個性『暗い魂』のヒーローアカデミア   作:流離い狩人 IS

1 / 1
今更入った新参者ですが、フロムエンジン全開の文を書いてしまいました。どうか、雰囲気で着いてきて下さい。


ああ君、感想を書きたえよ。


フロムゲーを嗜まない方もある程度分かるように、注釈とかも交えて解説したいなと思います。


冥間 暗里:再誕(レザレクション)

 目を開けると、いつも、この光景を見る。

 

 広い、広い砂漠。辺り一帯には散りばめられた岩石。家と思われる赤レンガ混じりの建造物があり、それは脆く崩れて役目を放棄していた。空は青ざめ、ノイズ混じりの真珠色の月が傾く事はない。粒々の星達と共に、煌々と光を受けるだけ。今の時間、私がどこにいるかを物語っていた。現実じゃありえない、冷たくも、温かくもない空間。

 

 

 不思議と、この場所に見覚えがあった。

 

 

 時折、乾ききった風が吹いて砂が連れ去られ、崩壊した家屋からレンガが釣られて落ちて壊れる。この夢で流れる環境音はこれと、私の歩行音だけぐらいで、ずっと寂れたままだ。最果ても見えない。地平線の先までずっと砂に満ちている。文明も、命も、歴史も、世界を形作る全部が燃えて、時間という概念をどこかに捨ててしまった後のような場所。

 

 

 そこで私は必ず、涙を流して佇んでいた。

 

 

 特に悲しい事があった訳でも、苦しい事があった訳でもない、と思う。涙のきっかけだけが、記憶も胸もどこかにぽっかり落としてしまっていた。思い出したくとも、探したくても、この喪失感だけは、どうしても拭えなかった。

 

 

 何故、私は泣いている。

 

 

 何故、思い出せない。

 

 

 己に問いかけると、ふと、刻まれた言葉が、心に浮かんだ。

 きっかけも覚えていない筈なのに、しかし確かに私の言葉なのだと、理解している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──を忘れろ。私が──である為に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ばちりと、意識が急覚醒する。

 

 見慣れた白い木材天井。赤子の頃に退屈で数えていた56個の木目が、自室であると。ふかふかと柔らかく、起き上がるのが億劫になる程沈み込みがいい事から、ベッドで昼寝していたようだ。太陽万歳と叫びたくなる程の清々しい晴天。そういえば、今日は雨も降らない日だという。絶好の外出日和だ。

 

 それにしても、またあの夢。この世に生を受けた時から見る、不可思議な夢。一種の予知夢なのか、それとも……。

 

「暗里(あんり)~! 起きなさい! そろそろ病院行くわよ~!」

 

「早く来ないとパパとママが置いて行っちゃうぞ~」

 

 下の階から響く、両親の声。寝起きだというのに、喧しい。そこまで声を上げずとも直接呼びに来ればいいものを。

 ...あぁ、そうだ。今日は検査日だったか。そろそろ予約していた時間をだったような。それなら早く降りなければ。朝時には出発準備は整えている。といっても、ハンカチとティッシュ位だが。

 部屋にある立て掛け鏡に自分の姿が映し出される。どす黒い、入り込んだ光すら飲み込んでしまうような双眸。ぼさぼさと所々跳ねた癖のある黒単色の短髪。

 

 いつ見ても、ダークな雰囲気を常に醸し出している...。気に入っているが、今世の私はどうしてかような姿になったのか...。最も、知る由などないのだろうけど。

 

 いけない、二人が待っている。

 私に宿る、『個性』、何なのだろうか。踊るような感覚を胸に、私は部屋を飛び出した。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 突然だが貴公らは、私が一度死んだと言えば信じるだろうか?

 

 二次創作、同人誌、ラノベでしつこい程見てきた展開だと思うが、私もそれに巻き込まれた元女子高生だ。ちょっぴりフロムゲーに頭と瞳を焼かれたただの一般ゲーマーだけど。

 高校に上がってからバイトに明け暮れ、お年玉もフル活用して手に入れたゲーミングPC。真っ先にダウンロードしたのはフロムソフトウェアが出したオープンワールドRPG、ELDEN RING (エルデンリング)。あの美麗でダークな世界に魅了された私は即購入し、勢いのままトロコン。気が付いたらNIGHT REIGN(ナイトレイン)どころか過去のソウルシリーズも買っては遊んでを繰り返していた……。もうあのシリーズがなければ生きていけない、そう豪語出来る程に、私のゲーマー人生を良くも悪くもねじ曲げた。偉大なる社長、上位者『宮崎』を讃えよ。願わくば、ブラボの続編を何卒何卒……。おぉ……。

 時が経ち新作『ダスクブラッド』のネットワークテストが行われると聞いて、不死人兼火の無い灰兼狩人兼褪せ人兼強化人間C4-621兼夜渡りの私はこれは買うしかないとSwitch2を諸々道具を揃えて購入。黄金律に祈りを捧げながら、ネットワークテスト抽選に当たるよう祈っていた。

 結果? 勿論落選だよ畜生。これだから黄金律はクソなんだ。初めての人にも最初分かるようにちゃんと教えとこう黄金律はクソであると。

 海外勢のテストプレイ動画が流れる中、私は絶望しブラウザバック。お気に入りのアルトリウスのBGMを耳にしながら歯応えのあるゲームを求めて、『深淵歩き』ならぬ『繁華街歩き』となっていた。

 

 

 

 

 

 まさか信号無視のトラックに突っ込まれて、即死だなんて誰が予想出来ようか?

 

 

 

 

 

 タイヤのスリップ音か急ブレーキ音か知らないが、キキーッとイヤホン越しに耳を高音がつんざいて、振り向けばのっぺりとした顔っぽく見えるフロントライト。あの瞬間は今でも覚えている。あっこれ死ぬ奴だって察したもの。その後はしっかり撥ね飛ばされてポックリ。父と母や友人にこれまでの事を感謝する暇もなく、前世の私は死亡した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく会えた……ようやく会えたよ……」

 

「おはよう……暗里……!! パパだよ……! こっちはママだよ……!」

 

 ハズだった。

 

 あの不思議な夢から覚めると、また不思議な状況が。

 目の前には、熟れた桃のように紅潮し尽くした顔に大粒涙を流すを持つ女と、涙腺をフル稼働させて涙の滝を流す眼鏡の男。しかも、男が言うには隣の女は私の母で、自らを父と名乗る。当時、転生した自覚がなかった私にとっては、彼らは不審者そのもの。

 

「私は暗里という名前じゃない!(あう、あう うっあぁ)」

 

 言葉は出ない。赤子の声。どこかでメルゴーでも泣いてるのか? 乳母狩って泣き止ませなきゃ。

 

「すごい! この子すごい喋るわ!?」

 

「あぁ!! すっごい喋る!! 」

 

「え、これ私!? 赤子!?(うっあぁ!? うぅゆぅあ!)」

 

 それはそれは混乱した。二人は母と父と名乗るし、私は赤子だし、私は死んだハズだし。

 この時は本当に訳も状況も分からず、絵に描いたようにじたばた暴れた。なんて元気な子なんだ……、と父を名乗る男はドバッと涙を垂れ流した。あんたそれ以上流すと水分無くなってくぞ、なんてツッコミを入れると、ふと目に入った、人のように立つアイツがいたのだ。

 私が忌み嫌う、ヤツが……。

 

 

 

「冥間さん、おめでとうございます! 元気な女の子ですワン!」

 

「犬ぅぅぅぅぅぅ!!(おぎゃああああ!!)」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 あの犬顔(誇張表現なし)の助産師と遭遇して、フロムの犬のトラウマ*1が蘇った以降の記憶は曖昧で、病院までの移動時間、思い出話として母が教えてくれたのだが、助産師さんの顔を見たのを皮切りに泣き喚くわ暴れるわで大変だったらしい。両親と二人っきりになってようやっと疲れたのか眠って、胸を撫で下ろしたのだとか。産まれたばかりの頃はあんなにも喋ったのに、気が付いたら物静かな子になって父が心配したとか色々聞かせて貰った。

