ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第24話 水の速さを打ち破れ!マサシとカスミの決着

「ニドラン、頼む!」

 

 ボールから飛び出したニドラン♀が、プールの足場へ着地した。

 

 丸い足場が、小さく揺れる。

 

 前脚を開き、体を支えると、ニドラン♀は水面へ耳を向けた。

 

 カスミが目を細める。

 

「その子で来たのね」

 

「ああ」

 

 マサシは短く答えた。

 

 水の中へ追いかけることはできない。

 

 けれど、水の外から狙う手段はある。

 

「試合、続行!」

 

 係員の声が響いた。

 

「スターミー、みずでっぽう!」

 

 水面が割れた。

 

 飛び出した水が、足場の縁を叩く。

 

 ニドラン♀が跳ぼうとした、その足元が大きく傾いた。

 

「ニドッ!」

 

「低く構えろ!」

 

 前脚が足場をつかむ。

 

 踏みとどまった直後、反対側から紫色の影が迫った。

 

「たいあたり!」

 

「かわせ!」

 

 ニドラン♀が身をひねる。

 

 スターミーの腕が背をかすめた。

 

 体が押され、足場の端まで滑る。

 

 水面へ消えていくスターミーを、マサシは目で追った。

 

 ヒトデマンより、ずっと速い。

 

 水を撃ってから潜り、次に飛び出すまでの間も短かった。

 

「大丈夫か?」

 

 ニドラン♀がこちらを向く。

 

 返事をする代わりに、前脚へ力を込めた。

 

 まだ、戦える。

 

「無理に跳ばなくていい。小さくかわせ」

 

 ニドラン♀が、体を低くした。

 

*

 

 水の中で影が動いた。

 

 マサシには、はっきり見えない。

 

 ニドラン♀の耳が右へ向く。

 

 次の瞬間、その方向で水しぶきが上がった。

 

「どくばり!」

 

 細い針が飛ぶ。

 

 水面から現れたスターミーへ、数本が当たった。

 

 だが、勢いは止まらない。

 

「そのまま!」

 

 カスミの声とともに、紫色の体が迫る。

 

 ニドラン♀は頭を引いた。

 

 直撃は避けたものの、肩を打たれ、足場の上へ転がる。

 

「ニドラン!」

 

 マサシの手が、腰のボールへ触れた。

 

 交代はできる。

 

 ポッポも、まだ戦える。

 

 けれど、ニドラン♀はすぐに立ち上がった。

 

 大きな耳を立て、水面を見つめている。

 

 マサシは手を止めた。

 

「……よし。聞いてるぞ」

 

 水の中の動きが、全部わかるわけではないだろう。

 

 それでも、水を割る音がした方向へ、ニドラン♀はすぐに顔を向けていた。

 

 自分が見つけてから指示を出すより早い。

 

「出てきたところを狙え。どくばり!」

 

 スターミーが浮上する。

 

 ニドラン♀の針が、その体へ向かった。

 

「潜って!」

 

 紫色の影が沈む。

 

 数本は外れた。

 

 だが、一発は腕の付け根を捉えていた。

 

 水中へ消える直前、スターミーの体がわずかに強張る。

 

 カスミの表情が変わった。

 

「……毒ね」

 

 マサシも、その動きを見ていた。

 

 すぐに勝負が決まるほどではない。

 

 けれど、さっきと同じ速さでは動き続けられないはずだ。

 

「スターミー、距離を取って!」

 

 水面に波紋が広がった。

 

 少し離れた場所へ、赤い宝石が現れる。

 

「みずでっぽう!」

 

 水が一直線に伸びた。

 

「横へ!」

 

 ニドラン♀が低くかわす。

 

 足場へ当たった水が、白く散った。

 

 針の届かない場所から撃ち続けるつもりだ。

 

 マサシは、浮いている足場を見渡した。

 

*

 

「隣へ移れ!」

 

 ニドラン♀が跳んだ。

 

 一つ先の足場へ着地する。

 

 その重みで、丸い足場が沈み、ゆっくり横へ流れた。

 

 マサシの視線が、その動きに留まる。

 

 さっきから、水の流れで足場の間隔が変わっていた。

 

