ONE PIECE ―黄色い閃光は海を翔ける― 作:HINRON
クロッカスの背中を追い、ルフィとミナトは通路を進んでいた。
ラブーンの身体が動くたび、壁が大きく揺れる。足元も安定せず、天井から細かな破片が落ちてきた。
「おい、クロッカスのおっさーん! どこまで行くんだよ!」
ルフィが前を走る老人に声を張り上げる。
「黙ってついてこい! 今は時間が惜しい!」
クロッカスは振り返らずに答えた。
ミナトは通路の壁に手を添え、揺れの合間を縫って足を進めていた。
「……ラブーンが、また頭をぶつけているんですね?」
「そうだ。何度止めても、あいつは同じことを繰り返す」
クロッカスの声には、苛立ちと心配が入り混じっていた。
「だから、今から落ち着かせる。お前たちは邪魔をするなよ」
「おう!」
ルフィは元気よく返事をした。
やがて通路の先に鉄扉が見えてきた。クロッカスが扉を開けると、その奥には頑丈な金属の枠に支えられた巨大な注射器が設置されていた。
「なんだ、ありゃ?」
ルフィが目を丸くする。
「鎮静剤を打つためのものだ」
クロッカスは器具の状態を確かめながら答えた。
「これを使って、ラブーンを落ち着かせる」
老人は手際よく準備を進めた。
その間にも、壁の向こうから衝撃音が響いてくる。
ドンッ!
部屋全体が揺れた。
「うおっ!」
ルフィがよろめき、ミナトはすぐに壁へ手をついた。
クロッカスは注射器を操作し、必要な処置を行った。
「……じっとしていろ、ラブーン」
低くつぶやく。
やがて、激しかった衝撃音が少しずつ遠のいていった。壁の揺れも収まり、最後に大きな振動が一度だけ響いたあと、静寂が訪れた。
クロッカスは器具から手を離し、深く息を吐いた。
「よし。これで、しばらくは大丈夫だ」
「すげえな、おっさん! 今のでラブーンが落ち着いたのか?」
「ああ。だが、根本的な解決にはなっとらん。薬が切れれば、また同じことをするかもしれん」
クロッカスの表情は厳しいままだった。
ミナトは、老人の横顔を見つめた。
これほど大きなクジラを、長い間、体内から世話し続けてきたのだ。クロッカスがラブーンを気にかける理由は、単なる灯台守としての責任だけではないのだろう。
「……とにかく、みんなのところへ戻ろう」
クロッカスは器具を片づけ、部屋を出た。
ルフィとミナトも、その後に続いた。
*
湖のある広い空間へ戻ると、ゴーイング・メリー号の上で仲間たちが待っていた。
「ルフィ! ミナト!」
ナミが二人の姿を見つけて声を上げる。
「どこへ行ってたのよ!」
「クロッカスのおっさんについてったんだ!」
「それは見れば分かるわよ!」
ナミは怒鳴ったあと、クロッカスへ向き直った。
「それで、もう大丈夫なの?」
「ああ。ひとまず揺れは収まった。ここから出るぞ。船も一緒だ。全員、出る準備をしろ」
「やっと出られるのか!」
ウソップが歓声を上げた。
ゾロは船の周囲を確認し、サンジは船内に残された荷物を整えた。
ミナトも船に戻り、仲間たちの様子を確かめる。多少の疲労はあるものの、大きな怪我を負った者はいないようだった。
クロッカスが案内する出口へ向かい、メリー号は湖面をゆっくり進んでいく。
巨大な扉が開かれ、その向こうに外の光が差し込んだ。
「おお! 外だ!」
ルフィが声を上げる。
メリー号は通路を抜け、やがて双子岬の海へと出た。
潮風が吹き抜け、広い空が目の前に広がる。
ようやく、ラブーンの体内から脱出できたのだった。
*
「ぷはーっ! やっぱり外の空気はいいな!」
ウソップが大きく息を吸い込んだ。
「本当に、とんでもない経験だったわね……」