 確かに覚えてないけど、暴れちゃうのは仕方ない。だって犬だもん。犬が目の前にいるんだもん。怖いし襲われるって脊髄反射レベルで反応しちゃったもん。フロムの犬はえげつないからな。あれは犬の皮被った化け物だよ。デーモンだデーモン。

 

 けど、目が覚めた後の事はちゃんと覚えてる。とりあえず、眠りから目覚めてスッキリしたのか、私は転生して新たな両親の元に産まれる事となったのは理解出来た。名字は冥間(くらま)と言い、母は喚音(よぶね)、父は描治郎(びょうじろう)という。

 

 私は、暗里(あんり)と名付けられた。奇しくも、ダクソ3にいたNPC(アストラのアンリ)と同じ名前である。*2偶然とは、不思議な物だ。

 

 新たな生を与えられた私に残っていたのは少なくとも、死亡した高校3年時点での勉学の知識。あと遊んでいたフロムゲーとその他ゲーム知識のみ。けれども、前世の両親や親友達、私自身の名前と顔だけは、どうしても思い出せなかった。霞みに包まれて、掴めないような、そんな感じ。

 とはいえ、新たな名前を与えられた今、両親親友の名前と記憶は愚か、前の名なんて約4年生きた中で活かされた試しがない。役立ったのは勉学知識と読み書き程度で、一般常識は毛程も......といったところだった。

 両親はあの犬顔の助産師に何のツッコミを入れていなかったし、当たり前のように異形の人間や獣人が彷徨う。しかも、ただの人間に何かの特殊能力が宿っていて、母は手元にペンやコップを召喚するし、父は描いた絵を紙の中から取り出す始末。

 

 根本的に、この世界は前世と違う。

 

 私は情報収集の為に父の書斎に入っては歴史書と学術本を読み漁った。父は高校で社会史と歴史の教師をしていたから、情報には困らなかった。ただ子供の薄細ボディなんかよりも分厚い本だったし、長くて難しい単語ばかり。雰囲気でワードをピックアップしてみたら、1つの結論に行き着いた。

 

 

 

 

 ここ、僕のヒーローアカデミアの世界だ。

 

 

 

 

 内なる啓蒙*3が1増えていく感覚と同時に、絶望した。

 噂で聞いた事がある。ここじゃ特殊能力『個性』を利用した犯罪及びトラブルは呼吸のように引き起こり、日常を破壊する。そうした個性を利用したヴィラン犯罪、事故に対応する為に、同じく『個性』を利用して戦う『ヒーロー』という職業が存在しているらしい。やがて危険なヴィラン制圧と救助劇はヒーローショーよろしく見物客が屯する程、世界に浸透した。

 しかし、個性という人の範疇を超えた力が生まれた事で、身体に合わなかったり、異形として産まれ差別を受けるといった問題が発生......。姿形は現代、しかし実態は民度と犯罪頻度が世紀末レベルというおぞましい世界だと。

 原作は読んでいないどころかゲーム(ウルトラランブル)でしか作品に触れた事がない人間の私にとって、薄らと耳にした程度の世界を生きるのはハードコア過ぎる。私だけダクソ2をレベル1裸縛りでクリアしろと言っているようなものだ。鬼畜か神様。ケツに剣ぶっ刺すぞ。

 

 しかし嘆いたって何も起こらないし、嘆き人になったって意味がない。そんな世界で生を授かったんだ、まずは個性がないと始まらない。調べると、私の世代だと個性を宿している人が殆どで、何もない『無個性(持たざる者)』の存在は、年々減少傾向にあるそうだ。筒がなく生きていくには、私もあちら側に立つしかあるまい。

 ここからはかなりグレーな発言だが、原作未履修の人間がこの世界で生きるには個性は必須だと思う。ノコギリ鉈に短銃、ダガーにスズメバチの指輪と同じ原理だ。無個性だった場合、その瞬間、私の人生は暗闇そのものと言える。

 気になる単語として出てきた『個性黎明期』と呼ばれたらしい時代ならともかく、あれから推定百年も経過している今は、個性を宿した人間が殆どだ。そして現代社会は個性大前提でかつ、急ピッチの法改正で薄氷上で秩序を無理矢理成り立たせている。個性利用の犯罪に個性利用の対処が当たり前だから、ぶっちゃけ秩序も安寧も無いんだろうけど、そんな世界に無個性なんて人間は圧倒的弱者、淘汰される側だ。生き残れるか正直怪しい。無個性と揶揄され社会的に除け者扱いをされる可能性もあるだろう。

 私は無個性者を差別したり、あしらっている訳でもないんだけど、事実として抵抗手段や生活手段のアドバンテージがグッと下がるのだけはどうしても避けたい。死ぬのはごめんだね。一度味わったんだし。

 

「暗里の個性はどんな物になるのかしら。火を吐いたりしちゃったら火傷とかしそうで危険だし……」

 

「大丈夫さ喚音。火を吐く事はないよ。個性発現は両親の遺伝や、両者の個性が合わさったような物のケースが殆どだ。隔世遺伝とかのイレギュラーを除けばね」

 

 母はハンドルを回す父の話を聞いて、少し胸を撫で下ろしたようだ。高層ビル群が流れていくのを車窓越しに眺めながら、じっと私は雲一つない青空を見詰める。

 個性は人に宿る力。DNAと同様、交配等で受け継がれ、時に交じり合うらしい。配合次第では面白そうな個性が誕生しそうだが、医療教会とビルゲンワースレベルの冒涜的領域に踏み込んでいそうだ。これ以上は触れないでおこう。気になるし、やってみたいとも思うけれども、我慢しよう。

 しかし、遺伝で定まるとはいえ、正直火を吐いてみたい。ブレスは人のロマンだからね。貴公らも、そう思うだろう? どれだけ夢見たって両親の物を受け継ぐ訳なのが残念だが。勿論、両親の個性も欲しいと言えば欲しい。私は非現実的事象(ファンタジー)にワクワクとロマンを感じるタイプの人間なので。

 

「……あれ?」

 

 気まぐれに見つめた窓の外、流れる景色に写り込んだ、一人の子供。ゆっくりと、世界の速度が緩慢に落ちていく。見覚えのある、黒い鳥頭。隣に浮かぶ同じ鳥頭の黒い影。影は裂けて、それはまるで口角を上げて嗤っているようだった。

 あの顔はどこかで見覚えが、いや知っている。見た目がカッコよくて、性能も素直で扱いやすい彼……。あれ、ゲーム(ウルトラランブル)でよく使っていた常闇踏影じゃないか? しかも幼少期の姿。画面越しの彼は凛々しい佇まいだったが、推定幼少期はまさかあんなにも可愛らしかったとは。画面で見ていたあれはいわゆる成体で、今見えた姿は幼体といったところか。

 彼がここにいるという事は、私と同じく個性診断に来ていたのだろう。だとしたら、診断結果は黒影(ダークシャドウ)になるのだろうけど、あれは結局何なのか。原作を知らない人間からしたら、一種の生命体にしか見えない。

 

「どうした? 暗里」

 

「……ううん、何でもない。友達かなって思ったけど、気のせいだった」

 

「そっか。ほら、もう着いたぞ」

 

 時間の流れは存外早いもので、いつの間にか病院付属の駐車場に差し掛かっていた。揺れる頭の中では確かに、先の踏影の姿がこべりついて離れなかった。

 

「……嘴、丸っこくて可愛いかったなぁ」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「診断結果ですが、暗里ちゃんは個性を宿している可能性が高いですね」

 

 おれはやった!