 みずでっぽうが当たったものも、少しずつ位置をずらしている。

 

「逃がさないわよ。みずでっぽう!」

 

「もう一つ先だ!」

 

 ニドラン♀が、次の足場へ移る。

 

 水がすぐ後ろを通り、足場の縁を押した。

 

 大きめの足場が、ゆっくり回る。

 

 マサシは、その先を見た。

 

 ニドラン♀がいる足場との隙間が狭くなっている。

 

「……そこにいろ」

 

 ニドラン♀が振り返った。

 

「今度は、こっちから狙うぞ」

 

 カスミがマサシを見る。

 

 逃げ続けていたのが、急に止まった。

 

 何かを考えている。

 

 それでも、針の届かないところから撃てばいい。

 

「スターミー、もう一度!」

 

「前へ出ろ!」

 

 ニドラン♀が足場の縁まで進む。

 

 水が放たれる、その直前。

 

「どくばり!」

 

 針が飛んだ。

 

 数本は水に弾かれたが、残りがスターミーの前へ届く。

 

 スターミーが体をひねった。

 

 狙いがずれ、みずでっぽうがニドラン♀の横を抜ける。

 

「その距離なら届くのね」

 

 カスミが呟く。

 

 足場を渡って、近づいてきていたのだ。

 

 このまま撃ち合えば、毒を受けたスターミーの消耗が増える。

 

「だったら、一気にいくわよ!」

 

 カスミが腕を振った。

 

「スターミー、たいあたり!」

 

 水面が盛り上がった。

 

 紫色の体が跳ぶ。

 

 回転しながら迫るスターミーへ、マサシが声を張った。

 

「どくばり!」

 

「回転して弾いて!」

 

 針が、回る腕に弾かれた。

 

 スターミーは止まらない。

 

 ニドラン♀の目の前まで来る。

 

「かわせ!」

 

 ニドラン♀が、体を伏せるように横へ動いた。

 

 スターミーがその頭上を通り抜けた。

 

 その先で、水面へ戻ろうと体を傾ける。

 

 けれど、そこには大きな足場が流れ込んでいた。

 

 スターミーの腕が、足場の表面へ当たる。

 

 水へ入れず、横倒しに滑った。

 

「スターミー!?」

 

 カスミの声が響く。

 

 マサシは、すぐに指示を出した。

 

「どくばり!」

 

 ニドラン♀が顔を上げた。

 

 立て直そうとしたスターミーの前へ、針が刺さる。

 

 スターミーは後ろへ身を引いた。

 

 その瞬間、毒による痛みに体が強張る。

 

「今だ、飛び移れ!」

 

 ニドラン♀が地面を蹴るように跳んだ。

 

 狭まった隙間を越え、大きな足場へ着地する。

 

 目の前に、スターミー。

 

「みずでっぽう!」

 

「切り返せ!」

 

 ニドラン♀が、小さく向きを変えた。

 

 水がすぐ脇を通る。

 

 大きく跳んではいない。

 

 前脚で踏ん張り、そのまま相手へ向き直った。

 

「たいあたり!」

 

 小さな体が、スターミーへぶつかる。

 

 紫色の体が滑った。

 

「スターミー、踏ん張って!」

 

 腕が足場を押さえる。

 

 カスミはニドラン♀を見た。

 

 距離を取る余裕はない。

 

「こっちも、たいあたり!」

 

 スターミーが前へ出る。

 

 ニドラン♀も逃げなかった。

 

「もう一度だ!」

 

 二体がぶつかった。

 

 足場が大きく揺れる。

 

 ニドラン♀の前脚が滑った。

 

 それでも、後脚を踏み直す。

 

「押せ、ニドラン!」

 

「ニドォッ!」

 

 最後の一歩。

 

 スターミーの体が傾き、足場の上へ倒れた。

 

 中央の宝石が、弱く点滅する。

 

 ニドラン♀も、その場へ伏せた。

 

 荒い息をしながら、顔だけは上げている。

 

 係員が二体の様子を確かめた。

 

「スターミー、戦闘不能! ニドランの勝ち!」

 

 一拍置いて、腕がマサシ側へ上がる。

 

「勝者、マサラタウンのマサシ!」

 

