ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

32 / 36
第32話 弱くたって仲間だ!コイキングとの約束

ポケモンセンターへ戻ると、マサシは真っ先に通信機へ向かった。

 

 呼び出し音が数回鳴り、画面に見慣れた顔が映る。

 

『おお、マサシ。元気にしとるか?』

 

「元気。博士、ちょっと相談があるんだけど」

 

 オーキド博士が椅子へ座り直す。

 

『どうした?』

 

「仲間になりたがってるコイキングがいるんだ」

 

 マサシは港であったことを話した。

 

 水へ戻しても離れず、桟橋に沿ってついてきたこと。

 

 手を伸ばすと、自分から近づいてきたこと。

 

 博士は最後まで聞き、ゆっくり頷いた。

 

『それで、お前さんはどうしたいんじゃ?』

 

「一緒に行きたい」

 

 答えは、すぐに出た。

 

 隣でヒトカゲも頷く。

 

「でも、俺の手持ちは六体だろ。それに、コイキングが休める場所も、ちゃんと考えたい」

 

『うむ。では、順番に話そうか』

 

 博士は画面の向こうで指を立てた。

 

『まず、手持ちを一体こちらへ預ければ、新しい仲間を迎えられる。ここなら、ほかのポケモンたちと過ごせるぞ』

 

「……うん」

 

『それから、コイキングじゃが、水場で泳ぐ時間を作ってやるとよい。移動中はボールで休ませて構わん。無理に地面へ出して歩かせる必要はないからの』

 

 マサシは頭の中で、これからの道を思い浮かべた。

 

 海を離れても、川や池はある。

 

 センターの設備も、その都度確かめればいい。

 

『最初から何もかも上手くできるとは限らん。困ったら、また相談しなさい』

 

「わかった。ありがとう、博士」

 

 返事をしてから、マサシは腰のボールへ目を落とした。

 

 誰かに、少し待ってもらわなければならない。

 

 そのことは、自分から話したかった。

 

*

 

 中庭に六体を出すと、スピアーが軽く羽を鳴らした。

 

 ポッポはベンチへ止まり、バタフリーがその隣へ下りる。

 

 ニドランたちも、マサシの前へ集まった。

 

「さっき港で、コイキングに会ったんだ」

 

 マサシはしゃがみ、仲間たちを見渡した。

 

「一緒に旅をしたいって。俺も、連れていきたいと思ってる」

 

 ヒトカゲが声を上げた。

 

 その言葉を受けるように、ニドラン♂が鳴く。

 

「ただ、全員を一度には連れて歩けないから……」

 

 マサシの声が、少し遅くなった。

 

 ベンチの上で、ポッポが首を傾げる。

 

 マサシはその前へ移った。

 

「ポッポ。少しの間、博士のところで過ごしてみないか?」

 

 ポッポが、じっとこちらを見る。

 

「広い庭があるんだって。ほかのポケモンもいる。お前なら、すぐ仲良くなれそうだと思って」

 

 指を差し出すと、ポッポがその上へ移った。

 

 マサシは目の高さまで腕を上げる。

 

「ハナダジム、助かったよ。あの一勝がなかったら、バッジは取れてなかった」

 

「ポッ」

 

「次に一緒に戦うときも、頼りにしてる」

 

 ポッポが胸を張った。

 

 それから羽を広げ、中庭を一周する。

 

 戻ってきたのは、いつもの肩だった。

 

 頬へ、柔らかな羽が触れる。

 

 マサシは少し笑った。

 

「……ありがとな」

 

 ほかの仲間たちが、ポッポを見上げていた。

 

 バタフリーとスピアーがそばへ飛び、ニドランたちもベンチの下から声をかける。

 

 ヒトカゲが手を上げると、ポッポは翼を軽く触れさせた。

 

*

 

 転送機へ置く前に、マサシはもう一度ボールを見た。

 

「着いたら、博士に挨拶しとけよ」

 

 ボールが小さく動く。

 

 機械へ載せると、光に包まれ、その姿が消えた。

 

 少しして、画面の向こうにポッポが現れる。

 

『無事に到着したぞ』

 

 博士の腕から、ポッポが窓辺へ飛び移った。

 

 外を覗き、すぐにこちらを振り返る。

 

「ポッポ!」

 

「もう庭、見つけたのか」

 

 マサシが笑う。

 

『外へ出るのは、ここを案内してからじゃ。焦るでない』

 

 博士の言葉に、ポッポが大人しく腕へ戻った。

 

 その姿を見て、マサシはようやく肩の力を抜いた。

 

「博士、よろしくお願いします」

 

『うむ。大切に預かろう』

 

*

 

 港へ戻る足は、少し速くなった。

 

 隣を走るヒトカゲが、マサシを見上げる。

 

「待たせてるからな」

 

「カゲ!」

 

 桟橋が見えてくる。

 

 作業員が、こちらに気づいて手を上げた。

 

