ONE PIECE ―黄色い閃光は海を翔ける―   作:HINRON

25 / 35
...助けて

 

 ココヤシ村に、光が差し込んでいた。

 

 みかん畑の葉が風に揺れ、穏やかな潮風が村を吹き抜けていく。

 

 変わらない景色。

 

 けれど、この村に暮らす人々の表情は、決して穏やかではなかった。

 

 村の一角にある建物の中で、ナミは机の上に置かれた袋を見つめていた。

 

 中身は、一億ベリー。

 

 八年間、盗みをしてまで集め続けた金だった。

 

 危険を冒して海へ出て、何度も命の危険にさらされ、それでも手放さなかったもの。

 

 すべては、村を買い戻すためだった。

 

「……やっと、ここまで来た」

 

 ナミは小さく呟いた。

 

 声が震えそうになるのを、必死に抑える。

 

 あと少し。

 

 この金をアーロンに渡せば、約束は果たされる。

 

 そうすれば、村のみんなは自由になれる。

 

 ノジコも、ゲンゾウも、村の人々も。

 

 もう誰も、アーロンの顔色を窺って生きる必要はなくなるのだ。

 

 ナミは袋を抱きしめるように持ち上げた。

 

「……ベルメールさん。もうすぐだよ」

 

 その名を口にした瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。

 

 幼い頃、みかん畑で笑っていた母親の姿が脳裏に浮かぶ。

 

 あの日から、八年。

 

 ようやく、ここまでたどり着いた。

 

 ナミは顔を上げ、涙がこぼれないように目を閉じた。

 

 泣くのは、全部終わってからでいい。

 

 そう自分に言い聞かせ、袋を持って外へ出た。

 

     *

 

 約束の金を渡すため、ナミがアーロン一味のもとへ向かおうとしていたときだった。

 

「おい、貴様!」

 

 聞き覚えのない声が響いた。

 

 振り返ると、海軍の制服を着た男が立っていた。

 

 ネズミ大佐。

 

 ナミは、反射的に身構えた。

 

「……何の用?」

 

「貴様が大金を隠し持っているという情報が入ってな」

 

 ネズミは口元を歪めた。

 

「海賊から盗んだ金だろう? 海軍としては、見過ごすわけにはいかん」

 

「ふざけないで!」

 

 ナミは袋を背中へ隠すように抱えた。

 

「これは私のお金よ! 八年間、私が集めたの!」

 

「そうか。だが、犯罪によって得た金は押収する」

 

「返してよ!」

 

 ナミが叫ぶ。

 

 ネズミは部下たちに目配せした。

 

 海兵たちが一斉に動き、ナミから袋を奪い取ろうとする。

 

「やめなさい! それを返して!」

 

 ナミは必死に抵抗した。

 

 袋を離すまいと両手で抱え込み、身体ごと引っ張られる。

 

 だが、相手は複数の海兵だった。

 

 力ずくで引き剥がされ、袋はネズミの手へ渡ってしまう。

 

「返して……!」

 

 ナミの声がかすれた。

 

 ネズミは袋の重みを確かめるように持ち上げ、満足そうに笑った。

 

「なるほど。確かに一億ベリーだな」

 

「それは……私の……それに何で一億ベリーだってことを!」

 

「お前のものかどうかなど、こちらには関係ない」

 

 ネズミは冷たく言い放った。

 

「海軍の決定に逆らうつもりか?」

 

 ナミは歯を食いしばった。

 

 海軍。

 

 本来なら、海賊から人々を守るはずの存在。

 

 それなのに、目の前の男はアーロンとつながり、村人たちを苦しめる側に立っている。

 

「……アーロンに頼まれたのね」

 

 ナミが睨みつける。

 

 ネズミは否定しなかった。

 

「余計なことを考えるな。お前はお前の立場をわきまえていればいい」

 

「ふざけないでよ……!」

 

 ナミが一歩踏み出す。

 

 だが、海兵たちが彼女の前に立ちはだかった。

 

 ネズミは袋を抱え直し、背を向けた。

 

「ご苦労だったな。これで仕事は終わりだ」

 

 そのまま、彼は去っていった。

 

 ナミは追いかけようとした。

 

 しかし、足が動かなかった。

 

 八年間。

 

 八年間も、頑張ってきたのだ。

 

 どれほど苦しくても、どれほど惨めでも、すべてはこの日のためだった。

 

 あと少しで、村を救えたはずなのに。

 

