ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第23話 潜る相手をどう狙う?ハナダジムへの作戦

プールの上を、ポッポが飛んでいた。

 

 夕方のハナダジム。

 

 翌朝の準備をする係員に許可をもらい、マサシはフィールドの端に立っていた。

 

「一回、下りてみてくれ」

 

 ポッポが翼を広げ、水面に浮かぶ足場へ着地する。

 

 丸い足場が、わずかに揺れた。

 

 ポッポは尾を動かし、体勢を整える。

 

「……地面と、ちょっと違うな」

 

 マサシはしゃがみ、水面へ目を向けた。

 

 照明が映り、向こう側が見えにくい。

 

 水の中に相手がいれば、上からでも見失うことがありそうだった。

 

「ポッポ、隣へ!」

 

 ポッポが短く羽ばたく。

 

 次の足場へ移り、また止まった。

 

 今度は、ほとんど揺れない。

 

「よし。そこで休めるな」

 

 マサシは口元を緩めた。

 

 ずっと飛び続ける必要はない。

 

 空を使うときと、足場を使うとき。

 

 その切り替えができれば、戦い方も変えられる。

 

「今日はここまでにしよう」

 

 腕を上げると、ポッポが戻ってきた。

 

 マサシはその胸を軽く撫でる。

 

「明日、頼むぞ」

 

*

 

 翌朝、サトシはジムの入り口で足を止めた。

 

「ここがハナダジムか!」

 

 隣のピカチュウも、建物を見上げる。

 

 マサシが先に扉を開けると、プールの向こうでカスミが振り返った。

 

「来たわね」

 

「おはよう」

 

 マサシは手を上げる。

 

 サトシは二人を見比べた。

 

「……カスミ? 何でそっちにいるんだ?」

 

 カスミが少しだけ肩を上げた。

 

 それから、正面を向く。

 

「今日は、私がマサシの挑戦を受けるの」

 

「えっ!?」

 

 サトシの声が、プールに響いた。

 

「カスミがジムリーダーなのか!?」

 

「そうよ。ここは私の家で、姉たちと一緒にジムもやってるの」

 

「そんなの聞いてないぞ!」

 

「今、話したでしょ」

 

 サトシがマサシへ顔を向ける。

 

「お前、知ってたのか?」

 

「昨日な。カスミが自分で話すって言ってたから」

 

「そういうこと」

 

 カスミは腕を組み、サトシを見た。

 

「応援に来たんでしょ? だったら、ちゃんと見てなさいよね」

 

 驚いた顔のままだったサトシが、やがて笑った。

 

「ああ! どっちも頑張れよ!」

 

 タケシとともに観客席へ向かう。

 

 ピカチュウが肩の上から、マサシへ手を振った。

 

 マサシも軽く応え、挑戦者側の位置へ立った。

 

*

 

 プールの脇へ、係員が進み出た。

 

「本日の審判を務めます。使用ポケモンは双方二体。挑戦者のみ、途中で交代できます」

 

 説明を聞きながら、マサシは水面を見た。

 

 いくつもの足場が、ゆっくり揺れている。

 

 向こう側では、カスミがボールを構えていた。

 

「それでは、ポケモンを出してください」

 

「いくわよ、ヒトデマン!」

 

 赤い中心核を持つ、星形のポケモンが現れた。

 

 足場へ一度着地し、そのまま水へ飛び込む。

 

 ほとんどしぶきが上がらない。

 

 マサシは、腰のボールを取った。

 

「ポッポ、頼む!」

 

 現れたポッポが、プールの上へ飛び出す。

 

 水面から、ヒトデマンの中心核が覗いた。

 

「試合、始め!」

 

「ポッポ、かぜおこし!」

 

「ヒトデマン、潜って!」

 

 風が水面を走る。

 

 だが、その下へ消えたヒトデマンには届かない。

 

 波紋が広がった。

 

 マサシは水の中へ目を凝らす。

 

 影が見えた、と思った瞬間だった。

 

「みずでっぽう!」

 

