ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第26話 橋の上の挑戦者!見抜かれた切り返し

橋の上を、涼しい風が吹き抜けた。

 

 マサシはリュックを欄干のそばへ下ろし、向かいの少年へ顔を向ける。

 

「俺はマサシ。そっちは?」

 

「ケンタ! こいつと一緒に、この辺で修行してるんだ」

 

「コラッ!」

 

 足元のコラッタが前へ出た。

 

 低い姿勢のまま、ヒトカゲを見つめている。

 

 ケンタが指示する前から、戦う場所へ移っていた。

 

 マサシは、その動きに目を留めた。

 

「一対一でいい?」

 

「ああ。そっちはヒトカゲ?」

 

「カゲ!」

 

 ヒトカゲが胸を張る。

 

「だってさ」

 

 マサシは笑い、通行人がいないことを確かめた。

 

 バタフリーは欄干へ止まる。

 

 二体が、橋の中央で向き合った。

 

「いくぞ! コラッタ、でんこうせっか!」

 

 灰色の影が走った。

 

「かわせ!」

 

 ヒトカゲが横へ動く。

 

 コラッタは脇を通り抜けた直後、鋭く足を踏み替えた。

 

「もう一度!」

 

「切り返せ!」

 

 ヒトカゲが振り向く。

 

 その先へ、コラッタが飛び込んできた。

 

「カゲッ!」

 

 体当たりを受け、ヒトカゲがよろめく。

 

「ひのこ!」

 

 放たれた火の粒を、コラッタは低く伏せてかわした。

 

 そのまま走り抜け、距離を取る。

 

「……速いな」

 

 マサシが呟くと、ケンタが笑った。

 

「そっちも悪くないけど、振り向くところが狙いやすいぞ!」

 

 ヒトカゲが、むっとして体を起こす。

 

 マサシはその背中を見た。

 

 かわしたあと、すぐに相手へ向き直る。

 

 ニビジムでも、その動きから攻撃をつなげてきた。

 

 コラッタは、そこへ先回りしたのだ。

 

「コラッタ、たいあたり!」

 

 今度は正面から。

 

「ひのこ!」

 

 ヒトカゲが火を放つ。

 

 コラッタは横へそれた。

 

「回り込め!」

 

 ケンタの声で、さらに曲がる。

 

 ヒトカゲが追おうとした瞬間、マサシが声を上げた。

 

「追うな!」

 

 ヒトカゲの足が止まる。

 

 コラッタの体が、その鼻先を横切った。

 

 空振りしたコラッタは着地し、すぐに距離を取った。

 

 ケンタの笑みが少し薄くなる。

 

「……今のは引っかからないか」

 

 マサシは、コラッタの足元を見ていた。

 

 走っている間は速い。

 

 けれど、急に曲がる前には、外側の足で一度地面を押している。

 

 さっきも、今も。

 

 そしてヒトカゲを追うときは、必ずこちらが向き直る先へ来る。

 

「ヒトカゲ」

 

 呼ぶと、片方の目がこちらへ向いた。

 

「次は、俺の声まで待て」

 

「カゲ」

 

 ヒトカゲが、低く構えた。

 

*

 

「待ってても、こっちは止まらないぞ!」

 

 ケンタが腕を振る。

 

「でんこうせっか!」

 

 コラッタが加速した。

 

 ヒトカゲは、その場で待った。

 

 マサシも動かない。

 

 二体の距離が、一気に縮まる。

 

「かわせ!」

 

 ヒトカゲが横へ身をずらした。

 

「そこだ、切り込め!」

 

 コラッタが足を踏ん張る。

 

 ヒトカゲが向き直るはずの場所へ、体を投げ出した。

 

「後ろへ、ひのこ!」

 

 ヒトカゲは足を動かさなかった。

 

 顔だけを肩越しに向ける。

 

 火の粒が、すぐそばを曲がってきたコラッタへ当たった。

 

「コラッ!?」

 

 足並みが乱れる。

 

「今だ、たいあたり!」

 

 ヒトカゲが振り返った。

 

 短く踏み込み、体ごとぶつかる。

 

 コラッタが橋の上を転がった。

 

「コラッタ、大丈夫か!」

 

 ケンタの声に、コラッタが立ち上がる。

 

 肩を小さく揺らし、ヒトカゲを睨んだ。

 

 ヒトカゲも息を吐き、前脚を構え直す。

 

「よし。そのまま見てろ」

 

 マサシの声は、最初より落ち着いていた。

 

 ケンタは二体を見比べる。

 

「今度は、振り向かなかったのか……」

 

「来る場所がわかれば、先に向かなくても当たるだろ」

 

 マサシが答える。

 

 ケンタは唇を引き結んだ。

 

 曲がれば、そこへ火を放たれる。

 

 なら、曲がらずに押し切ればいい。

 

「コラッタ! まっすぐ、でんこうせっか!」

 

 コラッタが走り出す。

 

 今度は左右へ動かない。

 

 一直線に、ヒトカゲへ。

 

 マサシの口元が上がった。

 

「ひのこ!」

 

「横へかわせ!」

 

 火の粒を避け、コラッタが跳ぶ。

 

 その足が、まだ地面に戻らないうちに。

 

