ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第21話 六体の歩幅!それぞれの得意なこと

ハナダシティへ続く道の脇に、水場のある休憩所があった。

 

 マサシはベンチへリュックを下ろし、腰のボールを手に取った。

 

「ちょっと休もう。そのあと、みんなで練習な」

 

 現れたポッポが、近くの枝へ飛び移る。

 

 トランセルとコクーンは日当たりのいい場所へ。

 

 ヒトカゲとニドランたちは、水場へ向かった。

 

 ニドラン♂が、相方の前へ回り込む。

 

 低く構え、少し走って止まる。

 

 ニドラン♀は水を飲んだまま、耳だけをそちらへ向けた。

 

「まださっきの話してるのか」

 

 マサシが笑う。

 

 ニドラン♂は顔を上げ、得意げに鳴いた。

 

「勝ったのは偉いけど、足、痛くない?」

 

 前脚と後脚を確かめる。

 

 歩き方にも、おかしなところはない。

 

「よし。じゃあ、さっきできたこと、忘れないうちにやっとこう」

 

*

 

 休憩所の奥には、短い草の生えた空き地があった。

 

 マサシは倒れていた小枝を一本拾い、地面へ置く。

 

「ここまで走って、止まる。角は当てなくていいぞ」

 

 ニドラン♂が構えた。

 

「いけ!」

 

 勢いよく駆け出す。

 

 小枝の手前で踏ん張ったが、止まりきれずに越えた。

 

「ニド……」

 

「今の速さだと、もうちょっと前から止まらないとな」

 

 マサシは小枝を拾い直した。

 

「バトルで角を出すのは、相手が近くなってからでいい。遠くからずっと構えてると、曲がりにくいだろ?」

 

 ニドラン♂が自分の角を見ようとするように、顔を傾ける。

 

 ヒトカゲが横から覗き込み、真似をして前かがみになった。

 

「お前は角ないだろ」

 

「カゲ」

 

 ニドラン♀が、小さく鳴いた。

 

 笑われたと思ったのか、ニドラン♂がすぐに位置へ戻る。

 

「そんな張り切らなくていいって。もう一回な」

 

 二度目は、小枝のすぐ先で止まった。

 

 三度目には、踏まずに止まれる。

 

 マサシが手を上げた。

 

「よし、そこ!」

 

 ニドラン♂はその場で振り向き、駆け戻ってきた。

 

 マサシの手前でも、きちんと止まる。

 

「いいじゃん」

 

 頭を撫でると、満足そうに目を細めた。

 

 その隣へ、ニドラン♀が進み出た。

 

「お前もやる?」

 

 ニドラン♀は、少し離れた切り株へ顔を向けた。

 

 小さな針が飛ぶ。

 

 乾いた音を立て、樹皮へ刺さった。

 

 マサシは目を丸くする。

 

「どくばり、使えるのか」

 

 ニドラン♀が耳を起こす。

 

 近づいて確かめると、狙ったらしい切り株の中央近くに当たっていた。

 

「上手いな。もう少し離れてもいける?」

 

 場所を変え、もう一度試す。

 

 今度は少し下へ当たった。

 

 さらに離すと、手前の地面に落ちる。

 

「なるほど。今はこのくらいか」

 

 マサシは、最初の位置へ戻った。

 

「無理に遠くから狙うより、ちゃんと当たる距離で使おうな」

 

 ニドラン♀が頷くように頭を動かす。

 

 すぐ横で見ていたニドラン♂が、切り株へ駆け出しかけた。

 

「張り合わなくていい!」

 

 声をかけると、ぴたりと止まった。

 

 マサシはその姿を見て、吹き出した。

 

「……止まる練習は、効いてるな」

 

*

 

 ヒトカゲとポッポの練習は、空き地の端で行った。

 

「ポッポ、弱くかぜおこし!」

 

 翼が動く。

 

 草が同じ方向へなびいた。

 