 つまりこの先、歓喜があるぞ

 

 予約した時間にぴったり着いて、早速検査したところ私の身にも個性がある事に安堵した暗里だ。両親も両親でそこは不安に感じていたのか、胸を撫で下ろしたご様子。

 担当医によれば、足の小指が退化しているか否かで、個性の有無を判別しているという。最新鋭の検査機を使うのかと思いきや、足のレントゲンだけ撮られるとは予想外だったし、かなり物理的な診断方法だった。

 これで少なくとも、無個性と揶揄され社会的に除け者扱いされる可能性は消えて、普通に生活できる。しかし、診断結果は良いのだが......。

 

「冥間さん。ここ最近、暗里ちゃんに変わった事はありましたか? 例えば、突然な発熱とか......」

 

「いえ、熱とか体調に変化はなにも......。それに暗里に絵を描かせても、触れた物の名前を呼ばせても、何も起きませんでした」

 

 個性の詳細までは、分からなかった。

 母の個性は、触れた物の名前を呼ぶと掌へ座標を移させる『テレポート』。父の個性は、描いた絵が浮かび上がって父の命令に従って動く『絵画操作』。病院で検査を受ける数日前に、両親観察の元、二人の個性発動条件を一通り試してみたが、変化なし。手にコップなんて呼べないし、絵は紙の世界に縛られたままだった。

 糸目で若い担当医の表情は、穏やかそのものだ。

 

「おそらく、ご両親の個性が混ざり合って、全く別のものに変異したのでしょう。よくある話です」

 

 担当医は傍らにあったパソコンと向き合い、診察室にカタカタ心地よい打鍵音を響いた。やがてプリンターから一枚の紙が吐き出され、手渡された。ほんのりと熱を帯びた用紙には『要精密検査』『特別検査室へ』と書かれている。

 

「私の個性も利用して、より精密な検査を行いたいと思うのですが、この後お時間はありますか?」

 

 どうやら、追加検査のお誘いらしい。困る事ではないし、むしろ発動条件が分からぬまま日常生活を送るだなんてちょっと怖い。いつでも事故が起こる爆弾を抱えているようなものだ。

 

「休みだし、いいよね? とうさん、かあさん。私、ちゃんと知りたい」

 

「......こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

 両親は深々と頭を下げると、担当医は診察室の扉を開けた。緑のパイプ椅子に座った待合中の家族が一組。じっと座っている。母親と思われる女性の膝に抱えられた少女の視線と、ばちりと交わされた。

 妙に見覚えのある顔だ。耳たぶもなんだか常人よりも長い。先端はイヤホンのジャック......だろうか。三白眼の瞳には、まだ幼子特有の迷いと混乱、そして警戒があった。原作に関わる、重要人物だろうか。

 

「特別検査室へご案内します」

 

 まあ、誰でもいい。まずは自分の個性からだ。先の少女を尻目に、両親の手を繋いで担当医の後を付いていく。背中まで降ろした黒髪に、白いメッシュが走っているからよく目立つ。迷う事はないだろう。

 蛸触手の医師、花を文字通り咲かせて和やかな雰囲気を作り出す病衣の少女、松葉杖をつく獣人。すれ違う人々が個性的だが、既に目覚めてから4年も経過しているのだ。前世の私にとっての「超常」は、いつの間にか「日常」に成り代わっていて、誰かが掲げた「空想(ロマン)」と「架空(夢)」は、おそらく現実となっている事を学んだ。

 だからこそ、これからどんな個性が出てくるのか、ワクワクはする。私もその『空想(ロマン)』を叶える側に立てるのだから。

 エレベーターに入っていくと、突如担当医は階層ボタンを1~屋上まで順に押していき、開閉ボタンを同時押し。気でも狂ったか?

 

 

【特別検査コマンドを検知】

 

 

【顔認証確認中......クリア。検査対象を特別検査申請ログから確認中......クリア】

 

 Well,well,well(おやおやおや)? *4流れ出す機械音声が違う。そんなACのCOM染みた声出せるのか。よりワクワクしちゃうじゃないか、貴公。

 扉が閉まると、身体がふわりと僅かに浮遊したような錯覚に陥った。けれど、子供の身だからか、高校生の時よりも浮いている気がする。あるいは、通常よりも速くエレベーターが降りているのか。

 

「そろそろ着きますよ」

 

 担当医の言葉を皮切りに、私の視界がホワイトアウトする。思わず目を瞑ってしまう程の、眩い白光。

 ゆっくりと瞼を開けば、情報処理中のぶつぶつと不明瞭な視界。徐々に情報を確立していった先にあったのは、無機質な灰色のコンクリート壁。それがずっと、ずっと、縦横のずっと先まで。目測で縦横推定500メートル、高さ地上10階建てのビル程の、ジャンプしても届きやしない天井から、燦燦と光を照射している。

 バチリと脳を過るのは、AC6の訓練場。小1時間もパーツと武器を弄り倒して、ある種の実家、古巣とも呼んでいた、懐かしい場所。きっとない筈なのに、火薬とプラズマの香りが、鼻孔を擽っていく。

 

「ようこそ、特別検査室へ」

 

 先生、これは検査室じゃない。訓練場だよ。貴公、私を強化人間にするつもりか?

 担当医は振り返り、屈んで目線を私の小さな身長に合わせると、静かに語る。私の手を優しく包む手は良く手入れされた、滑らかな触り心地だ。

 

「暗里ちゃん、今から君の個性を知る為に、先生を手伝ってくれる?」

 

 至極、優し気に。子供に対して妙なプレッシャーを感じさせないように心掛けたその言葉は、彼女の医師としての責任や経験則から出たものなんだろう。どうしよう当人曰く検査室らしいけど、規模と名前が釣り合っていない。インパクトが凄まじい。両親はあんぐりと口を開きっぱだ。

 

「......うん、良いよ。改造手術さえしなければ」

 

「どこで覚えて来たのかなそんな物騒な単語!?」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 壁に埋め込まれた硝子窓の向こう側には、何人か人を詰め込める程の小部屋が埋め込まれていて、両親と担当医が硝子越しに私を見詰めている。内部に立てつけられた複雑怪奇な機構の電灯が緑や白に点滅して、担当医はそれを尻目にスクリーンと睨めっこしているようだ。おそらく、囲うように飛び回る無音ドローンのカメラ映像を見ているのだろう。気分は経過観察されているモルモットだ。

 

「ドローンカメラ再配備完了。......暗里ちゃんほら笑って~。大丈夫怖くないよ、安心して。その機械は君を傷つけたりしないから。もう少し頑張ろう」

 

「......うん、大丈夫。いける」

 

 ドローン自体にビビる程、私は柔じゃない。ひとまずカメラ越しにサムズアップは送っておこう。

 

「うん......それじゃあ暗里ちゃん。検査段階、フェーズ2を始めよう」

 

 フェーズ2言うな。鼻歌まじりで別室に入ったと思ったら、新しい玩具を見つけた子供のようにプリプリ表情を輝かせてるのを、私は見逃さなかったぞ。さては貴公、なんだかんだ楽しんでいるな?

 ドローンから電子音が一斉に鳴り始める。私の顔を、腕を、腹を、頭を、ぐるぐる回りながら全身隅々まで撮影し始めた。

 特別検査自体、かなり行われる事が少ないらしく、今月は私が初めて。私のように具体的な個性が判明しなかった子の為のもの。中には爆発だったり巨大化したりと、少なくとも一般病棟に被害を与えかねない個性も存在する為、地下のこの空間にお連れして安全の元、検査するという。頑丈さだけはタルタロスとかいう凶悪ヴィランを閉じ込める刑務所並みらしい。子供レベルの個性なら問題ないんだろうけど、その発言はフラグにしか聞こえん。刑務所だろうが牢獄だろうが、ぶち破る為に存在するのだから。

 

 さて、現在進行形で私が行っている検査は、担当医の個性『因子観察』を利用し、合計10機のドローンで360°視点から観察、発動条件を考察し、特定するというもの。

 

 個性を宿す人間には、『個性因子』なる遺伝子があるらしい。初見聞いた時はブラボの精霊*5みたいなものかと身構えたが、ただの変異、あるいは進化した遺伝子らしい。ただ一説によると、個性そのものが宇宙からやってきた可能性もあるのだとか。やはりブラボではないか。どこかで交信をせねば。

 話を戻そう。勿論、因子なんてものは通常肉眼では見えないが、この世界では案外『イレギュラー』はあるもので、それが担当医その人である。

 彼女の個性『因子観察』は、強く目を見開いている間、個性因子がどの部位で、どのタイミング活性化したかを視認出来るという、まさにこの検査の為にあるような個性だった。これとドローンを利用して、両親の個性発動条件をなぞりつつ、どのタイミングで個性因子が活性化したのかを記録。記録に基づき、私はどんな個性なのか、発動条件から遡って特定する。

 既にフェーズ1......母の個性である『テレポート』の発動条件に則り、無機物に触れた後、対象の名前を口に出して呼ぶ検証は行った。当然、ボールペンに触れた後、名前を呼んだが手元に来る事はなかった。数日前の簡易検証と同じ結果。