 あと少しで、ベルメールとの約束を果たせたはずなのに。

 

「……嘘でしょ?」

 

 ナミの唇が震えた。

 

「ねえ……嘘だって、言ってよ……」

 

 返事はなかった。

 

 ネズミの姿は、もう遠ざかっている。

 

 手元には、何も残っていなかった。

 

     *

 

 その知らせは、すぐに村中へ広まった。

 

 ナミが八年間かけて集めた金を、海軍に奪われた。

 

 アーロンとの約束を果たすための金が、なくなってしまった。

 

 村人たちは言葉を失った。

 

 これまで、彼らはナミが何をしているのかを知っていた。

 

 彼女が危険な海へ出て、盗みを働き、少しずつ金を集めていることも。

 

 その金で村を買い戻そうとしていることも。

 

 だからこそ、誰もが願っていた。

 

 あと少しでいい。

 

 ナミが約束を果たす日まで、どうか何事も起こらないでくれ、と。

 

 しかし、その願いは無情にも打ち砕かれた。

 

「……もう、我慢する必要はねぇ」

 

 誰かが呟いた。

 

 村人たちが顔を上げる。

 

「アーロンの言いなりになるのは、もう終わりだ」

 

「そうだ……!」

 

「このままじゃ、ナミが何のために頑張ってきたのか分からねぇ!」

 

 怒りが広がっていく。

 

 恐怖が消えたわけではない。

 

 アーロンがどれほど恐ろしい相手なのか、村人たちは身をもって知っている。

 

 それでも、これ以上ナミ一人に犠牲を背負わせることはできなかった。

 

 彼女は八年間、村のために戦ってきた。

 

 ならば、今度は自分たちが戦う番だ。

 

「武器を持て!」

 

「アーロンパークへ行くぞ!」

 

 村人たちが立ち上がった。

 

 その動きを見て、ノジコは顔色を変えた。

 

「待って! みんな、やめて!」

 

 彼女は人々の前へ駆け出した。

 

「アーロンに勝てるわけがないわ! 行ったら、みんな殺されるかもしれないのよ!」

 

「それでも、もう黙って見ているわけにはいかねぇ!」

 

 村人の一人が叫んだ。

 

「ナミがどんな思いで八年間も耐えてきたと思ってるんだ!」

 

「そんなこと誰よりも知ってるわよ……!」

 

 ノジコは言葉を詰まらせた。

 

 彼女にも、分かっていた。

 

 このまま何もせずにいれば、ナミはまた一人で苦しみ続けるだろう。

 

 それでも、村人たちがアーロンパークへ向かえば、今度こそ誰も帰ってこられないかもしれない。

 

「……お願い。行かないで」

 

 ノジコの声は震えていた。

 

 だが、村人たちの決意は揺らがなかった。

 

 彼らは歩き始めた。

 

 その先にあるのは、魚人たちの支配する場所。

 

 恐怖の象徴であり、八年間、ナミが一人で立ち向かってきた敵の根城だった。

 

     *

 

「待ちなさいよ!」

 

 ナミが村人たちの前に立ちはだかった。

 

「どこへ行くつもりなの!?」

 

「決まってるだろう。アーロンのところだ」

 

「やめて!」

 

 ナミは叫んだ。

 

「お願いだから、やめてよ!」

 

 村人たちは足を止めた。

 

 ナミの顔は青ざめ、両手は震えていた。

 

「私が何とかするから……! 私が、どうにかするから……!」

 

「ナミ……」

 

「だから、行かないで!」

 

 ナミは必死だった。

 

 金を奪われた。

 

 八年間の努力が無駄になった。

 

 それでも、まだ何か方法があるかもしれない。

 

 もう一度金を集めればいい。

 

 時間がかかっても、別の方法を探せばいい。

 

 だから、みんなには行ってほしくなかった。

 

 自分のせいで、誰かが傷つくところなど見たくない。

 

 ベルメールを失ったあの日から、もう二度と、誰かを失いたくなかった。

 

「……お願いだから、私に任せてよ……」

 

 ナミの声が小さくなる。

 

 しかし、帽子に風車を付けたゲンゾウが静かに首を横に振った。

 

「もういいんだ、ナミ」

 

「……ゲンさん?」

 

「お前は、もう十分頑張った」

 

 その言葉に、ナミは息を呑んだ。

 

「八年間も、俺たちのために一人で戦ってきたんだ。これ以上、お前だけに背負わせるわけにはいかねぇ」

 

