ONE PIECE ―黄色い閃光は海を翔ける― 作:HINRON
海上レストラン・バラティエの周囲には、まだ戦いの音が響いていた。
クリーク海賊団の兵士たちと、店を守るコックたち。怒号と金属音が飛び交うなか、ミナトは襲いかかってきた賞金稼ぎたちを制圧し、周囲の状況を確認していた。
そのときだった。
「……あいつは、オレがやる」
少し離れた場所にいたゾロが、海のほうを見据えて呟いた。
ミナトも視線を向ける。
波間を進んでくる、小さな舟。
その舟には、一人の男が乗っていた。
黒い羽根飾りのついた帽子。鋭い目つき。背中には、十字架を思わせる巨大な黒い剣。
周囲の騒がしさなど、まるで意に介していないようだった。
男が近づくにつれ、クリーク海賊団の兵士たちがざわめき始める。
「ま、まさか……!」
「嘘だろ……あいつが……!」
やがて、その男の姿をはっきりと認めたクリークの顔が、恐怖に歪んだ。
「鷹の目……ジュラキュール・ミホーク……!!」
ミナトはその名を聞き、男を注意深く観察した。
ミホーク。
世界最強の剣士。
クリークの艦隊を偉大なる航路で壊滅させた男だという。
それほどの実力者が、なぜ小さな舟一つで海を渡っているのか。
いや、そもそも――。
ミナトは、ミホークの立ち姿に意識を集中した。
無駄な動きがない。
ただ舟に乗っているだけなのに、重心は安定し、視線にも一切の揺らぎがない。周囲の状況を見ていないようでいて、必要なものはすべて把握している。そんな印象を受けた。
強い。
それも、ただ腕力や技の威力が優れているという話ではない。
戦いに必要なものを、すべて高い次元で身につけている。
そう感じさせる男だった。
小舟はバラティエの近くまで進み、ミホークは静かに立ち上がった。
クリークが震える声を上げる。
「な、なぜここにいる……!? おれの艦隊を壊滅させたうえ、まだ追ってくるというのか!」
ミホークはクリークを一瞥した。
「暇つぶしだ」
あまりにも淡々とした返答だった。
クリークは怒りを露わにするが、その表情には恐怖が張りついている。
ミナトは、ミホークが自分たちを探して来たわけではないことを理解した。
彼はクリークの艦隊を追ってきた。その結果、ここにたどり着いただけなのだ。
だが、ゾロにとっては違った。
ゾロはミホークから目を離さない。
その眼差しには、先ほどまでとは明らかに異なる熱が宿っていた。
「……世界最強の剣士」
ゾロが静かに口を開く。
そして、三本の刀を構えた。
「おれの夢は、世界一の大剣豪になることだ」
周囲の音が遠のいたように感じられた。
ミナトはゾロの横顔を見る。
あの男に挑むというのか。
相手は、世界最強。
勝てる保証などない。むしろ、まともに戦えば命に関わる可能性さえある。
それでもゾロは、ためらわなかった。
「おい、鷹の目!」
ゾロが声を張る。
「おれと勝負しろ!」
ミホークはゾロを見た。
その表情には、驚きも怒りもない。ただ、挑戦者を見定めるような静けさがあった。
「なぜ、おれに挑む?」
「お前を越えなきゃ、世界一にはなれねェからだ」
ゾロは迷いなく答えた。
ミホークはしばらくゾロを見つめていたが、やがて背中の巨大な黒刀には手をかけず、胸元から小さなナイフを取り出した。
ゾロの眉が動く。
「……それでやる気か?」
「これ以上の剣を抜かせてみろ」
ミホークは小さなナイフを構えた。
「お前の器を見極めてやる」
その言葉に、ゾロの口元がわずかに歪む。
挑発だ。
そう分かっていても、ゾロは引かなかった。
ミナトは少し離れた場所へ移動し、二人の決闘を見守る位置についた。
ルフィもまた、ゾロを止めようとはしなかった。
仲間が自分の夢のために選んだ勝負だ。
その決意を、ルフィは疑っていない。
ミナトも同じだった。
ここで自分が割って入ることは、ゾロの覚悟を否定することになる。
だから、見届ける。
ゾロが何を懸けて、どこまで進むのかを。
そして――。
決闘が始まった。
*
「おおおおおっ!!」
ゾロが一気に踏み込んだ。
三本の刀が唸りを上げる。
正面からの斬撃に続き、左右の刀が異なる角度からミホークを狙った。三刀流ならではの連続攻撃。相手に防御の隙を与えず、逃げ場を奪うための剣筋だった。
だが。
キンッ!
