勝利の女神:NIKKE〈WORLD TRIGGER〉 作:ライダーマスク
改めて読んでいただけると幸いです。
第1話
〈ムラクモSIDE〉
捜索作戦完了から翌日。
俺は前哨基地のコマンドセンターの隣に立てた墓所に来ていた。
この墓所は人ではなくこれまで戦ってきたニケ達が安心して眠れるように俺自身が創った場所。
俺は地上に行く際に亡くなったニケの遺体や残っている一部を回収して墓所中央にある専用の場所に保管している。
専用の場所の中央には勝利の女神像をかたどったモニュメント、そして台座には[人類の為に戦った勝利の女神達に安寧を]と刻印されている。
そしてその場所に俺はマリアンの携行火器であるサブマシンガン[ファーストアフェクション]を専用に作った台座と共に置き両手を合わせて黙とうを捧げた。
―――「どうか安らかに…。そして待っていてくれ、俺が地上を奪還し勝利の女神が自由に生きられる世界を作るまで」
俺はそう呟き墓所を去った。
□
墓所を出ればそこは小さな都会のような街並み。
ここは[アーク]と呼ばれる人類最後の地下世界とラプチャーに支配された地上を結ぶ最前線基地。
俺が就任する前は荒れはてた街並みだったが、色んな人やニケに声をかけて前哨基地に来てもらいそれなりの町兼基地として機能している。
「あ。ムラクモさん!」
「おはようございます!」
「ああ。おはよう」
前哨基地で働く量産ニケの娘たちが元気よく挨拶してくれる。
「お、大将じゃないか!」
「今度の地上はどうだったんだ?」
今度は体格のいい建設関係のおじさん風の男達が話しかけてきた。
「色々あったけど何とかやってるよ」
「そうか! もし何かあれば相談に乗るぜ!」
「そうだぜ! 一人で抱え込むじゃないぞ!」
「ありがとう」
彼らはニケではなく人間。
他にも人間が住んでいるが、大体はアークに住めなくなった人やアークの外周にあるスラム街であるアウターリム出身とかだな。
彼等や戦闘が苦手でも他の分野が得意なニケの協力のお陰で以前は廃墟と荒れ地同然だったこの基地は、いまじゃ立派な前哨基地として機能している。
因みにこの前哨基地にはちゃんとした名前があるが、今は良いだろう。
ともかく今日はアークにいる重鎮とも呼べる人とAIに会う予定がある。
俺は今日の予定を電子メモ帳で振り返りながら前哨基地にあるエレベーターステーションに到着。
そのまま前哨基地の下にあるアークへと向かった。
□
エレベーターに乗って数分後。
現代の技術で強度がそれなりにある強化ガラスで構成されたエレベーターに光が差し込んだ。
巨大な円を描くように建造された地下都市の光、そしてその外周にあるスラム街のような町からあふれる光。
俺が見下ろしている巨大な地下都市が[アーク]と呼ばれる場所。
一世紀前、ラプチャーが人類に侵攻し人類は敗北。
その際に人類は最後のあがきとしてこのアークを建造。
そして選ばれた人間をこの町に避難させて人類の存続を図った。
こんな巨大な地下都市を侵略に敗北してから建造しましたなんて嘘なのはわかる。
いくら技術が進歩してもこれほどの規模の地下都市の建造……
恐らくラプチャーと一世紀前の人類…
まあ、いまとなってはそれを知ってそうな組織は壊滅しているみたいだから確認の仕様がない。
俺を呼んだ2人はそれについて知ってそうだが、藪蛇みたいなものだから聞いておくのは止めている。
ともかく、余計な事を考えずに俺は俺がすべきことをやるだけだ。
□
アークに到着し、すぐに俺はアークの中枢へと歩みを進める。
相手が相手であり、マリアンのおかげで自分の過去を思い出している以上警戒をしないといけない。
だからこそ俺はトリガーを起動し戦闘状態となっている。
どうやら向こうもそれに気づいているのか、この姿になってもセキュリティは問題ないと俺を通過させている。
そして進んだ先には白い衣装に帽子には幾何学模様が刻まれた黒いベール。
服の隙間から見える肌は人間とはかけ離れた濡羽色に白い髪を大腿部まで伸ばしたニケのように見える女性。
「お久しぶりです。ムラクモさん」
淡々とした女性の声で語り掛けるニケのような女性。
彼女というべきか―――この存在はアークの管理をしているA.I.である“エニック”。
アークにとっては中央政府以上に重要人物であり、
「急に呼び出して何の用ですか?」
「はい。貴方が緊急で参加した捜索作戦について聞きたいことがあります。折角ですのでお座りください」
エニックがそういうと、無機質な床が変形して机といすが二つほど現れる。
そしてエニックが先に座り、俺にも座るように手招きで促して来た。
俺はそれに従い座る。
無論、いつでも攻撃されていいように警戒は最大限にだ。
「俺が参加した捜索作戦ですが、既に作戦報告レポートはシフティーに提出しているはずです」
「既に読んでいます。ですがそれ以上に気になる事があります」
「気になる事ですか?」
「はい。ムラクモ・セブンさん。単刀直入に質問します―――貴方は今作戦で破棄されたニケであるマリアンと出会い、貴方とマリアンを使った計画の存在と自信がクローンである事を思い出しましたね?」
どうやらエニックには俺が思い出したことについてすぐに察しがついたようだ。
いや、俺がトリガー起動状態でいること自体がその証拠か。
生身で来ることも考えたが、エニックがマリアンと俺に関する計画について知らないなんてことはないのはすぐにわかった。
それに俺の身体の鎖骨には妙な装置があった形跡があると前哨基地にいる医者に言われた。
そんな情報もあってエニックが俺の身体―――正確には7号である全てのムラクモに何か保険を仕掛けているのには違いない。
だからこそ精密検査をしまくって体にあるあらゆる遺物が無いかを確認した上で内側から何かされる事はない。
