ONE PIECE ―黄色い閃光は海を翔ける―   作:HINRON

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泥棒猫を追って

 

 バラティエを離れた海の上。

 

 波に揺られる小さな船の上で、ルフィは船首に腰掛け、遠くの海を眺めていた。

 

「ナミのやつ、どこ行ったんだろうな」

 

 呟いた声に、返事をする者はいない。

 

 ゴーイング・メリー号は消え、航海士の姿もない。おまけに、グランドラインへ向かうための海図まで持ち去られてしまった。

 

 普通なら、途方に暮れてもおかしくない状況だ。

 

 しかし、ルフィの顔に深刻さはなかった。

 

「まあ、追いかけりゃいいんだ!」

 

「簡単に言うな。船がねぇんだぞ」

 

 ゾロが呆れたように返す。

 

 ミホークとの戦いで負った傷は、まだ癒えていない。胸元には包帯が巻かれ、体を動かすたびに痛みが走る。それでも、本人はいつもどおりの不機嫌そうな顔を崩さなかった。

 

「でも、こうして追いかけられてるんだから、何とかなるもんだね」

 

 ミナトは船縁に手を置き、穏やかに笑った。

 

 彼らが乗っているのは、ジョニーとヨサクが使っている小型船だ。

 

 ゴーイング・メリー号がなくなったと知った二人は、ナミの行き先に心当たりがあると言って、一行を乗せてくれたのである。

 

 そのおかげで、ルフィたちはこうして海の上にいられた。

 

「そういや、ジョニー、ヨサク。助かった! ありがとな!」

 

 ルフィが振り返り、屈託なく礼を言う。

 

「なっ……!」

 

 ジョニーは一瞬、目を見開いた。

 

 まさか、こんなにあっさり礼を言われるとは思っていなかったらしい。

 

「お、おう! 礼なんざいらねぇよ、船長さん! アニキの仲間なら、オレたちが力を貸すのは当然だ!」

 

「そうでやんす! あっしらだって、ナミの姉貴にはいろいろと思うところがありやすからね!」

 

 ヨサクも大きく頷いた。

 

「オレからも礼を言うよ。急な頼みなのに、ありがとう」

 

 ミナトが頭を下げると、二人はますます照れくさそうに顔を見合わせた。

 

「お、おう! ミナトさんまで、そんな……!」

 

「気にしないでくだせえ! あっしらとアニキの仲でやんすから!」

 

「だから、誰がアニキだ」

 

 ゾロが眉をひそめる。

 

「アニキはアニキでやんす!」

 

「そうだ! オレたちにとっちゃ、いつまで経ってもアニキなんだよ!」

 

「……好きにしろ」

 

 ゾロは早々に話を切り上げ、そっぽを向いた。

 

 その様子を見て、ウソップが吹き出す。

 

「ははっ! ゾロ、お前、ずいぶん慕われてるんだな!」

 

「うるせぇ」

 

「いやあ、昔からの仲間ってのはいいもんだね」

 

 ミナトが笑いながら言うと、サンジも煙草をくわえたまま肩をすくめた。

 

「ま、悪い気はしねぇんじゃねえのか。クソマリモ」

 

「誰がクソマリモだ、クソコック」

 

「なんだと?」

 

「やるか?」

 

「おう、望むところだ」

 

「お前ら、船の上で暴れるなよ!」

 

 ウソップが慌てて二人の間に割って入る。

 

 狭い船の上で騒ぐ男たちを見て、ジョニーとヨサクも笑った。

 

 バラティエを離れてから張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らぐ。

 

 けれど、ミナトの意識はナミのことから離れていなかった。

 

 彼女は何を考えているのだろう。

 

 なぜ、何も告げずに船と海図を持ち去ったのか。

 

 ナミは頭が切れる。状況を見極める判断力もあり、気まぐれに見えても行動にはそれなりの理由があることが多かった。

 

 だからこそ、簡単に裏切りだと決めつける気にはなれなかった。

 

「なあ、ジョニー」

 

 ミナトは二人へ目を向けた。

 

「ナミが向かった先に、何があるんだ?」

 

 ジョニーとヨサクは顔を見合わせた。

 

 先ほどまでの陽気さが、少しずつ消えていく。

 

「……アーロンパークでやんす」

 

 ヨサクが答えた。

 

「アーロン?」

 