「おかえり。ちゃんと待ってたぞ」

 

 その足元で、水面が跳ねた。

 

 赤い体が顔を出す。

 

「コイキング!」

 

 マサシが駆け寄ると、コイキングは尾を大きく動かした。

 

 桟橋のすぐそばまで来て、口を開く。

 

「遅くなって悪かった」

 

 しゃがみ、水へ指を入れる。

 

 コイキングがすぐに近づいた。

 

 マサシはリュックから、空のボールを出した。

 

「一緒に来る準備、できたぞ」

 

 赤い目が、ボールへ向く。

 

「泳げる場所も探す。お前の得意なことも、ゆっくり見つけよう」

 

 マサシはボールを水面へ近づけた。

 

「よろしく、コイキング」

 

 コイキングが、少し体を引いた。

 

 迷ったのかと思った。

 

 だが、次の瞬間、尾が水を叩く。

 

 赤い体が跳ね上がった。

 

「うわっ!」

 

 口先がボールのボタンへ当たる。

 

 赤い光がコイキングを包んだ。

 

 マサシは慌てて両手でボールを受け止める。

 

 一度、二度。

 

 手の中で揺れたあと、小さな音が鳴った。

 

 マサシはボールを見下ろした。

 

 それから、隣のヒトカゲを見る。

 

「……入ったな」

 

「カゲ!」

 

 ヒトカゲが両腕を上げた。

 

 マサシも、こらえきれずに笑った。

 

「コイキング、ゲットだ」

 

 大声ではなかった。

 

 けれど、手の中のボールは、しっかり温かく感じた。

 

*

 

 すぐに海へ出してやると、コイキングは桟橋の周りを泳ぎ始めた。

 

 ヒトカゲが、その動きに合わせて歩く。

 

 マサシも隣をついていった。

 

「お前、泳ぐのは速いな」

 

 コイキングが水面を横切る。

 

 さっきまで止まっていたのは、弱って動けなかったからではない。

 

 本当に、ここで待っていたのだ。

 

 そう気づいて、マサシは少しだけ目を細めた。

 

 作業員が腕を組み、二体の様子を眺める。

 

「いい相手が見つかったなあ」

 

 コイキングが顔を上げた。

 

 マサシも、思わず頷く。

 

「俺も、そう思います」

 

 そのあとで、ふと自分の言葉が照れくさくなった。

 

 水面へ向き直り、指を伸ばす。

 

「……でも、顔に水かけるのはほどほどにな」

 

 コイキングが跳ねた。

 

 しぶきが、マサシの袖へ落ちる。

 

「聞いてた?」

 

 ヒトカゲが楽しそうに鳴いた。

 

*

 

 ポケモンセンターへ戻り、コイキングもジョーイに診てもらった。

 

 地面で跳ねていたときについた小さな擦り傷は、その日のうちに手当てが終わった。

 

 夕方には、水の張られたセンターのプールで泳ぐ姿を見せてくれた。

 

 マサシは縁へ座り、ほかの仲間たちも呼んだ。

 

「今日から、一緒に旅をするコイキングだ」

 

 ニドラン♂が、水面へ鼻を近づける。

 

 コイキングが顔を出すと、驚いて一歩下がった。

 

 ニドラン♀が、その横へ並ぶ。

 

 バタフリーとスピアーは、プールの上をゆっくり飛んだ。

 

 コイキングが、二体を目で追う。

 

「飛ぶ仲間もいるし、走るのが得意なやつもいる」

 

 マサシは水面へ手を入れた。

 

「お前は、ここだと一番自由に動けるな」

 

 コイキングが尾を振る。

 

 小さな波が、指の間を抜けていった。

 

 試しに、浮いていた葉を少し先へ流してみる。

 

 コイキングは一度それを見てから、すぐに泳いで追いついた。

 

「お、早い」

 

 葉のそばで向きを変える。

 

 長い体がくねり、尾が水を押した。

 

 次は、少し離れた場所へ。

 

 コイキングは迷わず追いかけた。

 

 マサシはその動きを見ながら、頬を緩めた。

 

「ちゃんと見てるし、曲がれるんだな」

 

 まだ、バトルで何ができるかはわからない。

 

 けれど、知っている技が少ないことと、何もできないことは同じではなかった。

 

 ヒトカゲが隣へ座り、水面を覗く。

 

 コイキングが戻ってきた。

 

 マサシとヒトカゲの間へ顔を出し、大きく口を開ける。

 

「……腹減った?」

 

 返事のように、尾が鳴った。

 

 マサシは笑い、用意していた餌の容器を取った。

 

「よし。じゃあ、歓迎会にするか」

 

 仲間たちが、そばへ集まる。

 

 コイキングは水面から、その顔を一体ずつ見上げていた。

 

第32話終了

 

次回・第33話「船旅への誘い!サント・アンヌ号の招待状」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。