ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第28話 クチバへの道!小さな殻の大きな一撃

ハナダシティを南へ抜ける道には、朝から多くの旅人が行き交っていた。

 

 マサシは案内板の前で立ち止まった。

 

「ヤマブキ方面は通れないから、クチバへ行くには地下通路……」

 

 地図と道を見比べる。

 

 昨日、岬から戻ったあとにポケモンセンターで教わったとおりだった。

 

 隣のヒトカゲが、先へ続く道を指さす。

 

「わかってる。行きますよ」

 

 マサシはリュックを背負い直した。

 

 バタフリーが頭上をひと回りして、少し先へ飛んでいく。

 

 その白い羽を追いながら歩いていると、道端に小さな休憩所が見えてきた。

 

「……ちょっとだけ休む?」

 

 ヒトカゲが立ち止まり、こちらを見る。

 

「まだそんな歩いてない、って顔すんなよ。場所を確かめるだけだって」

 

「カゲ」

 

 短い返事に、マサシは笑った。

 

 そのやり取りを聞いていた少女が、ベンチから顔を上げた。

 

「面白い二体ね」

 

「俺までポケモンみたいに数えられてるけど」

 

「あ、ごめんなさい!」

 

 少女は慌ててから、自分でも笑った。

 

 足元では、マダツボミが細い体を揺らしていた。

 

*

 

「私はユイ。この子と一緒に旅をしてるの」

 

「マサシ。クチバへ向かうところ」

 

「私も! でも、その前に少し練習していこうと思って」

 

 ユイの視線が、バタフリーへ向く。

 

「よかったら、一勝負しない?」

 

「いいよ」

 

 マサシが返事をすると、腰のボールが小さく揺れた。

 

 指先で触れる。

 

 もう一度、こつんと動いた。

 

「……お前?」

 

 開いたボールから、コクーンが現れた。

 

 地面へ下ろすと、真っすぐマダツボミを見る。

 

 ユイが少し驚いた顔をした。

 

「コクーンで戦うの?」

 

「本人は、やりたいみたい」

 

 マサシはしゃがみ、コクーンと目を合わせた。

 

「相手、つるを使うぞ。頑張れそうか?」

 

 コクーンが体を起こす。

 

 進化してから、仲間たちの練習やバトルをすぐそばで見てきた。

 

 そのたびに、相手の動きを目で追っていたことを、マサシは覚えている。

 

「よし」

 

 コクーンの殻へ、軽く手を置いた。

 

「一緒にやろう」

 

*

 

 休憩所の奥には、踏み固められた空き地があった。

 

 マサシとユイは、その両端へ立った。

 

 ヒトカゲは木陰へ下がり、バタフリーは低い枝へ止まる。

 

「一対一。続けられなくなったら終わりね」

 

「ああ」

 

 マサシが頷く。

 

 ユイが腕を上げた。

 

「マダツボミ、つるのムチ!」

 

 細いつるが伸びた。

 

「かたくなる!」

 

 コクーンの殻に光沢が走る。

 

 乾いた音が響いた。

 

 体が地面を滑る。

 

 それでも、コクーンは倒れなかった。

 

「もう一度!」

 

 反対側から、つるが迫る。

 

「受け止めろ!」

 

 殻が再び輝いた。

 

 衝撃で体が傾いたものの、すぐに元へ戻る。

 

 マサシは、その様子を確かめた。

 

 指示には、きちんと反応できている。

 

 けれど、受け続けるだけでは勝てない。

 

「それなら、巻きつけて!」

 

 ユイの声で、二本のつるが左右へ分かれた。

 

「いとをはく!」

 

 白い糸が、片方のつるへ絡みつく。

 

 だが、もう片方がコクーンの胴を捉えた。

 

「持ち上げて!」

 

 コクーンが宙へ浮く。

 

 マダツボミの細い体が、重みに引かれて大きく反った。

 

「そのまま叩きつけて!」

 

「かたくなる!」

 

 殻が強く輝く。

 

 次の瞬間、コクーンが地面へ打ちつけられた。

 

 土が跳ねた。

 

「コクーン!」

 

 マサシの声に、細い目がこちらへ向いた。

 

 まだ、戦うつもりだ。

 

 マサシは唇を引き結んだ。

 

 もう一度持ち上げられれば、同じ攻撃が来る。

 

 ただ、今の動きには気になるところがあった。

 

 コクーンを振り上げるとき、マダツボミ自身も大きく後ろへ反る。

 

 叩きつけるときには、前へ。

 

 長いつるを動かすたび、その体も一緒に揺れている。

 

 マサシの目が、つるについた白い糸へ移った。

 

「……コクーン、もう一本にも!」

 

 コクーンが糸を放った。

 

 胴に巻きついたつるへ、白い糸が幾重にも絡む。

 

 さらに、二本のつるの間をつないだ。

 

「糸で止めるつもり?」

 

 ユイが声を張る。

 

「マダツボミ、そのまま上げて!」

 

 マダツボミが体を反らす。

 

 コクーンが持ち上がった。

 

 マサシは、まだ待った。

 

 宙へ上がったコクーンが、マダツボミより少し高くなる。

 

 振り下ろそうと、細い体が前へ動く。

 

「今だ! 糸を引け!」

 

 コクーンが体をひねった。

 

 口元からつながる糸が、ぴんと張る。

 

 片方のつるを大きく振るおうとしていたマダツボミの動きが、引っかかった。

 

 二本のつるが寄り、体が前へつんのめる。

 

「マダッ!?」

 

「かたくなる!」

 

 落ちてくるコクーンが、白く輝いた。

 