 ルフィが首を傾げる。

 

「魚人海賊団の船長でやんす。アーロンって野郎が根城にしてる場所でしてね」

 

「魚人海賊団?」

 

 ウソップは聞き慣れない言葉を繰り返した。

 

「ちょ、ちょっと待て! 魚人って、あの魚みたいな顔をしてるっていう……?」

 

「顔だけじゃねぇよ」

 

 ジョニーが腕を組む。

 

「人間よりもずっと身体能力が高いんだ。力も強ぇし、特に水の中じゃ自由に泳ぎ回れる。海の上で戦うにしても、海に引きずり込まれたら人間のほうが不利になる」

 

「うへぇ……。そりゃ厄介だな」

 

 ウソップは思わず身を縮めた。

 

「そんなに強いのか?」

 

 ルフィは怖がるどころか、興味深そうに尋ねる。

 

「少なくとも、普通の人間が相手にするには厄介な連中だな」

 

 ジョニーはそう答え、海の向こうへ目を向けた。

 

「それに、アーロンは人間をひどく見下してやがる。自分たちのほうが上等な種族だと思い込んでるんだ」

 

「へぇ。そんな奴がいるのか」

 

 ルフィはあっさりと呟いた。

 

 その隣で、ゾロが静かに口を開く。

 

「そいつの縄張りに、ナミが向かったってことか」

 

「そういうことだ」

 

 ジョニーが頷いた。

 

「アーロン一味は、この辺りじゃ有名な連中だ。周りの島々でも恐れられてる。逆らえば何をされるか分からねぇ」

 

「海賊なら、どこにでもいるだろ?」

 

 サンジが煙草の煙を吐き出した。

 

「人間だろうが魚人だろうが、クズはクズだ。飯を奪ったり、弱い奴を踏みにじったりする連中なら、蹴り飛ばしてやりゃいい」

 

「サンジ、お前は魚人相手でもその調子なのか……」

 

 ウソップが呆れたように言う。

 

「当たり前だろうが。相手が何者だろうと関係ねぇ。やっていいことと悪いことがある」

 

 サンジの声には、揺るぎない怒りがあった。

 

 ミナトはその言葉を聞きながら、小さく頷いた。

 

 種族が違うからといって、相手のすべてを決めつけるつもりはない。魚人だから悪い、人間だから正しい――そんな単純な話ではないはずだ。

 

 ただ、アーロンという男が周囲の島々から恐れられているのなら、その理由は確かめる必要がある。

 

「なあ」

 

 ルフィがジョニーたちに尋ねた。

 

「魚人って、みんなそんなに悪い奴らなのか?」

 

 ジョニーは少し意外そうにルフィを見た。

 

「いや、魚人がみんなアーロンみてぇな奴だとは言ってねぇよ。オレたちが知ってるのは、アーロン一味がこの辺りで何をしてるかってことだ」

 

「そうでやんす。魚人だからって、全員が同じ考えとは限らねぇでやんすよ。ただ、アーロンの野郎は別だ。あいつらは島の人間を苦しめてやがる」

 

「ふーん……」

 

 ルフィは少し考えるように海を見たあと、またジョニーたちへ顔を向けた。

 

「それで、ナミはそいつらと何の関係があるんだ?」

 

 今度は、ジョニーもすぐには答えなかった。

 

 海面へ目を落とし、しばらく考えるように黙り込む。

 

「……オレたちも、詳しいことまでは知らねぇんだ」

 

「知らないのか?」

 

「ああ。けど、まったく関係がねぇとも思えねぇ」

 

 ジョニーは顔を上げた。

 

「以前、この辺りで魚人を見かけたことがあってな。そいつの身体にあった印が、ナミの姉貴の腕にある印と、よく似てたんだ」

 

「印?」

 

 ウソップが身を乗り出す。

 

「ナミの腕にある、あの模様か?」

 

「そうでやんす。遠目だったんで、細かいところまでは分からなかったんでやんすが……確かに、似てたんでやんすよ」

 

 ヨサクは困ったように頭をかいた。

 

「同じものなのか、何か意味があるのか。そこまでは、あっしらにも分かりやせん」

 

「魚人と関係があるってことか……?」

 

 ウソップの声が少し小さくなる。

 

「だからって、ナミが魚人の仲間だって決まったわけじゃねぇだろ」

 

 ゾロがすぐに言った。

 