「違う……!」

 

 ナミは首を振った。

 

「違うのよ! 私が勝手にやってきただけなの! だから……!」

 

「それでもだ」

 

 別の村人が言った。

 

「お前は俺たちの大切な仲間だ。お前が苦しんでるのを、これ以上黙って見ていられるか!」

 

 ナミは何も言えなくなった。

 

 自分のために、みんなが動こうとしている。

 

 嬉しくないわけがない。

 

 でも、怖かった。

 

 もし、みんながアーロンに殺されたら。

 

 自分が止められなかったせいで、村の人々まで失ってしまったら。

 

 その責任を、自分はどうやって背負えばいいのだろう。

 

「……やめてよ」

 

 ナミは俯いた。

 

「お願いだから……行かないで……」

 

 それでも、村人たちは歩き出した。

 

 ノジコも、彼らを止めることができなかった。

 

 ナミは、その場に立ち尽くした。

 

 誰も止められない。

 

 誰も守れない。

 

 自分が八年間かけて積み上げてきたものは、もう何も残っていない。

 

 そして今、村人たちまで危険な場所へ向かおうとしている。

 

「……私のせいだ」

 

 ナミの声が、風に消えた。

 

     *

 

 村人たちがアーロンパークへ向かうよりも早く、二人の男がその入口へたどり着いていた。

 

「……ここが、アーロンパークか」

 

 ジョニーが目の前の建物を見上げる。

 

 ヨサクは唇を引き結び、拳を握った。

 

「ナミの姉貴が、八年間も……」

 

 二人は、ナミの事情をすべて知っているわけではない。

 

 それでも、彼女の腕に刻まれた印を見たことがあった。

 

 そして今、彼女がこの場所へ向かったのだと知っている。

 

「アニキの仲間を、好き勝手に苦しめやがって……!」

 

 ジョニーの声に怒りがこもる。

 

「ジョニー、ここで引き下がるわけにはいきやせん」

 

「当たり前だ、ヨサク!」

 

 二人は互いに頷いた。

 

 勝てるかどうかなど、今は関係ない。

 

 ナミの姉貴が苦しんでいる。

 

 ならば、できることをするだけだ。

 

「おい、魚人ども!」

 

 ジョニーが声を張り上げた。

 

「ナミの姉貴を返しやがれ!」

 

 アーロンパークの入口にいた魚人たちが振り返る。

 

 やがて、奥からアーロンが姿を現した。

 

「……何だ、お前らは」

 

 アーロンは二人を見下ろし、面倒くさそうに鼻を鳴らした。

 

「ナミの知り合いか?」

 

「そうだ!」

 

 ジョニーが剣を構える。

 

「これ以上、あの姉貴を苦しめるんじゃねぇ!」

 

 ヨサクも刀を抜いた。

 

「ナミの姉貴を自由にしやがれ!」

 

 アーロンは、しばらく二人を見つめていた。

 

 そして、腹の底から笑い出した。

 

「ギャハハハハ! 人間が二匹、俺に命令するつもりか?」

 

「うるせぇ!」

 

 ジョニーが飛び出す。

 

 ヨサクも続いた。

 

 だが、二人の攻撃はアーロンたちにとって、あまりにも遅かった。

 

 アーロンは軽々と攻撃をかわし、腕を振るう。

 

 ジョニーの身体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

「ぐっ……!」

 

「ジョニー!」

 

 ヨサクが叫ぶ。

 

 彼はすぐさま斬りかかったが、魚人の一人に攻撃を受け止められ、そのまま蹴り飛ばされた。

 

 二人は立ち上がろうとする。

 

 しかし、身体が思うように動かなかった。

 

 力の差は、あまりにも大きい。

 

「……くそっ!」

 

 ジョニーは歯を食いしばった。

 

「まだ……終わってねぇ……!」

 

「無理するんじゃねぇよ」

 

 アーロンが冷たい声で言った。

 

「人間ってのは、どうしてこうも自分の分際をわきまえねぇんだ?」

 

 彼は倒れた二人を見下ろした。

 

 アーロンは鼻で笑った。

 

「弱すぎて殺す価値もなかった」

 

ジョニーの目が見開かれる。

 

 その言葉を最後に、アーロンは二人に背を向けた。

 

 魚人たちの笑い声が、入口に響く。

 

 ジョニーは拳を握りしめた。

 

 悔しかった。

 