 しかし、名前を呼ぶ(・・・・・)その瞬間に、喉を中心に個性因子が活性化したのを確認したらしい。つまり私の個性は、母の発動条件から一部抜き出して、『何かを呼び出す個性』に変異したのは間違いない。

 

 このフェーズ2では、父の個性の発動条件を検証する。個性『絵画操作』の条件は至ってシンプル。『脳内で、描いた絵が動いている様子を強くイメージ』し、自分の手で紙に絵を描いた後、摘まんで現実世界に呼び出し、出てきた絵に優しくお願いすると、言う事を聞くという。

 ......貴公らが言いたい事は十分理解できる。抽象的過ぎるだろう? 我が父の個性は。どう動いている様子をイメージすれば良いのか、当の本人も中々に感覚派の人間なもので、担当医も私も母も、擬音と感覚混じりの説明をされた時は頭を抱えた。しかし、個性は当人が一番理解しているものなのだから、それに従う他ない。少しでも担当医の個性に引っかかればいいのだから、多少のガバは許容範囲内だろう。多分。おそらくきっと。

 固い灰コンクリート床に一枚のA4紙を広げて、簡単に絵を描いていく。絵心なんてものは前世の母の子宮に置いてきた為、描いているのはただの棒人間だ。柄と鍔に刀身だけのデフォルメされた西洋剣を掲げた、騎士っぽいイメージ。あとはこの騎士様が動いている様子......そうだな、冒険の途中の様を強くイメージする。

 

 最初は目覚めたところからだな。石棺から灰まみれの身体を起こして、装備を確認し、崖に囲まれた墓所を歩いて、薄汚い亡者を剣ドクンで斬り殺し......。

 

「暗里ちゃんの個性因子が活性化した.......」

 

「本当ですか? 先生!」

 

 先人の亡骸から灰エストを回収し、とにかく亡者を殺してソウルを奪って、『引き返せ』のメッセージを読んで嬉々として小道に入り、高速回転する大食らいの結晶トカゲ*6に襲撃されて、隙を見せたら剣ドクンで突き刺して......。

 

「胸部と頭部......待って、目測で90%、95%、どんどん活性度合いが強くなってる......!」

 

 楔のウロコを回収し、篝火に火を灯(BONFIRE LIT)して、道中立ち塞がる亡者のケツを剣ドクンでぶっ刺して......。

 

「子供の身でこんな出力が......暗里ちゃん! 一旦止めて!」

 

 門の先の広場に跪く遺体から螺旋剣を引き抜いて、動き出した灰の審問官をパリィで嵌めて、剣ドクンで致命の一撃をぶち込んで、第2形態と化した灰の審問官を黒火炎壺で焼殺して......。

 

 いや待て、これはダクソ3で周回プレイしている時の私じゃあないか。騎士のイメージが大分ダーク過ぎるぞ。しかし、今さらイメージを変えにくいし、そもそも絵が動く気配はない。

 騎士が振るっている剣ドクンもあれに見えてきた。数多の不死者と火の無い灰達、褪せ人の手に渡った直剣。読んで字の如し、特別な加護なんて無い、鉄を叩いて斬る為に生み出された得物。

 私がこよなく愛した、声無き戦友(とも)。名付けよう。

 

「この剣の名は......ロングソードだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン!

 

 

「あ゛っ」

 

 

 瞬間、心臓が突き動かされるように鼓動した。

 

 呼吸を一瞬、忘れてしまう程の衝撃。唾液と肺中の二酸化炭素を同時に吐き出した汚い声が出た。

 

 前世を含めた人生の中で、初めて感じたそれは、身体全体に反響した。

 

 胸に渦巻いて、どろりと平がり円に形作られていく、光を飲み込むどす黒い輪。

 

 ずるり、ずるり。ぐちゃり、ぐじゅり。円の奥底から生々しい水音と共に、そこから『来る』。

 

 胸の内側を掻き分け、何かが這いずり出て来る。思わずえずきそうになるが、同時に懐古の情が湧き出る。

 

 出てきたその身は、眩しい天井の明かりに照らされ、眩く光を放った。

 

 私は知っている、これを、よく知っている。

 

 剣の、柄だ。光を乱射して白金に輝く、柄だ。

 

 胸から伝わる、重み。鼻孔を擽る鉄臭さ。あぁ、懐かしいと感じてしまった。

 

 抜き身の刀身が露になって、より煌めいていく。

 

「がっ!? あ゛あ゛ああ!」

 

 ずるんと胸中から吐き出され、コンクリートから産まれ堕ちた『剣』。胸に浮かぶ黒輪も、同時に渦巻いて胸に集い、縮小、消滅した。穴が開いたと錯覚する程の痛み。青白い検査衣をぐしゃりと握って、震える手から痛みを少しでも逃がそうと身体が本能的に動き出す。

 

「かはっ゛! ゲホッゲホッ!」

 

 僅かに逆流した胃酸が喉を焼いて、無理矢理嚥下し、器官を刺激されて唾液混じりの咳が出た。元凶と思われるその剣は、相変わらず照明の光を受けて、憎たらしく光を反射する。

 

 あぁ、でもその姿は、幾年経とうとも変わる事がないのだね。我が戦友(友)よ。

 真っ直ぐ伸びたその刀身は、着飾る事を知らない。ただ、創造主の願い、用途のままを愚直に、素直に従うまでらしい。

 胸の痛みが引いてきた。喉はまだチリチリと神経が騒がしいが、動ける。剣の傍らに駆け、そのグリップを握り締める。革で巻かれたそれは大分使いこなされ、ブラウン色だっただろうそれは、色褪せ灰に近い色に落ちている。齢4歳の私には、握るのに精一杯で持ち上げる事は愚か、コンクリートに寝転んだそれを引きずる事すら叶わない。

 

 けれど、けれど、握ったその感覚が、とても懐かしいと感じてしまったんだよ。

 

「ロングソード......まさか、君の姿を再び、確とこの瞳で見れるだなんて夢みたいだ」

 

 エルデンリング攻略から始まり、ダクソシリーズまで、ずっと愛用してきた直剣。常に死と隣り合わせの死にゲーで、どのビルドでも活躍の姿を見せてくれた。気まぐれで他の武器を持ったとしても、いつの間にかこれに帰って来ている。いつからか、私は傍らで煌めくこれに愛着に近しいモノを感じるようになっていた。

 だからこそ、きっとソウルシリーズが無いこの世界で会えた事が、酷く嬉しかった。

 感慨に耽ると、バタバタと騒がしい駆け足が複数、音を徐々に大きくしながらやってくる。駆け寄ってきた両親と担当医の顔は焦燥に染まっている。

 

「暗里、大丈夫!? 怪我は無い!?」

 

「暗里ぃぃぃ!! 怪我は無いか!? もう大丈夫、パパが来た......って、これは......剣!? 」

 

 母は私を強く抱き寄せ、父はまた眼鏡がずぶ濡れになる程涙を流して、娘が握っている物に驚愕の声を上げる。少女が握るには不釣り合いで、あまりにも危険なそれを、彼は慌てて柄を握る。

 

「暗里! それから手を離せるかい!?」

 

 鬼気迫る表情に思わずロングソードから手を離した。解放された手には、染み出した手汗の粒がラメのように艶めき、空気に触れて籠った熱が冷やされていく。

 父はロングソードを乱雑に放り投げた。剣は空中で剣筋に沿って回転し、弧を描く。一時、周囲に無造作に傷つけるそれは、最終的に5メートル程離れた点に刀身から......

 

 

──KSHHNK!!