*

 

「やったあ!」

 

 サトシの声が、客席から響いた。

 

 マサシは足場のそばへ駆け寄った。

 

「ニドラン、よくやった!」

 

 ニドラン♀がこちらを見る。

 

 疲れているのに、その耳がぴんと立った。

 

「すごかったぞ。あとは休んでていい」

 

 ボールへ戻し、両手でそっと包む。

 

 反対側では、カスミもスターミーを戻していた。

 

「ありがとう。最後まで頑張ってくれたわね」

 

 小さく声をかけてから、プールを回ってくる。

 

 その手には、青いバッジがあった。

 

「おめでとう、マサシ。ブルーバッジよ」

 

 差し出された、小さな水滴の形。

 

 マサシは受け取り、掌の上へ乗せた。

 

「ありがとう」

 

「最後の足場、狙ってたのね」

 

 カスミがプールへ目を向ける。

 

 大きな足場は、まだゆっくり揺れていた。

 

「ああ。水が当たるたび、動いてたから」

 

「私がたいあたりを使わなかったら?」

 

「そこからどくばりを当てる。届く距離まで近づけたし」

 

 カスミは少し黙った。

 

 それから、悔しそうに笑う。

 

「途中から、こっちが動くたびにやりにくくなったわ」

 

「最初は俺たちのほうが、だいぶ困ってたけどな」

 

「知ってる」

 

 カスミが即答する。

 

 二人は顔を見合わせ、笑った。

 

*

 

 プールサイドへ、サトシたちが下りてきた。

 

「すごかったな! ニドラン、あんな近くで水をかわしたぞ!」

 

「大きく跳ぶと、着地したとき揺れるからな」

 

 マサシが答えると、タケシも頷いた。

 

「足場に慣れてから、動きが小さくなっていたな」

 

「よーし、次は俺だ!」

 

 サトシが拳を握る。

 

 カスミは腰へ手を当てた。

 

「その前に、こっちのポケモンを治療させてよ」

 

「あ、そっか!」

 

「ポッポとニドランも診てもらわないとな」

 

 マサシが言う。

 

 四人は一緒に、ポケモンセンターへ向かった。

 

*

 

 治療を待つ間、マサシはテーブルにバッジケースを置いた。

 

 グレーバッジの隣へ、ブルーバッジを収める。

 

 二つになった。

 

 指先で位置を直していると、サトシが隣から覗き込んだ。

 

「さっきの最後、もう一回教えてくれよ。どの足場が動いたんだ?」

 

「ええと、最初ここにいて——」

 

 マサシが紙へ丸を描く。

 

 その途中で、カスミの手が紙の上へ置かれた。

 

「ちょっと。これから私と戦う相手に、細かく説明しないでくれる?」

 

「あ」

 

「聞くほうも聞くほうよ!」

 

 サトシが頭をかく。

 

 タケシが苦笑した。

 

「続きは、サトシの試合が終わってからだな」

 

 やがて、ジョーイに名前を呼ばれた。

 

 ポッポもニドラン♀も、治療を終えて元気に戻ってきた。

 

 カスミの二体も問題なく、あとは次の試合までゆっくり休ませればいいという。

 

 中庭へ出ると、マサシは六体をボールから出した。

 

 ニドラン♂が、すぐに相方へ駆け寄る。

 

 ニドラン♀は鼻先を寄せ返し、少し得意そうに耳を起こした。

 

「今日は、こいつが自慢する番だな」

 

 マサシが笑う。

 

 ヒトカゲもポッポのそばへ行き、何かを話しかけていた。

 

 トランセルとコクーンを並べ、マサシはその前へしゃがむ。

 

「見てくれ」

 

 開いたケースを、六体へ向けた。

 

 青いバッジに、午後の日差しが反射する。

 

「二つ目だ」

 

 ポッポが鳴いた。

 

 ニドラン♀も、一歩前へ出る。

 

 マサシは二体を見て、それから仲間たちへ目を向けた。

 

「次も、みんなで取ろうな」

 

 返事が重なった。

 

 膝のそばで、トランセルが小さく体を揺らしていた。

 

第24話終了

 

次回・第25話「白い羽の朝!バタフリーと新しい空」

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