乾いた金属音が響いた。
ミホークは、小さなナイフ一本で最初の斬撃を受け止めていた。
続く二撃目も、三撃目も。
ナイフがわずかに動くたび、ゾロの刃は狙いを外される。
大きく後退する必要すらない。
ミホークは足元を少しずらし、手首を返すだけで、ゾロの攻撃を受け流していった。
「くっ……!」
ゾロが攻撃の角度を変える。
刃を交差させ、ミホークの防御を崩そうとした。
しかし、ミホークはその動きさえ見切っていた。
ナイフの先端が、ゾロの刀の動きをわずかに押し戻す。
たったそれだけで、ゾロの剣筋が崩れた。
ミナトは目を凝らした。
速い。
いや、単純な速さだけではない。
ゾロが攻撃を繰り出す前から、その動きがどこへ向かうのかを理解しているように見える。
攻撃を受け止めるのではなく、攻撃が最も力を発揮する瞬間を外している。
だから、あれほど小さなナイフでも三本の刀を相手にできるのだ。
ミナトは無意識に拳を握っていた。
自分の飛雷神の術は、位置と瞬間を支配することで相手の意表を突く。
しかし、目の前の男は、ほとんど動くことなく戦いそのものを支配していた。
同じ戦場に立っているのに、見えている景色が違う。
そんな感覚があった。
「……すげェな」
思わず、ミナトの口から言葉が漏れる。
隣で見ていたルフィは、ゾロをじっと見つめていた。
ゾロはまだ諦めていない。
攻撃を受け流されても、間合いを外されても、何度でも踏み込む。
そのたびに、ミホークは小さなナイフで応じた。
まるで、ゾロがどこまでできるのかを確かめているかのようだった。
やがてゾロの息が荒くなり始める。
対してミホークは、ほとんど呼吸さえ乱していなかった。
それでもゾロは、最後まで食らいつこうとした。
世界一の大剣豪になる。
その夢を叶えるために、目の前の男を越えなければならない。
ならば、ここで引くわけにはいかなかった。
*
次の瞬間、ゾロは大きく踏み込んだ。
三本の刀が一斉にミホークへ迫る。
これまで以上に力を込めた一撃だった。
ミホークの目が、わずかに細められる。
小さなナイフが動いた。
ゾロの刃と交わる、ほんの一瞬。
その角度が変わった。
ゾロの攻撃がわずかに逸れ、身体の軸が崩れる。
ミホークは、その隙を逃さなかった。
鋭い一撃が走る。
ガキンッ――!!
耳をつんざくような金属音が響いた。
「……っ!?」
ゾロの目が見開かれる。
刀の一本が、刃の途中から折れていた。
折れた刀身が宙を舞い、光を反射しながら地面へ落ちていく。
カラン、と。
乾いた音が、戦場に響いた。
一瞬、周囲の者たちが息を止める。
ゾロの刀が折れた。
しかも、相手はまだ巨大な黒刀を抜いてすらいない。
ゾロは折れた刀に視線を落とした。
ほんの一瞬だけ、驚きが顔に浮かぶ。
だが、そこで止まらなかった。
残る二本を構え直し、ミホークへ向き直る。
「まだだ……!」
ゾロが踏み込む。
ミホークは動じない。
二本の刀が迫る寸前、ナイフがわずかに傾いた。
次の瞬間。
キィンッ!!