 ポッポの真下から、水が噴き上がった。

 

「かわせ!」

 

 ポッポが横へ流れる。

 

 水の柱が、翼のすぐ脇を通り抜けた。

 

「もう一度!」

 

 別の場所から、二発目。

 

 翼の先へ当たり、ポッポの体が傾いた。

 

「ポッ!」

 

「高度を上げろ!」

 

 ポッポが羽ばたく。

 

 その下で、ヒトデマンが再び潜った。

 

 サトシが客席から身を乗り出す。

 

「どこから来るかわからないぞ……!」

 

 マサシは声を出さず、水面を追った。

 

 飛んでいれば安全、というわけではない。

 

 上を見せられ、横へ逃げれば、そこを狙われる。

 

「足場へ!」

 

 ポッポが近くの丸い足場へ下りる。

 

 着地と同時に、水面が割れた。

 

「たいあたり!」

 

 ヒトデマンが回転しながら飛び出す。

 

「上だ!」

 

 ポッポが跳んだ。

 

 間に合わない。

 

 ヒトデマンの体が胸を捉え、ポッポが押し上げられた。

 

「ポッポ!」

 

 空中で翼が開く。

 

 どうにか姿勢を戻したポッポの下へ、ヒトデマンが落ちていく。

 

 水へ戻る、その背中。

 

 マサシの目が止まった。

 

「……そこだ」

 

*

 

「大丈夫か、ポッポ!」

 

「ポッ!」

 

 返事は力強い。

 

 けれど、羽ばたきは少し速くなっていた。

 

 マサシは、浮いている足場を指した。

 

「下りろ!」

 

「また同じ場所で休ませるの?」

 

 カスミがボールを握る手に力を込める。

 

「ヒトデマン、みずでっぽう!」

 

 水面からヒトデマンが現れる。

 

 水が放たれた。

 

「かわせ!」

 

 ポッポが足場から飛び立つ。

 

 マサシは、ヒトデマンを追わせなかった。

 

 水を撃ち終えた星形の体が、再び水中へ向かう。

 

「今だ、かぜおこし!」

 

 ポッポが翼を打った。

 

 風が、落ちていくヒトデマンの横腹を押す。

 

 体が傾いた。

 

 滑らかだった入水が崩れ、大きなしぶきが上がる。

 

 マサシは、その位置を見ていた。

 

「真上へ!」

 

 ポッポがしぶきの上へ移動する。

 

 水中で姿勢を直したヒトデマンが、顔を出す。

 

「たいあたり!」

 

 ポッポが降下した。

 

 水面へ出かけたヒトデマンにぶつかり、その体を足場の縁へ押し上げる。

 

「ヒトデマン!」

 

 カスミの声に、星形の体が動いた。

 

 水へ逃れようとする。

 

「かぜおこし!」

 

 横からの風。

 

 ヒトデマンが足場の中央へ滑る。

 

 マサシは短く息を吐いた。

 

 やっと、水の外へ出せた。

 

「潜る前を狙ったのね」

 

 カスミがマサシを見る。

 

「潜ってから探すより、見えてるうちに狙ったほうが早いだろ」

 

 マサシの返事に、カスミは笑った。

 

「でも、出しただけじゃ勝てないわよ!」

 

「みずでっぽう!」

 

 足場の上から、水が走る。

 

「横へ!」

 

 ポッポがかわす。

 

 ヒトデマンは、その隙に反対側へ動いた。

 

 水へ飛び込もうと、足場の端へ。

 

「回り込め!」

 

 ポッポが短く曲がる。

 

 先ほどとは逆側へ出た。

 

「かぜおこし!」

 

 羽ばたきが、ヒトデマンを押し戻す。

 

 カスミがすぐに指示を出した。

 

「正面へ、たいあたり!」

 

 星形の体が跳んだ。

 

 今度は逃げるためではない。

 

 低く飛ぶポッポを、直接狙っている。

 

「上へかわせ!」

 

 ポッポが翼を大きく動かした。

 

 ヒトデマンが下を抜ける。

 

 その先には、水面。

 

