「豊穣の女主人?」
看板を見上げ、ベルは確認するように呟いた。
「はい、今夜待ってますね! ベルさん」
シルはにっこりと微笑むと、ベルに弁当箱を手渡した。
「え? えっ?」
ベルは手元の弁当箱とシルの顔を交互に見た。
どういうことだろう。
ようやく状況が飲み込めてきたベルは、頭の中で今後の予定を整理する。
つまり、こういうことだ。
シルさんのお弁当を貰う。
お弁当箱を返す。
そして、夜はお店で食べていく。
……ということになってしまったのか!!!
「ちゃんとお弁当箱、返してくださいねえ」
シルは念を押すように、楽しげな声で言った。
「分かりました……」
ベルは困ったように笑い、頷いた。
「シル...自分の賄いまで渡してしまってそんなに彼に店に来て欲しかったのですか?」
一連のやり取りをアーニャから聞いたリューは、自分の賄いを取り分け、半分シルに渡した
「ごめんね。ありがとう、リュー。」
「うん、真っ直ぐな子だなって気になっちゃって」
「そうですか...」
「リューも気になるでしょ?」
「シルを射止めた、という点では」
「ふふっ、一緒に楽しみにしてよう?」
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「シルさん、いますか?」
ひょこっと顔を出したのは白髪赤眼の新人冒険者ベル・クラネル
「白髪頭!朝、シルの弁当受け取ったヤツニャ!!!」
「あ、はい。ごちそうさまでした。いつもこんなに美味しいものを食べてるんですね」
「常連になれば毎日でも食えるにゃ」
「う、それはちょっと難しいかも...」
「じゃあここで働くニャ!」
「僕、冒険者なんで...」
「冒険者でも働けニャ!」
「アーニャ!ベルさんと何喧嘩してるの?」
「こいつ、タダ飯貰って嬉しそうにしてるから教えてあげてるのニャ!働かざるもの食うべからず」
「ベルさんはお客さんなの!お説教はいらないから」
シルはベルの腕を引いた
「ベルさん、こっちの席に」
席を案内するとメニューを開いた
「なんでも好きなもの食べていってくださいね!」
「え、ええと...」
ベルはお金の心配だけをしていた
......安いヤツ、安いヤツ!!!
メニューを目で追っていると
ドンッ!!!
目の前に料理が出てきた?!
メニューから目を離し頭上を見上げる
「......!!!」
ドワーフ独特の存在感を見せつけながらミア・グランツが口角を上げ笑っていた
「シルのお得意様なんだろ?特別サービスさ、いっぱい食べな」
「ぼ、僕...こんなに食べられないっ!!」
震える声でベルは呟く
「食べ盛りだろ?こんなの大した量じゃないさ」
「ミアお母さん、怒ると怖いんですよ?」
ニコッとシルはベルの青い顔に微笑み、伝票を差し出した
その金額に飛び上がりそうになるベル
足りる?足りる...よな?!
冷や汗をかきながらも、料理を一口含んだ
「すごい、おいしいっ!!」
目から涙が出てきた
「でしょう?皆んな最初はその反応してくれるんですよ」
シルさんはベルの食べる様子をじっと見ていた
「今度、神様も連れてきてあげたいなあ」
「ベルさんのファミリアはどこなんですか?」
「僕のファミリアは...」
「ご予約のお客様、ご来店ニャあああ!!!」
「?」
ベルは店の入り口を見つめた
アーニャの後ろから続々と入店してきた
「ベルさん、少し待っていてくださいね」
そうシルさんは厨房へと小走りで向かった
「ロキ・ファミリアだ!」
店内がざわつく
「遠征行ってたんじゃ...」
「テメェら、見せモンじゃねェんだよ!」
目つきの悪い
「...っ!!!」
店内が静まり返る
ベルも息を呑んだ
迫力が違う
次元が違う
と思ったら、また怒号が響く
「うるせぇんだよ、ベート!!!」
ビリビリッ、とさらに空気が凍てついた
そのアマゾネスに腕組みをされている
「みんな、ごめんね?ゆっくり食事を続けて」
ベルがロキ・ファミリアの面々を目で追っていると、シルがそっと声をかける。
「ベルさん、あまり緊張しなくても大丈夫ですよ?」
「で、でも……あの人たち、ロキ・ファミリアですよね?」
「ふふっ。そうですよ」
シルは楽しそうに笑った。
「皆さん、いい人たちですよ?」
その言葉を聞きながら、ベルは改めて店内を見渡した。
……本当にそうなのだろうか。
ついさっき、店内を震え上がらせた怒鳴り声を思い出す。
そんなベルの心中を知ってか知らずか、シルはにっこりと微笑んでいた。