 前へ引かれたマダツボミ。

 

 その目の前へ、硬い殻が振り戻される。

 

 二体がぶつかった。

 

 マダツボミが押され、地面を転がる。

 

 緩んだつるからコクーンも抜け、土の上へ落ちた。

 

「マダツボミ、大丈夫!?」

 

 ユイが呼びかける。

 

 マダツボミは葉をつき、起き上がろうとした。

 

 けれど、体がふらつく。

 

 コクーンも斜めになったまま、相手を見ていた。

 

 ユイは二体を見比べ、首を振った。

 

「……そこまでにしよう。私たちの負けね」

 

 マダツボミを抱き上げ、土を払う。

 

 マサシも、すぐにコクーンのそばへしゃがんだ。

 

「よく耐えたな」

 

 そっと起こす。

 

 殻についた土を払うと、コクーンが指先へ体を寄せた。

 

「最後の一発、重かったぞ」

 

 木陰からヒトカゲが走ってきた。

 

 バタフリーも、その頭上を回って鳴いた。

 

 コクーンの目が、二体へ向く。

 

 マサシは笑い、両手で抱き上げた。

 

「初勝利、おめでとう」

 

*

 

 休憩所へ戻ると、ユイが水を飲むマダツボミを見守りながら言った。

 

「糸で、つる同士をつなぐなんて思わなかった」

 

 マサシは膝に乗せたコクーンへ目を落とす。

 

「持ち上げるとき、そっちも結構踏ん張ってたから。糸で動きを邪魔したら、振り下ろす方向を変えられるかなって」

 

「自分の攻撃の勢いで、引っ張られたのね」

 

「うん。こいつの重さも使えたし」

 

 ユイが、コクーンを見た。

 

「次は、あんな近くまで振り上げないようにしなきゃ」

 

「俺たちも、何度も受けるのはきついな」

 

 マサシが殻へ触れる。

 

「頑張ってくれたから、できたけど」

 

 コクーンは静かに体を揺らした。

 

 その前へ、バタフリーが下りてくる。

 

 白い羽が、ゆっくり開いた。

 

 コクーンの目が、その羽を追った。

 

「フリー」

 

 呼びかけるような声。

 

 次の瞬間、マサシの膝の上が白く輝いた。

 

「……え?」

 

 マサシが両手を添える。

 

 光の中で、殻の輪郭が変わっていく。

 

 細い脚が伸びた。

 

 大きな針が現れた。

 

 背中から広がった羽が、一斉に震える。

 

 軽い羽音が、木陰に響いた。

 

 マサシの手から、黄色と黒の体が浮き上がる。

 

「スピアー……!」

 

 空中で向きを変えたスピアーが、マサシの目の前へ戻ってきた。

 

 迷いなく羽ばたき、その場で止まる。

 

 赤い目が、真っすぐこちらを見ていた。

 

 マサシは少しの間、言葉を忘れた。

 

 それから、ゆっくり笑う。

 

「お前も、飛べたな」

 

 スピアーが近づく。

 

 両腕の針を横へ避け、頭をマサシの胸へ軽く押し当てた。

 

「おっと」

 

 マサシは背中へそっと手を添えた。

 

「かっこよくなったじゃん」

 

 ヒトカゲが、嬉しそうに両腕を上げる。

 

 ユイもマダツボミと一緒に立ち上がった。

 

「おめでとう、スピアー!」

 

 その声に応えるように、羽音が高くなった。

 

 バタフリーが、隣へ並ぶ。

 

 二体は向き合ったあと、ほとんど同時に空へ上がった。

 

 枝を越え、日なたへ出る。

 

 白い羽と、透き通った羽。

 

 マサシは木陰から立ち上がり、その姿を追った。

 

 森で出会った頃は、二体とも腕や肩に乗っていた。

 

 今は、同じ空を並んで飛んでいる。

 

「……置いてくなよ」

 

 呼びかけると、二体は大きく回って戻ってきた。

 

*

 

 ユイと別れたあと、マサシたちは地下通路へ向かった。

 

 入り口の階段を前に、スピアーが空中で待っている。

 

「中、狭いからな。ここはボールで頼む」

 

 マサシがボールを見せると、スピアーは一度バタフリーのそばへ寄ってから戻った。

 

バタフリーもボールへ。

 

 ヒトカゲだけを隣に連れ、階段を下りる。

 

 地下には、ひんやりした空気が溜まっていた。

 

「……ほんとに涼しいな」

 

 マサシが言うと、ヒトカゲが横を向いた。

 

「ほら。寄り道ばっかりしてても、ちゃんと進んでるだろ」

 

「カゲ」

 

 短い返事が、壁に響いた。

 

 長い通路を抜け、反対側の階段を上がる。

 

 外へ出ると、草の匂いがした。

 

 道の先には、クチバシティまでの案内が立っている。

 

 マサシは腰のボールへ手を添えた。

 

 コクーンとしての初勝利。

 

 そして、スピアーへの進化。

 

 街へ着いたら、まずはしっかり診てもらおう。

 

「あと少しだ」

 

 ヒトカゲが頷く。

 

 歩き始めてしばらくすると、風に潮の匂いが混じってきた。

 

 昨日の岬を思い出す。

 

 けれど、丘の向こうに見えたのは灯台ではなかった。

 

 建物の屋根。

 

 その奥に並ぶ、何本もの船のマスト。

 

 マサシは顔を上げた。

 

「……港だ」

 

 ヒトカゲも背伸びをする。

 

 クチバシティは、もうすぐそこだった。

 

第28話終了

 

次回・第29話「港町クチバ!ジムから響く雷鳴」

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