 

 

 灰コンクリートの地面に、深々と突き刺さった。その音が嫌に耳に響く。

 

 

 父と母の顔は、青ざめていた。あの刃に、コンクリートさえも容易く切り裂くであろうそれに、誰が触れようとも、怪我では済まなかった。

 

 

 担当医は、その糸目を見開いた。エメラルドグリーンの、眩しい蛇目に近く、黒い縦一本線の瞳孔を持っていた。重く、殺す為に作られたであろうそれが、私の胸から吐き出された。ただ、それを一点に見つめている。

 

 

 

 あの煌めきは、しかし確実に人を殺せる輝きだった。

 

 

 

「剣自体に個性因子は確認出来ない。あれ自体はただの物体で、それをこの子が生み出した......。うーむ。両親の遺伝だとしても剣は想定の範囲外。絵を描いている最中は個性因子は静かだったし、描き終えたら段々と活性化して唐突に出現した。剣と暗里ちゃん、ましてや両親に関連性は皆無に等しいし......ぶつぶつ」

 

 おっと貴公、熟考すると口に出るタイプだったか。目をかっ開いて念仏のように唱える姿はどこか恐ろしい。

 

「......暗里ちゃん。どうやってこの剣を出したのかな? 先生に教えてくれる?」

 

「うーん......」

 

 しかし、どう、と言われても。私にとっても突然胸に黒い泥濘が現れたと思ったらロングソードが出てきた訳だから筆舌に尽くし難い。何より、父の個性発動条件の曖昧なところを、脳内ダクソ3周回で補完していた訳で、使っている武器が我が戦友(友)に見えてきて、名前を付けただけで......。

 

「......ん? 名前......そうか名前か......! クックック......」

 

「暗里ちゃん、何か心当たりが?」

 

「暗里......何だいその怖い笑い声......」

 

 啓蒙99の脳(瞳)が囁いた。宇宙(空)より天啓を賜ったぞ! 両親の個性は確と受け継がれていた。混ざり、昇華したんだ! 特別検査前に担当医が考察していた通りだったとは!

 絵で描いた雑な剣が、ロングソードと面影が重なり、そして名を呼んだ瞬間に、黒い泥濘を率いてあれは産まれてきた。

 

「絵を描くんじゃなかった! 見た目をイメージ(・・・・・・・)して、その武器の名前を呼ぶ(・・・・・)......! そうする事で、私の胸から産み出せるんだよ! きっとそうだよ!」

 

 あぁ、思わず閃いた持論を熱く語ってしまった。けれど私にとって、それはあまりにも衝撃的で、誰かに共有したくて堪らなかったのだ。

 父の『脳内で強くイメージする』条件と、母の『名前を呼ぶ条件』。それがきっと、私の個性の正体だったのだ。

 どことなく、呆気に取られた声が両親から聞こえた気がするが。そんな事より話したい。

 

「......うん。もう少し話してみて」

 

 担当医は耳を傾けた始めた。蛇の瞳と、暗い瞳。二つが交差する。

 

「さっきは、騎士様の絵を描いていた。ほら! けど、私は絵心が無いから、棒しか描けなかったけど、沢山の敵を倒すカッコいい騎士様なんだよ!」

 

「うんうん」

 

「けれど、私のイメージしたのは、本で見た奴。細くて、重くて、血まみれになっても、欠けたとしても敵をひたすらに倒し続けるカッコいいロングソード」

 

「う、うん。......結構物騒な想像するね、この子」

 

 おい聞こえているぞ貴公。内臓攻撃*7よりかはマシだろう?

 

「だから頭の中でロングソードの形をイメージして、名前を呼んだら本当に来てくれたんだ!」

 

「......なるほど」

 

 担当医は、ゆっくり瞼を閉じて、早口気味にまくし立てるように語った私の言葉を噛み砕いているようだった。同時に、私も瞳を閉じて考えてみる。

 もしも、私の個性がイメージした物を呼び出せるもので、ただロングソード単体を呼び出すものでは無かったら......もしかしたら。

 

「......もしかしたら暗里ちゃん。他の物、武器も出せたりするかな?」

 

「......奇遇だね先生。私も同じ事を考えていたの。クックック......」

 

 彼女の糸目の先が、鋭く煌めいたような気がした。私も高鳴る衝動と疑問を解消したくて堪らないっ。

 

「ご両親、この後まだお時間はありますか? よろしければ、『追加』検査を行いたいのですが......」

 

「とうさん、かあさん。私、どこまで出来るかやってみたい!!」

 

 もしかしたら、こっちでも黄金の残光*8で残光ブンブン出来たり、エルデン筋バサビルドの最終武器オルドビスの大剣*9を出せたり、我等が火薬庫の象徴パイルハンマー*10も出せるかもしれない!! 試してみたい試してみたい!!

 

「暗里がここまで積極的になるなんて......パパ感涙だぁ......」

 

「あ、暗里? 貴女が良いなら構わないけど、なるべく危なくない物でね? 何だか、嫌な予感がするけども......」

 

 心配しなくても大丈夫さね。出す時は細心の注意を払うから......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあああああああ!? あああああ暗里ぃ! 何その赤くうねうねしたのが引っ付いている武器ぃ!!? 気持ち悪いぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

「これ.......聖剣だよ? カッコいいでしょ?」

 

「暗里ちゃん。この見た目で聖剣は無理があるし、だいぶ冒涜的だね」

 

 

 

 

 

「ママ、見てくれよこの剣! 弓にも剣にも変形するよ! 凄いよ、ロマンあるよ!!」

 

「貴方!! そんな物騒な物振り回さないで!!?」

 

「カッコいいでしょ? 先生」

 

「凄くカッコいいね。変形は男と女のロマン」

 

「......先生も、こっち側なんだね!」

 

 

 

 

 

「......この鈴、良い音色だね。心が洗われていく様だ」

 

「それね、祈れば雷も出せるよ」

 

「どういう原理だいそれ???」

 

「でも何も起きないって事は、信仰心が足りないのかな?」

 

「だからどういう原理?????」

 

 

 

 

 

 

 

「......ひとまず暗里ちゃんの個性は『武器召喚』、としましょう」

 

「え、えぇ。検査ありがとうございました、先生。はぁ何だか頭が痛くなってきました......」

 

「暗里はすごい個性になったなぁ......流石、パパとママの自慢の娘だ!」

 

「ふふん」

 

 私の記憶する限りの武器を出しに出しまくって、追加検査も無事に終わった。担当医は満足気味に肌が潤っているように見えるし、父は子供に戻ったかのようにはしゃぎ、母は何処か数歳程老け込んでいるようだ。実に2時間に渡ったがやりきったし、何より父にこうもおだてられると思わず鼻を鳴らしてしまう。......何かね貴公。無事だといったら無事なのだ。誰も怪我していない。特別検査室の一角がいくつか悲鳴と困惑にまみれたけれどね。

 さて、検査の結果から私の個性は『武器召喚』となった。読んで字の如く、イメージした武器の名前を呼ぶ事で、胸から生じる『暗い輪』から召喚する。

 

 ダクソからエルデンリングナイトレインまでのほぼ全ての武器を。

 

 魔法触媒からは魔術どころか、奇跡、祈祷、呪術まで。

 

 理論上、記憶している全てを、振るう事が出来る。

 

 転生系統のお話には、他の人間とは違う特典が付きものと聞く。まさか私が愛して止まない、価値観もゲーマー人生を良くも悪くも捻曲げたゲームの武器達をこの手で掴めるようになるのがそれだったとは。素敵だ......。

 しかし、4歳の筋力と技量、信仰、知力、理力、血質、神秘......要は武器を使用可能にする、または強く使う為のステータスが不足していたのか、持つ事すら叶わなかった。最軽量枠のダガーでさえも筋力技量ステ不足で駄目だった。果物ナイフみたいなものだろとか思ったら、想像以上にずっしりしてた。魔術や奇跡といった、魔法カテゴリの攻撃手段も、杖を振ろうがタリスマンに祈ってもうんともすんとも言わない。

 だが、私としては嬉しい事この上ない。愛したゲームの武器を、この手に握る。言語化する事さえ無粋と思える程に、胸中が満ち足りた感覚に溺れていく。何より、ロングソードはあらゆる作品でお世話になったから、一度で良いから手にしてみたかったのだ。この夢が、一度死んでから叶うとは思っていなかったけど。

 

「刃物や鈍器といった凶器を出せてしまうので、個性の扱い方は気を付けないといけません。特に刀剣類は個性で生成したとしても、銃刀法を犯していると国から指摘される可能性も高いです」

 

「......ロングソード取られちゃうの?」

 

「かもしれないよって話。ちゃんと大人のみんなに『私はこんな個性だよ』『ちゃんと許可取ってるよ』って伝えないと、怒られちゃうかも」

 