二度目の鋭い音が響いた。
もう一本の刀が折れた。
刃が砕け、破片が地面に散る。
ゾロの手に残されたのは、たった一本。
先ほどまで三本の刀を操り、世界最強の剣士へ攻め続けていた男が、今や二本を失っていた。
それも、ミホークは小さなナイフ一本しか使っていない。
ミナトは、思わず息をのんだ。
折れた刀身が地面に転がっている。
ゾロが積み重ねてきた鍛錬も、磨き上げてきた技術も、決して軽いものではないはずだ。
それでも、届かない。
目の前には、想像していた以上の高みがある。
ミナトの脳裏に、祖父の言葉がよぎった。
世界は広い。
自分の知っている強さだけが、強さのすべてではない。
その事実を、ミナトは今、目の前で突きつけられていた。
助けに入るべきか。
その考えが、一瞬だけ頭をよぎる。
ゾロは二本の刀を失った。相手は世界最強の剣士だ。これ以上戦えば、取り返しのつかない傷を負うかもしれない。
しかし、ミナトは動かなかった。
ゾロは、まだ戦う意思を失っていない。
そして何より、この勝負はゾロ自身が選んだものだった。
仲間だからこそ、信じる。
ミナトは拳を握りしめたまま、静かに見守った。
ゾロは残った一本の刀を握り直す。
折れた二本の刀を見ようとはしなかった。
ただ、目の前の男だけを見据えている。
「……まだ、終わってねェ」
その声には、悔しさが滲んでいた。
だが、恐怖に屈した者の声ではなかった。
ミホークは、そんなゾロを見つめていた。
*
「なぜ退かぬ」
ミホークが尋ねた。
「二本の刀を失った。お前とおれの実力差も、理解したはずだ」
ゾロは答えない。
「それでも、まだ戦うというのか」
「……ああ」
ゾロは残った刀を構えた。
「ここで逃げたら、何のために海へ出たのか分からねェ」
ミホークの視線が、わずかに鋭くなる。
ゾロは続けた。
「おれは世界一の大剣豪になる。だったら、お前から逃げるわけにはいかねェんだ」
その言葉に、ミホークはしばらく黙っていた。
やがて、小さなナイフを下ろす。
そして、背負っていた巨大な黒刀へ手を伸ばした。
黒い刀身が、ゆっくりと姿を現す。
その威圧感は、先ほどまでとは明らかに違っていた。
ミナトの背筋に緊張が走る。
ミホークが、ようやく本来の剣を抜いたのだ。
「名乗れ」
「……ロロノア・ゾロ」
「おれはジュラキュール・ミホーク」
ミホークは黒刀を構えた。
「己の未熟を知り、それでも前へ進もうとする者よ。お前の名、覚えておこう」
ゾロは息を整えた。
残された刀は一本。
それでも、構えは崩さない。
ミナトは目を離さなかった。
この一撃で、勝負は決まる。
そう理解できるほど、ミホークの剣には圧倒的な重みがあった。
ゾロが踏み込む。
最後の力を込め、ミホークへ斬りかかった。
だが、黒刀の一撃は、その覚悟さえも上回った。
鋭い衝撃が走る。
ゾロの身体が大きく揺れた。
次の瞬間、胸元から血が滲む。
「ゾロ!!」
ルフィの声が響いた。
ミナトも反射的に身体を動かしかけたが、ゾロがまだ倒れずに立っているのを見て、足を止めた。
ゾロは苦しげに息を吐く。
深い傷を負っている。
それでも、まだ倒れまいとしていた。
ミホークは黒刀を下ろし、ゾロを見つめた。
「……見事だ」
それは、世界最強の剣士からの評価だった。
ゾロは最後まで背を向けなかった。
勝てないと分かっていても、逃げなかった。
その覚悟を、ミホークは認めたのだ。
*
ゾロの身体が、ゆっくりと傾いた。
「ゾロ!」
ミナトはすぐに駆け寄り、倒れる身体を支えた。
傷の状態を確かめる。出血は多い。意識はあるが、無理に動かせる状態ではなかった。
「ゾロ、聞こえるか。無理に動くな」
「……うるせェ……」
ゾロはかすれた声で返した。
その返事に、ミナトはほんの少しだけ安堵する。
意識はある。
だが、安心できる傷ではない。
ミナトは圧迫して止血を試みながら、ルフィのほうへ目を向けた。
ルフィはゾロを見つめていた。
その表情は、いつもの無邪気なものではない。
仲間が敗れたことへの怒りでも、ミホークへの敵意だけでもない。
ゾロが何を懸けて戦い、何を失ってもなお諦めなかったのか。それを真正面から受け止めている顔だった。
ゾロは、支えられながらもミホークを見上げた。
「……覚えてろ」
声は弱々しかった。
それでも、言葉には確かな意志があった。
「いつか必ず……お前を越える」
ミホークは静かに頷いた。
「待っている」
そして、黒刀を背負い直す。
もう、この場に留まる理由はなかった。
