ポケットモンスター ―もうひとつのマサラの物語―   作:mss

8 / 25
アンケート回答ありがとうございます!

アンケートの結果複数のヒロインになりました!

誰になるかを楽しみながら読んでください!




第8話 森の出口を目指して!キャタピーが見つけた戦い方

森の道へ戻ってからも、キャタピーはしばらく後ろを見ていた。

 

 木々の隙間に、もう白い羽は見えない。

 

 それでも、風で葉が揺れるたび、小さな頭が持ち上がった。

 

 マサシはキャタピーを片腕へ載せ直した。

 

「そんなに見てたら、首疲れるぞ」

 

 声をかけると、キャタピーが振り向いた。

 

 さっきカイロスに挟まれたところを確かめるように、マサシは体の横へ目を向ける。

 

 大きな傷は見当たらなかった。

 

 ただ、いつもより足の動きが少ない。

 

「今日はもう、ゆっくりな」

 

 キャタピーは彼の袖へ頭を寄せた。

 

 隣ではヒトカゲが歩き、リュックの上にはビードルが乗っている。

 

ポッポは先の枝へ移っては、こちらを待っていた。

 

 マサシは、さっきの勝負を思い返した。

 

 根の後ろへ隠れた。

 

 カイロスが回り込んだ。

 

 足へ糸をつけたが、簡単に切られた。

 

 逃げる場所を見つけただけでは、その先が続かなかった。

 

「……短く言わないとな」

 

「カゲ?」

 

「俺の指示。考えてる間も、相手は動くからさ」

 

 ヒトカゲは顔を上げたまま、何度か瞬きをした。

 

 マサシはその頭へ手を伸ばしかけ、キャタピーを抱いていることを思い出す。

 

「あとで撫でる」

 

 ヒトカゲは納得したように前を向いた。

 

     ◇

 

 午後の森では、鳥ポケモンの声が遠くまで響いていた。

 

 道の端に案内板を見つけ、マサシは足を止める。

 

 矢印の先には、ニビシティへ向かう出口と書かれていた。

 

「やっと出口が近いって」

 

 地図と見比べながら言うと、ヒトカゲが嬉しそうに鳴いた。

 

 マサシも肩を回した。

 

「町に着いたら、ちゃんとしたベッドで寝たいな」

 

 腕の中でキャタピーが体を起こした。

 

「お前は今も寝られるだろ」

 

 そのとき、頭上で羽音がした。

 

 ポッポが戻ってきたのかと思って顔を上げる。

 

 けれど、枝の向こうを飛んでいたのは、白い羽を持つバタフリーだった。

 

 続いて、道の曲がり角から人影が現れた。

 

「あれ? マサシ!」

 

 聞き慣れた声だった。

 

 サトシが手を振っている。

 

 肩にはピカチュウ。

 

 その後ろから、カスミが歩いてきた。

 

「また会ったな」

 

 マサシが言うと、サトシが駆け寄った。

 

「お前も、まだ森にいたのか!」

 

「飯食って、寝て、練習してた」

 

「寝てたの?」

 

 カスミの声に、マサシは頷いた。

 

「大事だろ」

 

「そこだけ堂々と言わないの」

 

 サトシの肩で、ピカチュウが笑うように鳴いた。

 

 ヒトカゲが一歩前へ出る。

 

 ピカチュウも肩から下り、二体は顔を寄せて鳴き交わした。

 

 マサシはその様子を見た。

 

 目には力がある。

 

 足もしっかり地面を踏んでいた。

 

「元気になったな」

 

「うん。すっかり!」

 

 サトシが嬉しそうに答えた。

 

 マサシは頷き、今度は頭上へ目を向ける。

 

 バタフリーが、サトシの近くへ降りてきた。

 

「そいつ、お前の?」

 

「そう! 森で仲間になったキャタピーが進化したんだ!」

 

 差し出した腕へ、バタフリーが止まる。

 

「トランセルになって、それからバタフリーに!」

 