 立ち上がることすら難しいほどの実力差を見せつけられたことも。

 

 ナミの姉貴を苦しめている相手に、何もできなかったことも。

 

 だが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。

 

「……ヨサク」

 

「……何でやんすか、ジョニー」

 

「村人たちが来るかもしれねぇ。ここで待つぞ」

 

 ヨサクは痛みに顔をしかめながらも、頷いた。

 

「そうでやんすね……。あっしらが止めなきゃ、みんな無茶をしかねやせん」

 

 二人は、アーロンパークの入口にとどまった。

 

 勝てなくても、できることはある。

 

 村人たちが無謀に突っ込まないようにすること。

 

 そして、アニキたちが来るのを待つこと。

 

 それが今の二人にできる、精いっぱいの抵抗だった。

 

     *

 

 ナミは、村の中を一人で歩いていた。

 

 どこへ向かうつもりなのか、自分でも分からない。

 

 足は重く、頭の中は真っ白だった。

 

 八年間。

 

 ベルメールさんを失ってから、八年間。

 

 自分は何のために頑張ってきたのだろう。

 

 村を救うため。

 

 みんなを自由にするため。

 

 そのためなら、どんなことでも耐えられると思っていた。

 

 けれど、その希望は奪われた。

 

 村人たちも、自分の言うことを聞いてくれなかった。

 

 みんながアーロンパークへ向かっている。

 

 自分が止められなかったせいで。

 

「……もう、嫌だ」

 

 ナミの足が止まった。

 

 腕に刻まれた、魚人の印。

 

 アーロンの支配を示す印。

 

 八年間、目にするたびに怒りを覚え、同時に自分の無力さを思い知らされてきたもの。

 

 ナミは、その印を見つめた。

 

「……何なのよ、これ」

 

 声が震える。

 

「何で……何で、私ばっかり……!」

 

 涙が頬を伝った。

 

 怒りも、悲しみも、悔しさも、もう抑えられなかった。

 

 ナミは近くにあった刃物を手に取った。

 

 そして、自分の腕に刻まれた印へ刃先を向ける。

 

 消してしまいたかった。

 

 この印も。

 

 八年間の苦しみも。

 

 何もかも。

 

「……こんなもの……!」

 

 刃先が、肌に触れた。

 

「ナミ!」

 

 鋭い声が響いた。

 

 手首をつかまれ、刃物が止まる。

 

 ナミが顔を上げると、そこにはルフィがいた。

 

 その後ろには、ゾロ、サンジ、ウソップ、そしてミナトの姿もあった。

 

「……何で……」

 

 ナミは呆然と呟いた。

 

「何で、あんたたちが……」

 

「何でって、追いかけてきたからだ!」

 

 ルフィは、いつもの調子で答えた。

 

「……バカじゃないの……」

 

 ナミは笑おうとした。

 

 けれど、口元は歪むばかりだった。

 

「帰ってよ……。あんたたちには関係ないでしょ……!」

 

 ルフィは答えなかった。

 

 ただ、ナミの手首をつかんだまま、刃物を遠ざけた。

 

 ミナトは、ナミの腕に目を向けた。

 

 傷ついた肌。

 

 震える指。

 

 そして、何もかも諦めてしまったような表情。

 

 声をかけたいと思った。

 

 何か、彼女の苦しみを少しでも軽くできる言葉があるのなら、伝えたかった。

 

 けれど、今のナミに必要なのは、誰かが代わりに答えを出すことではない。

 

 彼女自身が、助けを求められることなのかもしれない。

 

 ミナトは、そっと口を閉じた。

 

「……お願いだから、帰ってよ」

 

 ナミの声が、かすれた。

 

「もう……放っておいて……」

 

 ルフィは、じっと彼女を見つめていた。

 

 ナミは顔を背けようとする。

 

 誰にも見られたくなかった。

 

 こんな自分を。

 

 何もできず、何も守れず、ただ泣いているだけの自分を。

 

 八年間、誰にも弱音を吐かなかった。

 

 弱音を吐けば、きっと自分が壊れてしまうと思っていた。

 

 だから、ずっと笑ってきた。

 

 金が好きな泥棒猫。

 

 人を利用する、薄情な女。

 

 そう思われていたほうが、ずっと楽だった。

 

 誰にも期待しなければ、誰かに裏切られることもない。

 

 誰にも頼らなければ、失うものも増えない。

 

 そうやって、自分を守ってきた。

 

 それなのに。

 

