止めると、今度はすぐに立ち止まった。

 

「お、覚えた?」

 

 大きな耳が、ぴんと立つ。

 

「毎回バトルじゃないから、そんな構えなくていいって」

 

 ニドラン♀が隣へ並び、二体で歩き出した。

 

 その向こうに、町の屋根が小さく見え始める。

 

 マサシは目を細めた。

 

「ハナダかな」

 

 ヒトカゲが背伸びをする。

 

 ポッポが少し高く飛び、先を見渡した。

 

 昨日は洞窟の中にいた。

 

 今日は山を越え、新しい仲間と初めてのバトルをした。

 

 腰のボールへ手を添え、マサシは坂を下る。

 

「あと少し、行こうぜ」

 

 足元で、二体分の元気な返事が重なった。

 

第20話終了

 

次回・第21話「六体の歩幅!それぞれの得意なこと」

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