「もう二回も進化したのか」

 

 マサシは感心して見た。

 

 腕の中で、キャタピーが身を乗り出す。

 

 バタフリーもそれに気づき、羽をゆっくり動かした。

 

 キャタピーが小さく鳴く。

 

 白い羽が開くたび、その目が左右へ動いた。

 

「マサシもキャタピー、ゲットしたんだな!」

 

「うん。ビードルもいる」

 

 リュックから顔を出したビードルを見て、サトシが目を丸くする。

 

「お前、どんどん増えてるじゃん!」

 

「お前は進化、早すぎだろ」

 

 二人で笑った。

 

 カスミだけは、いつの間にか二歩ほど離れていた。

 

     ◇

 

「……何でそんなところにいるんだ?」

 

 マサシが尋ねると、カスミは顔を引きつらせた。

 

「べ、別に。ちょっと距離を取ってるだけ」

 

 その目が、キャタピーとビードルへ向いている。

 

 マサシは二体を見て、それからカスミを見た。

 

「苦手なの?」

 

「虫は、ちょっと……!」

 

 サトシがすぐに口を挟んだ。

 

「キャタピー、かわいいのにな!」

 

「それは人それぞれでしょ!」

 

 カスミが言い返す。

 

 腕の中のキャタピーが、彼女へ顔を向けた。

 

 近づこうとしているのか、体が少し前へ伸びる。

 

 マサシは手を添えて止めた。

 

「待って。今は、こっち」

 

 キャタピーが首を傾げる。

 

「急に近くへ行ったら、びっくりするって」

 

 マサシはリュックを下ろした。

 

 カスミから少し離れた木の根のそばへ、キャタピーとビードルを落ち着かせる。

 

「ここで休んでて。俺もすぐそばにいるから」

 

 二体が落ち着いたのを見てから、カスミへ向き直った。

 

「これくらいなら平気?」

 

「……うん。ありがと」

 

 カスミは小さく息を吐いた。

 

 サトシは不思議そうに見ていたが、ピカチュウに裾を引かれ、ヒトカゲたちの方へしゃがんだ。

 

 カスミが声を落とす。

 

「ごめんね。あんたのポケモンなのに」

 

「怖いのは、仕方ないだろ」

 

 マサシは答えた。

 

「でも、あいつらが何かしたわけじゃないからさ。慣れるまでは、俺が間にいるよ」

 

 カスミは少し黙った。

 

 キャタピーとビードルは、木の根のそばで並んでいる。

 

 ヒトカゲが近づき、何か話しかけていた。

 

「……あんた、意外とちゃんとしてるのね」

 

「意外って何だよ」

 

「さっきまで寝てたって言ってたから」

 

「寝るのと、ちゃんとしてるのは両立する」

 

 真面目な顔で答えると、カスミは思わず笑った。

 

 マサシも口元を緩める。

 

 その笑顔を見て、カスミはもう一度だけ、木の根のそばへ目を向けた。

 

 今度は、すぐには顔を背けなかった。

 

     ◇

 

 道は、この先で二つに分かれていた。

 

 どちらも出口へつながっているが、片方は川沿いを回り、もう片方は丘を越えるらしい。

 

 サトシは案内板を見るなり、丘側を指した。

 

「こっち、近そう!」

 

「坂、結構あるぞ」

 

 マサシが地図を見せる。

 

「でも、真っすぐだろ?」

 

「真っすぐなら楽ってわけじゃないけどな」

 

 カスミが横から覗き込んだ。

 

「あたしも、こっちがいい。川沿いは道がぬかるんでるかもしれないし」

 

 マサシは川沿いの道を見た。

 

 木々の間から、明るい水面がわずかに覗いている。

 

 休める場所もありそうだった。

 

「俺はこっちにする。坂、面倒だし」

 

「やっぱりそれかよ!」

 

 サトシが笑った。

 

「町で会ったら、今度こそバトルしような!」

 

「おう。俺、もう一回負けたからな」

 

