ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語― 作:mss
ポケモンセンターへ戻ると、マサシは真っ先に通信機へ向かった。
呼び出し音が数回鳴り、画面に見慣れた顔が映る。
『おお、マサシ。元気にしとるか?』
「元気。博士、ちょっと相談があるんだけど」
オーキド博士が椅子へ座り直す。
『どうした?』
「仲間になりたがってるコイキングがいるんだ」
マサシは港であったことを話した。
水へ戻しても離れず、桟橋に沿ってついてきたこと。
手を伸ばすと、自分から近づいてきたこと。
博士は最後まで聞き、ゆっくり頷いた。
『それで、お前さんはどうしたいんじゃ?』
「一緒に行きたい」
答えは、すぐに出た。
隣でヒトカゲも頷く。
「でも、俺の手持ちは六体だろ。それに、コイキングが休める場所も、ちゃんと考えたい」
『うむ。では、順番に話そうか』
博士は画面の向こうで指を立てた。
『まず、手持ちを一体こちらへ預ければ、新しい仲間を迎えられる。ここなら、ほかのポケモンたちと過ごせるぞ』
「……うん」
『それから、コイキングじゃが、水場で泳ぐ時間を作ってやるとよい。移動中はボールで休ませて構わん。無理に地面へ出して歩かせる必要はないからの』
マサシは頭の中で、これからの道を思い浮かべた。
海を離れても、川や池はある。
センターの設備も、その都度確かめればいい。
『最初から何もかも上手くできるとは限らん。困ったら、また相談しなさい』
「わかった。ありがとう、博士」
返事をしてから、マサシは腰のボールへ目を落とした。
誰かに、少し待ってもらわなければならない。
そのことは、自分から話したかった。
*
中庭に六体を出すと、スピアーが軽く羽を鳴らした。
ポッポはベンチへ止まり、バタフリーがその隣へ下りる。
ニドランたちも、マサシの前へ集まった。
「さっき港で、コイキングに会ったんだ」
マサシはしゃがみ、仲間たちを見渡した。
「一緒に旅をしたいって。俺も、連れていきたいと思ってる」
ヒトカゲが声を上げた。
その言葉を受けるように、ニドラン♂が鳴く。
「ただ、全員を一度には連れて歩けないから……」
マサシの声が、少し遅くなった。
ベンチの上で、ポッポが首を傾げる。
マサシはその前へ移った。
「ポッポ。少しの間、博士のところで過ごしてみないか?」
ポッポが、じっとこちらを見る。
「広い庭があるんだって。ほかのポケモンもいる。お前なら、すぐ仲良くなれそうだと思って」
指を差し出すと、ポッポがその上へ移った。
マサシは目の高さまで腕を上げる。
「ハナダジム、助かったよ。あの一勝がなかったら、バッジは取れてなかった」
「ポッ」
「次に一緒に戦うときも、頼りにしてる」
ポッポが胸を張った。
それから羽を広げ、中庭を一周する。
戻ってきたのは、いつもの肩だった。
頬へ、柔らかな羽が触れる。
マサシは少し笑った。
「……ありがとな」
ほかの仲間たちが、ポッポを見上げていた。
バタフリーとスピアーがそばへ飛び、ニドランたちもベンチの下から声をかける。
ヒトカゲが手を上げると、ポッポは翼を軽く触れさせた。
*
転送機へ置く前に、マサシはもう一度ボールを見た。
「着いたら、博士に挨拶しとけよ」
ボールが小さく動く。
機械へ載せると、光に包まれ、その姿が消えた。
少しして、画面の向こうにポッポが現れる。
『無事に到着したぞ』
博士の腕から、ポッポが窓辺へ飛び移った。
外を覗き、すぐにこちらを振り返る。
「ポッポ!」
「もう庭、見つけたのか」
マサシが笑う。
『外へ出るのは、ここを案内してからじゃ。焦るでない』
博士の言葉に、ポッポが大人しく腕へ戻った。
その姿を見て、マサシはようやく肩の力を抜いた。
「博士、よろしくお願いします」
『うむ。大切に預かろう』
*
港へ戻る足は、少し速くなった。
隣を走るヒトカゲが、マサシを見上げる。
