ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

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第33話 船旅への誘い!サント・アンヌ号の招待状

朝のプールを、赤い体が横切った。

 

 マサシが水面へ浮かべた葉に、コイキングが追いつく。

 

 そのまま口で触れ、こちらへ押し戻してきた。

 

「お、持ってきた」

 

 プールの縁へしゃがみ、葉を受け取る。

 

 隣のヒトカゲが手を叩いた。

 

「カゲ!」

 

 コイキングは得意そうに尾を揺らし、また少し先へ泳いでいく。

 

 昨日仲間になったばかりなのに、マサシが水辺へ来ると、すぐに顔を出すようになっていた。

 

「今日は、どこまで行けるかな」

 

 マサシが立ち上がる。

 

「水場を探しながら進むから、見つけたらまた出すぞ」

 

 コイキングが、くるりと向きを変えて戻ってきた。

 

 ボールを近づけると、自分から口先で触れる。

 

 赤い光が水面を照らした。

 

 マサシはボールを腰へ収め、リュックを持ち上げた。

 

「よし。出発」

 

*

 

 待合室では、サトシがバッジケースを広げていた。

 

 真ん中で輝くオレンジバッジを、ピカチュウが覗き込んでいる。

 

「おはよう」

 

 マサシが声をかけると、サトシが顔を上げた。

 

「おはよう! もう行くのか?」

 

「そのつもり。次の街への道、受付で聞いてくる」

 

「俺たちも、そろそろ出ようと思ってたんだ」

 

 隣では、タケシが地図を畳んでいる。

 

 カスミは水筒の蓋を閉め、マサシの腰へ目を向けた。

 

「コイキング、どう?」

 

「元気。葉っぱ追いかけるの、結構速いぞ」

 

「みずポケモンなんだから、水の中ではちゃんと動けるわよ」

 

「うん。それ、昨日からよくわかった」

 

 マサシが笑う。

 

 サトシはボールを見て、少し前へ乗り出した。

 

「今度、泳いでるところ見せてくれよ!」

 

「いいよ。ピカチュウ、落ちるなよ?」

 

「ピカ?」

 

 ピカチュウが自分を指さす。

 

 サトシが笑った。

 

 四人でセンターを出ると、港から大きな汽笛が響いた。

 

 建物の間に、白い船体が見える。

 

「出港するのかな」

 

 マサシが足を止めた、そのときだった。

 

「そこの、旅のトレーナーの皆さーん!」

 

 明るい声が飛んできた。

 

*

 

 派手な帽子をかぶった二人組が、通りに立っていた。

 

 一人は大きな封筒を抱え、もう一人は道行く人へ紙を配っている。

 

「本日、サント・アンヌ号で、トレーナー交流パーティーを開催しまーす!」

 

「お食事に、ポケモンバトル! 豪華な船内も見学できますよ!」

 

 サトシがすぐに立ち止まった。

 

「ポケモンバトル!?」

 

 マサシは、その隣から二人組を見る。

 

 帽子の下の顔は、大きな眼鏡でよく見えない。

 

 妙に勢いのいい声には、どこか聞き覚えがあった。

 

「無料でご招待です!」

 

 一枚の紙が、目の前へ差し出される。

 

 サトシが受け取った。

 

「すげえ! これ、本当にもらっていいのか?」

 

「もっちろん!」

 

 もう一枚が、マサシの手にも押し込まれる。

 

「あなたも、お連れの皆さんも!」

 

 ヒトカゲが紙を覗いた。

 

 金色の模様と、大きな船の絵。

 

 マサシは裏返し、出港時刻や乗船口を確かめる。

 

「……豪華だな」

 

「でしょう? めったにない機会ですよ!」

 

 タケシが自分の招待状を見た。

 

「トレーナーを集めた催しなら、面白そうだな」

 

「船の上から海を見られるのも、いいわね」

 

 カスミも港へ顔を向ける。

 

 サトシは、もう行く気になっていた。

 