ナミは疲れたように肩を落とした。
クロッカスは岸辺へ船を寄せると、ラブーンの様子を確かめるように海面を見つめた。
巨大なクジラは、少し離れた場所で静かに浮かんでいた。先ほどまでの激しい動きは収まっている。
しかし、その額には何度も壁にぶつけたことでできた傷が残っていた。
「なあ、おっさん」
ルフィが船から降り、クロッカスの隣へ歩いていった。
「あいつ、なんで何度も頭をぶつけてたんだ?」
クロッカスはしばらくラブーンを見つめていた。
「……お前たちには、話しておく必要があるな」
老人は灯台のそばへ移動し、腰を下ろした。
一味は自然と集まり、クロッカスの話に耳を傾けた。
「今から五十年ほど前のことだ。この岬に、一隻の海賊船がやってきた。偉大なる航路を目指していた海賊団だ。そいつらの後を、小さなクジラが追いかけてきた」
クロッカスはラブーンへ視線を向けた。
「それが、ラブーンだった」
「へえ! あいつ、昔は小さかったのか!」
ルフィが目を輝かせる。
「今の大きさからは想像できないわね」
ナミも驚いたようにラブーンを見上げた。
「ラブーンは海賊たちによく懐いていた。連中が出航しようとすれば後を追い、離れようとしなかったそうだ」
クロッカスは続けた。
「だが、海賊たちは危険な偉大なる航路へ進むつもりだった。小さなラブーンを連れていくわけにはいかなかったんだ」
「だから、ここに残したのか?」
ゾロが尋ねた。
「ああ。ラブーンをわしに預け、約束した。偉大なる航路を一周したら、必ず戻ってくるとな」
ウソップの顔から、少しずつ笑みが消えた。
「……それから、五十年?」
「ああ」
クロッカスはうなずいた。
「ラブーンは今も、その約束を信じている」
海風が吹き抜けた。
五十年。
その長い時間を、ラブーンはこの岬で過ごしてきた。
「それで、あの壁に頭をぶつけてるのか?」
ルフィがレッドラインを見上げた。
「そうだ。ラブーンは、向こう側に仲間たちがいると思っているのだろう。自分の力で壁を越えようとしている」
クロッカスはラブーンの額に刻まれた傷を見つめた。
「何度止めても、また始める。傷が増えても、諦めようとせん」
「……そっか」
ルフィは短く答えた。
ミナトもラブーンを見つめた。
五十年間、約束を信じて待ち続ける。その間に何があったのか。海賊たちがなぜ戻ってこなかったのか。ミナトには、まだ分からないことばかりだった。
「その海賊たちは、今どうしているんだ?」
ゾロが尋ねる。
「わしが知る限り、連中は偉大なる航路での冒険を断念し、海を離れた」
クロッカスは静かに答えた。
「ラブーンには何度も伝えた。だが、あいつは信じようとせん。仲間たちが約束を破るはずがないと思っているのだろう」
ラブーンが小さく鳴いた。
クロッカスは、その声を聞いて目を伏せた。
「わしは、あいつがこれ以上傷つく姿を見たくない。だが、無理に諦めさせることもできん」
ルフィは黙ってラブーンを見つめていた。
やがて、すっと立ち上がる。
「よし!」
「……何がよしなんだ?」
ゾロが眉をひそめた。
ルフィは答えず、ゴーイング・メリー号へ向かって歩き出した。
「ルフィ?」
ミナトが声をかける。
「ラブーンと勝負してくる!」
「はあ!?」
ナミが素っ頓狂な声を上げた。
「何を聞いていたら、そうなるのよ!」
「ちゃんと聞いてたぞ!」
「だったら、どうして勝負なのよ!」
「いいから見てろって!」
ルフィはメリー号のそばまで駆けていくと、船体に残っていたマストを見つけた。
両手でつかみ、力任せに引っ張る。
ミシッ……バキッ!
