勝利の女神:NIKKE〈WORLD TRIGGER〉 作:ライダーマスク
〈語り部SIDE〉
マリアンを連れ去ったタイラント級ラプチャーを撃破したムラクモ、ラピ、アニスの臨時分隊。
ムラクモは展開した[エスクード]を消しながらラピとアニスに合流した。
「2人とも被害は?」
「残弾が1マガジンとグレネードが0ですが損傷はありません」
「こっちは後6発しか残ってないけど損傷は無いわ。指揮官様が展開してくれた遮蔽物のお陰でね」
ムラクモは2人の様子を見る。
損傷はなく、精々先ほどの戦いで服や髪が汚れた程度。
そしてマリアンやかつていた専属のニケの時と同じような過ちを犯さない為にも侵食の兆候が無いかを確認。
「問題ないな。連れ去られたマリアンと本来創作予定だった調査分隊と最初の救援分隊を捜索しよう」
「はい」
「うん」
「シフティー。ここから半径1㎞以内にラプチャーが来ないかを見張っておいてくれ」
〘了解しました〙
ムラクモの指示通りに捜索を始めるラピとアニス、そして本人。
まず最初に見つかったのは調査隊とその調査隊を救援しに来た分隊。
全員が部品とニケの命ともいえる脳が収められた[ブレインシェルター]*1が無くなっていた。
そして―――
「指揮官。マリアンを見つけました」
ラピの通信で、ムラクモは報告のあった場所に向かう。
既にアニスもラピと合流していた。
「様子は?」
「生きては…います…」
「…うん」
2人の表情が曇っている事でマリアンはもう助からない状況だと察したムラクモ。
それでも彼は現実を受け止める為にマリアンの様子を直接確認した。
「…ッ」
左脚は大腿部から全て砕けるようになくなり、右足もガッデシアムの皮膚が無くなり中身が向き代の状態。
右腕はもぎ取られたように無くなっており、頭は右目は人の瞳ではなく怪しげな赤い光を放ち、残った左目は光が消えた状態で上を見ていた。
「…こ…こ…です……ここ……です…」
侵食の名残がある影響か、侵食が完全に表れた時の言葉を壊れた音響機器のように同じ言葉を言い続けている。
「もう手遅れね…。侵食が脳にまで転移している…」
アニスはマリアンが完全に助からない事を呟いた。
それは地上で指揮官をし続け、仮にでも一部の地上を奪還した功績のあるムラクモはわかっていた。
嘗て資源施設を奪還した際に殿を務めた部下のニケもこれの一歩手前の状態であった。
もう、彼自身がマリアンに出来る事はイレギュラー―――[ヘレティック]となる前に彼女を勝利の女神として終わらせる事だけだった。
〘ムラクモさん。もう残されているのは……〙
「わかっている…ッ」
シフティーの言おうとしている言葉にムラクモは静かな怒りを込めた言葉で返事をした。
この怒りは誰に向けられたものではない。
いままでマリアンの侵食に気づけなかった自分自身への怒りと後悔。
―――「―――目の前で勝利の女神たちを侵食させず守り抜く」
かつて共に戦い続け、かの戦いで殿を務めてくれたニケ達が侵食され介錯し、前哨基地に作った彼女たちの墓前で誓い。
己とそのニケ達に誓った約束を、守れなかった自分自身の不甲斐なさへの怒り。
そして感情として湧き上がる後悔。
彼自身、今感じている後悔がどこからか来ているかがわからない。
嘗て共に戦ったニケを介錯した時にはなかった、心の奥―――まるで過去に同じような事があったと想わせる後悔ともいえるものだった。
だが、今は彼女をイレギュラーの[ヘレティック]ではなく共に戦った[勝利の女神]として指揮官である自分自身が責任を取る番だと切り替えた。
「指揮官」
ラピが自分のホルスターから拳銃を取り出しムラクモに差し出して来た。
「自決用の拳銃です。これなら―――」
「自分のがある。トリガー……
ムラクモはそう唱えると、黒い戦闘服の姿からニケの指揮官服の姿へと戻った。
そして右腰にあるホルスターから拳銃を取り出した。
ラピが渡そうとした拳銃と同じモデルだが、その拳銃は所々傷が目立っているが手入れがされている。
ムラクモは拳銃の安全装置を解除、そのまま上部をスライドさせて弾丸が薬室に入っている事を確認。
マリアンに近づき彼女の頭に銃口を至近距離で近づけた。
後は引き金を引いてマリアンを勝利の女神として送るだけ。
それだけのはず。
だが―――
「………ッ」
ムラクモは引きがに添えた指に力が入らなかった。
それどころか右手から腕、そして全身が強張り始めた。
「指揮官。早くしなければマリアンはイレギュラーになる可能性があります!」
「わか…っている…ッ」
ラピの忠告は最もだ。
嘗ていた部下であるニケ達を解釈するときも引き金が引けなかった。
だが、それを見かねた彼女たちは侵食に抗いながらムラクモに発破をかけて覚悟を決めさせた。
故にムラクモはニケ達を介錯できた。
彼女達と同じように苦しませる時間を与えてはならない。
早く介錯してあげなければいけない。
―――「指揮官…すみま…せ…ん…」
―――「貴方は…私達…勝利の…女神…の…希望…お願い…しま…す」
―――「せめて…私達が…貴方の……ニケとして…」
―――「ごめんな…さ…い……ニケを…愛する…貴方に…こんな…役目…を……」
部下たちの言葉を思い出して必死に引き金を引こうとするもどうしても引けない。