 しかし、ロマンというのはどうしても法律で雁字搦めにされるもので、前世で度々ニュースに出ていた法律に引っ掛かる恐れがあると。何とまあ面倒な世界だ。人間らしいと言えば、そうだが。

 私に宿った個性。産み出されたそれらは、扱いようによっては、人を簡単に殺せてしまう。というより、本来の仕事を、産まれた意味を全うしているだけ。そんな事はいくらヒーロー社会が血生臭くとも、許してはくれないだろう。私は別に、人殺しに望んでなるつもりはさらさら無い。

 あとは法律関連。許可証がいるものの、そもそも刀剣を扱うのに特別な資格は必要ないと記憶している。だが、個性社会の事だ。ちょいちょい私の知る法も変わっているだろう。

 ひとまず許可証に近しい物を取得した上で、身体を鍛えたり、勉学に勤しもう。折角授かった個性なのだ。使わなければ損だろう。それに、この世界では当たり前のように争いが起こり、巻き込まれる可能性もあるのだから、自らの刃を研いでおくのに損は無い。必要ステータスの内に信仰、神秘とか言う現実でどう育成すれば良いのか分からない奴があるが、何とかなると願っておこう。高校生の脳だから中学まで遊んで暮らせる、なんて能天気になっていた自分が何処かにあった気がするが、そこまでの暇潰しと思えば苦は感じにくい。

 

 

 だが、その前に一仕事しよう。

 

 

「先生、ちょっと待って......」

 

 『個性届』と銘打たれた紙上にボールペンを走らせていた担当医は、丁度私の個性名欄にペンを伸ばしていた。

 

「暗里?」

 

「どうかしたのかな?」

 

「......個性の名前、変えたいの」

 

「名前を?」

 

 首を傾げる3人。担当医も同じ様子だと、この要望はあまり聞かないのかもしれない。だが、『私』にとっては、それは重要なのだ。

 個性の名が『武器召喚』。名は体を表す、シンプルで良き名だ。だが、これには単純な名前なんて似合わない。

 何より、私の個性で産まれてきた武器達は、あらゆる歴史を持っている。その何れも、結末はおおよそ暗く、救いがない。だが確かに、それを握る人がいて『生きていた』のだ。

 

 ある戦士は、太陽を求めて不死に堕ちた。祝福無き直剣を持ち、ただ鍛え上げた技で、過酷な地を歩んだ。やがて偽りの太陽に祝福されて正気を失った。

 

 またある騎士は、自らを蝕む呪いを解く為に、神々の去った地を訪れた。いつしかそれは心も記憶も風化させ、肌身離さず持っていた剣を名と共に託し、行方を眩ました。

 

 私の産み出す武器は、彼らの生き様を語る無言の伝達者。所詮、物の域は出ないが、そこに込められた意味と願い、そして歴史は、ただの武器に収めるには、器が小さ過ぎる。ロングソードと会った時感じた懐かしさ、あらゆる武器達を産んだ時に走馬灯の如く駆け回った、周回プレイの思い出、そこで出会す一癖二癖ある人達。中には、そうした人達から受け継いだ物もいくつかある。

 私はただ、武器を使うのではない。彼らの歴史と意志を継ぎ、ちょっと借りるだけ。大分ポエム染みているが、ただの武器として振るうのは、きっと元の持ち主達に失礼だろう。

 だから、もっと相応しい名前を付ける。

 

「勿論良いよ。どんな名前にする?」

 

「元の名前は嫌だったの? 分かりやすくて良かったのに」

 

 結末が、世界の運命が暗い(・・)闇に包まれても、魂(・)を宿して生きていた人間達へ。

 

 私の胸に出ずる、限りなく、原初(初代DARK SOULS )に近いその暗い輪(ダークリング)から、その意志と生き様を継いでいこう。

 

 

 それはきっと、こう呼ぶのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗い魂(ダークソウル)......。私の個性の名前は、暗い魂(ダークソウル)にする!」

 

 

 

 

 

((まさかの中二病(そっち)方面のネーミングセンス!?))

 

 

 

 

 

「ダークソウル......か。良き名前だね。ちなみに、これはルビかな? それともカタカナのまま?」

 

((しかも先生ノリノリだ......))

 

「ルビだよ! 書き方は、暗い魂と書いてダークソウルと読むんだ! フッフッフ......」

 

 手渡された個性届。その個性欄には、『暗い魂(ダークソウル)』と端正な文字が横一筋に整列していた。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 個性検査から、一週間経過した。

 

 個性を酷使した反動なのか1日程胸焼けに苦しみ、2日目復帰早々に個性届を役所に出し、ついでに個性で産み出した武器達全てを法律とかに引っ掛からないよう正式な書類に記し続けた。全書類を教育委員会に提出したのが3日目の夕方。初代ダクソからエルデンリングナイトレインまでのほぼ全ての武器なのだから、それはそれは量が凄まじかった。数えるのさえ億劫になる枚数の書類が積み重なっていき、両親の瞳が色褪せ、リビングの約8割が積まれた書類で埋もれてしまった。はっきり言って、地獄である。

 そして休み明けには、保育園に通わなければならない。そこで出迎えたのは......。

 

 

「見てろよ? オレ、火ぃ吹くんだぜぇ!? ファイアーッッ!!」

 

FWHOOOSH!

 

 

「ワタシは指から空気の弾丸を撃つの!! バァン!」

 

WHOOOSH!

 

 

「ボ、ボクのは......腕がロボットっぽく変形するだけだから......」

 

KA-CHUNK!

 

 

 この騒々しさである。視覚的にも聴覚的にも喧しいったらありゃしない。炎が揺らめくわ空気弾で幼女のスカートが捲れるわで先生達は大慌て。連休中に個性診断を行った家族が多かったようで、今日という日を向かえるまでの数日間、ずっと園内は中も外も個性を自慢する子供達で溢れかえっていた。今日は雲一つ無い快晴なのもあってか、より騒がしい。子供は遊び、はしゃいで疲れるのが仕事とは言えど限度がある。個性社会とは、いやはや恐ろしいものだ。

 

「大変だね、園長先生」

 

「確かに大変だけど、それでもあの子達を見てると、元気になるものさ」

 

 保育園に備え付けられた園庭。ちょっとした市民公園レベルの広さを誇るそこから、絶え間なく耳を劈く子供の笑い声。あらゆる個性を持つ園児を迎え入れる為にバリアフリーと破壊耐性を備えているそこを、私と園長先生は、二階のテラス席から見つめていた。

 

「暗里ちゃんは行かなくて良いのかい? みんな遊んでいるのに」

 

「しばらくは良いかな」

 

 園長先生の提案を、園庭ではしゃいで回る少年少女を見詰めながら断る。

 遊ぶのは確かに楽しいのだが、電子ゲームといった娯楽が存在しないし、何より子供達がやる遊びは大昔に飽きる程やったし。端的に言えば、見た目はロリ中身は高校生の私には刺激が足りないのである。

 

「それに、私の『あれ』は危ないから。個性事故が起きちゃったら大変でしょ?」

 

「......難しい言葉を知ってるな」

 

「とうさんから教えて貰ったの」

 

 私の個性はロマンであると同時に、命を刈り取り、奪い去り、喰らい尽くす両刃の剣だ。仮に扱わなければいけない時がやってきた時に備えて、刀剣類に関するこの世界の扱い、及び効率的に身体を鍛える術を学ばなければならない。このテラスは、日差しが丁度良く当たって心地が良く、ある程度の子供達のはしゃぎ声も、BGMとして聞き流せた。今日は酷いが。

 しかし、ずっと参考書と睨み合っているのは疲れてくるものだから、定期的に本を閉じては園庭を見て休息を取っている。園長先生とは、偶然彼の休憩スペースであるここで一人勉強をしている最中に一緒に座る頻度が増え、定期的に会話を交わし、長年生きた中で培った深い知見を頂く仲だった。

 

「それにしても元気一杯。『園内はなるべく個性を使うな』って言われてるのに」

 

「仕方ない。あの子達にとって、個性はクリスマスプレゼントみたいな物だ。開けるまで分からない特別感と、開けたら非日常的な体験を味わえる。そして、皆に見せたがる。新しい玩具のような感覚なのだろうな」