「――って、おいィィィッ!!」
ウソップの絶叫が双子岬に響き渡った。
「何やってんだ、てめェーッ! 船のマストを勝手に折るんじゃねェェェッ!!」
「勝負に使うんだ!」
「そんな理由で納得できるかァ! これはおれたちの船だぞ! 大事な船の部品なんだぞ!」
ウソップは頭を抱え、折れたマストとルフィを交互に指差した。
「修理するのは誰だと思ってんだ! 誰が直すと思ってんだよ!」
「ウソップだろ?」
「分かってんなら最初から大事に扱えェェェッ!!」
ウソップの悲鳴を背に、ルフィは折れたマストを肩に担いでラブーンへ向かって走り出した。
「おい、待てコラァァァッ! 話はまだ終わってねェぞーっ!」
ウソップの声は、ラブーンの大きな咆哮にかき消された。
ルフィは巨大な頭へ飛び乗り、マストを構えた。
「おーい、ラブーン! もう一回、勝負だ!」
次の瞬間、マストがラブーンの頭へ叩きつけられた。
鈍い音が響き、ラブーンが大きく鳴く。
海面が激しく波立った。
ラブーンは頭を振り、ルフィを振り落とそうとする。だが、ルフィはマストを手放さず、必死に踏みとどまった。
「どうした、ラブーン! まだまだだぞ!」
ラブーンが大きく身体を揺らす。
ルフィの身体が宙へ浮いた。
「うおおおっ!」
ルフィは伸ばした腕でラブーンの頭をつかみ、再びその巨体へ戻る。そして拳を握り、思い切り叩き込んだ。
ラブーンも負けじと頭を振り、ルフィを弾き飛ばそうとする。
波しぶきが岸辺まで打ち寄せた。
「なんて無茶な……!」
ウソップが顔を青くする。
ナミも船縁を握りしめた。
ミナトは、いつでも動けるよう足に力を込めていた。
だが、ルフィは自分の意思で戦っている。ラブーンもまた、ルフィの挑戦に応えていた。
ミナトはすぐには手を出さず、その勝負を見守った。
やがてルフィは、マストを手にしたまま大きく息を吐いた。
「……よし!」
拳を下ろし、ラブーンの頭の上に立つ。
「引き分けだ!」
「何が引き分けよ!」
ナミの叫びが岬に響いた。
ルフィは気にしなかった。
「いいか、ラブーン!」
胸を張り、ラブーンを見下ろす。
「おれたちはこれから偉大なる航路を進んで、ぐるっと一周して戻ってくる!」
ラブーンが、じっとルフィを見つめた。
「その時、もう一回勝負だ! 今度こそ決着をつけるぞ!」
ルフィは拳を握りしめた。
「だから、それまで待ってろ!」
ラブーンはしばらくルフィを見つめていた。
そして、大きく、長い声を上げた。
その咆哮が双子岬一帯に響き渡る。
クロッカスは目を見開いた。
ラブーンの目から、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
五十年間、帰ってくると約束した海賊たちを待ち続けたクジラ。
そのラブーンが今、新しい約束を受け取った。
ルフィはラブーンの頭から飛び降りると、メリー号へ駆け戻った。
「ウソップ! 筆と塗料を貸せ!」
「えっ!? 今度は何だよ!」
「いいから!」
ルフィは道具を受け取り、再びラブーンの額へ戻った。
そして、迷いなく描き始める。
ドクロと交差する骨。その頭には麦わら帽子。
麦わらの一味の海賊旗だった。
「よし、できた!」
ルフィは満足そうにうなずいた。
「ラブーン! これはおれたちの海賊旗だ!」
ラブーンは額に描かれた旗をじっと見つめていた。
「これが消えちまったら、勝負はなしだからな!」
ルフィはいつもの調子で言い放った。
「だから、もう頭をぶつけるなよ! せっかく描いた旗が消えちまうだろ!」
ミナトは、ラブーンの額に描かれた海賊旗を見上げた。
次に会う時、再び勝負をする。
そのためには、額の海賊旗を消すわけにはいかない。