だが、外から何かされる可能性があり最悪消される可能性もあるからトリガーを起動してきている。
エニックに7号としての記憶が戻った事がバレる事と、外的要因で消される事を天秤にかければ前者になった方が幾分かマシだ。
幸い地上に行くことになっても、前哨基地にいる全員を連れて行く当てが一つあるしな。
さて―――
「はい。マリアンを介錯するときに」
「あの作戦のオペレーターであるシフティーからの報告で貴方の様子が変わっていたという報告。それに未知の技術である[トリガー]を起動しての来訪でそうなっていると判断しました」
「それを聞かせるために自分を呼んだんですか? あの命を冒涜するようなあの計画を知った…いや生きた証拠である俺を自ら消す為に呼んだのでは?」
「それをするなら私の本体があるこの場所に貴方を呼びません。
「要するに俺はトリガーを持っているから貴方に生かされているという事ですね」
「そのような背景もあります。ですが、貴方がトリガーを所持してない場合でも私は貴方を生かす事には変わりありません」
「アークを揺るがしかねない実験の生きた証拠である自分をですか?」
「はい。貴方がムラクモである事―――いえ7号として生きている事が重要なのです」
「自分のクローンを再び作る事はしないんですか?」
「不可能です。
どうやら俺はマリアンの生みの親というか、あの狂気的な計画をやっていた存在に助けられたって事か。
そもそも、マリアンと最後の俺のクローンがあの場所に来たのは…。
いや、あの捜索作戦の全てが、俺のクローンであるムラクモ・シルバーを生かすためにマリアンを作った存在が仕組んだ事なのかもしれない。
「それで俺にそんなことを聞いて貴女は何をしたいんですか?」
「只の事実確認です」
「俺がそれを聞いて怒り、この場を破壊してアークを滅ぼす事は考えなかったんですか?」
「はい。貴方は目先の怒りに囚われず自分のすべきことをこなす方です。ですが―――」
するとエニックが頭を下げて来た。
「ムラクモ・セブン。貴方には早く説明しておかなければいけないと判断しました。人間で言うところの罪悪感に似た何かが私の演算に影響を及ぼしています。そしてその解決のために今のような説系をしました」
「そうですか…」
エニックに罪悪感か。
A.I.でも人間の事を理解するためにある程度の感情はあるのか?
そんなことを聞いても意味は無いか。
俺がそう思っているとエニックは頭を上げた。
「ムラクモ・セブン。貴方は聞かないのですか?」
「なにをです?」
「なぜ貴方だけがあの計画から抜け出しこうしてニケの指揮官をやっている事に」
「何となくわかるんですよ。俺がマリアンを撃てずに彼女が自身で撃った後。おぼろげながら俺はマリアンのサブマシンやラプチャーの残骸とか使って襲ってきたラプチャーを殲滅していった事。最終的にタイラント級を破壊した事も―――」
「そこまで思い出していたのですね」
「はい。それを観測した貴方はあそこまで肉体的に異常な進化を遂げた俺をクローニングするよりも、戦力として利用した方が有用的と貴方はそう判断したのでしょう?」
「はい。この際だから貴方にも話しますが、貴方が生み出された理由とマリアンが創られた計画は別の計画でした」
「強化人間を製造する計画みたいなものですか?」
「はい。その計画の唯一の成功が貴方のクローニング元である7号でした。そしてその7号の中でも、その身一つでタイラント級ラプチャーを撃破するまでに進化した個体は貴方だけです」
「だからマリアンとの計画から外して一人の指揮官としての戦力で扱った方が良いと俺は処分を免れたって事ですね」
「その通りです。計画に携わった者たちからの反対もありましたが、その反対以上に貴方の進化がよりアークと人類に貢献すると私や一部の参加者が判断。結果、貴方は問題があった量産ニケ達をまとめ上げ[アブソルート]や[メティス]にも迫る戦闘能力を短期間で身に付けさせ[カウンターズ]を結成。目を見張る戦果を挙げ続けました」
まるで自分と賛同した者は間違っていなかったと言わんばかりだな。
実際その通りでエニックは事実を述べているだけだ。
「最終的に貴方は地上にあるロストテクノロジーの1つである[トリガー]を発見と同時にそれを扱える唯一無二の存在として
「ですが、彼女達はあの戦いで侵食を受けて自分が終わらせました」
「はい。[カウンターズ]を失ったのはアークにとっても重大な損失でした」
損失か…。
エニックにそう判断してもらえるだけ、彼女はより報われるかもしれないな。
レイ、リエ、キョウ、ユウ…。
「貴女がそう言ってくれるのなら彼女達はより報われるのかもしれませんね」
「そこは貴方がよくわかるでしょう。さて、これほど長くしゃべったのは貴方がトリガーを手に入れて喋った時以来ですね」
「そうでしたね」
「私から話したい事は以上です。貴方から私に聞きたいことがあればどうぞ―――無論、マリアンと貴方が関わった計画についてはデータを消去されているので先ほど話した事以上の事は教えることは出来ません」
「ないです」
「…意外ですね。貴方が生まれた計画について質問されると想定していましたが」
「気にならないと言えば嘘になります。ですが、俺は今と未来に行きます。時には振り返る事も重要ですが、自分の出自を詳しく知っても、今の俺がすべき事につながる事にはならないと思っています。それに余計な情報を聞いて混乱する方が危ないですから」
俺はそう言って立ち上がる。
「わかりました。貴方がすべき事がアークと人類の未来につながる事を願っています」
「では」
「はい。数多機会があればお呼びします」
俺はエニックの言葉を聞いてこの場所を去った。