「踏み込め!」

 

 ヒトカゲが前へ出た。

 

「えっ……」

 

 ケンタの声が漏れる。

 

 さっきまで待っていたヒトカゲが、着地点へ向かってくる。

 

「コラッタ、右へ!」

 

 着地。

 

 コラッタが、左の後脚を強く踏ん張る。

 

 マサシは、そこを見逃さなかった。

 

「たいあたり!」

 

 ヒトカゲが低く飛び込む。

 

 曲がり始める前のコラッタへ、肩からぶつかった。

 

 二体が押し合う。

 

 ヒトカゲの足が、橋の上を擦った。

 

 それでも、前へ出る。

 

「押し切れ!」

 

「カゲェッ!」

 

 コラッタの体が浮いた。

 

 地面へ転がり、短く息を吐く。

 

 起き上がろうとしたが、前脚に力が入らなかった。

 

 ケンタが駆け寄る。

 

「……そこまで。俺たちの負けだ」

 

 コラッタを抱き上げ、そっと背中を撫でた。

 

「よく頑張ったな」

 

 マサシもヒトカゲの隣へしゃがんだ。

 

「勝ったぞ」

 

「カゲ!」

 

 差し出した手へ、ヒトカゲが自分の手を重ねる。

 

 欄干から、バタフリーの明るい声が降ってきた。

 

*

 

「最後、なんで前に出たんだ?」

 

 コラッタをボールへ戻してから、ケンタが尋ねた。

 

 マサシは、二体がぶつかった場所を指さした。

 

「ひのこを避けて、着地するところなら追いつけると思った」

 

「でんこうせっかで走ってるときじゃなくて?」

 

「うん。走り出したら、こっちより速いし」

 

 マサシは指先で、小さく曲線を描いた。

 

「あと、曲がる前に一回、足を踏ん張ってただろ。そこなら、すぐには逃げられないかなって」

 

 ケンタが、自分のコラッタが走っていた場所へ目を落とす。

 

「……そんなところ見てたのか」

 

「最初は、きれいにやられたけどな」

 

 マサシがヒトカゲを見る。

 

 ヒトカゲは、少し不満そうに頬を膨らませた。

 

「次は気をつけるって」

 

 頭を撫でると、ようやく肩の力を抜いた。

 

 ケンタはしばらく考えてから、顔を上げた。

 

「今度は、曲がるふりも混ぜる」

 

「それ、今言ってよかった?」

 

「あ」

 

 マサシが笑う。

 

 ケンタも、つられて笑った。

 

「じゃあ、その裏をかく!」

 

「楽しみにしとくよ」

 

 二人は軽く手を合わせた。

 

*

 

 橋を渡った先には、草原へ続く道が延びていた。

 

 マサシは道端の休憩所へ寄り、ヒトカゲに水を渡した。

 

 最初に攻撃を受けた胸と脇を確かめる。

 

 触れられても嫌がる様子はなく、歩き方もしっかりしていた。

 

「街へ戻ったら、診てもらおうな」

 

「カゲ」

 

 ヒトカゲが頷く。

 

 バタフリーは近くの花へ下りていた。

 

 少し離れた場所から、こちらを見ている。

 

「お前も見てたか?」

 

「フリー!」

 

「次は、お前にも頼むからな」

 

 白い羽が大きく開いた。

 

 マサシはベンチへ背中を預け、空を見上げる。

 

 さっきのコラッタは、ヒトカゲの動きを読んでいた。

 

 こちらが得意だと思っていた動きも、相手に見せ続ければ狙われる。

 

 ニビジムでうまくいったから、今日もうまくいくとは限らない。

 

「……まだまだ、いろんなやつがいるな」

 

 隣で水を飲んでいたヒトカゲが顔を上げた。

 

 マサシは、その鼻先を指で軽くつつく。

 

「面白かっただろ?」

 

 ヒトカゲが笑うように鳴いた。

 

*

 

 休憩所の先で、道が二つに分かれていた。

 

 一方は、トレーナーたちの姿が見える草原。

 

 もう一方は、木々の間を抜けて東へ延びている。

 

 案内板には、岬の文字があった。

 

 その下に、もう一つ。

 

『ポケモン研究家・マサキの家』

 

「研究家?」

 

 マサシは立ち止まった。

 

 おつきみやまでは、リカオからピッピや石の話を聞いた。

 

 同じ研究家でも、調べているものは違うのだろう。

 

「どんなポケモンを研究してるんだろうな」

 

 ヒトカゲが案内板を見上げる。

 

 その頭上を、バタフリーが横切った。

 

 岬へ続く道には、涼しい風が吹いている。

 

 少しだけ、海の匂いがした。

 

「……ちょっと寄ってみるか」

 

 歩き出すと、ヒトカゲが隣へ並んだ。

 

 バタフリーは木々の間を先へ飛び、枝の向こうから戻ってくる。

 

 やがて、遠くに波の音が聞こえ始めた。

 

 マサシは顔を上げた。

 

 木々の切れ間から、青い海と、そのそばに立つ大きな灯台が見えていた。

 

第26話終了

 

次回・第27話「岬の研究家マサキ!海の向こうの声」

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