 マサシは、すぐに続けた。

 

「切り返せ! もう一度!」

 

 ポッポが反転する。

 

 風を受けたヒトデマンの体が流され、隣の足場へ落ちた。

 

 乾いた音が響く。

 

 客席で、タケシが身を乗り出した。

 

「着地する場所まで変えられてる……」

 

 サトシは、二体から目を離せずにいた。

 

*

 

 ポッポが、近くの足場へ下りた。

 

 その小さな胸が上下している。

 

 ヒトデマンも、すぐには動かなかった。

 

 マサシはポッポを見た。

 

 空中を飛び続けていたら、ここまで何度も曲がれなかったかもしれない。

 

 昨日、足場を確かめておいてよかった。

 

「ヒトデマン、みずでっぽう!」

 

 カスミの声。

 

 ポッポが飛び立つ。

 

 水が足場を叩き、その表面を濡らした。

 

 ヒトデマンが回転を始める。

 

 また、飛び込んでくる。

 

 マサシは口元を上げた。

 

「来い、ポッポ!」

 

 ポッポがマサシ側へ引く。

 

 ヒトデマンが追った。

 

 空中で近づく二体。

 

「今、上へ!」

 

 ポッポが跳ね上がる。

 

 ヒトデマンが、その下を通る。

 

 狙いを外した体は、今度こそ水へ戻ろうとしていた。

 

「かぜおこし!」

 

 上から吹き下ろされた風が、ヒトデマンの姿勢を崩す。

 

 星形の体が傾き、足場の縁へ当たった。

 

 跳ね返る。

 

「いけ、たいあたり!」

 

 ポッポが翼をすぼめた。

 

 迷いなく降下する。

 

 衝突。

 

 ヒトデマンが足場の中央へ押し倒された。

 

 赤い中心核が、点滅する。

 

「ヒトデマン、立って!」

 

 カスミが呼びかける。

 

 その体がわずかに動いた。

 

 けれど、それ以上は起き上がらなかった。

 

 審判役の係員が、様子を確かめて腕を上げた。

 

「ヒトデマン、戦闘不能! ポッポの勝ち!」

 

 客席から、サトシの声が響いた。

 

「やったあ! すごいぞ、ポッポ!」

 

「ピカチュウ!」

 

 ポッポは足場へ下り、その場で一度だけ翼を広げた。

 

 マサシも、握っていた手を開いた。

 

「よくやった」

 

*

 

 カスミはヒトデマンをボールへ戻した。

 

「ありがとう。頑張ったわね」

 

 小さく声をかけ、それからマサシを見た。

 

「途中から、全然潜らせてくれなかったじゃない」

 

「水の中にいたら、こっちは困るからな」

 

「最初は、ちゃんと困ってたくせに」

 

「だから変えたんだろ」

 

 マサシが笑う。

 

 カスミも口元を上げ、次のボールを取った。

 

「じゃあ、今度はどうする?」

 

 ボールが開く。

 

 紫色の大きな星形。

 

 中央の宝石が、照明を受けて輝いた。

 

「スターミー、お願い!」

 

 現れたスターミーが、水面へ滑り込む。

 

 ヒトデマンよりも速く、深く。

 

 波紋だけを残して、その姿が消えた。

 

 ポッポが、水面へ顔を向ける。

 

 マサシはすぐにボールを構えた。

 

「ポッポ、戻れ!」

 

 赤い光が、小さな体を包む。

 

「一体倒してくれて、助かった。少し休んでてくれ」

 

 ボールを腰へ収める。

 

 カスミは黙って待っていた。

 

 水の中で、紫色の影が動く。

 

 マサシは一度だけ深く息を吸った。

 

 相手が変わった。

 

 さっきと同じ方法が、そのまま通じるとは限らない。

 

 それでも、戦い方はきっとある。

 

 次のボールを、指先で確かめる。

 

「頼むぞ」

 

 マサシは前を向いた。

 

第23話終了

 

次回・第24話「水の速さを打ち破れ!マサシとカスミの決着」

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