「え?」

 

 サトシが目を丸くした。

 

 マサシはキャタピーを見る。

 

「カイロスに。結構強かった」

 

「あ、サムライ?」

 

「会ったのか?」

 

「俺も戦った!」

 

 マサシは笑った。

 

 別々に歩いていても、同じ相手に出会うことがある。

 

 それでも、それぞれの隣にいる仲間は違っていた。

 

「次は勝ちたいから、町で練習相手になれよ」

 

「もちろん!」

 

 二人は頷き合った。

 

 カスミもマサシへ手を上げる。

 

「川の近く、足元に気をつけてね」

 

「そっちも、サトシが坂を転がったら拾ってやって」

 

「転がらないって!」

 

 サトシの声に、ピカチュウが楽しそうに鳴いた。

 

     ◇

 

 川沿いの道は、思ったより歩きやすかった。

 

 ぬかるんだ場所もあったが、避ければ靴が沈むほどではない。

 

 流れる水の音が木々の間を抜け、森の奥へ響いていた。

 

 マサシは川から離れた平らな場所へリュックを下ろした。

 

「ちょっと休憩」

 

 キャタピーとビードルを地面へ下ろし、ヒトカゲには乾いた場所を示す。

 

 ポッポは水辺の枝へ止まった。

 

 水を用意し、マサシも座ろうとした。

 

 そのとき、袖が軽く引かれた。

 

「ん?」

 

 キャタピーが、小さな落ち枝を見ていた。

 

 それからマサシを見る。

 

 朝、練習に使ったものとよく似た枝だった。

 

「またやりたいのか?」

 

 返事はすぐだった。

 

 マサシはしゃがみ、体の様子を確かめた。

 

 休んでいたぶん、動きは戻っている。

 

 けれど、今日はすでに一戦していた。

 

「少しだけな。走ったり、ぶつかったりはなし」

 

 キャタピーが頷くように体を動かす。

 

 マサシは枝を拾い、土へ一本の線を引いた。

 

「ここを、相手が来る道にしよう」

 

 小石を一つ、その上へ置く。

 

「これがカイロス」

 

 キャタピーが石を見つめる。

 

 ヒトカゲも隣から覗き込んだ。

 

「糸で引っ張り合ったら、向こうが強い。だから、ずっと引っ張らない」

 

 マサシは線の左右へ、枝を一本ずつ置いた。

 

「相手が糸に触って、少し動きが遅くなったら、その間に離れる」

 

 キャタピーは二本の枝を見比べた。

 

「まず、左の枝へ。いとをはく!」

 

 白い糸が伸びる。

 

 枝へ絡んだ。

 

「次は、右へ回れ」

 

 キャタピーが歩き始めた。

 

 糸が地面を引きずる。

 

 低く張ろうとして、そのまま自分の足へ絡まりかけた。

 

「止まれ」

 

 マサシはすぐに手を出した。

 

 糸を外し、枝へ置き直す。

 

「……長いな。言い方も、やり方も」

 

 頭の中で考えていたことが、また途中で止まってしまった。

 

 彼はキャタピーの高さまで顔を下げた。

 

 地面が近い。

 

 小さな草でも、向こう側を隠していた。

 

 立って見ている景色とは違う。

 

「ここ、見えにくいよな」

 

 キャタピーが顔を寄せてきた。

 

 マサシは少し考え、枝の位置を近づけた。

 

「じゃあ、まずは避けるところだけ。糸は俺が支える」

 

     ◇

 

 マサシは糸のついた枝を手に持った。

 

 もう片方の端は、地面から張り出した根へ軽く絡める。

 

 キャタピーには、そのすぐ後ろへ立ってもらった。

 

「ここへ、小石を転がすぞ」

 

 丸い石を土の上へ置く。

 

「お前は糸を引かなくていい。石を見て、横へ避けてみて」

 

 ゆっくり転がす。

 

 小石が糸へ触れた。

 

 ほんの一瞬、速さが落ちる。

 