 

 白筆の毛先のように長い顎髭を、枯れ枝と評されてもおかしくない手で優しい手付きで整える。彼の瞳は、空を焦がす炎を吹き出す子供と、それを慌てて制止する木人形の保育士を映し、やがてふっと微笑まし気に息を鳴らして、ビルが建ち並ぶ地平線を遠く見つめた。上位者でも、見えているのだろうか。ただ景色をぼうっと眺めているとは思えない。何かを噛み締め、懐かしむ、そんな雰囲気。

 移ろう視線はやがて私と交わり、意を決したように口を開いた。

 

「......少し、君を心配してたんだ。個性が判明してから、ずっと1人で難しそうな本を読んでばかりとお父さんとお母さんから伺ってね。友達と喧嘩したのかとか、色々とね」

 

 違うよ、と笑いながら否定する。

 私の個性は凶器そのものだ。もし武器達に子供が好奇心のままに触れたら、出血火傷凍傷毒朱い腐敗睡眠永眠死発狂の状態異常を発症するだろう。慎重に扱わなければならない。今の中途半端なステータスでは、出したものを消すのも後処理も手が掛かる。ほぼ私しか対応方法を知らない上に、今の私じゃ出来ない。苔玉とか無いし。

 無辜を傷つけないように。しかし害意に備えられる様に。

 

「気兼ね無く友と語らい、笑い合う。その術を学ぶ為に離れたの」

 

 園長先生の瞳が、見開いた。瞳孔が静かに揺らめき、黒縁に光が差し込んでいる。

 

「時折思うが、君から歳不相応の言葉遣いが出てくる。4歳の子供とは思えないね」

 

「......園長先生、勘が鋭いじゃあないか。なんてね」

 

「相当勉強を積み重ねているんだろうね。そんな冗談が言える位には。ははは......」

 

 冗談では、無いんだがね。

 

「要らぬ心配だったのかもね。ただお節介かもしれないが、何も無理に孤独の道を進む必要は無いのさ」

 

「園長先生も4歳の子供に話す内容としては、そこそこ難しい単語を並べるね」

 

「......不思議なものでね。君といると、『園長』として、また『ワシ』として話せる。肩肘張らずに素の己が出せるのさ」

 

 いや本当に勘が鋭いな貴公。長年の経験から来るものだろうか。

 

「先の続きだけど、たまの息抜きは大切。自分の個性と向き合うのは大切な事。だが人間関係も同様に大切だ。ずっと1人というのは、想像以上に辛い。定期的にワシと話すも良いし」

 

 ──同じ読書仲間を作るのも良いだろう。

 

 その言葉から一拍置いて、テラス入り口の扉が開いた。園長先生と共に、視線がそちらへ向かう。扉を開けた先に見えたのは、パイプ椅子と、その上に立つ黒い影。いや、シルエット。

 人か、獣か。どちらかも分からぬそれに胸がざわめき出すも、日の下に出てきたそれを見て、次第に落ち着いていく。人だった。日を浴びた事でよりはっきりと黒の輪郭がはっきりとした鳥(獣)の頭を持つ、子供。まるで隠れるように本を胸に抱えて、入り口の日陰に座り込む。

 

 あの姿を、忘れはしない。画面越しで世話になった常闇踏影の幼少期じゃないか。個性検査以来だ。この保育園に通っていたのか。

 

「あぁ......あの子は。暗里ちゃんとは違う組の子でね」

 

 だが、何故だろう。あんなにも、陰のある顔をしているのは。

 

 

「......個性が怖い、顔が変と、同じ組の子に言われてしまってね。あれ以来、ずっと1人ここで絵本を読んでいるんだ」

 

 

「え?」

 

 

 その答えに近しいモノは、園長先生が教えてくれた。個性は、ゲーム内の断片的情報から何となく分かる。カラスをそのまま影に落としこんだシルエットを持つ、黒影(ダークシャドウ)。恐らくあれは明確な意思を持っている。それが一部の子供には、酷く恐ろしい、お化けか獣かに見えたのだろう。

 だとしたら、彼らは啓蒙が低過ぎる。影を操り、影と言の葉を交わす。夜色の鳥(カラス)のような容姿に、凛と尖ったあの嘴。これ程、中二病チックでロマンある人物はきっと他に無いだろう。

 私は彼を気に入っていてな。多少フィルターが掛かっているだろうが、それでも彼らの告げた無常な言の刃は理解に苦しむし、今の姿もとても可愛らしい。あれが成長して『あれ』になるのか。

 

「ワシもどうにかしようとしたが、火に焼(く)べられた薪の様だ。余計酷くなってね。慰めようと傍によっても、常闇君は逃げてしまう。情けない事にね。はぁ......園長失格だ」

 

「それは間違ってるよ園長先生。心無い事を言った子供達が悪いんだよ。けれど、悪意無き言葉程、人を傷つけやすくて、その子達はまだ扱いを覚えていないだけなのが、厄介なんだけど」

 

「......慰めてくれて、ありがとう。本当に4歳なのかな暗里ちゃん。妙に達観してるけど。園長今すっごいビックリしちゃってるんだけど」

 

 そりゃあ中身は高校生だからな。だが、真に重要なのは、きっと傷つき、陰を落としている常闇踏影を少しでも励まさなければならない事。流石の私も、目の前で泣きそうになっている子供を横目に参考書を広げる程、人間性を篝火に焼べていない。

 手に持った参考書をベンチに置いて、日陰に向かって歩いていく。一歩、一歩進む度に、当然だが彼の顔もはっきり見えてくる。瞳は、今にも押し殺していたであろうそれが、決壊寸前で瞳孔が揺れ動いていた。一体どれだけ、この小さな背に心無い事を言われ、後ろ指を指されたのだろうか。悔しかっただろう、悲しかっただろう。私には推し量る事しか出来ない。

 だが、確信を持って言えるのは、今涙を流す前に元気を出してあげられるのは、私だけだ。

 

 足音に感づいた踏影が、絵本を閉じて私を見詰める。疑問、恐怖、警戒。目は口程に物を言うとはよく言ったものだ。

 

「......何読んでるの?」

 

「......」

 

 回答は、沈黙。第一印象が大事とよく言われるから、とりあえず、優し気に尋ねてみよう。いきなり遊ぼうはハードルが高そうだ。しかし、第二の回答者がこの場にいた。

 

「『ともだちになろう』ダゼ!」

 

「うおっ」

 

 彼の腹からスルリと這い出てきた、小さな影。これが黒影か。まだ本体が幼少故か、小さい。腕も枝と見紛う位には細い。これを『怖い』と言った者は正直に手を上げなさい。今なら暗里お姉ちゃんがバックスタブ3回で許してやろう。

 

「......ッ!? でてきちゃだめ!!」

 

「ギャッ」

 

 踏影は黒影を抱き潰して隠し、そのまま私から背を向けた。震えるその背中から、ぼそり、ぽつりと、湿った声を絞り出てきた。

 

「こわがらせちゃうから、でてこないで」

 

「......」

 

 頭を殴られたような衝撃。心の奥底から沸き上がる暴熱。何故、齢4歳弱の子供をここまで追い詰めたのだ。自分を押し殺す術を身に付けさせたのか。

 これ程、顔知らぬ者共に怒りを覚えたのは、角人以来だろうか。思わず、手に力が入る。容姿が貴公らの知る人とかけ少しでもかけ離れていれば、それはもう人に非ずと申すか。醜く、恐ろしい獣、人外と排斥するか!

 名も知らぬ子供達よ。貴公らは人としての境界線を踏み越えた。悪意無き悪意が、1人の少年が知るには早過ぎる傷を負わせ、涙を流している! 自らが発した言葉に責任を持てぬとは愚かにも程がある!