ミホークは小舟へ戻ると、海へ漕ぎ出していった。
世界最強の剣士は去った。
だが、彼が残したものは、敗北だけではなかった。
*
しばらくの沈黙のあと、ゾロがルフィへ顔を向けた。
「……ルフィ」
「ああ」
ルフィは、まっすぐにゾロを見つめていた。
ゾロは悔しそうに唇を噛みしめる。
二本の刀を失った。
世界最強の剣士には、遠く及ばなかった。
自分の未熟さは、嫌というほど思い知らされた。
それでも。
夢を諦めるつもりはなかった。
「おれは……もう……」
ゾロの目から涙が流れた。
「二度と敗けねェから!!!!」
その声が、海に響く。
「……あいつに勝って……大剣豪になるからさ……!!」
ゾロは、ルフィを見据えた。
「いいよな……? 海賊王……!!」
ルフィは一瞬だけ黙った。
そして、いつものように迷いなく答えた。
「……ああ!」
短い返事だった。
けれど、それで十分だった。
ルフィはゾロの誓いを受け止めた。
ゾロが世界一の大剣豪になる。その夢を疑わず、仲間として信じる。
ミナトは二人を見つめていた。
今、自分が言葉を重ねる必要はない。
この誓いはゾロ自身のものだ。
ルフィとの約束も、誰かに代わってもらうものではない。
だからミナトは、止血の手を緩めず、静かにその場にいた。
やがてゾロの呼吸が少しずつ落ち着いていく。
「……ミナト」
「ん?」
「……あいつ、強かったな」
あまりにも当たり前の言葉だった。
ミナトは、折れた刀が転がる場所へ一度だけ視線を向けた。
「ああ。とんでもなく強かった」
「……次は、勝つ」
「そうだな」
ミナトは、ゾロの目を見て答えた。
「次に会うとき、お前がどこまで強くなってるのか。オレも楽しみにしてるよ」
ゾロは返事をしなかった。
ただ、悔しそうに目を閉じた。
その表情には、敗北を受け入れた者の苦さと、次こそはという強い意志が刻まれていた。
*
「おい! まだ終わってねェぞ!!」
怒声が響き、ミナトは顔を上げた。
クリーク海賊団だ。
ミホークの登場で一時的に動揺していた兵士たちが、再び武器を構え始めている。
クリーク自身も、恐怖と怒りをない交ぜにした顔で周囲を睨みつけていた。
「ミホークに何があろうと関係ねェ! この店を手に入れるんだ!!」
戦いは終わっていない。
ゾロは重傷を負った。今は戦線に戻せる状態ではない。
ミナトは傷口を圧迫し、近くのコックに声をかけた。
「すみません! 清潔な布と、治療に使えるものをお願いします。できるだけ早く!」
「お、おう!」
コックが走っていく。
ミナトはゾロの様子を確認し、意識が保たれていることを確かめると、ルフィへ目を向けた。
ルフィは、クリークを睨みつけていた。
その拳が、ゆっくりと握られる。
「……ゾロは、オレの仲間だ」
低い声だった。
「お前らの好きにはさせねェ」
ルフィはクリークへ向き直った。
ミナトは、ゾロをコックたちに任せられるよう準備を進めながら、周囲の戦況を見渡した。
自分も疲労が溜まっている。
飛雷神の術を連続して使えば、動きが鈍る。ましてや、この場にいる全員を一度に守ることなどできない。
だからこそ、判断を誤ってはいけない。
負傷者を守る者。
店を守る者。
敵の動きを止める者。
それぞれが自分にできることを果たす必要がある。
ミナトはクナイを握り直し、戦場へ視線を戻した。
世界最強の剣士を目の当たりにした衝撃は、まだ胸の奥に残っている。
自分の知らない強さがある。
自分の届かない高みがある。
それでも、海へ出たことを後悔はしていなかった。
知らない世界を見たい。
もっと多くのものを知りたい。
そして、今はこの仲間たちと一緒に進みたい。
その思いは、少しも揺らいでいない。
「……さて」
ミナトは息を整え、クリーク海賊団を見据えた。
「今度は、こっちの番だ」
再び、海上レストランに戦いの音が響き始めた。
ゾロの敗北と誓いを胸に刻んだまま、ミナトは仲間たちを支えるため、戦場へ踏み出した。
ミナトの今後の成長(能力)について! リトルガーデン編以降
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悪魔の実 ゾオン系 幻獣種:九喇嘛
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悪魔の実 パラメシア系 チャクラ人間
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無能力者を貫き通す!