「待たせてるからな」
「カゲ!」
桟橋が見えてくる。
作業員が、こちらに気づいて手を上げた。
「おかえり。ちゃんと待ってたぞ」
その足元で、水面が跳ねた。
赤い体が顔を出す。
「コイキング!」
マサシが駆け寄ると、コイキングは尾を大きく動かした。
桟橋のすぐそばまで来て、口を開く。
「遅くなって悪かった」
しゃがみ、水へ指を入れる。
コイキングがすぐに近づいた。
マサシはリュックから、空のボールを出した。
「一緒に来る準備、できたぞ」
赤い目が、ボールへ向く。
「泳げる場所も探す。お前の得意なことも、ゆっくり見つけよう」
マサシはボールを水面へ近づけた。
「よろしく、コイキング」
コイキングが、少し体を引いた。
迷ったのかと思った。
だが、次の瞬間、尾が水を叩く。
赤い体が跳ね上がった。
「うわっ!」
口先がボールのボタンへ当たる。
赤い光がコイキングを包んだ。
マサシは慌てて両手でボールを受け止める。
一度、二度。
手の中で揺れたあと、小さな音が鳴った。
マサシはボールを見下ろした。
それから、隣のヒトカゲを見る。
「……入ったな」
「カゲ!」
ヒトカゲが両腕を上げた。
マサシも、こらえきれずに笑った。
「コイキング、ゲットだ」
大声ではなかった。
けれど、手の中のボールは、しっかり温かく感じた。
*
すぐに海へ出してやると、コイキングは桟橋の周りを泳ぎ始めた。
ヒトカゲが、その動きに合わせて歩く。
マサシも隣をついていった。
「お前、泳ぐのは速いな」
コイキングが水面を横切る。
さっきまで止まっていたのは、弱って動けなかったからではない。
本当に、ここで待っていたのだ。
そう気づいて、マサシは少しだけ目を細めた。
作業員が腕を組み、二体の様子を眺める。
「いい相手が見つかったなあ」
コイキングが顔を上げた。
マサシも、思わず頷く。
「俺も、そう思います」
そのあとで、ふと自分の言葉が照れくさくなった。
水面へ向き直り、指を伸ばす。
「……でも、顔に水かけるのはほどほどにな」
コイキングが跳ねた。
しぶきが、マサシの袖へ落ちる。
「聞いてた?」
ヒトカゲが楽しそうに鳴いた。
*
ポケモンセンターへ戻り、コイキングもジョーイに診てもらった。
地面で跳ねていたときについた小さな擦り傷は、その日のうちに手当てが終わった。
夕方には、水の張られたセンターのプールで泳ぐ姿を見せてくれた。
マサシは縁へ座り、ほかの仲間たちも呼んだ。
「今日から、一緒に旅をするコイキングだ」
ニドラン♂が、水面へ鼻を近づける。
コイキングが顔を出すと、驚いて一歩下がった。
ニドラン♀が、その横へ並ぶ。
バタフリーとスピアーは、プールの上をゆっくり飛んだ。
コイキングが、二体を目で追う。
「飛ぶ仲間もいるし、走るのが得意なやつもいる」
マサシは水面へ手を入れた。
「お前は、ここだと一番自由に動けるな」
コイキングが尾を振る。
小さな波が、指の間を抜けていった。
試しに、浮いていた葉を少し先へ流してみる。
コイキングは一度それを見てから、すぐに泳いで追いついた。
「お、早い」
葉のそばで向きを変える。
長い体がくねり、尾が水を押した。
次は、少し離れた場所へ。
コイキングは迷わず追いかけた。
マサシはその動きを見ながら、頬を緩めた。
「ちゃんと見てるし、曲がれるんだな」
まだ、バトルで何ができるかはわからない。
けれど、知っている技が少ないことと、何もできないことは同じではなかった。
ヒトカゲが隣へ座り、水面を覗く。
コイキングが戻ってきた。
マサシとヒトカゲの間へ顔を出し、大きく口を開ける。
「……腹減った?」
返事のように、尾が鳴った。
マサシは笑い、用意していた餌の容器を取った。
「よし。じゃあ、歓迎会にするか」
仲間たちが、そばへ集まる。
コイキングは水面から、その顔を一体ずつ見上げていた。
第32話終了
次回・第33話「船旅への誘い!サント・アンヌ号の招待状」