ラブーンは、新しい約束を手に入れたのだ。
クロッカスは静かに目を閉じた。
「……まったく、とんでもない海賊だ」
その声には、呆れだけではない安堵が混じっていた。
ルフィはラブーンの頭から降り、折れたマストを担いだままメリー号へ戻ってきた。
「おーい! みんな、終わったぞ!」
「終わったぞ、じゃねェェェッ!!」
待ち構えていたウソップの怒声が、双子岬に響き渡った。
「お前なァ! 何で船のマストを勝手に折るんだよ! 船の部品はおもちゃじゃねェんだぞ! 修理するのは誰だと思ってんだ!」
「ウソップだろ?」
「分かってんなら最初から大事に扱えェェェッ!!」
ウソップは折れたマストを指差し、頭を抱えた。
「ただでさえ、さっきラブーンにぶつかったせいで船首が壊れたんだぞ! そこへ今度はマストまで! おれたちはこれから偉大なる航路を進むんだぞ! 船がどれだけ大事か分かってんのか!」
「でも、ラブーンとの勝負は引き分けだったぞ!」
「勝負の結果は聞いてねェ!」
ルフィは首をかしげた。
そこへ、ミナトがゆっくりと歩み寄った。
「ルフィ。ウソップの言う通りだよ」
「えーっ、ミナトまでかよ!」
「ラブーンと勝負するのはいい。でも、仲間の船を勝手に壊していい理由にはならないだろ?」
「……うっ」
ミナトの落ち着いた声に、ルフィは少しだけ口をつぐんだ。
「船はみんなで使うものだ。壊れたら、みんなが困る。ウソップだって、直すために苦労するんだから」
「そうだ! 分かってるじゃねェか、ミナト!」
ウソップが勢いよくうなずいた。
「それに、ルフィ。もしゾロの刀を勝手に折ったらどうする?」
「怒る!」
「サンジの料理道具だったら?」
「サンジも怒る!」
「ナミの航海用の道具だったら?」
「ナミはもっと怒る!」
「じゃあ、ウソップが大事にしてる道具だったら?」
「おれはもう怒ってんだよォォォッ!!」
ウソップが再び叫び、ナミが思わず吹き出した。
「まったく……。船長がこれじゃ、先が思いやられるわね」
「だってよ、ルフィ。みんな困ってるだろ?」
ミナトが苦笑しながら言うと、ルフィは頭をかいた。
「……悪かった」
珍しく素直な謝罪に、ウソップは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「お、おう……。分かればいいんだ、分かれば」
「じゃあ、マストの修理は手伝うぞ!」
「当たり前だ! お前が折ったんだからな!」
「分かった! 直すぞ!」
「いや、直すのはおれがやる! お前は余計なことをせず、言われたことを手伝え!」
「なんだよ、それ!」
「お前に任せたら、船がもう一本沈むだろうが!」
またも始まった言い合いに、ミナトは小さく笑った。
ラブーンとの約束を胸に、ルフィはすでに次の冒険へ気持ちを向けている。
その無鉄砲さに振り回されるのも、きっとこの船の日常なのだろう。
ミナトは折れたマストを見下ろし、ウソップへ声をかけた。
「修理、オレも手伝うよ。できることがあれば言ってくれ」
「おお! 助かるぜ、ミナト!」
「おれも手伝うぞ!」
ルフィが勢いよく手を挙げた。
「お前はまず、余計なことをしないって約束しろ!」
「なんでだよー!」
ウソップの叫び声とルフィの抗議が、双子岬に響き渡った。
*
騒ぎがひと段落した頃、岸辺の隅でうめき声が聞こえた。
「いてて……」
Mr.9が頭を押さえながら起き上がる。
「Mr.9、大丈夫?」
ミス・ウェンズデーも、ふらつきながら立ち上がった。
二人はラブーンの体内でルフィに殴られ、倒れていたのだ。
「まったく、とんでもねえ奴らだぜ……」
Mr.9が不満そうに顔をしかめた。
ミス・ウェンズデーはラブーンを見つめたあと、クロッカスへ向き直った。