「よし! みんなで行こうぜ!」

 

 マサシは招待状をもう一度見下ろす。

 

 大きな船には、昨日から乗ってみたいと思っていた。

 

「……ちょっと寄り道、だな」

 

 ヒトカゲも嬉しそうに頷いた。

 

 四人が港へ歩き出したあと、背後で二人組の声が小さく重なった。

 

 けれど、汽笛に紛れて聞き取れなかった。

 

*

 

 サント・アンヌ号は、近くで見ると、さらに大きかった。

 

 乗船口まで続く階段を、着飾った人々が上がっていく。

 

 ポケモンを連れたトレーナーの姿も多い。

 

 マサシは係員へ招待状を渡した。

 

「ようこそ、サント・アンヌ号へ」

 

 紙を確かめた係員が、笑顔で道を開ける。

 

 階段を上がる途中、ヒトカゲが手すりの間から海を覗いた。

 

「足元、見ろよ」

 

 マサシが声をかける。

 

 そう言った自分も、甲板へ出たところで立ち止まった。

 

 港が、いつもより低い。

 

 遠くの建物の屋根まで見える。

 

「……高いな」

 

「カゲ……」

 

 二体で並んで下を覗き、カスミに背中を押された。

 

「そこにいたら、後ろの人が通れないでしょ」

 

「あ、悪い」

 

 慌てて横へ寄る。

 

 サトシは少し先で、目を輝かせていた。

 

「すごい船だな! なあ、ピカチュウ!」

 

「ピカチュウ!」

 

 開かれた扉の奥から、賑やかな音楽が聞こえてきた。

 

*

 

 会場には、長いテーブルが並んでいた。

 

 料理の皿。

 

 果物の盛り合わせ。

 

 天井の明かりを受けて輝く、いくつものグラス。

 

 その間を、人とポケモンが行き交っている。

 

「……ちょっとした街じゃん」

 

 マサシが呟いた横で、ヒトカゲのお腹が鳴った。

 

 顔を見合わせる。

 

「朝、食べたよな?」

 

「カゲ」

 

「まあ、俺もちょっと食べたいけど」

 

 係員にポケモン用の食事もあると教わり、マサシは小皿へ分けてもらった。

 

 ほかの仲間たちには、広い場所で順番に食べさせてやろう。

 

 コイキングが入れる水場もあるか尋ねると、後方の甲板に小さなプールがあるという。

 

「あとで行こうな」

 

 腰のボールへ声をかける。

 

 そのとき、会場の中央から歓声が上がった。

 

「いけ、バタフリー!」

 

 サトシの声だった。

 

「……もう始めてる」

 

 マサシは皿を置き、ヒトカゲと人垣へ向かった。

 

 輪の中では、サトシのバタフリーと、一体のラッタが向き合っていた。

 

 相手は、立派な上着を着た紳士だ。

 

 ラッタが床を蹴る。

 

「上へかわせ!」

 

 バタフリーが舞い上がった。

 

 くちばしでも角でもない、大きな前歯が、その下を通り過ぎる。

 

 サトシが続けて指示を出そうとしたところで、紳士が片手を上げた。

 

「いや、お見事。いいバタフリーを育てているね」

 

 勝負はそこで止まった。

 

 サトシが少し驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑う。

 

「ありがとうございます!」

 

 マサシは輪の外から手を振った。

 

「早いな、始めるの」

 

「だって、バトルしていいって言われたからさ!」

 

 サトシが答える。

 

 その頭上で、バタフリーが羽を揺らした。

 

 紳士はラッタを戻しながら、サトシへ何かを話しかけ始める。

 

 マサシはヒトカゲを見下ろした。

 

「俺たちも一回くらい、やってくか?」

 

「カゲ!」

 

*

 

 相手になったのは、船旅の途中だという青年だった。

 

 使うポケモンは、ニョロモ。

 

 マサシはボールを一つ取った。

 

「バタフリー、頼む!」

 