「ヒトカゲ、ひのこ!」

 

 小さな火の粒が、風に乗った。

 

 いつもより広く散り、狙っていた裸の地面を越えそうになる。

 

「ストップ!」

 

 マサシがすぐに声をかける。

 

 ポッポが羽ばたきを止めた。

 

 ヒトカゲも口を閉じる。

 

「……強く飛ばせばいいってもんでもないか」

 

 マサシは火が消えた地面へ近づき、残っていないことを確かめた。

 

 ヒトカゲが隣へ来て、同じ場所を見る。

 

「昨日の洞窟では、相手を風で寄せてから当てたろ。今度は火のほうを動かせるかと思ったんだけど」

 

 ポッポが、低く飛んで戻ってくる。

 

「散りすぎるな。もう少し、風の向き考えよう」

 

 今度はヒトカゲが火を放ったあと、その横から弱い風を当ててみた。

 

 火の粒が、わずかに進路を変える。

 

 全部が同じように曲がるわけではない。

 

 それでも、最初より狭い場所へ落ちた。

 

「お」

 

 マサシの口元が緩む。

 

「今の、ちょっと使えそう」

 

 ヒトカゲとポッポが顔を見合わせた。

 

「でも、まだ練習な。いきなりバトルでやって、変なとこ飛ばすなよ」

 

 言ったあとで、マサシは自分を指さした。

 

「俺もな」

 

*

 

 トランセルとコクーンは、日なたで並んでいた。

 

 マサシが前へ座ると、二体の目がこちらを向く。

 

「待たせたな」

 

 地面に落ちていた細い枝を拾い、二体へ見せた。

 

「かたくなる、確かめよう。痛かったらやめるから」

 

 最初にトランセルへ声をかける。

 

 緑の殻に光沢が走った。

 

 枝で軽く触れると、硬い音がする。

 

「おお」

 

 次はコクーン。

 

 こちらも、声に合わせて体を輝かせた。

 

 マサシは枝を置き、二体を撫でた。

 

「ちゃんとできるな」

 

 トランセルが体を揺らす。

 

 コクーンは、近くを歩くニドランたちへ目を向けていた。

 

 自分も動きたいのだろうか。

 

 マサシは敷物を少しずらし、二体から空がよく見えるようにした。

 

「焦らなくていいぞ。今できること、やってこうな」

 

 頭上を、ポッポが横切った。

 

 二体の目が、そろってその影を追った。

 

*

 

「そのポッポ、よく曲がるね」

 

 声をかけてきたのは、水場へ来た少年だった。

 

 肩には、一体のオニスズメが止まっている。

 

 ポッポが枝へ戻ると、オニスズメもそちらへ顔を向けた。

 

「ずっと見てたの?」

 

「最後のほうだけ。よかったら、空中戦しない?」

 

 マサシはポッポを見上げた。

 

「どうする?」

 

「ポッ!」

 

 すぐに返事があった。

 

「じゃあ、頼む」

 

 二人は通り道から離れ、空き地の両端へ立った。

 

 ヒトカゲたちは木陰へ下がる。

 

 ポッポとオニスズメが、空へ飛び立った。

 

「オニスズメ、つつく!」

 

 鋭いくちばしが、ポッポを狙う。

 

「かわせ!」

 

 ポッポが横へ流れた。

 

 オニスズメはそのまま通り過ぎず、すぐに翼を傾けて追う。

 

 続けて、もう一度。

 

 ポッポが身をひねる。

 

 くちばしが翼の先をかすめ、羽が一枚落ちた。

 

「速いな……」

 

 マサシは二体の飛び方を見た。

 

 まっすぐ飛ぶ速さでは、オニスズメが上だった。

 

 離れても追いつかれる。

 

 大きく逃げ続ければ、ポッポのほうが先に疲れるだろう。

 

「かぜおこし!」

 

 ポッポが振り返り、風を送る。

 

「突っ切れ!」

 