 

「......大丈夫。私、怖くないよ」

 

「......ぇ」

 

 だが、落ち着け私。今は怒りに震える時ではない。壊れかけのこの子を、『救ける』。それが、私の為すべき事。

 回り込んで、頭を撫で上げる。髪の集合体らしく、ふわふわと柔らかな触り心地だった。一生触っていたい。ふんわり綿みたいな感じだ。

 踏影は俯いた顔をようやっと上げてくれた。緋色の瞳だ。涙でぐずぐずのそれは輪郭を保てず、触れたら崩れてしまいそう。そっと涙を拭くと、黒影も顔を出した。

 

「私、ふみ......きみの事も、その影も怖くない」

 

「......ほんとう?」

 

「うん。むしろ、カッコいいじゃん!」

 

 お世辞でもない、心の底から思う本心だ。影属性のキャラは大体カッコいい。古事記にもそう書かれている。書かれていないのなら、無理矢理書き足す。

 

「カッコイイッテサ! 踏影!!」

 

「......」

 

 段々と、光を取り戻していく緋色。うん、やはり貴公には涙は似合わん。笑顔が一番だ。

 

「きみ、名前は?」

 

「とこやみ......ふみかげ」

 

「ステキな名前だね!」

 

 

「常闇くん。私、冥間 暗里(くらま あんり)って言うの。きみの事とか個性の事とか、もっと知って『ともだち』になりたい!」

 

 

 ざあっと、気まぐれに強い風が吹いた。

 

 手を取り、日向へ連れていく。その表情には確かに涙の跡があるが、しかし確かに、陰りが少しずつ、今日の快晴の様に、変わっていった。最後に彼は、こくりと控えめに頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

「......すごいな暗里ちゃん。たった一言で、常闇君のヒーローになってしまった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の事は暗里って呼んで!」

 

「......あんりちゃん。なにをよんでいたの? えほん?」

 

「『犬でも分かる! 個性社会における刀剣銃砲の扱い』だよ! 私の個性は危ないから、読んで勉強しているの」

 

「い......ぬ......? これ、かめ(亀)さんだよ?」

 

「うん。園長先生にも、これは亀さんに見えるよ」

 

「ううん? これはどこをどう見ても犬だよ。おそらく犬」

 

「どこをどう見ても犬に見えないよ!?」

 

「かめさんがいぬさんで、いぬさんがかめさん......???」

 

「ワケワカラナイゼ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロングソード

暗里が個性で生み出した、剣身が真っ直ぐな直剣

リーチを活かした斬撃と、鋭い刺突を得意とし

攻守共にバランスの優れた、暗里が最も愛した得物

 

使い手を選ばず、それでいて期待以上の成果を出す

過酷な旅をする少女達の、物言わぬ友だった

 

剣の重さが、酷く懐かしく感じる

 

 

亀でも分かる! 個性社会における刀剣銃砲の扱い

日本の法律家、白銀 兎子(しろがね うさこ)の著書

著者に近しい白い兎が友人である緑の亀に

個性社会における法律上の武器の取り扱いを教授する

 

個性によって、多くの価値が変わり果てた現代

今はもう古い、寓話をモチーフとしたこれは

可愛らしい絵柄と丁寧な解説で記述されており

形式上、危険な個性を持つ者達に愛読された

 

兎は、念を入れる様に亀に説いた

 

私が君の頭を蹴り殺せる様に、君の甲羅でも頭を潰せる

だからこそ、知り、理解する必要があるんだよ

それが血に濡れない道を、見出だす為に

*1:
フロムゲー皆勤賞の雑魚敵。みんなのトラウマ。

判定が小さくこちらの攻撃が当たらない。その癖、矢継ぎ早に攻撃し、集団で襲ってくる。そして攻撃も無視できないダメージだったり状態異常を持っている事が多い。特に逃げ場のない狭いエリアで戦う犬のデーモンは有名

*2:
DARK SOULS3で登場したNPC。ダクソの象徴的装備である上級騎士装備を身に纏う若い騎士。

エンディング分岐に関わっている重要人物で、ソウルシリーズでおそらく唯一、プレイヤーの性別によって当人の性別が変化する珍しい仕様を持っている。イベントの進行によっては主人公と共闘したり、婚約を結んだり、殺しあったりする

*3:
Bloodborneのステータスの1つ。俗に言うSAN値に近いもの。

特定のシチュエーションに遭遇する、ボスを倒す、アイテムを使う事で獲得でき、特別なアイテムと交換できる。数値が高ければ高いほど『発狂』の状態異常に掛かりやすくなったり、『獣性』が溜まりにくくなったりメリットばかりではない。更に特定以上の数値になるとステージ上にも変化が現れるといった、『見えなかった真実、事象』を目の当たりにする

*4:
フロムゲーほぼ皆勤賞のNPC『パッチ』の台詞の1つ。うさん臭い小物感漂う口調が特徴。

ビジュアルが不明なARMORED CORE for Answerを除けば、どの世界線でもハゲだしやってる事はプレイヤーを騙したりするのになんか憎めない男。多くの人々から愛されている屑。作者も案外気に入っている

*5:
Bloodborneにて登場する単語であり、物体。見た目は真白いナメクジ。

作中に登場する『宇宙』や『上位者』と接触する為の触媒となるが、瞳や頭蓋内、人体の内に宿る性質を持つ、端的に言えば寄生虫である。一部のアイテムには、実際に寄生虫が付いている為、ビジュアルは大変気持ち悪い。調べる時は自己責任で

*6:
ダクソ3に登場する敵。水色の結晶を身に纏う凶暴なトカゲだが、二足歩行するし高速回転してくる様子のおかしい生物。

様々なエリアに生息しているボーナス強敵だが、なんとチュートリアルエリアに配置されており、メッセージで『引き返せ』と書かれた先に好奇心のままに突き進むとこいつに遭遇する。少なくともチュートリアルに配置する敵の強さではない。

倒すと『楔のウロコ』という特別な武器を強化出来る素材をドロップする

*7:
Bloodborneで登場するアクション。ソウルシリーズにおける『致命の一撃』に代わるもの。

パリィや部位破壊によるダウン状態の敵の腹に手を突っ込み、文字通り内臓そのものを無理矢理引きずり出すという殺意しかないモーションが特徴

*8:
DARK SOULSのDLC『ARTORIAS THE ABYSS(アルトリウス ジ・アビス)』で登場するNPC『王の刃 キアラン』の曲剣。殺害またはイベント完遂で獲得出来る。

技量ステータス補正がAと高く、育成仕切った技量特化ビルドだと途轍もない単発ダメージを連発出来る。更に出血という最大体力の30%分の固定ダメージを発生させる他、その蓄積量も多いという、攻略、対人で猛威を振るったトンデモ武器。

特に対人では多くの不死人に忌み嫌われ、両手持ちしてとにかく攻撃しまくって悉くを殺し尽くす戦法『残光ブンブン』で恐れられた

*9:
エルデンリングのとあるダンジョン最奥のボス『坩堝(るつぼ)の騎士、オルドビス』『坩堝の騎士』を討伐して獲得出来る赤銅色の大剣。

筋力と信仰を中心に育成する『筋バサ』ビルドの最終武器候補で、特に戦技『オルドビスの渦』が強力。発生早め、並大抵の攻撃では怯まないアーマー、敵を怯ませる力、そして素の火力も高く、隙は大きいが溜めれば更に強くなるという詰め込み放題な性能をしている。

しかし、ダンジョンに辿り着くまでも長く難しく、ダンジョン自体も攻略難易度が高め、追い打ちに強敵『坩堝の騎士』2体同時にしないといけない。だが、苦労に似合う性能を持っている

*10:
Bloodborneに登場する仕掛け武器の1つ。NPC『古狩人デュラ』を殺害またはイベント完遂で獲得出来る。

『火薬庫』と呼ばれる工房が開発した。彼らは複雑な機構構造と爆発的な威力にこそ魅力を見たらしく、大体爆発したり回転したりする。

変形前は振りの早い拳の延長として使えるが、真価は変形後の溜め攻撃にある。凄まじく長い溜めを行い、圧倒的火力を誇るごく太い鉄杭をぶっ刺す。長時間無防備な姿を晒す上リーチも短い。しかし当てられればトンデモ火力で敵を蹂躙出来る......。その博打性と爽快感に魅了された狩人は数知れず

 

『つまらないものは、それだけでよい武器ではあり得ない』




実は、これを書き始めたのはヒロアカを見ていない時。
本編前の話だったら二次創作夢小説だからいくらでも付け足せるだろう、いいや!『限界』だッ! 書くねッ! というノリで書いたら2万を超えるとは......。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。