 現れた白い羽に、周りの客が目を向ける。

 

 バタフリーは会場を一度見渡し、マサシの前へ下りてきた。

 

「一対一。危なくなったら、止めよう」

 

「ええ。それでいきましょう」

 

 青年が頷く。

 

 人垣が少し広がった。

 

「ニョロモ、みずでっぽう!」

 

 水が放たれる。

 

「横へ!」

 

 バタフリーが身を翻した。

 

 水は後ろの空いた床へ当たった。

 

 青年がすぐに指示を変える。

 

「近づいて、もう一度!」

 

 ニョロモが短い脚で走る。

 

 バタフリーを見上げ、狙いをつける。

 

 マサシはその顔を見た。

 

 空中の相手を追い続けている。

 

「低く回れ!」

 

 バタフリーが高度を落とした。

 

 ニョロモの周りを、小さく回る。

 

 ニョロモが体ごと向きを変えた。

 

 水を撃とうとするたび、バタフリーはその横へ抜ける。

 

「止まって待て、ニョロモ!」

 

 青年の声で、ニョロモが足を止めた。

 

 回ってくる先を狙う。

 

 マサシも、それを見た。

 

「上だ!」

 

 バタフリーが、ふわりと上がる。

 

 ニョロモの目が追った。

 

 その瞬間、バタフリーの羽から、細かな粉がこぼれた。

 

 光の中で、きらきらと落ちる。

 

 ニョロモが瞬きをした。

 

 もう一度、まぶたが閉じる。

 

「……ニョロモ?」

 

 丸い体が、座り込んだ。

 

 小さな寝息が聞こえた。

 

 マサシはバタフリーを見上げた。

 

「ねむりごな……使えたのか」

 

 バタフリーが、自分でも確かめるように羽を動かす。

 

「フリー」

 

 青年はニョロモの様子を見てから、笑った。

 

「ここまでにしましょう。すっかり眠ってしまいました」

 

「はい。ありがとうございました」

 

 マサシは頭を下げ、腕を上げた。

 

 戻ってきたバタフリーが、そこへ止まる。

 

「また一つ、わかったな」

 

 赤い目が、こちらを向く。

 

「でも、ここじゃ粉を広げすぎないようにしよう。周りの人まで寝たら大変だ」

 

 バタフリーが鳴いた。

 

 マサシはその顔へ、そっと指を寄せた。

 

*

 

 会場を離れ、後方の甲板へ出ると、潮風が頬を撫でた。

 

 小さなプールの周りには、ほかにもみずポケモンを連れた客がいた。

 

 マサシは係員へ声をかけ、空いている場所へコイキングを出した。

 

 赤い体が、水の中を進む。

 

 一周して戻り、マサシへ顔を向けた。

 

「どうだ? 船の上の水も、変わんないか?」

 

 コイキングが尾を振る。

 

 ヒトカゲが縁へ座り、その動きを追った。

 

 バタフリーは手すりに止まっている。

 

 マサシも隣へ腰を下ろした。

 

 遠くで、出港を知らせる汽笛が鳴った。

 

 足元へ、低い振動が伝わってくる。

 

 船が動き始めたのだ。

 

 マサシは顔を上げた。

 

 岸壁が、少しずつ遠ざかっていく。

 

「……ほんとに海へ出るんだな」

 

 コイキングも水面から顔を出していた。

 

 ヒトカゲが立ち上がり、手すりの向こうを覗く。

 

 マサシはその隣へ並んだ。

 

 クチバシティの建物が、ゆっくり小さくなっていく。

 

 船の進む先には、青い海が広がっていた。

 

 その景色を眺めながら、マサシはまだ知らなかった。

 

 同じ船の下の階で、白い制服の二人組が、黒い制服の男たちと合流していることを。

 

 そして、豪華なパーティーの裏で、別の計画が動き始めていることを。

 

第33話終了

 

次回・第34話「船上の罠!狙われたモンスターボール」

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