 どうして、この男たちはここにいるのだろう。

 

 どうして、何も聞かずに、自分の前に立っているのだろう。

 

「……もう、どうにもならないのよ」

 

 ナミは俯いた。

 

「お金もなくなった。村のみんなも、アーロンのところへ行こうとしてる……。私、何もできなかった……」

 

 声が震える。

 

「ベルメールさんとの約束も……守れなかった……」

 

 ついに、涙がこぼれ落ちた。

 

「……もう、どうしたらいいのか分からない……」

 

 ルフィは、しばらく何も言わなかった。

 

 そして、ゆっくりとナミの手から刃物を取り上げ、地面へ置いた。

 

 ナミの腕から手を離す。

 

 彼は自分の頭に手を伸ばし、麦わら帽子を取った。

 

 そして、それをナミの頭にそっと載せた。

 

「……ルフィ?」

 

 ナミが顔を上げる。

 

 ルフィは、いつもの真っ直ぐな目で彼女を見ていた。

 

「行くぞ」

 

「……え?」

 

「お前を苦しめてる奴を、ぶっ飛ばしに行く」

 

 それだけだった。

 

 慰めの言葉も、事情を問い詰める言葉もない。

 

 ただ、助けると決めた男の声だった。

 

 ナミは麦わら帽子に手を伸ばした。

 

 そのつばに触れた瞬間、堪えていたものが一気にあふれ出した。

 

「……うっ……」

 

 涙が止まらない。

 

 もう、強がれなかった。

 

 もう、一人で抱え込むこともできなかった。

 

 ナミはルフィを見上げた。

 

 その目に映っているのは、助けを求めることを恐れていた少女の姿だった。

 

「……助けて……」

 

 小さな声だった。

 

 けれど、その言葉には八年間のすべてが詰まっていた。

 

「……ルフィ……助けて……!」

 

 ルフィは胸一杯に空気を吸い込み叫ぶ

 

「当たり前だ‼︎‼︎」

 

 その返事を聞いた瞬間、ナミは顔を覆って泣き崩れた。

 

 八年間、ずっと一人で戦ってきた。

 

 誰にも頼らず、誰にも弱さを見せず、自分の力だけで何とかしようとしてきた。

 

 けれど、今は違う。

 

 自分を助けてくれる仲間がいる。

 

 そう思えたことが、何よりも嬉しかった。

 

 ミナトは、少し離れた場所でその光景を見守っていた。

 

 胸の奥が、静かに熱くなる。

 

 ナミが自分の口で助けを求めるまで、ルフィは待った。

 

 そして、迷わず応えた。

 

 それが、この男なのだ。

 

 ミナトは、ナミが泣き止むまで何も言わなかった。

 

 今は、言葉をかけるよりも、この時間を邪魔しないことが大切だと思ったからだ。

 

 やがて、ルフィはナミに背を向けた。

 

「よし。行くぞ!」

 

 ゾロが刀の柄に手を置く。

 

「……ああ」

 

 傷はまだ癒えていない。

 

 それでも、その目に迷いはなかった。

 

 サンジは煙草をくわえ直し、低い声で言った。

 

「レディを泣かせた落とし前、きっちりつけさせてもらうぜ」

 

「お、俺だって……やるときはやるぞ!」

 

 ウソップは震える拳を握りしめた。

 

 顔には恐怖が浮かんでいる。

 

 それでも、逃げるつもりはなかった。

 

 ミナトは一度、ナミを振り返った。

 

 麦わら帽子を抱きしめ、涙を流している彼女。

 

 その姿を目に焼きつけ、静かに前を向く。

 

「……行こう」

 

 ルフィが歩き出した。

 

 ゾロ、サンジ、ウソップ、ミナトが続く。

 

 彼らの行く先には、アーロンパークがある。

 

 ナミの八年間を踏みにじり、村人たちを苦しめてきた魚人海賊団の根城。

 

 その入口では、傷だらけのジョニーとヨサクが、村人たちを制止しながら一行を待っていた。

 

 まだ、戦いは始まっていない。

 

 だが、もう誰もナミを一人にはしない。

 

 麦わら帽子を抱きしめるナミの頬を、涙が伝い続けていた。

ミナトの今後の成長(能力)について! リトルガーデン編以降

  • 悪魔の実 ゾオン系 幻獣種:九喇嘛
  • 悪魔の実 パラメシア系 チャクラ人間
  • 無能力者を貫き通す!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。