まるでマリアンが自分にとって大切な存在であるかのように。
出会ったのはこの作戦区域が初めてのはず。
なのに、自分の本能が心の奥底からまるで知らない過去の自分がマリアンと会っていて愛していたような―――
そして、ムラクモは刹那の間。
彼の封印されていた記憶が断片的に解き放たれた。
□
―――「…私をここに連れて来た目的は?」
―――「君がつらそうに見えたからな。花を見れば少しは気分転換になると思った」
―――「指揮官になるのが夢だと言ってましたよね?」
―――「ああ。よく覚えていないが昔一緒に病院に居た女の子と約束したんだ」
―――「約束ですか?」
―――「ああ。容姿も声もはっきりしていない。それでも―――俺に取って大切な人だったという事は覚えている」
―――「…あの。貴方のお名前は?」
―――「名前か…はっきりとした名前は憶えていないんだ。まあ、周りからは“7号”なんて呼ばれていたけどな」
―――「7号? 人の名前にしては変な感じですね」
―――「ああ。だから自分で自分に名前を付けたんだ」
―――「どういう名前ですか?」
―――「昔読んだ神話?みたいな物語に登場する武器の名前がカッコイイと思ってな、そこから取った名前で―――」
―――「自分が自己紹介したから君の名前を教えて欲しい」
―――「ああ、私は…マリア―――“マリア-n”と呼んでください」
―――「名前の最後にn?」
―――「型番のようなものです」
―――「俺の7号みたいなものか。でもそれだと君を道具呼ばわりしている感じがするから嫌だな」
―――「?」
―――「そうだな…。nか…あ、だったらこう呼んでも良いか?―――」
―――「何をされているのでしょうか?」
―――「応急処置だ」
―――「ニケに包帯の処置は必要ありませんよ?」
―――「必要だ。俺にとっては勝利の女神として戦うニケは戦友であり生きとし生ける存在だ。少なくとも俺にはそういった事をしないと自分を曲げる事になる」
―――「■■■■さ…ん」
―――「■■■■…ッ!!」
―――「どうやら…私…は…ここ…まで…みたい……です」
―――「そんな事…言わないで……くれ…■■■■」
―――「ごめんな…さい……せっかく……でも、私は貴方を……傷つけたくは…ありませ…せん」
―――「■■■■……ッ」
―――「指揮官…ここ…ここ…です……包帯……嬉し…かった…です…」
□
ムラクモは刹那の間で断片的によみがえった記憶を見て理解した。
自分は彼女と……過去を失う前に指揮官として出会った居た。
そして最後に見た光景は―――同じような状況でマリアンは侵食された。
過去の自分は彼女を撃てず、侵食で苦しんでいるはずなのにマリアンが拳銃を握る自分の手を支えるように自ら引き金を引いた事。
そうか…彼女を撃てなかったのはそういう事だったのか。
そのことをマリアンも自分と同じように俺達を取り巻く巨大な何かによって記憶を消されて今に至るのだろう。
マリアンはもう知る事はないだろう。
そして自分で伝えるには遅すぎた。
だからこそムラクモは改めて過去の弱さを乗り越えるべく己の左手を拳銃で撃ちぬいた。
「指揮官!?」
「指揮官様!?」
突然の行動に驚くラピとアニス。
「悪いな。今のままじゃ覚悟が鈍る。もう…大丈夫だ」
左手から血が流れ本来であれば激痛が走る。
だが、ムラクモにとってそれは痛みは無く覚悟を表す為の行動に過ぎなかった。
(すまないマリアン。君とこうして再会できたのに再会したことも伝えられずこうして別れる事になってしまった)
ムラクモは心の中で自分にとって最初の勝利の女神たるマリアンに祈りに近い懺悔を述べた。
(君は覚えていないだろう。共に戦ったあの日や誓いを立てた日も…。だけど俺は君の事を絶対に忘れない)
ムラクモは拳銃からマガジンを取り出し1発を除いた全ての銃弾を地面に捨てた。
(そして今日を以って俺は改めて誓う。もう二度と、俺の目の前でニケを侵食させず命を懸けて護りぬくと)
そして残った1発の銃弾を出血する左手で握りしめマガジンに入れそのまま拳銃に装填。
(俺が勝利の女神を介錯するのはこれで最後だ。この弾丸は君に送る最後の謝罪だ)
そしてスライドを引き改めて銃口を向けた。
(だからこそマリアン。どうか見守ってくれ。そして待っていて欲しい、俺がラプチャーから地上を奪還し勝利の女神達が自由に生きれる世界ができるまで―――)
そしてムラクモは引き金を引き、マリアンの頭を己の血が着いた銃弾で貫いた。
その様子を見ていたラピとアニス。
今の指揮下ではシフティーに報告する事は難しいだろう。
ラピはそう判断してシフティーに報告した
「マリアン…。処分完了」
〘確認しました。現時刻をもって本作戦を終了します。アークにお戻りください〙
通信機越しに聞こえるシフティーのアナウンス。
そんな中、ムラクモはマリアンの頭に包帯を巻き、自分が持てる最良の治療を彼女に施した。
そしてマリアンを撃った拳銃を彼女のひざ元に置き、彼女が携行していたサブマシンガンである[ファーストアフェクション]を優しく持ちアークに向かい始めた。
ラピも沈黙しついていく中、アニスはムラクモとマリアンを見て救われない現実に―――
「…くそッ」
そう呟いた。