「……もう、ラブーンには手を出さないわ」
「当然だ」
クロッカスは厳しい視線を向けた。
「次に同じことをすれば、今度は容赦せん」
Mr.9は悔しそうに歯を食いしばったが、今度は反論しなかった。
二人には町へ戻るという目的がある。だが、今回の計画は失敗した。
ミス・ウェンズデーは一味を見回した。
「私たちも、戻らなきゃならない場所があるの」
「どこへ行くつもりだ?」
ナミが尋ねた。
ミス・ウェンズデーは一瞬だけ目を細めた。
「……それは、私たちの事情よ」
彼女はそれ以上、詳しい事情を語ろうとはしなかった。
Mr.9も、今は余計なことを言うつもりはないらしい。
クロッカスは二人を見据えた。
「わしは知らん。お前たちの事情に首を突っ込むつもりもない。だが、ラブーンに手を出すのはやめておけ」
「分かってるわ」
ミス・ウェンズデーは答えた。
二人は一味の船に乗ることなく、双子岬を離れることになった。
ミナトは二人の後ろ姿を見送りながら、何かを隠している様子を覚えておいた。
今ここで問い詰める必要はない。
彼らの事情が明らかになるのは、もう少し先のことだった。
*
やがて、ゴーイング・メリー号の出航準備が整った。
クロッカスは灯台のそばに立ち、船を見送る支度をしていた。
その隣では、ラブーンが海面から顔を出している。
「おーい、ラブーン!」
ルフィが船縁から身を乗り出した。
「絶対に戻ってくるからなー!」
ラブーンが大きく鳴いた。
その額には、麦わらの一味の海賊旗がはっきりと描かれている。
ラブーンは、遠ざかっていくメリー号をじっと見つめていた。
船が少しずつ小さくなる。
白い帆が風を受け、波の向こうへ進んでいく。
それでも、ラブーンは顔を上げたまま、船を見送っていた。
ミナトは船尾に立ち、ラブーンの額に描かれた旗を見つめていた。
あの旗は、過去の約束を消すためのものではない。
ラブーンが待ち続けてきた海賊たちの存在を否定するものでもない。
これから先、ルフィたちが冒険を続け、再びこの場所へ戻ってくるための目印だった。
「……また会おうな、ラブーン」
ミナトは静かにつぶやいた。
ラブーンが大きく鳴いた。
その声が風に乗って届く。
ミナトは最後まで、その姿を目で追った。
やがて巨大な身体が波間に隠れ始める。
再び姿を現す。
そしてまた、波に隠れる。
まるで、何度でも顔を上げて、こちらを確かめようとしているようだった。
「……まだ見てるわね」
ナミが静かに言った。
誰も答えなかった。
やがてラブーンの姿は、遠い海面に小さな影となった。
それでも、最後の咆哮は耳の奥に残っていた。
ミナトは目を閉じ、短く息を吐いた。
いつか、またここへ戻ってくる。
その時には、今よりずっと多くの島を見て、たくさんの人々と出会っているはずだ。
けれど、ラブーンの額には、あの海賊旗が残っている。
約束を交わした場所も、ここにある。
「……またな、ラブーン」
今度は、ただの別れではない。
再び会う日が決まっている別れだった。
「ミナトー! 何やってんだ! こっち来いよ!」
船首からルフィが呼んだ。
「次の島に行くぞ!」
ミナトは振り返り、笑顔で応えた。
「ああ、今行く!」
ゴーイング・メリー号は帆に風を受け、偉大なる航路の奥へと進んでいく。
背後では、ラブーンが海面から顔を出し、遠ざかる船を見つめ続けていた。
五十年前の約束は、消えたわけではない。
そして今、新しい約束が生まれた。
いつか必ず戻ってくる。
その日まで、ラブーンはもう一度、海を見つめて待つ。
ただ帰りを待つためではなく、再び勝負をする、その日を迎えるために。
双子岬の灯台が、遠い海の向こうに小さく輝いていた。