「うー、今日は動けそうにないです...」
ベルはソファに寝転んだままそう呟いた
「ゆっくりしてなよ、ベル君。ボクはバイトに行ってくるからね!」
ヘスティアは慌てた様子で出掛けていく
「はい、気をつけてください...」
手を上げる元気もなく、ベルは見送る
昨日のことを全然思い出せないベル
知らない間に
うぅ...ロキ・ファミリアの人たちと話をしたはずなんだけど全く会話を覚えてない
「僕、恥ずかしいこと言ってないかな...」
ふぅ、と大きく息を吐く
「昨日のは驚いたニャー、もしかしてミャーのことにも慣れたんじゃ...」
アーニャがリューにそっと引っ付こうとして突き飛ばされた
「ニャアアアッ〜?!」
体をひっくり返されてアーニャは体勢を整える
「なんであの白髪頭は大丈夫で、ミャーはダメなのニャ?!」
アーニャは毛を逆立てて怒っている
「すみません、条件反射で...」
視線を落としリューは頭を下げる
「おかしいのニャ」
アーニャは腕を組んでフンッと鼻を鳴らす
「それじゃあさ、あたしはどう?」
今度はルノアがリューの掌を掴もうとする
その手を容赦なく打ち払うリュー
「おい」
ルノアも額に青筋を立てる
「すみません、わざとではなく...」
「もういいよっ、やめ!やめ!」
掌をひらひらと振りながらため息を吐くルノア
「ふうん、あの白髪頭はリューにとって特別ってことニャ」
クロエが顎に手をやり状況を整理する
「そういう訳では...」
視線を横にずらしリューは説明する
「ミャーはわかるニャ、あのおしり凄くそそるニャ」
クロエがにやりと口角を上げた
「おしり?」
リューは目を丸くする
「撫で回したいニャ」
「何を撫で回したいって?」
クロエのすぐ後ろにシルが立っていた
にこやかに
穏やかな口調で
......怖い
「なんでもないニャ」
クロエは満面の笑みを作って誤魔化した
「リュー、ベルさんには元冒険者だってこと伝えないの?」
シルの質問にリューは目を丸くする
「はい、必要ありません」
「...そっか。またベルさん来てくれるといいね」
「そうですね」
翌日、ベルが早朝に豊穣の女主人へとやって来た
「おはようございます!」
「なんだ白髪頭ニャ、おはようニャ」
アーニャが欠伸をしながら挨拶を返した
「すみません、あの僕...先日お邪魔したんですけど、何かマズイことしちゃってないですか?...失礼なこととか」
「マズイこと?うーん、ロキ・ファミリアに揉みくちゃにされてたのは覚えてるけど...」
「帰りって僕、どうしたんですか?全然覚えてなくて...」
「お金はロキ・ファミリアから貰ったし問題なかったニャ」
「
「あー、それはリューが送り届けたニャ」
「リュー?」
「今呼ぶニャ」
「リュー!!!リュー!!!!白髪頭が呼んでるニャ、早く来るニャ」
「そ、そんな大声で呼ばなくても...」
ベルは目を見開いた
「アーニャ、一度呼べば聞こえます」
店内を見回したベルの視線が、一人の女性に止まった。
透き通るような肌。そして、整った顔立ち。
綺麗な人だ。
最初に浮かんだ感想は、それだけだった。
けれど、なぜだろう。
視線を逸らそうとしても、どうしても気になってしまう。
何気なく髪を払う仕草も、ベルの目にはひどく印象的に映った。
綺麗な人なら、今までにも見たことはある。
それなのに。
――もっと、この人を見ていたい。
そんな気持ちが、胸の奥から湧き上がってきた。
自分でも理由がわからず、ベルは小さく首を傾げる。
ただ、もう一度だけ。
そう思って顔を上げた瞬間、彼女と目が合った。
「……っ!」
慌てて視線を逸らす。
心臓が、どきりと跳ねた。
なんだろう、これ。
ベルは自分の胸元に手を当てた
「リューがおミャーを送り届けたニャ」
「すっ、すみませんでした!迷惑をかけてしまって」
「いえ、そんなことはありません」
ベルをまっすぐに見て微笑むリュー
可愛い...
ベルは目をぱちぱちさせ、ハッとする
お礼言ってない!!!
「本当に助かりました、ありがとうございます」
頭をペコペコと下げるベルの顔は真っ赤だった
「クラネルさん」
「へ?なんで僕の名前を...?」
「すみません、シルから聞きました。私はリュー・リオンと申します」
「あっ、あの!僕、ベル・クラネルって言います。よろしくお願いします!」
深々と頭を下げるベル
「また店に顔を出してください。」
その言葉に耳を疑った
僕、リューさんから誘われてる
すっっっごく嬉しい!!!
顔が緩みそうになるのを、ベルは必死にこらえた
せっかく名前を教えてもらったのに、変な人だと思われたくない
そう思うほど、胸の高鳴りは止まらなかった
「シルも待っています」
リューさんの笑顔を記憶に焼き付けるベル
「はいっ!絶対にまた来ます」
満面の笑みでベルはにこやかに笑った