 オニスズメは翼を狭めた。

 

 風を受けながらも、そのまま前へ出る。

 

 ポッポが慌てて高度を変えた。

 

 マサシは、その瞬間を見ていた。

 

 オニスズメが、追うために翼を開く。

 

 風を抜けるときとは違う、大きな広がり。

 

「……そこか」

 

 オニスズメが再び迫る。

 

「ポッポ、引きつけろ!」

 

 ポッポは羽ばたきながら待った。

 

 距離が縮まる。

 

「切り返せ!」

 

 小さな体が、鋭く向きを変えた。

 

 オニスズメのくちばしが空を切る。

 

 すぐに追おうと、翼が開いた。

 

「今だ、かぜおこし!」

 

 横からの風が、広がった翼を捉える。

 

 オニスズメの体が傾いた。

 

「たいあたり!」

 

 ポッポが飛び込む。

 

 衝突を受けたオニスズメが、空中で大きくよろめいた。

 

「立て直して!」

 

 少年が叫ぶ。

 

 オニスズメは翼を動かし、どうにか姿勢を戻した。

 

 だが、もうポッポは正面にいない。

 

「上から!」

 

 声とともに、ポッポが降下した。

 

 もう一度、体当たり。

 

 オニスズメは草の上へ落ち、羽を広げたまま伏せた。

 

 少年が駆け寄る。

 

 様子を確かめてから、マサシへ顔を上げた。

 

「……参った。そっちの勝ちだ」

 

 マサシは腕を上げた。

 

「戻ってこい、ポッポ!」

 

 降りてきたポッポが、その腕へ止まる。

 

 呼吸は少し速い。

 

 マサシは翼の先を確かめ、そっと背を撫でた。

 

「よく見て動けたな」

 

 ポッポが、誇らしげに鳴いた。

 

*

 

「かぜおこし、最初は抜けられたのに」

 

 オニスズメを休ませながら、少年が言った。

 

 マサシは空へ目を向ける。

 

「翼を閉じてるときは、あんまり押せなかった。でも、曲がるときは開くだろ?」

 

「そこへ横から当てたのか」

 

「うん。追いかけてくれるなら、その瞬間は来るかなって」

 

 少年はオニスズメの翼を見つめた。

 

「同じ技でも、使うところで変わるんだな」

 

「俺も、今わかった」

 

 マサシが笑うと、少年も悔しそうに笑った。

 

「次は、簡単に追いかけないからね」

 

「じゃあ、次は追いかけたくなるようにする」

 

「言ったな!」

 

 別れ際、二人は手を振った。

 

 マサシがリュックを背負うと、ヒトカゲが隣へ来る。

 

 ニドランたちも並んだ。

 

 ポッポは少し休ませるため、ボールへ戻した。

 

「今日は、みんなのこと結構わかったな」

 

 足元の二体が顔を上げる。

 

 走るのが得意なニドラン♂。

 

 狙いを定めて針を飛ばすニドラン♀。

 

 空で鋭く向きを変えられるポッポ。

 

 声に合わせて、すぐに火を放てるヒトカゲ。

 

 トランセルとコクーンにも、これから見せてもらうものがたくさんある。

 

「……俺がちゃんと覚えとかないとな」

 

 マサシは歩き出した。

 

 道が丘を回り込む。

 

 その先で、建物の並びがはっきりと見えた。

 

 赤い屋根。

 

 行き交う人影。

 

 山道とは違う、賑やかな街の気配。

 

「見えた」

 

 マサシが指さすと、ヒトカゲが嬉しそうに鳴いた。

 

「ハナダシティだ!」

 

 ニドラン♂が一歩前へ出る。

 

 けれど今度は走り出さず、マサシが来るのを待っていた。

 

 その隣へニドラン♀が並ぶ。

 

 マサシは笑って、二体に追いついた。

 

第21話終了

 

次回・第22話「水の都ハナダ!カスミの帰る場所」

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