 胸の傷に響かないよう、姿勢を変える動きは慎重だったが、その声にはいつもの迷いのなさがあった。

 

「そうだな」

 

 ミナトも同意する。

 

「印が似ているだけで、何もかも分かった気になるのは早いよ。ナミが何を考えているのかは、本人に会って確かめよう」

 

「おう! そうだな!」

 

 ルフィはあっさりと頷いた。

 

 ナミが何をしていようと、まずは本人に会う。

 

 ルフィにとっては、それだけのことなのだろう。

 

 その迷いのなさに、ミナトは少しだけ笑みを浮かべた。

 

 だが、胸の奥に残る違和感が消えたわけではなかった。

 

 ミナトは海を眺めながら、バラティエでの出来事を思い返す。

 

 食堂の柱に貼られていた、アーロンの手配書。

 

 ナミはあのとき、ほんの一瞬だけ反応していた。

 

 視線が止まり、表情がわずかに変わった。

 

 すぐにいつもの顔に戻ったため、周囲の者が気づくほどの変化ではなかったかもしれない。

 

 けれど、ミナトは見ていた。

 

 あの反応には、何かがあった。

 

 恐怖だったのか。怒りだったのか。それとも、別の感情だったのか。

 

 今となっては、確かめようもない。

 

 ――ナミ。お前は、何を一人で抱えてるんだ?

 

 問いかけても、海は答えない。

 

 ミナトは静かに息を吐いた。

 

 今は、追いつくことが先だ。

 

 本人が話したくないことまで、無理に聞き出すつもりはない。けれど、何か事情があるのなら、知らないままでいいとも思わなかった。

 

「ミナト」

 

 ルフィに呼ばれ、顔を上げる。

 

「ん?」

 

「ナミを見つけたら、どうする?」

 

 まっすぐな目だった。

 

 ミナトは少し考え、それから答えた。

 

「まずは話を聞こう。ナミが何を考えていたのか、何があったのか。それを知らないうちに、勝手に決めつけるのは違うと思う」

 

「そっか!」

 

 ルフィは笑った。

 

「じゃあ、見つけたら聞けばいいんだな!」

 

「そういうことだね」

 

「よし!」

 

 それで話は終わりらしい。

 

 ルフィは再び前を向き、島を探すように目を凝らした。

 

 ウソップはまだ魚人の話が気になるのか、あれこれ質問を続けている。ジョニーとヨサクは、分かる範囲で周辺の島々やアーロン一味について説明していた。

 

 サンジは船の揺れに合わせて煙草をくわえ直し、ゾロは傷に障らないよう静かに座っている。

 

 ミナトは一人ひとりの様子を確かめてから、船の前方へ視線を戻した。

 

 小さな船は、波を切りながら進んでいく。

 

 やがて、水平線の向こうに島影が浮かび始めた。

 

「あっ! 島だ!」

 

 ウソップが声を上げる。

 

 その声を聞いて、全員が前方へ目を向けた。

 

 いくつもの島が、海の向こうに連なっている。

 

 ジョニーは目を細め、進む方向を確かめた。

 

「間違いねぇ。あの先だ」

 

「ナミがいるんだな!」

 

 ルフィが身を乗り出す。

 

「おい、落ちるなよ!」

 

 ウソップが慌てて襟首をつかんだ。

 

「落ちねぇよ!」

 

「今にも落ちそうだっただろうが!」

 

 いつもの騒がしさが戻る。

 

 けれど、ミナトは島影から目を離さなかった。

 

 あの島々のどこかに、ナミがいる。

 

 そして、アーロンという魚人海賊がいる。

 

 まだ何も分からない。

 

 ナミがなぜ仲間の前から姿を消したのかも、彼女がアーロンとどう関わっているのかも。

 

 それでも、答えはあの島の先にあるはずだった。

 

「……さて、どんな場所なのかな」

 

 ミナトが小さく呟く。

 

 青い海の向こうで、島影は少しずつ大きくなっていく。

 

 五人と二人を乗せた小さな船は、ナミの待つコノミ諸島へ向かって進み続けた。

ミナトの今後の成長(能力)について! リトルガーデン編以降

  • 悪魔の実 ゾオン系 幻獣種:九喇嘛
  • 悪魔の実 パラメシア系 チャクラ人間
  • 無能力者を貫き通す!
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