 キャタピーが横へ動いた。

 

 石は、さっきまでいた場所を通り過ぎた。

 

「……そう」

 

 マサシが顔を上げる。

 

「今のだ」

 

 キャタピーが振り向いた。

 

 小石はその先で止まっている。

 

 拾い直し、もう一度転がす。

 

 今度は少しだけ速くした。

 

 キャタピーは糸へ触れる前に動こうとして、足がもつれた。

 

 マサシが手を出しかける。

 

 けれど、キャタピーは自分で止まった。

 

 足を置き直し、顔を上げる。

 

 マサシは石を押さえた。

 

「大丈夫。もう一回、ゆっくりやろう」

 

 三度目。

 

 糸が揺れた。

 

 キャタピーが横へ進む。

 

 今度は、しっかり足が動いた。

 

「よし!」

 

 マサシは手を上げた。

 

 キャタピーがその手へ頭を寄せる。

 

 隣で見ていたヒトカゲも、嬉しそうに鳴いた。

 

 ビードルが根へ近づいた。

 

 糸のついている部分を見て、短い糸をもう一本重ねる。

 

「補強してくれるのか?」

 

 返事があった。

 

 マサシは笑った。

 

「ありがと。でも、今日はこれで終わり」

 

 キャタピーが枝を見る。

 

 マサシはその前へ水を置いた。

 

「上手くいったところで休もう。続きは、また今度」

 

 今度はキャタピーも、素直に口をつけた。

 

     ◇

 

 片づけを終える頃、道の向こうが明るくなっていた。

 

 木々の間隔が広がり、風の匂いも変わっている。

 

 マサシはリュックを背負った。

 

「出口、近そうだ」

 

 ポッポが先へ飛ぶ。

 

 キャタピーを腕へ載せ、ビードルをリュックへ乗せて進むと、木々の隙間が少しずつ広がっていった。

 

 やがて視界が開けた。

 

 青い空。

 

 草の斜面。

 

 その向こうに、建物の屋根が並んでいる。

 

 ニビシティだった。

 

「……着いた」

 

 マサシは足を止めた。

 

 長かった森の道が、背後へ続いている。

 

 ヒトカゲも隣へ立ち、町を見つめた。

 

 ポッポは近くの標識へ止まる。

 

 腕の中のキャタピーが顔を上げた。

 

「初めてのジムがある町だぞ」

 

 マサシの声に、ヒトカゲの目が輝いた。

 

 キャタピーも体を起こす。

 

 ビードルは肩ひもをしっかりつかんだ。

 

 マサシは一体ずつ顔を見た。

 

「その前に、センターな」

 

 ヒトカゲが少しだけ肩を落とす。

 

「飯も食べる」

 

 すぐに顔が上がった。

 

「分かりやすいな、お前」

 

 マサシは笑い、町へ向かう坂を下り始めた。

 

 カイロスに負けた場面は、まだ頭に残っていた。

 

 けれど、さっきキャタピーが横へ動けた瞬間も、はっきり覚えていた。

 

 次の勝負では、あの一歩が役に立つかもしれない。

 

 そう思うと、町へ向かう足が少し軽くなった。

 

     ◇

 

 町の入り口で、マサシは大きな案内図を見つけた。

 

 ポケモンセンター。

 

 博物館。

 

 そして、ニビジム。

 

 ジムの説明には、岩のように堅い守りを得意とすると書かれていた。

 

 マサシは顔を近づける。

 

「岩、か」

 

 ヒトカゲを見る。

 

 ポッポを見る。

 

 腕の中にはキャタピーがいて、背中にはビードルがいる。

 

「……なかなか大変そうだな」

 

 そう言いながらも、口元は少し上がっていた。

 

 まだ見たことのない相手が、あの町で待っている。

 

 マサシはまず、赤い屋根の建物へ向かって歩き出した。

 

第8話終了

 

次回・第9話「ニビジムの壁!タケシと岩のポケモン」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。